Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第23話 Limited of...

「待て!」

 ビルの隙間を縫って逃げ────ているのか、駆けていく須磨寺の背中を、立香とオルガマリー・オルタが追いかけていく。

 その須磨寺が向かう前方に、大通りの商店の看板が見えてくる。

 既に日没の時間を過ぎ、空にはまだその残光があるが、繁華街の看板の灯りの方が目立つ頃になっていた。

「あ!」

 立香が声を上げた。

 路地は大通りにぶつかると、その路地の太さの割に、太い横断歩道のある交差点になっていて、横断歩道の中央分離帯の部分から右手に入ると、中通り中央電停がある。

 路地側の信号は赤を示していた。だが、須磨寺は通りがかったディーゼルの路線バスに向かって跳躍する。252系スペースランナーJP 3扉特装車の屋根に手をつき、身体をほぼ真横に傾けた状態でバスを飛び越えると、内側車線を走っていたエントリーグレードのエブリイバンの屋根を踏み、そのまま電停に降り立つ。

 電停にはちょうど、

『東瑞苑止まりでーす!』

 と、元京成のクモハ3150形が同じくクハ200形を牽引する形の2両編成が停車して、乗降を行っていた。

 須磨寺は、既に混雑時間帯に突入している電停の人混みを器用にすり抜け、電車に乗り込んでしまった。

「路面電車で逃げるとか、ありなの!?」

 オルガマリー・オルタが言う。

「この!」

 立香が、赤信号を強行突破しようとしたが、交通量の多い時間帯、路面電車によるパーク・アンド・ライド・タウンを構築してきた瑞苑町街区だが、それでも赤信号を突破できるような自動車の少なさではない。

 ヴォオォォォ……

 バタンバタンバタンバタン……

 立香の行く手を阻む車道の向こう側、距離的には目と鼻の先で、須磨寺が駆け込んだ電車は、視界の中を横切って東へと走っていってしまう。

「そ、そうだ! タクシー!!」

 立香が思いつき、オルガマリー・オルタと2人してあたりをキョロキョロとするが、時間帯もあって、空車で流しているタクシーの姿は見つからなかった。

 そんなことをしている間に、目の前の信号が青になった。

 ピヨ・ピヨ・ピヨ・ピヨ……

 視覚障害者用音響装置の音で、オルガマリー・オルタが我に返った。

「立香! 信号渡っちゃおう」

「えっ!?」

「ほら!」

 オルガマリー・オルタに服の裾を引っ張られて、立香も意識をそちらに向けると、オルガマリー・オルタが指を差す先に、既に次の電車が電停に接近してきていた。北豊田電軌唯一のステンレス車かつ、現有の電動車で少ない非・元京成車の元東急車クモハ7000形が、元関鉄のクハ350形を牽いている。

 この時間帯、電車の方も当然、瑞苑街線の運行密度は、帰宅輸送のためにかなり上がっている。

 2人が横断歩道を中央分離帯まで進み、電停のホームに駆け上がると、それに合わせるかのように、その電車は電停に停止した。

『お待たせしました、赤塚行きです』

 やはり、電動車では少数派の両開き扉が開いたところへ、立香とオルガマリー・オルタは飛び込んだ。

 ペーッ…………

『発車します、閉まるドアにご注意ください』

 プシューッ……ガラガラガラガラ、バタン。

 扉が閉まり、発車する車内で、息を()いていた立香とオルガマリー・オルタだったが、

「あ、そうだ」

 と、立香が思い出したように呟くと、スマートフォンを取り出した。

 

 

 カンカンカンカン……

 雑居ビルの非常階段を上がる。

 屋上の踊り場まで辿り着くと、

「はぁっ、はぁっ、はぁっはぁっ……」

 と、閉じられた鉄格子の門の前で、クレオパトラ49世は、膝に手を突いて屈む姿勢になりながら、身体の酸素を求める欲求に応じて激しくなった呼吸を、なんとか整えようとする。

「セイバー!」

 門扉の格子越しに、セイバー(XX)と泥のセイバーが激しい剣戟を続けている。

 セイバーはビームブーメランを使って牽制し、間合いを詰めたり広げたりしながら、フィニッシュを狙っているが、泥のセイバーはそのビームブーメランをも人間には考えられない高速の機動で躱しながら、セイバーに斬りかかろうとする。

