戦艦タ級は人間の女の子になって宇宙に上がって配管工の養女になりました。

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瀧家の悠さん

少女の自我が覚醒したとき、その手には人類には解読不能(だが少女には読めた)な文字で以下のように綴られた便箋が握られていた。

 

「戦艦タ級様、唐突ですが貴女はプラウザゲーム『艦隊コレクション』の人気キャラクターとしてヲタク文化の普及と振興に対する貢献度大であると認められたため、報償として異世界転生していただきました。

なおそちらの世界はかなり物騒なので限定的ですが深海棲艦としての能力も使えるようにしてあります、適切に使用して護身してください。

ただしはっちゃけ過ぎて世界の均衡を崩すようなマネをしたら当方武力介入の用意があることを念のため申し添えます。

多次元宇宙省二次元キャラ管理局悪役課敵女分室室長

カラダニ・キヲ・ツケテネ

 

追伸・蒼き航路に祝福を」

 

「イヤミか貴様」

つい口に出してしまった。

「ご家族からの手紙ですかな?」

声をかけてきたのは先刻以来清楚な白のワンピースに包まれた少女のしなやかな肢体に粘液質な視線を注ぎ続けている向かいの席の中年だ。

「警察です」

少女は能面のような表情で答えた。

「ウチで飼っていたドグエラヒヒのヴァースキ君(12歳・雄)が逃げ出して選挙演説中の市長を押し倒したうえTVカメラの前で“ぶっかけた”そうで」

「そ、そうかね…」

少女は続けた。

「あとサイコブッダ騎士団というカルトから私が今月の生け贄に選ばれたという通知も届いてまして」

新しい便箋を取り出して折りたたまれたソレを広げる。

「生け贄にされた少女は両手両足を切断されて義手義足でピラミッドを登らされて頂上についたところで石仮面を被った女司祭にアソコからお口まで串刺しにされるそうです」

少女は肩を竦めた。

「コワイですね、生け贄に選ばれて逃げ延びた人はいないという話ですし」

「そ、そうかね!」

そそくさと手荷物をまとめて離れた席へと移動する中年。

少女は手にした便箋を駆逐イ級にするべく創作オリガミチャレンジを開始する。

そんなこんなで少女改め戦艦タ級転生体を乗せた連絡船は地球から最も遠い宇宙都市サイド3の中で最も治安が悪いスペースコロニー「ムンゾ」、人呼んで「サイド3のヨハネスブルグ」に到着したのだった。

 

「ここが私のハウスね」

タ級の目の前には宇宙世紀にここだけ昭和40年代をツギハギしたような木造瓦葺き2階建ての正調日本家屋。

「おひめさまだ!」

背後であがった甲高い声に振り返る。

幼稚園児だろうか、綿飴めいてスイートな男の子が瞳を輝かせてタ級を見つめていた。

「おひめさまだ!」

もう一度言った。

「いいえ、私は戦艦t-じゃなくってぇ!」

思わず鞏家兜指愧破の構えをとってしまったタ級は脳内にインストールされた“この世界”における自身のプロフィールを再確認する。

・名前は瀧悠

・年齢は13歳

・両親は国境線に落ち着きがないことで定評のあるアフリカの紛争地帯で人道支援に従事中連邦軍の誤爆により

 他界

・以後施設で暮らしていたがひょんなことから宇宙に移民した親戚の存在が発覚し養女として迎え入れられることとなった

大丈夫だ、問題ない。ニッコリ笑ったタ級は改めてアイサツした。

「始めまして、私は瀧悠。貴方は?」

だが構えはそのままだ。

「ぼくはたきしんやです!」

ギニュー特戦隊リクームの名乗りポーズで答える幼児。

ノリの良いガキは嫌いじゃないわ。

そして幼児の案内で隣に建つ年季の入った鉄筋コンクリート造陸屋根五階建ての店舗兼共同住宅に向かう。

「舐めてんのかテメエ!」

ガラス戸を開けるといきなり怒声。

「ナニが『機械なんて口金のサイズが合えばいい』だ、あんな屑ポンプ送りつけやがって!」

電話の相手に向かって声を張り上げているのは往年の悪役レスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーを彷彿とさせる水平方向に恰幅のいい初老のオヤジだ。

「今度ふざけたブツ納品してみやがれ、口と肛門直結して『永久機関君8号』にしてやる!」

1~7号はすでに存在する?

