綾波レイ「あなたがジョルノ・ジョバァーナね?」初流乃「いえ、違います」   作:サルオ

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 さて。

 

 とにもかくにも腹ごしらえは大事だ。そう、わたしのお腹がぐ〜と鳴って告げている。そういえば碇くんの作ってくれたお粥以外、この三日間何も食べてない事を思い出した。

 

 ジョルノに会う。その目的はあるとしても、どうやってジョルノを探すのかは検討もつかない。幸いなことにスペイン語はそれなりに喋れるから、語源が同じイタリアでも会話に困る事はないはずだ。たぶん。

 

 まずは本場のイタリアン・・・という気分ではあったけれど、わたしは軽く腹ごなしに海沿いにあったイタリアンジェラートの店を訪れていた。

 

「いらっしゃい。何にする?」

 

「このお店のオススメを四つ」

 

「おっと、お嬢ちゃん1人かい?見かけによらずよく食べるみたいだねぇ。1人でオススメを四つも頼む女の子は滅多にいないよ?」

 

「初めてのイタリア旅行なの。だからなるべく色んな味を楽しみたい。それじゃあ、だめ?」

 

「ははは!いやぁ嬉しいこと言ってくれるじゃない、お嬢ちゃん!嬉しいからおじさん、一個オマケしちゃうよ!お腹の方は大丈夫なのかい?」

 

「大丈夫。いつもなら20個はいけるわ。ただ、まだまだ食べ歩きたいから、四つにしただけ」

 

「そりゃあ大したもんだね!だがね、お嬢ちゃん。せっかくだからネアポリスの街並みも楽しみなよ?『ネアポリスを見てから死ね』。この言葉は世界共通だからな、楽しんでいってくれよ」

 

「ありがとう。そうする」

 

「おう!毎度あり!」

 

 わたしはコーンに乗せてもらった2段アイスを2つ受け取る。味はチョコレートとピスタチオ、それからレモンにチョコミント。全体的にさっぱりとした味わいのカラフルなジェラートが、わたしの両手におさまった。

 

 その2つを手にした瞬間。

 

 わたしの口の中でさまざまな味が弾けた。チョコレートの甘い香りにピスタチオの風味が程よく混ざり、それをリセットするようにチョコミントのツンとした味わいが口の中を洗い流す。最後にレモンの爽やかさが喉を通って、わたしの両手からジェラートは全て消えた。

 

「驚いた・・・お嬢ちゃん、マジシャンかい?」

 

「・・・・・・?いいえ。違うわ」

 

 パリパリと後に残ったコーンを、わたしはゆっくり噛み締めて味わった。マジシャン?なのんのことかしら?

 

「なるほどねぇ、それだけの健啖家でありゃあ、ジェラートなんてほんとにオヤツだな。ほら、これがおまけのアマレナだ」

 

「アマレナ?」

 

「わかりやすく言うとチェリー味のジェラートさ。レモンの後にこれを食べると、また違った風味がお嬢ちゃんの鼻をくすぐってくれるよ」

 

「ありがとう。もらうわ」

 

 わたしは代金を払ってアマレナのジェラートを受け取ると、それをそのままコーンごと口の中に放り込んだ。うん、爽やかで酸味のあるチェリーの味が、わたしの口の中に広がっていくのがわかる。

 

「美味しかった。どうもありがとう」

 

「いやぁこちらこそ、だよ!また来てくれよな!」

 

「ええ」

 

 そう答えて店を後にしようとしたわたしの目に飛び込んできたのは、ジェラートの傍に置いてあった新聞の山だ。

 

 わたしはそれを一部手に取ると、

 

「これも売り物?」

 

「ん?ああ、そうだな。持ってくかい?」

 

「ええ。お代は?」

 

「そいつもオマケしてやるよ。持ってきな」

 

「なにからなにまで、本当にありがとう」

 

 お店のおじさんは良い笑顔で手をヒラヒラと振ってくれた。わたしはおじさんの好意に甘えて、新聞を一部受け取った。何気なく新聞を広げてみる。なにか、変わったニュースはないかしら。

 

 と、そんな呑気していたわたしの目に飛び込んでくる、信じられない情報。

 

「・・・・・・え?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・と、空気が重く唸りを上げていくのがわかる。

 

 新聞の記事の見出しに特に変わったところはない、と思う。それよりもわたしの目に留まったのは──、

 

「・・・・・・1992年?」

 

 今日の日付の方だった。

 

 1992年。わたしがまだ生まれてもいない、遥か昔の年代が、わたしの心に小さな小波を起こしている。

 

「ど・・・・・・」

 

 どういうこと?と口の中だけで呟いて、わたしは周囲を見回した。わたしは今、若干混乱している。

 

 わたしの生まれていない時代。だけど、この新聞に書かれていることが嘘だとも思えない。だとするとコレは、

 

「わたしの、『スタンド』?まさか、『時間も空間もすっ飛ばして』、わたしはこのネアポリスにいるというの・・・?」

 

 自分のスタンド。でもわたしは、まだまだ初心者の成り立てスタンド使いだ。わたしのスタンドに何ができるのか?それはわたしにも把握できていない。

 

 それよりも、

 

「なぜ、『1992年』なの?」

 

 この年代に来たことが、なにか重要な意味を持つ。そんな気がしてならない。わたしは『ジョルノに再会する事』が目的だったけど、それ以上の意味が、わたしのスタンドが齎した結果にある気がする。

 

「渚カヲルが言っていた、『縁と縁を結ぶスタンド』。なのだとしたら、わたしがこの時代に来たのは、より強い『ジョルノとの縁がある』、から?」

 

 わたしは新聞を畳んで、旅行カバンの中に新聞を押し込んだ。サァッと優しい風がわたしの髪を巻き上げる。

 

 その時だった。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 わたしにぶつかってきた、小さな男の子。黒髪のおかっぱ頭の男の子が転び、わたしに聴き取れるかわからないくらいの小さな声で謝ってきた。

 

「いいえ、わたしこそ、ごめんなさい。怪我はなかった?」

 

 男の子を助け起こすわたし。男の子の手を取った瞬間だった。

 

 わたしのスタンド、革のブーツの『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』が、ほんのりと光を帯びた。

 

「わぁ、綺麗・・・・・・」

 

 男の子がわたしの『スタンド』のブーツを見て小さく呟く。その顔をしばらく見つめていたわたしは、唐突に男の子に問い掛けた。

 

 

 

「あなたが、ジョルノ・ジョバァーナね?」

 

 

 

「・・・いえ、違います」

 

 

 

 む?そう、なのかしら。なんとなくピンと来たのだけれど。男の子はわたしと繋いでた手をゆっくりと離すと、小さくお辞儀をして、オドオドとした足取りでこの場を後にした。

 

「待って、あなたの、本当のお名前は?」

 

「え、あの・・・・・・」

 

「いきなりごめんなさい。でも、大事な事なの、わたしにとっては・・・・・・」

 

 男の子は少しだけこちらを疑うような視線を向けてきたけれど、すぐに考えを改めたのか、お辞儀をしながらこう答えた。

 

「汐華、汐華・・・初流乃」

 

 そう言って、男の子は逃げるようにしてこの場を走り去っていった。

 

「汐華、初流乃・・・・・・ジョバァーナ?」

 

 わたしの口にした疑問。それに答えたのは、爽やかな夏の潮風だけだった。

 

 

 

つづく

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