Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第19話 一皿の余白

『赤塚行、ワンマンです、赤塚行でーす!』

 中通り3丁目電停に停車した、単行の電車、その進行方向前方の扉から、ぞろぞろと6人連れが降りる。何事かと、車内から窓越しに中年女性が見ていた。

 カン・カァーン!

 扉扱いブザー、自動メッセージの後に扉を閉めた後、フートゴングを鳴らして、電車は東瑞苑駅の方へ向かって発車する。

 ヴォオォォォォ……

 バタンバタンバタンバタン……

 電車が通過していき、更にしばらく待って、横断歩道の信号が青になってから、『珍來』瑞苑中央店が入っているビルの方へと渡っていく。

「あ!」

 途中、ガードレールに座り込んでいる慎二を発見する。今の電車に乗っているとみたのか、振り返って横断歩道上を窺い出した慎二に向かって、立香が、手を振って合図をする。

「お待たせ……電車が一緒じゃなかったってことは、歩いてきたの?」

 立香が慎二に訊ねた。

 間桐姉妹の住むマンションからの最寄りである役場前電停は、北川端を通って谷地へ向かう支線、松原へ向かう支線が、大交差点で分岐する手前にある────松原から見ると、本線に合流した後、ということになる。

 日中だと本線で15分ヘッドだから、待ち合わせ時間が同じなら、電車の中で合流するかもしれない、と、立香は予想していたが、それはなかった。

 また、そこそこの距離はあるものの、商店街を覗きながらブラブラと歩いてくる人もいないわけでもない。

「えっと、ボンネットバス乗ってきた」

 黙ったままガードレールから立ち上がる慎二の代わりに、キャスターがそう答えた。

「え? あれに?」

 立香が意外そうに言った後、

「教会に行ってたのか」

 と、立香の傍らにいたクレオパトラ49世が言った。

「そ」

 慎二は短く答える。

「それより、オルガマリー・オルタ(マリー)も呼んだんじゃなかったの?」

「ええっと……慎二、結構待ってるか?」

 慎二が訊ねると、クレオパトラ49世が逆に訊き返した。

「いえ。5分よりはちょっと過ぎてるぐらいかしら」

「ってー事は、今いないってことは、30分はかかるわな」

 慎二の答えを聞いて、クレオパトラ49世は、そう言って皮肉っぽい苦笑を浮かべる。

 先に書いた通り、県営病院を経由する桜野中央~瑞坂台のショートカットバスは、普段1台のバスが往復している。つまり、瑞坂台からそれに乗って来た慎二が5分と少し前にここに着いたということは、それが桜野中央へ着いて、折り返す便が最速ということになる。

 立香が、腕につけているスマートウォッチを確認する。時計は14時37分を示していた。

「しょうがないなぁ……先に用事、済ませちゃう?」

 立香が、鼻でため息を()いて、そう言った。

「そうだなぁ……」

 クレオパトラ49世も同意する。

「立香、ショートメッセージだけ飛ばしておいてくれるか?」

「うん」

 クレオパトラ49世も、オルガマリー・オルタとは親交があるにはあるが、この中では、アルバイト先被りがあることもあって、普段からやり取りが多いのは立香だった。

 立香は応じて、スマートフォンを取り出し、ショートメッセージを打ち込む。

 クレオパトラ49世と慎二が、ゆるゆると歩き出したので、立香もそれにつられて歩き出す。

「えっと……ランサーのマスターさん、ながらスマホは危ないですよ」

 琉希が、少し気まずそうな苦笑をしつつ、背後側から立香を嗜める。

「ランサーが見ててくれるから大丈夫」

「いや見てるけどさ、ノーマナー行為に慣れるのはどうかと思うよアタイも」

 改める様子もない立香に、ランサーも呆れたような苦笑で注進した。

「時間にルーズなのはいただけないわね……」

「まぁねぇ……」

 先行している慎二とクレオパトラ49世が、そんなことを言う。アルバイトで一緒になっている立香と異なり、2人にとっては、お調子者でいつもノリで動いているイメージが先行してしまって、そう考えてしまった。

 ────が、その2人が、『珍來』が入っているビルの、上階へのエレベーターホールへ繋がる玄関の前を通りかかった時。

「誰が時間にルーズよ!!」

「どわっ!?」

 いきなり聞こえてきた、その話題の本人の高い怒声に、2人が慌てて、奇妙な姿勢をとる。

「あれ、ついてたんだ」

 顔を上げた立香が、ニュートラルな表情で訊ねる。

「10分前行動なんてジョーシキでしょー。2人とも、お金に困ってなくてもたまにはアルバイトぐらいしなさいよねー」

 オルガマリー・オルタは、そう言いつつ、腕組みをしながらむくれっ面になる。

「ぐぬぬ……」

「悔しいっ……言い返せない……っ」

 普段一番常識離れしていると認識していた人物に常識を説かれ、しかも大雑把な約束だったとはいえ、自分達の方が目安の時間より10分弱ほど遅れて来たので、クレオパトラ49世と慎二は、反論できずに悔しそうに拳を握って声を漏らした。

