Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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第28話 必要な願い~ Game Out

「メディアッ!!」

 悲痛な声が響いてくる。

 目前では、アーチャー(メディア)が倒れており、それに対して、オルガマリー・オルタが悲壮な顔をしながら、駆け寄って屈み込む。

「メディア! メディア!!」

 オルガマリー・オルタは、アーチャーの上半身を軽く抱え起こして、揺すりながら、声をかける。

 軽く気を失ったようにしていたアーチャーは、目を開き、オルガマリー・オルタの顔に向かって視線を上げる。

オルガマリー・オルタ(マリー)……ごめん……なさい……あなたの願い……叶えてあげられそうにない……わ……」

 弱々しく、震える声で、アーチャーはオルガマリー・オルタに言う。

「ど、どうして……」

 ランサー(ヘリオガバルス)は、オルガマリー・オルタの更に背後から、アーチャーを覗き込みつつ、突然の異変に、信じられないと言った様子で愕然として立ち尽くしていたが、

「────!!」

 その、アーチャーの胸甲を見て、驚愕を更に強めて目を広げた。

 ジジッ、ジジッ、と音でも立てるかのように暗黒のスパークを飛ばしながら、黒い、光を吸い込む漆黒が棒状に、アーチャーの胸甲を貫いていた。

「泥のランサーの……」

 唖然とし、頬に冷や汗を伝わせながら、ランサーが呟くようにいうと、アーチャーはランサーの顔に視線を向けて、

「ええ……流石に、私の対魔力でも、紛い物でも『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』は少し……きつかった、わね……」

 と、自嘲するように言った。

 そうしてから、アーチャーは、視線をオルガマリー・オルタの顔に向けた。

「大丈夫……あなたには……この先も……たくさんの……出会いが……」

「やだ!」

 オルガマリー・オルタの見た目の年格好よりも、さらにもっと年少の子どもがそうするように、首を左右に振りながら、口を大きく開けて我が儘を言う。

「この先、もう “楽しい” をどんだけ集めても、メディアの代わりになんかならないよ!!」

 そう言って、ウッウッとしゃくりあげるようにしながら涙を流し続ける。

 セイバー(XX)とクレオパトラ49世は、同じように、愕然と立ち尽くしつつも、悲壮な視線を向けていたが、

「────……だが、まだ()つな」

 と、その背後から、男性の声がかけられた。2人が振り向くと、そこに直斗が立っていた。

「敗北が確定したサーヴァントは、聖杯に()べられる……この瑞苑の聖杯戦争でも、それ自体は変わらない。敗北が確定したサーヴァントを構成する魔力(マナとオド)は分解され、()()()()()()()()()、聖杯の元に届けられる」

 中折れ帽を押さえながら、そう言った。

「で、でも、今から多少、保ったところで……」

 セイバーとともに苦い顔をしながら、クレオパトラ49世が、手振りを加えつつ言う。

 だが、その時だった。

「────…………え!?」

 ランサーと並んで立っていた立香の前に、瑞苑GSCの処置を、公の機関と魔術協会に任せて合流してきたアッティスが、サン-ジュスト・オルタと並んで向かい合い、膝を屈めて(かしず)いた。