「おとーさんおひめさまのおきゃくさんだよー」

叩きつけるように受話器を置いたブッチャーもどきに声をかける幼児。

このスキンヘッドにサングラスのコワモテこそこの世界におけるタ級の養父、瀧貫太郎である。

サングラスの奥から注がれる鋭い視線が頭からつま先までを舐め回す。

「オイオイオイ、写真でも別嬪さんだったがナマで拝むとさらにイケてるじゃねェか」

言動がいちいちマカオの人買いめいている。

だがタ級は動じない。

「ドーモ、瀧悠です」

両手を膝の前に揃え、優雅に腰を折って奥ゆかしくアイサツを決める。

コワモテの口から思わず“ほう”と感嘆の溜息が漏れる。

それは戸口に佇む少女の無機質ささえ感じさせる整った顔立ちのせいか、それとも純白のワンピースに影絵のように浮き出た艶めかしい曲線美のせいか。

(イヤイヤイヤ13のガキだぞ!)

ニューロンを侵食しようとした不健全な思考を慌てて追い払う貫太郎。

「テメーらお嬢さんの到着だぞ、さっさと出てきて挨拶しろい!」

貫太郎のドラ声に応えて二人の男が姿を現す。

「コイツが長男の純一郎だ」

「これが『掃き溜めに鶴』というやつか、どうにも先が思いやられるな」

マユ無し&三白眼&オールバックの三点セットを決めたどこぞのヒトラーの尻尾めいたコワモテだが、その表情からは「照れ隠しについトゲのある科白を言ってしまった」というアトモスフィアが透けて見える。

「そんでもってコイツが次男の勇二郎」

「本当に!この綺麗な女の子が!オレの妹になるのか!?!」

エロゲのヒロインめいた美少女が新たな家族になるという現実に脳の処理が追いつかないのか、ウオー!ウオー!と吠え狂いながら飼育下のストレスから常同行動をとるヒマラヤグマのように高速でスクワットを繰り返す勇二郎は全盛期のシュワちゃんさえ霞んで見える筋肉モリモリマッチョマンのコワモテだ。

「そして末っ子の進也だ」

「おひめさまがおねーちゃんになったー!」

幼児の脳内世界では綺麗なお姉さんはみな平等にお姫様であるらしい。

「今日からウチはこの子を入れた五人家族だ、いいなぁ野郎ども!」

「フッ…」

「オオオッ!」

「やったー!」

とても13歳とは思えない色気を放つ美少女を新たな家族に迎え男たちのテンションも上がる。

「よーし今日は出前だ、スシだぞスシ!」

 

