Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第22話 シンリ(真理/心理)の光闇

「…………はっ」

 琉希が我に返る。

 目の前にいるライダーは、まだ姿勢を低くしたまま、視線を琉希に向けていた。

 その眼は、琉希に対して、敵意と言うか、害意というようなものを持っているのを感じる。

 

 ただ、強烈な違和感も同時に受けた。ライダーの瞳には、光というものがないように見えた。 ────この場に立香やランサー、セイバーがいたら、その違和感をより具体的に認識できただろう。

 琉希にとっては、それは漠然としたものだったが、瑞苑の聖杯戦争では、マスター殺しは禁忌(タブー)のはずだが、そんなものは関係ない、そう言わんかのような様子を感じ取り、たった今、上がってきた非常階段へと踵を返し、駆け出す。

 

 

「ふむ、ここでは被害が大きくなりすぎるな」

 バーサーカー(小田氏治)は、そう言って周囲を伺う。

「あそこがいいか」

 トロリーバスの通りの方を見て、バーサーカーはそう言うと、

「ハッ!」

 ガッ

 と、槍を支点に飛び上がり、泥のバーサーカーの頬に強烈な蹴りを入れる。そしてそのまま、泥のバーサーカーの背後、トロリーバスの通りの方へ降り立った。

 泥のバーサーカーが、バーサーカー(小田氏治)の方へと向きを変えた。

「こちらへ来い!」

 バーサーカーの言葉が理解できたのかできていないのか、泥のバーサーカーは挑発するバーサーカーを追って、駐車場を走り始めた。

「お、おい、待ってくれ!」

 直斗が、それを追って小走りに駆けていく。

 それを、慎二が気を抜かない表情で見送った、その後から、

「一体どうしたって言うの!?」

 立香が、オルガマリー・オルタとともに駆けてきて、慎二に問いかけてから、

「…………須磨寺、さん?」

 目の前の、見知っている筈の知らない顔を見て、立香が言い、オルガマリー・オルタ共々、怪訝そうな表情を向けた。

「ふむ……どうやら私はツイているようだ。ロードの仇敵だけではなく、このふざけた箱庭の娘までこの場にいるとは」

 狂喜の笑顔で、須磨寺は言う。

「箱庭の娘?」

 それを聞いて、立香も、表情を険しくしつつ、鸚鵡返しにした。

 すると、須磨寺は視線を立香に移すと、

「君たち、()()()()()()には解らないだろう……この瑞苑の街が、瑞苑の聖杯が、聖杯自身の為に作り上げた箱庭……取り込んだモノ(者/物)を逃さず、外部からは観測することすら許さない、閉鎖された世界だと言うことに!」

 と、口元に狂気の笑みを浮かべ、そう言った。

 すると────

 立香と慎二、オルガマリー・オルタは、お互い顔を見合わせるが、若干の困惑はあるものの、どこか毒気を抜かれたような表情をしている。

「そんなの、知ってるけど?」

 慎二が、僅かに困惑した表情で、そう言った。

「────…………は?」

 目を(まる)く開き、須磨寺は短く声を出す。

 あろうことか、折原までもが、立香や慎二達と同じような表情をしている。

「だから、知ってる。一般人はどこまで知ってるかどうか解らないけど、少なくとも、私達、瑞苑の魔術師は」

 立香が、手振りを加えつつ言う。

「そもそも、なんで私と桜がこの街に定住したと思ってるの? 外界の魔術的イベントから切り離されているからよ。ここなら、安全がある程度確保されるから」

「まぁ、慎二と桜ちゃんは特別な例かもしれないけど…………ここの魔術師、 “神秘の秘匿” に無頓着なの、気付かなかった? それとも、ただの地域色だと思ってたのかな?」

 ムッとしたような表情でいう慎二に続けて、立香が緊張感のない表情で説明した。

 その時、ふっと、オルガマリー・オルタが自身のサーヴァントを振り返ると、アーチャー(メディア)が、軽く俯くようにして、額に手を当てていた。

「? メディア、どうしたの?」

 軽く驚いたオルガマリー・オルタが、アーチャーに問いかける。

「大丈夫……大丈夫よ、ただ……」

 アーチャーは、自身も軽く混乱している、といった様子で、返事をした。

 立香は、それに気づいた様子はなく、説明を続けている。

「それに、出ようと思えば出られない場所じゃない。……赤塚駅で、2番線、3番線に行こうとすれば出られるよ」

 外の世界では、北豊田電軌の鉄道線は、 ────現在、北豊田電軌の鉄道線とされている路線(厳密には、そのうちの赤塚駅寄りの2/3ほどの部分)は、1966年の北豊田電軌移管もなく、1971年に廃止されている。