「あれ、じゃあマリー、歩いて来たの?」

 立香がそれに気づいて、オルガマリー・オルタに訊ねる。

「ううん、メディアに抱えてもらって、ぽーんと……────」

 オルガマリー・オルタは、アーチャーを自身の傍らに立たせつつ、何事でもないかのようにそう説明しかけたが、

「おいおいおい」

「ちょちょちょ」

 と、クレオパトラ49世と慎二が途中でそれを遮った。

「人に常識語っといて、サラッと非常識な事してんじゃないわよ!」

 慎二が憤ったかのような声を出すが、オルガマリー・オルタは、軽く口元を尖らせて、

「別に、ビルの上なんて誰も見てないわよ」

 と、言う。

「ま、私は別に見られていても気にしないけど! それに、佐藤デンキ(うち)とここのビル以外、着地してないし、別にハンザイにはならないでしょー」

 このビルの屋上は、ビルオーナーの本意はともかく、エレベーター運転時間は事実上、誰でも屋上に入ることができた。

「ぐっ」

 慎二は、短くうめき声を出したかと思うと、スマートフォンを取り出し、ロックを外して、何かを入力し始める。

「こらこら。こんなつまんないことでわざわざAIに質問しない」

 クレオパトラ49世が、呆れたような笑いを浮かべつつ、慎二を嗜めた。

「その……こんなことをやっている場合ではないのでは?」

 セイバーが、真面目な雰囲気の口調でそう言った。

「そうだよ」

 立香の方は、仕方ないなぁというように苦笑しつつ、セイバーに同意する声を出す。

「…………」

 そのやり取りを見て、アーチャーは、口元に指を当てつつ、軽く俯いた姿勢で考え込むような、わずかに険しい表情をする。

「どうしたの? メディア?」

 オルガマリー・オルタが、アーチャーの様子に気づいて、訊ねた。

「いえ……最もだとは思うのだけど、セイバーに言われると、何故か負けたような気がすると言うか……」

「どういう意味ですか、キャスターさん!!」

 アーチャーの言葉に、セイバーは反射的に抗議の声を出すが、すると、

「はいはーい? 私の出番?」

 と、アチャ子(キャスター)が、セイバーの背後から声をかける。

「ざーんねん、今回私はア・ー・チャ・ー・よ」

 メディア(アーチャー)が、口元で不敵に笑って言った。

 セイバーは両手を震わせる。

「ややこしい!!」

 

「いない!?」

 店内に入り、()()()である立香とクレオパトラ49世が訊ねるが、対応した店主にそう答えられて、驚いたように声を出す。

 店内は、昼のピークが終わって、客は少なく、アルバイト店員も休憩のために外出、あるいは自身のシフトを終えて退勤し、やや静かになっている。

「ええ、無断で欠勤しているかと思ったら、階上(うえ)に見に行っても留守だしで……ウチとしても突然の事で困ってるんですよ」

 店主も、困り果てたといった様子で、立香達に説明する。

「だとすると、店主さんもどこに行ったのかは解らない感じですか?」

 怪訝そうな表情をしている立香達、地元組の脇から、琉希が、店主に向かって訊ねた。

「ええ……親族の連絡先も知らないもんで、どうしたものか……と」

 店主の答えを聞いて、琉希はアサシンと顔を見合わせる。

「師匠、どう考えます?」

「うぅん……」

 琉希に訊かれて、クレオパトラ49世は、腕組みをして考え込んでしまう。

「タイミングは良すぎると思うなぁ……」

 立香が、ボソッと言った。

 すると、 ────

「って、え?」

 立香が戸惑いの声を上げる。

 クレオパトラ49世、慎二、オルガマリー・オルタが、信じられないようなものを見た、という様子で、立香を凝視している。

「い、いや……」

 クレオパトラ49世が、歯切れの悪い言葉を出してから、慎二、オルガマリー・オルタと3人で、顔を見合わせて、声を潜める。

「立香が自分からこういうことを言うことがあるなんてな……」

「ホント、1人の時はともかく、私達といる時ってホント主体性ないのに……」

「これ書いてるやつも他のマスターが傍にいると、能動的に動いてくれないものだから、X(旧Twitter)に『主人公誰だっけ?』とか思わず書き込んじゃうぐらいだし……」