そして高度成長期日本のパロディめいた家族揃っての夕食タイム。

当然のごとくセッティングは畳敷きの和室に卓袱台だ。

瀧家の台所をまかされている家政婦のアストライアさん(過去を語りたがらない妙齢の美女である)も今夜は久し振りに自身の二人の子供と夕食を共にしている。

「テメエは今日も一日エアコンの効いた部屋で一銭にもならねェ原稿書きかい、いいご身分だなァ」

「次の集会で行う演説の草稿です、明日までに完璧に仕上げねば」

食事の最中貫太郎が実質ニートな長男に愚痴るのはもはやルーチンであり、瀧家の男達の誰もが箸を繰り出す手を止めない。

ちなみに貫太郎の子供達に対する評価は

1・純一郎:大学まで出してやったのに就職もせず市民運動とやらにうつつを抜かしている

  政治かぶれの穀潰し

2・勇二郎:筋肉馬鹿だが真面目に働くだけ長男よりマシ

3・進也:天使

である。

「ムンゾ大学法学部を主席で卒業してんだぜコイツ」

貫太郎は純一郎の側頭部を拳骨でグリグリしながらボヤいた。

「ジオニックかツィマッドの法律顧問にでもなってりゃよォ、今頃家族揃って左団扇だってェのに」

「興味ありませんな」

純一郎は澄ました顔で脂の乗ったトロ・スシを頬張る。

「私は単なる私企業の経済的利益の追求ではなく人の変革のために活動している」

「ケッ!」

貫太郎が右ストレートめいた勢いでコップを突き出す。

阿吽の呼吸でビールを注ぐ勇二郎。

死と隣り合わせの宇宙土方の現場で肩を並べるガテン系親子の連携は完璧であった。

「これだからインテリって奴はよォ」

注がれたビールを一息で飲み干し酒臭い息を吐きながら長男を睨んだ。

「ちょっと人より本を読んでるくれェで世の中分かった気になってやがる」

「まあまあオヤジ」

そしてこういうとき常に兄を擁護するのが勇二郎だ。

「アニキはいつか大物になるよ」

「なるよー!」

「可能性(だけ)は否定できませんね」

多数決の論理で兄と弟に同調しておくタ級。

「俺の味方はいねェのかよチクショーッ!」

怒りのあまり1988年新春後楽園ホールのブッチャー×輪島戦のごときカラテパフォーマンスを繰り出す貫太郎。

柱に打ち込まれた地獄突きの衝撃で「だが無意味だ」とショドーされた額がガクンと傾いた。

「落ち着けオヤジ」

伝家の宝刀空手チョップが唸る。

「何さらすんじゃこんガキャあ!」

すかさず進也が開けた障子戸をくぐり縁側から庭へと組み合ったまま移動する貫太郎と勇二郎。

楽しいなあプロレスだなあ。

 

タキテックの朝は早い。

タキテック、それは貫太郎が代表者を務める営利法人の商号である。

貫太郎に言わせると「ケチな配管工」だそうだがその実態は水と空気の循環系の保守点検を請け負うというコロニーの全住民の生命維持に直結するわりと重要な仕事だったりする。

仕事道具を積んだ軽トラ仕様のエレカと従業員を詰め込んだライトバン仕様のエレカに分乗し、勇二郎率いる一隊は宇宙港に向かう。

そう、「ケチな配管工」は宇宙船を保有しているのだ!

実際コロニー内の作業現場にモビルワーカーのような重機材を持ち込むには、面倒なようでもフネを使ってコロニー外周を回ったほうが時間とマンパワーの節約になるのだ。

ちなみにこの世界のモビルワーカーはノーマルスーツを兼ねた耐圧服を着用した操縦手が剥き出しのコックピットに乗り込む4メートルサイズの人型重機である。

貫太郎は今やアンティークとして絶大な価値を持つ1964年式スーパーカブ110でコロニー内の大気にCO2を撒き散らしながら進也を幼稚園に送り届けた後、宇宙港でスタンバイを終えた作業班と合流する。

ビキニマシンガンゲイシャを背中に乗せ、雷雲を纏って天翔るサイバーマグロのアートを船腹に描いた神聖なる冷凍マグロ運搬船「マグロ・サンダーボルト」と電子ホイッスルによるアイサツを交わし、タキテック一行を乗せた作業船は船出していく。

今回使われるのは細くて快速の「ゴブリンチャンピョン」号で、これとは別に鈍足だが搭載量の大きい「ジェネラルオーク」号というフネもある。

本当はもう一隻「プリンセスナイト」号という一番いいフネもあったのだが二年前の修正申告で税務署に差し押さえられ、現在は別の船主の元で「ブライド・オブ・バーバリアン」という船名になっている。

 

こうして家長と次男が宇宙土方していた頃、タ級は女給をしていた。

本来ならばムンゾの公立中学校に通学しているはずなのだが、移民局の杜撰で怠慢な書類仕事のせいで転入手続きがちっとも進まない。

結局通信教育で学位を取ることにしたのだが空き時間を有効活用しようと本社ビルの二階にある社員食堂を兼ねた喫茶店「木馬」を手伝うことになったのだ。

「グワー!」

また一人、不健全な接触行為に及ぼうとした不届き者がタ級の拳を受けて床を舐める。

「ステパン、捨ててきな」

ぐったりとした犠牲者を軽々と咥えて店外に運び去る茶褐色の巨体。

それは体長九フィート、体重千ポンドに達する堂々たるオスのウスリーヒグマである。

名前はステパン。

そしてステパンの飼い主であり木馬の店長を務める美女の名はシーマ・ガラハウ。

シーマとステパンの出会いは貫太郎に雇われる前、彼女が人に言えない稼業に身をやつしていた頃に遡る。

難破した密輸船の船倉でシーマが見つけた、死にかけの子熊がステパンだった。

当時は生きた縫いぐるみのように可愛らしい子熊だったというのに、今ではシベリアンタイガーも出会って五秒でドゲザする北国の帝王の風格を身につけている。

しかしシーマの躾けが行き届いているのでよほどのことをして怒らせない限り気さくで紳士な殺人毛玉のステパン君であり、女子供の人気は高い。

そしてシーマ目当ての客層とステパン目当ての客層にタ級目当ての客層が加わったことで木馬は順調に売り上げを伸ばしていた。

だが来店者が増えればそれに比例してトラブルも増える。

加えてタ級のビジュアルがまた問題であった。

異世界転生したタ級に用意されていた衣服は転生時に身につけていた白のスケスケワンピースを除けばボストンバッグに入っていたエグい食い込みのデニムのカットジーンズと丈の足りない絞り染めの袖なしシャツだけ。