 バチバチバチバチッ

 もう何度目かになるかわからない鍔迫り合い。光の粒子の刃と、泥のセイバーの黒曜の剣がぶつかり、激しく火花が散る。

 そのさなかに、険しい表情のセイバーが、声に出して言う。

「さすが、泥に写し取られた存在とは言え、別可能性世界のアーサー王(わたし)だけのことはありますか!」

 余裕などなかったが、逆にそれぐらいは声に出さないと、集中力が途切れそうだった。

「!」

 ブォンッ

 腰に装着されたままのビームブーメランが、泥のセイバーを横薙ぎにしようとしたが、

 シャッ、ドガッ

「ぐぅっ!」

 泥のセイバーは、それをギリギリのところで躱すと、セイバーを蹴飛ばし、間合いを取り直した。

「セイバー! くっ……」

 ガチャガチャッ

 見ていたクレオパトラ49世は、思わず格子の門扉を掴んで揺するが、門扉は開かない。見ると、門の取っ手に鎖がかけられ、南京錠で留められていた。

「いよぉし」

 門扉の高さは、平均的な大人の男性より頭ひとつ分くらい高い程度で、上に有刺鉄線などは張られていない。門を乗り越えようと、クレオパトラ49世が門扉に取り付こうとしたときだった。

 ピリリリリリ……ピリリリリリ……

 スマートフォンの着信音が鳴る。

 取りかかりかけた行動を中断し、マイクロショートパンツのポケットからスマートフォンを取り出す。

「立香?」

 その表示を見て、怪訝そうにしつつ、「通話」をタップした。

「もしもし……うん、うん? 須磨寺さんが!?」

 立香から、その場に居合わせなかった情報を聞かされ、クレオパトラ49世の表情が険しくなってくる。

『それで、東瑞苑の方へ向かってるんだけど、どこへ行こうとしてるのか見当がつかなくて……』

 電話の向こうで、立香が困ったように言う。

「…………断定はできないが、心当たりが一ヶ所だけある」

『えっ?』

「ガス屋の貯蔵所だ! あそこからなら、瑞苑の街区の大部分を吹き飛ばせるんだ!」

 

 

「きゃあああっ!」

「うわぁぁぁっ!?」

 店内で繰り広げられるそれに、買い物客が悲鳴を上げる。

 キャスター(アチャ子)と泥のアーチャーが、瑞苑GSCの1階、専門店街の通路で剣戟を続けていた。

 幸い、一般人に新たな負傷者は発生していない。

 だが、被害は広がり続けていた。

 100円ショップの店頭の陳列棚を倒壊させ、アンティーク調家具ショップが店頭に展示していた商品を木っ端微塵にし、輸入洋酒専門店の店頭の酒瓶を崩して割り、ワインが床にぶちまけられる。

