自分を英雄だと勘違いしている元男がダンジョンに潜るのは間違っている 作:札幌53位
─────心せよ。其は惨禍の宴。
「カサンドラ様、離してください!」
「ダメです、ダメなんです……!27階層に行っては!」
この人なら、【ヘスティア・ファミリア】で最も切れ者の
「カサンドラ、何を言ってるのよこんな時に!?」
「何があっても……」
行かせるわけにはいかない。25階層にさえいれば、この人たちは厄災から逃れられると、その為に、自分たちが行かなかったばかりに、自分たち以外の冒険者たちが犠牲になったのだと。
だが。無情にも──────ダンジョンは、その口を開け、犠牲者を増やさんと欲していた。
「なんだこの揺れは!?」
「この揺れ、まさか………」
「おいリリスケ!どうなってんだ!?」
「あり得ません!確かに確認しました!!」
広がる混乱。当然だ。少し前に、
出現するはずがない。だが、冒険者たちの経験はそれを真実だと認めてしまう。
「あれが生まれるまで、あと半月は──────」
「もうそんな常識は通用しないってのかい……」
経験豊富な【
「さっきの悲鳴みたいな音に、すごい爆発……もう私たちの知ってるようなダンジョンじゃないってことさ。」
戦慄しながら、リリルカ・アーデが呟く。
「この時期に、産まれるはずのない階層主が産まれる可能性も………あり得る。」
揺れが激しくなり、岩が剥がれ、滝壺に落ちていく。
青ざめたアイシャ・ベルカが悲鳴のように叫ぶ。
「やばい!走りな!!」
「え?ど、どういうことです……?」
事態を把握できていない
「走ってください!早く!」
赤髪の
「昇ってくる……!お前ら離れろォ!!」
「カサンドラ、立って!ほら早く!」
だが──────津波と共に現れた、圧倒的な脅威。
『オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
極大の轟音が、『水の
27階層、『
「あれが……下層の階層主。」
17階層のゴライアスに次ぐ、二体目の階層主。水晶龍とでも言うような、神々しくもある玉体。二つの頭を持ち、四つの瞳を紅く輝かせる怪物。
その威容に、『派閥連合』の冒険者たちは戦慄した。
「アンフィス……バエナ。」
まだ、終わっていない。カサンドラは自身が夢に見た預言が、未だ完結を迎えていないことに気づく。
「………で、でも。」
予知夢が示した、
次の苦難は、未だ訪れていない。
(約束してくれた……必ず、来てくれる─────)
『オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
アンフィス・バエナが咆哮と共に青白い炎を放つ。天に向けて放たれたその炎は、一瞬にして滝壺の水を蒸発させ、あたりに蒸気を振り撒く。
あわや、その蒸気を吸ってしまった者は咳き込み、喉の焼ける激痛に悶えることとなる。
「ぐっ……!口を塞げ!喉が焼けるぞ!」
「チッ……熱苦しい!
熱く、握るだけでも痛むようになった剣を握り締めながら、アイシャは文句を言う。それもそのはず。冒険者にとって、武器を持てない状況ほど致命的なものはない。
「一旦退くよ!」
「っ、しかしまだベル様が27階層に!」
「あいつには【
アンフィス・バエナと戦うには、圧倒的に頭数が足りない。アイシャは早々に逃げ出した24階層の冒険者たちを想い、憎々しい表情で美しい顔を顰める。
せめてこの場に、ベル・クラネルがいれば────『英雄』がいなければ、このパーティは立ち行かない。
(……クソが、いつから私は雄にしなだれかかるような弱い女になっちまったんだい!?英雄がいないなら、私がなればいいだろう!)
