そもそもパックからモンスターカードが出ないし、アンティルールでモンスターカード奪えないし、トークンの召喚すら叶わない。
 更には相手のコントロールを奪える魔法カードも使えない。
 
 そんな人生縛りプレイを送る羽目になった転生者が割と不憫な目に遭いながらも持ち前の能天気さとタフさで乗り越えていく話。



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第1話

 サブカルに触れる機会があるならば、『遊戯王』の名を一度は耳にしたこともあるだろう。

 コ〇ミ社が札を刷るのと同義、なんて表現をされるくらいの化け物コンテンツとなったカードゲームで、それを題材とした漫画やアニメもまたかなりの人気を誇っている。

 さて、そんな漫画やアニメの内容はホビーアニメの例に漏れず、『デュエルモンスターズ』が中心となったイカれた世界観で、世界がそのカードゲームで崩壊するなんて言わずもがな。

 法律や社会のルールよりもデュエルの勝敗が優先されたり、一部の町ではデッキがないと住人登録できないわ、デュエルのせいで五感に支障を来し、最悪命を落とすことまである。

 現実の日本と違って老若男女がデュエルに精通し、何なら動物すらデュエルできる有様だ。

 そんなデュエル脳の支配されたこの世界に転生しても、主人公やその他登場人物たちでなければ、彼らに関わらず、それらしい場所さえ避けて生活していれば。

 普通の職業が存在するらしいあの世界で前世のような生き方が送れると、僕はあの時まで本気で信じていた。

 

 

 

 

 

 今世の産まれは日本の比較的富裕層、そこの三男坊として生を受けた。

 殆ど泣くか母乳を吸うか寝るを占めた赤子生活は苦痛の極みであったが、それさえ乗り越えてしまえば後はヌルゲーである。

 特に両親から期待がかけられることもなく、子供は遊ぶのが仕事、と言わんばかりの毎日。後々困らないようコツコツ勉強を進めていけば人生安泰だと思っていたのに。 

 

 ターニングポイントは5歳のとある夏場だっただろうか。

 この時までは特別カードゲームが好きではなかった僕は、専ら携帯ゲーム機ばかり遊ぶ変な子扱いで済んでいた。

 しかし、夏休みの予定もなく暇をしていた兄に強引に連れられて、カードのパックを購入したのがすべての過ち。

 

「は? モンスターカードが入ってない?」

 

 幾らパックを剥いてもモンスターカードが封入されていない異常事態が判明したのである。

 しかしながらこれは店側及びカード会社の手違いという訳でもない。

 ただ単にこの世界じゃ人によって物理的に入手できるカードが偏ってしまうらしい。それこそ定まったテーマでしかデッキが組めないように。

 自分の好きなようにデッキを自由に組めることこそカードゲームの醍醐味だろうに、そんな楽しみを奪う運命の神様とやらは僕に対して大層辛辣であった。

 

「この悪魔が!!!! 私の息子を返せ!!!!」

 

 その事実が何やら信仰心が深い両親に判明した途端、まさかの忌み子認定である。

 カードの精霊とやらに好かれていればモンスターの姿が見える、なんて設定があったけれどその逆で。

 カードとして出てこない程にモンスターに嫌われる存在など、彼らにとっては許せない存在だったらしい。

 今世の母が包丁を持ち出した時点で一目散に家を飛び出し、スラム街に逃げ延びてからの齢5歳にてホームレス生活の突入である。

 人生の落差が酷過ぎて精神年齢は大人なのに普通にガチ泣きしたね。転生者でも無ければ野垂れ死んでたかもしれない。あるいは社会を恨み、復讐者として生きる道もあったかもしれない。

 まぁ、僕は全然そんなことなかったけど。そんな事にカロリー使うことより生き残ることに必死だったわ。それに復讐なんてしようものなら国家権力に目を付けられてまともな人生が送れねぇだろうが。

 幸い早い段階で児童養護施設に拾われたことで最底辺の生活からは脱したのだが。それでも生活が苦しいことに変わりはなかったけれども。

 

 

 

 

 

 それからスラム暮らしをすること約7年。

 叩き込まれたマナーはすっぽり頭から抜け落ち、前世とのギャップで楽しめなくなったひもじい食事やら潔癖症なら悶絶している小汚い生活にすっかり適応していた。

 

「ほれ、今日の給金だ」

 

 茶封筒すらない剥き出しの現金を両手で受け取り、その少なさに内心溜息をこぼす。

 学も力もないガキの雑用とはいえ、10時間近く労働に勤しんだ結果が最低賃金を余裕でぶっちぎる金額だからなぁ……。

 とはいえ、スラムの中じゃ結構な温情をかけてもらっている方だから文句も言えない。

 ぶっちゃけいい歳した大人も頭が弱けりゃ搾取されるのがスタンダードだからな、ここ。

 タダ働きは言わずもがな、現物支給と評して腐った生ごみを押し付けられたりするのもしばしば。珍しく紙面で契約を結んだと思ったら自分の臓器とバイバイする羽目に遭った者もいるらしい。

 それに比べれば労働条件はホワイトもホワイトよ(スラム基準)。でも前世と比べちゃうのが僕の悪い癖。

 

 児童養護施設に帰る道すがら例の如く人目の無い路地で柄の悪そうな男とエンカウント。

 

「ガキィ、痛い目に遭いたくなきゃ有り金置いてきなァ」

 

 スラムとはいえ懐の寂しい子供を強請る卑しい精神持ち多過ぎねぇか?

 食うに困って精神的に参っているならともかく、大抵は「働きたくないでござる」を地で行くマダオ共だしよぉ。

 実力行使も秒読みと言わんばかりの指ポキアピールに対して、僕は懐からデッキを取り出す。 

 

「ガキがまともにデュエルできんのか、あぁ?」

 

 碌な教育受けてないガキがデュエルモンスターズで言葉を覚える環境で何言ってんだコイツ?

 わざわざ盗みを働かなくとも低レアリティのカードならどのゴミ捨て場でも拾える世界だぞ。何なら選ばれし豪運野郎ならその辺からレアカードが生えてくるレベルだし。

 経済状況がカスでもデッキが組めるし、どいつもこいつも日常会話でデュエルの事ばかり話すものだから基本的なルールくらい嫌でも頭にインプットされとるわい。

 

「デュエル!! 先行はオレが貰うぜ!」

 

 デュエルディスクなんて贅沢品なんぞお互い所持していないから地べたでプレイするのが常だ。絵面的には間抜けだよなぁ。

 

「――《デーモンの召喚》でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 (トラップ)発動《魔法の筒(マジック・シリンダー)

 

「ぐわぁあああ!!!!」

 

 果たして生家からカードを持ち出した僕と、拾い物でシナジーの薄いデッキしか組めないモブ野郎では勝負にならない。見所も全くねぇからダイジェストにもなりやしねぇ。

 オラ! スラムじゃアンティルールが基本じゃボケ! お前のカードを寄越しな!

