異世界から帰ったら江戸なのである   作:左高例

231 / 247
73話『年代が過ぎる三部幕間』

 

 

 

 

 九郎が初めて新たな家族を得たのは13歳の頃だった。

 

 その時に年の離れた弟が生まれ、母は病弱で父は出稼ぎの留守がちだったので、小さくて温かいその家族を自分が守らねば、と思った。 とはいえまだ中学校に上がったばかりの子供にはできる限界がある。義務教育として学校に通わねばならないし、少なくとも自分を育て上げた母親の方が赤子を上手に扱えるだろう。

 それ故に九郎は、それまで母が内職をしていた負担を減らすためにアルバイトを初めて生活費を稼ぎ、自分はともあれ弟と母には良い生活をさせようとしていた。

 

 ともすれば父親がだらしないように思えるが、九郎も母から「とても大事な仕事をしていて、困ってる人や私達を守ってくれている」と仕事内容は詳しく知らなかったが聞かされていたし、何やら国連職員だの怪しげな外国のNGO団体だのが訪ねてきて父を仕事に連れていくので、まあ重要な仕事で忙しいんだろうなと納得はしていた。

 そうして九郎少年は金を稼ぎ、少し育った弟を連れて遊ばせ、いずれ子供が出来たときもこういうものだろうかと十代ながらしんみり昔の九郎は考えていたのである。

 結婚のアテがあったわけではないけれど、それから八十年以上も子供ができないとは思いもしなかったが。

 

 

 時は過ぎて──あるいは戻り、江戸の頃である。

 九郎に待望の子供が誕生した。

 認知した限りでは第一子である娘のお初が生まれたとき、彼は感動から泣き崩れた。

 以前はもはや結婚することも子供ができることも諦めていた不能老人であったというのに、こうして新たな命が受け継がれたのだ。

 今まで関わった全ての人に抱きついて喜びを伝えたいぐらいだった。長く生きてきた人生に大きな意味が生まれた気がした。

 沢山の人から祝福をされて、人生最良の日だと九郎は大喜びをした。

 これからの自分の全てを子供に与えて行こうと思うほどに。

 

 それから、少しだけ冷静になって恐ろしくもなった。

 九郎は今後も──少なくとも、長寿のスフィが亡くなるまでは長生きを続けようと決めている。人生の恩人で、大親友で、自分の墓を一人で守って寂しがっていた少女を二度と泣かすまいと、彼女の最期を看取ることが生きる目的の1つでもあるからだ。

 そうすると新たに生まれた彼の娘は──恐らく、天寿を全うしたとしても九郎よりも先に死んでいくだろう。

 手の中に居る小さな命が死にゆくことを想像して九郎は心が軋んだ。

 それでもずっと耐えていこうと決めて、生きている今を大事に過ごすことにした。

 嫁が四人に子供。大勢の家族が居て、九郎は少なくとも今は幸せだった。いつかこの幸せが思い出になったときでも、忘れずに持ち続ければ耐えていける。そう信じたのである。

 

 

 そして、長女のお初が生まれてから5年の月日が流れた。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 九郎は家を追い出されて別居していた。

 

 

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 

 

 

「キヒヒヒヒヒ!! ウケる! ざまぁ九郎!」

「やかましい! これは戦略的別居だ! 決して家族仲が悪いわけではない!」

 

 根津の菓子屋にほど近い場所にある小さな一軒家を借りて九郎はそこに引っ越しをしたのだが、早速様子を見に来た影兵衛に大笑いされた。

 家の中は最低限の道具を持ち出しただけで閑散としており、刀などの九郎の私物が少々置かれているぐらいだ。

 九郎の姿も身の丈六尺の青年に成長している。肉体年齢は二十前後といったところだろう。嫁や子供に合わせてせめて見た目だけは老けていくようにするために、こうしているのである。

 

