Fate/Sealed Elysium   作:神谷萌

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Epilogue

 地図には載らないが、どこにあるか知られている町。

 行き方は知られていないが、誰でもそこへ行ける町。

 茨城県、豊田(とよだ)郡瑞苑町

 JR常磐線からは、水戸駅隣の赤塚駅で私鉄に乗り換えて1時間足らずのところに存在する、聖杯によって閉鎖された箱庭都市。

 昭和の広域合併のいざこざや、それ以降は財政・人的負担の増加を嫌ったこと、なんて御都合主義で、市政に移行していないが、自治体の人口では県下第3位の人口をもつ。

 そして同時に、(現在のLRTブームで他の自治体に新設されない限り)県下最後の路面電車が存在する街でもあった。

 その由来にも起因して、町並みはどこかチグハグさを感じさせるところがある。昭和、平成、令和、時折大正テイストの建物もまだ残っている。もっとも、程度の差はあれ、(ふる)くからの地方都市ではよく見られる光景、とも言える。

 意外なところでは、人口あたり公衆電話設置数全国第1位、らしい。もっとも、これはつい最近、携帯電話普及により東京都内ですら公衆電話を探すのが困難になってからの話だったが。

 主に県庁所在地に多い、古くからの地方都市に見られる、商店街で一通りのものが揃う、 “大都会とは言えないが、ないものがない街”。それが瑞苑町だった。

 

 瑞苑町は死せる町でも、頽廃に侵された町でもない。

 インフラは経済活動、住人の生活の為に動かなければならない。

 住民が怠惰に耽り、外世界にアウトプットを返さなければ、エネルギーも食料も、機械製品も途絶えてしまう。

 一方の瑞苑でも、谷地(やち)の石切り場では梅瑞石が切り出され、西日本車体の解散後、最後の3扉ワンステップバスビルダーとなった野口ボデーでは、近所だがバスから撤退したUDトラックスに代わって、三菱ふそうのMP35系エアロスターの車体架装が行われている。

 瑞苑街区から離れた郊外では、聖杯の加護がもっとも顕著な水源に支えられた農耕地帯が広がり、新米種『ふくまる』の植えられた田圃と、その合間にジャガイモやトマトの畑が点在し、朝早くからの見回りか、TT2サンバートラックが農道を走っていく。

 そして────────

 カン・カァーン!

 瑞苑街区では、フートゴングの音ともに、今日も路面電車のイメージからかけ離れた大柄な高床車が、併用軌道を駆けていく。

 北川端。

 ヴォオォォォ……

 バタンバタンバタンバタン……

「んー……」

 ニュー北川端ハイツの軒先を、元京成のクモハ3050形が元関鉄のクハ350形を牽き、轟音を立てて通過していくところを、その1階の窓から、少女、藤丸立香は、寝起きの気怠そうな様相で眺めていた。

「みんな、 ……やることがあって、いいな……」

 電車の中の人影を見て、立香は、そう呟いた。

 “ごく普通の少女”。立香は自身をそう定義している。いや、定義することを、かつて望んでいた。

 実際にはごく普通、なんて到底言えない、生活を送っていた。

 特に、今は────

「そう言うんなら、まず、部屋を片付けたらどうだい」

 立香の背後で、呆れたような憤ったような、苦笑をしたランサーが、腕組みをしながらそう言った。

 1DKの居室。本来は畳敷きの室内で、脱ぎ散らかした下着やら、パンやコンビニの袋が散らかっている。

「いや……ははは……それはさ、ま、また今度で」

 振り返りつつ、引き攣った笑いを浮かべながら、立香は誤魔化すように言う。

「ほ、ほら、今日はゆっくりしている場合じゃないし!」

 そう言いながら、立香は床に散らかしたものの中から、何かを探し出そうとする。

「ほれ、これだろ?」

 ランサーは、苦笑した表情のまま、部屋干しの後とは言え、きちんとハンガーに吊るされた、立香のいつもの、どこかの制服なのかどうかよく解らない、奇妙な意匠の白い服を渡した。

