ツィーペリア戦記   作:ごまふそば

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――いずこにて。

此岸より。


――町はずれの墓守

 

――君は、月に寄り添う白い朧げな、白い雲を見た。

 

その白霞の幽鬼のような女はまどろむように細い三日月を眺めていた。

 

雲のように流るる夜闇に尚生える黒髪に白皙の美貌。

 

屍蝋じみた真白の肌に、なお白妙の真白のような和装の女。

 

作り物じみて、ぞっとするように美しく恐怖を覚えるほどであった。

 

何らかの神威の萌芽。象牙をさらに冷たくしたかのようで。

 

まるで誰かの初恋を奪い閉ざす、ゾッとするような

 

如月に薄着と裸足で過ごすような――危うく、儚く

 

「名も無き引退者。墓守。もう、それで善い」

 

「私は、あまり口数の多い方ではなかった。端的に頼む」

 

「赤い鳥の騎士、か。

 知らぬが知っているよ。白い姓の私とは鏡写しのような男だ」

 

「冒険者としての私は己と指環と杖くらいしか取り柄がない不器用者だが」

 

「――アレは何だろうな」

 

「己が身を焼き焦がすほどの激情、より旧き炎そのもの。そう表現すべきか」

 

「私は死体を守り死に臨み、屠り弔う埋葬者だが、アレは死体を作る」

 

「危険な男だよ。夜道に、口笛を吹くような無謀と蛮勇」

 

「きっと――己を一番殺したいからこそ、

 死に物狂いで他者に挑み殺しに掛かるのだろうな」

 

「死に損ないには分からない事だが断片的には」

 

「己もそうであるから分かる。出身地を追われたが故に」

 

「アレも一度追われたか。或いは逆に閉ざされたか」

 

「私にだけは分からぬよ」

 

そう被りを振って。

 

「――後はあの子に聞けば良い」

 

「何故に私をそうまで慕うかは皆目見当不明だが、無邪気で悪い気がしない」

 

「例えるなら墨流しの蝶々かな。私の、ではないが、

 ――皆の妹みたいな子だ。少し危うく、気が触れているが優しい子だ。

 今の君に似てる」

 

「一度、逢っておくと良い。君は、見た方が良い」

 

「――どうか、あの子のことを、よろしく頼むよ。君になら託せる」

 

そう、折れ目の付きそうになった和紙を、慌てて伸ばす稚児のような――

 

――らしくもない不器用な笑みを浮かべて、

 

女はまた月に目を向ける事はなく、そっと地の墓石に触れた。

 

――精緻なガラス細工が歩き回るかの如き異形。存在しない女

 

その所作は美しく、か細く、羨望と哀切に溢れ、

死と絶望こそが己の寝所で故郷であると言うような、悲嘆と慈悲に満ち溢れていた。

 

恋に落ちたいとそう思った。もう何処にもいない、

 

初恋の薄のような、まるで如月にまだ残る――枯れ尾花じみた女であった。

 

 

――夜の底根の彼岸に満ちた、束の間の夢は懐かしく。

 

まどろみはきっと夜の底へと消えゆくのみで。





今宵は三日月、刻の如月に弦月落ちた死線の君に捧ぐ望郷歌。
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