「あれだけ子沢山で嫁侍らかし野郎だった、噂の九郎親分が愛想尽かされて別居とはな。へへへ、どうしたんだ? 拙者に教えてくれねェか。浮気と隠し子が何件バレたんだ?」

「バレて──しておらんわそんなこと!」

「一度拷問で吐かせた方が良いかもしれねえな……」

 

 渋い顔をする影兵衛。どうもこの九郎という男、嫁と妾とやたらいちゃついている癖に他所に女も居る疑惑が晴れない。

 ちょくちょく一人で伊勢原に行って、何やら父無し子を育てる宿の者に金を渡したりしているらしいし、何年も前から何処かの武家の娘と連れ歩いているのも見かけられる。

 嫁に妾は疑いだしたらキリがないとばかりに諦めているようだったが。

 

「で、実際のところなんで追い出されたわけ?」

 

 切り裂き同心の問いに九郎は苦々しい顔で応える。

 

「追い出されたわけではない。己れの子育て生活は見れば悪党でも涙を流さんばかりに大事に子供を育て、女房たちと手を取り合いエンドロールが流れんばかりに充実しておった」

「で?」

「だがなんというか……屋敷に己れが居たら子供らに構いすぎて一向に働かないのと、暇を見つけては子供が延々増えそうだと危惧されてひとまずは働けと言われてのう」

「ここ暫く、手前に仕事持ちかけても『子育てで忙しい』とかで拒否りまくってたしな。大の男で父親がろくすっぽ働かずに日がな一日嫁や子供と遊んで暮らしてりゃ、まあ金はあろうが碌な親父じゃないなって子供も思うぜ」

「むう……」

 

 そろそろ最初の年に生まれたお初たちは物心がついてきた頃合いである。父親が何もしていないのを不審に思うかもしれなかった。

 家事も買い物も女たちがしていて、それでいて子育てをしながら将翁や夕鶴、スフィに豊房など手に職ある者は仕事もしているのだ。家事もせずに働かず遊び相手になっているだけの九郎はどう見ても養ってもらっている側だった。

 現代でも微妙に見られるというのに、江戸の当時でイクメンというのは単なる子育てをしてるヒモである。

 九郎が祖父として暇を持て余して孫の相手をしているなら別だが、見た目も若いし実の父だ。

 一通り九郎を指差してあざ笑った影兵衛が尋ねる。

 

「大体、ガキが何人居るんだよ。最初こそ一々祝儀送ってたけどポコポコ作り過ぎててさっぱりわからなくなったぞ」

「ええと……江戸では……じゃなくて、今は十二人だ」

「猫の子じゃねえんだから」

 

 励みすぎであった。なお、うっかりサツ子に手を付けて子供を宿したので妾として引き取ったりもした。ついでに石燕も。

 狐面の少女である阿子の方は手を付けられる前にと女衆が団結して犬同心・伯太郎へと嫁に出して、今では犬使いになっている。

 伯太郎の犬たちは、家畜を増やした甚八丸と提携して害獣駆除などに多く利用されるようになり、犬牧場の運営も安定していた。

 

 九郎が追い出された屋敷には、十二人の子供と六人の嫁妾、そして居候兼ベビーシッターとしてスフィが住んでいる。

 相変わらず成長していないスフィは九郎に手を付けられていない。親友だから当たり前だが。九郎の子供を実の子のように慈しんで歌で熱心に育てていた。

 

「当面、朝飯と晩飯のときだけは帰ってきて良いと言われておる……昼間は働きに出ているという名目で、ここで過ごすなり実際働くなりしろという意味だな」

「亭主の立場ねえな」 

 

 呆れたように影兵衛も言う。彼の家も子供が四人居てしかも子煩悩で愛妻家であっても、少なくともまともに働いているので父としての扱いは極めて良かった。

 息子の新助は父を尊敬しているし、娘は父を格好の良い正義の味方だと信じている。

 本人が相変わらず犯人に過激な対応をする同心ではあるものの、充実した家庭であると言えるだろう。

 

