鬼を滅し、弱者を救う   作:妖刀・酌揺

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花の呼吸の技が全然出てないので初投稿です
あとなんかスペース入れてるのに反映されないところがあってうざいので初投稿です


3話 最終選別

 

 

 時は流れ、漆羽が蝶屋敷に来てから1年が経つ頃。遂に鬼殺隊の入隊試験である最終選別の日がやってきた。

 試験は夜からのため、明朝に蝶屋敷を出発した漆羽は途中で休憩を挟みつつ歩き、時には走り、日暮れの少し前に試験会場である藤襲山に到着していた。

 藤襲山には時期ではないのにも関わらず、藤の花が所狭しと咲き誇っている。これはただの装飾ではなく、鬼が藤の花が苦手という習性を利用し、鬼を山中に閉じ込める役割を果たしている。

 大きめの笠を被った漆羽は、その影からゆっくりと周囲を見渡す。まだ開始まで時間はあるが、既にチラホラと人が見える。見たところ、ある程度剣術や呼吸は扱えそうだが、流石にカナエやしのぶほど洗練はされていなさそうだ。

 カナエ曰く、最終選別の合格者は平均2~3人で、多くても5、6人程度、下手すれば全滅という場合もあるそうだ。

 入隊試験なのに殺しすぎじゃねえか、と漆羽は思ったが、この程度の試験を突破できなければ結局死ぬという事なのだろう。

 まあ、一理あるとは漆羽も思う。だがそれでも、目の前の命を見捨てる理由にはならない。

 

 「……」

 

 左腰に佩いた日輪刀―蝶屋敷でカナエに借りたもの―に軽く触れる。

 悪を滅して弱者を救う、再びこの信念を胸に刻み込む。

 ここから…この最終選別から、漆羽の新たな人生は始まるのだ。

 

 「さて、そろそろか」

 

 続々と受験生が集まる中、夜の帳が降り切った。暗闇と静寂に包まれる山の奥から、2人の白髪の幼女が姿を現した。

 幼女は揃って口を開き、最終選別の内容を説明する。試験内容は例年同様、鬼が蔓延る山中を7日間生き残ること。

 

 「それでは皆様、いってらっしゃいませ」

 

 幼女の声を皮切りに、受験生たちは真っ暗な山の中へ次々と足を踏み入れていく。

 漆羽も笠を被り直し、それに続いた。

 

 

 

 山の中を駆ける、駆ける、駆ける。

 "全集中の呼吸"と"玄力操作"によって極限まで強化された身体能力で、音すらも置き去りにして駆ける。

 途中、すれ違う鬼がいれば斬る。彼が通った後に残るのは、"キン"という金打の音と、頸を斬られて塵になる鬼の残骸のみ。

 駆け、鬼がいれば斬る。それを繰り返しながら漆羽は小さく呟いた。

 

 「話の通り弱いな…」

 

 カナエから最終選別の話を色々聞いていたが、どうやら話の通りこの山には人を殆ど食っていない雑魚鬼しかいないらしい。

 稀に飢餓状態となり凶暴さを増している個体もあるが、漆羽にとっては大した問題ではない。むしろ動きが単調で読みやすいくらいだった。

 一先ず漆羽の目標は、初日で鬼を全員殺すこと。

 鬼を初日で全滅させれば犠牲者も減らせるうえ、残りの時間を適当に楽して過ごせる。漆羽にとっては一石二鳥だった。

 ひたすらに鬼を狩る、殺す、斃す。屠った鬼の数が30を超え、それから数えるのをやめてしばらくした頃。一息吐こうかと思ったタイミングで、木々の隙間を超えて悲鳴が響いた。

 

 「…だァ!クソ!」

 

 悲鳴の元へ全速力で走る。大量の樹木を避けながら、時には邪魔な木や岩を切り倒し道を作り、ただ一直線に走る。

 数十秒後、悲鳴が聞こえた地点の付近へと到着すると、そこには大量の手を生やした異形の鬼がいた。

 そして刀を持った少年が10本近い腕に掴まれており、今まさに異形の鬼…手鬼に握りつぶされようとしていた。

 

 「だ、誰かァ!誰か助けてえ!」

 