そしてこれらを実装したタ級はワキとヘソとハミケツを見せつける色白で発育の良い13歳の美少女という戦略級風俗兵器として完成する。

そのうえタ級自身が自らの性的魅力に無自覚であり、無意識のうちに無防備な姿を晒してしまうため不健全な接触行為を図る不届き者が毎時何人というペースで発生していた。

今もまたタ級に魅了された愚か者が注文をとるタ級の背後から尻を狙って手を伸ばす。

「まずはもうちょい露出を抑えた服だねえ」

シーマはその手を捕らえ滑らかに小指を折った。

 

そんなこんなで一日が暮れコロニー標準時で午後7時を回った現在、「鉄底海峡」とプリントされた丈の足りない袖なしシャツを着てエグい食い込みのデニムのカットジーンズを履いたタ級は進也を伴って物干し台にあがり、隣に腰掛けた幼稚園児にギターを聞かせていた。

ベン、ベベン…ベン、ベベン…

氷原を疾走する犬をヘリから銃撃する光景が瞼に浮かぶような不穏な旋律であった。

「おねーちゃんおんがくがわんぱたーん」

「そんなことはありません」

進也の指摘を即座に否定する。

「いいですか、このベンベンとこのベンベンは-」

「おなじだよ?」

「ヌウーッ」

タ級は唸った。

そのときタ級に電流走る。

深海センサーが7時の方向に闘争の気配を捕らえたのだ。

「確か純一郎が反政府集会に参加していたはず」

状況判断を行った結論は“現地に赴いて確認すべし”であった。

「貫太郎に夜食のエビチャーハンを頼まれていたのを思い出しました、ちょっとコンビニ行ってきます」

言い捨てるなり美しいフォームで物干し台からダイブする。

「ヴォフォフォフォフォフォ」

そして電子エコーを効かせた掛け声とともに素晴らしいスピードで走り去った。

 

夜の街を矢のように駆け抜けるタ級

なぜ走るのか?それはタ級にも分からない。

人間に転生したことで家族愛が生まれたのか、あるいは単に戦いを求める深海棲艦の本能か。

自分の中に芽生えた曖昧で不確かな衝動をタ級は扱いかねていた。

 

集会場所である市庁舎前広場との距離が詰まると深海パッシブソナーが高性能火薬の爆発による振動波を拾う。

非常事態であることは間違いない。

「■■■■■■■!」

深海言語で秘密の言葉を唱えたタ級の前に水の壁が立ち上がる。

潮の香りも香ばしい水柱に勢いよく飛び込むタ級。

渦巻く水のカーテンから飛び出したのは本来の姿を取り戻した戦艦タ級だ。

煌めく白銀の髪。

生者ではあり得ない屍蝋めいた肌色。

「敵艦隊のグラドル」の二つ名を欲しいままにしたダイナマイトなボディ。

両眼にはエメラルド色の燐光が鬼火めいて揺らめく。

華麗に着地したタ級が際どいぱんつに包まれた美尻を突き出した挑発的な前傾姿勢をとると足裏に高圧ジェット水流が発生、立ちバックめいた前傾姿勢を保ったまま時速27ノットで滑走を開始する。

 

ここで30分ほど時間を巻き戻させていただきたい。

市庁舎前はデモ隊に埋め尽くされていた。

デモ隊と対峙するのは治安警察のクローンではないオーガニックマッポ軍団と六輪重装甲車、そして頭部が透明風防式の操縦席になっている10メートルサイズの人型機動兵器、人呼んでスーパー・パワード・トレーサー(一般的には略称のSPTで通っている)。

