Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第13話 アチャ子(キャスター)の過去

「冬木の聖杯戦争」

 

「えっ!?」

「なにっ!?」

 キャスターが、短く低い言葉でそう言った言葉に、キャスター本人と、黒い何かを除き、サン-ジュスト・オルタを含む、その場の全員が軽く驚く。

「冬木の聖杯は、過去の聖杯戦争で、アインツベルンがルール違反を犯して追加召喚した、イレギュラークラスのサーヴァントが持つ呪いの強さで、穢れてしまっていた。それ以降、冬木の大聖杯が完成する時、それが “泥” になって溢れて大地を焼き穢していたんだ」

「そんな……それじゃあ……」

 自身も、そして桜も巻き込まれていただろう冬木の聖杯戦争が、そんな代物を追い求めて行われていたと知って、慎二は表情を戦慄させる。

「衛宮士郎として、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして、英霊シロウ・イリヤスフィール・エミヤとして……どの生涯を通しても、 “憎悪そのものの泥”、そんなもの、その時しか見たことがない!」

「…………」

 ザッ……

 多少の回復の時間が必要だったのか、立ち尽くしていた黒い何かが、黒鍵のすべてを汚染しきって飲み込んだところで、動き始める。

 サーヴァント達は、その動きに対して構え直す────

「…………」

「えっ!?」

 黒いサーヴァントもどきは、顔────目、鼻、口、耳が確認できるわけではないが、明らかに、その視線をオルガマリー・オルタに向けた。そして、その次の瞬間────

 ガキィンッ!!

 一瞬、追いきれなかったバーサーカーとキャスターの動きより早く、サーヴァントもどきは、一直線にオルガマリー・オルタに攻撃を仕掛けていた。だが、それは、アーチャーが、ビームシールドを自身の全身をすっぽり覆うぐらいに広げつつ、全身で立ちはだかって食い止める。

 盾を構築している光の粒子が、突き立てられたかに見えた黒いサーヴァントもどきの二刀流の剣を侵食し、僅かずつだが崩壊させていっている。

「アーチャー!」

 オルガマリー・オルタは、その背中を見て、驚いたような、哀しいかのような顔をして声を上げるが、

「自己犠牲じゃないわ────否定はしないけど、サーヴァントよりもさらに物質性が低い、魔術的、霊的存在なら、今の私の障壁を破るのは不可能よ」

 と、アーチャーは、余裕気に不敵に笑いながら、そう言った。

「ルビー!」

「はいッ! お任せっ!!」

 チャンスと思ったキャスターが、剣の代わりに、背負っていたカレイドステッキ・レプリカを手に取る。

 ドンッ、ドンッ!

「疑似魔術回路、展開完了!」

 アーチャーのゼロ距離射撃を避けて、黒いサーヴァントもどきがアーチャーとオルガマリー・オルタから距離をとった────

「『旧世代多元重奏飽和砲撃(トリプレット・プリズム・フォイア)』!!」

 キャスターが、カレイドステッキ・レプリカを振り抜くと、そのヘッドの部分から赤・青・緑の星が迸り、それが1つの直線を軸に螺旋を描くように絡み合い、まるで色とりどりの無数の星が流れているかのようになって、その煌めきが、黒いサーヴァントもどきに迫った。

「────駄目、上!」

 オルガマリー・オルタが言う。ほぼ同時に、アーチャーが仰角をとった魔導砲で、射撃し始めた。

「!?」

 黒いサーヴァントもどきは、右下半身を失っていたが、空中でアーチャーの射撃を器用に縫って避けながら、夜空の────雲が星を遮った闇の中に、溶けるように消えていった。

「ウソでしょう……」

 それを見上げていた慎二が、声を漏らした。

「あそこまで損傷したら、普通、サーヴァントだって……純粋なマナを直接ぶっこむぐらいしない限り、維持はできないでしょうに……」

「そういう意味では、耐久力は高い」

 慎二の言葉に、サン-ジュスト・オルタは、淡々とした口調で答える。

「ただ、宝具の能力は高くない。真名解放をしてもオリジナルにはずっと劣る。全体としてはサーヴァントの下位互換と考えていいと思う。油断はできない存在だが……。それと、サーヴァントを召喚した状態の魔術師にはまず効かないが、集団心理を誘導する個体がいる」