 

「ふ、ふざけんじゃねぇ!」

 

 基本敗者は大人しく認めるものだけど、こういう手合いもいるよなー、うん。

 《攻撃の無力化》発動っと。

 

 大振りのパンチに対して僕は手札のカードを相手に突きつける。すると目の前に赤い異次元の渦が生まれ、彼の動きが止まった。

 

「お、お前!! いったい何をしやがった!?」

 

 説明する義理ないじゃんね。安全が確保されたところでデッキではなく懐から、《精神操作》、《記憶抹消》を使用。

 カードの効果とは違うけれど、字面通りの効果を発揮した魔法カードによって虚ろな目となった相手。

 よしよし、後は僕との会話やデュエルの一部始終を彼の頭から消去して、と。彼のデッキからめぼしいカードを引き抜いて、彼の姿が見えないところまで移動してからターンエンドだ。

 

 いや~転生特典かは知らないが、サイコデュエリストとしての能力は重宝するわ。

 『5D's』じゃ割と不幸な境遇に追い込まれがちなサイコデュエリストだが、隠して生きれば問題ないじゃんね。

 確かにそのコントロールを身に着けるまでの道のりは大変難しかったけど、娯楽の少ないスラムの未就学児故に時間なら腐る程あったからな。人間頑張れば意外と何とかなるもんよ。

 味は微妙だけど《非常食》で飢え死にしないようになっただけでもサイコデュエリストに生まれたことだけは神にカカンシャカンシャ――でもこの境遇に置かれたのも神のせいかもしれないと思うと許せねぇよ。

 

 ……にしても、サイコデュエル能力といい、手に入れた戦利品といいファンタジー要素に溢れている世界よな。

 あの時、僕が奪ったのは彼のエースモンスターである《デーモンの召喚》なのだけど、僕の指に触れた途端、数枚の魔法カードに変貌するんだもの。

 流通価格が同等なのは以前にも確認済みだが、マジでモンスターカードが入手できないように徹底してやがる。

 これでカードを見せてもらうだけだとか、そのまま手放す気でいると変化しねぇのにな。マジで思考盗聴されてる気分だぜ。

 

 

 

 

 

 バイト先から歩くこと数十分。スラムの外れに位置する児童養護施設に到着する。

 敷地面積はそこそこ広いけれど、見てくれは廃墟も同然。あちこちガタが来ており、幾ら修繕を繰り返しても雨漏りや隙間風が減らんレベルだけど、家族が笑顔ならオールオーケーよ。

 建付けが悪過ぎて機能してない玄関を迂回して勝手口から中へ入る。

 

「……また学校をサボったわね公太郎」

 

 ただいま義母さん。これ、今日の賃金ね。家計の足しにして。

 

「こら! 話を聞いてるの!」

 

 僕の為を思って叱ってくれているので形ばかり謝罪するのだけど反省はしない。だって彼女の方がずっと苦労しているからだ。

 国から碌な補助も得られていないのに僕含めて複数の子供を保護し、私財を投げ売ってまで食わせてくれる聖人で。

 所々で滲み出る所作からしてスラム出身ではあるまい。故に今の生活は苦痛だろうに、子供の前では決して苦しい姿を見せようとしない。

 でも無理は如実に表れていて、僕が出会った頃は彼女はまだ20代後半だったのに肌や髪はボロボロでかなり老け込んでいるように見えた。

 こんな聖人を蔑ろにする世界とかホンマ頭おかしい。

 

「もう……子供は勉強するのが仕事なの」

 

 大きく溜息を吐いて根負けした義母は僕の手から金を受け取る。子供からの厚意を無碍にしないところ本当にすこ。幸せになってほしい。

 でも、義母からの要望に応えられないのは心苦しいものがある。

 僕以外の義兄弟は義母が身銭を切って学校に通わせているけれど、僕の場合は学区からして登下校時に知り合いに遭遇する可能性があるのがね。

 僕としても身の危険を感じるし、元家族もいい気はしないだろう。

 まぁ、そこの所の事情は義母には話していない。優しい人だから凄ぇ気に病むだろうし。

 

「話は終わったか、おばさん?」

「えぇ。待たせてごめんなさいね、大我(たいが)くん」

「良い。どうせハムが悪いのであろう?」

「だしよー」

「ハムが悪いー」

 

 僕のことを加工食品で呼んだのは我が物顔でリビングにある俺の椅子を占領している大柄な少年だ。

 背丈は180センチを優に超え、体格も大人顔負けなくらいがっしりとしており、短く刈り込んだ頭髪といい、その顔付きも非常に厳つく、同い年とは到底思えない。

 そんな威圧感たっぷりな彼の両腕にぶら下がる義兄弟たちの中にも馴染んだようで彼――鬼島大我と出会った当初からは信じられない光景だ。

 

 初めて出くわした時は8歳だったけれど、その時から他の子供より大分デカかった上にえげつない怪力してたからなぁ……。

 加えて性格も気に入らないものは全て破壊するイカれっぷりときた。

 その当時、大人たちからは利用価値が薄いとされ、放置されていた空き地こそ子供たちの数少ない遊び場で。でも、そこで癇癪を起こす大我のせいで一時は誰も寄り付かなくなっていた。

 で、義弟が例の空き地で忘れ物をした、という訳で取りに来た僕と初遭遇と相成った。

 初めは勿論、親しくするつもりなど全くなかった。が、大我の親がここ一帯を占めるヤのつく自由業の大親分ということが判明したことで接触を開始。

 当然、肉体言語が僕を襲ったけれど、袖の下に仕込む形で罠カードやバーンカードを用いて応戦。

 およそ4週間に及ぶ激戦(夕方になったら解散。後日再戦)の末、何とか大我に負けを認めさせた僕は講和条約として彼にデュエルを学んでもらうことを承認させる。

 この世界はなんだかんだデュエルを絡ませれば上手くことが多く、今回も例に漏れず多少の教育に成功。

 すぐに手が出る発作をデュエルに置き換え。

 喧嘩の強さこそすべてという概念を、攻撃力の強いモンスターでも特殊能力を持つモンスターに破壊されることを伝えることで他の人間にも違った価値があることを知らしめ。

 魔法カードや罠カードを例に、暴力だけが手段じゃないことも教えた。

 んで、矯正した甲斐もあって大我はデュエルを通じて新しい友達が増えるごとに丸くなっていき、その恩もあって僕やその義母や義兄弟は家族に近い扱いとなった訳だ。

 

