『東瑞苑、東瑞苑です。ご乗車ありがとうございました。1番線の電車は赤塚行です。時間合わせのため、5分ほど停車いたします。ご利用のお客様はご乗車になってお待ち下さい』
────と、この東瑞苑駅のホームの北東側。
北豊田電軌軌道線は、現状で日本最後の貨物輸送のある軌道線だ。
「!」
オルガマリー・オルタは、立香とともに貨物扱所のフェンスの外側を小走りに走っていたが、突然、何かを感じたかのように、その脚を止めた。
胸元に手を当てて、彼女にしては珍しく、不安そうな表情をしている。
「
立香は、後ろを走っていたはずのオルガマリー・オルタが立ち止まったのに気付いて、振り返って駆け寄る。
「うん……うん、
立香に答えると言うより、自分に言い聞かせるかのように、オルガマリー・オルタはそう言った。
「…………!?」
そのオルガマリー・オルタが、軽く驚いたかのように、西の空を見上げた。
「…………」
立香も、オルガマリー・オルタに倣うようにして、西の空を見上げる。
「…………急ごう! 立香!」
「う、うん!」
オルガマリー・オルタが促し、立香とともに、目的地へと走り始めた。
バチバチバチッ
相手の回避を先読みして、横薙ぎに振るったカリバーンPSの光の刀身を、泥のセイバーは黒曜の剣で受け止める。
泥のセイバーは横転しながら、脚で
「チィッ!」
間合いをとった泥のセイバーに対し、セイバーはビームブーメランを続けざまに2つ、投擲する。
しかし、すでにどのような機動をするのかや、操縦者であるセイバーが接近戦の最中に投げてもAIによる単純な動きしかしないことをすでに読まれているらしく、泥のセイバーは自分に向かってくるビームブーメランをあえてギリギリで躱すと、そこから一直線にセイバーに向かって突進してくる。こうなると、戻って来るビームブーメランでその背中を狙うと、間違えば自分に当たる。
上段から斬りかかってきた泥のセイバーの黒曜の剣を、カリバーンPSで受け止める────
バチバチバチ────フッ
「!?」
鍔迫り合いを続けている最中、セイバーはカリバーンPSのビーム刀身のジェネレーターを切った。同時に、右に身体を捻り、全身で横転する。
バチバチバチバチッ
想定外のところで抵抗を失い、泳いだ黒曜の剣を、泥のセイバーが姿勢を立て直すより早く、腰に装着した状態のビームブーメランの刀身で受け止めつつ、セイバーは床に手を突いて、
ドガァッ
と、泥のセイバーを
ビームブーメランはあえて投擲しない。
「やはり……どうやら、セイバーらしく正面から決着をつけるしかないようですね……」
無理にも余裕のあるように、口元で不敵に笑い、セイバーはそう言った。
脚を開いて腰を少し落とし、やや斜めにした状態で構え、カリバーンPSのジェネレーターを入れる。超ハイヒール構造の装甲ブーツで、それを使ってどの方位にも飛び出せるように踏みしめる。
泥のセイバーは、対になるように、同じ姿勢で構えた。
──宝具の真名解放……確実に決める筋を読んで……
セイバーが思考を走らせつつ、泥のセイバーと睨み合う。セイバーの顔に憔悴が滲む。
その時だった。
「セイバーッ!」
たった数日だが、懐かしいほどに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「令呪を以て命じる! そいつに勝て!」
「はいっ!」
ドンッ
脚で駆け出すと同時に、アーヴァロンのスラスターを一瞬吹かして、サーヴァントでもライダー以外にはそう出せそうにない速度で、泥のセイバーに迫る。
泥のセイバーは、狼狽える様子はなく、両手で握った剣を高く掲げて構える。
セイバーも同じようにカリバーンPSを上段に構え────
「『
「『
バキィィィッ!!