 赤塚駅は、1971年までは、その北豊田電軌鉄道線の前身である私鉄線が1番線で、2番線~4番線が国鉄線だった。

 “外の世界の赤塚駅” では、その鉄道線の廃止後、ホームのリナンバリングが行われ、旧1番線は柵で閉鎖され、旧2番線~旧4番線を新1番線~新3番線として、JR線ホームのみが存在する。

 “瑞苑の聖杯が閉鎖している世界” では、1番線~4番線はそのまま、1973年の北豊田電軌鉄道線複線化に伴い、0番線が追加された。関東では珍しいが、関西では、1番線より駅長室側にホームを増設する際に、しばしば取られる手法だ。

 そして、 “外の世界” でも “閉鎖世界” でも、2番線と3番線は、旧番号でも新番号でも国鉄→JR線のホームになっている。なので、「赤塚駅で北豊田電軌の電車から降りて、ここで2番線(または3番線)に向かって、JRの電車に乗る」という意志を持って乗り換えに向かうと、 “閉鎖世界の赤塚駅” から “外の世界の赤塚駅” に遷移できる。

 ちなみに入るときは、その前身の私鉄線に乗る、という意志を持って “外の世界の赤塚駅” の旧1番線跡地に向かうと、 “閉鎖世界の赤塚駅” の0番線・1番線への通路に入れる。

 ついでに、前身の私鉄線の区間のみ、沿線にある大学の学生は、例外的に電車に乗れたりする。

「────────と、これも一般の人にどこまで知られているかどうかは解らないけどね」

 右手の人差し指を立てつつ、立香は、苦笑交じりに説明した。

「そんなに緩い……だと!? この……シバの試運転では、決して映らなかったこの……閉鎖世界が……?」

「そうだ。瑞苑の聖杯は、 “独占と頽廃” の、外部の……自身の意にそぐわない魔術師が入り込んでこないようにこの世界を閉鎖している」

 折原支局長が説明する。

「だから、 “魔術的観測法には絶対に映らない” が、 “純粋な科学的観測法には容易く映る”」

「なんだと!? ……そんなバカな!」

 須磨寺が、狼狽と言うか、 …………自身の努力が徒労に終わったような表情になった。

「だって、天気予報が普通に見られるじゃん」

 立香が言った。

「これって、気象衛星に映ってるって事」

「……………………」

 すべての説明を聞いて、僅かな間、口をあんぐりと開けて、呆然としていた須磨寺だったが、

「くくくく……はははは……」

 と、顔を手で覆うようにして、哄笑を上げ始めた。

「それならば、尚更この地も、すべての文明も滅ぼさなければならない! カルデアの……ロード・アニムスフィアと、我々の、崇高な目的を破壊した、すべての人理に、報復するのだ!」

 そう言うと、ギラついた病的な視線を、慎二に向けた。

「もちろん、我々を破滅させたお前は、惨たらしく苦しめねば、我らの恨み、晴らすことなどできるものか!」

「慎二が、アナタ達を?」

 怨嗟の籠もった須磨寺の言葉に、立香も表情を険しくして、問い質す。

「そうだ、冬木の第五次聖杯戦争……ロードはそこで、カルデアスと観測装置の完成のための資金を得るはずだった、それを、こいつが、この小娘が────安易に、血も繋がらない妹とやらの為に、マキリの蟲蔵を破壊し、偽の小聖杯を冬木の聖杯から切り離したことで、冬木の聖杯は二度と役に立たぬガラクタに過ぎなくなったのだ────!!」

「そうでしょうね」

 須磨寺が憎しみの言葉を吐き出したところで、立香と慎二の間をかき分けるようにして、アーチャーが須磨寺の正面に立つ。

「アナタのおかげで気づけたわ。私がなぜ、マリーに惹かれるのか……いえ、そもそもなぜ、マリーが私を召喚したのか……────私は、その冬木の第五次聖杯戦争で、それに、この瑞苑の、今回とは別の聖杯戦争で召喚されていたのよ。マリスビリー・アニムスフィアにね!」

