スポンジ様(https://x.com/Sponge308)主催のアグネスデジタル合同誌、
『平凡ウマ娘の私が主役をいただいてしまった件』に、SSで参加させていただきました!
アグネスデジタルの南部杯と天皇賞を描きました、どうぞご賞味くださいませ(*'▽')

8/16(土) 1日目 西地区 お-31b『スポンジロール』にて頒布予定となります!
どうぞ、よろしくお願いいたします!!

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第1話

十月初旬、秋晴れというには、その日は雲が多かった。

府中の中央トレセン学園から、遠く、遠く、およそ五五○キロメートル離れた場所に、本日の舞台が用意されている。

新幹線や電車、バスを乗り継ぐこと五時間弱もかかる大移動だ。

色んなレース場への出走経験がある私でも、今回の移動は少し疲れた。

けれど、疲労を理由に気持ちを沈めてなどいられない。

だって今日は、地方所属のウマ娘ちゃんたちとレースが出来る、貴重な機会なのだから。

ウマ娘ちゃんたちが走る姿を、間近で、特等席から見たい。一緒に走りたい。

そんな自分でも狂気じみていると感じる夢が、私の──『アグネスデジタル』の走る理由なのです。

 

**********

 

『マイルチャンピオンシップ南部杯』──祝日開催となった本日のメインレースである。

盛岡レース場、左回りのダート一六○○メートルのレースだ。

最高峰のG Iというグレードに定められたレースであり、日本のG Iでは唯一、三大都市圏以外で行われるレースとなる。

ダートコースにおける、マイル距離最速の称号を賭けた戦いだ。

地方マイルレースの最高峰とも言えよう。

 

ファンファーレが高らかに鳴り響き、スタンドを埋め尽くす大観衆からの拍手と歓声が轟く。

それ程までに待ち焦がれていたのだ。

マイルのダートコースにおける、王者が誕生する瞬間を。

 

『この雰囲気、伝わりましたでしょうか? 非常に盛り上がっております。ここ、盛岡レース場は、今日も、ドキドキワンダーランドであります』

 

独特の緊張感に興奮していたのは観客だけでなく、実況解説者も同じだった。

きっとその熱は、ダートコース上に集結する9人のウマ娘たちにも伝わっていたことだろう。

設られたゲートに、一人ずつ入場していく。

グレードの高いレースに出走するウマ娘だけに支給される、鮮やかで特別な勝負服が並んでいく。

ダートを専門とするウマ娘の勝負服は、激しく巻き上がる砂への対策として、厚手の素材や、肌面積の小さいものが好まれる。

あるウマ娘は、紅白の巫女を彷彿とさせる勝負服。

またあるウマ娘は、黄色をベースに黒い縦縞の入ったロングスカート。

ヴァイオレットの軍服風、白い菱形が散らされたレッドドレスなど、見ているだけで楽しくなってくるようだ。

ただ一人だけ、少しテイストの違う勝負服のウマ娘がいた。

 

ストロベリーブロンドのロングヘアが印象的な、とても小柄なウマ娘だ。

小さなウマ耳の下にツーサイドアップしている。

頭頂部には、大きなイエローのリボンがちょこんと乗っていて、とても幼い印象を受ける。

ピンクや水色といったパステルカラーが散りばめられた白のチューブトップとミニスカート、ノースリーブのため細い腕や太もも、おへそを大胆に露出している。

足元にはハートがあしらわれた、これまたカラフルなスニーカーを履いている。

まるで休日の遊園地にやってきた幼児のような、ファンシーな装いだ。

だが、このウマ娘──『アグネスデジタル』は、並のウマ娘ではない。

デビュー後、『全日本ジュニア優駿』や『東海ダービー』など、名だたるダートレースを勝利した。

それだけに止まらず、昨年開催された、芝のマイル王を決定するG Iレース『マイルチャンピオンシップ』の王者なのだ。

『地方』と『中央』、『芝』と『ダート』、戦う舞台を選ばず勝利する、俗に言う『オールラウンダー』と称される天才。

故に、今回のレースの最有力候補であり、1番人気に推された『強者』だ。

それだけに、ライバルたちから最も警戒される存在と言っても過言ではない。

幼い容姿に隠された強者の実力、そんなアンバランスな恐ろしさを内包しているのが『アグネスデジタル』というウマ娘だ。

しかしデジタルには、そんなプレッシャーにも臆する様子は見られない。

むしろ心のうちでは……。

 

ガコンッ!!

 

『スタートしました。まず揃いましたが、ちょっとバラけたか? 内の方のクラシカルサンデー、後ろからのレースになりました』

 

ゲートの開放と同時に、九人のウマ娘が同時にコースへと飛び出す。

スタートを切ってから第3コーナーにかけて、緩やかな登り傾斜がついているのが、盛岡レース場の特徴だ。

それ故に、レースの展開としてはパワフルな差し脚質のウマ娘が有利となる。

 

『さぁ、誰が行くんでしょうか? ハナを切って行こうというのは5番のピュアホワイトだ。おおっと、内から1番のアレキサンダーが行った。あるいは7番のアグネスデジタル、G Iウマ娘であります。彼女が2番手の外につけました。その後に3番のナスカブロードがおります!』

 

序盤から先行策を講じて、レースの流れを支配しようと目論むウマ娘たちが先陣を切る 。

一人、また一人と、前に出ていくが、アグネスデジタルは動じず、後方に控える体制を取る。

序盤はスタミナを温存し、最終コーナー以降に爆発させる作戦だ。

 

