Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第9話 ラーメン屋の一触即発

 ペーッ

 プシューッ……ガラララ

『中通り3丁目、中通り3丁目です』

 中通り3丁目電停で電車を降りる。

 ペーッ……

『発車します、閉まるドアにご注意ください』

 プシューッ……ガラララ、バタン

 ヴォオォォォ……

 バタンバタンバタンバタン……

 電車が発車して走り去っていったのを見送ってから、信号が青になるのを待って、横断歩道を通って、大通りの上り側の歩道に出る。

 電停とはちょうど(はす)()かいの位置に、少し大きめの雑居ビルがあり、その1階にラーメン店、『珍來(ちんらい)』瑞苑中央店がある。

 『珍來』(『珍来』)はいくつかの法人チェーン・独立店が名乗っているが、基本的には株式会社珍來総本店と、法人化の際に分業した事で別系列となった株式会社珍來が創業者以来の “本家” で、後は、基本はそこから “暖簾(のれん)分け” したグループだ。

 珍來(珍來総本店)の創業は東京だが、創業者は茨城県出身で、その豚骨出汁ベースの濃口スープは茨城県民好みと言われる。比較的こってりとはしているが、二郎系ほどクセはない。ただし、暖簾分けした系列や独立店は、珍來総本店系とはアレンジが大きく異なる場合もある。

 瑞苑中央店は、経営上は独立店だが、珍來総本店に近いグループの加盟店で、メニューなどを基本的に揃えている。

 赤い看板に電光式メニューが掲げられている店舗の、暖簾をくぐって、自動ドアから店内に入る。

「いらっしゃいませ」

 立香達の入店に気付いた、制服である白い調理服の店員が、調理場の出入り口から、挨拶しながら出てくる。

「────────…………!!!!」

 歳の頃は30~35くらいか、かなりの長身で、痩せ型ではあるが肩幅は広く、がっしりして見える────────

 ヴォン

「な!?」

 立香とクレオパトラ49世が、同時に、短く驚愕の声を出した。

 セイバーが、その手に『カリバーンPS』を握っている。両手で頭の右側に構えていて、ビーム刀身は既に出現しており、その切っ先が、事もあろうに店員の鼻先に突きつけられていた。