「あ、うん、ありがとう」

「いつまでも自堕落じゃダメだからね?」

「解ってる解ってる」

 念を押すようなランサーの言葉に、立香は、本当に解っているのかどうか、適当な返事をしながら、続いて、いつから履いているのかは解らないが、今となってはすっかり自分のアイデンティティとなったマイクロショートパンツを履く。

 ランサーの方も、ショートタンクトップにサマーパーカー、アイボリーのマイクロショートパンツという姿。当然、槍は霊体化させて格納している。

「いってきまーす!」

 1人暮らしではなくなったが、2人ともに出かけるので、当然残っている住人などいないのだが、立香はこれまでと同じように、無人になる自宅にそう告げた。

「日本の考え方……言霊ってやつかい?」

「うん、まぁ、そんなとこ」

 ランサーの問いかけに、立香は笑顔でそう答えた。

 2人は、大通り寄りの最寄りである、北川端1丁目電停に向かう。

 ヴォオォォォ……

 バタンバタンバタンバタン……

 LED方向幕に『赤塚』と表示した2両編成の電車が、立香達を追い抜いていく。

「ありゃあ、タイミングが悪かったね」

 それを見て、ランサーが言った。

「ま、次、すぐ来るから」

 今日は焦った様子もなく、立香はそう言った。

 今日は別に、SUBWAYのバイトの日ではないから、というのもあったが……

 電停に到着した立香とランサーが、次の電車を待つ。

 電停の電動案内機は、「次の電車は2両編成(ツーマン)で参ります」の表示サインを点灯させていて、2人はその待機位置で待っていた。

 電車がモーターの音を響かせながら、接近してきた。

 元京成のクモハ3150形が、去年入線したばかりの新車…………ではない、関東鉄道からの譲渡気動車キハ310形を動力撤去の後に電車の付随制御車に改造したクハ310形を引いて、到着した。

『お待たせしました、東瑞苑止まりです』

 電車用の冷房に載せ替えていて、気動車時代のままの扇風機が、その冷気をかき混ぜていた。

 

 

