Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第20話 急転回廊

『次は、瑞苑ガーデンショッピングセンター、瑞苑ガーデンショッピングセンターです。このバス停は、終点ではありません。トロリーバスへお乗り換えのお客様は、次の終点、桜野中央までお乗りください』

 ピンポーン

 現役時代にワンマン仕様に改造されていたFB80『瑞福号』には、現代の路線バスでもおなじみの降車ボタンが取り付けられている。レトロ感を出すため、優先席付近以外は、当時物ではないものの、昭和時代のボタンが小さな物になっていた。

 それが押されたチャイム音が鳴る。

『次、止まります』

 次のバス停の案内と同様に、自動放送が告げる。運行支援装置は平成・令和生まれの小型バスと同じ物に交換されていた。当時のカセットテープのものは、町民会館のエントランスホールで展示されている。

 内燃機関のバスは、瑞苑GSCの広大な駐車場の中に入り、店舗入口の目と鼻の先の位置にバス停が設けられている。

 駐車場を出入りする無数の自家用車の流れに乗って、ボンネットバスは駐車場内を店舗に向かって進み、

『停車、停車』

 と、合成音声が運転手にそう告げる中、『(瑞坂台発)』と表示されているバス停標識がボンネットと重なる位置で停車する。

 プシューッ……

 左側の三角窓の直後の、降車口の折戸が開く。

 料金授受機も、当然のようにICカード対応のものが取り付けられている。

 ピッ……ピッ……

 10人連れという、異質な連中が、スマートフォンのモバイルPASMOか、カードのPASMOで支払いをして、降車していく。

「どうも、お世話様です」

「お世話様ですっ!」

 集団の最後から2番目で、琉希がそう挨拶しながら降り、最後尾だったアサシンは、それを聞いて、少し慌てたようにしつつ、自分もそれに倣って運転手にそう告げた。

「ありがとうございます」

 別に彼女に限ってそうしたわけではないが、運転手は降りていくアサシンに僅かに苦笑の混じった笑顔でそう告げた。

「あれっ」

 ボンネットバスの前に、自宅のある松原を通って明神へ行く小型バスの便が停車していたが、それを見て、クレオパトラ49世が意外そうな声を出した。

「どうしました? マスター」

 セイバーが訊く。

「いや……パークウェイがいるなと。珍しい」

 クレオパトラ49世が、セイバーの方を振り向かずにそう言った。

 そうしている間にも、パークウェイの明神行きは発車していった。

 北豊田電軌バスの小型車は、三菱への集中を避けるため、ローザの他、トヨタ コースター、マツダ パークウェイ、いすゞ ジャーニーEが存在していたが、このうちパークウェイとジャーニーEは、既にメーカーが生産終了して久しい。そもそも1974年のトヨタの中・大型バス撤退後、半世紀ぶりのトヨタ製新車バスとしてコースターの導入が決定したのが、まずパークウェイ、続いてジャーニーEの取り替えのためだった。

 パークウェイは既に定期路線に出ていくことがあまりなく、ボンネットバス整備日の木曜日を含む代走がメインになっていた────が、そこまで解るのはプチ鉄オタというか、普段配信ネタに飢えて色々観察・情報収集しながら街を歩くクレオパトラ49世ぐらいだ。地元組の、立香、慎二、オルガマリー・オルタも、ローザ、コースター、ジャーニーEは区別つかないと言うか気にしていないし、パークウェイに対しては「なんかブルドッグみたいなツラのバス」と認識している程度。もっともオルガマリー・オルタは、パークウェイに当たると面白がってその度にスマートフォンのカメラで撮影したりしているが。

 なので、

「……パークウェイ?」

 と、まだ滞在を始めて数日のセイバーは、キョトン、としたような表情で、訊き返した。

「いや、なんでもない」

「まぁ、重要度の低い話でしたら、いいんですが」

 誤魔化すように言うクレオパトラ49世に、セイバーは、ニュートラルな表情でそう言った。

 そのまま10人連れで、店内に入り、バス停直近のそれとは別の出入り口の傍らにある、ドムドムバーガー瑞苑GSC店に……────

「って、ちょ、ちょいちょいちょい」

 立香とともに、先頭を歩いていたクレオパトラ49世が、一瞬、後続を振り返ったかと思うと、慌てて声を出した。

「ちょっと、この人数、目立つよ……」

 追いついてくる形で、クレオパトラ49世と向き合った他の面々は、そう言われて、周囲を伺う────オルガマリー・オルタとアーチャーだけは、周囲がどう思おうと関係ないとばかりに、堂々としていた。