今回投入された機体は型番がSPT-H104で愛称はブッシュマン。

火力は低く装甲も薄いがその分軽量で小回りが利くためコロニー内での運用に適している。

もちろんデモ隊を相手にするには完全な過剰戦力だ。

だがデモ隊はよく統制が取れており、暴力沙汰が発生する気配もなくこのまま平和的に解散かと想われたそのとき-

「スッゾコラーッ!」

突如乱入してきた所属不明の武装集団が宇宙世紀にも進化を続ける携帯式ロケット砲のベストセラーRPG-34をぶっ放す。

爆発、爆発、また爆発。

治安警察を狙っているように見えて犠牲者は全てデモ隊だ。

「デモ隊が発砲!」

「応戦だ!」

治安警察も射撃開始、もちろん実弾だ。

装甲車の機関銃がベルト給弾式ならではの連射力を遺憾なく発揮して右から左、左から右とホースで水を撒くように丁寧に掃射する。

麦を刈るようにバタバタと撃ち倒されていくデモ隊。

通りすがりの老婆もついでに撃ち倒されて乳母車が階段を転げ落ちる。

ブッダよ寝ているのですか?

「なんということだ!」

ひたすら逃げ惑う純一郎。

いかに優れた知性の持ち主であろうと徒手空拳のうえ肉体能力値の低い純一郎は鉄火場においては無用の人である。

「邪魔だどけ!」

「おおう!?」

乱暴に突き飛ばされよろめき倒れる純一郎。

「大丈夫かね?」

「あ、貴方は…」

純一郎を助け起こしたのはちょっと尋常ではない目つき(作画:太田垣康男)をしたがっちりした体格の初老の男。

謎の多い死を遂げたジオン・ズム・ダイクンに代わりスペースノイド独立派の精神的支柱となった、弁護士にしてムンゾ大学非常勤講師、そして日刊紙「デイリームンゾ」日曜版のコラムニストであると同時に宇宙歴0043から0048まで連邦宇宙軍月面艦隊でボクシングミドル級チャンピョンのタイトルを防衛した男、デビット・サマリンである。

「これは見事に読み違えたなあ」

サマリンの表情は苦い。

このタイミングで見え見えのマッチポンプを仕掛けてくるとは老練な革命闘士の眼を持ってしても読めなかった。

今ごろ政府系新聞社の編集室では明日の朝刊向けに「反地球派の野蛮なテロにより犠牲者多数」といった感じの記事が作られているだろう。

鵜呑みにする者はいないだろうが親地球派(の中の強硬派)は無理を通せば道理は黙ると思っているのだろう。

そこに群衆を蹴散らしながら接近するブッシュマンが一機。

あからさまにサマリンを狙っていた。

SPTの左腕が突き出され、上腕部に内装された重機関銃が照準を定める。

ああもう駄目なのか?

「兄貴!」

そこに飛び込んできた勇二郎。

どこでの工事現場で拾ったのか畳二畳分はある一枚板の鉄板を掲げている。

ダダダダダンと弾丸が飛ぶ。

ガガガガガンと跳ね返す。

スペースコロニーの外殻にも使用されるジオニック印の均質圧延鋼板は射距離30ヤードで放たれた50口径弾を完璧に防いだ。

ちなみに50口径は0.5インチ≒12.7ミリであり、ブッシュマンの固定武装がみなさんが愛して止まないブローニング重機関銃の宇宙世紀モデルであることを表している。

「ぬおおおおおおおおおッ!」

跳弾がビルを抉り飛散したコンクリ片が全身に食い込む。

だが勇二郎は一歩も引かない。

その光景を目撃したヤクザ者(作画;板垣恵介)が呟いた

「侠客立ち…」

業を煮やしたSPTが対物兵装である手持ち式のカタパルトランチャーを構える。

ここから発射される無誘導ロケットの爆発力は流石に鉄板一枚では凌げない。

ブッシュマンが狙いを定める。

そして巨大な衝撃に仰け反った。

彼方より飛来した実体弾換算で16インチ45口径砲と同等の威力を持つ徹甲榴弾が胸部前面装甲からバックパックまでを貫通(対象が脆すぎて信管が作動しなかった)したのだ。

胸に大穴を開けたブッシュマンはガックリと膝をつき、「プラトーン」のポスターポーズを再現しつつ爆発四散!

火柱と黒煙を背景にしなやかなシルエットが着地する。

「もう大丈夫」

上はセーラー服に白マント。

下はぱんモロ。

「私が来た」

痴女だ!

HENTAIだ!