激しいが、シンプルな激突音が響き、
「よいしょっ、と」
スタッ、と、クレオパトラ49世が床に降り立つ。
カランッ、……カラッ、カラン……
泥のセイバーの
黒曜の剣が砕けるとともに、自身を両断した
「さっすが、アタシのセイバー!」
「ええ、もちろんですとも」
後ろから歩み寄ってきたクレオパトラ49世に、セイバーはカリバーンPS、ブーメランともにビームジェネレーターを切って振り返り、そこでハイタッチ────セイバーにとっては、自身の口ほどの高さだったが────を交わした。
「…………」
「…………」
2人は、何かに突き動かされたかのように、西の空を見上げた。
「…………何、あれ?」
巨大な、真っ黒な球体。空が夜の帳に包まれてなお、僅かな光さえ飲み込む漆黒が、まるでゆっくりと、瑞苑の街の西端に落ちてきている────そのように感じられた。
「…………マスター!」
ハッとしたように、セイバーは、目を見開き憔悴した様子で、クレオパトラ49世に問いかける。
「確か、街の西の端には、この街を鎮めている神社があると言っていましたね!?」
「ああ、うん……水を治める神社があって……────」
そこまで言って、クレオパトラ49世もそれに気がついた。
「────その湧き水池の底に、聖杯がある!!」
そう言って、顔を見合わせた。
そして、再度、西の空の漆黒を見上げる。
「断言はできませんが……────あれは聖杯を汚染し、この街ごと、ひいては文明すべてを破壊するために仕掛けられたサーヴァント」
「サーヴァントだって!? あれが!?」
落ち着いた口調で言ったセイバーに対し、クレオパトラ49世は素っ頓狂な声を出す。
「はい」
セイバーは、妙に落ち着いて見える様子で頷く。それがかえって、底知れぬ憔悴感を表していた。
「どの可能性世界であろうと、エーテルを穢す事を避け得ない、すべての憎悪の縮図にして原典……────」
セイバーの前置きの後、その名前を呼ぶ声は、2人で重なった。
「アンリ・マユ」
クレオパトラ49世は、セイバーの方に顔を向けていた顔を、一旦、西の空の漆黒に向けて、
「あんなものまで仕掛けて……須磨寺は本当に瑞苑の聖杯を…………」
「須磨寺!? あのラーメン屋の!?」
呟くように言いかけたクレオパトラ49世の言葉に、今度はセイバーの方が素っ頓狂な声を出して、顔を向けた。
「まぁ……うん、そう……」
クレオパトラ49世は、最初は須磨寺を疑うわけでもなく、セイバーを一方的に抑えていた手前、少し決まり悪そうに言う。
それを聞いたセイバーは、クレオパトラ49世を責めることこそなかったが、
「あの男! やはりあの時斬っておくべきだった!!」
と、慟哭のような声を上げた。
「…………、ちょ、ちょっと待って」
そこで、会話の順序がおかしいことに気がついて、クレオパトラ49世が声を上げる。
「その情報はさっき、立香達が聞き出して、アタシはセイバーが戦ってる間にケータイで知らされたんだ! なんでセイバーがそんなに詳しいの!?」
「…………え、気付いてなかったんですか?」
逆に意外そうに、セイバーが答え、説明する。
「この瑞苑の聖杯とその閉鎖世界は、安定してはいるが、その規模故に破壊の容易い存在……ですが、今、このタイミングでそれを破壊したり、汚染して崩壊させたりすると、多数の宇宙の運航を狂わせ、最悪それらの世界の文明がすべて滅ぶ…………だからこそ、銀河警察に所属している私が、英霊の座を介して今回の聖杯戦争に
────瑞坂台教会。住宅部。
「はむ…………」
芳醇な香辛料の香りが、食欲をそそるカレーが、口に運ばれる。
「美味しい! 美味しいよ神父さま!」
食卓で、高瀬
「ふふ、ありがとう」
輝鐘のとなりに座っている美鈴神父は、そう言って母親の微笑みを輝鐘に向けた。
以前も簡単に触れたが、輝鐘は美鈴神父の修道の為、表向き教会が保護している子どもとなっている。が、あくまで “公然では” というやつだ。 “建前” とも言う。実際には2人が親娘であることは、少なくともこの近辺、輝鐘の通う町立瑞坂台小学校の学区内には知られている。ついでに美鈴が
美鈴は、どんなに些細な用事の時でも、本聖堂に行く際には豪奢な法衣を常に着けているが、今はラフな格好だ。瑞苑の若い女性に流行っているのか、美鈴も私服時はマイクロショートパンツの愛好者である。
「桜お姉ちゃんも、美味しいよね?」
輝鐘が、小6とは言えまだまだ無邪気な様子で、向かいに座っている桜に問いかけるように言った。
「えっ!?」
その時、桜は妙にソワソワとして、落ち着かない様子だった。輝鐘に話を
「う、うん、美味しいよ、このカレー」