「貴様が帰って来んから土産はすべて小僧たちの腹の中だぞ?」

「弟たちが満足そうにしてる顔見られるだけで充分だって」

「フンッ、無欲な奴め」

 

 鼻で笑う素振りこそ見せるものの、大我の口元は優しく弧を描いていた。すっかりお兄ちゃん面になって――それこそ僕の目論見通りよ。

 彼の家は大層デカいからなァ! その庇護下に入って家族の安全を確保。また彼を通じてヤーさんからの支援を受け取ることで僕たちの生活も改善したしな。

 まぁ、義母は初めの内は酷く反対してたけども。大我の家の影響下に置かれることで余計な諍いに巻き込まれるリスクやら、何の柵も受けずに僕たちを育て上げたい高潔さがそうさせたっぽいけども。

 結局は大我からの善意に折れて、義母の栄養状態も改善。

 美容品は贅沢、と言って受け取り拒否してはいるけれど、彼女が寝入った頃に化粧水と美容液、乳液、ヘアオイルを塗りたくってるからますます綺麗になってて僕も嬉しい限りよ。

 まぁ、状況証拠で普通にバレバレなのだが、物的証拠は完璧に隠し通してるからなァ! いくら追及されようとも痛くも痒くもねぇぜ。

 

「ひとつ言い忘れていた。親父が貴様に話があるとのことだ」

 

 

 

 

 

 大我から伝言を受けた翌日の早朝。

 夜型の人間が多いスラムでは人目が少ないとはいえ、念には念を入れて僕はフードで顔を隠しつつ一際大きいビルのひとつに足を踏み入れる。

 

「止まれ」

 

 フロントには守衛を担うゴリゴリのマッチョが身体を張って僕を制止してくる。

 いつもお疲れ様です。はい、セキュリティカードね。

 

「……確認した」

 

 以前の名残か立派なセキュリティゲートが設置されてんのに、わざわざ人の手で認証させる意味よ。

 何にせよパスしたので僕はエレベーターに乗り込み、最上階へ。

 

「来たか」

 

 そうして僕を出迎えたのはソファに腰掛けた大男だ。もうね、とにかくデカい。生で力士見た時の衝撃よりも尚デカい。

 座った状態で既に僕の目線より高いし、その横幅も成人男性2人分を軽く超えているんじゃないだろうか。

 大我に遺伝したらしい太くてギザギザとした眉毛に猛禽類を思わせる鋭い眼光、大きい鷲鼻と頬には刀傷が走り、むっすりと結ばれた口周りには立派な髭が蓄えられていた。

 

「呼び出しちまってすまねぇな。(オレ)も立場があるもんで、おめぇさんとこに顔出す訳にもいかんのでな」

 

 若輩者から出向くのが礼儀というものですから。それで……上納金(彼の敵対組織とやらからアンティルールで入手)なら大我の世話役に手渡している筈なのですが?

 

「ガキが要らん気回してんじゃねぇ。ンな端金、酒の足しにもなりゃしねぇよ」

 

 そう言って大我の親父さん――鬼島剛三が雑にトランクケースを投げてくる。

 目配せしてくるので中身を確認してみると、デュエルディスクと高価なレアカードが入っていた。

 今までの上納金をこういう形で返してくれるとは思わなんだ。

 

「あぁ、それで、だな」

 

 親父さんは大きく咳払いした後、こう続けた。

 

「おめぇさんには愚息が世話になってるとか悪ぃんだが、引き続き頼みてぇ」

 

 逆に大我にはこちらの生活を支えてもらっている立場なのですが……。

 

「いンや。あの跳ねっ返りの聞かん坊を猿から人間にしたのはおめぇさんの尽力あってのことよ。親として面目も立たねぇ」

 

 実の息子に対して酷い言い草だが、概ね事実だから何も反論できない。あの時の大我は人体に飽き足らず、目についた公共物を破壊しまくるやべー奴だったしなぁ。

 

「割かしマシになったとはいえ愚息をひとりデュエルアカデミアに行かせるのは不安が残ってよ」

 

 それで僕に大我のお目付け役を頼みたいという訳か。

 しかしデュエルアカデミアは紛うこと無き名門だ。『GX』に登場する本部だけでなく、日本各地に支部が点在し、そのどれもが狭き門として知られている。

 ……うん、どう考えても無理だ。学力以前に不登校の僕が受験することが可能かどうか不透明過ぎる。

 僕より適任の人はいらっしゃらないんですか?

 

「若い衆じゃ愚息の相手は手に余る。おめぇさんにしか頼めねぇのよ」

 

 僕にしたってあの頑固者の言う事を聞かせられる訳じゃない。大我の意を汲んで多少軌道修正が図れる程度だ。

 

「親御さんに恩を返してぇならよ。悪党相手にチマチマ稼ぐよか全うな方法で手に職つけた方が喜ぶだろうよ」

 

 渋る僕に対して親父さんが義母のことを引き合いに出してくる。そこ突かれると弱いんだよなぁ。

 でも僕だけ受験に落ちたらどうするんで?

 

「安心しな。最悪、愚息共々裏口入学でどうとでもなる」

 

 初っ端から全うな方法じゃない件について。

 デュエルアカデミアにわざわざ大我を通わせるのは箔をつける為なのだろうが、そんな汚い方法使って良いのやら。実技試験がある時点で僕は頼らざるを得ないだろうけれども。

 どうであれ、親父さん相手では了承する以外に選択肢もあるまい。

 

「何。こちらから頼んだんだ。心配せずとも卒業まで費用諸々受け持ってやんぜ」

 

 そういう心配もあったか。でも気が変わっていつの間にか僕の借金にされてなきゃいいんだけど。

 

「あァそれともうひとつ話がある。入れ」

 

 親父さんがそう言うや否や背中に衝撃がかかる。踏ん張り切れずに倒れ込む僕に圧し掛かるこの重みには覚えがあった。

 

「あるじ、会いたかった」

 

 すりすりと頬擦りをして囁く重荷をぺいっと剥がして立ち上がる。

 しかし、すぐさま濡れ羽色のセミロングを揺らして僕の胸に飛び込んでくる美少女のせいでまたも床に倒れ込んでしまう。

 待て、待てだ。おすわり!