「聖杯の裁は結しました」

 サン-ジュスト・オルタが言い、

「あなたが勝者です」

 アッティスが告げた。

「えーっ!?」

 立香が、口を手で抑えるような仕種をしながら、素っ頓狂な声を出す。

「でも、まだ……」

 立香は、セイバーとクレオパトラ49世の方を見る。

「セイバーは……その、自己クラス変更を行ったので、反則負け扱いとなりまして」

 アッティスが言い難そうに言う。すると、クレオパトラ49世が、隣りにいるセイバーを、呆れたようなジト目で見た。

「あははは……やっぱ換装使ったのは不味かったですかねぇ……」

「はぁ……」

 セイバーのスッ(とぼ)けるような言い訳に、クレオパトラ49世は、疲れたようなため息を()いた。

「まぁいいよ。それやるって時点で、こうなるとは思ってたから」

 クレオパトラ49世がそう言い、2人は、再度心配気な表情と視線を、アーチャーと、泣き喚くオルガマリー・オルタに向ける。

「まだ……保つ……」

 立香は、2人のルーラーを前に、口の中で直斗の言葉を反芻する。

「でも、こんな時にそんな話をしなくたっていいじゃないか……」

 ランサーが、オルガマリー・オルタを(おもんばか)り、困惑気な表情で、ルーラー達に言う。

 だが、立香は、()()に気が付き、ハッと顔を上げ、視線をクレオパトラ49世を見た。

クレオパトラ49世(パトラ)水神(みずかみ)神社(じんじゃ)まで飛ばして!」

「…………! 解った!」

 クレオパトラ49世が答え、各々のサーヴァントとともに、白いジムニーに向かって走り出す。

 足元を広げるためのリアシートレールを入れているとは言え、窮屈なSJ30Vの後部座席に長身のランサーとセイバーを押し込み、立香が助手席、クレオパトラ49世が運転席に乗り込む。

 トゥルルルルッヴィイィィィーン!

 パンパンパン……バァアァァァァァッ!!

 まだここまで来た時の熱が残っている2ストロークエンジンを始動し、ギアを1速に入れて、飛び出した。

「マリー! こっちのクルマに……」

 慎二が言い、彼女と直斗がアシストに着いて、ライトエースのスライドドアから、アーチャーを抱えたオルガマリー・オルタを乗せた。

 助手席にサン-ジュスト・オルタ、セカンドシートにアーチャーを抱えたオルガマリー・オルタ、サードシートにアッティスと間桐姉妹が乗り込む。慎二がスライドドアを閉めて、

「出して!」

 と言うと、直哉はギアを1速に入れ、ライトエースを発進させた。

「だけどさ……」

 瑞苑街区、路面電車の軌道がある大通りを、東から西へ、クレオパトラ49世がジムニーを飛ばしている。

 その車内で、ランサーが疑問を口にする。

「敗北判定されたサーヴァントって、実体を失うんだろう? なんでセイバーは平気なのさ?」

「それは、 …………つまり、私は死を経て英霊となった存在ではなく、元々サーヴァント・ユニヴァースに生きる、独立したサーヴァント生命体だからですね」

「元々サーヴァントとしての実体があるから、召喚時に聖杯とマスターから与えられた魔力を失っても、現界自体は続けられる。マリーと同じよ」

 立香は、そう言いつつ、勝手知ったる他人の家、ならぬ他人のクルマと言った様子で、非喫煙者のクレオパトラ49世が灰皿に入れている、チェルシー・ヨーグルトスカッチをひとつ取り、包装を剥いて、口に運んだ。

「立香」

「えっ?」

 MOMOのシンプルなステアリングを握り、前を向いたまま、クレオパトラ49世が言う。立香は咎められるのかと思い、短く聞き返したが、

「アタシにもくれ」

「あ、はいはい」

 と、クレオパトラ49世がリクエストすると、チェルシーをもうひとつ摘みとって、包装を剥きはじめる。

 中通り3丁目、『珍來』のある近くの交差点が見えた時、歩行者用信号の青が点滅し始めた。

「突っ切るぞ!」

 立香がチェルシーをその口に運ぼうとした時に、クレオパトラ49世は、そう言い、アクセルを踏み増した。

 黄信号に変わるギリギリのところを、ジムニーは通過する。

 

 

 明神地区。

 大通りから続く街路が細くなり、路面電車の併用軌道も単線になる。 ────かと思いきや、終点近くに、広くとった交差点で急カーブをし、北に進行方向を変えると、そこに北豊田電軌瑞苑街線・本線終点の明神電停がある。松原電停と同じように、簡単な屋根のついたプラットホームが、色とりどりの花が植えられたプランターに囲まれていた。

