曇らせ絶対に許さない系神官の英雄譚with周囲を絶対曇らせる系女勇者 作:さらみパスタ
『ライフル事変』。
人と魔族があわや開戦か、と追い込まれた重大危機から5年が経過していた。
幸いなことに世界に平和は続いている。
……ま、各国の復興も完了した結果、政争にいろんな国の思惑が絡むようになってきたんだけどね。
でも表面上は平和だ。
最近あっためでたい話といえば、俺とレーヘンの間についに第一子が産まれたこと。そしてライフズくんが遂にレーヘンに告白できたことだろう。
そしてほどなくして、彼はベストールさんと正式に結ばれた。
ま、結婚したからそれで終わりではなく。
そこからがスタートとはよくいう話だ。
結婚したからこそ、相手のご家族との付き合いがあったりとかね?
俺は一応、上手くはやれてるし。
レーヘンも完璧にできてるわけなんだが。
ライフズくんは少し滞っているらしい。
「神官長、少し相談したいことがあって。家庭内のことなんですけど」
毎度毎度の密会の中。
今少し頭を悩ませている、小国家郡の動きへの警戒とか対策とか、他諸々についての話を終えた直後。
結婚して順風満帆な日々を過ごしてるはずの弟分から人生相談をされたのはそんな折の事だった。
「あの子が、なんていうか……反抗期で」
「……難しい問題だね……」
ライフズくんのお嫁さんである魔王妃ベストールさんはこぶ付き女子。前夫との間に連れ子がいるんだが……。
そんな男の子との仲が微妙なのだ。
義父と義子の確執というのはよく聞く話なんだが……それを聞いた時に、俺はちょっとやばいかなとは思ったのだ。
魔王の後継者くん(13)は既に魔王の後継者っぷりを発揮してる。皇国由来の剛腕を目覚めさせ、既に四天王全員をまとめて薙ぎ払える実力を得ているのだ。
ま、レーヘンや俺、それにライフズくんは同年代の時に似たようなことはできたんだけどね……。
ただ俺は魔王ノートがあんなことをやらかした前後の流れを知っている。
ちょっとグれたで聖王国を滅ぼした実父みたいな真似をするのではないか? そんな不安を抱くのは当然だ。
ちなみにその場合狙われる確率が高いからね?
魔王ノートもこんな感じで旧聖王国を滅ぼしたわけだし。なんなら俺は聖王、縁起が悪いって話じゃないなぁと思っていたんだが。
事態が動いたのは数日後。件の少年が別口ーー紅一点さんルートで俺とこっそり面会したいと打診があったのだ。
もちろん魔王ライフズにも未通達の秘密会談。
この時点で警戒するわけで。
俺は残機をしっかり用意して何かあれば復活できる準備を整えた上で。
密会に及んでいた。
いざとなればレーヘンの聖剣の力があるからなんとかなるとはいえ……見定めなければならない。そんな決意を胸に秘めて。
「聖王ゾーニッヒ、こうして会うのは初めてですね!」
なのだが。
俺と顔を合わせた時の魔王Jr.(13)
彼はめちゃくちゃ礼儀正しく、態度の節々に敬意と好意が宿っている
一応俺は立場的には魔族の敵、なはずなんだが……。
「まずお礼を。俺を守るために尽力してくれたことを感謝をさせてください」
「何のことかよくわからないなぁ?」
なるほど、おそらく紅一点さんが色々話しちゃった感じかな?
