「エーテライトだって!?」
その単語を聞いて、クレオパトラ49世が素っ頓狂な声を出した。
「ちょ、ちょっと、なんでそれを…………、サーヴァントとは言え、生前が明らかな近現代の日本人が持ってるのよ」
立香も、強引に室内に入ってきつつ、アサシンと琉希に対して、問い質すように言った。
「それほど驚くものなのかい?」
ランサーが、逆に立香とクレオパトラ49世に訊ねる。
「魔術協会の三大部門のひとつ、アトラス院の有力家系、エルトナム家が開発した……表向きは医療用の疑似神経、とされているナノフィラメント。まぁ、伝統的な魔術師の家系の常で、元来の開発目的はろくでもないものだったんだけどね……」
クレオパトラ49世がそう説名すると、この場の面子の視線が、アサシンに集まった。
「うん、そう。多分その “ろくでもない使い方” してると思う」
アサシンは、苦笑しながらそう言った。
「でも、それだとすると、表向き以外の利用法って、そのエルトナム家が秘匿してるんじゃないの? 魔術師って普通、 “神秘の秘匿” って言って、技術の共有を嫌がるし」
クレオパトラ49世の隣に立った立香が、腕組みをするようにしながら、訊ねるような口調で言う。
「まぁねぇ……アタシら瑞苑に住んでる魔術師みたいに、あけっぴろげな方が珍しいからねぇ……」
クレオパトラ49世が、立香の言葉に同意しつつ、戯け混じりの苦笑をする。
それから、再度視線がアサシンに移った。
「私の “生前”、そのエルトナムの子女と親交があって……ただの友達、って言う感じじゃなくて。なんていうのかな、戦友、みたいな? 同性愛……うーん、完全には否定できないってところ、みたいな?」
「なーるほど」
アサシンの説明に、ランサーが、どこかテンションの高そうな声を出した。
「それでその技術も託された、ってことだねぇ」
「はい」
ランサーの言葉に、アサシンは、チャーミングにニコッと笑って、言う。
「友情! 愛! 正義! まさにこうあるべきという美談です!」
セイバーまでもが興奮したような声を出す。
その一方で、
「その程度で、事実上の一族相伝の技を渡すかな?」
「うん……時計塔ならまだしも、アトラス院だからなぁ……」
と、立香とクレオパトラ49世は、他の4人に聞かれないように声を潜めて、言い合った。
「それで、えっと、シオン……あ、その、エルトナム家の……────」
「シオン?」
アサシンが言いかけた言葉を、クレオパトラ49世が、怪訝そうな表情で遮った。
「シオン・エルトナム? シオン・エルトナム・アトラシア?」
「あ……はい、そうです」
クレオパトラ49世が、問いかけるようにその名前を言うと、アサシンはそれを認めた。
「知ってるの?」
「ああ、だいぶ前から行方不明らしい。ただ、アトラス院は隠しているし、時計塔の情報だから、確実ではないかもしれないけど」
立香の反射的な問いに、クレオパトラ49世が答えると、それを聞いたアサシンは、
「えっと……シオンがこの時代、今頃どうしているかとか、この後どうするのかとは、ちょっと言えないかな……下手なこと言っちゃうと、この可能性世界でのシオンを危うくしちゃったり、最悪 “抑止力” が働いちゃうし」
と、頬を掻く仕種をしながら、苦笑してそう言った。
「ああ、そこまでは求めてない。でもまぁ、それなら
まず、クレオパトラ49世が、軽く手を振りながらそう言った。
「それで、そのエーテライトを使いこなせるってことでいいのかね?」
ランサーが、アサシンに訊ねる。
「うーん、シオンのように自在には……ただ、一時的につなげて、思考を読み取るぐらいの事はできます」
アサシンが、謙遜混じりに答えた。
「それで、あの言峰モドキの思考を読み取ろうってことですね」
セイバーが言う。
「はい。任せてください」
アサシンは、少しだけ自信ありげに、僅かに胸を逸らせてそう言った。
「ところで、さっき、アサシンが追ってたってのは、一体なんなんだい?」
ランサーが、アサシンと琉希を交互に見ながら、訊ねた。
「えーっと……それは、詳しいことは言えないんですが……」