 その脇をすり抜けると、正面にその、瑞苑の水神神社がある。

 地方の、地元民以外にはあまり知られていない神社にしては、境内は広く、やや豪華だが、本殿までは石段などの上下はない。

 車体が小さいのをいいことに、鳥居をくぐって境内に進入し、本殿の前で停車した。まず、前席に乗っていた2人がドアを開けて飛び出し、その2人が駆けていってから、前席を倒して、ランサーとセイバーが降車した。

 本殿正面から見て、左側、方角で東側に、湧き水池がある。

 この湧き水池自体は、近現代にあっては、すでに水源地としての役割は終えているが、谷地からの川や、より北西方向の川の水源地、また深井戸の水が続くことを祈願する場所、とされていた。

 路面電車の軌道はすぐ傍まで来ているのに、都市ガスがこの近辺まで来なかったのも、このためである。当時のガスには一酸化炭素が含まれていたため、穢れを近辺の地中に埋めるのを躊躇ったのだ。もっとも、戦後になって下水管は埋設されていたりするが。

 そして、先程から────ジムニーが大交差点を通過する頃から見えていた、一直線に天に昇る光の柱が、湧き水が水面を盛り上がらせているその横から、発されていた。

「到着シタヨウダナ、待ッテイタヨ」

 立香が、池の前に立つと、その声が響いてきた。

「やっぱり、あの時の声……」

 立香が呟く。旧都市ガス送出管管理建屋で、どこからともなく須磨寺達を糾弾した声、それと同じ声だった。

「ドウシタンダ? ぽかんト狐ニツママレタ表情ヲシテ? マァ、無理モナイカ。魔術師達カラ聖杯ト呼バレル存在ノ中デモ、俺ノ様ニ意思ヲ持チ会話シ、アマツサエ趣味マデ持ッテイルノハ……他ニナイトハ断言デキナイガ、圧倒的少数派ダロウ」

「…………」

 立香は、水面の光の柱が立ち昇るあたりを見ている。僅かな間、呆けたように立ち尽くしてしまった。

「…………アマリ、時間ハナイノダロウ? 早ク、願イヲ言ウガイイ」

 急かすかのような聖杯の言葉に、立香は、はっと我に返る。振り返り、自分より遅れて到着していた、ランサーとセイバーの方を見る。

「ランサー……」

「いいよ」

 立香が問いかけるように言うと、ランサーは、全てを聞く前に、悪戯っぽく笑って、そう言った。

「アタイに願いがないわけじゃないけどさ、でも、多分最初から、立香に使って欲しかったと思ってるから」

 瑞苑の聖杯戦争において、勝者となったサーヴァントは、マスターの生涯に寄り添うことになる────この為、聖杯に願う願い自体は持っているが、ガツガツとそればかり追い求めない事が多かった。