俺は護衛のようにJr.の傍に侍っている紅一点さんの姿を一瞥する。
ま、魔王の後継者に人間への共存意識を植え込めたならそれに越したことはない。
『人類の盟主、聖王は実はあなたを守るために尽力していたんですよ』なんて側近に吹き込まれて育ったらそりゃ人間大好きになるよね。
万が一にも人類と絶滅戦争なんて起こさせないための計略の一つだし。
普通にファインプレーなんだが。
非公式で顔を合わせる場を用意した紅一点さんは、まるで秘密にするべき内容を勝手に伝えてしまったことに苦悩してるっぽい、苦い表情を浮かべている。
後でフォロー入れないとなぁ。
そんなことをぼんやり考えつつ。
「???」
「……誰かに聞かれたら拙い内容を明言すると問題を生むこともあるんですよ? だから誤魔化させていただきました」
「そ、そうなんですか、すみません、勉強になります!」
俺はJr.君と言葉を交わす。
ぱっと話した感じ、人類への恨みも特にないようだし。余計なことはしなくていい感じかな? 俺は内心でほっと安堵した。
「それでどうしたのですか? わざわざ話がしたいだなんて……何かあったんでしょう?」
「……父について知りたくなったんです」
この場合の父とは、義父であるライフズくんではなく、実父のノートの事だ。
「母さんにとっては多分良くない人だったと思うし、みんなも多分好きじゃないでしょう。だからその、あなたに聞きにきました」
ま、今の魔族の人たちにとって、魔王ノートというのは怨敵だからね。基本的に否定的なことを語られがちだ。
魔都ライフルでの潜入調査の一環で、酒場で飲んでるとそんな愚痴を吐いてる人が本当に多いからね。
実際魔王ノートは良き夫ではなく、良き父でもなく、挙げ句の果てに良い王でもなかったわけなんだが……。
それでも血の繋がった父親なのだ。
Jr.くんも複雑な心境を抱いているようで、なんていうかその……父親への好意と嫌悪がぐちゃぐちゃに入り混じってるというか。
敵意や嫌悪感はあるけれど。
その身に流れる血への親近感もある。
だから魔王をあんまり悪く言われると自分を否定されてる気がして、根っこのところで拗れる可能性もある。
「ゾーニッヒさまは父上のことをご存知なのですよね?」
「……ええ、友達です。他の人には絶対に内緒ですよ?」
そして彼は少しだけ勘違いされていた。
魔王と友達なのはそうなんだけど、それって死んだ後の付き合いであって、生前の彼とは一切の絡みがないんだが。
……ま、そんな話を信じて貰えないからね。
子どもに嘘をつくのは良くないんだろうけど、今のJr.くんの状態ってよくないんだよね。悪人に付け込まれる可能性もある。
自称魔王の知り合いにあることないこと吹き込まれる可能性も高く、後々人類と敵対するリスクもある。
早急に改善したいとこなんだが……俺の専門は肉体と魂で、心の傷は専門外なのよ。まあ魔国に精神科医みたいなお職業は存在してないんだけどね……。
とりあえず、俺は彼と目線が合うように跪いた。
「……意外と悪いやつではありませんでした。妹想いで優しい奴でした」
「……なら、父上はなんであんなことを?」
つまり先んじてあることないこと吹き込んでしまえばいいのだ。
というわけで、秘密の共有という形で仲間意識を芽生えさせる。こうすることで過激派に影響を減らせるからね。
「妹さんはーー病、不治の病だったんです。当時は治療法はなかった。そのどうしようもない理不尽への怒りを何かにぶつけようとした」
「……それこそ理不尽じゃないですか」
「知らなかったんですよ、あいつは人間世界なら治る病気だと勘違いしていたんです……だから治療を行わせようとか、色々と動いていたのですが全て失敗してしまいました」
ちなみに治療法は俺が数年前に見つけたので、現在は不治の病ではないんだが。
それはともかく。
Jr.くんは何かに勘づいたような、ハッとした顔をした。
おそらく魔法使いさんのことかな?
なぜ彼を拉致しようとしたのか、その理由が今明らかになった。
点と点が繋がっていくのだろう。
人間ってのは自分で導き出した結論を深く信じ込んでしまうものだ。
ま、それは事実なんだろうけどね。
「……あの子も兄の暴挙に生きる気力自体失った。わたしのせいで……ってなってしまったんでしょうね。病状は悪化の一途を辿り、亡くなられたんです。そして魔王は歯止めが利かなくなった」
「……それで、ますます暴走した……」
こんなこと誰にも言えないから、本来なら墓の下に持っていくはずの秘密。でも子どもに彼がどういう人だったのか教えるーーそんな大義名分があったから。俺はつい口を滑らせた、的な演技で魔王Jr.の思考を誘導していく。
ちなみに大事なことは魔王は悪いことをしてたけど、それには情状酌量の余地がある、的な発言をするってことかな。下手に魔王は悪くないなんて言ったら危険因子が出来上がるわけだからね!
