金属音が響く廃墟の中。
赫焉班はかつての研究施設《第零試験領域》に足を踏み入れていた。
「ここが……俺たちが生まれた場所か」
烈火が呟くように言った。
彼の視線の先には、薄汚れたガラスの壁。
“E-07”と書かれたプレートが今も貼られている。
「この番号……!」
エイスも、無意識に自分の肩を押さえる。
焼き付くような痛み。
あの日、注射器を突き立てられた“実験”の記憶が蘇る。
「俺たちはここで……造られた」
静かに、そして確かに。
その時——天井から落ちるように、機械の足音が響いた。
「やあ、よく来てくれたね。懐かしい顔ぶれだ」
音の主は——黒衣の男。
冷たい目と人工音声のような声を持つ“実験官”。
「E-07(ヤガミ・レッカ)、E-09(エイス)。……そしてE-05(名瀬シア)」
「やっぱり……お前、まだ生きてたのか」
烈火が怒りを込めて叫ぶ。
だが男は首を傾げ、狂気めいた微笑みを浮かべた。
「生きていた? いや、“ずっとここにいた”と言った方が正しいかな。君たちが『赫焉』に目覚めて以降、この日をずっと待っていたんだよ。再会を——そして、回収を」
「ふざけんな!」
烈火が炎の拳を打ち出す。
だがその直前、男の背後から無数の《異能兵装体》が出現した。
「まだ、懲りてねぇってことかよ……!」
「退がらないと囲まれる!」
シアが叫ぶも、すでに退路は塞がれていた。
——そして、男は静かに手をかざす。
「君たちは“失敗作”だった。だが今ならわかる。君たちは“鍵”だ。……世界の“起動装置(トリガー)”としての役目がある」
「……どういう意味だよ」
烈火が睨みつける。
「《赫焉》とは、“魂を焼き尽くす起爆剤”だ。君たちの存在そのものが、異能の根源を揺さぶる。つまり——君たちを通して、“異能を再構築することができる”」
男の言葉に、全員が息を呑んだ。
「異能を……再構築……?」
「そうさ。今の異能社会は、不完全だ。暴走も多く、制御もできない。だから私たちは……“完全な異能体系”を創り直そうとしている」
「そのために……俺たちを“材料”に使うってのか!」
烈火の拳が火を噴いた。
「利用されるのはもうごめんだ! 今度は俺たちが終わらせる!」
爆炎が男に襲いかかる——が、次の瞬間。
「無駄だよ」
男の姿が煙とともに消え、背後に立っていた。
「!?」
「これは記憶の残滓(ざんし)だよ。私の“意識”を残したシミュラクラ。君たちの精神に干渉し、“真実”を語らせる装置だ」
烈火が後ろを振り向く。
空間が歪み、研究記録が次々に空中へ投影されていく。
——Eシリーズ、異能適応実験記録。
——E-07、爆裂型能力に最適応。高負荷領域にて暴走リスクあり。
——E-09、潜在変質型能力保持。自己適応進化が見込まれる。
——E-05、高密度収束型能力。対象物への極限攻撃性能。
それは、彼ら自身の生まれた“証明”だった。
「俺たちは……ただの番号だったのかよ……!」
「違う」
シアが前へ出た。
「私たちは“ここ”で生まれたかもしれない。でも、今は違うわ。烈火たちと出会って、戦って、選んで……私たちは、今ここにいる。それが“私たちの意味”よ」
「……その通りだ」
エイスが静かにうなずいた。
「記録がどうだろうと……俺たちは人間だ。名前があり、意思がある。それが“力”だ」
烈火が目を見開く。
「エイス……」
「烈火。お前と出会って、変われた。だからこそ、俺はここでケリをつけたい。あの日の記憶に」
「……ああ。俺たちの選択で、終わらせる」
男の姿はゆっくりと薄れ、最後に一言だけ残した。
『ならば、見せてもらおう。Eシリーズの“進化”を』
その声と共に、最奥の扉が音を立てて開いた。
中から現れたのは——
「まさか……!」
“自分とまったく同じ姿”をした、もう一人の烈火だった。
次回:
第45話「赫焉の檻、解放」
立ち塞がるのは、もう一人の自分——“赫焉烈火”。
過去の記憶が暴かれ、真実が明かされる時、烈火の“選択”が試される。
檻の中に囚われていたものは何か——