第二記録中枢の崩壊は、思った以上に速かった。
警報は鳴り続け、非常灯が赤く回転する中、烈火たちは急ぎ脱出ルートへ向かっていた。
「エイス、足は大丈夫か?」
先を走る烈火が振り返る。
彼にそう呼びかけられた少年——元“E-09”は、一瞬戸惑ったように顔を上げた。
「……エイス。……うん、変な響きじゃない」
はにかむように微笑んだその顔は、今までとはまるで別人だった。
その後ろを、鷹人とシア、ユウトが警戒しながら進む。
「ったく、まさか本当に仲間にしちまうとはな……こっちはてっきり氷漬けにされるかと」
「軽口叩けてるうちは大丈夫って証拠よ」
「施設の崩壊レートが早い。あと4分で上層部も崩れる。急ぐぞ」
ユウトの指示に従い、一行は上昇エレベーターへ飛び乗る。
しかしその直後、背後の通路が轟音と共に崩れ落ちた。
「閉じ込められるギリギリだったな……ったく、地上に出たら少しはゆっくりさせてほしいぜ」
鷹人が息をつきながら言うと、烈火が静かに答えた。
「……無理だな。たぶん、俺たちもう見られてる」
「え?」
烈火の視線の先、エレベーターの天井カメラが、微かに赤く点滅していた。
「この施設……完全に“破棄”されたわけじゃない。誰かが、こいつ——エイスの“覚醒”を監視してた」
ユウトがタブレットを操作し、数値を表示する。
「やはり……ここには、もう一つの計画があった。“赫焉計画”の裏で動いていた、第三の実験群——《アーケイン計画》」
「アーケイン……?」
鷹人が眉をひそめる。
「“魔術融合型異能研究”。魔導エネルギーと異能能力の交差点を探る非合法研究プロジェクトだ」
「要するに、俺たちを“魔法の兵器”にでもする気かよ……!」
「その一環で生まれたのがエイス。そして、俺たちもまた、その応用先の実験体だった可能性がある」
シアが呟くように続ける。
「待て、それってつまり——」
「……俺たち全員が、何かに利用されていたってことだ」
烈火の言葉に、一同の空気が重くなる。
そのとき、エレベーターが地上へ到達した。
だが、地上はすでに静寂ではなかった。
「来たか……」
烈火は身構える。
そこに立っていたのは、黒い軍服を身に纏った数名の部隊。
胸には、政府の“対異能特務課”とは違う紋章が刻まれている。
「君たちは、貴重な“赫焉因子”を持つ者として、保護の対象だ。——抵抗しないなら、危害は加えない」
その中央に立つのは、銀髪の青年だった。冷たい目が烈火たちを見据える。
「名乗れ」
烈火が叫ぶ。
青年は微笑んだ。
「……我々は、《封環機構(アーク・シール)》。“計画”の再起動を担う者たちだ」
「“再起動”……だと?」
ユウトの目が鋭くなる。
「君たち赫焉因子保持者は、本来ならとっくに処分されるはずだった。しかし君——E-07が計画を乱した。だから、仕切り直しさ。E-09の覚醒を持って、次段階へ進む」
「ふざけんな!」
烈火の拳が燃え上がる。
「俺たちは誰かの道具じゃねえ!」
「ならば、力で示してみせろ。E-07、E-09——“赫焉の兄弟”よ」
そう言った瞬間、青年の背後から数体の“兵装異能体”が現れる。
全身を義体化された異能者たち——《融合型Aクラス》と呼ばれる存在だ。
「……くそ、来やがったな」
鷹人が視界ドローンを起動し、索敵を開始。
「行くわよ! ……烈火、エイス、後ろは任せたわ!」
シアが跳び上がり、敵の一体へ光の弾丸を浴びせる。
烈火は、隣に立つエイスに目をやった。
「やれるか?」
「やってみる……“兄さん”と一緒なら」
ふっと笑ったその瞬間、エイスの手のひらに白い霧が集まり、氷槍となって伸びる。
「凍てつけ、“虚氷”!」
烈火が続ける。
「燃えろ、“赫焉”!」
二つの力が交差し、敵兵の装甲を打ち砕いた。
——赫焉と虚氷。
対極の力が、今、共に並び立つ。
兄弟として。
次回:
第42話「封環機構の影」
現れた新たな組織《封環機構(アーク・シール)》。
その正体と目的とは何か?
烈火とエイス、“赫焉の兄弟”が新たな戦いの幕を切り開く。