やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

六月もそろそろ終わりということで、いよいよ七月。夏本番です。

何というか今年の六月は例年に比べると、あまり暑くないような感じでしたね。何年か前は五月でも蒸し風呂みたいに暑かった記憶があったのですが、今年は割と涼しく、終始長袖で過ごしていました。

長袖って意外と便利というか、直射日光を遮ることができるので、炎天下で作業をするのならおすすめです。太陽の光の強さを知ります。

本当は長袖に帽子とサングラスで作業をするとベストなのですが、真夏にその恰好をすると、不審者にしか見えない罠が……。


それでは、ご覧下さい。


少女期Ⅶ ~いろんな涙~

「だから、お前は間違っているんだ」

 

 

 

 その言葉を八幡さんが口にしたとき、体の奥から熱くドロドロしたものがせり上がってきて、震えそうになりました。

 

 

 震えを必死でこらえていると、すぐに懐かしい気持ちが雪崩こんできて、胸の中で色々な感情が絡みあってできたものは、諦めでした。

 

 

 結局八幡さんは、あのときからちっとも変わっていませんでした。成長するにつれて目がどんどん濁って、格好良さが大分減ってしまいましたが、それでも一番奥に秘めていたものは、あのときのままでした。

 

 

 八年前のあの帰り道。太陽が夏を知らせるような鋭い日差しを照りつけて、汗と緊張を必死で押さえていたあのときと。

 

 

 ……そして私も、あのころからまったく成長していません。元々欠けていた部分は、相も変わらず空っぽのままでした。

 

 

 だからでしょう、何となく八幡さんの望む人間にはなれないと分かってしまったんです。八幡さんの隣に居て幸せになれる人を二人知っていて、私なんかが享受するよりもずっとふさわしいと思いました。

 

 

 決心はもの凄く簡単に決まります。方法も、すぐに見つけることができました。何てことはありません、私はそんな不器用なずっと見てきたのですから。

 

 

 

「……その考えは、八幡さんの自己満足ですよ」

 

 

 

 しかし出てきた言葉は、私が思い浮かべていたものとは、全く違うものへと変貌していきます。

 

 

 

「一人ぼっちを正当化しているんですよ。自分の都合で誰かの都合で友達を作れないで、一人ぼっちになってしまったのを、理由をつけて誤魔化しているんですよ」

 

 

 

 理不尽なことを言って、こんなやつと二度と話したくないと怒らせたかったのです。しかし、こぼれ落ちる言葉はすぐに外装が剥がれて、むき出しになっていきます。

 

 

 

「自分の中にある漫然とした不安感に耐えられなくなって、でも寂しいから、本当は求めているから大丈夫だって心の奥で思っているだけじゃないですか」

 

 

 

 口からでる言葉はどんどん鋭利になっていって、容赦なく八幡さんを突き刺していきます。私が言葉を紡ぐ度に、少しずつ悲痛な面もちになっていくのを知りながら、それでも私は言葉を止めることはしませんでした。

 

 

 もしかしたら、今までで一番怒っているのかもしれません。普段あまり怒ることがないから、心の落ち着かせ方が分からなくて、気持ちが全く収まれなくなっています。

 

 

 

「別に悪いと言っているわけじゃないんです。それはきっと誰にでもあることでしょう。……ただ、その自己満足を私に押しつけないで下さい。その自己満足で、私の中にあるものを否定しないで下さい。それが、私は一番嫌です」

 

 

 

 最後に吐き出した言葉は、紛れもない私の本心でした。そして言い切ってから八幡さんの顔を覗いたときに、言った全ての言葉を後悔しました。

 

 

 結局私は、八幡さんのことを傷つけただけなんです。嫌われようと思っても全然上手くいかなくて、ただ頭に血が上ったまま、無防備な相手に酷い言葉を浴びせただけです。

 

 

 そんなことしかできない自分が嫌で嫌で仕方がなくて、目の奥から涙がこぼれそうになるのを感じて、必死で我慢していました。

 

 

 傷つけた人間が泣いているだなんて、許されるはずがありません。

 

 

 一旦八幡さんに背を向けて、引き締めていた表情を緩めます。涙がこぼれないように注意しながら普段の表情をどうにか作り、ようやく振り向くことができました。

 

 

 

「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

 

 

