アルバス・ダンブルドアとレガシーの継承者   作:春大1515

1 / 1
前日譚
プロローグ


──この物語はクロウディ(Crowdy)という姓を持つ者たちから始まる。

 

彼ら彼女らはブラック(Black)家やゴーント家(Gaunt)がそうであったように古い純血の旧家であり。

1930年にカンタンケラス(Cantankerus)ノット(Nott)が匿名で出版したとされる『純血一族一覧』まで存続していたのならば、間違いなく「聖28一族」は「聖29一族」となっていたであろう。

 

代々法学を修め、魔法省に自らの子弟を送りこみ、門閥として優秀な人材を輩出し、一見して明瞭に見える法文の解釈を巧みに操り、時には歪めて、魔法界における法学の大家(たいか)として*1報文(ほうぶん)法文(ほうぶん)を書き上げ、それを生業として、その最盛期には魔法省の花形としてその名を広く知らしめる魔法法執行部の重要な官職のことごとくを独占した。

その当然の帰結として魔法法執行部に公然と権勢を振るい、そしてその法文(ほうぶん)報文(ほうぶん)をもってして歴代の魔法大臣達の裏に影響力を保ち続けた。

かつて純血の名家達が魔法大臣職を交代制で代わる代わる務めていた時代に一度だけ*2魔法大臣を出したこともあるが、クロウディ(Crowdy)は自ら歴史に残る権力者になるよりはそれらを支え、時に操り、自らの権勢の維持に利用するのを好むのだ。

 

それでも、盛者必衰の(ことわり)から逃れることは難しいものでクロウディ(Crowdy)家もいつしかも没落していきハリーポッター本編開始時、すなわちには1980年代には跡形もなく断絶してしまった、それはなぜか?

 

──他の純血の家に権力闘争で負けて権勢を失ってしまったのか?。

 

──いやそうではない、その晩年まで彼らは権勢を保ち続けたし、使い切れない富を携えたまま滅びっていった、それに()()()()()()マグル共と違って由緒ある純血達は他の純血の家を断絶させるほど追い込むことは少ない、考えてみれば当たり前のことでウィーズリー(Weasley)ポッター(Potter)家をいれても、彼らの言う()()()()()純血の家系はせいぜい三十やそこらなので、いちいち利害が対立した程度で御家断絶にまで追い込んでいたらただでさえ狭い婚姻先の選択肢がますます狭まっていきやがて自らの首を締めることに繋がる。

 

──ではかくも高貴なる血統を誇ったクロウディ(Crowdy)はなぜ途絶えてしまったのだろうか?

 

その答えはまさにその血統にあった、ゴーント(Gaunt)家はともかくとしても、ほとんどの純血の旧家というのは、……不都合な真実ではあるが「家系図の剪定」を行って自らの()()()を主張しているに過ぎない。

 

つまり程度の大小こそあれ、彼らはマグルの血が混じった祖先を持ちその人物を家系図から削除して仮初の純血を装っているだけで、それに派閥や思想によらずに相手が純血とされる家柄ならば、例え利権巡って対立した家とも平然と婚姻する、まさに純血にとって昨日の敵は今日の家族なのである。

 

にも関わらずクロウディ(Crowdy)はそれをしなかった、自身の血にマグルの血が混ざるのを良しとはせず、それでいて純血の名家との婚姻には消極的だった、それは彼らの生業である法学に関係のあることで三権分立の成っていない魔法界において魔法法執行部に影響力を持つことは、それすなわちウィゼンガモットに影響力を持つことにほかならない、つまり魔法界においてクロウディ(Crowdy)の名はウィンゼンガモットの法務委員会において魔法法の立法者であり、それを執行する魔法省の魔法法執行部の行政者であり、それを裁くウィンゼンガモットの大法廷における判事としての司法者でもあった。

 

婚姻してしまえばおのずと利害関係を共にしてしまい、その家の関係者を裁く時の判決に迷いが生じる、その強大な権力ゆえに安易な婚姻は許されなかったのである。

 

そしてその血統は高貴なる血脈なのに、魔法界において隔絶した、孤立した血統として、自らの分家や極稀に利害関係のない遠い異国の純血を取り入れるのみだった。

 

いつからだっただろうか、近親婚を繰り返し遺伝的多様性を失ったのが悪かったのか、はたまたグリーングラス(Greengrass)がそうであったようにその血にかけられた呪いだったのか、いずれにせよクロウディ(Crowdy)家に生まれる子供は皆、病弱で病的なまでの青白い肌と色素が抜け落ちた白い体毛と陽の光に弱い特徴を持って生まれるようになった。

 

口さがない者はよく噂したもので、それは吸血鬼と交わった証かアズカバン送りにした罪人たちの呪いだとか、クロウディ(Crowdy)家はその立場上よく嫌われていた為、噂の(ほとん)どは根も葉もない悪評だったがそれでもクロウディ(Crowdy)の姓が差別の対象とならず最期まで畏怖の対象となったは、やはりその権力と権威の為せる業だったのか。

しかし悲しきかな、代々そんな状況が続き今やその権力も権威たるクロウディ(Crowdy)の血も陰りはじめ、ゆっくりと、けれども確実に削り取られていった。

 

