鬼滅の刃の二次創作
本編終了後、昭和、鬼殺隊士のその後を書いた二次創作になります。

無惨撃破後、散り散りになった鬼殺隊士が集結する話になります。

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第1話

父のことはよく知らない。

物心ついた頃、父は俺が生まれる前に死んだと母から聞いた。その母も俺が物心ついていくらも経たないうちに父の元へ旅立った。

母の葬儀の日、父が会社員だった頃の仕事仲間が会いに来てくれた。

額に痣がある男が特に熱心に父との思い出話をしてくれた。

家族を失って路頭に迷い、寒さに震えていた彼と彼の妹を父が救ってくれたのだと。

生きて明日を迎えられないと諦めていた彼に住む場所を手配してくれて、仕事も与えてくれた恩人だと。

後から、彼に仕事を与える行いは越権であり社内では父の立場も危うくなっていたと知ったが、父はなにも言わず腹を切る覚悟で守ってくれたのだと。

仕事を任せられるようになった後も、何度も窮地に陥ったが、そのたびに父がなにも言わず救ってくれたと熱を込めて語ってくれた。

「俺は君のお父さんには返しきれないほどの恩があるんだ。だから、恩返しをさせて欲しい」

彼はとても熱い男だった。

それはまるで闇を払い、地上を照らし導く太陽。

暑苦しいほどに熱い彼に導かれるものは多いだろうと子供心に思った。

その彼が今なおここまで慕う父はさぞ立派な男だったのだろう。

身寄りを失った俺のために、彼はすぐに動いてくれた。

信頼出来る人だと言って、養父を紹介してくれた。

彼は妻共々多忙で出張が多いため、一緒に居れる時間が取れないとのことで、養父は迷うことなく了承してくれた。

その後彼とは会っていないが、俺のために多額の援助をしてくれた。

彼が紹介してくれた天狗の面を被った養父は素朴で優しい人だった。

ただ、物事を決めるのが遅いとすぐ殴られた。

彼と養父のおかげで俺は生きるのに不自由したことはなかった。

二人に恩返しするために、必死で勉強して体を鍛えた。

「よくやった。お前は、強い子だ・・・」

努力が報われて俺は幼年学校に合格した。

養父は凄く喜んでくれたし、彼からも祝いの電報が届いた。

二人に喜んでもらえたことがとても嬉しかったし、誇らしかった。

でも、誇らしかったのはそこまでだった。

幼年学校では同期に馴染めず、ハンモックナンバーは下の方になってしまったし、士官になった後も上官や他兵科とうまくやっていけなくて各地を転戦した。

そうしてついには北支の果てに左遷、同期は今南方でお国のために働いてるのに俺は予備役や二次徴募の兵隊と木を数える生活だ。

どうやら、俺は父のようにはやれないらしい。

そのことがただただ惨めだった。

彼にも養父にも合わせる顔がなく、日本にもここ3年は帰っていない。

 

 

「なぜそんなことを訊くんだ?上等兵」

満州で俺に声をかけてきた上等兵は歳の頃は50にさしかかろうかという老兵だった。

日本では、南方で兵員が消耗したため退役兵が再招集されている。

この上等兵もその一人だろう。

「いえ、単純な興味であります」

ぱっちりとした白目が多い両目でまっすぐ俺を見る。

左右均等に分けられた白髪から見られる年齢に対して、気さくな物腰と矍鑠とした立ち振る舞いからは老いを感じさせない。

上等兵は元々会社員で管理職だったらしい。

昨今の動員に応じる形で退職し、従軍したのだという。

実に愛国心に溢れた男だ。

しかし、老境の二次徴募兵では前線勤務は務まらず、ここに来たのだろう。

階級こそ俺の方が上だがこの男はよく気配りが出来、新兵からも慕われている。

俺にもこの才覚があれば父のようにやれたのだろうか?

「司令部より緊急入電!」

俺の思考は通信兵がもたらした急報によってかき消された。

 

昭和20年8月9日 

ソ連軍が中立条約を破り、満州へ侵攻開始した。

 

 

司令部では急報への対応で士官が集められた。

偵察機がもたらした情報では多数の戦車を擁する大部隊だ。

「ここの戦力では防ぎきれんか・・・」

戦力の大部分を南方に取られた現状では、ドイツを下した赤軍の機甲部隊にはとても対応できない。

「大本営より通達、撤収し、後方の部隊と合流し迎撃せよ」

防ぎきれない以上、戦力を集結して迎え撃たねばならない。

「民間人の避難を優先すべきです」

俺の意見に司令部が凍る。

撤退に際し、敵に悟られないようにするために、民間にはこ

の事実を伏せることで話が進んでいた。

民間人を連れて後退していては、敵に追いつかれてしまい、各個撃破されてしまう。

戦術としては間違っているかもしれないが、民間人を見捨てて逃げるべきではない。

司令部を見渡すと全員が目をそらす。

まただ、俺の一言でいつもこうなる。

彼らの思うところは分かる。

終戦が近い今、皆生きて内地に帰りたいのだ。

生還の見込みがない戦いなど誰もしたくない。

ましてや、ここの士官は皆自分の兵を預かっている。

その兵達もまた帰りを待つ家族がいるのだ。

あの上等兵も下の子供はまだ5歳だと言っていた。

士官が私情にとらわれて、兵をいたずらに危険に晒すことこそあってはならないことだ。

「大尉、これは命令だ」

司令官の苦り切った声が落ちてきた。

 

