偉大なるエルデの王、ゴッドフレイ。彼の外征は常に闘争と共にあった。そんな闘争の一端を、ここに棄てる。
エルデンリング×金の斧、銀の斧 のクロスオーバーです。
伝説は語る…偉大なる父祖、ゴッドフレイが率いる戦士達の遠征には常に闘争が絶えなかったと。
「……見事…」
「「「「ウォォォォォッッ!!」」」」
そして、この日もまた伝説に違う事なく…ゴッドフレイは、その王たる故を大斧によって大地に刻んだ。もはや数え切れぬほどの勝利を重ねようとも彼らが止まる事はない。
此度の決まり手は、彼の手から放たれた大斧。度重なる戦によっても尚衰えぬ重さと両刃の鋭さは、今回もまた敵の首領を打ち取り戦場である森さえも切り裂いていった。
だが今回、彼には誤算があった。
(むう、まさか止まらぬとは。見誤ったか)
彼の誤算とは敵の弱さ、そしてそれ故に遠くへと飛んで行ってしまった大斧である。
(…分かっている、セローシュよ)
ゴッドフレイの大斧は彼が王である証であり、王として振る舞うためには必須な物。背に乗せた宰相の獣は早く回収するように急かし始める。
王としてで無くとも、戦士として自分の武器を放ったままにする事はあり得ない事…故に悩むことも無く、勝利の雄叫びを上げる戦士達を背後にして、ゴッドフレイは大斧を探さんと森の中へと入っていった。
投げられた大斧は森の木々を刈り取っており、切り株が立ち並ぶ道の先に大斧がある事は明らかだ。彼が迷う心配も大斧の着弾点がわからない心配も無かった。
狭間の地にて相対した偉大なる強者達…彼らとは比べるまでもなく貧弱であった敵に僅かな不満を感じながら、彼は更に森の奥へと進んで行く。
やがて辺りの木々が彼の背丈を越え始め、昼であるはずなのに暗さを感じ始めた頃
並んだ切り株の終わり…ゴッドフレイは、遂に大斧があるであろう場所に辿り着いた。
だが彼の目に大斧は映らない。
代わりに、彼の目の前には泉があった。
(ふむ…妙だな)
大斧が無い事は確かに問題だ。だが、それ以上に彼にとっては泉の方が目を引く物であるようだ。
(森の奥深く、湧き水が流れてきている訳でも獣がいない訳でもない…なのに、この水は澄み過ぎている。木の葉一枚どころか虫一匹すらいないのは異常だ)
(恐らく、俺の大斧はここに落ちたが…どうするか)
大斧がこの泉の中に落ちた事はほぼ確実と言っていい、しかし彼の戦士としての勘とセローシュは泉に並々ならぬ注意を向けている。
彼らの目を引き警戒を促しているものは、その泉の異常とさえ言える程の透き通りであった。
戦士としての性と理性が珍しく合致し、どうしたものかと悩んでいた…その時
「なっ…!」
泉の中から、黄金樹の如き長髪と存在感を放つ見目麗しい乙女が現れた。その美しさと重みは女神といって差し支え無い程であるが、ゴッドフレイが驚いたのはそこではない。
「あなたが落としたのは金の大斧ですか?それとも、銀の大斧ですか?」
彼の大斧はもつだけでも
何とその乙女は、金と銀で出来た彼の大斧を二振りも持っていたのだ。そして、それだけの重さを両片腕で支えているのにも関わらず一切の揺らぎは無い。
(まさか、外征の地にてこれ程までの戦士がいるとは…!)
驚き、そして彼女の強さを確かに認識した途端…彼の中で、唯一無二の友に再会したかのような喜びと戦士の血が湧いてきた。しかし彼を止めるものがいる。
(むう…セローシュ……)
宰相の獣、セローシュだ。早く斧を回収して戦士達の元に戻るように急かされたゴッドフレイは、渋々ながらも乙女の問いに答えた。
「いや俺が落としたのは、それじゃ無い」
無論、嘘偽りなどは無い。生粋の戦士である彼にとって、使い慣れた大斧が金や銀などに劣るなどとは考えられないからだ。
すると、乙女は何処か嬉しそうな様子で口を開いた。
「あなたは正直者ですね。その正直さの証に、まずは貴方自身の大斧を返しましょう……そして」
投げ返されたゴッドフレイの大斧。使い慣れた武器を手にした彼は、しかし礼を言うこともなく構えた。
それは、決して彼が礼儀知らずの蛮人であるからでは無い。
「金銀の双大斧によって、あなたの望む闘争を差し上げましょう!!」
褪せたはずの目、そこから湧き出た微かな祝福の導きが目の前の乙女を指し示したからだ。
乙女は両手に構えた双大斧の重さを感じさせぬ速度で湖から飛び上がり、水飛沫と共にゴッドフレイへと切り掛かった。
乙女の振り下ろした双大斧、それを受け流した途端ゴッドフレイの中では抑えられていた戦士の血と喜びが爆発した。
「ヌオゥッ!!」
(この女…やはり強者か!!)