────その家系図の末路、その血の特徴を色濃く残した女がいた、(シルク)のような髪に、木綿(コットン)のような肌、白緑の瞳を持つ盲者、コーネリア(Cornelia)クロウディ(Crowdy)は滅びゆく彼女の生家をそのまま投影したかのように儚げな美しさのある女性だった。

 

そしてもう一人、これまた純血の名門として知られたシャフィク(Shafiq)家の長男でスリザリン寮に組分けされて1870年のホグワーツを首席で卒業した男。

元々シャフィク(Shafiq)はその名前からもわかる通り中東系の家系で魔法法機密保持法以前、第三回十字軍で獅子心王( Richard the Lionheart)に仕えて活躍した魔法戦士に惚れて彼を追い、その愛ゆえにアラビアの砂被る熱された砂漠から遥かなるブリタニアの凍てつく大地に流れ着いた魔女を祖とする一族、いつしか英国魔法界に根付いたその一族に生まれた男、ロバート(Robert)シャフィク(Shafiq)は眉目秀麗にして先祖代々の滑らかな陶器のような褐色の肌を携えた社交界の薔薇であった。

 

というのもこの男は英国の魔法省で出世街道を歩みその家柄と端正な顔立ちのために、引く手あまたでありながら女遊びの激しい性格ゆえに縁談を断り続けていた、さぞや純血子女達には恨まれたことだっただろう。

実家の意向を無視して愛人をとっかえひっかえ取り替えてトラブルを度々起こしてはまた性懲りもなくそれを繰り返す、もういい加減、シャフィク(Shafiq)家も彼に呆れ返った頃にその出会いが訪れた。

 

ある社交界のパーティーでのことだった、その日は久々にコーネリア(Cornelia)クロウディ(Crowdy)が社交界に復帰していた、体が弱く魔法省への宮仕えも許されない彼女にとってそれはかなり珍しいことだった、一方でロバート(Robert)シャフィク(Shafiq)もそのパーティーに参加していた、というより彼は社交界に入り浸っている常連だったので参加していないパーティーを探すほうが難しかったが。

 

ともかくそのパーティー会場でロバート(Robert)シャフィク(Shafiq)コーネリア(Cornelia)クロウディ(Crowdy)に恥も外聞もなく、その場で求婚した。

それは純血としてはしたない、ありえないことで、もっと言うならこの二人は初対面だった、要は一目惚れだったのだ。

何に惚れたのだろうか、その富だったのか、その家柄だったのか、権力だったのか、あるいはその儚げな美しさだったのか。

 

たしかにクロウディ(Crowdy)家は富を蓄えた由緒ある名家だったがそれでもそれに比する家柄の者との縁談がなかったわけではない、そして彼女の代には流石のクロウディ(Crowdy)家もその権力を手放していたし、それに、たしかにコーネリア(Cornelia)は美しい女性だった。だが無愛想で悲観的であまりおしゃべりが楽しいタイプではなく、はっきり言って彼女よりも華やかな女性などいくらでもいたはずだ、いったいぜんたい何が彼の琴線に触れたのかは本人しかわからないが、ともかく彼は一目惚れしたのだ、……恋に理由はいらぬものなのだろうか?。

 

 

一方のコーネリア(Cornelia)は自らの代で長く続いたクロウディ(Crowdy)家の歴史を終わらせるつもりだった、彼女は熱烈な純血主義者で遺伝的多様性を求めて自らの唯一の心の拠り所、名誉あるクロウディ(Crowdy)家の家系図を汚らしいマグルの血で穢すのは耐え難い事だった、かと言って純血と婚姻を結ぼうとした場合、その血の病、その血の呪い、それらがゆえに彼女は純血の婚姻市場では疎まれていた、それに棒切れのような身体では子供を生むのは難しいだろうと見られていたし仮に産めたとしても母体は無傷では済まないだろうと、*3純血にとって子供が産めない女にどれぐらいの価値があるだろうか?。

 

コーネリア(Cornelia)は自らの体を恨んでいた、この世で最も尊き血統の一つに生まれるという栄誉に預かっておきながら、その権威に泥を塗るかのごとく病弱で子供一つ産み得ない自分の体の不甲斐なきを、たとえそれがその尊き血によってもたらされた病いだったとしても。

だから彼女はその血とともに自らも滅びるつもりだった、それがせめてもの贖罪であり名誉であったのだ、なんという高潔さ、なんたる滑稽さであろうか、その矜持が故に彼女は最初は断った、きっとそんな事をしてしまってはシャフィク(Shafiq)家まで呪いが広がってしまうかもしれない、それに私は子供を産めない身体なのだと。

 

彼の祖先がそうであったようにロバート(Robert)は諦めなかった。

家督の継承を弟に譲り、自らの姓を変えて、婿入してクロウディ(Crowdy)家に骨を埋める覚悟で何回も求婚した末に、先に折れたのはコーネリア(Cornelia)クロウディ(Crowdy)の方であった、彼女はその時条件をつけた、彼女は子供を産みたかったのだ、もしかしたらシャフィク(Shafiq)の血を頼ったらクロウディ(Crowdy)はその血の病いを振り切って再び陽の光の下を歩けるようになるかもしれない。