琉希と顔を見合わせてから、アサシンが歯切れ悪く言う。
「とりあえず、大雑把でもいいよ」
立香が、そう言って説明を促す。
「そうそう、アタイらは、あの『
「!」
ランサーが立香に続く。すると、その言葉を聞いた琉希とアサシンが、はっと何かに気付いたように目を広げて、顔を見合わせた。
「今ので、確信が持てました」
琉希が、険しい表情で言う。
「あれはおそらく────あ、断言していいと思います。つまり、濃縮された憎悪の泥で練り上げられた、言わば『泥のサーヴァント』……────」
琉希はそう言い、複数の個体が存在すること、聖杯戦争で呼び出されるサーヴァントを模していること。ただし、ここ瑞苑の聖杯戦争で喚び出されるサーヴァントのルールに従っていないことを説明した。
「じゃあ、立香にあの槍を投げたのは……」
「今のランサーの表現が妥当なのだとしたら、クー・フーリンだと思います。男性の姿をしていたというので、スカサハではないでしょう。ただし、
ランサーの問いかけに、琉希は頷いて、そう答えた。
「ただ、あれは危険なんです。私、あの “泥のランサー” に、試しにエーテライトを繋げたんですが……────」
深刻そうな表情で、アサシンが言う。
「────意志というものがない、そこまでは、想定の範囲だったんですが、その……中身は、がらんどうの闇……深淵、直接触れれば、その闇に飲み込まれてしまいそうな……私は、生前が死徒だったので、耐えられましたが……────」
アサシンの説明がそこに及んだ時、クレオパトラ49世の眉がぴくん、と反応した。
「
クレオパトラ49世は、
──死徒だって
と、胸の中で呟いたが、声には出さなかった。
「今は直接狙われてくる、サーヴァントとマスターに危険が集中していますが、あれがずっとこの街でウロウロしていると、街全体が穢れていくことになりかねません」
「うーん……聖杯戦争はあくまでマスター同士で争うゲームであって、ヒーローごっこをする場じゃないんだがなぁ……」
「別に、いいじゃない。そんなのが野放しになってると、それこそ聖杯戦争どころじゃないんだしさぁ」
わざとらしく、唸って言うクレオパトラ49世に、立香は苦笑しながらそう言った。
「………師匠、ヒーローごっことか嫌いでしたっけ?」
「そんなもん、機会があればやりたいに決まってるじゃーん!」
琉希がそそのかす様に言うと、クレオパトラ49世は、椅子から立ち上がって、その手の甲側を見せるように、左腕を振り上げた。
「ライダーと言えば昭和ライダー! スーパー戦隊といえば
その様子を見た立香が、苦笑する。
「やれやれ」
瑞苑中通り1丁目、大通り沿いの中型雑居ビル。
終電が終わり、瑞苑町の街区も、自動車の走行音以外は落ち着き、 “静” の時間帯になる。
とある雑居ビル、その
ただ、人影が2人……否、3人いた。
「まだ、すべてのマスターとサーヴァントの能力は、見極めさせてはいないが……」
メガネで痩躯の中年男性は、そう言いながら、シックな赤に金の装飾が施されたハードカバーを持つ本を、差し出す。
「大丈夫です」
がっしりした体つきの男性は、それを受け取りながら、答える。
「
──…………?
その場にいた、もう1人の人物、女性のような麗しい外観をもつその者は、
「フフ……それならいいが」
「いえいえ」
メガネの中年男性が、口元で笑いつつも、疑問形で言葉にすると、がっしりとした男性の方が、それだけではないぞ、という感じで、手を振った。
「これは
「ほう」
がっしりした男性の言葉に、メガネの中年男性は、軽く驚いたと言うか、感心したような声を出した。
「それが解っていれば、聖杯戦争に有利になると」
「ええ、まぁ、
がっしりした男性は、口元に笑みを浮かべながらそう言った。
「明日からは、一気に他のサーヴァントとマスターを駆逐して、そのリンクする存在を手中に収めます。運命の糸を一気にこちらのものにしますよ」
がっしりした男性がそう言うと、メガネの中年男性は、満足そうな笑顔になった。
「そうか、よろしく頼むぞ」
「ええ、お任せください」
松原地区、クレオパトラ49世邸。