「……でも本人も全てを知って後悔してました。悪いことをしたと悔いていた。でも本人も止まりたくて、止まれなかったんです」
「…………」
「憎しみという感情はそういうものなんです。あなたのお父さまは、憎しみに負けてしまった、というべきなんでしょうね」
ま、友人なのは事実だし。
魔王は己の過ちをしっかり認識し、罪を後悔した。
ただ死んだ後にあったなんて言っても信頼なんてされないから……俺は少し話を前後させ、少し話を捏造しつつ。
『憎悪は捨てよう』みたいな、ありがたい訓話としてのオチをつけた。
Jr.くんはかなり感じるものがあったようだ。
無言で俺な話を反芻していた少年は、チラリと俺の様子を伺い。
「……叔母上はどんな方だったんですか?」
「優しい人でした、自分の病より周囲の誰かの涙を嘆く、そういう心の清らかな方でした。病弱な身の上を嘆くことなく健気に生きていて……花を見るのが好きだった……」
おそるおそる、尋ねてきたのだ。
それは魔王の妹さんについて。
もちろん俺も詳しくは知らない。
魔王ノートと違って直接会って話したことないしね?
俺が見たのは死ぬ瞬間を切り取った一側面だけ。
どういう人だったのかは何も知らない。
でも甥である少年に、病で若死にした叔母がいたことくらい知っていて欲しかった。だから俺はあれこれ、彼女がどういう人だったのか、かつて魔王ノートから聞いた話を語り続けるのだった。
少し力を入れすぎたかもしれないんだけどね。でも、あんな優しい女の子のことを誰も知らないだなんて寂しすぎるし。
『魔王の妹』は兄に反対し、死ぬまで融和を訴え続けたなんて話は政治的に幾らでも利用できる。
語り継がれるよう手を打つのは政治的にも正しいしね。
まあ本人も許してくれるでしょ。
というわけで俺は全力で匂わせるのだった。
ーーーーーー
というわけで俺は魔王の後継者と大変仲良く過ごしていた。
俺としても誰にも言えない魔王への本音を打ち明けられる数少ない一人だしね?
秘密を共有するってことで強い絆が芽生えてしまった節はあった。おじさん、おじさんと懐いてくるあの子と歳の離れた友人になってしまったのだ。
というわけで色々聞き出したんだが。
「ただ……母が妊娠したそうで……あんな情けない男にって少し思ってしまって……」
ライフズくんへの反抗期の理由は魔王への憧憬とかそういうのとは関係なく。普通によくある話であった。
ライフズくんの告白騒動は大変だった。
……今だから笑い話にできるけど、割と本当にやばかったからね? 告白に失敗すること8回。レーヘンが子どもを産んだ後でようやく愛を告げられる周回遅れっぷり。
なんなら姫騎士の方が先に子ども産んだくらいなのだから。
そしてそんな姿を多感な12歳くらいで直視してしまった魔王Jr.はなんていうか……ちょっと舐めるというか、情けないやつと思っちゃったんだよね。
惚れた女に告白もできないのかって。
もっといえばそれは引き金に過ぎず、父親代わりへの存在への反抗期+それにお母さんの再婚相手に抱く嫉妬紛いの敵意も合わさって、何かにつけてツンツンしちゃってるってわけ。
これはもう仕方ないことだった。
命の恩人という感謝はあるけど。
13歳くらいの男の子にとって母親というものは世界に等しい。それを奪おうとする()存在を肯定的に受け止められるかと言ったら、ね。
流石にこういう家庭の問題を快刀乱麻で解決することはできない。寄り添って話を聞き続けるくらいが関の山。
というわけでまた今度こっそり会うことを約束して。
この問題を無事解決しほっと一息つくのであった。
ーー聖歴0107 6月3日ーーーー
魔国が人類連合の一員として参加するという話が浮いてきたのはそんなある日のことだった。
魔国が密貿易をする国家の数はかなり増えてきている。その中には四大国、ルクリスやワイセリアという名前もあるのだ。
だからこそ、人類連合の席を与えようという話があちこちから噂されていた。密貿易ではなく、公的に大々的な経済活動を行いたい国家が働きかけを強めている。
現状、魔国は人類の敵ではない。