 

「ふんすふんす」

 

 駄犬のように聞き分けの悪い彼女――あやめの躾を諦めて僕は彼女に左腕を取られた状態で何とか身体を起こす。

 栄養状態は然程差が無いというのに僕の身長をあっさり抜きおってからに!

 

「ようやっと事後処理も終えたし、そいつをおめぇさんに返すぜ」

 

 いや別に僕のものじゃないんですけど。

 

「がーん」

 

 などと口にするあやめだけど、まるでショックを受けた素振りはない。というか表情筋が死んでいるのか無表情のままなんだよな、こいつ。

 それが彼女の育ってきた環境のせい、なのだとしたら少しばかり思うところはあるけれど。

 

――あやめは2年前、僕のところに差し向けられた暗殺者の内のひとりだった。

 

 当時の僕は悪人共から積極的にカード狩りをしていて、当人の記憶こそ飛ばしていたものの、その周囲や背後関係にまで気が回らず、未知数ながら僕を危険視した勢力から暗殺者が手配されるまで至ったのだ。

 で、あやめはそのトップバッターとして派遣され、開幕早々に彼女のサイコデュエル能力によって実体化した上級モンスターに囲まれた時は普通に漏らしたのは黒歴史のひとつ。

 あまり思い出したくないのだけど、確か《聖なるバリア-ミラーフォース-》で全滅させた後は《昼夜の大火事》などのバーン効果で物理的に大人しくしたんだっけか。

 幼女相手にえげつない、と思わなくもないけど、あの時のあやめはマジで殺人マシーンだったからなぁ。カード取り上げても鉛筆などの日用品で殺しにかかるレベルだったし。

 んで、あやめの捨て台詞で次なる刺客が送り込まれることを知った僕は、余所者を忌避するスラムの目撃情報を集めて先に暗殺者を捕捉。その後はスラム中に仕掛けた罠カードを遠隔発動して捕縛したっけか。

 それから事態を重く見たらしい組織の幹部が僕の元までやってきた際に、《昼夜の大火事》をざっと50枚ほど発動し、そのエネルギーを凝縮して脅し付けて暗殺を取りやめてもらい。

 組織の損害云々を引き合いに出して依頼人について口を割らせ、その元凶を《精神操作》して一件落着。

 ……おい、デュエルしろよ、だって? 僕のデッキでまともにやりあえる訳あるか!!

 

 ただ解決した後なのに暗殺者の彼らが面倒だったなぁ……。

 彼らはバーン効果のある魔法かモンスターの召喚しかできないし、罠カードの遠隔発動や多重魔法カードの発動によるエネルギー凝縮は人間業じゃない、とほざいて僕を勝手に組織のトップに据えようとするんだもの。

 断固拒否して追い返したものの、あやめを連絡役として残していきやがるし……。

 仕方なくあやめの一般社会への復帰を目指したんだけどね……。

 同じサイコデュエリスト同士だった故か《精神操作》の効果が薄く、一般常識を知識として蓄えても殺人への忌避感とか全然芽生えなかったというね。

 ただその間に僕に大層懐いたので、鬼島の親父さんから飼い主扱いされているというのが現状である。

 

「あるじ~」

 

 はいはい。

 はすはすと僕の匂いを嗅ぐあやめの頭を雑に撫でつつ、親父さんに向き直る。

 会話の流れ的にあやめもデュエルアカデミアに連れていけ、と? いや~キツいでしょ。

 

「たった数日、おめぇさんと会わなかっただけで己の部下が何人のされたか聞きてぇか?」

 

 結構です。

 かといって児童養護施設に残しておくのも親父さんの話からして危険が危ない(CVの〇代)し、結局は連れて行く他に無いという訳か。 

 

「己の方で手続きを進めておく。頼んだぜ坊」

 

 肩の荷が下りたとばかりに清々しい笑みを浮かべる親父さんに一礼した後、トランクと美少女という荷物を持って退出する。

 

「あるじ、あのオッサンにムッとしてたけど殺す?」

 

 殺しません。

 面倒なもの押し付けやがって、とは思ったけれども。自業自得な面もあるから黙ってただけじゃい。

 しかし、またあやめを児童養護施設に置くのか。もうしばらく親父さんのとこで預かっていてほしかったぜ。

 

「あるじ酷い」

 

 義母さんは基本子供に寛容だけどさ。単純に食い扶持が増えるからなぁ。

 それに僕は誰かの人生を背負い込めるような立派な人間じゃない。だから諦めてクレメンス。

 

「やだ」

 

 しかし、あやめを加えた児童養護施設での生活は案外平穏で僕の心配は杞憂に終わる。

 僕でも御し切れないあやめを義母さんは見事に手懐け、『殺す』『僕に甘える』の他に選択肢の無かったあやめが自発的に家事の手伝いをしたり、自分の為の時間を見出したのは流石の一言だろう。

 その一方で親離れならぬ僕離れが一向に進まず、時は過ぎていき――

 

 

 

 

 デュエルアカデミア入学式当日。

 受験に関しては筆記試験はともかく実技試験がモンスターカード前提の問題があった為に途中離席。

 結局のところ、裏口からの入学ということもあって補欠合格という体で在籍することとなった。

 だから他の生徒と違って校門を潜ることに若干の躊躇いがあったのだが。

 

「何を臆する必要がある? ゆくぞハム!」

 

 僕と同じ赤い制服――オシリスレッドの所属を示しながらも威風堂々とした鬼島大我に背を押されてデュエルアカデミアへ踏み出した。

 『GX』と同様、成績順にクラス分けがなされ、上からオベリスクブルー、ラーイエロー、そしてオシリスレッドとなっており、序列で言えば僕らは最下層。

 故に威張れるような立場でも無いのだけど、大我からしてみれば些細な問題か。

 

「我が覇道の第一歩がここから始まるのだから!」

 

 何せ大真面目な顔で学園制覇などという目標を掲げる大馬鹿野郎なのだから。

 

「む……?」

 

 入学式を行う講堂に向かう最中、人だかりができていることを発見した大我がむんずと僕の首根っこを掴む。

 

「一足先に確認してこい!」

 

 そして人間離れした肩から僕という名の人間大砲の発射である。もう慣れっこなので抵抗する気すら起きず、着弾点の予測と共に空中の姿勢を整える。

 

「――あるじに何をする」

「そんなもの己の勝手だろう! 出遅れた小娘が!」

 

 あやめと取っ組み合いになる大我を尻目に前回り受け身の体勢に入る。……下がアスファルトだからマジで痛ぇ! 