「とりあえず明日に備えるぞ。まずは風呂だ。時間が惜しいから、2人ひと組で入っちゃってくれ」
────という、
「おおっ!?」
脱衣・洗面所。
その肢体を見て、セイバーが声を上げた。
「
「わ、わざわざそんな声出さないでください……っ」
セイバーのナチュラルセクハラ発言に、アサシンは赤面して気恥ずかしそうな苦笑になるも、特に身体を隠そうとはしない。
「そう言うセイバーさんだって、なんか、女の私が見惚れちゃうようなくらい綺麗じゃないですか」
「そ、そうですか?」
アサシンの言葉に、セイバーは、気恥ずかしいと言うよりは、どこか決まり悪そうな顔をした。
「なんか……日常生活に疲れたOL、みたいな容姿してませんか? 私」
「なんですかその例え……でも、そんな感じはしないかなぁ。体型も綺麗だし、肌もつやつやだし……」
セイバーが問いかけると、アサシンはクスクスと可笑しそうに笑いながらそう答えた。
「うーん、久しぶりにセイバーをやっているのがいいんですかねぇ……?」
「なんですか、それ……」
そんなやり取りをしながら、2人とも縛っていた髪を
築年数は経過しているとは言え、注文住宅として建てられた戸建てだからか、浴室は広く贅沢にできている。リフォームにより、浴槽はステンレスだが、今どきのシステムバスのようになっている。洗い場には、
「あ、私、こっち使いますね」
そう言って、さつきは、シャワー専用の水栓に手を伸ばす────
「……アサシン、アナタ、流水は平気なんですか?」
セイバーは、その姿に軽く驚いて、アサシンの行動を凝視していたが、やがて、そう問いかけた。
「え!? あ、ああ、そっか。うん。今は大丈夫。サーヴァントになっているし、琉希クンからの魔力が充分だから……久しぶりにお陽様のあたる外も、お風呂も思い切り堪能できて幸せ!」
「なるほど」
アサシンの答えを聞いて、セイバーは穏やかな笑顔を見せた。
「あーでも、この季節の日向は、死徒とかそう言うの抜きにキツイなぁ……どうせだったら、春か秋だったら良かったのに」
「それは、同感です」
アサシンが、戯け混じりの苦笑でそう言うと、セイバーもそれに同意して、2人はクスクスと笑いあった。
『…………』
「よっと、…………」
すっ、と、立香がブロックを引き抜く。引き抜いたブロックを、てっぺんに乗せる。
「はい」
「じゃあ、こっちならどうだ、と」
立香に促され、クレオパトラ49世は、別のブロックを引き抜いて、やはり上に乗せた。
「だいぶバランスが悪くなってきたな……ホレ立香」
「よ、よーし……」
立香が、緊張で震える手で、ブロックを引き抜き────
ガラララララッ
「あーっ!」
「へへっ、これで3連勝♪」
倒れて崩れたジェンガのタワーに、立香が、慌てたような悔しそうな声を出すと、クレオパトラ49世は愉快そうに言った。
「うわ……ぁ……」
その肢体を見て、琉希は感嘆の声を上げた。
細かく見れば、指摘できる点もあるのかもしれないが……鎖骨が上がっておらず
「すごいですね……ランサーさん……」
「そうかい?」
琉希の言葉を聞いて、ランサーは、そう答えつつも、琉希に見せつけるようにポーズをつける。
流石にこの2人は、ジェンダー的な問題から1人ずつ入った方が良い、と、立香もクレオパトラ49世も言ったのだが、
「ぼ、ボク、ランサーさんがどう自分の身体を見せているのか、知りたいんです、駄目ですか?」
「あっはっは、そう言うことならいいじゃないか。浴場で見せたぐらいで減るもんじゃなし」
という、琉希の要望とランサーの言葉で、2人で入浴となったのだった。
「おやおや」
ランサーの肢体に見
「ちょっと、刺激が強かったかねぇ」
「す、すみません」
「別に、謝ることはないさね、アタイの身体がそれだけ魅力的ってことだからさ」
反射的に謝る琉希に、ランサーは笑い飛ばすように返した。
「ただ、その……」
赤面しつつ、ランサーを直視できない様子で琉希はおずおずと言う。
「うん?」
ランサーが、その言葉を促すようにすると、琉希は、一転して、真剣な表情をして、ランサーを見る。
──おや?
