Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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やらかしについて、あとがきで後述


第18話 委ねて進む

 ────瑞坂台教会。

「!」

 キャスターが、それに気がついた。

「マスター」

 その耳元に寄って、慎二に囁く。

「なに?」

 若干、緊張していた様子の慎二が訊き返すと、キャスターは、顎で周囲を見るように示した。

「!」

 そして、慎二も表情を険しくする。

 いつも、色とりどりの花が咲くプランターに囲まれている瑞坂台教会だが、そのうち、いくつかのプランターの花が、枯れてしまっていた。

「姉さん……」

 桜もそれに気づいてしまった。慎二に身を寄せ、その左腕を軽く掴む。

「…………世話が行き届いてない、あるいは、原因が教会の中にあるんだとしたら、全部の花が枯れると思うんだけど……キャスター、あなたはどう見る?」

 慎二は、険しい表情をしながら、潜めた声で呟くように言い、最後にキャスターに()()()

 キャスターは、顎に手を当てながら、

「多分、それは合ってると思う。教会自体に不穏な感じはしない」

 と、やはり険しい顔で言った。

「だから……」

 キャスターは、周囲を見渡す。

 プランターの他に、教会全体は生け垣に囲まれ、敷地内には、何本かの梅の木、それに1本の柿の木が植えられているが、それらは萎れたり弱ったりしている気配はない。特に梅の木と柿の木は、夏の盛りに差し掛かった季節の落葉樹に相応しく、緑の葉を盛大に茂らせている。

 ──もしかして、一年草の花がプランター植えなのは、空気の穢れを察知するため、あるいは、それを兼ねている……?

 キャスターは、そのように思考を巡らせた。

 慎二とキャスターが、怪訝そうな表情で周囲をうかがいながら、小さいなりに荘厳さを演出する豪奢な木製の扉を開けて、本聖堂の中に入った。

 左手の壁にかけられた家庭用マルチエアコンの室内機が吐き出す冷風を、天井旋回の扇風機が撹拌している。

 美鈴神父は、もう日差しの強い初夏の8時台に、荘厳な司祭服を着て、教会正門に立って、平然とした顔で、登校する小学生の見送りをしている。ただし、水分補給は欠かさないが。

 しかし、信徒やその他の訪問者に、この季節の、しかも風通しが良い構造とは言えない本聖堂は、真夏には危険な室温になってしまう。

 故に、扇風機、それでもダメなら冷房と、さっさと取り付けてしまったのも、美鈴神父の意志だった。

 その、若々しい顔つきをしている美鈴神父だが、慎二達が本聖堂内に入った時、 ────表向きはともかく────小学生の子どもがいるだろう主婦2人と、世間話をしていた。

「あ……」

 美鈴神父が、慎二達に気がつく。

「すみません、どうやら、私の職務のようですので、皆様との歓談はこのへんで……あ、涼む場所が必要でしたら、どうぞゆっくりしていってください」

 美鈴神父はそう言って、主婦達との会話を切り上げる。

 彼女の方針で、礼拝や講読会などの時間を除き、日中は信徒だけではなく、一般に開放している。夏場はエアコン、冬場は煙突式ストーブを入れ、過ごしやすいようにしている。

 24時間解放の小聖堂の方に、スリム型の自動販売機も設置されている。最初はフリーでスポーツドリンクや麦茶、冬場はコーヒーやココアを提供していたのだが、流石に資金が続かず自販機化した。その分、災害時支援型を採用している。入っているのはアクエリアスとやかんの麦茶、ジョージアシリーズのコーヒーとココアと、メインはコカ・コーラ系なのだが、タカナシの牛乳と、筒型カプセル入りのキットカットとカロリーメイトが入っている。それと、炭酸飲料を避けている中でなぜか入っているドクターペッパー……────閑話休題。