「メディアが、お父さまに……?」

 背後から、息を呑むような声で、オルガマリー・オルタが言った。

「ええ……ごめんなさい、私もはっきりと思い出したのは今のこの男の言葉で……欺いてしまう結果になってしまって……」

 アーチャーは、振り返って、オルガマリー・オルタに詫びる。

「う、ううん、それは別にいいよ! そんなことより……」

 オルガマリー・オルタがそこまで言うと、アーチャーも頷くと、視線を須磨寺に戻す。

「過去を通して未来を見る……タイムパラドックスの濫用。それは『』を侵す行為。確かに、魔術師はそこに至ろうとする。けれど、人理すべてをそれに巻き込もうだなんて、 ……確実に “抑止力” が働く。マリスビリーが決して、本来望んだ英霊を召喚できなかったのも、その一端なのよ!」

「…………」

「マリスビリーの参加した瑞苑の聖杯戦争で、私は彼にこう告げた」

 

『もし、本当に人理が滅びる姿を見てしまったら、アナタは、それに抗うことはできるの?』

 

「彼は過ちに気付いた。カルデアスの観測装置を完成させてしまったら、 “抑止力” は、その根幹である人理すべてを、 “焼却”、 “改竄”、 “すり替え”、ありとあらゆる手段で破壊しようとしてもおかしくはないと。 ────でも、その事に気付けたからか、私とマリスビリーは瑞苑の聖杯を手にした。ただ、マリスビリーの活動限界は近付いていた。自身の背負う業と、破綻した未来とを思い知って、自身の最期に、カルデアの完遂ではなく、自分が本当に守るべき()を聖杯に託したんだわ!」

「う、う…………」

 須磨寺は、両手で頭を抱え、蹲るように身体を屈めながら、呻く声を漏らしている。

「メディア」

 オルガマリー・オルタが、メディアの横から回り込むようにして、前に出る。

「今のメディアなら、お父さまのあの言葉、言えるよね?」

「ええ」

 オルガマリー・オルタは、具体的に何とは言わなかったが、アーチャーはそれを理解した。

 すっ、と、2人は息を吸い、合わせて声を出す────────

 

 恐れるなら、観測するな!

 絶望するなら、それを確定させるな!

 シュレディンガーの箱を開けたって意味なんかない!!

 可能性の火を自ら消すんじゃない!!

 ただ、今は、この世界を遊び尽くせ!!

 この世界を知り尽くせ!!

 すべての原理を解き明かせ!!

 その先にのみ人理の未来は存在している!!!!

 

 ────────ォ……

「ウォオォォォォォッ……」

 2人の言葉の後、僅かな沈黙を挟んでから、須磨寺は、自身の頭から顔までを掻き毟るかのようにしながら頭を振り乱し、獣のような雄叫びを上げた。

「アナタも……ロード……キサマも……私を……我々を…………裏切ったと……言うのか…………マリスビリー・アニムスフィアァアァァァ!!」

 狂気と憤怒、怨嗟に染まった、もはや人間離れした声で、須磨寺は言う。

「我々を……監理を……受け入れぬ……すべての人理、すべての文明、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろきえろきえろきえろキエロキエロキエロキ」