 桜野地区。オルガマリー・オルタの “箱庭の王国” ……ではなく、その1階、『佐藤デンキ』の、作業部屋。

「えーっと……」

 佐藤デンキの店主が、カバーを開けられたゲーム機の基板を見ている。

 その店主と、作業台を挟んで向かい合い、オルガマリー・オルタは、椅子を前後逆に座って、興味津々で覗き込んでいた。

「ほらほらマリー、お兄さんが邪魔そうよ」

 傍らでそれを見ていたアーチャーが、苦笑しながら、オルガマリー・オルタを嗜める。

「むっ……」

 オルガマリー・オルタは、ちょっと唇を尖らせつつ、身を起こした。

 そんなオルガマリー・オルタの様子に気付いたのか、

「母、ですもの。甘やかすだけにはいかないわよ」

 と、アーチャーが言う。

 僅かな間だけ、拗ねたように唇を尖らせていたオルガマリー・オルタだったが、すぐに、コロッと笑顔になる。

「はーい、母のメディアに従いますっ」

 ヴィイィィィーン

 足踏みスイッチの古い自動ドアが開き、店内に2人連れが入ってくる。

「あ、いらっしゃいませーっ……って」

 店員として、挨拶をしたオルガマリー・オルタだったが、

「ちゃっス」

 と、軽いノリで、額に片手の人差し指・中指を揃えてあてつつ、挨拶するクレオパトラ49世を見て、オルガマリー・オルタは、気の抜けた表情になった。

「なんだ……パトラか……」

「こらこら、その扱いはないだろ」

 クレオパトラ49世は、苦笑しながら、嗜めるように言う。

「ま、今日は駐車場借りるだけだから、確かにお客様ヅラはできないんだけどさ」

 クレオパトラ49世は、ニュートラルな表情になりつつ、カウンターの内側を覗く。

「店長?」

 クレオパトラ49世が入ってきたのも気付かないかのように、店主は基板とにらめっこしている。

 クレオパトラ49世は、カウンター越しにそれを覗き込んだかと思うと、

「カートリッジ側基板の1番2番につながってるブリッジのチップを飛ばして、その1番2番と、メイン基板の “AUX” をジャンパ。極性間違えないように」

 と、どこか淡々とした口調でそう言った。

「え!? な、なんで解るんですか!?」

 驚いたように、店主は顔を上げ、クレオパトラ49世に問いかける。

「ディスクシステムの音が鳴らないんだろう?」

 クレオパトラ49世は、どこかキョトン、としたような表情で、そう言った。

「それ、アタシが半ば道楽でやってる商売のやつでさ……」

 かつて、ゲーム機市場の王座に君臨した伝説の王者と、その後継者でやはり一時は王者として君臨した者、そのデュアル互換機だった。

「国内で派手にやるとあそこは結構やかましいから、製造は別のところでやってたんだけど、北米用の基板持出して国内でさらなるパチモンつくってくれたやつがいて……それがそいつ」

 クレオパトラ49世は、カウンターにもたれかかりながら、苦笑交じりにそう説明しつつ、店主の前の作業台に載っているゲーム機を指した。

「北米版はリージョンチェッカがついててさ、オリジナルと同じで国内版の拡張用のピンがそれに取られてるから、リージョンチェッカのチップ外して、メイン基板の外部音源と繋いでやれば、ディスクシステムとか拡張音源内蔵のソフトもちゃんと音が出るってわけ」

「はー……なるほど……」

 店主は、そう言いつつ、早くもニッパーを持出して、作業を再開しようとしていた。

「で、パトラは、駐車場で何をするの?」

「それは……────」

 オルガマリー・オルタが問いかけると、クレオパトラ49世がいいかけた時、

「マスター、到着されたようですよ」

 と、駐車場を挟んで道路に面している側の窓から、外を見ていたセイバーが、クレオパトラ49世に告げた。

 カォンッ

 旧いが、それなりに排気量のあるエンジンが、プラグ被り(未燃のガソリンや煤で点火プラグの電極が短絡してしまい、正常に発火できなくなる現象のこと)を防ぐ空ぶかしをした音が聞こえてきた。

「おっ、来た来た来た♪」

 普段のオルガマリー・オルタに負けず劣らず、無邪気にはしゃいだ様子で、店外に出ていく。そして、

「えーっ!?」

 と、店頭の駐車場で、クレオパトラ49世が、驚愕の声を出したのが、聞こえてきた。

 何事かと、オルガマリー・オルタとアーチャーは顔を見合わせてから、クレオパトラ49世とセイバーを追って外に出た。

「こ、こ、これ、さ、3000万でいいんですか!?」

 そこに停まっていたのは、年齢不詳とは言え、おそらくクレオパトラ49世よりも遥かに年上の、国産のハードトップスポーツカー。

「ああ、今回のことがなくとも、このまま維持するのもしんどくなっていたからな……」

 決まり悪そうに苦笑しながら、そう言っている相手は、折原支局長だった。

「なによ、日本製の旧いスポーツカーじゃない。なにをそんなに驚いてるの?」

 どこか呆れたかの様子で、オルガマリー・オルタが言うが、

「バカ! 何も知らないでもその発言は迂闊もいいところだぞ!」

 と、地面にへばりついて、そのスポーツカーの足回りを観察していたクレオパトラ49世が、飛び跳ねるように起き上がって、怒声と言っていいほど声を張り上げた。

「当時日本最高峰のスポーツクーペ、市販車(GTカー)レースの王者となるために創られながら、排ガス規制の前に製造197台で散ったケンメリことKPGC110スカイラインGT-R! 今もう、不動車含めてもどれだけ残ってるか……ナンバー着けて公道を自走できるだけで1000万はくだらないのに……」

 オルガマリー・オルタにそう説明しながら、その間も目が離せないといった様子で、車内外を観察する。

「内装は切り貼りを避けて原型を極力とどめてるし、サスは変わってるっぽいけど、ナチュラルな感じのシャコタンだし、下品なエアロとかも着けてないし……さっきのエンジン音も……うわぁ……流石にS20じゃないけど、この状態のは……うわぁ……」

