赤い警告灯が、地下施設の通路を断続的に照らしていた。天井から滴る水音と、遠くで響く機械のうなり声。その異様な雰囲気の中、赫焉班は慎重に前進を続けていた。
「この先にあるはずだ……《記録中枢》」
小声で呟いたのはシアだった。手元の端末に映し出されるマップは、迷路のように入り組んだ通路の中で、確かに一点を示している。
「ほんとにこんなとこに……お宝データがあるわけ?」
鷹人が苦笑混じりに言いながらも、銃を構えた姿勢は崩さない。
「この奥には、《赫焉計画》に関する全データが保管されている。俺たち全員の“生まれ”を記した、真実の扉だ」
烈火の声には、決意とともに、わずかな震えが混ざっていた。
かつて自分が「誰か」に作られた存在であると知って以来、その事実を突き止めるために、彼はここまで進んできた。訓練、戦闘、仲間との絆——すべてはこの“扉”に至るための道程だった。
「異能反応、二時方向——数体、移動中」
ユウトが即座に警告する。シアがうなずいた。
「“B-Ω”よりも劣化してる個体ばかり。大した脅威じゃないわ」
「だとしても、まとめて来られたら面倒だ。一気に抜けるぞ」
烈火が拳を握り、全身に熱を収束させる。シューという音と共に、彼の体から湯気が立ち上った。鷹人が言った。
「久々に見たな、それ。《圧縮熱》フルチャージ」
「これが“火”の力だってことを、あいつらにも思い知らせてやる」
直後、通路の奥から異能体たちが姿を現す。歪んだ肉体、明らかに人の姿を模したそれらは、理性のない獣のように赫焉班に襲いかかる。
「撃て!」
烈火の咆哮とともに、戦闘が始まった。
鷹人は背後からの奇襲をドローンで索敵しつつ、正確な狙撃で敵を仕留めていく。ユウトは《構造断裂》で通路の一部を切り離し、敵の足を止めた。シアは高出力の異能で前線を焼き払う。
烈火は《圧縮熱》を拳に纏い、一体ずつ確実に撃破していく。拳が振るわれるたびに敵の肉体が灼熱に包まれ、断末魔の悲鳴をあげて消えていった。
——だが。
「おい、何か……おかしくないか?」
鷹人の声に、全員が動きを止めた。
消えたはずの異能体が、ゆらりと立ち上がった。だが、それは先程までの動きとは明らかに違う。全身が異様に発光し、その瞳には「意思」が宿っていた。
「“制御個体”か……!」
ユウトがすぐに見抜いた。
「こんなところに実戦配備されてるとはね。少し面白くなってきたわ」
シアの口元がわずかに釣り上がる。
敵は明らかに知性を持ち、動きも協調している。もはや単なる暴走体ではなかった。
「だったら——俺たちも全力で応えるだけだ!」
烈火の拳が燃え上がる。もはや迷いはなかった。
戦闘は激しさを増し、赫焉班は限界を超えて連携していく。それぞれの能力が、互いを支え合い、一つの力として収束していった。
そして、ついに。
全ての敵を退けた赫焉班の前に、一枚の重厚な扉が姿を現した。
「これが……“赫焉の扉”か」
扉の中心には、炎を模した紋章が刻まれていた。その紋章は、烈火の胸に浮かぶ刻印と同じ形だった。
「烈火、開けるのはお前だ」
シアが静かに言った。鷹人とユウトも、無言でうなずく。
烈火は、刻印に手を重ねた。
次の瞬間——
「アクセスコード、認証完了。被験体《E-07》、ようこそ帰還者」
機械音声が響くと同時に、扉が音を立てて開いていく。その先に広がるのは、無数のホログラムディスプレイと、眠っていた記憶の海。
「さあ、真実に触れる時間だ」
烈火は一歩を踏み出した。
扉の向こうに待つのは、全ての始まり。そして、おそらくは——さらなる“檻”の存在だった。
次回: 第39話「檻の輪郭」
記録中枢に辿り着いた赫焉班。 そこに眠っていたのは、忌まわしき《赫焉計画》の詳細と、自らの出生にまつわる記録だった。