Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第12話 不落(ふらく)不泣(ふきゅう)

「消えてしまいなさい!」

 アーチャーの肩に背負われた、2門の魔導砲の砲口が閃く。

 伸びる火線が、真正面からバーサーカーを捉える。

 実際には一瞬の出来事だが、その僅かな間、アーチャーの口元は、僅かにサディスティックさの混ざった、勝利の確信を口元に浮かべていた。

 カッ!

 確かに砲撃は、バーサーカーの真正面から、それをモロに捉えた。だが────

「!?」

 それを見て、アーチャーが、僅かに動揺を見せる。

 閃光と、光る粒子が作り出す煙が晴れた時、そこに、バーサーカーは平然と立っていた。

 普通の甲冑を着けている様に見えるバーサーカーは、何故か左腕に、未来的な外観の装備をしているセイバーやアーチャーと同じ、光の粒子の盾を展開する装置を嵌めていた。

「えーっ、なんで? なんで? 時代的なサーヴァントなのに、ビームシールドジェネレーターなんか着けてるのーっ!?」

 オルガマリー・オルタは、疑問の中に「ずるいーっ」という感情を混ぜた不満げな様子で、問い質すように言った。

「これか? 英霊の座に列される時に拾った」

「拾った、って……それで使えるようなもんじゃないでしょーっ!?」

 あっけらかんとした様子で答えるバーサーカーに、オルガマリー・オルタは、今度は()()()()()()()()声を上げた。

「まぁ、新治(にいはり)の精神があればこの程度、どうにでもなる。カッカッカッ……」

「どうにでも、ねぇ……」

 言い、笑い飛ばすバーサーカーに対して、静かにそう言ってため息を吐いたのは、そのマスターの柏木直斗の方だった。

「…………だとしても、今の一撃、盾ごとでも吹き飛ばせる程度の魔力は込めたはず」

 アーチャーは、唖然とした様子から、バーサーカーに鋭い視線を向けるような表情に変えながら、言う。

「それは、今、彼女が名乗っただろう」

 アーチャーの疑問の声には、直斗が答える。

「『不落奪還(ふらく・だっかん)・小田の陣(・おだのじん)』。小田氏治の()()()()()()()()、不屈と不死性の具現化だ。たとえ真名解放を伴っても、並の宝具では彼女を倒すことはできない」

「なにそれ……ずっるーい!!」

 それを聞いて、まずオルガマリー・オルタが、小児のような不満の表し方をする。

「フフ……なるほど」

 一方のアーチャーは、説明を聞いた瞬間は、理不尽に対する怒りに呆れが混ざったような表情をしていたが、すぐに、不敵な表情を浮かべる。

「ヘラクレスの『十二の試練(ゴッドハンド)』の下位互換、劣化版と言ったところかしら」

「ほ、言うてくれるのぉ」

 アーチャーに言われ、バーサーカーは、言い返しつつも、不敵に笑う。

「なら!」

 ダッ!

 アーチャーは、軽い跳躍で、ひさしから駐車場の路面へと降り立ち、同じ目線の高さでバーサーカーと向き合う。

「直接、攻撃が通る距離まで確実に仕留める!」

 ガッ!

 アーチャーは、メカニカルな装甲ブーツで路面を蹴って、バーサーカーへと一直線に迫る。ブーツのジェットブースターで、一気に加速して突進する。

 バーサーカーも、それを受けて立つように、向かってくるアーチャーに対して、自分からも槍を構えて突進していく。

 バチッ

「ぬぉっ!?」

 バーサーカーの槍の赤い穂先を、アーチャーは自身のビームシールドで横に払う。バーサーカーの短い声とともにその身体が一瞬逸れたところへ、アーチャーはその両肩に掴みかかろうとするが、バーサーカーはそれを槍の柄で妨げる。アーチャーの掴みかかろうとしていた手が、バーサーカーの槍を掴む。