「あ、あれみたいなのが、他にもいると!?」

 サン-ジュスト・オルタの言葉を聞いて、直斗が驚いたように、黒いサーヴァントもどきが消えていった方を指差しながら、問い質すように言う。

「ああ、ただし、まったく同一ではなく差異があるが。おそらく聖杯戦争の7騎、あるいはルーラーを入れた8騎がいるのではないかと思う」

 サン-ジュスト・オルタが答えると、直斗がうんざりしたような顔をする。

「…………」

「……キャスター?」

 その説明を聞いて、顎に指を当てて考え込むようにしていたキャスターに、慎二が声を駆ける。

「ええと……その、集団心理を誘導する個体、って言うのは、どんな姿をしていましたか?」

 キャスターは、最初に、返事をするように慎二を見てから、サン-ジュスト・オルタに視線を移して、訊ねた。

「…………痩せぎすの男で、常に猫背、といった姿をしている」

「…………ハサンの方か」

 サン-ジュスト・オルタの答えを聞いて、キャスターは再び、考え込むように視線を下に向けてしまった。

「それって、やっぱり冬木の第五次聖杯戦争の?」

「え、ああ、うん……────」

 キャスターの漏らした名前に、慎二が訊ねると、キャスターは、慎二に視線を向け直して、最初に惰性でそう答えかけて、

「────あ、違う。えっと……そもそも、冬木の聖杯戦争で呼ばれるアサシンが、ほぼ固定でハサン・サッバーハの一族なんだよ。例外はあるみたいだけど、基本的には今、ルーラーが言ったような姿をしてるんだ」

 と、はっと気付いたようにして、訂正した。

「アサシンか、なるほどな……その能力を悪用している、もしくはされているわけか」

 サン-ジュスト・オルタは、そう呟く様に言ってから、

「柏木氏はわからないが、地元のマスターは知ってるだろう? このところ、路面電車の接触事故が増えていることを」

 と、説明を始めた。

「ああ、撮り鉄がって言われてる……クハ200ってやつだっけ? 引退が迫ってるからって……」

 慎二が、反応して言う。自身も鉄オタと言うほどでもないが、最近、電車の車内や大きめの施設がある停留所に、引退セレモニーがある旨のポスターが掲示されていたため、覚えていた。先日、立香がそれ自身の車内で見たやつだ。

 すると、サン-ジュスト・オルタは、まず頷いてから、説明を続ける。

「すべてがそうではないだろうが、一部はカメラの砲列をつくっていたところへ、そいつが集団心理を誘導して事故を起こさせた。今日の夕方には、東瑞苑駅でかなり大規模な事故を起こさせている」

「ゲッ、あれ、そうだったんだ」

 慎二が、慄いたようにそう言った。

 かなり大規模な事故になっただけに、既にニュースになって、ローカルのラジオやWebニュースになって流れている。

「こうなったからには、聖杯戦争は一時中断、ということになるのか?」

 直斗が、サン-ジュスト・オルタに問いかけた。

我々(聖堂教会)はそれもやむなしと考えているんだが……」

「魔術協会の方が納得しない?」

 サン-ジュスト・オルタの、歯切れの悪い答え方に、直斗が、それを先回りするかのように、訊ねるように言った。

「ああ、 ……ルーラーのアッティスは我々に近い考え方なんだが、積極的に反対していると言うよりは……とにかく返答が遅い上に、はぐらかすような、具体性のない答えが返ってくることが多い」

「それは妙だな……ここの支局は、聖杯戦争の監視に特化していて、主体性を以て教会と取引したり、自己の利益を追求したりする組織ではないはずだが」

 サン-ジュスト・オルタの答えを聞いて、直斗は、怪訝そうに口元を手で覆いながら、言う。

「私達も……神父達もその様に認識している。だから、ここは強気に出ていいものなのかどうか、困惑しているというのが本音なんだ」

 サン-ジュスト・オルタが、直斗との会話をそこまで進めた時、

「あー、もー!!」

 と、焦れたかのように、オルガマリー・オルタが、手を振りながら声を上げた。

「気に入んない!!」

「あーあ、王女様の癇癪が始まったわね」

 慎二が、若干意地悪そうな、しかし陰湿さのない笑みでそう言った。

「会話に置いてけぼりだったから……そろそろ我慢の限界だと思ってた」

「そうじゃないわよ! っていうか、お子様扱いしないでよね!」

 オルガマリー・オルタは抗議の声を上げる。

「私だって魔術師の端くれだし、この身体はサーヴァントがベースだし、今の話がぜーんぜんわからないわけじゃないわよ。でも、この話には “楽しい” がまったくないの!」

