ヤモリと同棲するみゆきのお話。

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やもり と みゆき

「こんにちは、隣のお山から越してきました、やもりです」

 

「うわ」

 

 

 ある日突然、やもりとの同棲が始まった。

 

 

「わたくしは旅のヤモリでございます、今日からお世話になります」

 

 

 やもりはヤモリだ。

 

 

「良いですよね、コオロギとか香ばしくて……人間もお食べになるんでしょ? アレンジレシピとか伺いたいものです」

 

 平然と虫を食べる、趣味趣向があるらしく、選り好みする。

 

 やもりは、マメな性格をしていた。

 

 

「ここの隅、埃がたまってますね……掃除しておきますね、あとついでに天井に雨漏りの危険性があるので、管理人に話をするとよいでしょう」

 

 

 私よりも部屋の維持管理が得意だった、住人の私も気が付かないこともよく気がつく、やもりなのに。

 

 やもりは……怖い。

 

 

「わたくしの目が怖いですか? えぇヘビに似てるのでカエル顔の皆様にはよく敬遠されます……本当は誰とでも友達になりたいのですが……」

 

 

 ぎょろっとした眼球と細い瞳孔が、ヘビのようで怖い、見透かされているような眼差しが……ふと、怖くなる。

 

 やもりは、美しい。

 

 

「お肌には適度な水分と油分が欠かせませんね、乾燥すると息苦しくて……え? それはやもり関係ない? いやですね、気分の問題ですよ」

 

 

 毎日欠かさずに保湿をしている、私の女子力では太刀打ちできそうになかった……

 

 ある日突然増えた住人を私は意外にも追い出そうとせず、静観、に留めた。

 

 それからの生活と言うのは豊かになった、心や精神と言った部分が豊かに、鮮やかになっていった。

 

 私自身がそれを自覚するまで時間が掛かり、やもりがその原因だとたどり着くまでに色々と寄り道をした、やもりが私の人生に少なくない影響を与えてていたと誰かに離せば笑われるだろう、でもあの時の私にはやもりのいない人生はありえない。

 

 凄く……楽しかった涼やかな夏を思い出せた、隠しておきたい思い出も蘇ってきた、わがままをいう碌でもない子供だったことも思いだした。

 過去を思い出として考えるうち、私は飢えていたことに気付いた、物や評価や成績が欲しいんじゃなく、はっきりした言葉が欲しいのでもなく……

 

 “いつもひとり分、場所を開けて待ってくれている”

 

 そんな存在が心地よかった。

 

 大人になってそんな存在がやもりになるとは思いもしなかったけど。

 

 だけど終わりはすぐに来た。

 

 

「それでは、やもりは失礼します……わたくしの役目を終えたので、また別のお宅へと……ああ悲しまないで、また会えます」

 

 

 やもりは家を出ていった。

 

 

 1年、長いような短いような時間を2人で過ごした、私は少し涙を流した、悲しいんだと思う、あの不思議な1年を私は忘れないだろう。

 忘れたくても忘れれない、忘れたくない、あの1日1日が私を癒してくれた……気がする。

 

 あと1日、あと数時間、もう少しだけ居てくれたなら私は思い切って思いの丈を伝えていたと思う。

 

 

『みゆき、ごはんだよー……あれ、あのヤモリ脱走しちゃったんだ、やっぱり“イモリ”とは合わないのかな……見た目は一緒なのにね』

 

 

 でも、相容れない生活だったんだろう、私の生活と彼の生活は。

 

 


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