「ひっ」

 当の店員は、肩のあたりに両手を挙げ、慄いた表情でそのビーム刀身の切っ先を凝視しながらも、身を僅かに逸らせた状態で、凍りついたように動きを止めていた。

「セイバー、何を!?」

 ランサーも険しい表情になり、問いただすように声を出す。

「言峰……綺礼……貴様────!!」

 セイバーは、戦っていてさえどこか気の良さそうな雰囲気を隠しきれない様子を完全に消し、憎々しげな表情で、店員を睨みつけている。

「ことみねきれい!? セイバー、何を言ってるんだ!?」

 慌てた表情のクレオパトラ49世が、セイバーに問いただす。

「こいつのことだけは、たとえ異世界転生しようがサーヴァント・ユニヴァースの一員になろうが、絶対に忘れません! 言峰とセイバー顔は・即・斬!」

「わ、私はことみねなんて人間では……」

 店員は、未だに状況が解らないかの様子で、首を左右に振りながら、少しずつ後ずさっていた。

「…………」

 ランサーは、怪訝そうな表情で店員を見ている。

「お、お客さん!」

 応対している店員とは別に、調理場から、店主と思しき固太りの男性が飛び出してきた。

「須磨寺が……こ、この者がなにか失礼なことを!?」

 店主も、慌て、困った様子で、調理帽を脱ぎながら、セイバーや立香達に問いかける。

「いえ、多分人違い────」

 クレオパトラ49世が、そう言いかけたが、

「いいえ! この顔は悪いことをする顔です。たとえ今はしていなくても、企んでいるに決まってる! マスター! 斬りましょう! 斬らせてください!!」

 と、それを途中で遮って、セイバーは憤りと緊張の混じった声を上げた。

「あー、もう!!」

 逆に、自身も苛立ちから憤りの様子を見せながら、クレオパトラ49世は自身の右手の手首を左手で握り、構えを取る。

「令呪を以て命じる! セイバー、この場での武装を解け!!」

 クレオパトラ49世がそう唱えると、とたんに、セイバーはカリバーンPSのビーム刀身を切り、腕をおろしてその場で直立不動の姿勢になった。

「ったく……」

 クレオパトラ49世はぼやくように言葉を出した。右手の甲から、鈍く輝く赤い入れ墨のような令呪から、その1画が消える。

 その一方で、

「す、すみません、なんか、人違いと言うか、他人の空似だったみたいで……」

 と、立香が、両手を前に出して振りながら、苦笑するような表情になってしまいつつ、そう言い、

「すみません!!」

 そう言って、須磨寺と呼ばれた店員と、店主との正面で、深々と頭を下げた。

「わっ……す、すいません!! うちの身内が……」

 立香の様子を見て、クレオパトラ49世も、その隣に並ぶと、同じように頭を下げた。

「いえ、まぁ、誤解だったのでしたら、私は特に構いませんよ」

 須磨寺は、柔和に苦笑して、手振りを加えながらそう言った。

「でも、これじゃあ……今日のところは出直したほうがいいかな……」

 立香より先に頭を上げたクレオパトラ49世は、背後のセイバーとランサーを見回すようにしつつ、困ったように言う。その最中に、立香も頭を上げた。

 すると、それを聞いた須磨寺と店主は、顔を見合わせてから、再度立香達の方を向くと、

「人違いということなんですし、食べていってくださいよ」

 と、店主が人のよさそうな表情で言った。

 それに対して、立香とクレオパトラ49世が、気まずそうに顔を見合わせると、店主はさらに言う。

「こっちも、客商売ですから。多少の行き違い程度でしたら気にしません。常連さんを失うほうが痛いですよ」

「そう言うことなら……食べていこうか?」

「多少気まずくはあるけど、そのつもりで来たんだしね」

 立香が言い、クレオパトラ49世も同意の言葉を出した。

「でしたら、 ……4名様ですね。テーブルにご案内します」

 フレンドリーな笑みを浮かべて、須磨寺は4人を道路側のテーブル席に案内する。案内された席に、立香とランサー、クレオパトラ49世とセイバー、の組み合わせで隣り合って座り、向かい合う形になる。

