赫焉の記憶   作:Reivalt

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E-09、目覚め

“第二記録中枢”。

地図にも存在しないその施設は、国の北東部、雪深い山岳地帯に隠されていた。

 

烈火たち赫焉班は、偽装された通信塔の裏手にある地下通路を通じ、厳重な結界を抜けて施設に踏み込んだ。

 

「……あったかくねぇな。氷の中に閉じ込められたみたいだ」

 

鷹人が吐く息は白く、壁の金属パネルさえ凍りついている。

 

「おそらく、異能抑制環境だな。生体活動を最低限に抑える冷却システム……実験対象が暴走しないようにしてる」

 

ユウトが解析装置を操作しながら呟く。

 

烈火は、重い空気の中を一歩ずつ進んでいた。

“E-09”という存在。——自分と同じように、“作られた”人間。

 

「烈火、こっち」

 

シアが扉の前で手招きした。

“拘束実験室 第9隔離槽”と書かれたその場所は、他と比べ異様なほど重厚な扉で閉ざされている。

 

「アクセスコードを解析した。……開けるぞ」

 

ユウトの操作により、扉がゆっくりと開いていく。

 

——その先にいたのは、一人の少年だった。

 

冷却カプセルの中、眠るように横たわるその姿は、どこか烈火に似ていた。

髪は白銀。肌は青白く、血の気がない。だが、胸の中央には確かに赫焉の紋章が刻まれている。

 

「こいつが……E-09……?」

 

鷹人が思わずつぶやいた。

 

「生存確認。生体活動は微弱ながら継続中……けど、この状態じゃ、異能も完全に封印されてるわ」

 

シアがデータパネルを見ながら言った。

 

烈火は、カプセルの前に立ち、静かに拳を握る。

 

「……目を覚ませ。お前が、俺の“弟”なら——話をしよう」

 

その言葉が届いたかのように、カプセル内の少年のまぶたがゆっくりと開いた。

 

冷たい灰色の瞳が、烈火を捉える。

 

「……E-07……?」

 

掠れた声が、空気を震わせた。

 

「そうだ。俺は、八神烈火——“赫焉の記憶”を継ぐ者だ」

 

少年は、瞳を細める。

 

「……僕は……E-09。名前なんて、ない……」

 

「なら、これから作ればいい。——俺たちは同じ檻にいた。でも今は、外に出られる。自由に名前を選んで、過去を超えていける」

 

烈火の言葉に、E-09はかすかに眉を寄せた。

 

「自由……?」

 

そのとき、施設全体に轟音が響いた。

 

《警告。未許可の覚醒信号を検知。E-09の抑制封印、強制再稼働》

 

「しまった! まだ抑制装置が作動してる!」

 

ユウトが叫ぶと同時に、カプセル内に電撃が走る。

 

「やめろッ!!」

 

烈火は咄嗟に手を伸ばし、装置を破壊する。

火花が散り、煙が立ち昇る。

 

だが、その瞬間——

 

E-09の体が、淡く光を放った。

 

「熱……じゃない……冷気……!?」

 

シアの声に、全員が驚愕する。

 

E-09の全身から放たれるのは、異常な冷気だった。周囲の壁が瞬時に凍りつき、空間そのものが圧縮されるような感覚が走る。

 

「まさか……“対”の存在……?」

 

鷹人が呆然と呟く。

 

「E-09の能力は、熱を“吸収”して冷却するもの……つまり、烈火の“圧縮熱”と正反対」

 

ユウトの分析に、烈火も気づく。

 

(俺の異能は、熱を集めて爆発的に放つ。だけど……こいつは、世界から熱を奪って“凍らせる”異能……!)

 

E-09の瞳が、再び烈火に向けられた。

 

「なぜ……僕を起こした。殺しに来たのか?」

 

「違う。話しに来た。——お前が、俺と同じように“人間”なら、それでいい」

 

「僕は……人間なんかじゃない。“檻”で生まれ、“実験”され、“忘れられた”存在だ……!」

 

E-09の叫びと共に、冷気が周囲を包み込む。

 

床が割れ、天井が凍り、制御パネルが爆散する。

 

「くそっ、施設がもたねぇぞ!」

 

鷹人が叫び、避難を促す。

 

だが、烈火はその場を動かなかった。

 

「逃げねぇ……お前と向き合うって決めたんだ!」

 

烈火の拳に、赤い炎が宿る。

 

「俺たちは同じだ。作られて、捨てられて、苦しんできた。でもそれでも、生きてる!」

 

E-09の冷気が、烈火の炎と激しくぶつかる。

 

——炎と氷。

——赫焉と虚氷。

 

空間が軋み、二つの“記憶”がぶつかり合う。

 

烈火の叫びが響く。

 

「お前に名前がないなら、俺がつけてやる!」

 

「……っ!?」

 

「お前はもう、E-09じゃない。“エイス”だ。——八つ目の“赫焉”として、生きろ!」

 

その言葉に、E-09——いや、エイスの瞳が揺れた。

 

冷気が収束し、ふと静寂が戻る。

 

「エイス……」

 

エイスは、静かに座り込み、肩で息をしていた。

 

烈火は彼に手を差し出す。

 

「よう、“弟”。——行こう。檻の外へ」

 

そして、彼の手が、ついに掴まれた。




次回:
第41話「赫焉の兄弟」
烈火とエイス。
正反対の力を持つ二人が、今、互いの“存在”を認め合った。
だが、第二記録中枢の崩壊と共に、新たな脅威が姿を現す。
《赫焉班》に忍び寄る、第三の計画とは——。
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