やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

『俺ガイル』二期が始まりましたね。二期は七・八巻をやりそうということで、後半シリアスになりそうです。そのため前半の修学旅行編をたっぷりと楽しみたいです。

それはそうと、最近日刊ランキングに『俺ガイル』原作多いなーと、アニメを見ながら思っていたのですが、目の前の画面を見ながら「俺ガイルやってるからじゃん!」と遅まきながらに気が付きました。

ボケてるのかなあ……


それでは、ご覧下さい。


幼少期Ⅱ ~太陽の光~

 幼稚園の年長に上がると、母が第二子を身ごもりました。桜が散りきる間際、一枚だけ取り残された花びらが、生命の息吹を感じさせる新緑に囲まれて物寂しく揺られていたころです。

 

 

 父と母と三人で、休日に公園に遊びに行っていたときです。その週は両親がやけに機嫌が良く不思議に思っていたのですが、木陰で休んでお昼ご飯を食べていると母が言いました。

 

 

 

「朱音、あなたお姉ちゃんになるのよ」

 

 

 

 私はそれまで、あまり弟や妹が欲しいとは思ったことはありませんでした。

 

 

 もちろん同じ幼稚園には兄弟や姉妹で通っている子達はいて、仲が良くて楽しそう、くらいには思っていたのです。しかしそれはガラスケースの向こう側から眺める程度の感覚で、決して羨ましいわけではなかったのです。

 

 

 しかし実際に弟が出来るのかと思うと、私は何だかとても尊いものを手にした気持ちになり、まだあまり膨らんでいない母のお腹を触って、「こんにちは」と語りかけました。

 

 

 それからは慌ただしい日々が過ぎていきます。

 

 

 祖父は二人目の孫が生まれると聞くと、嬉しそうに目を細めて「大事にしなさい」と言いながら、私の頭を撫でました。祖母に先立たれてからは一人暮らしをしている祖父は、私が遊びに行くたびに眩しいように目を細めて、友達を大事にしなさい、物を大切にしなさいと決まって言うのです。

 

 

 だんだんと母のお腹が膨らんでいき、両親は定期検診に向かっては母子ともに健康だと私に伝えてきます。夏頃にはお腹の子が男の子だと分かり、私が使っていたベビーカーを男の子向けにアレンジしました。

 

 

 私は私で、なかなか姉としての心構えが出来ずにいて、姉弟で幼稚園に通っている子に、

 

 

 

「弟がいるって、どんな感じなの?」

 

 

 と聞いていたりしました。

 

 

 彼女は「すぐ泣くし、うるさいだけだよ」とやぼったく言っていましたが、それは身内を話題に出すとき特有の信愛表現みたいなもので、本当はすごく大事に思っていて、頻繁に面倒を見ていることを私は知っていたのです。

 

 

 そのことを家に持ち帰って考てみても上手く理解ができず、寝る間際に布団の中で母に聞いてみました。

 

 

 

「お姉ちゃんって、何をすればいいの?」

 

 

「別に特別なことはしなくていいのよ。ただ家族として、愛してあげればいいの。別にお姉ちゃんだから、何かをしなきゃいけないなんてないわ」

 

 

「一緒にいてあげればいいってこと?」

 

 

「そうね。でも朱音は女の子だから、いつまでも一緒という訳にもいかないの」

 

 

 

 そこで母は少し考え込むように薄紅色の口唇に指を当てると、

 

 

 

「……だから、家族でいるために努力をすること。一緒にはいられなくても、一緒にいたいと思うことが大事なのよ」

 

 

 

 その言葉を一生懸命に呑み込みながら、自分なりに想像してみます。

 

 

 想像の中の私は小学生で、顔も分からない弟は幼稚園くらいの歳でした。やっぱり男の子なので戦隊モノやヒーローに憧れるのでしょう。私は弟のごっこ遊びの相手をしながらも、時々退屈になってしまうのです。でも最終的には仕方がないとため息を吐いて、最後まで付き合うのかもしれません。

 

 

 

「……うん、楽しみになってきた」

 

 

「あら、そうかしら?」

 

 

 

 そうして布団の中で母と二人、笑いながら寄り添います。隣で寝ていた父が怪訝そうにこちらを覗いてきました。

 

 

 そして私は、その楽しみの質がどういうものか全く気付くことなく、それからの日々を過ごしていったのです。

 

 

 季節が一つ過ぎて、秋になりました。

 

 

 ……そして私の弟は、母のお腹の中で生き絶えたのです。

 

 

―――――――

 

 

 その日は秋にしては大分涼しく、庭の植木鉢に小さな霜が降りてきていました。腐葉土を指で押し込んでみると、さくっと小気味良い音を立てて沈み込んでいきました。

 

 

 三日ほど前から体調を崩して入院していた母が、病院から戻ってきて悲痛な面持ちで弟の死を告げると、自分でも驚くほど冷静に受け入れていることに気が付きました。

 

 

 何故死んでしまったかはよく覚えていません。一応父が説明をしてくれたのですが、子供の私には難しすぎて理解できなかったのです。

 

 

 いつもふんわりと笑っている母が、「ごめんなさい」の言葉を嗚咽とともに吐き出します。病院から連れ添っていた父は、あやすように母の背中をさすっていました。

 

 

 そんな光景を目の前にしながら、自分の中で糸が切れていくのを感じます。確かにその糸はぴんと張られて、私の感情を繋いでいたはずなのに。

 