「さすがに家でゴロゴロしすぎた。菓子屋もすっかり軌道に載って放置してもバンバン稼いでおるからのう」

 

 それに比べて九郎は子煩悩が行き過ぎているので、このままではヒモ確定であった。

 嫁たちもそれを危惧している。九郎のことは相変わらず新婚当時のように好いているのだったが、だからこそ堕落した状態を子供に見せたくもない。

 九郎というお人好しで力持ちの男の頼もしい所を多く見て、またその上で駄目なところも知ったから良いのであって、駄目なところばっかり見せては子供の教育に悪い。

 どうあっても同じ家に居れば子供の相手ばかりする夫を隔離するために涙をのんで別居に至ったというので、知り合いからすれば満場一致で「働かない九郎が悪い」ということになってしまったのであった。

 九郎としても可愛い盛りの子供らから離されるのはのたうち回るほどにつらかったのだが、駄目親父になってしまうのも嫌だった。実際、父親がそれほど家に居なくても子供は育つという実例で九郎は少年時代を過ごしたのだから納得できないこともなかったのだ。

 影兵衛は軽く肩をすくめてから、九郎の背中をばしりと叩いた。

 

「ま、そんなら丁度いいさ。江戸の凶悪事件も溜まってるんだ。手伝えや」

「そうだのう。悪を取り締まるお父さん……そんな感じなら恥ずかしくないし」

「実際、同心の手先をやってるやつは嫁に仕事を任せて自分は薄給の十手持ちになるってのも珍しかねえんだからよ。さて九郎。吉原連続毒殺事件と、番町辻斬り無差別惨殺事件と、首切り絡繰屋敷連続死体遺棄事件……どれから手を付ける?」

「なんでちょっと関わらんうちにそんなに馬鹿に凶悪な事件ばかり起こっておるのだ!?」

 

 そうして九郎は影兵衛に連れられて、再び江戸での騒動に積極的に関わりだす。

 家庭の平穏、父の面目、間接的な家族の安全など彼には様々に守るものはあるのだから。

 

「やれやれ、孫の代まで楽隠居も出来そうにない」

 

 

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

 五年後設定。

 

主人公

 

九郎

肉体年齢20歳前後。ヒモ亭主。無職すぎて家を追い出される一時的な単身赴任。家に財産はかなりある。

嫁と子供を溺愛している。浮気疑惑と隠し子疑惑が絶えないが、本人は否定している。信じよう。

脱無職のため、また事件やらに連れ回されることに。時々家に寄って子供に顔を忘れられないよう心がけている。

子供は三男九女(江戸調べ)。

 

 

 

同心組

 

影兵衛

年齢40代。リア充同心。特に変わりは無いが、この五年の間に天狗を切ったり鬼を切ったりしていた。

 

利悟

死……?

 

伯太郎

色々あって阿子と祝言を挙げて大喜びした。

 

 

 

道場組

 

晃之介

年齢30歳前後。男盛り。腕に磨きが掛かっている。この五年の間に人狼を倒したり吸血鬼を倒したりしていた。

 

子興

子供が長喜丸含めて3人になった。小さい子を連れて九郎の屋敷にもよく行っている。時々夫が義父と浮気してる気がする。

 

長喜丸

絵を描くのが趣味。かなり上手い。武芸は時々新助や正太郎と遊ぶようにやっている。そっちの才能もある。

 

新助

真面目に鍛錬をしている。地獄の特訓についていってることで、普通の道場に連れて行かれてもかなり年上相手に戦える。

 

正太郎

必死に鍛錬している。微妙に弱気だが、新助に励まされて頑張っている。少年同士のユウジョウいいよね……ってなっている。少年同士で入る風呂が好き。

 

 

 

靂組

 