人は人同士で争うそういう時代だ。
しかしそれでも魔族アレルギーを持つ国、或いは魔族と交易している国と敵対的な国はそれなりに多く、話し合いはかなり難航している。
まだ暫くはかかるだろう。
もしかしたら次の代になるかもしれない。
そして魔族への差別はおそらく相当長く残ることになるとは思う。今、魔族との交易が盛んなのはそれが利益になるからであって。
魔族に親近感を持つとか、仲間意識があるなんて口が裂けてもいえないからね。
となると俺やレーヘンという存在は未来での大きな負債となる可能性がある。
俺も馬鹿ではない。世間的には過激派として知られる俺は現状でも大きな権威があるわけだが。
おそらく将来的には偉人扱いされるのは確実で。だからこそ俺の言動をひっくり返すなんてことは困難になっていくわけで。
そうなると有用なのがーー
ーーーーーー
「……はーい、没収ー」
「おいおい、レーヘン、邪魔するなって?」
と俺は宮殿の私室にて、あれこれと近況を記していたわけなんだけど。それをひょいと掠め取ったのは相変わらず常識はずれの身体能力を見せる勇者さまだった。
「うーん、でもこんな資料いらないよねぇ?」
「それは後になってみないとわからないだろ」
レーヘンはムスッとした顔で俺の記したノートを手に取っている。書き込まれた内容を確認する素振りはないが……。
不思議な勘で、何書き込んでいたのか察してる節はある女の子、その行動の理由は問うまでも無かった。
もう子どもも産まれたというのに……その瞳は強烈な嫉妬の感情が煮えたぎっているのだ。
ちなみに頰を膨らますとかそういう可愛らしい感じではない、本気のお怒りモードである。
……え、何が地雷だったの?
確かに理想の女の子絡みで不満を抱くのは理解できるけど、今回爆発したのは? まさか余所の子どもの面倒を見たことへの不満⁇
俺は王族未満のソルト王室育ちなので、育児にはしっかり協力してるつもりだったんだけど、まだ全然足りなかった⁇
それともスピカーー今は女帝をしてるんだが、そんな彼女が俺との甘々夢小説を記してることを知ったからだろうか。
俺としては人の事言えないので黙認している。
ルーテシアなんて理想な女の子を妄想していた側の人間としては、他人がそういうことしてるのを咎める資格もないわけだし。
むしろ親近感湧いたんだが。
そういうところを嫉妬された⁇
「いいや、こんなものを未来に残そうとか考えてるとこだよ」
「いやほら……魔族への差別とかそういうのが残った時に、ね? 神官長は本当はこう思ってましたよーって残す必要があるわけで」
ただ俺の予想は外れた。
「ふーん、ボクより見知らぬ人たち選ぶんだ」
「……お前が嫌がるなら処分するよ、でもなんで? 嫉妬する要素がなくないか⁇」
いやね? 無限の寿命はともかく、死者蘇生とかは流石に後世に伝えるわけにはいかないし、手暇なときにその辺りの事柄を削除した写しを残す予定ではあった。
だから、レーヘンが不快になる箇所を修正することは辞さないんだが……。
「あなたを正しく理解してるのはボクだけでいいじゃん」
「…………」
そういう問題ではなく。
俺の本音を書き記した資料を後世の人間が知るってのが不快なようだった。……いや、別に良くない? と思うのだが。レーヘンとしては受け入れられないようなのだ。
「ま、備忘録的な感じで今は書いてていいよ。でも晩年になったらまとめて処分するから。隠しても無駄だよ? 写しも控えも全部焼くからね!」
「譲歩してるようでしてねぇじゃないか」
俺は後世の人々に申し訳なかった。
でも、ほら、ね?
一応俺は既婚者で、妻は最優先なわけで。
……ま、他の記録でなんとかなるか……。
俺は問題を将来に先送りすることにした。
冷静に考えれば考えすぎかもしれないしね!
後のことは後の世代に託すべきだし。
俺はそう理論武装をした上で。
ペンをそっと置くのであった。
今回で最終話になります
ここまで描き切れたのも、応援してくださった読者の皆様のおかげです
長らくのご愛読ありがとうございます!