逃げ出しながらも、理想と理性がせめぎ合う。勝算は無いに等しい。Lv.3が数人増えたところで何だ?Lv.5が1人いたところで、どうにもならないのは分かっている。
それでも、アイシャには──────カサンドラには確信があった。
((1人でも支柱がいれば、勝てる))
と。だが無情かな、ダンジョンは悪意をもって冒険者たちを追い詰めていく。
降り注ぐ結晶。死ぬ気で走れと号令が出るも、
「あっ!?」
階層主は、隙を晒した愚かな弱者を見逃さない。
蒼炎が転んだ春姫を焼き尽くさんと迫る─────が、大盾を構えた
「ぐっ………!?大丈夫か!?」
「
ラムトンの猛攻撃にさえ耐えた盾が、こうもあっさりと破壊されてしまうという恐怖。おそらく、次は耐えれないという確信。
冒険者の中に、さらなる戦慄が走る。
だが、彼らの中には確信があった。
連絡路を通り、『大樹の迷宮』にさえ逃げ込んでしまえば、あとはどうにでもなると。
少なくともアンフィス・バエナの脅威からは逃げられる上に、この
────その淡い希望さえ、ダンジョンは奪っていく。
ばきり、と軋む音が響き渡り、それは連鎖し、一片の木片が水面に落下したことを皮切りに、轟音となって降り注ぐ。
カサンドラはさらに絶望に満たされる。
預言が一つ、叶ってしまった。
「────『絶望の檻』。」
アンフィス・バエナが吼える。推定レベルは6。地上戦でなら5まで落ちるが、今この場において状況を打破し得るものはない。
「この鳥籠に突然現れた階層主……まるで、ダンジョンが自分たちを殺しに来ているかのような……」
「分からん……だがもしそうだとしたら。」
絶望と諦観が伝染していく。だが………諦めていない者がいた。それは、本来であれば気弱で、真っ先に諦めていたであろう人物。
しかし彼女は、「約束した」という事実を頼りに立ち上がる。
「まだ、諦めるには早いんじゃないでしょうか……!確かに、状況は絶望的……ですが、ベルさんやアエルテスさんは……きっと必ず来てくれます!だから、抗いましょう!」
「そいつの言う通りだよ。腹くくりな!どうせ逃げ道はないんだ。やるしかない……私はもう、くくった。」
戦うしかない。冒険者ならば────今この場において、わずかにでも抵抗する力を持っている者ならば。
だが。
(士気もない、力もない……これじゃ無理だ……)
唯一やる気のカサンドラでさえ、他力本願である始末だ。この場に、真っ向からアンフィス・バエナを打倒してやろうと言う気概のものはいない。
そもそも────アイシャ本人でさえ、勝敗を危ぶんでいるのだ。自分すら信じられない者が、どうして他人を信じられようか。
誰か、柱を。
精神の柱を──────そう、切望した時。
ドンッ!!と、大刀が岩に突き刺さる音が鳴る。
「リリスケ、初めてだろ?ベルがいない冒険をするのは……」
リリルカ・アーデは目を見開き、そして理解する。それと同時に、
この男は──────いや、このふてぶてしく唇を吊り上げる
「そろそろベルを見返してやらねえとなぁ!俺たちだけで階層主を倒してやったって!」
それは、意地でもあり……自棄にも似た叫び。
ともすれば蛮勇である。だが、勇気は勇気だ。例えこの選択が悲しい程に意味をなさなかったとしても、ヴェルフ・クロッゾは誇るだろう。
「強い奴がいないと戦えない?」
ヴェルフの声に、冒険者たちは武器を握り締める。
「英雄がいないと立ち上がれない?」
春姫も、千草も、己に出来ることをするのだと。立ち上がり、前を見る。
「──────違うだろ。そうじゃないだろ、冒険者ってやつは。」
アンフィス・バエナへと挑む。
*
初めに動いたのは、春姫であった。
自身の持つ秘技。【
魔法の発動こそが、何よりも重要な至上命題。
「『愛しき雪、愛しき
「
続けて動いたのは、ヴェルフ。蒼く染まった魔剣を湖面に放ち、湖を一瞬で凍結させる。
この局面における、唯一の正解。考えはなかったわけではない。だが、相談する暇も時間もない状況において、ヴェルフが取ったのは足場の確保。
奇しくも、その行動がこの場における最適解であるとは、後にも先にも語られるだろう。
『オオオオオ──────ッ!!!』
だが、アンフィス・バエナもただやられるばかりではない。