「別にそんなの、気にしなくたっていーじゃない」

「アタシだって別に、一般人の目を気にしてるわけじゃないって。でも相手に何事かと思わせたら本末転倒でしょうが……」

 オルガマリー・オルタが、少し拗ねたような表情と口調で言うと、クレオパトラ49世は、困ったような表情で返した。

「アタイら、完全に霊体化していようか?」

 ランサーが問いかける。

「うーん……ただ、もし逆に相手が敵対行動してきた場合、咄嗟の行動ができなくない?」

 立香が、自身の顎を支える姿勢で、訊き返すように言う。

「そうですね……万一の事を考えると、武装を隠していなければならないのも不安なぐらいですし」

 セイバーが、立香に対して同意の声を出した。

「じゃあ、やっぱ何組かに限って行った方がいいか……」

 クレオパトラ49世が、頭を掻く仕種をしながら言う。

「うーん……そうしたら……」

オルガマリー・オルタ(マリー)、誰が行ったらいいと思う?」

 至極真剣な表情をして、慎二がそう訊ねた。クレオパトラ49世は、ギョッとしたような表情になる。

「うーん……ここは……」

 オルガマリー・オルタは、わざとらしく唸る声を出しつつ、立香、クレオパトラ49世、それと、まだ直接見えないが、ドムドムバーガーの店舗の方を見る。そして、やがて決めたように、立香に向かって指を向けた。

「立香と、私!」

「えぇ~?」

 クレオパトラ49世が、あからさまに不服そうな顔をした。

「どうせじゃんけんとかで決めるぐらいだったら、マリーの直感でいいじゃない」

 慎二が、クレオパトラ49世に向かって、苦笑気味な表情でそう言った。

「まぁ、確かに魔術協会との付き合いって言うと、立香が一番ニュートラルか……────」

 クレオパトラ49世はそこまで行って、口を左右に伸ばす。

「────アタシは内情知ってるって言っても、逆に睨まれかねない事やってるし」

「私は結構新参だし、まして琉希さんはまったく事情を知らないでしょう」

「まぁ、そうですね」

 続けて、慎二が言い、琉希が苦笑しながらそれに同意した。

「よし、じゃあ」

 クレオパトラ49世は、視線を上げると、

「マリー、頼んだぞ」

 と、オルガマリー・オルタの両肩に手を置いて、真剣な表情でそう言った。

「ちょっと、それはどーいう意味よ!」

 立香が、クレオパトラ49世の背後から、抗議の声を上げた。

 

 ドムドムバーガー瑞苑GSC店の入口は、瑞苑GSC(ガーデンショッピングセンター)1階の東の端にある。

 なので、その入口を過ぎて、更に東側へと通路を進む人間はほとんどいない。

 突き当たりには『STAFF ONLY』と書かれた鉄扉があるが、実際には瑞苑GSCのスタッフの動線から完全に外れている。

 その扉自体には鍵はかかっておらず、取っ手を握って引けば開く。

 扉をすぎると、売り場のような清潔感のある内装から一転、コンクリートを単純にクリームホワイトに塗っただけの、殺風景な様相になる。

 階段を降りる。瑞苑GSCは地下1階も売り場だが、この階段にはそこへの踊り場が存在しない。地下2階には機械室との間に小さな鉄扉があり、そこを過ぎて、地下3階では、魔術協会瑞苑支局『北豊田防災センタ』の扉になっている。

「妙に静かだねぇ……人の気配がしない感じだよ」

 ランサーが、周囲を伺うような仕種をしながら言う。

 立香は、閉じられている鉄扉のドアノブに手をかけて、開けようとする────が、

 ガツン

「あれ?」

 立香が、間の抜けた声を出してしまう。

「どうしたんだい?」

 ランサーが声を掛ける。

「開かない……鍵がかかってる」

 立香が、振り返りもせずに、ドアノブをガチャガチャと回したり引いたりを繰り返す。

「えーっ」

 オルガマリー・オルタは、不満そうな声を出すと、ランサーを押しのけて、さらに立香の脇に押し入るようにして、自分でドアノブを握ると、立香よりも更に激しく、ガチャガチャガチャガチャとドアノブを回し、ガツンガツンと強引にドアノブを引いたり押したりし、更にはガンガンと扉を蹴飛ばした。