 

「……なんだオマエ?」

 

 背中をさすりつつ辺りを見れば、だらしなく着崩した青い制服姿にアホみたいに逆立った髪型の不良に、如何にも気弱そうなおかっぱ頭で丸眼鏡のオシリスレッドの少年がいた。

 凡そオベリスクブルーの立場に酔ってカードか何かバカにして嘲笑っていたのだろう。

 うーんこの。なろうのテンプレみたいなのに、遊戯王世界の民度なら普通に起こりかねないのがね。

 

「ハム!」

 

 人の波を割って現れる大我に対し、簡潔な説明を行う。

 イジメ現場っすわ。どうします?

 

「笑止。この華々しい日を汚す痴れ者など成敗してくれる!」

 

 大我の馬鹿みたいに太い首を全身を使って絞め上げていたあやめをこちらに投げると、彼は不良に向けてデュエルディスクを見せつける。

 あやめ、人前でナイフを使わなかったのは偉い! でも殺すのは駄目だって言ったでしょ。 

 

「面白ぇじゃねぇか!」

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 決闘者と書くだけであって即決で大我と不良のデュエル開始ィ!

 

「オレのターン! オレは《ホルスの黒炎竜 LV4》を召喚! 続けて手札より《レベルアップ》を発動! 《ホルスの黒炎竜 LV4》を墓地に送り、デッキから《ホルスの黒炎竜 LV6》召喚!! カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 不良のデッキは如何にもなパワーデッキだろう。《ホルスの黒炎竜》のモンスター効果はこのモンスターは魔法効果を受けない、というもの。

 これでLVが8に上昇すれば魔法の発動と効果を無効化し破壊することが可能となる。

 ついでに伏せカードが《王宮のお触れ》であるなら罠カードが使えなくなるし、残るモンスター効果をどうにかしてしまえば単純な殴り合いとなるだろう。

 しかし、それはサイバー流もとい脳筋な大我も望むところであった。

 

「己のターン! ドロー! 己は手札より魔法カード《パワー・ボンド》発動! 手札の《サイバー・ドラゴン》2体を墓地に送り、現れよ《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」

「攻撃力5600の2回攻撃だと!?」

「バトル! 貴様の《ホルスの黒炎竜 LV6》を攻撃!」

「ぐぅッ!?」

「そして貴様にダイレクトアタック!」

「ぐわぁああああ!!!!」

 

 一瞬にしてライフポイントが消し飛んだ相手がオーバーリアクションで膝から崩れ落ちる。

 まぁ、1ターン目からカイザー亮みたいな初期手札持ってこれる奴相手にどうやって戦えっていうんだ、って気持ちもわからなくはない。

 

「フンッ、まだ時間はあるようだな。ちょうどいい、貴様の腐った性根、叩き直してくれるわ!」

「ひっ、ひぃぃいいい!!」

「眼鏡の貴様も情けない! 来るがいい!」

「うわぁあああ!!」

 

 ずるずると当事者を引き摺って大我は講堂の道から外れて校舎裏の方へと消えていく。

 うん、見なくともわかる。肉体言語による話し合い()によって相手の腹の内をすべてぶちまけさせてからの舎弟化だろう。

 気が付いたらいつの間にかカリスマ性にでも目覚めてんだよな、アイツ。地元じゃ組以外に数十人の部下がいやがったし。

 特に精神的に脆い相手だと崇拝するレベルの舎弟になってて怖いんよ。今回は丸眼鏡が危ういかもなぁ。

 

「あるじ、入学式行こ」

 

 にしても、改めてあやめまで入学試験に通るとは思わなんだ。しかも、この中でひとりだけラー・イエローだしよ。

 結局、裏口は僕だけという情けない結果にも失望しないこの子は節穴なのだろうか。

 でも、お目付け役を命じられてるから一応着いていかないと。

 

「ゴリラに構う必要ない」

 

 うぎぎ、この細腕のどこにそんなパワーが……! 物理法則さんが職務放棄してらっしゃる!

 詰まるところ、力負けした僕は大我を置いて入学式に真面目に参加したものの。

 一連の騒ぎはあまりに早く学校中に伝わり、教室に着いた頃にはクラスメイトから目を避けられることとなるのだった。

 

 

 

 

 

 それからなんだかんだで1か月。

 大我が勢力拡大に精力的に動く中、僕は至って平和を満喫していた。友達なんて贅沢品は望めないにしても、スラムのように誰かしらに絡まれることもない。

 お目付け役も大我をアニキ呼びする眼鏡くんが引き受けてくれて僕自らフォローする機会も減ったし。

 懸念材料だったデュエルの実習も、ドローゴーもとい所謂ゼロモンスターデッキであっても個性のひとつとして受け入れられたのも大きかった。

 まぁ、メタられると詰む性質上、わざと手を抜いたプレイングに大我やあやめは大変ご立腹なのだけれども。

 いいじゃん別に。弱いとかバカにされるくらい。何か事件とかあった際に油断してくれれば寝首かけるじゃんね。

 

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、昼休みに突入してからすぐにオベリスクブルーの女生徒が現れたことで場が騒然となる。

 輝くハニーブロンドを豊満な胸の前に垂らし、そのパッチリとした碧眼には長い睫毛で縁取られ、綺麗に通った鼻筋に瑞々しい唇。

 端的に言えばメインヒロインに抜擢されそうなビジュアルの少女こそ1学年首席の天領渚その人である。

 

「鬼島大我くんはいるかしら?」

「己ならここにいるが」

「貴方にデュエルを申し込むわ」

 

 主席からの挑戦状にクラスメイトらが一気に湧き立つ。

 彼女の姿が大変美しいこともあってか多くの生徒がファンと化しているのもそうだろうが、決闘者としても強者同士がぶつかり合う場面に血が滾るのだろう。

 

「私が勝てば貴方の怪しげな団体を解散してもらうわ」

「己の『魂の結束』を怪しげなどとほざきおるわ。叩き潰してくれる――と言いたいところではあるが先約がある。日を改めてもらおうか」

「……逃げる気?」

「下手な挑発だ。己はこれから購買部の手伝いに行く。これは決定事項だ」

 