即座に放たれる
「氷が簡単に溶けるかよ……!」
はるか昔、とある賢者が尋ねた。
『炎魔法と氷魔法、どっちが強いのか?』と。人々は大いに論争を繰り広げたが、決着は付くことはなかった。
だが──────この場で、その答えは証明された。
「炎で打った氷が、弱い筈がねぇ!」
「上々だよ、【
溶け始めた氷は、「島」となり、アイシャの最も手馴れた地形へと変化する。
『ッ!?オオオッ!!』
突如迫ってきた特大の魔力に、アンフィス・バエナの四つの瞳が向けられる。だが、反撃に転じるにはもう遅い。
『─────ッ!!!』
蒼炎が吐かれるも、アイシャはすんでのところで回避し、凄まじい熱に顔を歪ませながらも叫ぶ。
「【ヘル・カイオス】!」
空間を裂き、突き進んでいく斬撃。少しでも防ぐため、アンフィス・バエナは蒼炎ではなく────『紅の霧』を放つ。
防御を選択した竜に、死角はない。
「なっ……!?」
かつん、といった軽い音が竜鱗から鳴る。それが意味するのは、アンフィス・バエナ、未だ健在ということのみ。
だが、アイシャ・ベルカは狼狽えない。初めから解っていたことだ。
「分かったろう!奴を殺すには、近づいて殴るしかない!」
攻防一体。凄まじいまでの巨躯を有しておきながら、神々からして「セコい」と言わしめる能力。これこそが、この先も続く『下層』の階層主──────アンフィス・バエナの真の能力。
「あれじゃあ、魔剣も大して効かないな……」
ヴェルフは皮肉そうに笑う。己のプライドと仲間の命を天秤にかけ、仲間の命を取ってまで打った『クロッゾの魔剣』。それでさえ、致命打になりはしないという事実。
だが、そんな風に悲観する暇をアンフィス・バエナは与えない。
「『大きくなぁれ』────【ウチデノコヅチ】!」
「ヴェルフ様、
リリの指示通り、
前衛と中衛の強化は必須。代わりに、切り札となりうるLv.4のアイシャへの強化はないものとした。
実際、リリルカ・アーデの判断は迅速であった。
「うおおおおおおおおっ!!!!!」
レベルが上昇した冒険者たちは駆け出す。大幅な
雄叫びをあげ、恐怖を掻き消し、勇気を振り絞り、力を解放する。
『ウオオオオオオオオオ!!!!!!!』
『アアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
「っ!?」
アンフィス・バエナの双頭殴打だ!当たれば死ぬ!
同時に三人同時に撃破されかけた冒険者たちは、口々に震慄の声を上げる。
通常、動物には必ず死角が存在する。だが、アンフィス・バエナに死角は存在しない。なぜならば、頭が二つあるからだ。
「っ!しまっ……」
否──────そうはならない。
「気を付けて!」
「ダフネ殿…かたじけない!」
優れた状況判断で
「無茶言うけど、早く慣れて。私も何度も助けられないから。」
「は、はいっ!」
立ち上がった
(……アエルテス殿から聞いた伝説。彼らは、皆命を賭して、回復魔法もないというのに死力を尽くし、己の不利な環境で戦い続けた。)
ならば、自分は恵まれている。
この場には、頼れる仲間も、回復してくれる頼もしい戦友もいる。であれば、自分が諦め、折れることはない。
「命を燃やせ……心を燃やせ!自分は【タケミカヅチ・ファミリア】の
睥睨してくる竜の瞳に気圧されないよう、自分を奮い立たせ、再び飛び掛かる。前と左右、三方向の同時攻撃だ。
援護に加わったアイシャにより、
「くっ!?」
余りにも硬い装甲。攻撃がまるで通らない。
そのまま振り回され、防具を傷だらけにされる
だが、アンフィス・バエナから離れるということは──────即ち、蒼炎の襲来を意味する。
「〜〜〜っ!!!??!」
再度放たれた
「息苦しいっ……!?」
蒸発した水による、圧倒的な水蒸気だ。もはやここは、地獄における釜茹で地獄にすら匹敵するほどの温度。
分かりやすく説明するとすれば、熱が籠り、決して出れないサウナと言ったところか。その苦痛は耐え難く、致死的である。
『グアアアアアア!????』
「チッ、浅いか。」
だが、前衛では。
アイシャがLv.4の貫禄をもって、アンフィス・バエナと格闘していた。突然、相手が自分より格下だからと言えどもアンフィス・バエナも無傷ではない。
