「先輩、私に何か言わなくてはいけないこと、ない?」
「今日も綺麗ですね」
「~~~~~~~っ!? そ、そうではなく! 他に何か、言うべきことがあるでしょうっ!」
星南さんは頬を紅潮させながら、そう訴える。しかし、心当たりがない。怒らせるようなこともしていない、と思う。
「すみません、心当たりがありません」
「そう、あくまでシラを切るのね」
星南さんは腕を組み、どことなく怒気を滲ませながら仁王立ちする。
「とぼけるつもりなら、私から言ってあげるわ。これはどういうことかしら?」
星南さんはテレビを点けて、録画一覧を表示する。一番上にあった番組名は――『バトルロレッテ』。1人の女性を16人の男性が奪い合う、サバイバル系恋愛リアリティーショーである。ちなみに、3時間の特番だ。
そして、映像が再生される。映し出される、16人の男性たち。その中には、俺の姿もあった。
「ああ、ご存じだったんですね。俺も出演したこと」
「偶然見ようと思った番組にあなたが出てきて、心臓が止まるかと思ったわ! どうしてこんな番組に出たのよ!」
「知り合いのプロデューサーから、出演予定の男性に欠員が出てしまったので、代わりに出てくれないかと頼まれまして。数合わせだから、適当にやってくれていいと言われたので、引き受けました」
「ふ~ん、そうなの。結婚相手を求めて参加した訳ではないのね」
「はい。ただの数合わせですよ」
星南さんはホッとしたように嘆息した。
「実は、怖くてオープニングまでしか見られなかったのだけど、そう聞いて安心したわ」
「あ、そうだったんですか。ご心配をおかけしました」
「せっかくだから、最後まで見てみようかしら。あなたの演技力にも興味があるし」
「緊張しますね」
星南さんが停止していた番組を再生する。
『第1ラウンドは、一対一の自己紹介タイムです! このラウンドでは16名の男性が8名に絞られます! それではスタート!』
そして、16名の男性が順番に女性の待つ別室に呼ばれ、一対一で話す時間が始まる。そして、俺の番がやってくる。
『どうしてこの番組に参加したの?』
『素敵な出会いを求めて参加しました』
ピッと音を立て、停止ボタンが押される。
「ちょっとあなた、聞いていた話と違うのだけれど」
「流石に『数合わせです』とは言えませんよ」
「それはそうだけど……」
星南さんは不服そうな顔で再生ボタンを押す。
『どんな女性が好き?』
『貴女のような女性です』
ドゴッ!と肩を殴られた。鈍い音が鳴り、衝撃でよろめく。
「ちょっ、星南さんっ!?」
「なんで他の女を口説いてるのよっ! この浮気者っ!」
「番組のためですからっ! ちょっ、痛い痛いっ!」
星南さんは怒りの形相で、ドゴッ!ドゴッ!と俺を殴り続ける。
「じゃあ本当はどんな女性が好きなのよ!?」
「ブロンドヘアで、プロデューサー志望で、芯の強さがある、美しいプリマステラです」
「~~~~~~~~~っ!?!?!?」
星南さんの拳が止まる。紅潮した顔と、驚愕に見開かれた瞳。口元は開いたり閉じたりしている。
「あ、あなた……!? ま、まあ、今回だけは許してあげるわ……!」
「ありがとうございます」
星南さんは落ち着いてくれた。番組を再生し始める。
『ということで、結果発表! 第1ラウンドを通過した8名はこのメンバーです!』
そして、俺を含む8人の通過者が映し出される。
「ちょっと先輩? 数合わせなのにどうして通過してるのかしら?」
「手を抜くわけにもいかず……すみません」
『第2ラウンドは一対一の遊園地デートです! このラウンドでは8名の男性が4名に絞られます! それではスタート!』
そして、俺と女性のデートが始まる。
『△△さんと一緒にいられる時間が一番楽しいです』
『なかなか悪くない口説き文句ね』
『もう、貴女のことしか見えていません』
『ふふっ……情熱的な男性は好きよ?』
星南さんが額に青筋を浮かべながら俺を見る。凄い迫力だった。
「あなた、これはどういうつもり?」
「彼女には申し訳ないですが、方便です」
「思ってもないのにこんなこと言えるの!?」
「はい、必要な場面なら言います」
「っ……! あなた、いつか刺されるわよ」
星南さんは呆れたような怒り顔で、そういった。
さらに番組内のデートは進む。そして、観覧車の頂点で――俺は女性の頬にキスをした。
瞬間、ガタン!とイスを倒しながら立ち上がる星南さん。般若のような、怒り心頭の表情だった。
「もう私が刺すわ。包丁取ってくるから待ってなさい」
「落ち着いてください!」
俺は星南さんの腕を握り、必死で引き留める。
「刺す。絶対刺す」
「許してください、星南さん!」
「頬にキスなんて私にしてくれたことないのに!」
「すみません」
「じゃあ私もしなさいよ! 唇に!」
「……分かりました」
「えっ、いいの?」
星南さんは呆気に取られたように振り返る。
「あなたが夢を叶えた後、舞台を下りるその日になら」
「……そう、そうよね。まあ、それでいいわ」
星南さんは納得して、座り直してくれた。
『ということで、結果発表! 第2ラウンドを通過した4名はこのメンバーです!』
「だからなんで勝ち上がるのよ」
「思ったより気に入られてしまい……」
「もうあと4人しかいないじゃない。優勝しそうじゃない」
「…………」
「優勝したの!?!?!?!?!?」
「いえ、その、ネタバレはよくないかな、と」
「いらないわよその気遣いは!」
星南さんは隣に座る俺の手を握る。五指全てを包み込み、そのまま握り潰さんばかりの、満身の力を込めてくる。
「もしあなたが優勝したら、この指が無事で済むとは思わないことね」
「星南さんがどんどん暴力的に……」
「あなたのせいよ」
『最終ラウンドは告白タイムです! 最後まで勝ち残った4名のうち、選ばれるのはたったひとり! それではスタートです!』
そして、俺の告白タイムが始まる。
「△△さん、貴女を愛しています。俺と恋人になってください」
ミシミシミシ!と悲鳴を上げる俺の手。星南さんの表情は鬼のようだった。
しかし、女性が最終的に選んだのは別の男性だった。
星南さんは安堵のため息を漏らす。自然と、俺たちの手は恋人繋ぎになっていた。
そして、彼女は咎めるような眼差しで俺を見る。
「まったくもう、私を不安にさせた罪は重いわよ?」
「俺の一生分の時間で償えるでしょうか?」
「~~~~~ッ! ……もう、そんなこと言われたら、許すしかないじゃない」