Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第24話 残照・継焔

「うわ、わぁぁぁっ!!」

 瑞苑GSCの南側に面する、トロリーバス架線も張られている通り。

 突然、黒い巨漢が、横断歩道もない場所を横断した。

 通りかかった自動車のドライバーは、反射的に、パニックブレーキを踏みながら、同時にハンドルでも回避するように動く。

 ガチャン、ガチャッ

 片側2車線を走っていたミライースとシビックが接触する。更にそこへ、後続のクルマが停止しきれずにぶつかってくる。

 クルマは自走不可能になるほどの損傷ではなかったが、所謂玉突きの状態になって、団子状態になる。

「バッキャロー! こんなトコ渡ってんじゃねーッ!!」

 道路を横断していった泥のバーサーカーに向かって、ドライバーの怒りの声が響く中、直斗はバーサーカー(小田氏治)と泥のバーサーカーを追いかけていく。

「よし、思った通り、催し物はもう終わっていたようだな……」

 想定したその場所、町民会館駐車場に、泥のバーサーカーを誘導してきたバーサーカーは、そう呟くと、身体を反転させて、槍を構える。

 その瞬間、泥のバーサーカーが、声は出していないのに、激しい雄叫びをあげ、あたりを圧倒した事が感じられた。

「た━━━━!!」

 それに呼応するように、バーサーカーも声をあげ、槍を構え、泥のバーサーカーに向かって突撃する。

 ブンッ

 シュッ

 ザシュッ!!

 泥のバーサーカーが振り下ろした戦斧を、バーサーカーは、ギリギリのところで躱し、跳躍すると、その利き腕の肩に槍を突き立て、飛び越えるようしながらそれを抉った。

 だが、バーサーカーが泥のバーサーカーの背後側に降り立ち、お互い振り返って構え直した時、泥のバーサーカーの右肩には、攻撃を受けた痕跡すら残っていなかった。

 しかし、

「やはり……『十二の試練(ゴッドハンド)』、それがヘラクレス殿の宝具か……」

 と、それを見たバーサーカーは、むしろ愉快そうな笑顔を浮かべながら、そう言った。

「英霊の座に迎えられて以降! やり合ってみたいと思うておったが、ひとつの聖杯戦争に呼び出されるバーサーカーは1人……それが、このような形でも叶うとは!」

 バーサーカーが、狂喜に近い興奮の様子を見せていると、そこへ直斗が追いついてきた。

「直斗殿!」

 バーサーカーは、視線を泥のバーサーカーに向けたまま、ほぼ背後にいる直斗に声を上げる。

「宝具の真名解放の許可を!」

「…………解った、やれっ!」

 直斗は、片手をかざすようにしながら、そう言った。

「許諾、有り難く……ヴォ、ォ、オ、 ォ、ォォ……」

 バーサーカーの、穏やかな表情の似合う顔が、狂喜の笑みに染まっていく。見開かれた眼は、ギラギラとした光を放つような獣のそれになる。

「不死性と不屈の化身……どちらが上か、試してみようではないか……『常陸の不死鳥(いんすぱいあ・ざ・ねくすと)』!!」

 その()()()()()を開放しつつ、泥のバーサーカーへ向かって突撃する。

 怪気炎を口から吐き出すかの如き形相で向かってきたバーサーカーに、泥のバーサーカーは容赦なく戦斧を振り下ろす。それは、バーサーカーを頭から両断した────ように見えた、否、確かにそのはずだった。

 その戦斧からすり抜けたかのように、バーサーカーは、炎の紅に輝く槍を泥のバーサーカーの胸に突き刺し、更にそこから跳躍し、泥のバーサーカーの頭を横から強烈に蹴り飛ばす。

「アインツベルンは、なぜ、ヘラクレスをバーサーカーとして召喚することにこだわったんだ……」

 烈闘を目の当たりにしながら、直斗は声に出して呟いていた。

「俺自身、氏治のそれがヘラクレスにどれほど通じるのかとも思っていたが、ヘラクレスは、神話時代の存在ということ以外、不死性、不屈の象徴としては、エピソード的に内容自体にはそこまで神がかり的なものはない…… “十二の試練” 自体、不死性を担保するにはこじつけに近い……そう言う意味では、氏治の方がよりストレートだ」

