生粋のE.G.O.I.S.T   作:ペスト医師団

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紺青の夕暮『第二の誕生』

 

 

 

 

 

 

 

 

紺青の夕暮

 

第二の誕生

 

満たされているから。未知の響きへ耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紺青の夕暮

 

第二の誕生

 

満たされているから。未知の響きへ耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しこわばった顔で廊下を歩くオフィサー。

 

 EGOの整備に注力する福祉チーム。

 

 真剣な顔で話し合う懲戒チーム。

 

 延々と会議を続けるコントロールチーム。

 

 今日の会社は、目に見える形ではないけど、忙(せわ)しない雰囲気が漂(ただよ)っていた。

 

 というのも……。

 

「来たか」

 

 扉の開く音が、何重にも重なって聞こえる。

 

 これは、紺青の。

 

『コントロールチームから全職員へ通達します。試練が始まりました。色は紺青。時は……ゆ、夕暮』

 

 アナウンスと同時に、第一種警戒態勢(ファーストトランペット)が鳴り響いた。

 

 夕暮の試練。

 

 本社(ゲーム)でも一種の関門とされてきた敵たちであり、夕暮を越えることは、大きく、そして戻ることのできない変化を意味する。

 

「始まったね。こ(・)の(・)支(・)部(・)で(・)抽(・)出(・)が(・)始(・)ま(・)っ(・)て(・)以(・)来(・)、最初の夕暮だ」

 

「……えっ?」

 

「知らなかった? 試練っていうのはアブノーマリティやE.G.Oの抽出によって生じる、いわゆる副産物として出現するものなんだよ」

 

 いや、そっちじゃなくて……。

 

 ただ、その違和感を追及することはできなかった。

 

「そんな豆知識はいいとしてさ、いまは緊急事態なんじゃないのか、チーフ? 行くなら早く言ってくれ、このままじゃガリナちゃんが立ったまま気絶しちまうよ」

 

「そ、そんなビビリじゃないですっ! ……ま、まあ? 早く鎮圧を終わせたいのは間違いないですけどね? め、面倒くさいですから!」

 

「そうだね。戦ってたほうが恐怖も紛れるだろうし……ガリナちゃんのためにも早く試練を探さなきゃ」

 

「だから、ビビってないですって!」

 

 やわらかい雰囲気の福祉チームの面々に俺もすこし緊張がほぐれる。これが別のチーム、たとえば懲戒チームだったら…………クロイー、バレル、頑張ってくれ。

 

 俺はこの試練にけっこうびびっていた。なにせ、一つ一つの個体こそWAWクラスとされている夕暮の試練だけど……。

 

「……おでましか」

 

「何ですか、アレ……。本?」

 

 試練自体の危険度は、ALEPH(最悪)レベルだ。

 

 廊下上空、天井を埋め尽くすほどの大量の本が、こちらへ飛び向かってくる。

 

「よりによってボク達の苦手な『数』か。二人とも! どうにもならなかったら訓練通りに!」

 

「了解!」

 

「は……はいっ!」

 

「え? なんの話です?」

 

「アスカはいい!」

 

「え、ひどい」

 

 ほんとうになんの話?

 

 ……いまはそんなこと考えてる場合じゃない。『道連れ』を振り上げて……。

 

 下ろす。本が二冊、ただの紙束となって霧散した。同時、メイベルさんが掲揚の旗で、そしてガリナが蝉時雨の焦燥で、何冊かの本を散らした。だけど……。

 

 焼け石に水、その本の数は多すぎた。物量は本社(ゲーム)の琥珀の夕暮(食物連鎖)レベル……いや、それ以上か。

 

 こういった大量の敵には、例えばハンターさんやバレルの装備してる『榴弾』とかの、範囲攻撃EGOが有効なのだろう。

 

 福祉チームでそんなEGOを持っているのは……。

 

「うお、らぁ!」

 

 敬服のメイスが、そのサイズに見合わないほどの轟音を響かせる。

 

 直接振り下ろされた本の装丁(そうてい)が剥がれ、紙もびりびりと破れ、散る。その本だけじゃなく、轟音とともに放たれた圧倒が、部屋中を飛び回る本たちを撃ち落とした。

 

 メイベルさんが口笛を吹く。

 

「ひゅう。初撃で『圧倒』を引き起こしたか。感応初期訓練の成果が出てるんじゃない?」

 

「ただの偶然っす、頼りにはしないでくださいよ! それに……」

 

 パーカーさんの舌打ち。そう、全部の本が倒れたわけじゃない。

 

 敬服の圧倒で床に散らばっても消えず、また飛び立って俺たちに……。

 