「もう! どうなってんのよ!」

「誰もいないんじゃ、しょうがないんじゃないかい?」

 憤るオルガマリー・オルタの背後で、ランサーが、立香に問いかけるような言葉で言う。

「うーん……その事自体がおかしいんだよね……」

 立香は、顎に手を当てながら、怪訝そうな表情をして、言う。

「まだ上のお店が営業している時間帯から無人? しかも、聖杯戦争の最中に?」

「そーよ!」

 立香の言葉に続いて、オルガマリー・オルタは、憤った表情でくるりと振り向きながら、声を上げる。

「こんな時に開いてないなんて、タイマンよ、タイマ……────」

 その瞬間だった。

 突然、黒い影が床から生えたかのように現れると、腕を伸ばしてオルガマリー・オルタを押さえつけるようにして抱え、立香の脇をすり抜ける。

「くっ!」

 比較的長身のランサー、アーチャーの、腰ぐらいの高さをすり抜けるようにして、階段を上がっていこうとする。

 アーチャーは、振り返りながら、肩の兵装を出現させて────

「うわっ、アーチャー! アタイが通ってからにしておくれっ!」

 やはり武装を展開したランサーが声を上げた。アーチャーの砲塔が邪魔になり、階段を上がることができない。

 そうこうしているうちに、オルガマリー・オルタを抱えた黒い影は、階段が反転している部分を曲がり、アーチャーの射線上から消えてしまう。

「待てっ!」

 アーチャーの脇を、身体を低くしてすり抜けた立香が、それを追う。アーチャーが一度砲塔を霊体化して格納し、ランサーもその横をすり抜け、アーチャーもそれを追うようにして階段を駆け上がる。

 黒い影は、小柄とはいえ人ひとりを抱えて、常人離れした速度で駆け上がっていく。ランサーが、立香をも追い抜いて、それに追い縋ろうとする。

 黒い影が、1階の踊り場まで上がった時────

 ドスッ!

「!」

 追い縋るランサーとは、反対側、扉側から、穂先が紅く輝く槍が、その黒い影を刺し貫いた。

 槍に刺し貫かれた黒い影は、泥が乾いて砂礫になるかのように、崩れていく。

「ぷっは……」

「大丈夫でしたか? オルガマリー殿」

 床に投げ出されたオルガマリー・オルタが、起き上がりかけながら見上げる。

「バーサーカー!?」

 オルガマリー・オルタの声に、バーサーカー 小田氏治が笑顔を見せた。

 ランサー、それに立香とアーチャーが追いついてくる。

「お初にお目にかかりますね。その黄金の槍、ランサー殿とそのマスター殿とお見受けしましたが」

「あ、ああ……」

 バーサーカーの言葉に、唖然とした様子になるランサーと立香は、やや歯切れ悪く返事をする。

「少しブランチ目的で離れたところで、すれ違ってしまったみたいだな……」

 バーサーカーの背後の方から、ドムドムバーガーのコーヒーの紙コップを手に、直斗が姿を表した。

「この人が、バーサーカーのマスターさん?」

「うん!」

 立香が、立ち上がったオルガマリー・オルタに訊ねると、オルガマリー・オルタは、今まさに連れ去られかけたとは思えない様子で、勢いよく言った。

「…………」

 直斗は、一度床に視線を向けて、怪訝そうな顔をする。

「あの、ありがとうございます」

 立香が、バーサーカーと直斗にそう声をかけた。

「いえ、こちらも隙を突かれてしまいましたから」

 まず、バーサーカーが返す。

「……今日の午後イチにはもう閉鎖されていた。夕方……もう少し経って、マスター達が活動する時間帯になれば、誰かが来るかと思ったんだが……」

 直斗が、視線を立香に向けて、言った。

「そうなんですか、うぅん……」

 立香は、生え際を掻くような仕種をして、唸ってしまう。

「! マスター殿!」

 ハッと、何かを察して、バーサーカーが直斗を突き飛ばしつつ、扉の方に身体を割り込ませた。

 盾を展開するまでの余裕はなかった。通路から迸ってきたそれが、バーサーカーの身体を、確かに貫いた。

「!?」

 それを初めて見る立香とランサーは、一瞬、愕然として立ち尽くしてしまったが、

「カカカカッ、なるほど、せいぜい劣化品しか用意できぬというわけか」

 胸に、刀身が螺旋を描いている黒い剣が突き刺さったまま、バーサーカーは、槍を構えつつも平然と立ったまま、妙に楽しそうに言う。

 その口調は、再び、女性らしいたおやかなものから、時代がかりつつも粗野なものになっていた。

 バーサーカーが片手を槍から放し、突き刺さっている剣を握る。剣は乾いた泥のように、サラサラと崩壊した。

「今のワシにはこの程度の攻撃は通らぬぞ」

 立香達がバーサーカーに駆け寄ると、扉の外、通路の売り場側に、黒い、がっしりした体格の男────泥のサーヴァントが、バーサーカーと対峙する体勢になっていた────が、

「あっ!」

 突然、その泥のサーヴァントは身体を反転させ、逃走を図る。

「まずい! 追え! バーサーカー!!」

「応!」

「ランサー! アナタも!」

「あいよ!」

 直斗と立香が、戦慄した表情で指示すると、バーサーカーとランサーは、 ────一般人のいる、日常の場面────の、はずの方角へ、泥のサーヴァントを追って疾走する。

 