 ────────ヘラクレスが受けた試練が12なら、小田氏治が再起し、反転勝利を収めたのは、上杉謙信の前に敗北した永禄6年以降、記録が残っているだけでも14回。

 なにより最後が違いすぎた。

 ヘラクレスは、色情が絡んで恨みを買い、毒塗れの衣装を贈られ、それを着た事で毒に侵されて苦しみ、それに耐えきれず火葬用の薪に自ら横たわり、友人に火をつけてもらった。つまり、安楽死だった。

 それに対して、小田氏治は、上位の大名を欺くことはあったが、自身が臣下に裏切られたとするエピソードはほとんど目立たない。むしろ、何度敗北を繰り返しても、近しい臣下は彼をよく支えた。最終的には常陸国を追われ、徳川の縁者である結城家に仕えて越前国に移るも、天寿を全うしたとされている。

 また、ヘラクレスは、地上での死の後に神界(オリンポス)に昇った後、再び地上に降りることはなかった。一方、小田氏治は、死後は越前永平寺にて弔われたが、後に常陸国新善光寺(現在の石岡市)に改葬された。つまり、死してなお、常陸に帰ってきた。 ────────

「宝具の候補からいっても、セイバーかアーチャーで召喚されたら手のつけようがないぐらい強かっただろうに……」

 直斗の目前で行われる烈闘は、しかしそこからは、武人の作法もへったくれもない、乱闘になった。お互い、武器を繰り出し、拳で殴り、脚で蹴飛ばす。

 単純な腕力では、泥のバーサーカーに一日(いちじつ)の長があるのか、時折バーサーカー(小田氏治)が大きく弾き飛ばされるが、それを何度受けても、狂喜の笑顔のまま、平然と起き上がる。

 そして、開いた間合いからの突進の際、泥のバーサーカーが戦斧を握る腕を狙い、槍の刺突を食らわせる。

 ────────狂宴は続く。

 

 

 キンッ、ガキンッ

 金色の槍と鉄色の槍がぶつかり合う。

 相手に向かって突き出された鉄色の槍が、金色の槍に払われる。

「ライダー……アンタ……」

 ランサーは、その攻撃をいなしつつも、ライダーに向ける険しい表情の中に、怪訝さを混ぜる。

 初めて戦った時の、楊宗保の恐妻家の伊達男という様子ではなかった。かと言って、楊延瑛のあざとい女性のイメージには尚更見えない。

 とにかく、瞳に光がない。妻についてボヤきながらも、妙に楽しそうに戦うライダーの姿ではなかった。

 その戦う姿も、まるで現代の機械仕掛けのように、臨機応変ではあるものの、自動的に戦っている、そんな状態だった。

 ガンッ、バキンッ

 ライダーの素早く鋭い突きの連撃を、ランサーは、傾けた盾を使って受け流す。

 ──令呪を使って、自我を封じられてでもいるのかい?

 心の中でそう考えたが、声に出す余裕はなかった。

「ッ!」

 ライダーは、急機動で間合いを詰めたところから、ランサーの上半身を狙って鋭い突きを繰り出す。

 ランサーは、それを仰け反るようにして回避しながら、その身体の回転を使って、下からライダーの左肩を狙って、突き上げるような強烈な蹴りを放つ。

 ライダーは、右側に向かって横転するようにして、それを躱す。

「やはり、一筋縄にいく相手ではないか」

 お互いに間合いを取り直している最中、ライダーが呟いたのを、ランサーは聞き取った。

「だったら、どうするってんだい?」

 ランサーが、脚を開いた姿勢で構え直しつつ、ライダーを見据えて、彼女にしては低い声で、問い質すように言った。

 すると、ライダーはすっ、と、槍を引き、深く構える。

 ──来る!