 背を向けて去ろうとする大我の腕を掴む天領さんだったが、軽ーく振り払われる。

 凄ぇ優しい手加減。大我が力加減ミスると大概尻もちじゃ済まず、数メートルは吹っ飛ばされるもんな。

 

「アニキが出る幕じゃないッスよ! 右腕たるボクが相手をしてやる!」

「話にならないわ」

 

 その代理に、と出しゃばった眼鏡くんがぴしゃりと冷たい言葉で断られる。

 あらーら、頭を抱えて大変ショックな様子。一目惚れの初恋だって言ってたもんね。

 大丈夫眼鏡くん? こんなんじゃ満足できねぇぜ発言は酷いよね、ホント。

 

「憐れむんじゃないッスよ!」

 

 差し伸べた僕の手を振り払い、眼鏡くんがキッと睨み付けてくる。

 ポジション的に彼が対抗心バリバリ燃やしてくるから仕方ないんだけども、個人的には仲良くやっていきたいんだけどなぁ。

 

「どうしても気に食わんと言うならば……ハム、相手をしてやれ」

 

 鼻を鳴らして代理人をご指名した大我は全力ダッシュでこの場から離れていく。余計な時間取られた分、覇王ムーブなどお構いなしに急いで向かったんだろうね。

 購買部のおばちゃんには割と世話になってるから、その恩返しに励んでいて実に偉い。とても裏社会の人間とは思えんわ。

 

「ハム――小波くんね。噂では弱いって聞くけれど……あのオーガがわざわざ指名するくらいですもの。能ある鷹、ってことかしら?」

 

 小波、というのは義母の苗字で、学園入学の際にもらったものだ。

 字面的に『タッグフォース』シリーズのコナミ君を彷彿とさせるが全くの無関係である。

 次元を超えるわ、記憶を改ざんして正史に介入する化け物と同列とか恐れ多いわ。

 どんな相手でもベストパートナーになれる逸材な上、ガチで多才だからなぁ。後、カードゲームのできるギャルゲー化させるレベルのタラシだしよぉ。

 滅相もないぜ。

 

「滅相もない? その言葉の割には動揺も緊張も見られないわね。いいわ、乗ってあげようじゃない」

「なんでキミばっかり!」

「あやめさん侍らせやがって! イラっとくるぜ!!」

「カードの角に頭ぶつけて死ねやハムゥ!」

 

 おうおう大我の取り巻き共にクラスメイト諸君。

 これだからドロップアウトボーイばかりのオシリスレッドは品がないノーネ!

 

「気取ってんじゃねーぞオメー!」

「……場所を移しましょ。ここだと気が散って仕方ないわ」

 

 ブーイングの嵐に気分を害した天領さんは彼らをひと睨みして着いて来ないよう言い含めた後、僕を先導するように歩き出す。

 彼女の言葉に素直に従った彼らの姿が見えなくなったところで、僕は言う。

 あのー、勝負を受けるとは言ってませんけどー?

 

「えっ!? この流れで引き受けないことある!?」

 

 いやー、あの場から離れないとデュエルマッスルによる決闘()に発展しそうなんで逃げただけですし。

 

「貴方、オーガの側近じゃなかったの?」

 

 幼馴染ではありますけど、側近とかじゃないっすわ。何なら『魂の結束』とかいう厨二ネーム団体の構成員ですらないですし。

 というか、何故に解散命令を出したんで? 現状、アイツらのやってることで『万丈目サンダー』とその取り巻きみたいなモンしょうに。

 

「万丈目? 何なのそれ?」

 

 あっ、知らないと申すか。まぁ、カードからして時系列は『GX』っぽいけど、どの時空にいるかまでは僕にもわからんからね。

 ともかく仲間を増やしてデュエルで切磋琢磨するくらいで悪事を働いてる訳でもない筈ですけど?

 

「彼らの言動はデュエルアカデミアの規律を乱しているわ」

 

 それで手っ取り早く頭の大我をどうにかしようって訳ですかい。

 解散したところで元の気質がアレなら意味が無さそうだよなぁ。

 

「とにかく! 何としても貴方にはデュエルをしてもらうわ」

 

 天領さんの美貌は自然と衆目を集めるも教育とやらが行き届いているのか野次馬と化す人たちはおらず、僕たちは屋外の外れにある旧型のデュエルスペースに足を運んでいた。

 

「オーガに信頼されている貴方を倒せば彼も引き下がれないでしょうし」

 

 自治厨というか何というか。お年頃なのか拗らせてるなぁ。

 ここまで着いてきて何ですけど、勝負する気ないっすよ全然。

 

「貴方に決闘者としてのプライドは無いの!?」

 

 プライドねぇ……前世のうだつが上がらないサラリーマン時代でとっくに無くしてるわ。

 今世にしたってプロの決闘者になる気は毛頭ないし、生き方のひとつでしかないんだよ。

 つーか、デュエルするだけでもデメリットがね。

 

「デメリット?」

 

 天領さんに言える表向きの理由としては、勝ったところでリターンが無いことだ。

 決闘者であればデュエルするだけでも嬉しいし、勝ち負けに本気にもなろう。しかし、僕にとってそれは手段であって目的にはなりえない。

 主席に勝った、なんて栄誉も要らない。むしろ僕へのデュエルの申し込みが増えそうで煩わしそうだ。余計な恨みも買いそうだしよ。

 

 ……本音としては、メインストーリーに絡む要素はできうる限り削っておきたい、ということ。

 どの媒体でも遊戯王ってヤツはカードゲームだっていうのに命を懸ける場面が多過ぎなんよ。仮に死ななくとも碌な目に遭ってやしない。

 一応、モブの立場でも『GX』みたく学校ごと異世界に飛ばされてデュエルゾンビにされたり、ダークネスとやらに存在を消されたりするかもしれないけどさ。

 初代遊戯王からカウントしていけば、どう考えてもメインキャラの方が酷い目に遭い過ぎてるじゃんね。

 このデュエルがキッカケで、大我のお供ポジとしてついていくなんて僕は嫌だぜ。絶対人質にされるだろ。

 

「卑しい人。いいわ、貴方が勝ったら私が叶えられる範囲で何でもしてあげる」

 

 余程勝つ自信があるのか、とんでもない条件を引き合いに出してくるな、この人。

 僕も用事を思い出した云々の言い訳で回避したいところだけど、粘着してきそうだしなぁ。

 今回同行しただけでも要らぬ噂が立ちそうだし、逃げるのもマズいか。なら相手が取り下げるよう働きかけるのが無難か。

 何でも、と言ったな?