硬い竜鱗の隙間。その間隙をついて出血させる。
「っ、まずい!?」
目の色を変えたのはダフネ。水中に潜り始めたアンフィス・バエナ。予測されるのは─────まごうことなき、突進だ。
通常、巨大モンスターと戦う際はノーモーションタックルにこそ警戒をおくべきである。だが……わざわざ力を込めた一撃こそ、絶体絶命の技だ。
『オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』
「うおおおおお!!!?!」
かろうじて回避できた冒険者たちを、追撃する津波が襲う。ダメージは少ない。だが、彼らを怯ませるには充分だった。
その隙を逃すほど、アンフィス・バエナは甘くない。再度潜り、突撃を敢行してくる。
もう駄目だ。
間違いなく死ぬ。少なくともこの中の誰かは。
誰かがそう思った時──────カサンドラ・イリオンの口から、小さく声が漏れる。
「……助けて、アエルテスさん…」
声はアンフィス・バエナの方向にかき消され、どこかへと消えていく。やはり、誰もこないのか。嘘だったのか、ただの元気付けだったのか。
一瞬、そう考えて──────直後に起こった光景に、目を見開く。
「おおおおおおおッ!!!!!!!」
大きくよろけたアンフィス・バエナが突進を中断し、新たに現れた敵を睥睨する。
「────待たせたな。」
その少女は、黄金の炎を立ち昇らせていた。
その少女は、黒き炎を剣に纏わせていた。
その少女は、金色の髪を靡かせ、不敵に笑っていた。
「もう大丈夫。なぜって─────俺が来た。」
カサンドラとの約束が、ついに果たされた。
◆◆◆◆◆◆
「アエルテスさん!」
俺の背後から、カサンドラの喜ぶ声が聞こえてくる。皆の姿を見ると、ボロボロでところどころ火傷をしている。
「お前たち、よく頑張った……あとは俺が守る。」
現在、俺は魔法の連続使用の反動で身体が動かしづらくなっている。と言っても、魔法の行使ごとに一瞬麻痺するぐらいだが。
それよりも重篤なのは、短時間での【フォルネス・イグニオン】大量行使による精神汚染の方だ。
この間のモス・ヒュージの件しかり、【フレイヤ・ファミリア】での一件しかり、ついさっきも、使いまくっていたしな。
そして今もだ。なぜか発生していた大樹の檻を破壊するために、黒炎を使いまくったのだ。
(……ディックス、俺に力を貸してくれ。)
精神汚染の影響で、俺の心は冷え切っている。共感性などの部分や暴力性が最大限まで強化されている。
だいたい、ヘイズさんに指摘されたのと同じぐらいの侵食度だろうか。
「俺のことを好きにできるのは、俺だけ……か。」
黒く燃えるフレイモスを握り、リリの方を向く。
リリは目算が立ったのか、作戦を伝える。俺が一撃与えたお陰で、アンフィス・バエナは警戒し、俺の一挙手一投足を観察している。
「アエルテス様には、一番大変な役割をお願いします。」
「構わん。その為にここにいる。」
「………先程のように、アンフィス・バエナの攻撃からリリたちを守ってください。こちらの攻めの要点は、アイシャ様です。アエルテス様は注意を惹きつけ、その──────」
「囮役はもちろん俺が行く。」
言い淀むリリに、俺は言葉を重ねるように言う。もちろん、英雄スマイル込みでだ。
その言葉に、リリは覚悟を決したのか、ぺこりと頭を下げて伝える。
「アエルテス様、耐えてください。」
「任された!」
再び戦いが始まる。俺は既に駆け出し、アンフィス・バエナを斬りつけている。
Lv.5のステイタスによる無茶苦茶な特攻だが、刺さる時は刺さる。
『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
「む。炎が弱まってる……なら、追加で燃やせるな!『我は光、我は終。汝が炎抱く限り、全てを灰に帰さん。我を包め、光封の鎧』─────【リュクシオン】!」
アンフィス・バエナが吐く『紅い霧』を無理矢理相殺し、少しでも他の魔法の通りを良くする。
確か、こいつの霧には魔力減退効果があったはずだ。アイシャの激ヤバ魔法の通りが良くなれば、効率良くなるだろう。