否、戦艦タ級である。

「あ、怪しいー!」

「こんなあからさまに怪しい奴は宇宙世紀始まって以来だー!」

たちまち群がってくるマッポ達。

深海棲艦を知らないものからすればエロいコスプレをしたただのイカレ女である。

「いやコイツ人の姿をした戦艦なんですSPTを撃破したのもコイツなんです」と言ったとて「ラリってんのかテメッコラー!」と返されるだけだ。

「何も言わなくていい寂しかったんだろじゃあ挿れるね」

治安警察きってのカスがセーラー服を挑発的に押し上げる胸のバルジに手を伸ばす。

サクリと小気味よい音を立て、美しい歯並びをした艤装が伸ばされた手を噛み切った。

「ア?」

肘から先を失った己が右腕を眺め、カスは「わけがわからないよ」といった顔をする。

全艤装が火を吹いた。

主砲の威力は言わずもがな、毎分20発のペースで撃ち込まれる副砲(実体弾換算で5インチ38口径砲に相当)の威力も理不尽極まりない。

吹っ飛ぶSPT。

消し飛ぶマッポ。

まさに無双。

「野郎轢き殺してやる!」

突進する装甲車。

タ級は殴った。

装甲車は一撃でひしゃげゴロゴロと転がり市庁舎にぶつかって燃え上がる。

「暴力を追放して明るい社会」の垂れ幕も燃え上がる。

タ級の膂力は蒸気タービン換算で13万馬力、人化により多少弱体化していても装甲車など敵ではない。

混乱する治安警察。

「小隊長殿、ありゃ一体なんでありますか?」

「なんだろうと構わん、戦闘照準!3点バースト!目標……知ったことか、ファイア!」

装甲車の砲塔が旋回し25ミリ砲が火を吹く。

タ級は驚異のベリーダンサーとして名を馳せたレイチェル・ブライスが乗り移ったかのような腰のくねりでセクシー回避。

お返しの砲撃で装甲車は即時に爆発!

「こんなの上から聞いてねえ!」

「やってられるか!」

「俺は退却を行う!」

無力な一般人を弾圧するのは得意でも無慈悲な殺戮者と対決する気概は無かった。

治安警察総崩れだわかっとんのかあ!

だが一機だけ一騎打ちを望むかのように腕組みをして待ち構えるブッシュマンがいた。

妙に逆三角形を強調したプロポーション。

全身にワックスがけしたような謎のテカり。

見るからにひと味違う。

初手、タ級の砲撃。

大張ジャンプで回避するブッシュマン。

タツジン!

軽さと脆さに定評のあるブッシュマンだが馬力荷重だけなら最新鋭機にも引けをとらない。

持ち味の軽快さを活かして目まぐるしく移動しながらの射撃戦を仕掛ける。

足裏ジェット水流と発砲の反動を活用した立体機動で対抗するタ級。

激しいアクションの連続に重厚な胸部装甲が毎秒24コマの緻密さで弾んで踊って波打ってたっぷりとしたボリュウムと柔らかさを存分にアピールする。

そこに空域封鎖をガン無視して報道ヘリが飛び込んでくる。

即座に被弾、爆発!

爆風圧を受けてジャンプの軌道がズレたタ級の眼前に正面衝突気味に飛び込んでくるブッシュマン。

「おおう」

ちょっと焦ったタ級はクルリと回転してブッシュマンの顔面にM字開脚ポーズで着地。

風防ガラスにお股を押しつける絵面となった。

睨み合うこと数秒、ブッシュマンのパイロットはおもむろに両手を打ち合わせたあと指を二本立て、ついで親指と人差し指で○を作り、最後に遠くを見るように手のひらを顔の前に翳した。

全宇宙共通のハンドサイン ぱん つー まる みえ である。

タ級は撃った。

 

その一部始終を最新の観測機器で記録していた男たちがいた。

「ババ・シリガスキのアダルトグッズとビデオの店」の敷地内に無断駐車したエレカに乗った二人組だ。

「由々しき事態だ」

紅いゴーグルの屈強な中年が唸った。

「反地球派があれほどの強化人間を保有していたとは」

「いかが致しましょうバスク中佐」

「我々のPS計画を大幅に前倒しする必要があるな」

二人を乗せたエレカは夜の町に消えた。

「これでよし」

アリバイ作りにコンビニの冷凍エビチャーハン(値上げはしないが10グラム減量している)を確保したタ級はタキテック駐車場の貨物用大型エレカの陰で瀧悠の姿に戻る。

「おねーちゃん!」

振り向けばショタ。

「おねーちゃんはおひめさまでまほーしょーじょだったんだね!」

 

真実は見えるか?

 

 

 

 

 




わたしはすきにしたもうおもいのこすことはない

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