「今はそんなことを言ってる場合じゃ……」

 直斗は、困ったような顔でそう言うものが、

「いえ、そうでもないんです」

 と、慎二が、その直斗に向かって、手振りで説明する。

「このオルガマリー(マリー)の “楽しい” は、彼女だけじゃなく、もっと……万人が笑顔になるような、 ……説明しにくいわね、とにかく彼女()()の主観に基づいたものじゃないんです」

「つまり、彼女が “楽しい” がまったくない、というのは……」

「はい、本質的に “より多数の人間に不愉快なもの” を示している事が多いです」

 直斗の訊き返すような言葉に、慎二は頷いて、そう説明した。

「そうよ! とにかく、この私の箱庭の中で、そんな “楽しい” が欠片もないことなんか、絶対に許さないんだから! アーチャー、あの黒いの、あいつらやっつけるわよ」

 ビシッ、と夜空を指差す姿勢で宣言し、アーチャーの方を向いて、同意を求めた。

「ええ、マスターの……いいえ、マリー、母として、あなたの為に」

 2人だけで妙に盛り上がっている様子を、この場にいる他のメンツは僅かに呆れの混じった苦笑で見ていた。

 その中で、慎二がポケットからスマートフォンを取り出す。

「ゲッ!? 何この着信数」

 ディスプレイを点灯させた途端、闘いのためにサイレントにしてあった最中の、無数の着信通知を見て、慎二は驚きの声を漏らす。

クレオパトラ49世(パトラ)に立香に……桜まで!? 桜に何かあったのかしら……」

 SMSの履歴も追う。

『生きてるか? ワカメ! 返事しろ!!』

『とにかく気付いたら、私でもパトラでもいいから、折り返して!』

『姉さん無事ですか? どうしても心配でメールしました。電話でもメッセージでも返事してください』

 どうやら桜ではなく、自分になにかあったのかと思われていたようだ。

「ほっ……」

 桜に何かあったのではない、と理解して、慎二は、息を吐き出して、文字通りに胸を撫で下ろしてしまった。 ……が、すぐにはっと気を取り直す。その桜に心配をかけてしまっているのだ。少し慌てて、桜からの着信履歴から、折り返し発信しようとする。