 立香は、聖杯の光の柱の方を向き直すと、一度、ゴクリ、と、喉を鳴らして、口腔内の唾液を嚥下した。

 そして────

「今回のアーチャー……アーチャー メディアの霊基を修復して! そして、ついでにアーチャーを受肉させて!」

 と、張りのある声で、願いを伝えた。

 だが。

構文えらー(syntax error)。受領不可」

「え、ええ!?」

 まさかの拒絶、しかも微妙な理由でのそれに、立香は戸惑いの声を上げる。その場にいた他の3人も、驚いて口を開けた。

「ど、どういうこと?」

「俺ノ聖杯戦争ニ於ケル、願イノふぉーまっとヲ満タシテイナイ」

 戸惑いながら問い質す立香に、聖杯はそう答えた。

「だ、だからアーチャーを受肉させてって」

「あーちゃーハオ前ノさーゔぁんとデハナイ」

「そんなぁ……」

 聖杯の答えに、立香は、脱力したように、顔は上げたままだが、腕をぶら下げて、背を丸めてしまう。

「それじゃ、この方法は最初から無理だったの……」

「ソンナ事ハナイ」

 消沈する立香に、聖杯はそう返す。

「でも、今、だって……」

 立香は、少し混乱したような、戸惑ったような声を出した。

「本来ノ願イノ “ツイデ” ニ、自身ノさーゔぁんとノ受肉ヲ願ウ。ソレサエ守レバイイ」

「でも、それじゃ、アーチャーの霊基を修復しても、短い期間しか現界していられないじゃない!」

 だから、立香は、 “ついでに” サーヴァントを受肉させる、という、瑞苑の聖杯の特性を利用して、この2つを同時に叶えようとしたのだ。

 だが、聖杯はその立香の落胆の声を聞いて、

「聖杯ヲ舐メルナ」

 と、まるで、プライドを傷つけられた、と言わんばかりの口調で言う。

「かるであノ成立ヲ可能ニスル程ノ巨万ノ富ヲ用意スルコトモ、条件ハアルガ惑星ヒトツヲタチドコロニ人類居住可能ニスルコトモ可能ナノガ聖杯ダゾ……さーゔぁんと1人、零基構造ヲ修復シタ上デ受肉サセルコトナド、造作モナイ!」

「…………!!」

 それを聞いて、立香は、最初から策を弄する必要もなかった、ということに気がついた。

 振り向くと、クレオパトラ49世と、セイバーが、立ったまま笑っている。

 そして、ランサーが、立香に近付いてきて、その隣に立った。

「立香」

「うん」

 2人は、立香の右手にランサーの左手を重ねるように手を繋ぎ、そして、立香は光の柱に向かって、視線を上げた。

「アーチャー メディアの零基構造を修復し、受肉させて! ついでに、ランサー ヘリオガバルスを受肉させて!!」

「願イ……受領。実行、開始────」

 音が聞こえてきそうなほどの勢いで、光の柱が強烈な光を放って、まるで逆さの滝であるかのように激しく昇っていく。

「此処ニ今回ノ、瑞苑ノ聖杯戦争ハ全テノ行程(ぷろぐらむ)ヲ完了シタ!! モシ、次ノ聖杯戦争ガ催サレル時、マダ、君達ノ生キテイル時代ダッタナラ、ソノ時ニ再ビ相見(アイマミ)エヨウ! 我ガ麗シノ、瑞苑ノ魔術師達。ソシテ、敬愛スル我ガ瑞苑(ハコニワ)ノ住人達ヨ!!」

 

 

 瑞坂台教会のライトエースが、だいぶ遅れて到着し、その塀沿いに駐車した時、光の柱が強烈な光条となって、天に立ち昇っていった。

「今のは…………!」

 すでに車外に出ていた慎二が、それを、怪訝そうにしつつも唖然として見上げ、見送る。

「!」

 車内では、アーチャーの胸を貫いていた、 “泥の『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』” の破片が、一瞬、相転移を起こして光の欠片となり、それがアーチャーに吸収されるかのように消えたかと思うと、貫かれていたはずの胸は、それを覆う胸甲ごと、何事もなかったかのように元通りになっていた。

「う……あ……?」

 それまで、衰弱して今にも消えてしまいそうだったアーチャーに生気が戻り、自身の力で、上半身を起こした。

「メディア!」

 喜びにはしゃぐ、オルガマリー・オルタの声。

「ふう……どうやら、借りをつくってしまった相手がいるみたいね。本当に、この街の魔術師は……」

 アーチャーは、照れ隠しもあるのか、若干皮肉っぽく言って苦笑する。

 ──あのお人好しの、ランサーのマスターにも、導き手が必要な気はするけど、まぁ、ヘリオガバルス(ランサー)、あなたがいれば大丈夫でしょう……

 力が生まれ、そして消えていった方角に、車体と塀越しに視線を向けて、アーチャーは声に出さずにそう言った。

「メディアー!」

 それを、そこで遮るかのように、オルガマリー・オルタが、まるで自分の胸をアーチャーの肩に押し付けるかのように、抱きついた。

「ずっと、ずっといっしょだから!!」

「ええ、ずっと……母は、ずっとあなたのそばにいるわ」

 





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