――上弦の弐を討伐した数日後。天は碧く澄み渡り、陽光が万象を金色で優しく包み込むほどの快晴の中、俺は緊急の柱合会議に呼ばれていた。
重症という容態から目を覚ましたカナエ。安堵した反動かはたまた泣き疲れか、現在微熱で床に伏しているしのぶ。てんやわんやな状況だが、責任感のみで動き続け蝶屋敷を守るアオイ。まだ医療の知識など何一つ分からないため、自分に出来ることを探そうとオロオロしているカナヲ。
俺も蝶屋敷の業務を少しでも遂行しようと手伝う気満々だったのだが、お館様直々に召集の命が出された以上は甘んじて受け入れるほか無い。
これほどの空は中々お目にかかれるものではない。時期は冬頃だと言うのに、太陽の熱さをジリジリと感じる。こんな日には皆で縁側に集まって日向ぼっこをするのもいいだろうな。
――先程から俺は、別に現実逃避をしている訳では無い。全員忙しいのに日向ぼっこなんてしてる暇ないだろ、とか指摘は勘弁してくれ。
あっという間に目が覚めた故、俺はカナエが乗った車椅子を押しながら――途中で隠に運ばれてはいたが――お館様の屋敷へと赴いた。そこには既に現柱が全員集まっていたのだが……。
「なァ、おい。なんとか言えやゴラァ。隊士でもねェ癖に何故上弦の頸が切れた?理由を説明しやがれェ!」
「思った通り派手じゃねえか!見た目はちょいと地味だがな」
「あぁ……これほどの子供がまた戦いの道に進んでしまった……南無阿弥陀仏……」
「(俺は最終選別を突破しておらず、鬼殺隊士とは言えないので状況は似ている。だがお情けの柱としてここにいる俺とは別で、己の力だけで上弦の頸を切った。それは俺なんかとは比べ物にならないほどの強さを持ち、既に実績としても越されているということ。それにまだ彼は十五にもうすぐなる程度の歳。才能が違いすぎる……俺は……)俺は、お前とは違う」
「あ、あらぁ〜……」
――あのカナエが困るほどの質問攻めを食らっていた。風柱に至っては剣幕が半端ない。今にも切りかかられそうだ。
「えーっと、まず、自己紹介とか……」
「んなもんする必要もねェだろ、さっさと質問に答えやがれ!胡蝶が一方的にやられるってこたァ弱くはなかったんだろ、上弦の弐はァ!」
「それについては俺も派手に気になるな!俺たちは誰も上弦に会ったことはないが、その強さは過去の記録を見ても明らかだ。お前、出身は?歳は?今まで何して過ごしてきた!?」
――パァン!!
破裂音と表現するしかない拍手を繰り出したのは、涙を流しながら念仏を唱える岩柱だ。鼓膜が破裂する寸前ほどの爆音は、皆の心を落ち着かせるのに効果的だった。
「落ち着け……もうすぐ、お館様が来られる」
「お館様のお成りです」
時を見計らったかのような頃合いで、お館様が奥から歩いて来る。カナエから話は聞いていたが、酷い状態だ。これが鬼の首領である鬼舞辻無惨の呪いというのであれば、一刻も早くその命を滅せねばならない。
それに俺がこの一年間、無理やりな戦闘訓練を受けずに済んだのはお館様の判断だったらしい。恩という言葉では足りないほどに、価値のある時間を頂いた。必ず返さなければならない。
「やぁ、皆。久しぶりだね」
「お館様におかれましても、ご壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」
「うん。ありがとう、実弥。今日はとてもいい天気だね」
「お言葉ながらお館様。柱でもない、ましてや鬼殺隊士でもない者が上弦の弐を切ったという、到底信じ難い報告について説明を求めます」
「あぁ、前回の柱合会議に実弥はいなかったんだったね。それについてはあまね、説明を」
まずは風柱――実弥というらしい――による知性と理性に塗れた挨拶に度肝を抜かれながらも平静を保つ。先程まで獣のように荒ぶっていたのが信じられないほどだ。
そして、俺の説明、とやらを前回はカナエがしたそうだが、今回は未だ全快ではない様子を鑑みて、お内儀であるあまね様からされるそうだ。
俺とカナヲを保護した日の仔細を語られると、思い出したくもない記憶が蘇ってくる。若干の気持ち悪さを覚えていると、カナエに頭を撫でられた。普段は羞恥にやられるためすぐにやめさせるのだが、今は正直助かった。
「おい、栗花落と言ったか。んで、お前の妹はどうなったんだァ?」
「え、あぁ。今はきっと、アオイを手伝って洗濯とかしてるんじゃないかな。毎日美味い飯を食えて、いつも幸せそうだよ。勿論俺も」
「……そうかァ、テメェは守れたんだな」
先程とは打って変わって大人しくなった実弥を訝しみながらも、俺は確証を得る。
――実弥もお兄ちゃんだ!