 そう言ってお辞儀をしたとき、とうとう堪えきれなくなって、涙が数滴落ちました。涙はアスファルトに落ちて、黒い染みをいくつか作っていきます。

 

 

 顔を覗かれないように気を付け、もう一度八幡さんに背を向けて、帰り道に就きました。

 

 

 一回決壊してしまった涙は、もう止まりませんでした。しゃくり上げることもなく、涙はぽろぽろと頬をつたい、ただ流れ続けます。

 

 

 涙を流していると、頭の中がどんどん冷静になっていき、あんな言葉を吐いてしまった理由に見当がつきました。

 

 

 私は自分の性格を肯定していません。私の価値観はどこか歪で、誰にも執着できないのなら、きっと周りに一人になってしまうような生き方を、躊躇うことなく進むかもしれません。それは、一般的な倫理から外れているのでしょう。

 

 

 でも……それでも私は、自分のこの性格を誰かに否定されたくはなかったんです。否定するくらいなら、放っておいて欲しかった。

 

 

 間違っているなんてとっくに知っているんです。そのことを知って、罪悪感に苦しんで、どうにか諦めて、折り合いをつけて生きているのに、それでも間違っていると言われたら、どうしたらいいんですか。

 

 

 正しいと言われたいわけではありません。それでも、正しくはないけれど、この空虚な心を抱えたままでいいと、言って欲しかったんです。

 

 

 それは、小学生でも持っている自己承認欲求。自分のことを認めて受け入れて欲しい、幼稚な心。

 

 

 ……何だ、私はちゃんと八幡さんのことが好きじゃないですか。

 

 

 私は八幡さんにその言葉を言って欲しかった。そのままでいいと、言われたかった。

 

 

 だって自分から私の性格を晒したのは八幡さんだけですから。もしかしたら、小町ちゃんや両親も気付いているかもしれませんが、自分から晒そうと思ったのは八幡さんだけでなんです。

 

 

 しかし、その片想いも今日で終わりです。

 

 

 私が突き出した心臓は、八幡さんに否定をされました。

 

 

 涙はもう自分を責めるものなのか、それとも失恋から来るものか分かりません。きっと前者でしょう。

 

 

 それでいいのかもしれません。だってこの恋心も、明日か明後日になるか分かりませんが、すぐに消えてしまう。後悔を引きずることあっても、未練だけは引きずらないと、私の頭が冷徹に訴えてくるんです。

 

 

 ようやく涙が止まったので、少し回り道をして、コンビニに寄って洗面所を借りて顔を洗います。頬に残っていた涙の辿り道は、水に触れて少し擦られただけで、跡形もなく消えました。

 

 

 顔を洗うと気持ちのほうも大分晴れてきていて、いつも通りの私が戻ってきます。

 

 

 店を出て空を見上げると、いつの間にか夜の帳が降りてきていました。眩いばかりの星たちは、手の届かない、遙か遠くで踊っていました。

 

 

――――――――

 

 

 前日の晴天とは打って変わった灰色の空が覆った朝。目が覚めてご飯を食べて洗面台の鏡の前に立つと、何事もなかったような顔の私が写っていました。

 

 

 もちろん寝癖で髪の毛は所々跳ねていて、瞼が半分くらい閉じていましたが、いつもの私の朝の顔です。

 

 

 顔を洗って、化粧水と乳液をつけ、髪をとかします。一通りの支度を終えて、指でほっぺたを持ち上げてれば、完全にいつも通り。

 

 

 家を出て、小町ちゃんとの待ち合わせ場所に着くと、小町ちゃんはすでに到着していていました。そして私と顔を合わせると開口一番、

 

 

 

「朱音ちゃん、昨日お兄ちゃんと何かあったの?」

 

 

 

 と呟き、反射的に私は固まってしまいました。

 

 

 どうしてそのことを聞くのでしょう。私は普段通りの表情のはずですから、外見で何かを察することはできないと思います。八幡さんから昨日のことを聞いたのでしょうか。でも八幡さんが誰かに言うとは思えません。

 

 

 

「どうして、分かったの?」

 

 

 

 答える言葉を間違えたことに気が付いて、小さく首を振りました。これでは何かあったと自分から白状しているだけです。

 

 

 

「あのね、気付いてないかもしれないけど、朱音ちゃんって嬉しいことがあったときは結構表情に出るのに、嫌なことがあると凄い普通の顔をしてるの」

 