 

 弟ができるのを楽しみにしていました。少し歳は離れているけれど、私なりにしっかりと面倒を見ようと思っていたのです。自分の中にゆっくりと彼のため居場所を築いて、確かに大きな場所をとっていたはずでした。

 

 

 ……でも私はどうしても、未練を持つことができなかったのです。

 

 

 私の中で育まれていたものは弟の死と一緒に燃え尽きてしまって、灰くらいしか残っていません。弟の居場所が無くなってしまったのに関わらず、心の中は落ち着いていて、もう届かないものを諦めきれずに手を伸ばそうとは思えなかったのです。

 

 

 

 だからでしょうか、私の感情よりも、彼が太陽の光を浴びることなく無明の暗闇に沈んでいったことや、母が目の前で泣いている方がよっぽど悲しかったのです。

 

 

 でも弟は蘇らないし、どうすれば母が泣き止んでくれるのか分からないから考えて、母がいつもしてくれるように体を抱き締めたのです。

 

 

 

「朱音、ごめんね。あんなに楽しみにしてくれていたのに」

 

 

 

 母は大粒の涙を流したまま言いました。

 

 

 

「大丈夫、私は大丈夫だから。……だから泣かないで」

 

 

 

 その夜は久しぶりに、家族三人で川の字になって寝ました。でも全員なかなか寝付けずに、何度も寝返りを打ってはお互いの顔を認め合い、確かに家族がそこにいることを一々確認していたのです。

 

 

 しばらくしてようやく寝ることができた私でしたが、真夜中にトイレに行くために布団から出ました。

 

 

 僅かばかりの距離をふらふらと歩いていると、夜風が木々を揺らす音に紛れて、赤ちゃんの泣き声のような声が聞こえてきました。

 

 

 それは赤ちゃんがよくやるような周囲に声を撒き散らすような泣き方ではなく、ただこちらに訴え掛けるような泣き方なのです。

 

 

 赤ちゃんが泣くのは、何かを訴えかける為と母から聞いたことがあります。では一体何を訴えているのだと考えると、すぐに恐ろしい想像が浮かび、急いでトイレを済ませて寝室へと戻りました。

 

 

 滑り込むように布団に戻って泣き声から逃れようとします。しかしどんなに丸まって耳を塞いでも、小さな隙間から泣き声が流れ込んできて、私に語りかけてくるのです。

 

 

 

 どうして泣いてくれないのだと。どうして僕が死んだのに寂しいと思ってくれないのだと、たった一人の姉なのに、それなのに、どうしてお前は。

 

 

 

 どんなに頑張っても、頭の中にこびりついた声は拭うことができず、むしろ目が冴えてしまったこともあり、より一層酷くなりました。

 

 

 いよいよ耐えられなくなり両親を起こそうとも思いましたが、ただでさえ気を病んでいる二人に、さらに負担を掛けてしまうのが悪い気がして、泣き声の正体を確かめるために、仕方なく一人で玄関の外へと確かめることにしたのです。

 

 

 秋の夜長は肌寒く、吹き付ける体が薄着に包まれた私の体を冷やしていくのを感じました。辺りは全て寝静まっていて灯りは全くなく、一寸先も見えない中、自分の記憶を頼りに声の方向へと歩いていきます。

 

 

 本当は夜に外に出るなんて、怖くて仕方が無かったのです。お化けや良く分からない妖怪を当時は信じていて、夜になると夜の街を闊歩しているとも思っていたのです。それでもこの声を放置すると、もっとお化けより恐ろしい何かに遭遇してしまう気がして、その大きな恐怖心で小さな恐怖心を押し殺して足を動かしたのでした。

 

 

 ようやく発生源に辿りつくと、そこには二対の黄金色をした瞳が浮かび上がっているだけでした。それ以外は真っ暗闇で何も見えません。次第に目が慣れてくと、暗闇に溶けて輪郭が曖昧になった黒猫の肢体が辛うじて見えるのです。

 

 

 黒猫が口を動かします。例の泣き声に近い、しかし今度はしっかりと猫の鳴き声として聞き取ることができました。強ばっていた体の緊張がほぐれ、少しだけ安堵したのです。

 

 

 ただ安堵してたのも一瞬で、その黒猫の双眸が全く離すことなく私を見つめていたことに気付きました。暗闇の中でも鮮烈に輝く瞳が、私の中にある空っぽの部分を指摘してるような気がして、結局怖くなって布団の中に戻ったのです。

 

 

 布団の中で両親の暖かさに包まれながら、私自身のことを必死で考えました。子供ながらの貧弱な語彙を必死で使い、僅かな人生経験を元にこの心の平穏の理由を探していていきました。そしてようやく答えが出たのです。

 

 

 要するに私は、人に対しての執着心が全くない人間なのでした。

 

 

 その結論が出てからすぐに夜が明け、私は太陽の光を浴びたのです。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

最近書いていていると、書きたい内容に対して表現力や文章力が追いついていないことに気が付きます。

もちろん今表現できる精一杯を書いてはいますが、それでも何か物足りないかというと思い、色々な小説を読んで表現を学んでいたりします。

ただ、以前本を読んでいるよりもずっと楽しく、面白く読めていて、それについてはこうやって文章を書いていて本当によかったなあと、常々思っています。


それでは、また次回。

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