君の名前を好きになれるように   作:zs3079

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このお話はアニメ『君に届け』とのクロスオーバー作品です。
初対面の二人のすれ違いと、心が少し近づく春の始まりを描いています。


第一話:はじめて感じた、見知らぬ本音

友達って、なんだろう。

ただ世間話をする相手? 悩みを打ち明け合う関係? それとも、誕生日みたいな記念日を一緒に過ごす存在?

……わからない。

俺は、子どもの頃からずっと一人だった。

一人で過ごすことが当たり前で、誰かと一緒に何かをするなんて、自然に自分とは関係ないことだと思うようになった。

 

「おー、風早。来てたんだ?高校も同じなんて、これは嬉しいな」

「おはよう。俺も嬉しいよ。あ、そうだ。時間あるなら、サッカーやらない?中学から上がってきた友達も何人かいると思うし、声かけたら来ると思うよ」

「本当に?それはいいね。クラスに知ってるやつがいたら、俺も声かけてみるよ」

 

緩やかな坂道を登っている途中だった。

俺の前を歩いていた生徒に、誰かが声をかけ、そのまま自然に並んで歩き出す。

話の内容からして、たぶん中学からの知り合いだろう。

中学時代、俺はずっと静かに過ごしていた。

知り合いなんて、ほとんどいなかった。

だから、もし誰かが俺を見かけたとしても、わざわざ話しかけてくることなんてないはずだ。

むしろ、話しかけてくるとしたら、それは俺のことを初めて見る人に違いない。

いつもそうだった。

関わりたくない空気を、わざと出す。

そうすれば、みんな「ごめん」って言って離れていった。

今回も、きっと同じだ。

……そう思っていた。

 

俺が配属されたクラス――一年D組。

 

教室の扉を開け、自分の席を探す。

すでに多くの生徒が着席していた。

 

幸い、教室の隅の席は空いていた。

急いでそこへ向かい、鞄を置き、椅子に腰を下ろす。

そして教室全体を見渡した。

 

……ずいぶん、騒がしい。

初日の朝だっていうのに、そんなに話したいことがあるんだろうか。

 

「おっ!お前もいたんだ、よろしくな!」

「お前、弁当持ってきたのかよ!なぁ、1口、頼む!」

 

中でもひときわ目立ち、声の大きい奴がいた。

教室中を歩き回っては、短い会話を交わして次へ向かう

 

……体力、おばけかよ。

俺は静かな方が性に合ってる。

だが、この一年は静かに過ごすのは無理な気がする。

なるべく関われないことを祈って、俯いた。

 

「おっ、龍。同じクラスじゃん。よろしく」

「あ、翔太もか。よろしく。」

 

――耳の勘違いか?

さっき坂道で聞いた声と同じ声が聞こえた。

 

ふと声がした方向を見ると、そこにはリーフカットの黒髪の男子と、短く刈り揃えたような髪の男子がいた。

……さっき俺の前を歩いていたのと同じ男子だった。隣にいたのは、見覚えのない顔だった。

 

見つめていると、不意に目が合った。

リーフカットの男子は、笑顔のままこっちを見た。

 

その明るさに思わず目を逸らしてしまった。

 

「知り合いか?」

「いや、初めてだよ。クラスメイトだから、普通に笑っただけ」

「……そういうとこ、変わんねーな、お前は」

 

そんな会話が耳に届いた。

 

ざわついた教室の中で、あの二人だけが違う空気を纏っているように感じられた。

それよりも――

 

男に、あんな風に笑いかけられたのは初めてだった。

普通なら、気味悪く思ってもおかしくないはずなのに、なぜか、そうは思わなかった。

 

それに、俺は基本的に知らない人には警戒心が先に立つんだが、

あの二人に対しては、なぜか、それが浮かばなかった。

 

……妙な気分だった。

 

「ほら、みんな静かにしろ。出席取るぞ。」

 

担任の声で、教室の空気が一変する。

 

名簿をめくる音、教科書の擦れる音。

中学の時と、まるで同じ流れだった。

 

「うわっ、ピン!」

 

突然、前の席の男子が声を上げた。

 

「ん?翔太?」

 

担任が顔を上げ、生徒の顔をじっと見た。

 

「こら、お前、ここにいたか!」

 

「それ、こっちの台詞だって!なんで担任がピンなんだよ!」

 

「このクラス、俺が選んだわけじゃねーからな。文句言うな」

 

「中学からの腐れ縁が高校まで続くなんて……」

 

「それはこっちのセリフだ!なんで職場にまでお前のツラを見なきゃならねーんだ!」

 

「……うちのクラス、にぎやかになりそうだな。」

 

誰かがぽつりと呟いたのをきっかけに、

教室のあちこちからクスクスと笑い声が湧き上がった。

 

「うわ、風早うける。担任とあんなテンション!」

「先生、中学の頃からずっとやられてたんですか?」

 

数人の生徒が二人の空気を察して、次々と話に混ざり出す。

 

「やられる?あ~はははは!!!俺が?俺があんなクソガキに?むしろ反対だ。そうだろう、翔太?」

 

担任は突然腰に手を当てて、まるで背筋運動をするようなポーズをとりながら大声で笑い、

そのリフカットの男子生徒……風早さん指さして言った。

 

「何が“逆”なんだよ。別に、俺はやられたことなんて……」

 

風早さんは首を横に振って否定した。

 

