記録中枢——そこはまるで静謐な研究所のようだった。
赫焉班の面々が踏み入れた空間には、壁面全体に無数のホログラムディスプレイが浮かび、緩やかに輝きを放っていた。
「まるで……生きてるみたいだな」
鷹人がつぶやくように言った。
「ここには《赫焉計画》に関する全データが収められている。個人の異能履歴から生体実験の記録、さらには被験体の選定理由や——」
「死者の数も、ね」
シアの声には、わずかに怒気が混ざっていた。
烈火はゆっくりと歩を進め、中央の制御端末の前に立つ。彼の胸に浮かぶ“赫焉の紋章”が反応し、システムが自動的に作動を始めた。
「被験体《E-07》——八神烈火。認証完了。全記録を開示します」
その瞬間、空間に無数の映像とデータが投影された。
生まれたばかりの赤子。DNAコードの一致。人工的な異能因子の注入。成長を追う映像。熱耐性試験。痛みによる覚醒実験——
「やめろ……!」
烈火が叫び、拳を握り締めた。
「これは、全部……俺か……!?」
「間違いない。烈火、お前は《赫焉計画》で唯一、安定した“熱の異能”を獲得した被験体」
ユウトが冷静に告げる。
「他の被験体たちは……失敗したのか?」
烈火の問いに、別のホログラムが切り替わった。
《被験体 E-01 ~ E-06:異常細胞増殖・発火暴走により死亡》
《E-07:安定成功、経過観察中》
《E-08~E-12:異能発現せず破棄》
「……俺だけが、生き残った?」
喉の奥から、鉄のような苦味がせり上がる。
シアが画面を指差した。
「それだけじゃない。見て。“E-05”……私の番号よ」
「!?」
烈火が振り返る。シアの瞳には、静かに怒りが燃えていた。
「私は失敗作。異能制御に失敗して、処分対象とされた。でも——私を“逃がした”研究員がいた。記録には……《A-01 火ノ目ジュンヤ》とあるわ」
「火ノ目……」
その名を聞いた瞬間、烈火の中で何かが爆ぜた。
「火ノ目は……俺の両親を……!」
「違うのよ、烈火」
シアが烈火の手を強く握る。
「火ノ目は、私たちを“作った”人間であり——同時に、研究から抜けようとした“裏切り者”でもある。きっとあの火災も……」
「計画を止めようとして、何かを知った奴が火ノ目を消そうとした……?」
ユウトがつぶやいた。
「その可能性が高いわ。火ノ目は、最期まで“E-07”——つまり烈火、あなたを生かそうと動いてた」
データの記録がさらに進む。
《火ノ目ジュンヤ:研究倫理違反により拘束処分》
《処分日:西暦20XX年5月27日》
「処分……?」
烈火の瞳が揺れる。
「俺の……両親が死んだのも、同じ日だ」
「……じゃあ、その火災は“事故”なんかじゃない」
鷹人がぼそりとつぶやいた。
「烈火、お前は“火ノ目の遺志”だ。お前を生かすために、あいつは命を懸けた。……それが真実なんだ」
烈火の拳が震えた。
「それでも……あの火は、俺からすべてを奪ったんだ……」
「……奪っただけじゃないわ。火は、お前をここまで導いた」
シアの声は優しく、鋭かった。
「復讐の炎に飲まれるな、烈火。それは火ノ目が望んだ未来じゃない」
「……」
烈火は深く息を吐き、顔を上げた。
「なら、俺がやるべきことは……“計画”の全貌を暴き、この《檻》を壊すことだ」
「……そうね。“赫焉”を閉じ込めた檻を、終わらせる」
制御端末に、データ転送のログが表示されていた。
《外部端末への自動転送先:UNKNOWN LOCATION》
《転送元:No.02記録中枢》
《被験体コード:E-09》
「E-09……?」
烈火たちが顔を見合わせた。
ユウトが言う。
「この《檻》は、まだ一部だ。第二の記録中枢が、別の場所に存在する。そして、そこには《E-09》がいる」
「俺たちの“兄弟”かもしれないな」
鷹人が肩をすくめた。
「そう簡単に終わらせてくれないってことか……“檻の輪郭”が見えたなら、次はその中に飛び込む番だな」
烈火はうなずいた。
「俺たちは“赫焉班”だ。どんな炎にも、負けない」
仲間たちの視線が交錯する。
——新たなる檻の気配が、遠くから迫りつつあった。
次回:
第40話「E-09、目覚め」
新たな記録中枢。そこで待つのは、かつての失敗作か、それとも……?
赫焉班に突きつけられる《選択》と《真実》。
烈火の知られざる“兄弟”が、目を覚ます。