クランバトル倶楽部、その観客席にて笑い声を上げ注目を集めている生徒がいた。
「にっははは!最っ高!!」
黒崎コユキ。
ミレニアムサイエンススクールの一年生にしてセミナーに所属する生徒。
そして、問題児である。
彼女はセミナーの立場でありながら、部費の予算などを横領して賭博に使うなどしてC&Cの生徒達に捕まるという問題を起こしている生徒。
そんな、彼女はまたも横領した部費を手にミレニアムを飛び出しこのブラックマーケットに逃げ延び、更には賭博場として有名なクランバトル倶楽部へとやってきた訳である。
そんな彼女は、早くもこのクランバトル倶楽部に入り浸り賭けに勝ち続けていた。
多くの金をつぎ込み、賭けに勝ちを続けていく快楽。
金額を膨らませていくその楽しさに、金がある裕福感。
それが黒崎コユキの心を大きくさせていた。
「こんな最高の賭場、なんでもっと早く来なかったんですかねぇ!ご飯も美味しいですし!」
ブラックマーケットとは思えない、安価な食事が提供されるクランバトル倶楽部の食堂。
その値段の安さから想像できないほどに、しっかりした味にボリュームと暫くはこの賭場を中心に生活しようと考える程に。
「お客様、ずいぶんと羽振りが良いご様子ですね」
聞こえてきた自分に向けられたと思われる言葉に振り向くと、そこには灰色のベストを身につけたここのスタッフらしき少女だった。
「誰です?」
「クランバトル倶楽部の治安維持をしている者です。お客様はとても儲けている様子ですから、会長のご意志でVIPルームをご用意しました。」
「VIPルーム!いいんですか!?」
「お客様は特別なお客様となりましたから。ご案内するのでついてきて下さい」
丁度賭けていた分の生徒の戦闘が終わったため、スタッフの生徒についていくと賭けを行う観戦ゾーンである体育館を出ると校舎へと向かう。
沢山の店が出る賑やかな場所から離れた場所、普段ならば恐怖を感じるかもしれない。
だがコユキはVIPルームに案内されていること、自分が特別な客だと言われ調子に乗っておりただ楽しそうにスタッフの後ろを着いて歩いていた。
「此方がVIPルームになります、教室を一つ丸々改造して作ったお部屋になりますので自由におくつろぎください」
そういいながらスタッフが扉を開ける。
コユキの目の前に広がっていたのは、一言で言えばファンシーな部屋だった。
モモフレンズと呼ばれるキャラクター、ペロロと呼ばれるキャラクターのシーツと布団がしかれたキングサイズのベッド。
ウェーブキャットが上から見下ろしているように見えるデザインのクローゼット。
アングリーアデリーの形をしたテーブルに、スカルマンの巨大なでかグルミ。
大きな冷蔵庫の上にはビッグブラザーが佇んでいる。
そしてベッドにあるモニターとゲーミングパソコンは、少し前の機種ではあるがかなりの高スペックなもの。
更には人をダメにすると言われるクッションがいくつも用意されていた。
一室にトイレやシャワールームらしき標識のある部屋に繋がる場所もあり、この一室で全てが完結していた。
「クランバトル倶楽部に滞在する際は、この部屋でお過ごしください」
スタッフさんに促され、コユキは部屋に入るとまずベッドへとダイブした。
「何ですかこれ!?ふっかふかです!!」
ミレニアムサイエンススクールから離れブラックマーケットへ来るのにはそれなりに疲れていたコユキは、ダイブした布団の柔らかさに顔を蕩けさせるとそのまま眠り始めた。
次の日、コユキは冷蔵庫に大量に用意されたジュースに歓喜しジュースを飲みながら人をダメにするソファに沈むと、やがて眠り起きるとまた眠った。
次の日、クランバトル倶楽部での賭けを楽しんだコユキはクランバトル倶楽部の食堂で食事を済ませると、そのまま施設内の銭湯に入り再び眠った。
そうして一週間ほどが経った頃だ。
「あー………ここは最高です」
コユキは、パジャマ姿から制服に着替えずVIPルームでだらけにだらけていた。
まず、時計を見ることもなくなった。
朝なのか昼なのか、それとも夜なのか。
食堂へ行けば食事はあるし、冷蔵庫を開ければ飲み物もある。眠くなれば寝ればいい。
クランバトル倶楽部に来てからというもの、コユキの生活から時間という概念が少しずつ消えていた。
最初の頃は起きれば制服に着替えていた。
しかし、それも三日ほどでやめた。
「ここミレニアムじゃありませんし、面倒ですし」
そう言ってからは、パジャマ姿のまま一日を過ごすようになった。
人をダメにするソファに沈み、片手には充電ケーブルに繋ぎっぱなしの携帯をポチポチと操作する。
テーブルには飲み終えた缶ジュースが並び部屋のパソコンにはやりかけのゲーム画面が放置されている。
ゲームをするためにパソコンを起動したはずなのに、途中で眠くなってソファへ沈む。
起きればまたゲームを再開する。
飽きれば携帯を弄る。
喉が渇けば冷蔵庫を開ける。
そして眠くなればまた寝る。