『おおっと! 外から4番のプラチナクラウン! 昨年の勝者が外から一気に脚を使っております!』

 

淑女然としたウマ娘が、黄色に黒いラインの入ったロングスカートをはためかせて先頭を目指す。

定石破りな作戦で、他のウマ娘たちに焦りを生じさせる狙いだろう。

彼女だけではない、全てのウマ娘が、己が勝利を勝ち獲るために、策を巡らせ、意識を集中し、脚を動かしている。

目の前にあるただ一勝のために、全員が必死だ。

ただ一人、アグネスデジタルだけは違った。

彼女だけは──。

 

(アアアアアアアッ! プラチナクラウンしゃん! 凛々しくも高貴な出立ちも最っ高にカッコ良いのに、走る姿まで洗練されていて美しい、流石は昨年の南部杯の王者!! 先頭のピュアホワイトしゃんも、荒々しくも規則正しい走りが、まるで軍人さんのような勝負服とベストマッチ! 静と動、両極端のお二人の衝突を間近で感じる喜び、このために練習を乗り越えてきたと言っても過言ではないいいいいいいっ!!!)

 

彼女は内心で身悶えていた。

声は上擦り、頬は紅潮し、頭は茹だり沸騰してしまいそうな勢いで、アグネスデジタルは好敵手たちへの"愛"を抱えている。

結論を述べれば、これが彼女の"本質"だ。

病的なまでの"ウマ娘オタク"──トゥインクル・シリーズで輝くウマ娘たちを、最も間近で見るためにトレセン学園へ入学した異端児だ。

自分の夢を叶えるために、切磋琢磨するウマ娘たち──彼女たちを愛で、推し、幸せな日々を過ごすことが、アグネスデジタルの生き甲斐だ。

そんな欲望と煩悩塗れなデジタルだが、その実力は疑う余地もなく本物である。

そうでなければ、GIレースに出走することすら叶わないのだから。

 

『先頭から最後方まで、およそ10バ身の圏内です。最前の二人が並びました、5番のピュアホワイトと、外に昨年の勝者プラチナクラウン。3バ身差、7番のアグネスデジタルは3番手、3/4バ身差のアレキサンダーが4番手、その後に3番のナスカブロードが真ん中、中団の5番手であります。2バ身差にグランドファントム、それと並んでクラシカルサンデーであります。この圏内には6番のカブラヤ、これまたG Iウマ娘であります。6番のカブラヤが前へ前へと押し寄せて参りました! さぁラスト、最後方からのレースとなっているのは8番のサヤマラプチャー!』

 

(嗚呼、やっぱりレースは素晴らしい……普段は遠くから推しを崇め奉らせていただいている身の私だけど、ウマ娘ちゃんたちが最も輝く"レース"という大舞台で、推しと競い合いながら間近で感じることができる! これに勝る喜悦は、この世のドコを探しても存在しない! 推しのラヴみが天元突破ァ!! ラブ・レース、ラブ・ウマ娘ちゃん、フォーエバー!!!)

 

一団は、隊列を組みながら向正面を駆け抜けていく。

縦長の展開ながら、デジタルは全体の位置を正確に把握していた。

それは天性の才能というよりも、彼女が持つウマ娘への『愛情』故なのだろう。

『全てのウマ娘ちゃんを等しく愛するが故』に、ライバルたちの動向を正確に把握できている。

ある種の変態性が成せる神業だ。

 

(本当は……本当は、もっと近くでウマ娘ちゃんたちの麗しい姿を拝謁したい……けど、名残惜しいですが、私もトレセン学園のウマ娘! レースに出走している以上、勝利を掴み取らなくてはならないのです! ウマ娘ちゃんたちからパワーを頂けたので元気百倍! ここからスパートォォォッ!!!)

 

『グーンと盛り上がって来たぞぉ! 第4コーナーのカーブから最後の直線! また、胸突き八丁の坂が、待ち受けている! この辺りで一気に、7番のアグネスデジタルが先頭か?! 外からナスカブロード! 内を通って4番のプラチナクラウン! 最内から1番のアレキサンダー!』

 

アグネスデジタルが一気に先頭へ立つ。

呼気の乱れはなく、まだ余裕があることが伺えた。

彼女を捉えるべく、全てのライバルたちが迫る。

一六○○メートルをハイラップで激走し、残る体力も僅かだろう。

それでも諦めず、誰よりも速くゴールに向かって駆ける。

それでも、誰一人として、先陣を切る桃色の小柄なウマ娘を捉えられない。

きっと彼女の異常なメンタルが、彼女の背中を強く押したのだろう。

"勝因"は、きっとそれだ。

 

『突き抜けた7番、アグネスアグネス! アグネスデジタル!! アグネスデジタル完勝ォォォッ!!!』

 

ゴール板を颯爽と駆け抜ける小さな影。

満面の笑顔は、彼女の心が充足感で満ちていることの表れだろう。

スタンドの観衆も、1番人気に推されたウマ娘の圧倒的な勝利に、祝福の拍手を送っている。

 

『いやぁ盛り上がった盛り上がった! 7番のアグネスデジタル! 芝のマイルチャンピオンシップも勝ったウマ娘でありますが、ダートのマイルチャンピオンシップも完勝! いやぁ強かった強かった!』

 

実況者も、思わず言葉を失ってしまうほどの完封劇だった。

いくらコレが地方のレースと言えども、いくら相手が中央マイルの覇者であろうとも、これ程までに理解させられるとは、誰も予想だにしなかった。


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