Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第25話 暗黒剣と光の竜

『東瑞苑、東瑞苑です。ご乗車ありがとうございました。1番線の電車は赤塚行です。時間合わせのため、5分ほど停車いたします。ご利用のお客様はご乗車になってお待ち下さい』

 ────と、この東瑞苑駅のホームの北東側。

 北豊田電軌軌道線は、現状で日本最後の貨物輸送のある軌道線だ。谷地(やち)の石切場からの梅瑞石輸送の他、一般貨物と燃油・LPGが小規模ながら続いている。 ────梅瑞石輸送以外は、軌道線は「厳密には走っている」というものだったが。……というのは、東瑞苑駅(電車停留所)に隣接する瑞苑貨物扱所が鉄軌分界点の軌道線・600V側にあるため、ここに入るのに120m強ほど軌道線区間を通過することになるためだ。当然ながら本線部分は併用軌道ではない。貨物扱所内はフォークリフトでコンテナの積み下ろしを行うために併用軌道の荷役線があるが。

「!」

 オルガマリー・オルタは、立香とともに貨物扱所のフェンスの外側を小走りに走っていたが、突然、何かを感じたかのように、その脚を止めた。

 胸元に手を当てて、彼女にしては珍しく、不安そうな表情をしている。

オルガマリー(マリー)? どうしたの?」

 立香は、後ろを走っていたはずのオルガマリー・オルタが立ち止まったのに気付いて、振り返って駆け寄る。

「うん……うん、()()、大丈夫」

 立香に答えると言うより、自分に言い聞かせるかのように、オルガマリー・オルタはそう言った。

「…………!?」

 そのオルガマリー・オルタが、軽く驚いたかのように、西の空を見上げた。

「…………」

 立香も、オルガマリー・オルタに倣うようにして、西の空を見上げる。

「…………急ごう! 立香!」

「う、うん!」

 オルガマリー・オルタが促し、立香とともに、目的地へと走り始めた。

 

 

 バチバチバチッ

 相手の回避を先読みして、横薙ぎに振るったカリバーンPSの光の刀身を、泥のセイバーは黒曜の剣で受け止める。

 泥のセイバーは横転しながら、脚でセイバー(XX)の頭部を狙う。セイバーは後ろに身を反らして、その蹴りを躱した。

「チィッ!」

 間合いをとった泥のセイバーに対し、セイバーはビームブーメランを続けざまに2つ、投擲する。

 しかし、すでにどのような機動をするのかや、操縦者であるセイバーが接近戦の最中に投げてもAIによる単純な動きしかしないことをすでに読まれているらしく、泥のセイバーは自分に向かってくるビームブーメランをあえてギリギリで躱すと、そこから一直線にセイバーに向かって突進してくる。こうなると、戻って来るビームブーメランでその背中を狙うと、間違えば自分に当たる。

 上段から斬りかかってきた泥のセイバーの黒曜の剣を、カリバーンPSで受け止める────

 バチバチバチ────フッ

「!?」

 鍔迫り合いを続けている最中、セイバーはカリバーンPSのビーム刀身のジェネレーターを切った。同時に、右に身体を捻り、全身で横転する。

 バチバチバチバチッ

 想定外のところで抵抗を失い、泳いだ黒曜の剣を、泥のセイバーが姿勢を立て直すより早く、腰に装着した状態のビームブーメランの刀身で受け止めつつ、セイバーは床に手を突いて、

 ドガァッ

 と、泥のセイバーを(したた)かに蹴飛ばし、自分の方からも強引に後転するようにして、間合いを広めにとった。

 ビームブーメランはあえて投擲しない。

「やはり……どうやら、セイバーらしく正面から決着をつけるしかないようですね……」

 無理にも余裕のあるように、口元で不敵に笑い、セイバーはそう言った。

 脚を開いて腰を少し落とし、やや斜めにした状態で構え、カリバーンPSのジェネレーターを入れる。超ハイヒール構造の装甲ブーツで、それを使ってどの方位にも飛び出せるように踏みしめる。

