――その姿は、鏡のようだった。
烈火は言葉を失っていた。
目の前に立つ男。その顔も、目の色も、炎を纏った立ち姿も、まるで自分自身をそのまま模したかのようにそっくりだった。
「お前……誰だ」
ようやく絞り出した問いに、もう一人の“烈火”は、ゆっくりと口を開く。
「“E-07”、つまり……お前がなり得た、もう一つの可能性だ」
「は?」
「俺は、実験官たちが“完全体”として再構築した『赫焉烈火』。
お前がもし“暴走”し、感情を捨て、ただ力だけを求め続けていたら……こうなっていた。
お前は“人間”を選び、俺は“兵器”を選んだ」
烈火は拳を握った。
「ふざけんなよ。勝手に“俺の可能性”名乗るな……!」
「なら証明してみせろ」
赫焉烈火が静かに言い、次の瞬間、周囲に紅蓮の炎が吹き上がった。
通常の火ではない——異能により圧縮された“焦熱圧”の奔流が、施設全体を震わせる。
「烈火、来るよ!」
エイスとシアが左右に跳び、赫焉班は即座に戦闘体制へ移行した。
灼熱の異能対決が、幕を開けた。
――烈火 vs 烈火
「お前が“俺”を名乗るなら……」
烈火の右拳が火を纏い、地面を蹴って突進する。
「俺のすべてで、否定してやるよッ!」
迎え撃つ赫焉烈火も同様に拳を構え、両者の拳が正面から激突した。
ドォン!!
空気が破裂し、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
だが烈火は驚愕する。
「なん……だと……っ!」
拳の強さが、まるで同じ。いや、それ以上の熱量が、赫焉烈火の拳に宿っていた。
「お前の“圧縮熱”は、まだ未完成だ。感情に左右される分、無駄が多い」
赫焉烈火が言い放ち、連続した爆撃のような拳を叩き込んできた。
「ぐっ……!」
烈火は紙一重でそれをかわしながらも、肩を焼かれる。
「くそっ……制御が、違う……!」
「それが“完全なE-07”との差だ。だが……」
赫焉烈火の瞳が一瞬揺れる。
「……お前には、“温度”がある」
「……は?」
烈火が驚いたその時、背後から再び火球が飛ぶ。
エイスが即座に反応し、防御壁を展開して烈火をかばう。
「おしゃべりはそこまでだ。お前を“超える”のは、烈火だけじゃない」
「なるほど。補助と連携……“仲間”か」
赫焉烈火はそれを見て、初めてわずかに笑った。
「やはり、お前たちは面白い」
――赫焉班の共闘
「エイス! フォーメーションBで行くぞ!」
「了解!」
烈火が前線で引きつけ、エイスが“構造断裂”による足場操作と結界形成で赫焉烈火の動きを封じる。
「動き止めた!」
そこに、シアの圧縮砲撃が降り注ぐ。
「沈んでなさい、《コピー野郎》!!」
ドゴォォン!!
しかし、爆煙の中から赫焉烈火は静かに歩み出た。
マントが焼け、顔には火傷のような痕。
「……見事だ。まるで一個小隊だな。Eシリーズのくせに、連携など……」
「“くせに”ってなんだよ……!」
烈火が叫ぶ。
「俺たちは実験体でも、番号でもねぇ……!
痛みも、迷いも、支え合いも、全部知ってる!
だからこそ、今の俺たちは——」
「“生きてる”んだよ!」
その叫びとともに、烈火の炎が変化した。
赤ではない。
**黄金に近い、“白焔(はくえん)”**が、彼の体を包んでいく。
「これは……?」
赫焉烈火が瞠目する。
「……やっと、たどり着いたか。“赫焉”の“真形態”に」
「真形態……?」
烈火は本能でわかった。
これは、“怒り”や“憎しみ”の火ではない。
守りたい、信じたいという“想い”が燃え上がった熱。
「これが……俺の、“赫焉”だ!!」
烈火が地面を砕いて跳ぶ。
赫焉烈火も再び拳を構える。
――そして、再びぶつかる。
轟音と閃光が世界を包み込む。
――そして、終焉へ
烈火の白焔が赫焉烈火を飲み込んだ。
空間が軋み、実験施設の最奥にヒビが走る。
「もう……持たない!」
エイスが結界を維持しながら叫ぶ。
「烈火! 戻れ!」
だが、烈火は赫焉烈火と静かに向き合っていた。
「なぁ……お前も、本当は……」
「わかってるさ。……お前になりたかった」
赫焉烈火が微笑む。
「だが……これでいい。“檻”は解かれた。
お前たちは前に進め。俺は、ここで終わる」
烈火が手を伸ばす。だが、赫焉烈火はその手を拒まず、静かに握り返した。
「ありがとう。俺が、俺でいられた」
そして次の瞬間、赫焉烈火の姿は光の粒子となって消えた。
その光は、研究所全体に広がり、かつての痛みも、記録も、すべてを――
静かに、優しく包み込んだ。
――廃墟の空の下
翌日。
ヘリで撤収された赫焉班は、機関の仮設医療拠点で治療を受けていた。
「烈火……無事でよかった」
エイスが安堵の表情を浮かべる。
烈火は、少し遠くの空を見ていた。
「……アイツが最後に握ってくれた手。……冷たくなかった」
「当然よ。だって、あれも……あなたの一部だったんだから」
シアの言葉に、烈火は静かに頷いた。
「もう逃げねぇ。俺は、“E-07”だったことも、“赫焉”って異能も、全部引き受けて生きていく」
「……これからも、“俺たち”で」
3人の手が、そっと重なった。
赫焉班は、新たな一歩を踏み出す。
彼らの前には、まだ多くの困難があるだろう。
だが、それでも彼らは進んでいく。
赫焉の記憶を、その身に宿して。