 ──これ以上、被害は増やしたくない……

 キャスターは、心の中で呟き、憔悴する。

 ──でも、どこへ……

 キャスターとしては破格の身体能力で、泥のアーチャーの剣戟をいなし続けていたが、一気に決着をつけられるほどの余裕はない。

 カレイドステッキ・レプリカ(ルビー)の力を使えば、流れ弾で周囲を粉砕してしまう。

「地下よ! キャスター!」

 声がかけられた。

「売り場の階段から地下へ! 地下3階のシェルターなら、邪魔は入らない!」

 そう言いながら、慎二が、泥のアーチャーの更に背後から、追いかけてくる。

「!」

 刀身を左手で支えながら、キャスターは泥のアーチャーの斬撃を受け止めていたが、泥のアーチャーは、慎二の接近に気がつくと、そちらへ顔を向けかけた。

 ──まずいッ

 キャスターは、そう思った時、既に身体が動いていた。

「ぶふぉっ!?」

 ルビーが、愉快な声を漏らした。

 剣で泥のアーチャーの双剣を受け止めたまま、左手で背中のカレイドステッキ・レプリカを握り、その錫杖頭で泥のアーチャーの顔を引っ叩いた。

「なにするんですかキャスター(アチャ子)さん! いくらなんでもあんまりな扱いですよ!!」

 抗議するルビーの声を聞き流しつつ、キャスターは、泥のアーチャーに覆い被された位置からすり抜けると、

「ここまでおーいで、だ」

 と、泥のアーチャーを挑発する。

 泥のアーチャーが自身を追いかけて飛び上がったのを見て、キャスターは通路を疾走する。

「キャスター!」

 慎二は、キャスターと泥のアーチャーを追って、駆ける。

 東第2階段。

 屋上駐車場から地下3階まで貫く、建物の東西に2ヶ所存在する階段のうちの片方。

 キャスターと泥のアーチャーは、そこに吸い込まれるかのように向かい、下へ向かう階段を降りていくのが、どうにか見えた。

 慎二もそれに続いて、悲鳴の上がる店内を突っ切り、階段を降りていった。

 地下1階から、さらに下へと続く階段があるが、鎖で封鎖されている。だが、扉などで完全に閉じているわけでもない。

 その先で、金属がぶつかる音が聞こえる。

 慎二は鎖を跨いで越え、さらに階段を降りていった。

 地下2階の踊り場では、封鎖されている機械室への扉に、剣がぶつかったような、ついさっきについたと解る塗装の傷が見えた。

 グワッシャン!!

 階段の更に下で、破壊音が聞こえてきた。

 慎二は、急いで階段を降りる。

 地下3階の踊り場に着くと、『北豊田防災センタ』の、()()()()()の部分、防災シェルターの出入り口のシャッターが、グシャグシャに破壊されていた。

 だが、先程までと異なり、キャスターと泥のアーチャーが争っている音や声は聞こえてこない。

「キャスター!?」

 レイ・ラインは通じている。キャスターがやられたわけではないはずだ。

 だが、周囲はしんとしている。

 慎二は、シェルターの中に入り、進んでいって……────

 シュタッ

 背後で、何かが落ちたような物音がした。

「キャス────!?」

 慎二が、表情を明るいものにして振り返ると、そこに立っていたのは、黒い長身の男の姿の方だった。

「マスター! 離れて!」

 そう言いながら、キャスターもまた姿を表し、左手に握ったカレイドステッキ・レプリカから、泥のアーチャーに向かって複数の魔力弾を放つ。

 だが、その魔力弾は、泥のアーチャーに命中する寸前で掻き消えた。

 ただ、その隙を利用して、慎二はキャスターの方へ向かって駆け、泥のアーチャーから離れた。

「!?」

 慎二とキャスターが周囲を見る。

 その光景は、無機質な鉄筋コンクリートのシェルターではなく、剣が無数に突き立つ丘、そのど真ン中に、2人は立っていた。 ────立たされていた。

 

I am the bone of my sword.(────体は剣で出来ている。)

 

「…………仕方ない、やるよ。ルビー、魔力供給制御、お願い」

「はぁい♪ おっ任せくださーい!」

 深刻そうな、彼女にしては低い声で言うキャスターに、ルビーは変わらずハイテンションの声で答える。

「キャスター、何を……」

「そこから動かないでね、マスター」

 怪訝そうにする慎二にそう言って、キャスターは数歩、泥のアーチャーに向かって歩み出る。

 

I am the bone of my sword,(────体は剣で出来てたんだよ、) ...where once.(ほんとにね。)

 

「!?」

 泥のアーチャーが、驚いたかのように、一瞬、止まる。

 ただし、本当に一瞬のこと。

 

Steel is my body,(血糊は鉄で) and fire is my blood.(心は硝子。)

 

Steel is my body,(血糊は鋼で) and flame is my blood.(心は硝子。)

 

「同じ詠唱!?」

 そう、慎二が疑問を叫ぶ(いとま)も、あらばこそ────

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗。)

 

I've put together more blades than (気付けば何千って剣を造って)

I can keep track of.(きたっけ。)

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく、)

 

Unknown to loss.(一度だって負けはしなかったし、)

 

Nor known to Life.(ただの一度も理解されない。)

 

Nor known (……まあ、誰かに解ってもらっ)to Life.(たこともなかったけどね。)

 

Have withstood pain (彼の者は常に独り)

to create many weapons.(剣の丘で勝利に酔う。)

 

Enduring pain (王の苦悩も、少女の痛みも、)and suffering,(ぜーんぶ受け止めて、)

to create many weapons.(それでも剣を鍛(う)ち続けてた。)