 泥のセイバーは、対になるように、同じ姿勢で構えた。

 ──宝具の真名解放……確実に決める筋を読んで……

 セイバーが思考を走らせつつ、泥のセイバーと睨み合う。セイバーの顔に憔悴が滲む。

 その時だった。

「セイバーッ!」

 たった数日だが、懐かしいほどに聞き慣れた声が聞こえてきた。

「令呪を以て命じる! そいつに勝て!」

「はいっ!」

 ドンッ

 脚で駆け出すと同時に、アーヴァロンのスラスターを一瞬吹かして、サーヴァントでもライダー以外にはそう出せそうにない速度で、泥のセイバーに迫る。

 泥のセイバーは、狼狽える様子はなく、両手で握った剣を高く掲げて構える。

 セイバーも同じようにカリバーンPSを上段に構え────

「『宇宙戦士の光の剣(カリバーン・フォトン・ソード)』!!」

「『約束されし勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)』!!」

 バキィィィッ!!

 激しいが、シンプルな激突音が響き、セイバー(XX)と泥のセイバー、双方が剣を振り抜いた姿勢で、向かい合い、静止した形になっていた。

「よいしょっ、と」

 スタッ、と、クレオパトラ49世が床に降り立つ。

 カランッ、……カラッ、カラン……

 泥のセイバーの黒曜の剣(エクスカリバー・モルガーン)が、割れ、欠け、床に落下する。

 黒曜の剣が砕けるとともに、自身を両断したビームサーベル(カリバーンPS)の光の粒子の残滓が漂う中、泥のセイバー自身も乾いた泥となり、砂礫のように砕けて、風に流れていった。

「さっすが、アタシのセイバー!」

「ええ、もちろんですとも」

 後ろから歩み寄ってきたクレオパトラ49世に、セイバーはカリバーンPS、ブーメランともにビームジェネレーターを切って振り返り、そこでハイタッチ────セイバーにとっては、自身の口ほどの高さだったが────を交わした。