琉希の肢体を真正面から見て、ランサーはそれに気がついた。
「ただ、その、エッチな気分になってるってだけじゃなくて……その……ボク、ランサーさんみたいになりたいです!」
思い切った口調で、琉希はランサーに吐露した。
「アタイみたいに? 女になりたいってこと?」
「…………そう表現されると、なんか違うんですよね」
ランサーが訊き返すと、琉希は、どこか難しい表情をして、俯きがちになってしまった。
「なるほど、なるほど、 “女になりたい”
「は、はい!」
ランサーの言葉を聞いて、琉希は、我が意を得たり、という様に、興奮した様子で、声を出した。
「そうなんです。前から……肩も今のままなで肩であってほしいし、腰回りも……それに、その、ち、乳房も欲しいと感じるときもあるし。ただ、女になりたいっていうか、性別として男である自分に違和感があるのかって言われると、それはなんか違う気がして」
琉希は、今まで、どこか言語化できずにつっかえていた自身の感情と言うか、希望のような物が、するっと出せるようになった気がして、言った。
「いいじゃないか、別に。外見なんて性差の一要素でしかないんだからさ。別にそれだけで自分は女です、なんて言わなくたっていい」
ランサーは、豪快に笑いながら、そう言ったが、はっと気がつく。
「もしかして、聖杯戦争にも?」
「はい…………ただ、今まで、どう聖杯に願えばいいのか解らなかったんですけど、今、ちゃんと言えるようになって気がします」
「うん、うん……それに、あえて今のこの街に近づいたろう?」
「え……」
頷きながらも、続けてそう訊ねたランサーに、琉希は、僅かに絶句したが、
「はい……そうです」
と、すぐにそれを認めた。
現状の瑞苑町は、『エストロゲン受容体変異症』────身体の女性化が発生するというこの奇病の震源地だったが、だからこそ琉希は敢えて近づいた、というわけだ。
ランサーの見たところ、琉希の体型の女性化はすでに始まっていた。そもそも、とっくに声変わりを迎えている年頃のはずなのに、ややハスキーがかりつつも、一般的な男性が普段から意識せずに出すには、かなり高い声で話している。あまつさえ、明らかに乳腺が形成され乳房を形作ろうとしていた。
──この街に来て急速に進んでるのか、それとも前からなのか、まぁ、この娘にとって不本意なものじゃないなら、それでいいかね。
ランサーは、言葉には出さずに、胸中で呟いた。
「さて、ひとっ風呂浴びようかね」
「は、はい……」
堂々としたランサーと、まだ緊張した様子の琉希とで、浴室に入る。
お互い、シャワーでざっと身体を流してから、浴槽に浸かる。
「ふーっ……一戦終えた後の身体に染み入るねぇ……」
最初、ランサーが、リラックスしたように、そう声を出した。
「そう言えば、アサシンのマスターさん」
「は、はい!?」
ランサーに声をかけられて、琉希は、自分でもどうしてそうなったのかわからないうちに、緊張して驚いたような声を出してしまっていた。
「セイバーのマスターさんとは、師弟関係だと言ってたけど……」
「あ、はい……魔術の、じゃないですけど……」
「うん、それは聞いてる」
質問に琉希が答えると、ランサーはそう言ってから、
「ただ、夕方、セイバーのマスターさんと食事した時には、一緒じゃなかったろう?」
と、訊ねた。
すると、琉希が、いくらかリラックスした様子で、答える。
「ああ……ええ、流石に、師弟と言っても馴れ合うのは嫌だって、まぁ、主に師匠の意見だったんですが……」
「あ、なるほど。それじゃあ、別に拠点を用意していたってことかい」
「ええ、東瑞苑の駅から、小さい方のトロリーバスで2停留所ほど行ったところに、ひとまずマンスリーマンションを借りてあったんですが……」
琉希がそこまで説明すると、琉希もランサーも表情が締まっていく。
「だけど、変なのがチョロチョロし始めて、お互い危険だと思ったから、合流したってことか」
「はい。そうなります」
『一本! 勝負あり!!』
「あーっ!?」
折りたたみ椅子から立ち上がりかけつつ、立香が声を上げた。
23.8インチのディスプレイをNintendo Switchにつなぎ、クレオパトラ49世と並んで、2人とも、それぞれ形式の異なるアーケードコントローラーを抱えて、対戦していた。
「んもー、アンタのリ◯ルル強すぎ! 使用禁止!!」
「いいよー、じゃあ、次は誰使おうかな……と……」
抗議の声を上げる立香に対し、クレオパトラ49世は、余裕綽々、といった様子で言って、画面に視線を移す。
「マスター」
そこへ、セイバーが入ってきた。
「ランサーと、琉希さん、上がりましたよ。マスターで最後ですから、入っちゃってください。もう遅いんですから」
「へーい。じゃ、セイバー、悪いけど片付けといて」
「解りました」
入浴に向かおうとするクレオパトラ49世とすれ違って、セイバーはSwitchを片付けようとする。
「アンタもサーヴァントに片付けさせるじゃん」
立香が、口を尖らせて、不満気に言う。
すると、クレオパトラ49世は一度振り返り、ため息をつきつつ、呆れたように言った。
「そうじゃなくて、立香に片付けさせると無茶苦茶になるのが嫌なの」
「ぶーっ」
野郎もデザインしちゃうぜー
柏木直斗
https://x.com/kaonohito2/status/1956941228874023211
ちなみに、既存の型月キャラをベースに入れてあります。
あと、服装は昔の(型月無関係の)ドラマの主人公のものです。
(『探偵物語』の工藤俊作(松田優作)と思ったあなた、惜しい!!)
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。