「よく聞こえないけど、もしかしなくても失礼なこと言ってるよね?」

 好き勝手言う3人に対し、立香は、ムッとしたような苦笑をしながら言う。

「でもさ」

 立香の抗議は聞こえていないかのような3人だったが、

「立香がこう言う時って、結構本質を突いてるっていうか、重要な選択肢を選んでる気がする」

 と、オルガマリー・オルタがそう言った。

 3人を挟んで立香とは反対側、オルガマリー・オルタの背後に付き添うように立っていたアーチャーが、口元で微笑ましそうにする。

 一方のクレオパトラ49世と慎二は、いかにも胡散臭そうな表情になって、立香を見る。

「あんた達ねぇ!?」

 流石に、苦笑まじりながらも少し強く憤ったように、立香は抗議の声を上げた。

「これ、アタイは怒った方がいいのかねぇ、笑った方がいいのかねぇ?」

 ランサーが、困ったような苦笑をした。

「ま、まぁ……」

 まだ、師匠(クレオパトラ49世)以外のここにいる人間関係をよく把握していない琉希が、宥めるような、微妙な声を出す。

「それで、この後はどうします?」

 アサシンが、クレオパトラ49世と立香とを交互に見ながら、訊ねる。

「うーん……」

 立香が、顎に手を当てて少し考え込む。

「後はなにかあるとすれば、魔術協会かなぁ」

「…………そのココロは?」

 立香の言葉に、オルガマリー・オルタが訊き返す。

「マリーや慎二が言ってたじゃん。魔術協会がなんかおかしいって」

 立香が答える。

「教会は多分、悪意があってなにかすることはない……聖堂教会本体は解らないけど、美鈴神父は信用していいと思うし……」

「まぁ、それしか手がかりがないってことでしょうね」

 姿勢を正しつつ、頭を掻く仕種をしながら、慎二が消極的ながらも同意の声を出す。

「それに」

 慎二は、表情を真剣なものにして、続ける。

「瑞坂台教会にアッティス────魔術協会の方のルーラーが来ていて、言ったのよ。魔術協会の支局長が妙な動きをしている、って」

「ううーん」

 すると、今度はクレオパトラ49世が立ち上がり直しながら、言う。

「確かに魔術協会の動きは妙だなと思ってたけど……あの人かぁ……あの人はあからさますぎてなぁ……支局で浮いてると思ってたから、こんなだいそれた事ができるとはなぁ……」

「でも、それで協会支部全体が機能不全になってるんだったら、疑ってみてもいいんじゃない?」

 クレオパトラ49世の言葉に、立香が手振りを加えながら返す。

「…………まぁ、慎二も言うとおり、他に手がかりもないし、行ってみるか……」

「そんじゃ、行ってみよー!」

 オルガマリー・オルタが、腕を上げて言うが、全員がぞろぞろと動き始めたところで、

「あ……でも、お昼食べてないし、食べて行かない?」

 と、立香が言い、ほぼ全員が前につんのめるようなリアクションをした。

 ランサーだけが、そのまま振り返って、

「立香、こんなときでも生活にかかる部分はマイペースなんだねぇ」

 と、言ってから、視線を店主に移した。

「店主、昼餉の時間帯は過ぎてしまっているようだけど、この人数、大丈夫かい?」

「ええ、まぁ、お客を断る程のことじゃありません」

 店主は、ランサーにそう答えた。

「1食挟んでだからな……カレー出せる?」

 クレオパトラ49世が、辟易したような様子を見せつつも、店内に戻りながら言う。

「ええ、午前の分の残りになりますが」

「じゃアタシ、それと唐揚げとワンタンスープ」

「食べるのは決まりなのね……」

 呆れながらも、自身もクレオパトラ49世に続く。

「私つけ麺」

珍來(この店)でつけ麺?」

「いいじゃない。外で待ってたから熱いラーメンって気分じゃないのよ」

 自身の注文に文句をつけてくるクレオパトラ49世に言い返してから、慎二は、

「それと餃子ね」

「店主、座席は?」

 自身でハンディターミナルを操作している店主に、ランサーが訊ねる。

「ええ、適当にどうぞ。急に混む時間でもないんで」

 店主は、そう答えた。

「じゃあ、アタイは生姜焼き定食を頼むよ」

「私は、揚げ焼きそばと餃子で」

 ランサーに、セイバーが続く。

「このお店、ボク達初めてなんですけど、なにかお勧めありますか?」

 アサシンと並んで、最後に店内に戻ってきた琉希が訊ねると、立香とオルガマリー・オルタが顔を見合わせてから、声を揃えて言う。

「チャーシュー麺!」

 






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