「…………」

「…………」

 2人は、何かに突き動かされたかのように、西の空を見上げた。

「…………何、あれ?」

 巨大な、真っ黒な球体。空が夜の帳に包まれてなお、僅かな光さえ飲み込む漆黒が、まるでゆっくりと、瑞苑の街の西端に落ちてきている────そのように感じられた。

「…………マスター!」

 ハッとしたように、セイバーは、目を見開き憔悴した様子で、クレオパトラ49世に問いかける。

「確か、街の西の端には、この街を鎮めている神社があると言っていましたね!?」

「ああ、うん……水を治める神社があって……────」

 そこまで言って、クレオパトラ49世もそれに気がついた。

「────その湧き水池の底に、聖杯がある!!」

 そう言って、顔を見合わせた。

 そして、再度、西の空の漆黒を見上げる。

「断言はできませんが……────あれは聖杯を汚染し、この街ごと、ひいては文明すべてを破壊するために仕掛けられたサーヴァント」

「サーヴァントだって!? あれが!?」

 落ち着いた口調で言ったセイバーに対し、クレオパトラ49世は素っ頓狂な声を出す。

「はい」

 セイバーは、妙に落ち着いて見える様子で頷く。それがかえって、底知れぬ憔悴感を表していた。

「どの可能性世界であろうと、エーテルを穢す事を避け得ない、すべての憎悪の縮図にして原典……────」

 セイバーの前置きの後、その名前を呼ぶ声は、2人で重なった。

「アンリ・マユ」

 クレオパトラ49世は、セイバーの方に顔を向けていた顔を、一旦、西の空の漆黒に向けて、

「あんなものまで仕掛けて……須磨寺は本当に瑞苑の聖杯を…………」

「須磨寺!? あのラーメン屋の!?」

 呟くように言いかけたクレオパトラ49世の言葉に、今度はセイバーの方が素っ頓狂な声を出して、顔を向けた。

「まぁ……うん、そう……」

 クレオパトラ49世は、最初は須磨寺を疑うわけでもなく、セイバーを一方的に抑えていた手前、少し決まり悪そうに言う。

 それを聞いたセイバーは、クレオパトラ49世を責めることこそなかったが、

「あの男! やはりあの時斬っておくべきだった!!」

 と、慟哭のような声を上げた。

「…………、ちょ、ちょっと待って」

 そこで、会話の順序がおかしいことに気がついて、クレオパトラ49世が声を上げる。

「その情報はさっき、立香達が聞き出して、アタシはセイバーが戦ってる間にケータイで知らされたんだ! なんでセイバーがそんなに詳しいの!?」

「…………え、気付いてなかったんですか?」

 逆に意外そうに、セイバーが答え、説明する。

「この瑞苑の聖杯とその閉鎖世界は、安定してはいるが、その規模故に破壊の容易い存在……ですが、今、このタイミングでそれを破壊したり、汚染して崩壊させたりすると、多数の宇宙の運航を狂わせ、最悪それらの世界の文明がすべて滅ぶ…………だからこそ、銀河警察に所属している私が、英霊の座を介して今回の聖杯戦争に()ばれたんですよ。クラスがセイバーだったのは偶然かと思いますが」

 

 

 ────瑞坂台教会。住宅部。

「はむ…………」

 芳醇な香辛料の香りが、食欲をそそるカレーが、口に運ばれる。

「美味しい! 美味しいよ神父さま!」

 食卓で、高瀬輝鐘(きしゅ)ははしゃいだような声を出す。

「ふふ、ありがとう」

 輝鐘のとなりに座っている美鈴神父は、そう言って母親の微笑みを輝鐘に向けた。

 以前も簡単に触れたが、輝鐘は美鈴神父の修道の為、表向き教会が保護している子どもとなっている。が、あくまで “公然では” というやつだ。 “建前” とも言う。実際には2人が親娘であることは、少なくともこの近辺、輝鐘の通う町立瑞坂台小学校の学区内には知られている。ついでに美鈴が女性的両性具有(ふたなり)体であることも。その上で周囲に慕われるのが、美鈴神父の人徳だった。

 美鈴は、どんなに些細な用事の時でも、本聖堂に行く際には豪奢な法衣を常に着けているが、今はラフな格好だ。瑞苑の若い女性に流行っているのか、美鈴も私服時はマイクロショートパンツの愛好者である。

「桜お姉ちゃんも、美味しいよね?」

 輝鐘が、小6とは言えまだまだ無邪気な様子で、向かいに座っている桜に問いかけるように言った。

「えっ!?」

 その時、桜は妙にソワソワとして、落ち着かない様子だった。輝鐘に話を()()()()、はっと我に返り、

「う、うん、美味しいよ、このカレー」

 と、誤魔化すような笑顔になって、そう言った。

「そう? お口に合わなかったりしませんか?」

 桜の様子がおかしいことが気にかかったのか、美鈴が桜に訊ねる。

「いえ。本当に美味しいですよ。私が作り方教わりたいぐらいです」

「流石にそこまでは言いすぎですよ、市販のルーですし」

 桜が笑顔で言うと、美鈴は苦笑しながら謙遜する。

「市販のルーでも一工夫で変わるものですから! 私も色々と試したりしてますし……」

 別に桜は、所謂メシマズアレンジャーではないので、慎二が毒カレーだの殺人シチューだのを食わせられるようなことはないのだが、 “美味い” にもやはり程度がある。

 ちなみに、マンションがオール電化ではないことや、ビルトインコンロではないキッチンであること、オーブンレンジではなくコンベクションオーブンと電子レンジが別々なこと、このあたりは慎二よりも桜のこだわりが反映されていたりする。 ────閑話休題。