「そう来たか〜? よ〜し、それならお前の中学時代の黒歴史、ぜんぶバラしちゃってもいいんだよな?」

 

担任は今までにないようないたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。

 

「ああ、駄目だ、それだけは!!」

 

風早さんはそう叫びながら、両手で耳をふさぎ、うつむいた。

 

「風早の黒歴史だって?! 絶対面白いでしょ、みんな、そう思わない?」

 

「賛成〜! 私、風早くんと同じ中学だったけど、そんな話一度も聞いたことないよ」

 

「そうだ、お前野球部だったよな? もしそこでやらかしたんじゃねーの? アハハハ!!」

 

あちこちから声が上がり、皆が笑い出す。

 

俺はその光景を、ただ遠くから見つめていた。

 

「ちっげーよ、そんなの! それに、ピン!! さっきの言葉、撤回するから! 絶っっっ対に言うなよ!!」

 

風早さんは再び頭から手を離し、みんなを見渡してから担任を睨みつけて言った。

 

「お〜う、それはお前の態度次第だな〜」

 

担任はその視線をさらっと流してから、

 

「よし、雑談はここまで! ホームルーム始めるぞ。集中しろよー」

 

担任の声が教室中に響くと、

一瞬にして空気が変わった。

 

さっきまで笑っていた生徒たちも静かになり、

風早さんも特に何も言わず、笑みを浮かべながら席に着いた。

 

「ホームルーム始める」という一言で空気が切り替わるのはよくあることだが、

この教室では、それがとても自然だった。

 

教壇に立った担任は出席簿を開き、

指で名前をなぞりながら出席を取り始めた。

 

一人、また一人と名前が呼ばれ、

聞き慣れない名前が、順番に呼ばれていく。

 

「風早翔太」

 

「はい」

 

はっきりとした声。

その瞬間、教室の空気がほんのわずかに流れた。

 

笑い声も、誇張も混じらない、ただの返事だったのに。

 

……さっきの、あの笑顔。

 

顔と声が、妙に一致して見えた気がした。

妙なほどにはっきりと。

 

出席は続く。

俺は静かにうつむいた。

目の前の木製の机の上に、さっきの笑顔が重なった。

 

その笑顔は、もう目の前にいないはずなのに、

どうしてか、その顔だけが頭に残っていた。

 

聞き慣れない名前。

初めて見る顔。

それなのに、どうしてこんなに残像が残るんだろう。

 

俺は何となく手の甲をひと撫でしてみた。

特に何の感覚もなかった。

 

でも机の上に落ちた視線は、

まるで何かを消そうとするかのように、そこに留まり続けていた。

 

……ほんの些細なことだったのに。

 

「ただ、笑っただけ」

そう整理すれば済む話だった。

 

それなのに、

その一瞬を繰り返し思い返してしまう自分が、

どこか他人事のように感じられた。

 

「鈴木潤」

 

その瞬間、自分の名前が呼ばれた。

俺はワンテンポ遅れて返事をした。

 

「……はい」

 

俺はペンを取り出し、机の上に置いた。

キャップを開けて、またすぐ閉じた。

特に理由はなかった。

 

すべての予定が終わったあと、

クラスの何人かは三々五々に集まり、会話をしていた。

 

俺は教室の隅に座り、静かに整理された教科書の山を見つめていた。

そのときー

 

「なあ、鈴木って言ったよな?」

 

聞き覚えのある声だった。

俺は顔を上げた。

 

風早さんだった。

 

「俺、風早翔太。風早って呼んでいいから」

 

「……え? あ、私は……」

 

風早さんは首を少し傾げて言葉を切った。

 

「私?」

 

その表情にはいたずらっぽさが混じっていたが、

不思議と俺を見下すような感じではなかった。

 

俺は基本的にこの表現を使う。

相手との距離を保つには、これが最適だと判断しているから。

 

「なんで“私”なんて使うの? もしかして、すっごいお家柄のご子息? 市議会の息子だったりして?」

 

「……え? あ、いえ、そんな大層なものじゃないです」

 

「ふ〜ん……まあ、言えない事情があるっぽいね。じゃあ、無理には聞かないよ」

 

「……それは、ありがとうございます」

 

そう言って頭を下げようとしたとき、

風早さんはまた、俺に向かって笑った。

 

「で、さっきはなんで避けたの? 目が合ったから挨拶したのに」

 

本当の理由は別にある。

でも、それを素直に言うには抵抗があった。

 

だから、嘘ではないが、本音でもない答えを發した。

 

「あ、機嫌を損ねたならすみません。そういう笑顔に慣れてなくて、つい避けてしまいました。」

 

「ああ、そうだったんだ。こっちこそごめん。そんなこと知らずに、勝手に笑っちゃって」

 

普通なら、こういう言葉を聞くと、

自分の気持ちが伝わらなかったと感じて、

失望してそのまま離れていくだろう。

 

でも風早さんは、違った。

 

「翔太ー。帰ろう。俺、腹減った」

 

そのとき、さっきの短髪黒髪の男子生徒、

風早さんの友達と思われる人が彼を呼んだ。

 

「あ、龍か。ごめんね、もう行かなくちゃ」

 

風早さんはまた鞄を背負い直し、

俺に背を向けて数歩歩いた。

そして、すぐまた振り返ってこう言った—




最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
少し不器用で、でもどこか通じ合えるような二人の始まりを書きました。
この出会いが、どんな春に変わっていくのか──
続きも読んでいただけたら嬉しいです。
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