 

「うん」

 

 

「で、お兄ちゃんとデートした朱音ちゃんが普通の反応してるなんてあり得ないから、何かあったのかなーって思って」

 

 

「………」

 

 

 

 色々と言いたいことはありますが、それでも大体的を射ているので、黙ることにしました。

 

 

 どうしようかと頭の中で考えながらも、実は言うと小町ちゃんに話すことには全然抵抗がありません。ただ今から昨日の出来事を話すと、学校に到着するまでに話を終えられるとは思いません。

 

 

 

「……放課後でいい?」

 

 

「いいよ! ゆっくり話そ」

 

 

 

 小町ちゃんはそう言うと、爽やかな笑顔を浮かべて、ひらりと私の前に躍り出て、学校への道のりを歩いていきました。

 

 

 授業の内容が全く入らないまま、学校での時間が過ぎていきます。休み時間に綾ちゃんのグループから何かを言われましたが、大したことのない内容のようで、すぐに忘れてしまいました。

 

 

 放課後になり小町ちゃんと一緒に学校から少し離れたファミレスに行きます。空模様はどんどん不安定になってきて、町ゆく人々が傘を片手に心配そうに空を見上げる様子がちらほら見られました。私は、傘を持ってきていません。

 

 

 夕方どきのファミレスは私たち以外にも学生が多く、店員さんがせわしなく働いていました。少し間って席に着き、ドリンクバーを注文します。

 

 

 そうしてオレンジジュースが二つ、テーブルの上に並べられると、ようやく小町ちゃんが「それで、昨日何があったの?」と今朝と同じ言葉を口にしました。

 

 

 どこから話すべきかで一瞬迷い、そして色々な出来事を口にしました。

 

 

 ずっと私は八幡さんのことが好きだったこと、それ故に自分の性格を間違っていると言われてどうしようもなく怒ってしまい、酷い言葉を浴びせてしまったこと。

 

 

 私が何か言う度に小町ちゃんはうんうんと頷くばかりで、何も言いません。全て話し終えてからしばらく、珍妙な沈黙が漂っていると、ようやく小町ちゃんは相槌以外の言葉を口にしました。

 

 

 

「それで、朱音ちゃんはどうしたいの?」

 

 

「それは、謝りたい……というか謝る。酷いことしちゃったし」

 

 

「それだけ? 謝った後はなにかしないの?」

 

 

 

 妙に威圧感ある声で、小町ちゃんは言います。

 

 

「……う、うん」

 

 

 

 小町ちゃんは私を舐めるように上から下まで眺めると、呆れたようにため息を漏らしました。そしえジュースを一口飲みます。

 

 

 

「昔から思ってたけど、朱音ちゃんって本当に鈍感。どうしてこんな簡単なことに気付かないってくらい鈍感。

 

 

「そんなことない……と思うけど」

 

 

「そんなことあるの! だって朱音ちゃんどうせお兄ちゃんに嫌われて、このまま縁が切れるとか思ってるでしょ。しかもそのほうがお兄ちゃんの為になると本気で考えてそうだし」

 

 

 

 目を丸くしながら、小町ちゃんを見返します。小町ちゃんは未だ言い足りないのか、ぶつぶつと何かを呟いていましたが、それは私まで届きませんでした。

 

 

 それでも、私の心の中を覗きこんだように言い当てられたんです。もちろん小学校のころから一緒にいましたが、それでもここまでは見透かされるとは思っていませんでした。事実私は、小町ちゃんの考えていることは半分以上分かりません。

 

 

 しかし、私の思考を「どうせ」呼ばわりするのには納得がいきません。

 

 

 

「だって本当だし」

 

 

「そこが鈍感だって言ってるの! そんな小さなことでお兄ちゃんが朱音ちゃんのことを嫌いになるはずないじゃん。朱音ちゃん自分のことを過小評価しすぎ」

 

 

「それこそ過大評価だよ。私、小町ちゃんが思っている以上に嫌な子だよ」

 

 

「そんなことないと思うけどなあ……。ねえ、朱音ちゃん、私が朱音ちゃんと友達になりたいって思ったきっかけって分かる?」

 

 

 

 小町ちゃんはどこか懐かしむような、内緒話をして秘密を共有するような表情を浮かべて、前のめりになります。

 

 

 

「八幡さんに頼まれたからじゃないの?」

 