「そうだよ! 神父さまのカレーは世界で一番美味しいんだから!」

 輝鐘が、母親を誇るかのように、胸を軽く張って言った。

「ふふふ、ありがとう、2人とも」

 そう言って、食事が再開される。

 桜も、実際美味しいカレーを、ひと口、ふた口と口に運び、辛味と香り、ご飯の舌触りを楽しんでいたが、

「!」

 10分前後が経ったところで、今度は驚いたかのように、その場から西の方角を見た。

「桜さん?」

「だめ……これ……姉さんが……」

「えっ?」

「どーしたのー?」

 桜の言葉に、美鈴が反射的に聞き返し、輝鐘はどこか緊張感のない様子で問いかける。

「ごめんなさい! 私……行ってきます!」

 そう言って、桜は、振り切るように食事を中座し、大聖堂への渡り廊下に隣接する住居部の玄関から、飛び出していく。

 一時的に冷静な判断ができず、がむしゃらに西に向かって駆け出して……────

 ヴロロロロロ……

「送る、乗ってくれっ」

 どっから入手したんだかそれとも自分でやったのか、瑞坂台教会の助司祭、桐谷(きりたに)直哉(なおや)が持ち込み、今は美鈴神父が所有者として信徒との遠出用に使っている、ボルトオンターボ付のM30系ライトエースワゴンが、走る桜の隣に入ってきて、1速で速度を合わせながら言う。

 一度完全に停車し、桜が助手席に飛び乗ると、発進し、一気に加速していった。

 

 

 瑞苑GSC。

 タクシーレーンに停車していた、光岡 ビュートの京成タクシーに駆け寄ると、自動ドアが開く間も惜しいかのように、慎二とアチャ子(キャスター)が乗り込む。

「行き先は!?」

 2人の勢いに反応し、運転手もただごとではないと言った様子で振り返る。

 慎二は、クレオパトラ49世と通話していたが、一旦スマートフォンのマイクを手で押さえて、

「松原電停まで! 急いでるの!」

 と、告げた。

「了解」

 運転手はそう言うと、メーターを “賃走” に入れると、タクシーを発進させた。

「それ、本当の話なの!?」

 慎二は、走行するタクシーの中で通話を続けている。隣のキャスターが、自身のそれを締めた後、器用に慎二のシートベルトを掛け始める。慎二は会話を続けつつ、それに合わせて腕を動かした。

『どこまで断言できるかどうかはわかんない! でも、マズいことが起きているのは間違いないんだ!』

「私とキャスターは今タクシーに乗ったわ! ただ、ランサーとメディア(アーチャー)は各々のマスターの方に行くって!」

 

 ヒョオォォォォォッ……

 特に他に急ぎの移動手段が見つけられなかったクレオパトラ49世は、セイバーの肩に担がれている。セイバーが街区のビルの屋上を跳躍して渡り、松原の自宅に向かっていた。

 そこで合流すれば、クレオパトラ49世の愛車、SJ30ジムニーがある。

「うん、それでいい! そっちはそっちでほっとけないから! キャスターは投影魔術が使えるんだろう? こっちはそれがあるとありがたい」

『了解』

「んじゃ、ウチの前で!」

 そう言って、クレオパトラ49世は通話を終えた。

 

 慎二も終話をタップする。

 そこで、ショートメッセージの受信に気がついた。

「桜?」

 表情が強張る思いをしながら、2通の、桜からのショートメッセージを開く。

「!!」

 半ば的中した嫌な予感に、慎二は愕然と目を見開く。

『今どこにいますか? 水神明神に向かっていますか?』

『ごめんなさい、今、水神明神に向かっています』

「…………ッ!!」

 慎二は、『ダメだ、教会にもどれ』そう言う返事を送ろうとして、ギリギリで思いとどまり、代わりに、次のメッセージを打ち込んだ。

『松原のパトラの家。私達もそこで合流予定』

 





主従下着艶姿 間桐姉妹&キャスター
(どう考えてもキャスターのピンチ版)
https://x.com/kaonohito2/status/1961560658035847639

具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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