 ボンネットも開け、L28エンジンの時代がかりながらもピカピカに磨かれているシリンダーヘッドとキャブレターのマニホールドを見て、身震いする。

「もう500、いえ、1000万出させてください、それでも安いくらいです!」

「ま、まぁ、少しでも高く買ってくれるなら……」

 買うほうが値段を釣り上げる事態に、折原は気圧されるように返した。

「賠償金の額をそれだけ超えてくれると、ありがたいしな……」

 折原は、そう、寂しそうにもしつつ、自虐、自嘲の苦笑をしながら、GT-Rのフェンダーを撫でた。

「それで、今回、手放されることになったんですね?」

 セイバーが、真剣な表情で訊ねるように言った。

「ああ……」

 主犯は被疑者死亡、瑞苑GSC(ガーデンショッピングセンター)では辛うじて死者は出なかったが、まさに “死者は出なかった” だけ。ここまで表沙汰の騒動になってしまうと、誰も責任取りませんで事を収めることはできなかった。

「じゃ、追加分も必ず今日明日中に振り込みますんで」

 名義変更の為の書類の受渡しを終えると、隣に停まった、折原支局長の息子と思われる若い男性が運転する、黄色のスイフトスポーツの助手席に乗り込み、去っていった。

「血は争えないのかねぇ……」

 それを見送って、クレオパトラ49世は、苦笑しながら呟いた。

 ケンメリGT-Rだと、新車なら購入したのは折原────もうすでに()支局長だろう彼の親の世代だろうが、この状態で維持していたとなると、本人も相当愛着なり何なりを持っていたはずだ。

「そう言えば……セイバー」

 ふと、思い出したように、アーチャーがセイバーに問いかける。

「はい? なんでしょう?」

 セイバーが、視線をアーチャーに向ける。

「アナタ、元の世界で警察官をやっているって言ってなかった? ここで現界したままでいいの?」

「あー……えーと……それは、ですね……」

 アーチャーに問いかけられて、セイバーは、先程まで、自分からの問いかけに対してそうなっていた折原のような、決まり悪そうな、気まずそうな苦笑をする。

「今回の功績ってやつで、有給強制消化なんだと」

 セイバー自身が答える前に、その背後で、クレオパトラ49世が、呆れたような笑みを浮かべながら、そう言った。

「ええ、その、戻って来ると自分の都合で()()()()()()をするから、向こう50年は帰って来るな、と……────」

 

 

 瑞苑ガーデンショッピングセンター。

 ドムドムバーガー瑞苑GSC店は、すでに元のとおりに修復されていた。

「どうやら、()()()()が残っているという事はないですね……」

「ええ、とりあえずは良かった」

 サン-ジュスト・オルタが、周囲を見ながら言うと、同じようにしながら、アッティスも同意の声を出す。

 瑞苑の聖杯戦争において、ルーラー2人は、後始末まで担当だ。あと10日ほどは現界し続けていられる。

 …………まぁ、そこまでならば少しクールなやり取りにも見えたのだが、2人して、バーガー類を無数に片腕で抱え、もう一方の手で、先ずは最も豪勢なビッグドム トマト&チーズをぱくついている。