「今、お水お待ちしますので」

 4人が席につくと、須磨寺は、一旦、調理場の方に戻っていった。

 その間に、4人はテーブルに用意されていた2組のメニューを手に取る。

「マスターは、彼の事を知ってたんね?」

 ランサーは、立香とクレオパトラ49世の顔を交互に見ながら、そう問いかける。

「ああ、うん、店長さんも言ってたけど、私達ここの常連だし……」

 立香がそう説明した。

「そう……そうか……うん」

「?」

 ランサーも、妙な声を出しながら、どこか怪訝そうな表情をしている。

 立香が、その真意を問いただそうとしたが、ちょうどその時、

「お水、お待たせしました」

 と、須磨寺が、シンプルなグラスに入った冷水をもって現れた。

「ああ、じゃあ、注文いいですか?」

 クレオパトラ49世が言う。

「あ、はい」

 須磨寺は、ニコリと笑いながら、制服のポケットに差してあった注文用の端末を手に取った。

「えーっと、チャーシュー麺と、ワンタンスープと、チャーハン、それと餃子」

 最初選ぶような言葉を出しておきながら、最初にチャーシュー麺と言ってからは、さらさらっとそれだけ注文した。

「それ、セイバーのマスターさん、1人で食べるのかね?」

 唖然とした表情で、ランサーが訊ねる。

「そうだけど?」

 何を言ってるのか、と、クレオパトラ49世は、あっさりと言い返した。

「他のお客様は、また後ほどの方がよろしいですか?」

 須磨寺が、視線を端末から立香達に移して、言う。

「ああ、じゃあ私、ワンタン麺と、チャーハンと、餃子」

「…………」

 立香もサラッとそれだけのものを注文する。それを見たランサーは、呆れたような苦笑を立香に向けてから、

「じゃあ、アタイはチャーシュー麺と餃子で」

 と、須磨寺の方に視線を移しつつ、そう言った。

「自分も2品頼むんじゃん……」

 立香は、どこか不満そうな表情になって、言う。

 須磨寺の方は、流石にどこか引きつった笑顔になってしまいながら、視線をセイバーに移す。

 セイバーの方も、どこか憮然としながら、

「麻婆豆腐定食で!」

 と、注文した。

「はい。承りました。しばらくお待ち下さい」

 須磨寺はそう言って、調理場の方へ向かっていった。

「しかし……セイバーのマスターさん、だいぶの健啖家なんね」

 呆れたと言うか、唖然と言うか、そんな苦笑で、ランサーは言う。

「ホントよ。私も大概って自覚はあるけど、アンタの場合、身体のどこにその量が入るのか」

 立香は、近所の小学生にも「俺達の方が身体でっかーい」としょっちゅう言われているクレオパトラ49世の肢体をテーブル越しに見ながら、呆れたような口調で言った。

「ふふん、栄養不足は美容の大敵だからねぇ。この美貌を保つには、カロリーもしっかり摂っておかないと」

 手を首の後ろに回すようにして、ボブカットの髪を軽く流しながら、クレオパトラ49世は得意そうな表情で言う。

「胸なんか()(しゅ)ちゃんにも負けてるくせに」

 立香は、呆れたように唇を尖らせながら、そう言った。

 高瀬輝鐘は、美鈴神父の娘だ。修道に入る前にできた子で、表向きは「教会が保護している娘」になっていて、輝鐘は常に美鈴を「神父さま」と呼ぶ。ただ、だからといって親子仲が良くないと言うのは、2人をほとんど見ていない人間だ。

 現在は11歳、誕生日は11月なので、小学6年生だが、胸に関しては、早くもCカップに差し掛かっている。

「は、この胸も合わせてアタシの魅力、美の造形! 闇雲にデカきゃいいってもんじゃないね」

 悔し紛れでもなんでもなく、クレオパトラ49世は、アウターブラトップに包まれた自分の胸に手をあてながら、自信に満ちつつも挑発的な笑顔で言った。

 それだけに寄りかからない主義ではあるが、自身の外見的魅力に絶大な自信を持っているというのは、やはり“クレオパトラ”だけのことはあるのだろう。

「あーさいで……」

 立香は、どこか辟易した、という様子で、視線をわざとらしく逸らしながら言う。

「お待たせしました」

 須磨寺が、両手にラーメン丼とトレイを持って現れる。

「チャーシュー麺とワンタン麺、それに餃子3つです」

「あ、チャーシュー麺アタシ」

「ワンタン麺は私に。餃子は、私と、向かいのと、私の隣」

 クレオパトラ49世と立香の言う通り、それぞれに配膳が行われる。

「残り、今お持ちしますね」

「はいー」

 一度調理場に戻っていく須磨寺に、ランサーが返事をした。立香とクレオパトラ49世は、既に割り箸を手に取っていた。

 芳醇な濃口スープの匂いに包まれながら、2人は割り箸を割る。

「いただきまーす!」

 

 