 ──確かにアーチャーの言う通り、()()()()では、『不落奪還・小田の陣』は『十二の試練』の下位互換と言われても仕方がないが……

 バーサーカーとアーチャーとの取っ組み合いを見ながら、直斗は声に出さずに呟く。

 ──だが、それはあくまで─────────────

「貰ったわ!」

 グォッ

 アーチャーの肩の砲塔が動き、その砲口がバーサーカーの顔面の、ゼロ距離にまで迫る。

「ぬぉ!」

 寸でのところで、バーサーカーは、身体を右に捻って躱し、そのまま、アーチャーを振りほどいて側転しながら、組み合いから離脱する。

 ドンッ

 アーチャーがバーサーカーに撃ち込むはずだった射撃は、空を切り、コンクリート製のフェンスに命中した。

「フフフッ、なるほどのぅ……」

 バランスを崩した状態から立て直しながら、バーサーカーが、不敵に笑いつつも納得した様子の言葉を出す。

「クラスシャッフルとやらにどのような弊害があるかと思っておったが、今の動き────決して悪くはなかったが、武で名を馳せた英霊のものではないように見えた」

「!」

 図星を突かれて、アーチャーは一瞬、ハッとしたような表情になる。 ────が、

「だからどうしたって言うの?」

 と、逆に余裕気な笑みをつくって、アーチャーは言う。腰を低くし、構える。

「今の私には力がある! か弱い魔女なんかじゃない! 男に────誰かに頼らなければ生きていけない、か弱い魔女じゃない! それを証明するために、この力をモノにしてみせる!!」

 その言葉を言い切るのと同時に、アーチャーの砲口が閃いた。

 バーサーカーは、既にそれを見越したかのように、自身の左に向かって駆け出している。一方のアーチャーも、今のは牽制だと言わんばかりに、バーサーカーに同調して、向かい合った位置関係を保つかのように、駆け出す。

 ドンッ、ドンッ、ドゥッ

 アーチャーは、左片側の砲塔だけで、バーサーカーに向かって砲撃を繰り返す。バーサーカーも余裕綽々というわけではなく、険しい表情でそれを躱していく。

 バーサーカーの速度も常人を遥かに凌駕しているのだが、ブーツのブースターの恩恵か、アーチャーの方が僅かに優速だった。あるいは、バーサーカーが速度ばかりを優先せずに、直線的ではない動きをしていたら、違っていたかもしれない。

「貰った!」

 アーチャーは、身体ごとバーサーカーの方を向き、両肩の砲塔で射撃する。

 ゴワッ

 アーチャーの射撃が着弾した場所で、光の粒子の爆発が起こるが、 ────

「!」

 その瞬間には、アーチャー自身も、険しい表情を上に向けていた。その視線の先で、槍を両手で構えたバーサーカーが、着弾位置から弧を描いて、アーチャーの上段から刺突しかかってくる。

 バチバチバチバチッ

 その瞬間、アーチャーは自身のビームシールドを展開して構えた。バーサーカーの槍の穂先がそれに突き立つものの、その尖端だけで強い反発力を受ける。激しく火花が散る。

「……油断は禁物というところか、カカカッ」

 トンッ、と、間合いを取り直して路面に降り立ちながら、バーサーカーは不敵に笑いつつそう言った。

「ええ」

 アーチャーもまた、口元で挑戦的に笑う。

「今の私は、無力で泣くだけしかできない魔女(おんな)じゃないもの」

 

 ────────それを聞いて、ハッとした。

「ね、ねぇ、マスター」

 建物の影に身を潜めたまま、彼女に声をかける。

「え?」

 呼ばれる声に、それまで駐車場で繰り広げられていたバーサーカーとアーチャーの闘いを観察していた慎二は、振り返った。

「今の……まだ、断定的なことは言えないんだけど……」

 彼女の背後側、奥に控えていたキャスターが、険しい表情をして、言う。

「なに?」

 その様子に、慎二の方も真摯にも険しい表情で、訊き返す。

「あのアーチャー、多分、メディアだ」

「えっ!?」

 キャスターの言葉に、慎二の表情が色めき立つ。

「それ、本当?」

 慎二が更に強く問い質すが、キャスターは、どこか浮かない表情で、答える。

「だから、断定はできないんだけどさ、似てるんだよ」

「似てる?」

「…………冬木の第五次聖杯戦争のキャスターに」

「!」

 キャスターの答えに、慎二の表情が、更に強張る。

「…………────いや」

 慎二は、「その記憶の中で、私や、桜はどうなったの?」と訊いてしまいかけて、それを飲み込んだ。

「それが、メディアだったのね?」

「うん、そう」

 慎二が確認するように問いかけると、アーチャーは頷いた。

「よし、そういうことなら……仕掛けようかしら? できる?」

「!」

 慎二が、小さな舌なめずりをしながら、視線を駐車場の方に戻すと、キャスターも、表情がコロッと変わり、乗り気な様子の強気な笑顔になる。

「いつでもできるよ」

 キャスターはそう言うと、右手になにかを掴む仕種をする。

「────再現(トレース)・開始(・オン)

 そこに、一振りの、東洋と西洋を折衷したような剣が実体を構成され始める。

「偽・干将莫耶・表裏一体」

 その剣をキャスターが手に取ったのを見て、慎二は口元の不敵な笑みを強くする。

「さて、それじゃあ……」

「アチャ子さん! マスター!!」

 慎二が、自身で行動を起こそうとしたのか、キャスターになにか命じようとしたのか、とにかくその瞬間を遮って、キャスターの背後のルビーが、突然甲高い声を上げた。

「後ろです!」

 

 ドゴォオォォンッ!!