 

 ────────時系列は、少し前後する。

 立香とオルガマリー・オルタが、閉ざされた扉の前で立ち往生していた頃。

「お待たせしました」

 カウンター越しに、店員が差し出したトレイを受け取る。

「ありがとうございます、ごゆっくりどうぞ」

 店員の言葉を聞きながら、カウンターから離れる慎二が、手に持っているトレイには、チーズポテト5Pと、コーラのMが載っている。

「はぁ……これなら、ここで食べて待ってたら良かったわね……」

 慎二は、ボヤくようにそう言った。

 暇つぶし程度の小さなメニューを注文したが、珍來での遅い昼食のせいで、本格的な食事ができるほど腹に余裕がない。

「ははは……」

 どう答えていいものか、やはりチーズポテトとホワイトウォーターをトレイに乗せている琉希が、誤魔化すように笑った。

「ナチュラルチーズバーガーをセットで。飲み物はコーラのL。それと、ナゲット5Pと、クリスピーチキン。以上で!」

 カウンターで、クレオパトラ49世が注文していた。それを見て、慎二が呆れた視線を向ける。

「あいつはあの身体のどこにそんなに入るってのよ……」

 そう言って、ため息を()いた。

「…………!」

 琉希と並んで、愛想笑いをしていたアサシンが、急に、表情を険しくする。

「みんな、窓から離れて!!」

 そう叫びつつ、自身はその窓に向かって仁王立ちになり、険しい視線をその外に向ける。

 まもなく日没の時刻、その窓の外が、突然キラキラと光って見えた。

 ガシャン、ガシャ、パリンッ……

 駐車場側の窓が粉砕される。

「な、な!?」

 慎二が声を出し、琉希とともにわずかに狼狽えつつ、身構える。

 無数の剣や槍、戦斧、様々なそれが、ガラスを突き破って、店内に突き刺さろうとする。

 その大半は、そこに至るまでに、ボロボロと崩れ落ち、砂礫のようになって床に撒き散らされた。だが、窓際にいた数人の人間が、血飛沫を上げて倒れる。

「セイバー!」

「はいっ!」

 アサシンが、ガラスが粉砕された窓から飛び出す。クレオパトラ49世が指示を出した時、既にセイバーは、様々なバーガーが山盛りになっていたトレイを惜しげもなく放り出し、それに続こうとしていた。

「蒼射!」

 アサシンにほんの僅かに遅れて窓から飛び出したところで、セイバーは、既に手に握っていたカリバーンPSの柄を胸元に、青と白の装甲、アーヴァロン・セイバーシルエットを纏う。

「!」

 アサシンを追って飛び上がりかけて、それを寸でのところで止める。

「そう……来ました……か」

 セイバーは、焦れたような表情と言葉を表しつつ、その気配のした方を振り返る。

 そこには、ロングスカートのドレスの上から西洋鎧を着けたようなシルエットの、黒い少女が立っている。 ────大地に立てるようにしていた、やはり黒い剣を、構えようとする。

 セイバーの方も、カリバーンPSと、脇盾として取り付けられているビームブーメランの、青いビーム刀身を出現させる。

「泥のセイバー!!」

 そう言って、カリバーンPSを構えた。

アサシン(さつき)!」

 琉希は言い、アサシンを追って外へ飛び出していく。

「私達も行くわよ!」

 2口でチーズポテトを食べきって、慎二も、そう言いながら琉希の後を追う。

 だが、

「!?」

 「うん」、と、肯定の返事をして、慎二に続こうとしたキャスターだったが、

「まずい! 追え! バーサーカー!!」

「応!」

「ランサー! アナタも!」

「あいよ!」

 と、直斗とバーサーカー、立香とランサー、それぞれの声を聞いて、ショッピングセンター内側の窓を振り返った。

 黒い、がっしりした体格の泥のサーヴァントが、魔術協会の出入り口の方から駆けてくる。

「────!!」

 キャスターは、右手に偽・干将莫耶・表裏一体を呼び出し、他の武装をも展開しつつ、自動ドアから飛び出し、泥のサーヴァントの行く手に立ちはだかった。

 泥のサーヴァントは、キャスターに対しては怯むこともなく、両手に短めの剣を二刀流で呼び出し、飛びかかってくる。

 ガキィインッ!

 泥のサーヴァントの二刀流と、偽・干将莫耶・表裏一体がぶつかり合う。

「つまり……そう言うことだよね」

 前回と違い、覚悟を決めたような眼で、泥のサーヴァントに睨むような視線を向ける。

「なら……()が相手してやるよ、泥のアーチャー!!」

 





主従下着艶姿 琉希クン&アサシン さつき
https://x.com/kaonohito2/status/1959424434030449022

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