 ランサーは、ライダーのその動作を、大技の予備動作と理解し、身構える。

「『穆柯の誓(ぼっかのちかい)()縛将捕王(ばくしょうほおう)』!!」

「!!!?」

 気を抜いていたわけではない。だが、ランサーは、攻撃を繰り出されるとすれば、槍の方からだと思っていたため、一瞬、虚を突かれた。

 腕に留める盾の前縁から、 “紅の采配紐” が、6本放たれ、それがランサーの四肢、頭、そして武具の槍そのものを、その場に縫い付ける。

 ライダーは、ランサー(相手)の動きを止めた瞬間を狙い、穂先を鈍く光らせた槍を構え、騎乗しているかの如き高速で、突進してくる。

 文字にするのは簡単だが、ランサーがライダーに視線を向け直した時には、完全に紙一重の寸前だった。

 だが、ランサーもまた、攻撃の形態は想定だったが、ライダーが宝具を使ってくるだろう、と踏んで、対処する思考はすでに走らせていた。

 ライダーの槍がランサーに届く、まさにその()()手前。

 ランサーの握る槍が、金色の強烈な光を放ち始める。

「『金輝の太陽王笏(ソル・インウィクトゥス・レガリア)』!」

 ローマ皇帝のとしての帝笏と、エーラーガバール祭司女王としての錫杖(セプター)、その双方を象徴とする黄金の槍。それが放つ強力な光が、 “紅の采配紐” を侵食し、槍とそれを握る右腕の拘束を剥がす。

 すれ違うかのように、ライダーの槍と、ランサーの槍が、各々相手に向かって突き出される。

 バキッ、ガチン! バチッ!!

 お互い、盾でそれを受け止めたが、発動した宝具を受けて、破壊された盾は、腕の留め具から外れていく。

「ぐうっ!!」

 ランサーの左肩をライダーの槍が貫き、一瞬、爆ぜたかのようになる。

 だが────

 身体の束縛から逃れたランサーが、左腕をぶら下げた状態からも、立ち上がって体勢を立て直す。

 その背後に位置することになったライダーは、その胸が胸甲も貫かれて穴が空き、そこから、ランサーの宝具発動の残滓である金色の光が漏れ出していた。

「どうも、不幸な生まれの星は、女房がおらんでも変わらんなぁ……」

 その声を聞いて、ランサーは、驚いたような顔をしつつ、ライダーを振り返った。

「ライダー!」

「……まぁ、戦いで敗れたのなら、それもいいか…………」

 言いつつも、ライダーの身体は、光の粒子となって立ち上り、実体を失っていき────消えた。

 

 

 ドンッ、 ────ドンッ

 泥のランサーが間合いをとった瞬間、アーチャー(メディア)の砲撃がそれめがけて放たれる。

 泥のランサーは、空中で跳躍を繰り返すが、アーチャーの攻撃を躱しているうちに、豊田信用組合桜野支店の屋上に追い込まれる。

「アーチャーさん!」

 追って、アーチャーが着地した時、非常階段の踊り場から、ひょこっ、と、琉希が顔を出した。

 ────が。

 それに対して反応したのは、泥のランサーの方だった。

 琉希の方が明らかに脆い。それに、彼がマスターをしていたアサシンは、何度か泥のランサーと接触し、妨害しているので、その為に泥のランサーの注意が、琉希に逸れた。

 ドンッ、ドォンッ

 アーチャーの砲撃が迸る。泥のランサーは、それを寸でのところで躱した。それによって、後ろに────それまでより琉希の近くへと退()がる────

 パ・パ・パ・パ・パッ

 琉希と泥のランサーの間の床に、光の弾丸が、一直線に掃射されたように着弾した。

 泥のランサーと琉希がそちらの方角を見ると、瑞苑GSCの屋上の東の端に、薄暮の残光に照らされて、辛うじてそれと解る、逆光の人影が2つ、あった。

 ──ケリをつける!