 

「それは友達になったきっかけ。……実は言うとね、お兄ちゃんに紹介される前に一回だけ私たち、話したことあるんだよ」

 

 

 

 私が首を捻っていると、小町ちゃんは「やっぱり覚えてない」と口を尖らせながら言いました。ストローでコップの中身をかき混ぜると、氷が弾けてからからとした音がします。

 

 

 しかし、八幡さんに紹介された以前に小町ちゃんと会った記憶なんてありません。校内で擦れ違ったことはあるかもしれませんが、話したときは昇降口が最初のはずです。

 

 

 

「小学校のときに校庭の端っこにウサギ小屋があったのは覚えてる?」

 

 

「うん。……入学してすぐに死んじゃったけど」

 

 

 

 私たちの小学校では一年生と六年生がペアを組んで様々な行事に取り組む風習がありました。学芸会だったり、レクリエーションだったり、要するに一年生が小学校に慣れるために行われていたものです。そして、その風習の中に校内で飼育されたウサギの世話が入っていました。

 

 

 二対の、白と黒のウサギ。ハナとブチと呼ばれていたウサギは、二羽とも目が小さく、くりんとしていて、私がウサギ小屋に入るとちょこちょこと寄ってきて、戯れるように懐いてくる可愛い子たちでした。

 

 

 世話といってもウサギ小屋、餌を与えるくらいです。食事のときに私が苦手な人参スティックを口の前に持って行くと、美味しそうにかじるのが微笑ましくてつい何本も上げては眺めていました。

 

 

 しかしハナとブチは私たちが入学してから、僅か二ヶ月ばかりで亡くなってしまいました。死因はナイフでお腹を引き裂かれたことによる失血死。犯人は、地元の中学生でした。

 

 

 ……覚えています。その記憶は鮮明に残っています。なぜなら二羽の死体を一番初めに見つけたのは私でしたから。

 

 

 その日の朝の餌やり当番だった私は、必然的に全てを見たのです。金槌で破壊された錠、冷たくなって動かなくなった二羽のウサギの内蔵、血が染み込んで黒ずんだ土と、その光景を見て真っ先に気持ちが悪くなった私も、全部覚えています。

 

 

 

「……そうだね。それで死んじゃった後に、ウサギのお葬式みたいなのをやったのも覚えてる?」

 

 

「それは、少しだけ」

 

 

 

 あの話のどこまでを小町ちゃんが知っているかは分かりません。私は第一発見者だったので警察の人に話して事件の顛末まで聞きましたが、その顛末は全校集会で語られることはありませんでした。

 

 

 

「そのお葬式のときに小町が泣きそうになってると、朱音ちゃんが近くにいて」

 

 

「……声は掛けてなかったよね」

 

 

「そうだよ。だけど全然悲しそうにしてなかった。ホントにちっともってくらい。周りの女の子はみんな沈んだ表情だったのに朱音ちゃんだけそんな顔をしているから、頭にきて」

 

 

 

 その辺りはあまり記憶に残っていないのですが、おそらく私は小町ちゃんが言うような、平然とした表情をしていたのだと思います。死体を見た後、気持ち悪さが真っ先に泡だって、殺されてしまったハナとブチへの同情心が膨らんで、それだけでしたから。

 

 

 だから、あったとすれば悲しめなかった罪悪感くらいだったと思います。

 

 

 

「その場で文句を言いそうになったけど、先生もそのときに居たから諦めてね。次の日に朱音ちゃんに改めて文句を言おうと思ったら、朱音ちゃん、あのウサギのお墓の前で、手を合わせてた」

 

 

「……それは」

 

 

 

 言うべき言葉が見つからず、尻すぼみになっていきます。あの姿は同じ生徒には不思議とあまり聞かれませんでした。

 

 

 ハナとブチのことを忘れてしまったわけではないのに、どうしてだろうと今でも思っています。

 

 

 

「あんまりにも真剣にお祈りしていたから、次の日にしようと思ったら次の日も、その次の日も毎日お参りしてて。不思議に思ったから、一回だけ背中から声を掛けて理由を聞いたの」

 

 

 

 確かに覚えています。あのとき、先生以外で心配をしてくれた子が一人だけいました。会話したときに私は背中を向けていたので、顔は見ていませんでしたが。

 

 

 