「う、うがあああ、こうもウジャウジャいると大きくても気持ち悪いぃぃ!」

 

「一匹一匹倒せはするけど、キリがな……くっ」

 

 一冊の本が顔に張り付く。視界がページで覆われた。そして、頭のなかになにかが流れこむ。

 

 ──それは何かの情報だ、見知らぬ雑貨店の写真だ、モノクロのホームビデオだ、親しい電話だ、快い雑談だ、料理の経験だ、単なるひらめきだ。

 

 情報量が脳を圧迫する。意識がクラッと揺らぐ。

 

 混濁。理解不能。……苦痛。

 

「『──苦しみ(そこ)が俺の居場所だから』」

 

 途端、頭がクリアになった。顔の本を手で引きはがし、さらに張りつこうとする本をハンマーで消し飛ばす。

 

 いまのは『道連れ』による侵蝕だろうか。……まあ、いつも通り。これなら、ある程度の攻撃は……。

 

 ──全身の毛が総毛立つ。

 

「は?」

 

 E(・)G(・)O(・)が(・)蠢(・)く(・)気(・)配(・)が(・)三(・)つ(・)あ(・)る(・)。……と、思った。

 

 驚く。その気配が俺の装備じゃないことと……俺がEGOの気配を感じ取れたという、その事実に。

 

 いままでも、同じような気配を無意識に感じ取っていたのか?

 

 EGOへの能力が成長したのかもしれない。いままでだって俺は、EGOを扱う能力を強くしていったから。人間じゃないと思えるくらいに。

 

 ……それとも、これは。EGOの気配じゃないのかもしれない。

 

 それを見て、そう思った。

 

 『人(・)間(・)の(・)気(・)配(・)』。

 

「『こんな蝉時雨で、私に巣食う焦りが消えるのなら』」

 

「『敬服しろ。身動(みじろ)ぎも許さない関心に……押しつぶされていくんだ』」

 

「『この青空に、自分だけの旗を掲(かか)げる!』」

 

 ……三人が、侵蝕現象を起こしていた。

 

 ガリナは、見たこともない速度で『焦燥』を連射して。

 

 パーカーさんは巨大になった『敬服』を両手で振るい、大量の本を打ち落として。

 

 メイベルさんが『掲揚』を振るうと、二人の攻撃はさらに苛烈になっていった。

 

「うう……早く終わって。終わってよ、なんか、なんか気持ち悪い……」

 

「スッゲ! スッゲ! こんな強くなるとか!」

 

「……メイベルさん?」

 

 事情を知ってるはずだと、その人を呼んだ。メイベルさんは笑う。

 

「ははは! 実地検証成功! アスカ、キミのおかげだ!」

 

「え……」

 

「E.G.Oへの感受性を高める……E.G.Oを強化するのに重要なことは、ただE.G.Oを受け容れることだけじゃなかった!」

 

 そう俺たちが話している間にも、ガリナとパーカーさんは鎮圧を続ける。扉の向こうから無数にやってくる本たちも次々と倒され、群れの数はだんだんと減っていった。

 

「逆説的であり……しかしながら特筆すべき事項。自分自身の奥底に眠る観念を汲み上げ、E.G.Oと共鳴させる──変化させられるのではなく、自ら変化するということ」

 

 俺は俺が侵蝕してたときのことを思い出す。あのときの俺は……そうだったか?

 

「──これはE.G.Oの可能性じゃない、人(・)間(・)の(・)可(・)能(・)性(・)だ」

 

「人(・)間(・)の(・)、可能性……」

 

「だから『好きに羽ばたけ、私の子供たち』。ボク達はこんなにも、可能性に満ち満ちているんだから!」

 

 再び旗を振り、メイベルさんも本の群れに飛びこむ。

 

 鎮圧を続ける……半ば異形化した三人を、俺は呆然と見ていた。

 

 ガリナの頬は大量の穴が空き、無数のアリによって黒く巣食われ。

 

 パーカーさんの両腕は黒いガラス製にひび割れて。

 

 メイベルさんの髪と肌は右半分、青く染まって……変色している。

 

 こんな風に異形と化す身体も、人間の可能性だっていうのか。

 

 ……結局、鎮圧は異様なほどすんなり進んで、最初の夕暮はたやすく越えられていく。

 

 それでも、なにかが起こってしまった、そんな予感が消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

紺青の夕暮

 

第二の誕生

 

きっと永遠に続くこの時間に、私達は言葉を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紺青の夕暮

 

第二の誕生

 

きっと永遠に続くこの時間に、私達は言葉を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

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