深夜のC.A.L.E.、中央管制塔・記録管理室。
その最奥、研究者すら立ち入りを許されない“封鎖区画”に、黒い影がひとつ――。
男の名は風間。表向きは訓練教官、だがその実態はC.A.L.E.の最深部に属する観測官だった。
目の前の端末に表示されるファイル名はこう記されていた。
《極秘指定:計画・赫焉ノ項(かくえんのこう)》
《被験体番号:E-07》
《対象名:八神烈火》
「やはり……お前は“あの計画”の遺児か」
彼はモニターを見つめながら、かすかに目を伏せた。
同じころ、訓練棟の個室で烈火は眠れずにいた。
選抜との模擬戦。その余韻が残っていたわけではない。
榊ユウトの最後の言葉――
>「君の母親の旧姓は?」
その問いが、頭から離れなかった。
「……覚えてねぇ。でも、なんであいつがそんなことを――」
父と母の顔はうっすらとしか思い出せない。だが、ひとつだけ鮮明に残るものがあった。
――母が、最後に叫んだ名前。
「“アキラ”って……あれ、俺の名前じゃなかった……よな?」
まるで違う誰かを呼んでいたかのような、あの声。
烈火は、無性に“過去”を知りたくなっていた。
翌日。
休息時間、烈火はこっそりと管制フロアへ向かった。
知っている。研究棟の下層に、記録端末があることを。
問題は、どうやってアクセスするか――だが、そこに意外な助けが現れた。
「お前……まさか、忍び込むつもり?」
声をかけてきたのは、名瀬シアだった。
「……ああ。過去を調べたい。俺が何者か、確かめたい」
「ふぅん。ま、止める理由もないし。
あたしもね、似たような経験あるから」
「お前も?」
「うん。自分が“誰かに選ばれた”気がしてた。でもその実態が“ただの実験体”だったと知った時、ぶっ壊したくなったよ。いろいろ」
その笑みは、かすかに陰を含んでいた。
シアは懐から取り出したIDチップを端末にかざす。
「30秒。急いで見な」
烈火がアクセスしたデータは、暗号化された記録だった。
だがその中に――決定的な情報が含まれていた。
>《被験体:E-07(コード名:赫焉)》
>《能力因子:対熱耐性・高濃度圧縮反応》
>《両親:実験提供者》
>《育成施設崩壊後、生存を確認。身元を偽装し転送》
「……俺は、“作られた”存在だったのか?」
頭が真っ白になった。
火事で死んだはずの両親は、実は「提供者」――つまり、研究対象だった可能性がある。
そして、自分は“育てられた”のではなく、“試された”――?
「……ふざけんなよ」
拳が震えた。怒りか、戸惑いか、それとも――恐怖か。
自分の存在が“誰かの実験”の延長にあることが、烈火の心を切り裂いた。
その夜。
榊ユウトがひとり、旧施設の慰霊碑を見つめていた。
「赫焉計画。かつて、国家が異能を人工的に生み出すために行った、非合法な育成実験。
被験体は十数名。そのほとんどが……廃棄された」
彼の手には、古いペンダント。そこには“R.K.”の刻印。
それは烈火の母――霧島玲花(きりしま れいか)の持ち物だった。
次回:
第8話「歪んだ始まり」
烈火の過去が、ゆっくりと形を持ち始める。榊との対話、そして選抜チームに蠢く“もうひとつの計画”――