「そしたら朱音ちゃん、『この子たちが死んでしまって悲しめなかったから、せめて天国で幸せに暮らせるように祈ろうと思って』って言ったんだよ。そのときに思ったの、この優しい子と友達になりたいって」

 

 

 

 小町ちゃんは尊い思い出を語るように、懐かしさをもった顔で笑っていました。逆に私はどんどん頬が熱くなってきて、その恥ずかしさを押さえつけるのに必死でした。

 

 

 弟が死んでしまった後、初めてお墓参りに行ったときに母が教えてくれたのです。お墓の前で手を合わせるのは、死んだ後でもしっかりと幸せに暮らせるように神様にお願いすることだと。

 

 

 

「呆気にとられてたら朱音ちゃん、どこかに行っちゃうし。放課後に声を掛けようと思って探しても見つからないし。挙げ句にお兄ちゃんに紹介される形だったけど、それでも小町は朱音ちゃんと友達になりたいってずっと思ってた」

 

 

「……うん」

 

 

「だからね、小町は朱音ちゃんが言う嫌な部分を一番初めに見て、その次に優しい部分をしったの。でも朱音ちゃんのことを全然嫌いにならなかったし、むしろ好きになったよ」

 

 

 

 どうしよう、泣いてしまいそうです。だんだんと視界がぼやけて小町ちゃんの顔が歪んで見えます。胸の奥から鮮やかな感情がわき上がってきて、体を包んでいきます。

 

 

 もう、やめてほしい。だってこれ以上聞いてしまったら、きっと私は泣いてしまうから。みっともなく小町ちゃんの前で大泣きしてしまうでしょうから。それは、すごく恥ずかしいです。

 

 

 

「だから小町は、そんな朱音ちゃんのことが好きなの。ちょっと変わってるけど、でもすごく優しい朱音ちゃんだから好きになった」

 

 

 

 小町ちゃんはようやく笑顔を変えると、先ほどと同じようにむっとした表情を作ります。

 

 

 

「だから朱音ちゃんは鈍感だって言ってるの。小町たちの気持ちを全然分かってない。自分が居ないほうが幸せになれるとか朱音ちゃんは思ってるだろうけど、小町は朱音ちゃんがいなくなるのは嫌だよ。それで別の人と仲良くなったって、朱音ちゃんと離れちゃったら何の意味もないもん」

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 とうとう堪えきれなくなって、泣いてしまいます。昨日と今日で涙腺が壊れてしまったからでしょうか、子供のようにみっともなく、涙を流してしまいました。

 

 

 だって、嬉しかったんです。そうやって私と一緒にいる方がいいと言ってくれたことがこんなにも嬉しかった。

 

 

 私がしゃくり上げていることに気付いて、小町ちゃんが正面の席から私の隣へと移ります。

そうしてあやすように私の頭を優しく撫でました。ここ最近私の身長ばかり伸びてしまって、大分背が離れてしまいましたが、そんなこと関係ないように小さな手で撫でてくれます。

 

 

 そのことが、余計に私の胸を熱くさせます。

 

 

 

「あ~あ、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ」

 

 

「小町ちゃんが、泣かせるから悪いの」

 

 

「そうきたか……まあ、だからね、朱音ちゃん」

 

 

「……なあに」

 

 

「朱音ちゃんの性格からして、自分から告白するのは難しいけど。でももしお兄ちゃんがそれでも朱音ちゃんと一緒に居たいって思ったら、ちゃんと自分の気持ちに素直になって」

 

 

「人をヘタレみたいに言わないで。……でもがんばってみる」

 

 

 

 私はそれからしばらく泣き続け、泣きやんだときには店内から好奇の視線に晒されていました。いたたまれなくなってしまい、素早くお会計だけを済ませて、小町ちゃんから手を引かれるようにファミレスから出て行きます。

 

 

 ……きっと私はこの子には一生敵わないと思います。それでも、一生親友でいられるのなら、それは素晴らしいことなのでしょう。

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回は朱音の心情回というか、朱音が泣いてばっかりの回です。

皆様お気づきでしょうが、最近の私にしては大分筆が早いです。一日に書く文字数のノルマを厳格化したところ、これが意外にもはまって、書くペースが加速度的に上がっています。

とうことでエンディングまであとちょっとということで、週一ペースを貫きながら頑張りたいと思います(今度はフラグじゃないです)


それでは、また次回。

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