それを繰り返しているうちに、ゲームのプレイ時間よりも「ゲームを起動したまま寝ている時間」の方が長くなっていた。
セミナーとして働くことも、ユウカ先輩達に追いかけられることもない。
そしてなにより、毎日賭けをしなくてもVIPルームから追い出されない日々。
結果的に、コユキは毎日賭けを行うことはせず、部屋から出て少し賭けをして、勝っても負けても気にせずこのVIPルームに帰るという生活サイクルになっており、ほぼ部屋から出なくなっていた。
最初は賭けをするために部屋を出ていた。
しかし、賭けに勝っても負けても以前ほど興奮しなくなった。
なにせ、部屋に戻れば賭けの快楽以上の極楽。
もっと快適な時間が待っているのだから。
「そろそろユウカ先輩達にバレちゃいましたかね?もう、ここを離れた方が良い………」
そう呟きながら、コユキはクッションから動かなかった。
「まぁ、明日でいいですかね……今日は雨ですし」
そう呟きコユキは携帯をポチポチしゲームを続ける。
ちなみに、雨は降っていなかった。
「……ゲームのイベントがありますし」
これは、昨日のコユキの言葉である。
ちなみに、特に重要なゲームイベントではなかった。
報告にあるコユキの状態に、なり損ないは頷くとゆっくりサマーベッドの背凭れに背中を預けた。
「これなら、横領した金が大きく減ることは無いだろ。作戦は成功……というよりは順調か」
「確かにそれはそうですが……これ、帰らないってなりませんか?」
なり損ないの言葉に何とも言えない表情を浮かべるケイ。
「なに言ってるんだ、先生がいて信頼する先輩達がいる学園の方が良いに決まってるだろ、迎えやシャーレの先生が来たらすぐに帰るだろ」
「……」
何処かジトっとした目線に不思議に思いながら、シャーレにどう連絡するべきか考える。
以前にこっちには手を出すなと言う感じのメールを送って以来、メールは送っていない。
なんなら、シャーレよりミレニアムサイエンススクールの方へ連絡するべきなのだろうか。
ミレニアムサイエンススクールとシャーレ、どっちに先に連絡するべきか……連絡しても、信じて貰えるのだろうか
「恐らく彼女が部費を横領しミレニアムサイエンススクールから逃げ出した事には、学園側も既に気付いている筈です。既にC&Cが動いている可能性もあります、まずはミレニアムサイエンススクールに連絡しましょう」
「よし、なら良い感じに文章を作って送るか」
そういいながら膝にノートパソコンを用意し、監視カメラでコユキが賭けに勝って調子に乗っている所を切り抜いて添付する。
あとは、適当にAIにどんな文にするのかぶん投げてそれを参考に作るだけだ。
こっちにも、某AIチャットのような物があるとは驚きだ。
性能の方は間違いなくこっちの方が上だけどな。
それにしても、アプリ名がM.rktか……まさかな。
「頼んだぞ、AI。くれぐれも喧嘩をうるような文面にしないでくれよ」
「……本当に怠惰になりましたね、先生」
「ま、慣れないことしてストレス溜めるよりは良いだろ。」
前の俺なら、一つのメールを送るだけでも1日悩み続けていただろうし。
こっちの方が時間の節約になるだろ。
それに、あくまでも俺はドクターストップ状態だ。
これ以上は働く気はないね。
「悪いが、俺はまた寝る」
「……本当に、この人は」
そんなことを言いながらもケイの手にはタオルケットが握られている。
これ、シャーレの先生に見られたら本格的にろくでなし判定をくらいそうだな。
そんなことを思いながら、俺はサマーベッドに背中を預け目蓋を閉じる。
やがてやってきた暖かな日差しと眠気に身を委ねた。
ブラックマーケットの外れ、そこにはボロボロの汚れた黒い制服を着用した明るい髪色の生徒が立っていた。
「たく、ここまで準備を整えるのは苦労したぜ……」
コールサイン00、美甘ネル。
彼女はミレニアムサイエンススクールにて調月リオからの依頼でブラックマーケットへと来ていた。
依頼の内容は、黒崎コユキの捕縛。
そしてクランバトル倶楽部の周辺捜査である。
全てを壊して奪還した方が早いが、リオからの珍しい懇願だったが故にネルはしっかりと準備を進めた。
まずブラックマーケットにてボロボロの服を仕入れ、わざと汚れることで、問題を起こして学園を追い出され、スケバンや不良として暫く生活しているように見せかける。
次に3日、風呂に入らないことで底辺の不良を演じられるようにした。
正直な話、ネルにはそれだけの準備をした上で今日クランバトル倶楽部へと向かっていた。
こんな装いならば、行き場に困ってやってきた生徒を装える……そう思っていた訳なのだが。
「どーして、てめぇがここにいる?後輩」
「ネル先輩だけでは不安が残るとの事で、リオ会長から派遣されました。」
そう話すのは何故かトリニティ総合学園の制服を隠すように上着を羽織り、髪をゆるふわにセットしたパッと見はトリニティのお嬢様らしい姿に変装した指でピースサインを作る少女。