「わが教会の保護が必要なようですね……」

 慎二の険しい顔、キャスターの気を抜く様子のない態度、視線がどこかオロオロとしているように見える桜、それを見て、美鈴神父はなにが目的で彼女たちが教会に来たのか、理解できたという様子だった。

「…………、ええ、桜の保護をお願いします」

 最初、言葉を選びかけた慎二だったが、美鈴神父の表情を見て、ストレートにそう言ったが、

「その…………」

 と、そこで少し、言葉を澱ませる。

「どうやら、魔術的に特異な存在のようですね」

 言い難そうに頭を掻く仕種をする慎二に、美鈴神父は、桜を一瞥した後、慎二の方に視線を向け直しつつ、言った。

「…………多分、桜自身にもう危険な要素はないと思うんですが」

 慎二自身も、桜を見ながらそこまで言って、美鈴神父に視線を向け直す。

「聖杯戦争とは少し、因縁があって。私がサーヴァントと行動している最中に、1人でいさせるのは少し、不安がありまして……」

「そういうことでしたら、 ……はい。承りました」

 美鈴神父は、真摯な表情で言ってから、ニコリ、と柔和な微笑みを浮かべる。

「あ、あの、よろしくお願いします」

 初対面というわけではないのだが、少し人見知りしたかのような気まずそうな表情で少し首を竦めつつ、桜は挨拶した。

「はい。大丈夫ですよ。ご自宅だと思って過ごしてください」

 美鈴神父は、安心させるような優しい口調で言った。

「キャスターのマスター」

 美鈴神父との会話が一段落したところで、別の声がかけられてきた。

「…………魔術協会のルーラーね?」

 慎二は、キャスターとともに視線を声の主に向けると、問いかける。

「ああ、うん。アッティスだよ。よろしく」

 ギリシャ風の白い衣装を来た、男性の胸郭を持つ女性は、どこかのんびりとした口調でそう自己紹介したが、

「と……のんびり挨拶してる場合じゃなかった」

 と、言って、表情を緊張感のあるものに変える。

「他のマスターと合流する予定なんだろう?」

「ええ、 ……アサシンとそのマスターがなにか知っているみたい。私はまだ面識のある相手ではないのだけど……」

 アッティスの問いに、慎二はそう答える。

「何かを確かめようとしているのは知っているよ。ただ、もし、その為に魔術協会の支局に行くんなら、気をつけた方がいい」

「気をつける?」

 慎二は、鸚鵡返しにアッティスに訊き返す。

「魔術協会が危険というのは、どういうことですか!? 聞き捨てなりませんよ!?」

 2人より先に、キャスターが背負っているカレイドステッキ・レプリカ、マジカルルビーが、問いかける言葉を発した。

「いや……危険とは言ってないよ」

 アッティスは、しかし、どこか憔悴したような表情で、言う。

「支局員は基本的に、役割に忠実な人たちばかりだよ。ボクのマスターも含めてね。ただ……その、支局長の様子が少しおかしくてね」

「支局長……? 折原さんが……?」

 慎二が、怪訝そうな表情で訊き返し、更に、

「ちょっと待ってください!」

 と、ルビーが割り込んできた。

「それ、ちょっとおかしくありませんか?」

「そうそう、普通この場合、ルーラー……アナタのマスターって、支局長じゃないの?」

 ルビーの言葉に、キャスターが続く形で、そう訊ねる。

「うん、ボクも珍しいなとは思ってたんだけど、今まで皆無ってわけでもなかったからね。あんまり気にしてなかったんだけど……」

 アッティスは、そう言って後頭部を掻く仕種をした。

「ひょっとして、サン-ジュスト・オルタが言っていた、魔術協会がサボタージュ気味なのって……」

「うん、そう。支局長がそう指示してる」

 慎二が問いかけると、アッティスはあっさりと肯定した。

「確かに、あの人は腹にイチモツあるな、とは思っていたけど……」

 瑞苑の魔術協会支局、『北豊田防災センタ』支局長、折原(おりはら)遼一(りょういち)