と、誤魔化すような笑顔になって、そう言った。
「そう? お口に合わなかったりしませんか?」
桜の様子がおかしいことが気にかかったのか、美鈴が桜に訊ねる。
「いえ。本当に美味しいですよ。私が作り方教わりたいぐらいです」
「流石にそこまでは言いすぎですよ、市販のルーですし」
桜が笑顔で言うと、美鈴は苦笑しながら謙遜する。
「市販のルーでも一工夫で変わるものですから! 私も色々と試したりしてますし……」
別に桜は、所謂メシマズアレンジャーではないので、慎二が毒カレーだの殺人シチューだのを食わせられるようなことはないのだが、 “美味い” にもやはり程度がある。
ちなみに、マンションがオール電化ではないことや、ビルトインコンロではないキッチンであること、オーブンレンジではなくコンベクションオーブンと電子レンジが別々なこと、このあたりは慎二よりも桜のこだわりが反映されていたりする。 ────閑話休題。
「そうだよ! 神父さまのカレーは世界で一番美味しいんだから!」
輝鐘が、母親を誇るかのように、胸を軽く張って言った。
「ふふふ、ありがとう、2人とも」
そう言って、食事が再開される。
桜も、実際美味しいカレーを、ひと口、ふた口と口に運び、辛味と香り、ご飯の舌触りを楽しんでいたが、
「!」
10分前後が経ったところで、今度は驚いたかのように、その場から西の方角を見た。
「桜さん?」
「だめ……これ……姉さんが……」
「えっ?」
「どーしたのー?」
桜の言葉に、美鈴が反射的に聞き返し、輝鐘はどこか緊張感のない様子で問いかける。
「ごめんなさい! 私……行ってきます!」
そう言って、桜は、振り切るように食事を中座し、大聖堂への渡り廊下に隣接する住居部の玄関から、飛び出していく。
一時的に冷静な判断ができず、がむしゃらに西に向かって駆け出して……────
ヴロロロロロ……
「送る、乗ってくれっ」
どっから入手したんだかそれとも自分でやったのか、瑞坂台教会の助司祭、
一度完全に停車し、桜が助手席に飛び乗ると、発進し、一気に加速していった。
瑞苑GSC。
タクシーレーンに停車していた、光岡 ビュートの京成タクシーに駆け寄ると、自動ドアが開く間も惜しいかのように、慎二と
「行き先は!?」
2人の勢いに反応し、運転手もただごとではないと言った様子で振り返る。
慎二は、クレオパトラ49世と通話していたが、一旦スマートフォンのマイクを手で押さえて、
「松原電停まで! 急いでるの!」
と、告げた。
「了解」
運転手はそう言うと、メーターを “賃走” に入れると、タクシーを発進させた。
「それ、本当の話なの!?」
慎二は、走行するタクシーの中で通話を続けている。隣のキャスターが、自身のそれを締めた後、器用に慎二のシートベルトを掛け始める。慎二は会話を続けつつ、それに合わせて腕を動かした。
『どこまで断言できるかどうかはわかんない! でも、マズいことが起きているのは間違いないんだ!』
「私とキャスターは今タクシーに乗ったわ! ただ、ランサーと
ヒョオォォォォォッ……
特に他に急ぎの移動手段が見つけられなかったクレオパトラ49世は、セイバーの肩に担がれている。セイバーが街区のビルの屋上を跳躍して渡り、松原の自宅に向かっていた。
そこで合流すれば、クレオパトラ49世の愛車、SJ30ジムニーがある。
「うん、それでいい! そっちはそっちでほっとけないから! キャスターは投影魔術が使えるんだろう? こっちはそれがあるとありがたい」
『了解』
「んじゃ、ウチの前で!」
そう言って、クレオパトラ49世は通話を終えた。
慎二も終話をタップする。
そこで、ショートメッセージの受信に気がついた。
「桜?」
表情が強張る思いをしながら、2通の、桜からのショートメッセージを開く。
「!!」
半ば的中した嫌な予感に、慎二は愕然と目を見開く。
『今どこにいますか? 水神明神に向かっていますか?』
『ごめんなさい、今、水神明神に向かっています』
「…………ッ!!」
慎二は、『ダメだ、教会にもどれ』そう言う返事を送ろうとして、ギリギリで思いとどまり、代わりに、次のメッセージを打ち込んだ。
『松原のパトラの家。私達もそこで合流予定』
主従下着艶姿 間桐姉妹&キャスター
(どう考えてもキャスターのピンチ版)
https://x.com/kaonohito2/status/1961560658035847639
具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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