 地下1階、ダイニング部分。

 はむっ、もぐもぐもぐ……

 しっかりとかぶりつき、ゆっくりと咀嚼し、嚥下する。

「美味しい! ドムドムも美味しいや!」

 座席に腰掛けた輝鐘が、厳選ナチュラルチーズバーガーを食べながら、そう喜ぶ声を上げた。

「良かったですね」

 輝鐘の隣に座っていた桐谷直哉助司祭は、輝鐘に笑顔を見せながら、そう言った。

 輝鐘は、バーガーこそレギュラーのものを食べていたが、サイドとしてキッズナゲットセットを注文し、マスコットの「どむぞうくん」のぬいぐるみも手に入れていた。

「神父様にも買って帰らないと!」

「ええ」

 直哉はそう答えてから、本来の目的である、向かい合って座る相手を見た。

「聖堂教会としては、担保分以上の追加負担がないのであれば、あとは “よきにはからえ” と」

「そうですか、わかりました」

 直哉の言葉に、正面に座る、薄桃色の髪の女性が、そう返す。

「ガスサービスの方も、魔術協会(こちら)で交渉しています。こちらは交渉課程の資料ですので、後ほど精査を」

「解りました。ありがとうございます」

 魔術協会の女性が、封筒に入れた書類を差し出し、直哉がそれを受け取る。

「では、実務の方はここまで、で、いいですね?」

「ええ、まぁ…………」

 魔術協会の女性に対し、直哉は歯切れ悪い言葉を返す。

「なにか……?」

 その直哉の態度を見て、魔術協会の女性が、不思議そうに訊ねる。

「その……見かけによらず健啖家なんですね……霧灯(むとう)さん……」

「そうですか?」

 唖然とする直哉に対して、霧灯、と喚ばれた女性は、その反応が理解できないと言った様子で答えながら、トレーに山盛りにしたバーガー類から、ビッグドム トマト&チーズを取り出し、包みを解いて、口に運び始める。

 直哉は、軽くため息をついてから、自身もクリスピーチキンバーガーの包みを解いて、食べ始めた。

 

 

 中通り3丁目。

『ありがとう さようなら クハ200形』

 と、造花の花飾りが施された、元京成のクハ200形が、元東急のクモハ7000形に連結されて、ラストランイベントを行っている。

 元京成クハ2100形で、現役の元西武車クハ150形や、今回入ってきた元関鉄クハ310形、少し前に入った元上信電鉄車クハ300形とは、新製年月日はどっこいなのだが、軌間の異なる北豊田電軌に来た際、同時期に関鉄から提供されたTR29という、戦前の気動車用台車に履き替えた事(当時の気動車は、電車や機関車が牽く客車に比べて、簡素な乗り物で、エンジンの出力不足を補うため、台車や車体などは最低限の強度で軽量化していた)、それに、トレーラーのグループが他は長さ20m級の車両で揃えられているのに対し、唯一18m級だったので、扱いにも困る事とで、台車再交換を行わず、今回引退・全廃が決まったのである。

『本日御乗車いただき、誠にありがとうございました。1号車、クハ200形202号は、京成電鉄クハ2100形として昭和27年に製造され、当社には昭和63年に譲渡。以降、長く皆様の脚として活躍してまいりましたが、整備の限界、車体規格の問題などにより、本日、最終運用となりました。37年間の活躍の応援、誠にありがとうございました』

 

 

 JR赤塚駅──── “外の世界の赤塚駅”。

 3番線ホームに、帰途につく、琉希と、直斗を見送るために、立香とランサー、それに、間桐姉妹がやってきていた。

「その、色々ありがとうございました」

 普段の気障さを押さえた、 “余所行き” の表情で、慎二が直斗に伝える。

「いや……それほど、君達の世話をしたつもりはないんだがな……」

 面食らったかのように、直斗は言う。

「いいえ、アーチャーをメディアと特定して、『破戒すべき全ての符』の情報を得られたのは、アナタと……バーサーカーのおかげでもありますから。特に私達姉妹は、感謝してもしきれないほどですよ」