「!」

 須磨寺の背後に、黒い男性の姿が現れた。

「先ずは、あの男の、希望……()()()()()()()()()、小娘が! 消してやる!」

 須磨寺の言葉に答えるかのように、黒い男は、 ────

「!」

 ────立香とランサーが、見覚えのある黒い槍を振りかぶった。

 ドンッ

 オルガマリー・オルタに向かって、その槍を放とうとしていた黒い男────泥のランサーに、アーチャー(メディア)が凄まじい勢いで体当たりする。

「ハッ!」

 ドンッ

 一度緩んだところから、ブーツのブースターを吹かして再度強烈にタックルをかけ、泥のランサーを弾き飛ばした。 ────間髪入れず、

 ドンッ、ドンッ

 と、弾き飛ばした泥のランサーに向かって、魔導砲による射撃を撃ち込む。

 ヒュッ

 跳躍して着弾点から逃れた泥のランサーは、そのまま上段からアーチャーに飛びかかろうとするが、その時には、既にアーチャーの砲門もそちらを向いている。

 アーチャーの笑みとともに、砲口が閃く。

「おのれ!」

 それを見た須磨寺は、自身の右手首を、左手で掴み、掲げるようにする。

「令呪を以て命じる!」

「!?」

 須磨寺の右手の甲から、渇ききったドーランが剥がれ始め……────鈍く輝くような、入れ墨のような赤い模様────既に1画が消えた、令呪が現れた。

「ライダー! この場に駆けつけ、この小娘を殺せ!!」

 ヒュ…………ンッ

「!」

 まるでテレポーテーションしたかのような超高速で、豊田信組桜野支店の非常階段から、オルガマリー・オルタの真正面に、ライダーが現れた。

「ランサー!」

「あいよ!」

 まるで立香がそう言うと解っていたかのように、ランサー(ヘリオガバルス)が飛び出す。

 ガインッ!!

 ランサーの盾が、ライダーの槍を弾き、そのまま、顔同士が迫るまで肩で押し合う。

 ファオンファオンファオンファオン……

 ピーポーピーポーピーポーピーポー……

 サイレンの音に、立香とオルガマリー・オルタはっと我に返る。

「立香!」

「解ってる!」

 オルガマリー・オルタの言葉に、立香は、令呪のある右手を掲げる。

「令呪を以て命じる! ランサー! ライダーごと、人の目の届く範囲から離れて!」

「あいよっ!」

 令呪の力を受けたランサーは、自身の身体に薄っすらと光を纏いながら、ぶつかり合うライダーの槍を自身の槍で横へ弾いて逸らすと、そのまま正面から組み付き、今度は目にも止まらない高速で、掻き消えるように、その場から離れていった。

「お前達、何をしている!?」

 警察官の声に、立香が振り返る。

「え、あ、えっと……」

 立香が、この場がマズそうな雰囲気を感じつつ、キョロキョロと周囲を見回していると、

「我々が説明させていただきます」

 と、やってきた警察官に、サン-ジュスト・オルタが向かい合った。

「え、あ、ああ……」

 まだ、説明する、と告げられただけにもかかわらず、サン-ジュスト・オルタと向かい合っただけで、警察官達は、気の抜けたような表情になりつつ、力が抜けた様子になった。

「ここは僕達が始末しておくから」

 アッティスの言葉を聞いて、オルガマリー・オルタは空を見上げる。

「メディア! アナタも令呪の力が必要!?」

「いいえ!」

 オルガマリー・オルタの言葉に、メディアは答える。

 泥のランサーの槍を躱し、その方向を顔面に向ける。

 ドゥッ! ドゥッ!

 泥のランサーは、寸でのところでそれを躱すが、回避行動によって瑞苑GSCの敷地の外へと誘導されていく。

「そうだ立香!」

 各々のサーヴァントを追って、立香とオルガマリー・オルタが行動を始めようとしたところで、慎二が訊ねてくる。

「キャスターはどうしているか、知ってる?」

「キャスターなら、 …………えっ、まだ店内!?」

 立香が、その事実に気がついて、驚いたように店舗出入口の方に視線を向ける。

「チッ」

 慎二は舌打ちすると、その店舗出入口の方へと駆け出していった。

「え、えっと」

 自分達もどうするべきか、立香が戸惑った時。

「ま、待てっ、須磨寺!」

 折原の声が聞こえてきた。

 須磨寺は駆け出し、南向きの瑞苑GSCの、店舗の裏側の方へと向かっていた。

「彼を追って!」

 アッティスが言う。

「聖杯が不安を告げている、彼の行いは街を────世界を破壊する! この閉鎖された世界も、外部の世界も!」

 それを聞いて、立香とオルガマリー・オルタは、顔を見合わせてこくん、と頷きあった後、須磨寺を追って駆け出した。

 

 





間桐桜。
https://x.com/kaonohito2/status/1959720105249771787
慎二(♀)の意向で制服スラックス選択可の高校に通っている(割とおせっかい)。
髪を短くしたりリボンを白にしたりしてるのは自分の意志。

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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