「大盤振る舞いだぜ。『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』─────【フォルネス・イグニオン】!」
『ッ!?オオオオオッ!!!?』
「効いてる効いてる!ヒャハハハァ!喰らえ卑劣斬り!ちっ、浅いな!」
袈裟懸けに二連撃を叩き込めども、デカすぎる身体に阻まれて攻撃が通りにくい。
「『掛けまくも畏き──────』」
「この声は……
走ってきていたヴェルフとダフネを狙う竜頭の攻撃を受け、返す刀で斬りつける。どうやら、頭が2個来ていたことに気付いていなかったのか、ダフネが青い顔をしている。
「すまん!」
「これが仕事だ。気にするな!もがっ」
蒼炎が俺を包む。ブレスの存在を完全に忘れていた。だが、問題ない。炎に対抗するのは、水でも氷でもない。
より強い炎だけだ。
「ははははは!!!楽しくなってきたなァ!!!」
自身を燃やす炎を
「オマエの得意でやってやろう。」
ブレスが止む。アイシャと
「チャージ充分!オーバードライブと行こうじゃねえの。」
アンフィス・バエナの蒼炎と、俺の黒炎と金炎。全てが集約された、至極の一撃。
全身に走る痛みと、痺れるような感覚。だが、俺の身体は動く。動かせる。俺の中に流れる、黒い情動のままに、叫ぶ!
「
魔法に依らない、
『ギャアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』
「へえ、賢いな……」
俺が狙ったのは蒼炎吐く竜頭だったのだが、実際に貫かれたのは赤い霧を吐く方の頭だった。致命傷は免れたのか、霧の方は少し辛そうにしている。
こんなバケモノでも、血が出るし生きている。ならば、それに則ってしっかりと殺せばいいだけの話。
「『払え平定の太刀、征伐の
『ッ!オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
『アアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』
蒼炎は効かず、むしろ己が焼かれ、埒が明かないと悟ったのか、再びアンフィス・バエナが潜行する。俺も水の中に潜り、自身の火を消してから水中の岩を蹴り、跳び上がる。
『!?』
「よう。」
Lv.5の膂力でアンフィス・バエナを押し出し、
「─────『神武闘征』!」
「今だ!やれ、
「【フツノミタマ】ッッ!!!!!!!」
ぐん、とアンフィス・バエナに重力の負荷がかかる。
だが──────それだけではない。頭上から降り注ぐ木片。この湖を塞ぐ、木の根の
『ウッ!?』
巨大な木のハンマーで頭をブン殴られたのと同じだ。突然、やってくる結果は─────
「今です!」
リリの号令と共に、俺たちは一斉攻撃を仕掛ける。
乱打される攻撃が竜鱗を削り取り、竜の体を傷つけていく。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?』
思わずアンフィス・バエナも絶叫。だが、それは同時にモンスターを呼ぶ声でもあったのだろう。
無茶苦茶に暴れる竜から皆が遠ざかった後……複数の蛇の頭が水面から飛び出す。
「アンフィス・バエナは俺が抑える、雑魚は頼んだぞ!」
「ったく、頼もしいったらありゃしないよ!」
アイシャに軽口を叩かれながらも、俺はアンフィス・バエナの攻撃を受け続ける。背後では、カサンドラの必死の回復が『派閥連合』の冒険者たちを癒している。
無論、俺はその外側にいるのでその恩恵を受けることはできない。
『……………。』
「ブレス撃とうってんだろ……やってみろよ。」
『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
アンフィス・バエナは、俺一人であれば大した敵ではない。無論、同格かそれ以上であるので、強敵ではある。
だが、脅威にはなりえない。ブレスも鈍重、躱しつつ炎を徴収し、身体に刃を突き立て、爆発させ、殺す。
実に簡単な敵だ。
だが──────この状況。護るべき仲間がいる、この状況においては。
「厳しいね……こっちに来い、炎!」
俺のスキル────【
「っ、づぁ……!