「……マスター、マスター!」

 そんな慎二を見ていたキャスターが、はっと気付き、緊迫してはいないが焦ったように慎二に声をかけた。

「えっ?」

「ほら、あの2人」

 キャスターが指差したのは、オルガマリー・オルタとアーチャーの2人組が、帰りかけようとしているところだった。

「あっ、そっか」

 慎二もその事に気がついて、

「ちょっ、ちょっと待って、マリー、それに、……えっと、アーチャー!」

 と、自宅である『佐藤デンキ』の方へ向かおうとしている2人の背中に、声をかけた。

「何?」

「どんな……御用かしら?」

 オルガマリー・オルタとアーチャーは、振り返りながら、訊き返した。

 すると、慎二はちらり、と、バーサーカーや直斗、サン-ジュスト・オルタの方を見た。それで察したかのように、キャスターが、その3人を遮るかのような位置に立つ。

「あ、えっと、バーサーカーとそのマスターさんは、ちょっと聞かないでくれるかな」

「アチャ子さんのマスターさんの為に、ご協力おねがいしまぁす!」

 多少申し訳無さそうな苦笑で言うキャスターに、ルビーの声が続いた。

「…………」

 それを確認してから、慎二は、アーチャーの方を向き直し、声を潜めるかのように言う。

「あなた、 “裏切りの魔女メディア”、ね?」

 そう問われて、アーチャーは、一度視線でオルガマリー・オルタと向かい合った後、

「『違う』、と答えたら?」

 と、訊き返した。

「…………こんな時だけど、少し、物騒なことになるわ」

 慎二は、表情を険しくして、そう答えた。

「…………ええ、そうよ」

 アーチャーは、少し勿体着けつつ、口元で笑んで、それを認めた。

「それで、だったらどうしたというの?」

「……貴女から、借りたい物があるの。あるいは、今回の召喚に持ってきていないのだとしたら、その情報の一部をあなたから読み取らせてほしいのよ」

 慎二の、真剣そのものの言い方に、アーチャーは、かえって毒気を抜かれたような表情をしてしまってから、オルガマリー・オルタの方を見た。

「どうかしら、私のマスター?」

「うーん、許可!」

 ()()()()オルガマリー・オルタは、わざとらしく考え込むように唸った後、手をあげて、応諾の声を出した。

「マスターが応じると言うから私も従うけど、本当は、等価交換であるべきなのよ、魔術師同士ならね」

 メディアは、柔和な笑みを浮かべつつ、手振りを加えながら、慎二にそう言った。

 ところが、それを聞いたオルガマリー・オルタが、言う。

「あら、それなら、私こそたまには慎二に返さないと」

「あら、普段お世話になっているのね?」

 アーチャーは、微笑ましそうにそう言うが、慎二の方は、

「心当たりがないとは言わないけど、立香やパトラほどだったかしら……」

 と、不思議そうに言った。

「うん、だって、慎二って……慎二っていうか、パトラといっしょにいるときの慎二、 “楽しい” が溢れ出してるもん!」

 アーチャーの応諾に、喜びを表情に出していた慎二だが、急にジト目をオルガマリー・オルタに向けた。

 普段、慎二とクレオパトラ49世が意地を張り合っては、ブランド負けする様子は、立香とともにオルガマリー・オルタも見ていた。

 また、クレオパトラ49世が、その慎二の自尊心をくすぐって、自宅比較動画など創ってネタにもしているのも知っている。もっとも、多段落ちのさらなるオチとして、立香の自宅があるのだが……────

 そんな状況だったから、

「どういう意味よ、それ」

 と、慎二も、少し機嫌を損ねたかのように、腕を組んで、そっぽを向いた。

 

 

 本町地区。間桐姉妹の部屋があるマンション。

 ピリリリリ……ピリリリリ……

 窓際に置かれた和室用のローデスクの上で、スマートフォンが着信で鳴動する。

 桜は、鳴動している自身のスマートフォンを手に取り、少し慌てたようにしながら、着信をタップした。

「もしもし? 姉さん? ……良かった……無事だったんですね」

『……ひとまずは、ってところだけどね』

「良かったです。クレオパトラ(49世)さんや立香さんから、姉さんに繋がらないって来て……私がかけても、出ないから……」

『それは……ごめんなさい』

 安堵する桜の言葉に、電話の向こうで、言いにくそうに慎二が謝罪の言葉を口にした。

『それより桜、もうお風呂入っちゃった?』

「いえ。 ……姉さんと連絡がとれないから、何かあったらすぐ出られるように、って。まだお風呂を入れてもいません。今から入れますか?」

『…………そうね、それはお願い』

 わずかに考える間があってから、慎二は言う。

『今日は、桜の身体を完全に綺麗にする日だから。すぐに一番風呂に入れるようにしておきなさい。桜、アナタがね』

「え……え……!?」

 

「すごいやつだよ、この可能性世界の慎二。()が気付いた時には、()()()手遅れだったのに! だから()も、今度こそ、瑕疵なく桜を助けなきゃ!」

「────再現(トレース)・開始(・オン)!」

 

 

 ────大交差点、中央の制御塔。

 カン・カァーン!

 電車が、大交差点への接近を知らせるための、フートゴングを鳴らす。

 時刻はまもなく23時。街中はまだ明るいが、路面電車の残り本数は少なく、自動車の数も徐々にだが減り始めている。歩行者の方は、もっと顕著に減っていた。

「…………」

 その制御塔の屋上で、街中に神経を張り巡らせるかのように、アッティスは立っていた。

 ちらちらと、気にするように、ここから直接視認できる間桐姉妹邸のマンションに、視線を向けていた。

 






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