 

「えぇ。私のできることだけどね」

 

 遊戯王世界的に入手難度がアレ過ぎる三幻神のカードを持ってこい、のような無理難題吹っ掛けても冗談として流されそうだしなぁ……。

 かといって大金や退学を懸けるのは気が進まないし。昆虫食とか珍味の類もワンチャンギャップで対処してきそうだ。

 うーん……このハリキリ☆ガール、ともかく負けなければいい、ってスタンスだとどんな条件出しても承諾されそう。

 いや待てよ? 天領さん、プライドは高そうだよな。

 

 なら――僕が勝てば天領さんの身体を好きにさせてもらおう!

 

「はぁッ!?」

 

 何でも、と言ったのは天領さんだ。

 言っておくが僕は日和るつもりは一切ない。おっぱいを揉んで満足するつもりもねぇ。

 AもBも超えて夜のライディングデュエル! リミットオーバーアクセルシンクロするぜ?

 

「最っ低!!!!」

 

 両腕で胸を隠すポーズって逆にエロいよね、という戯言はさておいて。

 僕なんてデュエルする価値すらないわ、とか言って呆れたり。デュエルする気も失せた的な発言して去ってくれませんかね?

 お高く留まる、とまではいかないまでも自分を安売りすることは流石に無いだろう。

  

「貴方の低俗な考え、真正面から叩き潰してあげるわ!!」

 

 あっ、天領さん激昂してデュエルする以外に選択肢潰されましたね、はい。

 恥じらうだけなら品位が下がるとか淫売め、などと追撃入れてうやむやにしようと思ってたのに。駄目みたいですね、これは。

 彼女はデュエルディスクを展開し、某満足同盟みたくデュエッ! と先走って決闘を開始しやがった。

 

「デュエル! 私のターン! 私は手札から魔法カード《成金ゴブリン》発動! 貴方のLPを1000回復する代わりにカードを1枚ドロー! 続けて永続魔法《六武の門》を発動! 魔法カード《紫炎の狼煙》で《真六武衆-カゲキ》をデッキから手札に加えて召喚!」

 

 待て待て待て! 明らかに天領さんひとりだけ時代がちゃうやんけ! まだ微妙だった『六武衆』テーマじゃなくて環境だった時代もある『真六武衆』じゃねぇか!

 それズルじゃん! 六武衆の展開力で《六武の門》とかインチキ効果もいい加減にしろ!

 

「《真六武衆-カゲキ》の効果で《真六武衆-ミズホ》を召喚するわ!」

 

 ……おん? チューナーモンスターの《六武衆の影武者》じゃないんけ? 無限ループしないんか?

 

「《六武の門》から武道カウンターを4つ取り除いてデッキから《真六武衆-シナイ》を回収! フィールドに《真六武衆-ミズホ》がいることで《真六武衆-シナイ》を特殊召喚!」

 

 まさか……まだシンクロモンスターを持っていない、とか? アニメみたく後で入手するパターンか?

 ぬわぁん、アカデミアの設備じゃ碌な情報手に入らんからわからん!

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 と、ともかく無限ループからの《マスドライバー》による1ターンキルは無さそうってのは助かった。

 そこまでの鬼畜行為、遊戯王世界で許しちゃいけないもんな、うん。

 僕のターン! 僕は魔法カード《強欲な壺》を発動してデッキからカードを2枚ドロー!

 

「それ禁止カードじゃない!」

 

 うるせぇ! そうでもしないと僕のデッキが回らんで更に事故るんじゃい!

 モンスターカードがゼロという関係上、デッキ圧縮も難しいし、基本的にドローソースは魔法カードからになるんだよ。

 罠カードは基本的に相手からのダイレクトアタックに備えたり、相手をロックする必要があるからゾーン的に割く余裕がねぇ。

 フルバーン? アニメのようにLP4000ならともかく、大抵はLP8000を削り切る前にこっちがやられるわ!

 何ならモンスターどころかトークンすら召喚できないクソ縛り内容だから《終焉のカウントダウン》による勝利も厳しいしよ!

 

 どうやら時代を先取りする女に運命の神とやらは大変お怒りらしい。きたぜ、ぬるりと……。

 僕は手札から《光の護封剣》を発動! このカードが場にある限り3ターンの間、相手モンスターは攻撃宣言できない!

 

「……どういうつもり?」

 

 そんでもってカードを3枚伏せてターンエンド。

 

「……いいわ。私のターン! 《真六武衆-ミズホ》の――」

 

 その前に罠発動! 《スキルドレイン》! LPを1000払い、この場にあるすべての表側表示モンスターの効果を無効化!

 

「くっ……! なら私は――」

 

 続けて永続罠《王宮の弾圧》を発動! LPを800払って特殊召喚を無効化する!

 これでお得意の展開もできないようだな?

 その苦し気な顔からして除去カードが手元に来ていない様子。

 

「典型的なパーミッションデッキ……なんて陰湿な」

 

 おうおう好き勝手言いなさる。

 でもプレイしている僕としても完全に悪役ムーブだとは思うよ。

 やっぱ情報を伏せたことによるアドバンテージはデカいぜ。仮に僕のデッキが他に漏れていればこうも上手くはいかないだろう。

 

「ターン……エンド」

 

 どうやら僕の伏せカードを警戒して通常召喚すらもせずに自身のターンを終了させたようだ。

 まぁ、魔法か罠による除去カードが来ない限りは大した手も打てないからな。

 僕としても上々な立ち上がりだけど、手札的にロック効果のものばかりだし、バーン効果の魔法カードが来るまでは動けない模様。

 うーん……販促アニメでは絶対放映できない退屈な時間が続きそうだ。

 

「えっ……」

 

 ちょうど僕が山札からドローしようとした時だった。

 ファッ!? 僕の宣言無しに《魔封じの芳香》が勝手に表表示になっとる!?