「あー、お腹いっぱい、満足ー……」

 そう言いながら、立香はランサーを連れて、自身のマンションへの途についていた。

 電停で電車を降り、徒歩で辿り着く────

「あれ?」

 立香は、それに気がついて、見上げた。

「203号室、誰か入ったんだ」

 その部屋の窓から、灯りが漏れているのを見ながら、立香は呟く。

「空き部屋だったのかい?」

 ランサーが問いかける。

「うん……完全な空き部屋じゃなくて、どこかが借りてるって話だったんだけど、実際には誰も住んでなかったんだよね」

「なるほど……ね」

 ランサーも、それを気にしたように、その部屋を確認してから、立香に続いて、その自宅の部屋に入っていった。

「ランサー、お風呂入れてもらっていいー?」

 ダイニングまで来るなり、立香がそう言った。

「不精が定着して、アタイがいなくなったらどうするんだい?」

「勝てば大丈夫でしょー」

 ランサーの言葉に、ああ言えばこう言うで、立香は返す。

 瑞苑の聖杯戦争は、聖杯は、「本来の願い」に加えて、「ついでに、自身のサーヴァントを受肉させる」という願いをセットでしか叶えない。

 したがって、瑞苑の聖杯戦争の勝者となったマスターのサーヴァントは、マスターに生涯に付き合うことになる。

「それに、お風呂はちゃんと自分で入れてたから。今日だけおねがーい」

「仕方ないねぇ……」

 やれやれと思いつつも、ランサーは、風呂の準備をしようと、洗面・脱衣所から浴室に向かう。

「ふむ……」

 浴室内は、狭くはあるが、清潔感のある状態に保たれている。

「自分にこだわりがあることは、ちゃんとやれるんだねぇ……」

 ランサーはそう言いつつ、浴室用清掃用の柄付ブラシと、スプレー式の浴室用洗剤を手に取った。

 

 しばらく経って。

「風呂の湯張りも機械任せとは、まぁいい時代なんだねぇ……」

 入浴の準備ができ、立香はその最中。

 ランサーは、台所用リモコンを見ながら、そう言った。

 そうしていると、

 ピンポーン

 と、ドアホンが鳴った。

「!」

 確実な感覚がした。ランサーは、それまでの柔和なニコニコ顔から、一気に表情が引き締まる。

 時刻は21時少し前。草木も眠る丑三つ時というほど遅くもないが、来客があるには遅い時間だ。

 無意識に足音を立てないようにしつつ、素早く玄関へ向かう。

「どちらさまだい?」

 扉にピタリと寄って、ひこで、扉越しに相手に訊ねる。

「今この部屋の(あるじ)は、手が離せないんだがね……」

「それは構わん」

 と、扉の向こうからは、女声と思しき声で、硬い男性口調の言葉が返ってくる。

「ひとまず、用事があるのは貴殿じゃからな、ランサー殿」

「!!」

 表情が更に険しくなる。

「少しだけ待っていておくれ」

「ええじゃろう」

 相手の言葉を聞くより早く、ランサーは、洗面・脱衣所に入っていった。

「立香!」

 今度は浴室の扉越しに、立香に声を駆ける。

「えっ?」

「誰だかわからないけどサーヴァントかそのマスターか、とにかく来た」

 ガチャッ

「本当!?」

 浴室の扉が開き、立香も目を見開きながら飛び出してくる────

「お、立香」

 ランサーは一瞬、その姿を見て、軽く驚いたように声を出した。

 立香は、入浴用の水着を着けて入浴していた。

「ざっと体を拭いたら追いかける! 行って!」

「あいよ!」

 立香の言葉に、ランサーは、威勢よく返事をしてから、玄関へと引き返した。

 扉を開く。

 すると、扉からは少し離れたところに、女性の姿をしたその者は立っていた。

 東洋風の藍色のシャツにショートパンツに、東洋でも日本と中華、それに西洋とも混ぜて折衷したような形状の、鈍い鉄色の鎧に身を包んでいる。

 鈍い光とともに、その手に槍が出現した。

「槍……ランサーはアタイだから……ライダーか、バーサーカーってところやね」

 言いつつ、同じように鈍い光を纏い、ランサーの衣装も、白いギリシャ調の衣服の上から、金色の鎧をまとった姿になる。

「受けて立つよ!」

 そう言って、ランサーは相手の元に駆け寄り────

 まるで阿吽の呼吸であるかのように、ランサーと、もう1体のサーヴァントは、高く飛び上がった。

 





ラーメンもきゅもきゅ49世
https://x.com/kaonohito2/status/1955215543583260760

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