ロバート(Robert)は正直な話、彼女に無理をして欲しくなかったがそれでもその希望を無下にもできずにそれを受け入れた。

彼の実家(シャフィク家)もどこの馬の骨とも知れない女に嵌められて、ご落胤を掲げられるよりはマシだとしてそれを渋々認めた、それにクロウディ(Crowdy)家は滅びかけの家だ、もしかしたら血縁を作ることでそのレガシー(遺産)を得れるかも知れない。

 

かくしてしばらくの幸せな結婚生活の後、二人の間には子供ができたが残念ながらコーネリア(Cornelia)は長くは生きられ無かった。

しかし生まれた赤子は父親由来の褐色の肌を持っていた、それは間違えなくクロウディ(Crowdy)の呪いから逃れた証だった、そういう意味ではやはりその死には希望があり意味があったのだ。

男児でなかった事もそれに比べたら些細な障害だった、だが一つ致命的な問題があった、彼女は夜泣き一つしない従順な幼児だったが魔法力の兆候が現れなかったのだ。

 

通常この時代の純血の家に生まれた子供は魔法力が発現してから初めて家の外にその存在を知らされ、もし11歳の時、つまり*4ホグワーツからの入学を許可する手紙が届かなかった時はスクイブとして、他ならぬ自らの肉親にせめて家の恥とならぬよう密かに()()される。

 

そうして純血達は震えながら祈るのだ、あの子の眠りが安らかであるように、もう二度と忌み子(スクイブ)が生まれぬように、*5どうか私達を恨み、呪わないでくださいと。

 

──皮肉な話だろう、子々孫々まで、純粋で純血であって魔法が使えてほしいという親の祈りが、やがて軛となり、その血を蝕み、いつか子孫たちを苦しめるのだというのだから。

 

*6ロバート(Robert)シャフィク(Shafiq)クロウディ(Crowdy)はもし娘がスクイブだったらそうするつもりだった、彼もまた純血主義的な気風の中で育ったのだからそれは当たり前の事ではあった。

 

それでもいざその時になると彼はためらってしまった、育った娘を処分することはできなかった、それをするには彼女は、あまりにも亡きコーネリア(Cornelia)の面影を残していた。

外見こそ父親譲りの端正で中性的な凛とした顔立ちで滑らかな褐色の肌をしていたが、流れるような白髪と白緑色の瞳と何よりもふとした時に見せるきめ細かな所作にこそ母親の影があった、彼にとってその影は眩しすぎたのだ。

 

─だから11歳の誕生日、手紙が届かなかった日の夜に自らの娘を屋敷の大書庫に閉じ込め、従僕として屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)を一匹与え、今は亡き母と同じ名前、コーネリア(Cornelia)クロウディ(Crowdy)と名付けた。…結局の所、彼はついぞ娘を愛さなかった、周囲からの再婚の勧めも断り、ただ妻への愛と彼女への忠誠を守り続けた、それは彼の生来のスリザリン的な身内への愛があったからなし得たのだろう。

 

 

──ともかくそうしてこの物語は始まった。

 

*1
報告文、レポート、調査報告書、などという意味(Weblio辞書より引用)

*2
1770年~1781年の八代目魔法大臣、マクシミリアン・クロウディのことである。(ハリー・ポッターwiki参照)

*3
純血達の名誉のために補足するなら当時の魔法界において男女同権や女性の社会進出は少なくとも同時代のマグルよりはよほど進んでいた、そうでなくては1819年から1827年の魔法大臣、初めての女性の魔法大臣、ジョセフィーナ・フリントは成立しなかっただろう、杖さえ振れるなら魔法力の強弱が問題とされるのであって腕力の強弱は関係なかった。女性は家庭に縛り上げるべきなどという迷信に陥った愚かなマグル達とは違い、公然と女性に教育を施し、よく学ばせてから外で働かせて、家の栄達を望む、下賤な家事などは同じく下賤な屋敷しもべ妖精に任せればよいのだ。その結果として魔法省には女性の官僚が公然と存在していた。しかし子供が産めない女性というのは家の存続には何も役に立たない、もし家に貢献できないのであれば男女など関係なくその人物にどれほどの値打ちがあるだろうか?。そうして純血は自らの先進性を誇り、後進的なマグル達を嘲るのだ。(筆者注釈)

*4
ホグワーツにはその4人の創設者が魔法をかけた入学名簿とペンがあり、魔法力がある子供の名前を書き記す、そうしてホグワーツへの入学が許可され初めて魔法使いや魔女として認められる。

*5
フロムゲー要素その1、今後もちょくちょく混ぜるかも…

*6
ロバートはクロウディ家に婿入したため姓が変わっている、とはいえシャフィクも高名な家であるため両方の姓をハイフンで繋いでいる、実際英語圏ではそうういう文化があるらしい(作者解釈)





軽い世界観の説明で第一話に収めるはずが思ったより長くなってしまったので第一話から独立した話として前日譚にしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。