「ハッ!」

 アーチャーが、泥のランサーに向かって突進する。

 泥のランサーは、それを受け止めようとするかのように構えた。

 アーチャーの方も、今度は突き飛ばすタックルではなく、手を伸ばして泥のランサーの身体に掴みかかる。

 がっぷりと組み合って────

「アーチャーさん!」

 琉希が声を上げる。

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』」

 ドスッ……

 至近距離から、泥のランサーの宝具が、アーチャーの胸に突き刺さった────

「御生憎様」

 アーチャーが、多少眉を歪ませつつも、口元で不敵に笑って言う。

 本来であれば、アーチャーの背後まで貫通している筈のところまで押し込んでいるにも関わらず、背中へと突き抜けていない。

「アナタが本物の英霊クー・フーリンだったら、今ので決まっていたでしょうけど。魔力で練られた()()の紛い物は通じない」

 言っている最中にも、アーチャーの砲門が、泥のランサーに対してほぼゼロ距離射撃の位置に突きつけられる。

 アーチャーは、自身を貫いたはずの尖端が失われている黒い槍を掴んでいた。そのために、泥のランサーの回避が遅れた。

「消えてしまいなさい────『母なる魔砲(アストラル・シンフォニア)』!」

 カッ!

 真名解放を伴っての発砲は、周囲、瑞苑GSCの屋上に立っているキャスターと慎二も感じるほどの眩い光を放つ。

 その強烈な光弾を浴びた泥のランサーは、後ろに吹き飛ばされながら、その身体が崩れ、それは床に落下することを待たず、砂礫となって風に流されていった。

「ふぅ……と……?」

 アーチャーは、勝利を感じて息を吐き出すと同時に、軽くよろめきかける。

「アーチャーさん!」

 琉希が、心配そうな表情で駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?」

 アーチャーの身体を腕で支えられるところまで近寄り、問いかける。

「え、ええ、大丈夫よ。少し、一気に力を使いすぎたか、それとも、気が抜けちゃったのかしら」

 琉希の手を借りることもなく、アーチャーは体勢を立て直して、琉希を安心させるようにそう言った。

 ただ、それでも琉希の表情は浮かない。

「…………」

オルガマリー(マリー)のところへ行かないと……────」

 

『…………』

 

 

 ────バーサーカー同士の戦いは、キリのない打撃の応酬が続くかのように見えていた。

 だが────

「フゥアァァァァァァッ」

 ザンッ!

 バーサーカー(小田氏治)が、己の槍で泥のバーサーカーの右手首を切り裂いた。

 その傷はすぐに癒える────が、その間に、バーサーカーは泥のバーサーカーの戦斧を奪い取った。

 バーサーカーは左手でそれを扱い、手首が癒えたばかりの右腕を、その刃渡りを使って斬り落し、次に右から左に胴を薙ぎ払った。

 泥のバーサーカーの上半身が、駐車場の路面に叩きつけられる。

「華々しく飾られた神話の抜粋で語り継がれるお主には、このような戦い方は出来ぬであろう」

 バーサーカーはそう言うと、それを潰す勢いで、泥のバーサーカーの頭部を踏みつけた。

 泥のバーサーカーの肉体から、黒曜の輝きが失われ、乾いた泥のように砂礫になり、崩れていく。

 バーサーカー(小田氏治)の勝利で終わった、かに見えたが……────

「…………相打ち、か……」

 力尽きる寸前、泥のバーサーカーは、巨大な左腕で、バーサーカーの胴を、右脇腹から胸部にかけて、毟り取っていた。

 完全狂化を切り、宝具の真名開放状態が解けた状態で受けた、その深すぎる一撃は、流石に回復困難だった。

「直斗殿……後始末を頼みますよ……」

 胴の大半を喪った状態で立ったまま、最後に、たおやかな女性の笑顔と口調で、直斗を振り返りながら、そう告げる。

 バーサーカーの身体もまた、光の粒子となって空へ昇っていく。その身体の実体が消滅した瞬間、大きめの光の粒が、空には昇らず、直斗の身体の中へと溶け込んでいった。

「…………」

 一時(いっとき)、唖然としたように立ち尽くしていた直斗だったが……

「…………」

 西の空を見て、それに気づき、

「くそっ、大事になるといつも貧乏クジだ!」

 そう言って、一度路面を蹴ってから、その場から駆け出した。

 





主従下着艶姿 間桐姉妹&キャスター
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