「本当に、ありがとうございました」

 慎二が手振りを加えながら言い、桜がそれに続いて頭を下げた。

「ボクはもう、瑞苑に移住するつもりですから。住民票移して今のマンションを引き取ったら、すぐに戻ってきます」

 琉希は、これからの生活に期待しているのを隠さない、ウキウキとした表情で、そう言った。

「水があった、ってやつだねぇ」

 ランサーが、悪戯っぽい笑顔で言う。

「なんだかなぁ……俺も、すぐに戻って来ることになりそうな気がするんだが……」

「虫の知らせ、って感じですか?」

 直斗がぼやくように言うと、琉希が訊ねる。

「いや、もう少し具体的な話でな」

「具体的な話?」

 立香が鸚鵡返しにしてから、慎二と顔を見合わせ、それから視線を、難しそうな顔をしている直斗に戻した。

「魔術協会、折原支局長の後任に、霧灯(むとう)舞珠(ましゅ)さんが指名されているんだが……」

「う……私あの人ちょっと苦手なんだよね……」

 直斗の説明で出てきた名前を聞いて、立香が、初夏から本格的な夏に移ろうとしているにも関わらず、寒気を感じて、自身を抱くかのようにしてそう言った。

「あら、そうなの? 珍しい」

 それを聞いた慎二が、言う。

「教会が苦手とは言ってたけど、見た感じ、あの神父さんや助司祭さんが苦手ってわけじゃないんだろ?」

 ランサーも、不思議そうな表情をして、問いかける。

「うん。教会自体が苦手って感じなんだけど、霧灯さんは本人がっていうか……私、たまにあの人に、のんびり寝ているところから尻を蹴飛ばされる夢を見るんだよね……」

「なんだい、そりゃ……」

 立香は冗談を言っているという様子ではないのだが、そのあまりに荒唐無稽な内容に、ランサーは苦笑する。

「でも、あの人、私達とそれほど歳、変わらないでしょう?」

 気を取り直したという感じで、慎二が直斗に問いかける。

「そうなんだ。流石に若すぎるってことで、補佐がつくと、そこまでは決まってるんだが……」

 1人で震えている立香を余所に、直斗の返事を聞いて、今度は慎二と琉希が顔を見合わせてから、

「もしかして、それに直斗さんが?」

 と、問いかけると、直斗はこくん、と、ただ言葉に出さずに頷いた。

『お待たせしました、まもなく3番線に、15時37分発 普通 上野 行が参ります。この電車は、10両です。途中、取手駅より先は、快速運転となります』

 2人の乗る、電車がアナウンスされる。

「それじゃあ、また」

「うん、待ってるよ」

 琉希と、立ち直った立香が、手を振りあった。

 滑り込んできた、E531系の扉が開く。

 ティロリロリンロン……ティロロロロ

 ティロリロリンロン……ティロロロロ

 ティロリロリンロン……ティロリロリロリロリ~

『発車いたします。閉まるドアにご注意ください』

 キンコーン・キンコーン

 ガララララ……バタン

 扉が閉じ、VVVFインバータの励磁音をたて、電車は発車していった。

「さ、帰ろ」

 それを見送った後、立香達は、エスカレーターに乗り、橋上駅舎を渡って、赤塚駅、現1番線のホームに降りる。

 今は、柵で閉鎖され、軌道も撤去済みの、旧1番線、茨城交通茨城線ホーム跡。

 そこに、道があると、目的地へ続く軌道はあると、信じて向かう。

 ────────ぉん度の北豊田電車、御前山・東瑞苑方面の電車は、16時ちょうど発、軌道線直通、谷地行きとなります』

 





はい。ここまでお付き合いいただけた方、ありがとうございました。
まだまだ書きたいことはあるのですが、ひとまず Fate/Sealed Elysium “本編”はここで終了です。

X(旧Twitter)にも書いていたんですが、元々は、Novel AI Diffusion に思いつきで描かせた絵を基に、自分の設定をChatGPTと自己でグツグツと温めていたんですが、そのうちに、その設定が膨大になってしまい、「あ、これは外に出さないのは絶対もったいねぇぞと」なって、書き始めました。

https://x.com/kaonohito2/status/1963284779010527268
実は最初に描かれたのは、この彼女だったんです。
でも、セイバーは迷った挙げ句にXXにすることにしたのです。
ごめんよ。

撹乱に使った、豊田郡。これに“I県”と着けば、I知県に誘導されるかなーと。
ちなみに、実際に過去に存在していました。
町村制施行の1878年から、結城郡への統廃合までの1896年までの、18年間だけ。
結城郡、で分かる通り、瑞苑町の想定存在位置からはずっと南で、水戸線を挟んでほぼ南北に正反対になる位置です。
このことから、瑞苑町は、昭和53年の土浦自動車検査登録所設置後は水戸ナンバーエリア内の土浦ナンバーの飛び地という設定もあったりします。

ではでは、ひとまずここまで、お付き合いありがとうございました。


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具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
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