たかが一合、しかしそれだけで乙女の強さを即座に認識した。
(かつて打ち倒した巨人達、奴らが赤子のように思えるほどの怪力…!!)
思い知った乙女の比類なき筋力…だが、それだけでは無い事をゴッドフレイは思い知る事になる。
最初の勢いを削がれた乙女は、しかし木々を薙ぎ倒しながら強引に方向を修正することで再度の突撃を開始した。
「シイッッッ!!」
(速い、そして疲れ知らずか)
「成程…なるほどな……」
幾度も繰り返される、突撃の勢いを回転に変えたすれ違いざまの一撃。それは彼が振るう大斧よりも速く、単純な斧の斬り合いでは完全に不利な状況だ
しかし、ゴッドフレイの武器は大斧だけでは無い。むしろ、彼の真の武器は……
彼の肉体そのものである。
ゴッドフレイが、防御の構えを解いた。
「これでぇ、どうっ……!?」
ウウゥォォォッッ!!
獣の如き咆哮、それと同時に大地へと叩きつけられた大斧の柄が凄まじい衝撃で周囲の物体を全て吹き飛ばした。
揺れる大地、そして根ごと空へと打ち上げられた木々と湖を満たしていた水が雨として降り注ぐ。
無論、無防備なゴッドフレイに一撃を喰らわさんと近づいていた乙女も例外では無い。怪力ではあるが、しかしその体躯の小ささ故に空へと打ち上げられて地面に叩きつけられた。
「くっ…!これでは…」
致命的という言葉ですら足りないほどの隙、だが乙女の身に降りかかって来たものは斧の刃では無い
「我が名はゴッドフレイ!エルデの最初の王だ!!!」
それは、名乗りだ。
戦士の戦いは名乗りによって始まる…それ故に、これまでの戦いはゴッドフレイにとって戦いでは無かった。
しかし今この瞬間に、ゴッドフレイの名乗りは終わった。つまりここから始まるのは、王としての彼の戦いである
「ぬぉぅっ!!」
「はぁっ!!」
名乗りの後、戦いは苛烈を極め始めた。
速度で劣っていたはずのゴッドフレイは、乙女の一撃を交わして見た目に似合わぬ軽快なステップと共に反撃を叩き込み…対する乙女は彼の一撃を無理矢理受け止めて、与えられた力を利用したカウンターを放つ。
無論、両者とも簡単に傷を負うほどの弱者ではない。速度を徐々に上げながらも反撃に次ぐ反撃の応酬を繰り返し、どちらが先に負けるかのチキンレースが始まった。
このレースにおいて、有利であるのは速度と力で勝る乙女。このまま続ければ最後に勝つのは彼女である事は明らかであり、彼女自身それを分かっているがために若干の余裕を持っていた。
だが、ゴッドフレイとてそれは承知である。多くの戦いの経験に裏打ちされた彼の頭脳はこの先の展開を正確に予測しており、その上で彼は勝ちを確信しながら応酬を続けているのだ。
やがて互いの速度が最高潮へと達しようとした時、乙女は勝ちを確信し…それ故に、視野が狭くなった。
乙女の変化をゴッドフレイは見逃さない、打ち合いそのものに全意識を割いている事を確信した彼は
右手で大斧を振り下ろし
「次で……なぁっ!!?」
空いた左手で乙女を掴み上げた。
乙女の体躯が小さくとも、両手にある双大斧の重さは凄まじい。然れども、彼はその重さを意にも介さずに乙女をさらに持ち上げて
「待っ……「ディヤァァァァっ!!」
その大地へと、叩きつけた。
「………っ!まだぁっ!!!」
技も使った驚異的な投げ、然れども乙女はまだ終わらない。すぐさま起き上がり、追撃を避けんと直ぐにローリングを始めた。
だが、戦いの流れはゴッドフレイが掴んでいる。
ステップによって距離を離した乙女に素早く近づき、足を振り上げて
「避……しまっ…!」
「少し、早すぎたな?」
ディレイ、回避の後先を狙って思い切り大地を踏み締める。大地を揺らしたその瞬間、回避後の崩れた乙女に衝撃波が襲いかかり、その体力をさらに奪った。