コールサイン04、飛鳥馬トキだった。
「なんでそんな服装なんだ。目的地はブラックマーケットのクランバトル倶楽部だぞ」
「はい、ですのでこっそりトリニティ総合学園を抜け出しストレス発散に賭けにきた生徒を装いました。これならば観客として潜り込めます」
「おまえな……」
まぁ、確かにそのような生徒に扮することも出きるだろう。
内心でネルは笑う。
クランバトル倶楽部の会長は恐らくだが、不良に甘い。
調べた情報から、ブラックマーケットで生きる不良を雇ったりしているとの情報もあるからこそ、深く潜り込める。
そんな思案であった。
ふと、ネルは初めてなり損ないを目にしたときの事を思い出す。
あのときは、ミレニアムサイエンススクールやキヴォトスを滅ぼすと宣言したアリスそっくりな少女を守ろうとしていたこと、先生と対峙していたことから戦闘に集中していた。
だが、あの時。
なり損ないが血を吐きながらも、あの少女を庇った行動。
血を吐いたあの大人の姿に、驚きや困惑そして深い心の傷からであろう狼狽を見せた、なり損ないを名乗る大人を先生と慕う生徒達。
自身が傷付きながらも、指揮し守ろうと立ち上がる大人の姿は何処かシャーレの先生に通ずるようにも見えた。
それと同時に、覚悟が決壊したときに顕になった奴の押さえつけていた感情の吐露。
何故、奴がシャーレの先生に対してあそこまで対峙するのか。
未だに分からなかった。
あの大人……本当に敵なのだろうか。
エリドゥではあの状況だからこそ、敵だと思っていた。
生徒に命令を出し、都合の言いように使う大人。
でも、それは違うのかもしれない。
そして、違うのはあのアリスそっくりな少女もだ。
後からチビども……要塞都市エリドゥを攻略してあの魔王を自称した少女の元へたどり着いたゲーム開発部。
その部長である花岡ユズ、そして才羽モモイやミドリ達は、あのときの戦いを違う視点から見ていたのだ。
クランバトル倶楽部へと潜入する、そんな事を何処からか聞いたのか現れたゲーム開発部の生徒からネルは話を聞いていた。
『あ、あのとき私達は……その、あそこにたどり着くように誘導されてるように感じたんですっ!その、上手くは言えませんが……』
『あー、なんかユズの言ってたこと分かるかも。なんかあのタコみたいな奴、ずっと同じパターンの攻撃しかしなかったり、攻撃も。学園で暴れられたときと比べてあんまり痛くなかったし』
『はい!まるでゲームで配置されたNPCのようでした』
彼女たちの行く手を阻むように現れた無名の守護者。
彼らは特に大きな怪我のない低威力の攻撃や決まったパターンの攻撃しかしなかった。
『それに最後、アリスちゃんの攻撃をあの子は武器を捨てて受けようとしてました……受けたら、きっと無事じゃ済まない筈なのに。キヴォトスを滅ぼそうとしてるなら、絶対にそんなことしないと思うんですっ!』
『それに、その……最初から、変でした。その、もしあの子が本当にキヴォトスを滅ぼすつもりなら、最初から何も言わずにやれば良かったと思うんです。』
──魔王である私を止められる可能性があるのは、私と“同等のスペック”を持つAL-19──あなたくらいでしょうが──
──三日後、魔王は玉座で待っていますよAL-19──
『態々出てきて、自分を倒せるのはアリスくらいーって自分から弱点を言っちゃってし。改めて思い返すと、あの子は本当にキヴォトスを滅ぼすようには見えないよね』
『うん、まるで闇落ちしたキャラが自分を止めて欲しいみないな感じ』
あの大人と大人の側にいる生徒や、あの大人が連れ帰った名もなき神々の王女の目的。
何を考えてあのような行動を起こしたのか。
分からない部分の多いあの事件について、少しでも手がかりになるもの見つけられたらよいなと思いながらネルはため息をついた。
「はぁ、足を引っ張んなよ後輩」
「おや?わたくしに何か文句でもおありですか?それに、いきなり後輩だなんて……初対面の方にしては、随分と馴れ馴れしいのですね?」
「はぁ……ずいぶん凝ってるのな。んで、潜入すんときの名前は決めてんのな?」
「わたくしは一之瀬みのりです、お見知りおきを」
「んじゃ………アタシは元キュアキュアヘルメット団所属の北城ヒビキだ、お嬢様」
「まあ、北条さん。元キュアキュアヘルメット団ということは……随分とまあ、物騒な学生生活を送っていらしたのですね?貴方と違いわたくしはか弱いものでして、怖くて泣いてしまいそうですわ」
「……喧嘩売ってんのか?」
「いえいえ?ただ、わたくしのような一般的な学生には少々縁遠い世界だと思いましてー」
「お前、絶対楽しんでるだろ」
「気のせいでは?」
ネルとトキ、ふたりは他人を装いながらも同じクランバトル倶楽部へと向かって歩きだした。
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