 

 

撤退は決定した。

だが俺はどうしても命令に従うことは出来なかった。

「上等兵、元気で」

「帰ったらいい芸者を紹介するであります」

麾下の部隊は副隊長に預け、俺に付いてきてくれた僅かな手勢とともに敵を迎え撃つ。

進路が限定される山道にさしかかったところに陣を構える。

工兵隊長の合図により山道両脇に仕掛けた爆弾が炸裂。

崩れた斜面と倒木が戦車に覆い被さる。

「擲弾筒用意!」

足が止まったところに擲弾筒を撃ち込む。

ロシア語の悲鳴と怒号が響き、随伴の歩兵が撃ち返す。

こちらは木と稜線に身を隠しながら敵弾を撃ち込んで応戦する。

地の利はあったが敵の数は圧倒的だった。

擲弾筒を撃ちつくした後は小銃、小銃の弾が切れたら銃剣、銃剣が折れたら刀を抜く。

「突撃せよ!」

敵兵の密集地点に一気に斬り込んで乱戦に持ち込む。

「大尉殿!後を頼みます!」

俺が敵を引きつけたのを見た工兵隊長が対戦車地雷を抱えて最後尾の戦車に潜り込んだ。

下から爆発で突き上げられたソ連の戦車、その砲塔が吹き飛ぶ。

これで敵の機甲部隊は立ち往生だ。

その爆音で一瞬対応が遅れた。

ソ連軍が味方の犠牲も構わず迫撃砲弾を撃ち込んだ。

とっさに敵兵を盾にして爆風を防いだが、体に多数の破片が突き刺さった。

「くそ」

勢いが落ちた俺にとどめを刺すべくソ連兵が迫る。

その手には機関銃が握られている。

襲い来る銃弾に備える直前、内燃機関の爆音が響いた。

 

百式輸送機

 

帝国陸軍の機体だ。

それがなぜ?

疑問に答えるように輸送機から何かが飛び出した。

あれは、人間?

その中に見慣れた顔がある。

左右均等に分けた総白髪、

「村田上等兵?」

 

 

 

満州で大尉と出会ったのは偶然だった。

表情に乏しい切れ長の目は忘れもしない。

もしかしたらと興味本位で話しかけてみて確信に変わった。

寡黙で冷静、その中に熱い情熱を持った男。

間違いない、大尉はあの男の忘れ形見だ。

若くして命を燃やしたあの男の血を継ぐ者が自分の前に現れるとは。

あの男の血を継いでいるなら、当然こうすることは分かっていた。

だから自分もこうする。

地面が近い。

ロスケの群れが自分に機関銃の銃口を向けている。

「富岡、よく見とけ!」

腰のスプリング刀を抜き放つ。

あの男と鍛えた技術、あの男が編み出した奥義。

 

ー全集中

ー水の呼吸

ー拾壱の型

 

地上から砲火の花が咲いた。

 

 

『凪』

 

 

それは、斬撃の瀑布。

空中に打ち上げられた無数の銃弾。

それらを村田上等兵は己の斬撃で全て打ち払う。

「うおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!」

打ち返した銃弾がソ連兵の頭上に降り注ぎ、瞬く間に銃火が消える。

「捌の型!滝壺!」

村田上等兵が地面に激突、圧倒的な衝撃がソ連兵を吹き飛ばし、戦場に『凪』が訪れた。

 

 

「村田上等兵!」

地面にうずくまる村田上等兵に駆け寄る。

「ああ、くそ、全部は無理か、やっぱお前のオヤジはすげーや」

村田上等兵は肩と脇腹に銃弾を受けていた。

「上等兵、どうして・・・」

「芸者を紹介するって言っただろ?」

村田はむっくりと起き上がると、銃弾によって刀身が砕け散り、柄だけになったスプリング刀を投げ捨てる。

「それよりほら、ロスケはまだやる気だぞ」

稜線の先、ソ連軍の増援が進軍してくる。

先ほどの倍以上の規模だ。

「上等兵、これは命令だ、直ちに撤退し後方の部隊と合流しろ」

上等兵は既に負傷している。

同じ規模の攻撃は防ぎきれない。

上等兵には帰りを待つ家族がいるのだ。

「つってもなー、もうみんな呼んじまったんだよな」

みんな?

その疑問に答えるように輸送機から無数の人影が降って来る。

「サラリーマンやってたときのツテでな。『隠(かくし)』だったやつらが戦車と火砲、機関銃もかき集めたってよ」

無線機からの通信。

「村田!てめえ抜け駆けしてんじゃねえぞ!」

「渡辺!まだくたばってなかったのか!」

「孫の顔見るまで死ねるか!」

「敵は昼も動けるぞ!注意しろ!」

「安心しろ!どこ斬っても殺せる!殺せば死ぬ!」

空中から次々に兵隊が降りてくる。

こんな心強い光景があるなんて。

降着した兵から老いを感じさせない素早さで集結してくる。

「富岡大尉、次の命令を」

村田上等兵に促され、俺は集まってくれた戦士達に命令する。「卑劣にもソ連は条約を破棄し我らの祖国を侵略した!斯様な蛮行は断じて許してはならん!総員戦闘準備!祖国に仇なす悪鬼を、滅殺せよ!」

 

 

-完


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