 

「何が……」

 

 ふと天領さんの視線が上に向かったのに僕も釣られてみれば……先程まで快晴だった空模様がえらく分厚そうな黒雲ばかりになっていた。

 雷も凄ぇ鳴るし、屋内に避難しようと提案しようとした矢先――一瞬にして視界が真っ白に染まった。

 遅れて耳をつんざく轟音と認識した時にようやっと自分が落雷に打たれたのだと自覚して……不思議と身体に痛みが無いことに首を傾げていると、右腕が勝手に動きやがる。

 厨二ソウルが暴走を始める、などといったことは断じてなく、どうもその原因はいつの間にか僕の右手に握らされていたカードによるものらしい。

 

「そのカードは……!」

 

 視界の回復したらしい天領さんに遅れて、僕は今世で一度も使用されていなかったモンスターゾーンにカードが置かれていることを視認して。

 急に背後に現れた大きな影に、唾を呑み込んで振り返れば。

 

(ようやく会えたの愛しの三郎♡)

 

 それは胴長の赤い竜。初代遊☆戯☆王のATMもとい闇遊戯とも呼ばれた男の後ろに降臨することの多かった神のカード――《オシリスの天空竜》を彷彿とさせた。

 しかし、僕の目の前にいる存在はそうじゃない。

 見た目の差異だとか召喚条件が違うなどといった理屈を吹っ飛ばして、理解させられる。

 この存在は三幻魔の内の1体、《神炎皇ウリア》なのだということを。

 

(まったく……妾はずっと運命的な出会いを待っていたというのに。こんなメスとじゃれ合うとは嘆かわしい)

 

 見るだけで根源的な恐怖を覚えさせるやべー存在が何故僕の手にあるのか。まるで意味がわからんぞ、という疑問もあるけれど。

 それより脳内に流れるふざけた思念よ。なぁにこれぇ。親切設計なのかウリアさんからの思念だってわかるけれど、僕はわかりとうなかった。

 

 解釈不一致にも程があるだろ!!!!

 

 もっとこう……威厳を保たんかい! なーに人間のガキにメス出してんだテメー!

 

(三郎、何をそんなに怒っておる? ふむ。あのメスが邪魔なのじゃな?)

 

 早まるなボケ!! つーか僕を三郎と呼ぶんじゃねぇ! 

 それは生みの親が付けた名前だろうが。そんなダセェ名前じゃなくて義母もとい実母を超えた真母から貰った公太郎が真の名前じゃい!

 五十歩百歩とか言ったら制裁するからな!!!!

 

(すまんすまん)

 

 つーかよ、クリボーが勝手に、とかいうレベルじゃねぇぞオイ!

 デッキに入ってもいないどころかカード入手イベントすらこなしてないのに、どうやって召喚されやがった?

 妙に疲労感があることからサイコパワーを勝手に使われたことだけはわかるけどさ。

 

(愛の力じゃ♡)

 

 黙れ。

 いや黙るな。質問を続けよう。

 まず……どうして僕の元に? 前世でも今世でもウリアさんとは何ら縁が無いと思うんだけど?

 

(前前前世で愛を誓ったのを忘れたというのか?)

 

 そこまで記憶引継いてねぇわ。今聞いても思い出せんし、人違いじゃありません?

 

(何を言うか。妾が見紛うなどありえん!)

 

 そっすか。

 ……ユベルとは難易度段違いの相手に何やってんだ前前前世の僕ェ。神官でもこうはならねぇだろ。

 

(時の流れで封印が緩んでおったからの。場に条件も整った故にこうして巡り合えたのじゃ)

 

 確かに召喚条件である永続罠を3つセットしたのは僕だけどさぁ。

 でもさぁ、ウリアさん呼び出したコストと釣り合ってなくない?

 

(何を言うか! 妾は三幻魔じゃぞ!)

 

 相手のモンスター効果封じるのと、特殊召喚を縛るのと、セットしないと魔法カードが発動できず、しかも次の自分のターンが来るまで使えない永続罠3枚と引き換えに?

 攻撃力が墓地の罠カードの枚数×1000で、特殊効果として1ターンに1度、相手フィールドに裏側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる(この効果の発動に対して魔法・罠カードは発動できない)その裏側表示カードを破壊する、だろ?

 盤面的には前者の方が良くね?

 

(酷い!)

 

 酷くねぇって。

 もう当てずっぽうで聞くんだけどさ、今まで僕がモンスターカード手に入れなかったのウリアさんのせい?

 

(浮気は許さぬぞ!)

 

 マジで前前前世の僕とやら、重罪にも程があるだろ。

 ユベルだって世界を滅ぼしかけたけど、ここまで束縛は酷くなかったわ。

 

(ユベルとは何じゃ? 泥棒猫か?)

 

 もういいっすわ。恋愛脳の相手すんの、ぬわぁん疲れたもぉん。

 サレンダー。ハムの負けデース! 

 

(ま、待たぬか! まだメスを消してはおらぬ――)

 

 自棄になって『ここで僕が投了!』したところ、ウリアさんの姿が消えていく。

 でも手元にカードとして残るのね、うん。もう一度封印したいけど、デュエルアカデミアの本部ってどこやろか? 

 

「待ちなさい! 貴方のそのカードは一体……」

 

 もう僕にもワケワカメ。

 もう頭使うのもめんどいから、さよならバイバイ。僕はコイツと(封印の)旅に出る。

 

「ちょ……待ちなさいってばーッ!!」

 

 HA☆NA☆SE!

 

 

 

 

 

 こうして僕のデカ過ぎる二度目のターニングポイントによってまたも人生が一変。

 騒ぎを駆け付けた教員たちに天領さんが暴露したことで混乱に陥るデュエルアカデミア。どこぞから情報が漏れたのかウリアさんを狙って動き出す悪の組織。

 封印の地から派遣された巫女と共に僕と旅立つ大我とあやめと何故かついてくる天領さん。

 ウリアさんが封印から抜け出したことで残りの三幻魔も現世に解き放たれて世界は存亡の危機に陥ることに。

 

 ……と事実だけ羅列すればシリアスまっしぐらな展開なのだけども。

 名前を知る機会の無かった悪の組織とやらは僕とあやめのなりふり構わぬサイコパワーで半壊させたところを大我がその人員を『魂の結束』に吸収。マンパワーによる情報収集が捗ったところで。

 残りの《降雷皇ハモン》と《幻魔皇ラビエル》も僕の前前前世と愛を誓っただの何だの言い出して痴話喧嘩が勃発。

 そのついでに世界が存亡の危機に陥る、とかいうね。

 結局のところ、『5D's』にも出て来たイリアステルの一員とやらが未来からやってきて、僕の前前前世とは無関係だということを暴露した途端に収まるとかいう事の顛末よ。

 

 壮大にくだらない勘違い物にオチがついてめでたしめでたし――などとは当事者の口からはとても言えまい。

 おまけにウリアさん封印されたのに未だに尾が引いているのか、

 

「僕だけモンスターカードがドローできないんだけど?」




「モンスターではない、神だ!!」というノリだけで書いた短編でした
改めて見ると薄い本に向いてそうな能力してんな、この主人公


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