「皆が皐月のことを信じられないのは分かる。だけど、私の勘が言うんだ。――鬼舞辻は、虎の尾を踏んだのだと」
「……ではお館様、失礼ながら……今から栗花落と模擬戦をするのはいかがでしょうか……そうすれば、少なくとも私は納得できまする」
「うん、そうだね。皐月がよければ、行冥と戦ってみてくれないかい?」
「……御意」
何だか断れる雰囲気でもないため頷いてしまったが、大丈夫だろうか。鬼ではない人間と戦うのは初めてだ、何か俺の知らない決まり事があるかもしれない。
そう危惧した俺に岩柱は、何も心配することは無いと言ってくれた。ならば俺も全身全霊で挑むのみだ。
手早く中庭へ移動し、木刀を貰う。だがそこで実弥から待ったの声がかかった。
「まァ待てよ悲鳴嶼さん。その木刀じゃ充分な実力出せねェだろォ、俺がやる」
「ふむ……たしかに私は日輪刀でなければ力は落ちる……お館様、ここは不死川に任せてもよろしいでしょうか」
「そうだね。私も失念していた、ごめんね」
と、いうことで急遽相手が実弥になった。どうやら岩柱の武器は特殊らしく、稽古には向かないそうだ。
「……それでは、私が手を叩いたら開始だ」
――始め。
先刻より控えめな拍手と共に、実弥との模擬戦が始まった。目にも止まらぬ速さでこちらに肉薄する実弥をしかと視界に捉えながら、木刀を構える。
やはり戦闘に入ると痣は熱を持ち、世界が透き通る。この身体の仕様は変わらないようだ。
瞬時に背中側に回った実弥の袈裟斬りを、振り向きざま鏡合わせの袈裟斬りで相殺。実弥は体制を立て直し、再び向かってくる。
「風の呼吸・壱ノ型ッ!塵旋風・削ぎ!!」
「熾の呼吸・壱ノ型、朱淵」
実弥の嵐の如く激しい太刀筋を一刀の下に切り捨て、返す刀で実弥の木刀を両断した。
決着は一瞬だった。
「……あァ!?」
――実弥の脳内では、たった今何が起こったのかを解析しようと激しく思考が回っていた。一刀目、呼吸を用いて塵旋風・削ぎを完全にいなした太刀筋は把握していた。そこから次の型へ派生させようとしたその時には、己の手にある木刀は既に切られていたのである。
これではまるで、達人と赤子の――
「そこまで……勝者は栗花落だ」
「おいおい、不死川が一瞬かよ……」
「木刀を切った一撃に留まらず、呼吸による一撃も余裕を感じさせた……本気の殺し合いをしたとしても、私も勝てるかわからないだろう……」
「……悲鳴嶼の旦那でもそうなら、俺も無理だわなぁ」
「キャー!皐月くん、カッコいいよー!」
「……胡蝶?」
その後、もう一回戦えゴラァ!と暴れる実弥を悲鳴嶼さんが宥め、キャーキャー叫ぶカナエをドン引きした顔で見る水柱――義勇というらしい――に、派手派手叫ぶ音柱――天元と後ほど知った――と、混沌とした空気が場を支配した。
その中でも、心底愛おしそうに皆を見つめるお館様の眼差しが、やけに頭に残った。
そして目出度く俺は認められ、下弦の壱、上弦の弐の討伐を実績として最終選別は免除。鬼殺隊士になることが出来た。階級はいきなり柱としても問題はないのだが、周りからの目を気にして癸からにしてもらった。
だがそれからすぐ下弦の鬼、壱から陸が俺を直接襲撃。それを難なく撃破し、そこから一ヶ月で数も分からなくなるほど鬼を滅したことで急速昇級。
見事に過去最速で柱へ就任したのであった。
昇級の条件がよく分からなかったので無理やりかもしれません。。優しくして。。
アンケートご協力ありがとうございました!
間をとりまして、"し"の呼吸、"おき"柱、とします。たまにお兄ちゃんとルビ振られることがあるかもしれません。
大正こそこそ噂話
皐月は実弥にシンパシーを感じたよ、その名もお兄ちゃんセンサー。でも実弥側は負けた悔しさからずっとツンケンしているよ