年齢20代前半。独身。フラグ管理を徹底して幼馴染とくっつきそうでくっつかない関係を維持し餌を与えて闇を抜いている。三文小説家。

 

お遊

徐々に闇が抜けてのんきなだけになってきた農娘。包丁沙汰は減った。

 

小唄

完全に行き遅れているお嬢様。もういい。独り占めは諦めるから祝言だけは挙げさせてくれ。そう心の中で思うものの踏ん切りが付かない。

 

無口怪力な娘。三人で一番小柄になった。他の二人に比べれば普通の美少女なので五年の間に独身忍びから惚れられて告白され、返事に悩むこともあった。しかしその忍びは都度、厳しい(れき)義父(くろう)の審査で遠ざけられた。過保護である。

 

 

 

甚八丸組

 

甚八丸

元気でハッスル。鶏もかなり増えてきた。他の家畜も揃えだす計画がある。新たに息子ができた。靂はそのうち殺す。

 

忍び集団

九郎お見合い相談所が暫く開店休業していて焦燥している。噂を聞きつけて日本中から忍び労働者が江戸にやってきてるので、数が増えている。

 

 

 

九郎の嫁たち

 

お八

正妻。専業主婦で肝っ玉母ちゃんとして子供たちを纏めている。

呉服屋で培ったスキルは十全に発揮されて子供の着物を延々と縫っている。家事万能。

胸は何故か大きくならなかった。

 

 

豊房

妖怪絵師として有名人。子供たちを脅しつける役目として恐れられている。

得意の算術で家の出納を管理している。九郎の別居を提案して説き伏せた。

実は絵描きの道具を子供が散らかさないようにと九郎の別宅に置いてて、仕事場にしようと思っている。

 

 

夕鶴

名物ふりかけ屋。甘やかす母親として子供たちから人気。

体力と体の大きさを活かして子供たちと遊んでいる。九郎が出て行くことに反対していた。

生まれたのは全員娘。まだ作ろうとしている。

 

 

将翁

不老。転んだりした際に怪我を治してくれる母親。

薬作りは子供の誤嚥も考慮して菓子屋の部屋か九郎の別宅を使うようだ。

九郎の子供全員を母親として可愛がっている。他の皆もそうである。

 

 

サツ子

うっかり手を付けられて子供ができて責任を取られ、妾になった。

鹿屋はガッツポーズを取った。本人も満更ではないようだ。九郎も満更ではない。

最近は子供に薩摩弁を移さないように普通の言葉を喋っている。九郎の前だけ方言になる。

 

 

スフィ

成長していない。彼女が歌えば子供はそれに応じて喜んだり、ぐっすりと眠ってくれる。

九郎のヒモニート状態に苦言を呈した一人。子供が可愛いのは認める。恐らくそのうち男児の初恋の相手になる。

さっぱり九郎との関係は進まない。だけれど九郎の子供ならば実の子のように愛せる。九郎が幸せそうならいい。そういう感じの性癖。

 

 

石燕

肉体年齢10歳前後。妾。なんてことだ……

他の子供からは姉だと思われている。九郎と一緒にニートしていた。

彼女を妾にしたことで裏切られた利悟・伯太郎が九郎に決闘を挑み、ブチ切れ稚児趣味パワーに危うく九郎も死にかけた。

 

 

その他

 

ヨグ

くーちゃんの子育て見てても面白くない!と次元つまみを捻って五年後に移動した年代ジャンパー。

実は石燕ボディもヨグと九郎の子供ベースに色々改造したものだったりする。倫理観がアウト。

九郎は「最近ヨグが夢に出てこなくて凄く楽」とか五年の間思っていた。

時々ペナルカンドに身分偽装して降りているようだ。

 

イモータル

次元アンカーとして江戸に居たのだが年代ジャンプの為に一時的に引き上げられた。

最近働き者のイモが居ないと鹿屋では心配されていた。

実は子育ての手伝いしたくてウズウズしてる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。