アンフィス・バエナの蒼炎は、俺の高い火炎耐性であろうとも無効化出来ない。というより、すごくしんどい。
俺の装備は火炎に対する非常に高い耐性があるが、それでも、俺の【リュクシオン】でギリギリといったところだ。
それ以上の火力であれば、しっかりと通ってしまう。
(熱い、熱い熱い熱い、痒い!すげぇ痒い!)
喉を開ければ喉が焼けるので、俺は黙って蒼炎を受け続ける。無論、フレイモスに一部吸わせてはいるが、それでも所詮は剣だ。防げる箇所には限度がある。
「っ、げほ。げほ!止まっ、た……ッ!やば……」
俺が大人しくなったのを確認し、アンフィス・バエナは再びリリたちのいる方へとブレスを吐こうと大口を開ける。
妙な液体────恐らくはガソリンで燃えている蒼炎を俺は未だに身に纏ったまま、即座に駆け出す。
「しまっ……避けろ千草ァ!!」
「だい、じょうぶ!俺が、いる!千草、俺の後ろで息止めてろ!」
ブレスが放たれる。再び俺の全身を焼く蒼炎。だが、幸運かな。【
むしろ、それが無かったら今頃焼け焦げて死んでいるはずだ。
「っ、あが……!」
ブレスが終わる頃には、身体の前半分が焼け焦げていた。だが、煤っぽくなっているだけで損傷は軽微。顔がちょっとグズグズになったぐらいだ。
「今だ……
「『絶華』!!」
俺を焼くことにかまけていたアンフィス・バエナの首を、
『オオオオオオオオオオオオオオッ!?』
「………マズいな。」
ダメージが回復されていく感覚を感じながら、俺は同時に危機感を覚えていた。
『派閥連合』の中に、明確に「油断」が生まれている。自分の登場により、事態は確かに好転した。それは事実だ。
だが──────あまりにも、あまりにも痛みが足りない。
『──────』
「怒り状態か……ごほっ、おい……おまえたち……」
目を血走らせるアンフィス・バエナの状況を報告しようと、振り返り、俺は察する。
皆、目の前の敵に必死だった。アンフィス・バエナは俺が抑えるという信頼が、今は皆を追い詰めていると、気づいてしまった。
「……ぜんいん、衝撃に……そなえろ!!」
グズグズになった喉から、なんとかして声を振り絞り、叫ぶ。喉奥から血が漏れる。顔の半分は再生が終わっているが、中身がまだだ。
すでにアンフィス・バエナは大瀑布を昇っている。
「おまえも、舞うか!」
少しでも。少しでもその勢いを削ぐため。
俺は走り出し、落下してくるアンフィス・バエナに向かって跳び上がる。
「『我は闇、我は始。星なき夜の底より来たりて、黄昏を齎さん。全てを呑み込め、終末の黒焔』………」
姿勢さえ崩してしまえば、その威力は軽減される。
たかがドラゴン一匹、このアエルテス……伊達じゃない!
「【フォルネス・イグニオン】ッ!!!」
腹部を貫き、黒炎を滾らせ、ぶつかる。
質量対質量であれば。当然ながら、俺が負ける。そして、事実そうなった。
だが──────姿勢は、大きく崩れた。
「うおおおおおおおおお!!?!!?」
混乱する冒険者たちの声が聞こえる。俺はすでに湖の下だ。
(……
数発、攻撃を受けたのか血を流している。だが、俺が助けに行こうとすると──────
(なるほど……分かった。武運を。)
だから俺は
水面から上がると、アンフィス・バエナが蒼炎を吐きまくり、暴れ回っている。俺が護るべきは───リリたち後衛だ。
跳び回り、蒼炎を躱しながら後衛組の前に立つ。
「アエルテス様!?」
「熱に備えろ……ゴライアスのマントを被れ!」
だが──────耐えられる。痛みも、怪我も、我慢すれば治る。今までそうだった。だから、これからもそうだ。
「アエルテス様は!?」
「心配するな。俺を信じて、ドンと座ってろ。」
フレイモスを地面に突き立て、悠然と立つ。この行為に、意味はない。
どうせ喰らうときは同じだ。けれど、けれどもだ。
「
直後。俺は最大火力の蒼炎に包まれた。