まだ、終わらない。続けて彼は右手だけで大斧の腹を振り抜き、浮き上がった乙女の体を思い切り打ちすえて、森の奥へとボールの様に弾き飛ばす。
鉄が肉を叩き潰す鈍い音が響き、やがてその音を最後に周囲を静寂が包んだ。森の奥へと飛んで行った乙女の声が聞こえる事もない。
(これで、終わりが)
「………乙女よ。良い戦いであった」
(経験さえ積めば、更に強くなれただろうに。惜しいな…)
その静寂は、すなわち勝負の終わりでもあった。それを感じ取った時、ゴッドフレイを包んだのは喜びでは無かった。
強者との戦いは得難いものであり、それ故に最高の快楽になる。だからこそ彼は、強者との勝負の終わりには手前勝手な感傷を抱いてしまうのだ。
暫くはそんな感傷を抑え難く懐かしみ、やがて次の戦いを目指さんと褪せた瞳を変わり果てた森の外へと向けた
その時
「……待て」
祝福の導きが、見えた。
「最早、人の身では貴方を満足させる事はできない。であれば、私はこの偽りを捨てましょう」
「私は、泉の女神…願いを叶えるものです」
「さぁ、続けましょう」
祝福の導きが指し示した先は森の奥。そして、そこには死んだ筈の乙女がいた。
いや…彼女は、先までの乙女とは全く違う。
月桂冠をつけた彼女は、その黄金の輝きを更に強め正しく神の威圧感を放っていた。両腕に持っていた大斧は無くなっており、代わりに金と銀でできた巨岩の大双槌を持っている。
ゴッドフレイは、その大槌を知っていた。
それは巨人戦争で怪力を誇った戦士が用いた武器、如何なる戦士とて片手では到底扱えぬ最も重い武器…
名を巨人砕きという。
その重さ故だろうか、女神が一歩踏み出すごとに大地は揺れ、ゴッドフレイへと凄まじい威圧感を与えてくる。
不思議と、彼の斧を握る手に力が入った。
先とは違ってゆったりと距離を詰める女神に、どっしりと構えるゴッドフレイ。
やがて、言葉もなく静かに戦いが再開した。
「グゥゥゥゥ……はぁっ!!!」
「ハハハッ!!何という力よ……!」
先手を取ったのは女神。天高く飛び上がり、両手に携えた二つの巨人砕きを大地へと思い切り叩きつけた。
女神が叩きつけた一点、そこから地が割れ、生じた凄まじい衝撃波がゴッドフレイへと襲いかかる。
しかし、それで終わりではない
「大地よ……爆ぜろ!!」
(一体何……なっ!?)
女神が巨人砕きを引き抜いた途端、割れた大地から爆炎が噴き上がり、意識外からゴッドフレイを焼き尽くさんと襲いかかった。
だが初見の技にやられる様では、彼はエルデの王になどなれなかった。大地の異常を感じた彼は咄嗟に飛び上がり、大斧を用いて爆炎を防ぐ。
(何と素晴らしい技か!!ここまでのものを隠し持っていたとはな!)
「女神よ!もう一度、この斧を差し上げよう!!」
大技を前にしようと、彼が怯む事は決して無い。飛び上がってやり過ごした後には、すぐ様反撃に移らんと大斧を投擲した。
先の戦いでは敵の頭領を仕留めた必殺の技、死の象徴とも言える大斧が回転のエネルギーと共に女神へと差し迫る。
だが、彼女は弱者などでは無い…強者だ。
「こんなもの…はっ!」
(軽く落とすか…!だが、それは織り込み済みだ!)
迫ってきた大斧を前にして、しかし女神は焦らない。それどころか逆に巨人砕きを叩きつける事で、両刃の大斧を片刃へと変えて地面へと縫い付けてしまった。
最もゴッドフレイとて大斧を投げるだけで彼女を倒せるなどとは思っていない。だが、何の意味も無く投げた訳では無かった。
投げられた大斧は囮である。女神は斧の対処をするために一時的ではあるが彼から目を離し、それ故に彼は彼女の真横から急襲をかけられた
踏み込み、一瞬で女神との距離を詰め…
(…殺気!!)
あと一歩というところで、後退。その瞬間、彼の目の前を金と銀の大塊が過ぎ去った。
(ここまで速く振るえるのかっ!)