 

「!」

 その時、僅かに泥のアーチャーが動揺したように見えた。

 

...I have no regrets.(故に、その生涯に)

This is the only path.(意味は不要ず、)

 

Never claim you have no regrets; (だから、“私”は彼の生涯に意味が)

I know you do.(欲しかったんだ。)

 

My whole life was(この体は)

"unlimited blade works"(無限の剣で出来ていた)

 

「!」

 慎二が身構える。

 泥のアーチャーの周囲に生み出された、無数の黒曜の剣が、慎二やアーチャーを取り囲むようにして、矢羽のように放たれる────

 

Your whole life was, Limited of...(だって、その体は、きっと……)

"UNLIMITED BLADE (ありふれた、最高の剣で出来てた)WORKS"(んだからさ。)

 

 ガキン!

 ガキッ、ガチッ、ガチッ、バキン! バキッ!!

 まるで泥のアーチャーと対になるかのように、鮮やかな無数の剣が、泥のアーチャーが生み出した剣とぶつかり、砕ける。

 武具の奔流同士が激しく打ち合い、砕け、対消滅していく。

 泥のアーチャーも、キャスターも、お互いの生み出す武具の奔流を、支え、制御するかのように、手を掲げていた。しかし────

「ぐ、ぐぐ……」

 キャスターの方が、くぐもった声を漏らした。

「魔力が足りてない!? マスター! もっと、へっぽこなりにキャスター(アチャ子)さんに魔力を回してください!!」

 ──いや、魔力は足りてる。

「誰がへっぽこよ! ……確かに最低限の自覚はあるけれど!」

 ──この程度で……泥の紛い物の方が、私より原初の強さを持っているというの……ッ

 ルビーと慎二が言い合いする間で、キャスターは、苦悶するかのような表情を浮かべつつ、声には出さずに弱音を吐いていた。

「…………!」

 慎二は、それに気がついた。

「令呪を以て命じる!」

 右手の甲を掲げて、言う。

「キャスター! 押し返せ!」

「…………!」

 その瞬間から、勢いが入れ替わり、それは劇的なものになった。

 キャスターの放つ武具の濁流が、泥のサーヴァントの武具の奔流を飲み込み、すべてを霧散する。

 泥のアーチャーが狼狽えたかのような動きをした瞬間、その時には────

 跳躍し、己の固有結界の中に生じた、その金色の剣を(つか)まえ、それを振りかぶり、真正面から泥のアーチャーに向かって真正面から斬りかかる。

「『偽・勝利を必す伝説の剣(エクスカリバー)』!!」

 ザンッ!

 泥のアーチャーは、頭部から股関節に向けて真っ二つに両断された。

 そのまま、泥のアーチャーの身体が、足元から崩れ始める。

「…………アリガトウ」

「!?」

 一旦、視線を床に落とした姿勢になっていたキャスターが、顔をあげ、泥のアーチャーの顔を見上げる。

 その時には、すでに、泥のアーチャーの頭部も、乾き、砂礫になって崩壊していくところだった。

「…………いり……や……」

 それだけ残して、泥のアーチャーは完全に崩れ、消え去った。

「…………違ぇよ、お前に輪をかけて救いようのなかった、考えなしの衛宮士郎(おまえ)だよ」

「…………」

 ボソボソと呟くように言った言葉は、ルビーには聞こえていたが……────

「なーにが『約束されし勝利の剣』は無理、よ」

 慎二が、ジト目でキャスターを見ながら、呆れたような声で言う。

「あはは……」

 気まずさを誤魔化すように、キャスターは、後頭部を掻く仕種をしながら、苦笑した。

「多分、マスターが令呪を使ってくれたから、できたと思うんだよね」

「ハイハイ、そう言うことにしておきましょうか」

 慎二は、そこまで呆れたように言ってから、

「……って、こんな事してる場合じゃない!」

 と、我に返ったかのようになった。

地上(うえ)に加勢に行くわよ!」

「うんっ!」

 険しい表情になって言う慎二に、キャスターも、返事をしてから、表情を引き締め、駆け出す慎二に続く。

「桜の居場所は……壊させない……!!」

 





主従下着艶姿 オルガマリー・オルタ&アーチャー メディア
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