 魔術師と言うよりは、サラリーマンの中間管理職然とした、メガネをかけた中年男性だ。肥満体ではなく、()()()()スポーツマン、といった様子の、痩せ型だが痩せ過ぎもしていない体つきをしている。

 ただ、欲求という点でもサラリーマン的で、強い出世欲のようなものを見せる事がある。

「……私は魔術師ってそういうものだと思っていたから、あまり気にしていなかったけど……」

 慎二は呟くように言った。割と最近に外部から移住してきた慎二から見ると、「あけっぴろげ」な瑞苑の魔術師の方が異質にも見える。もっとも、最近は自身もそれに取り込まれているという自覚はあったが。

「解った、気をつけておくわ。ありがとう」

 慎二は、アッティスにそう言うと、次に、

「それじゃあ、神父。桜をお願いしますね」

「ええ……慎二さん、それに、他の皆さんも、どうか自身の安全を第一に……」

 と、美鈴神父と挨拶を交わして、瑞坂台教会を後にした。

 

「うーん……」

 バス停まで歩きながら、慎二は腕組みをして考え込む。

「キャスター、どう思う?」

「なんとも言えない」

 慎二の問いかけに、キャスターは素っ気なく返事をした。

「繋がっていると考えるのは簡単だけど、まだ断定できないよ」

「そうよね……」

 2人はそう言いながら、ミニストップ瑞苑瑞坂台店の脇を抜け、トロリーバスのループ線のある、バス停広場まで来た。

 そこへ、軽快車である50形トロリーバス、下谷地経由の明神行きの三菱ローザ/トヨタ コースター路線仕様とは、また異質の存在が、入ってきた。

「ふえぇ……この街、こんなのもあるんだ……」

 それを見て、感心してるんだか唖然としてるんだか呆れてるんだか、キャスターは、その場に立ち尽くして、口を半開きにしたような表情でそう声を出した。

 トヨタFB80型、ボンネットバス『瑞福号』。

 元々北豊田電軌の路線バスとして導入され、早々にエンジン換装とともにワンマン仕様に改造されて2扉車になっている。

 ボンネットバスの撤退がほぼ完了した昭和末期に、財産としての所有者を瑞苑町に移して、動態保存車になった。

 購入してさほど間を置かずに、日産ディーゼル工業のディーゼルエンジンに載せ替えていたが、現在I県は範囲内に入っていないものの、PM・NOx規制に追われるのを嫌がって、再度最近のトヨタ製ガソリンターボエンジンに載せ替えている。

 方向幕はLED化されておらず、『瑞坂台←(県営病院経由)→桜野中央』を提示していた。瑞坂台と桜野中央は、トロリーバスでは大回りになるだけではなく、その最短距離の街路に県営病院があるため、本数は多くないと言うか、このボンネットバスが木曜日以外の平日に保存運転を兼ねて往復している。外来診察のない土休日は設定なしで、別の観光ルートを走っている。木曜日は整備日として小型バスが代走していた。

「うわー……扇風機がついてるバスって初めて見た」

「私もここへ来て初めて見たわよ」

 乗り込む前から引き続き、立ち止まって「はぇ~」っという様子で車内を観察しているキャスターに、慎二はとっとと座席に腰を下ろし、頬杖をつきながら、皮肉そうな笑顔で言う。

 ────が、この『瑞福号』には、冷房は取り付けられていた。リアオーバーヘッドエアコンの冷気を、扇風機が撹拌している。

『ワンマンの桜野中央行きです。まもなく発車します』

 運転手の肉声での放送があった後、扉扱いブザーが鳴って折戸が閉まる。さほど年嵩でもない運転手だったが、器用にダブルクラッチを切ってギアを入れ、ボンネットバスは発車した。

 





ええすみません。
第6話で、当初支局長の名前を間違えてました。
その時を覚えている方は全力で忘れろ
忘れてくださいお願いします


具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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