「…なるほど、本当に先までとは違う様だな」
「勿論です。先と同じ様には行きませんよ」
先までとは一転して、状況は一気に不利となった。女神は段違いの強さになっており、先まで持っていた武器である大斧は彼女の元にある。
この状況を不利と言わずして、何と言おうか。
そんな時、今まで静観を守っていたセローシュは初めて、その姿を表し始め……
「もう、よい」
「ずっと、世話をかけたな、セローシュよ」
表れたセローシュを、ゴッドフレイが掴んだ。
そして
獣の断末魔、それと共に血飛沫が辺りに降り注ぐ。
セローシュが姿を表したのは、ゴッドフレイの危機が迫ったからか、それとも彼の昂る戦士の血を強く抑えんとしたからなのか…彼が消えてしまった今、それは分からない。
だが、今はそんな事よりも
「行儀のよい振りは、もうやめだ」
ウウゥウォォォォォォッッッ!!
「今より、俺はホーラ・ルー!」
「戦士よ!」
この戦いの行方の方が、遥かに重要であろう。
名乗りを終えたゴッドフレイ、もといホーラ・ルー。鎧を脱ぎ捨てて白髪までも血で染め上げた彼は、先よりも遥かに俊敏な動きで女神へと詰め寄らんとする。
「!それが、貴方の本性…」
勿論どれだけ速かろうとも、女神の反撃がある。彼女は真正面から詰めてくるゴッドフレイを叩き潰さんと巨人砕きを振り上げ
「ですが、それだけで…オオォォォォォッッッ!!
「…しまっ!!」
間近で放たれた、竜の如き咆哮によって怯まされた。そして、その隙を逃すほどホーラ・ルーは甘くない。
残像が出来るほどの速さで詰め寄った彼は、両腕で彼女を天高く打ち上げた。そして、自らも飛び上がってから空中でガッチリと掴み……
「ガアッ!!!??」
重力の力も借りて、彼女を地面へと叩き付けた。その一撃は凄まじく、鋼ですら生温い表現となる女神の体にも深刻なダメージとなる。
「…グゥ!まだですよぉ!!」
深刻なダメージを受けながらも、しかし女神はすぐ様動き出す。そしてローリングで逃げようとする彼女を追いかけんと、ホーラ・ルーは肉を軽く抉る引っ掻きで追撃を始めた。
「今度はっ!こっちの番だあ!」
が、それは女神の仕掛けた罠でもあった。遠くへ逃げると見せかけて、彼女は逆にホーラ・ルーへと近づく事で引っ掻きを潜り抜け…
「オラアッッ!!!」
「ッッッ!!」
ホーラ・ルーの背に一対の巨人砕きを振り下ろした。
回避は間に合わない。だが彼は致命傷を避けんとその一撃を左腕で受け、腕一本を犠牲にする事で場を潜り抜けた。
互いに距離を取る、仕切り直しだ。
「「ハァッ……!!」」
女神は、必殺の叩きつけによって体にヒビを入れられており、動いてはいるが本来は息をするのも辛い重体。
片やホーラ・ルーは、女神の重すぎる一撃を貰ったことで左腕は完全に動かず、そして腕だけでは殺しきれなかったダメージが響いていた。
両者ともども重傷であり、互いがこの戦いの終わりを悟っている。
だからこそ、ここで負けまいと最後まで痛みに負ける事も怯む事も無い。一呼吸おいて、再度激突せんと互いに距離を詰め始めた。
先に仕掛けたのは、ホーラ・ルー。雄叫びと共に空中へと飛び上がったのだ。だが、着地時に叩き付けて握り込んだものは女神では無く、大地だけであった。
…この戦いにおいて、ホーラ・ルーは一つの事を学んでいた。それは筋力のもう一つの使い道だ。
先において女神は圧倒的な力で大地を叩きつける事により、その反動で凄まじい爆炎を呼び起こした。それは魔法でも奇跡でもなく、単純な力によっての技である。
それならば、自身の筋肉を用いれば再現出来るだろう。彼はそう結論づけた。
ホーラ・ルーの着地時に生まれた致命的な隙、女神はそれを見逃さず最後の一撃を加えんと、走りながら両腕の巨人砕きを振り下ろし始めて
彼が大地から腕を引き抜いた瞬間、彼女は大地から湧き出した爆炎に飲まれた。
かくしてエルデの王、ゴッドフレイは外の地にて偽りの神を打ち倒し…その神秘を自らものとした。
地を割り大地を揺らす…そんな彼の偉大な力は、神話の如き戦いの中で見出したものだったのだ。
ゴッドフレイ伝説:泉の女神の章 完
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。