「!?」

 続いていたバーサーカーとアーチャーの戦闘は、外部からの、爆発音と衝撃音によって、中断された。

 隣接する住宅同士の塀が、僅かに隙間を作っている場所から、魔力(マナ)混じりの爆煙が吹き出してくる。爆風で、町民会館側でそこを塞いでいた金網フェンスが、千切れ飛んだ。

「こんな時に! なにが起こったって言うのよ!」

 拗ねたかのように、オルガマリー・オルタがそう声を上げ、子どものように地団駄を踏みかける。

 爆煙が晴れかけたところへ、まず、1人の女性────慎二がなにかを回避するように駆け出してきて、続いて、黒い何者かと鍔迫り合いながら、アーチャーが背中から飛び出してきた。

「間桐慎二!? アンタ、こんなとこで何してんの!?」

 その姿を見たオルガマリー・オルタが、目を(まる)くしながら、慎二に問い質した。

「半分は見れば分かるでしょう!?」

 慎二が、一旦オルガマリー・オルタに視線を向けて、声を上げ返す。

「私も、聖杯戦争のマスターってことよ!」

「じゃあ、残り半分はこういう事だろう? ────」

 直斗が、慎二に向かって言う。

「────『なんだ、こいつは!?』」

 まさにその通り、キャスターは、両手にやや短めの剣を持った黒い人間────人間のような姿をしたなにかであるそれの連撃を、必死に弾き返している。

 状況は、キャスターには余裕があるとは、とても言えないものだったが────

 ──この二刀流、この体躯、まさか、ウソ()()()!?

 防戦気味に、黒い何かと切り結び合いながら、キャスターはその相手の特徴を捉えて、そう思考を走らせてしまっていた。

「!」

 キャスターに生じた僅かな隙を逃さないかのように、その剣が上へと弾かれた瞬間、黒い何かは二刀流の一方で、下側面からキャスターの胴を薙ぎ払おうとする。

 ガッキィンッ!

 その薙ぎ払いが、途中で、突き立てられた槍に阻まれる。

「!」

「状況を全ては理解できぬが、この禍々しさ、道義はご婦人方にあると見た」

 ドガッ!

 バーサーカーは、言い、言葉の直後に、槍を支点にして鎧われた靴での蹴りを放ち、黒い何かの顔面に浴びせる。

「バーサーカー、小田氏治、助太刀いたす!」

 キャスターとともに間合いを取り直すと、槍を構えながら、黒い何かを睨みつけつつ、そう言った。

 黒い何かは、体勢を立て直しかけたが────

 ドシュッ、ドシュッ

 2回に分けて、6本の細長い剣が、黒い何かに突き立った。

「“黒鍵” だと!?」

 直斗が、驚愕したような声を出した。 “黒鍵” は、聖堂教会のエクソシスト(代行者)が用いる、霊的な存在に干渉する投擲用の剣だ。

「やった!?」

 オルガマリー・オルタが、黒鍵が縫い付けるように突き立った黒い何かを覗きながら、言うが────

 パキ・パキ……

 聖書のページを精製して作られた、霊的干渉力を具現化したそのものである黒鍵の刀身を、まるで脆い銑鉄のように砕きながら、黒い何かは動き始める。

「私が込めた力ではこの程度か」

「!」

 直斗の隣に、上空から、サン-ジュスト・オルタが降り立ち、冷静そのものの表情で言う。

「私本来の宝具ではないしな」

「聖堂教会のルーラー!」

 慌てふためいていると言うわけでもないが、サン-ジュスト・オルタ程には冷静に徹しきれてもいない直斗が、声を上げる。

「アイツは、一体何なんだ? 仮にもサーヴァントの攻撃を受けて、平然と動いているなどとは…………」

「私達にも、まだ理解しきれていない」

 サン-ジュスト・オルタは、まずは前提を言ってから、

「ただ、サーヴァントを模したなにかである事は確かだ。これと似たようなものが、数体、確認されている。それは、聖杯戦争のサーヴァントのクラスに適合する特徴を持っている」

「だけど、コイツ、どう見ても男よ!?」

 慎二が、言い返すようにやや荒い声で訊く。

「……それだけではない。その身体は、尋常ではない深い憎悪に穢れた泥のようなものでできている。そんなもの、瑞苑の聖杯戦争には考えられないものだ」

 サン-ジュスト・オルタが、そう説明する。

 すると、────アーチャーが、構えつつも、まずはぽつり、という感じで、言う。

 

「冬木の聖杯戦争」

 






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