 「あ”あ”あ”!うるさい喚くなァ!今一思いに殺して……」

 

 漆羽は刀を構え、全力で地面を蹴る。手鬼に凄まじい速度で肉薄しつつ、玄力を鞘に溜め一気に解き放つ。

 

 ――居合白禊流。

 

 一閃。

 誰の目にも追えない速さで、漆羽は少年を掴んでいた手を全て斬り払った。

 

 「なっ!?」

 

 「うわあああ!!!…って、あれ???」

 

 手が全て斬り裂かれ、少年が空中に投げ出される。漆羽は優しく受け止め、ゆっくりと地面へ降ろした。

 

 「大丈夫か?」

 

 「え!?あ、あれ?俺まだ生きて…え?何が起きたの?」

 

 「逃げろ。あとは俺がやる」

 

 混乱する少年にそう告げ、漆羽は刀を構えて手鬼に向き直る。少年は漆羽に心配そうな目を向けていたが、最終的には言葉に従い死に物狂いでその場から去っていった。

 少年を掴んでいた腕を全て斬られた手鬼は茫然としている。何が起きたのか分かっていない様子だったが、徐々に状況を理解し始めたようだ。

 

 「な、な、何をした貴様ァ!俺の食い物ォ!!俺の腕エエエエ!」

 

 混乱、激昂、様々感情を爆発させながら、手鬼は腕の再生を始める。徐々に生えそろっていく腕。漆羽はそんな様子を見ながら訝しげに言葉を吐いた。

 

「どうなってる?ここには弱い鬼しか居ないんじゃないのか?」

 

その言葉を聞いた手鬼は、再生を続けながら言う。

 

「何十年も隠れながら試験に来た馬鹿共を喰っできたんだよォ!もう50人は喰った!!さっきのやつももう少しで喰えたのに!!!お前、お前のせいで飯を逃したァァ!許せない許せないィィ!」

 

「…」

 

手鬼の言葉に漆羽は反応を示さない。が、言葉はなくとも溢れ出る殺気が手鬼を威圧する。

 

「お前、お前ェ!生意気だなァァァァ!!殺してやるゥ!グチャグチャに握り潰して喰ってやるあ"あ"あ"あ!」

 

手鬼が漆羽を囲むように四方八方から大量の手を伸ばす。大して戦闘経験のない普通の試験生であれば死は逃れられないだろう。

しかし漆羽は違う。実力もさることながら、かの戦争を駆けた彼の経験は他の人間とは一線を画す。

 

「花の呼吸・白」

 

自らを握り潰さんとする大量の手を前にして、漆羽は小さく呟く。白禊流の構えを取る腕が残像を伴って揺れた。

 

「…は?」

 

次の瞬間、手鬼は素っ頓狂な声を上げた。目の前で空に散らばる肉の破片と花弁。それをただ呆然と見つめることしかできなかった。

彼には何が起きたのか、目の前の男が何をしたのか分からなかった。

何も理解できないが、確かなことはひとつ。

数十にも及ぶ自らの手が、刹那のうちに全て斬り捨てられたのだ。

 

「弐ノ型、御影梅」

 

再び小さく呟く漆羽。しかし、その声は手鬼の耳には届いていない。

 

「き、貴様何をしたあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!??クソクソクソクソクソがァ!」

 

激昂しつつも脳内はクリアなのか。すぐさま追撃を仕掛けることはなく腕の再生を始める。

凄まじい速度で生え揃っていく腕。だが、再生完了を待つほど漆羽は優しくは無い。

 

「壱ノ型」

 

 「あ”?」

 

「飛び椿」

 

 真っ暗な山に響く甲高い音。手鬼の視界が反転する。

 頸を斬られたと理解したのは、頭が地面に落ちてからだった。

 

 「な”、な”んだとオオオオ!斬られたアアアアア!く、頸!岩より硬い俺の頸がァァァ!!!」

 

 コロコロと地面を転がる頭だけになった手鬼の断末魔が響く。漆羽は特に反応を示さず、ただ笠を深く被り直した。

 

 「ぁ……おに…………ちゃ…………」

 

 小さな声でそう言い残し、手鬼は塵となって消えた。

 それを見届けた漆羽は、その場に残された大量の面を見て顔を顰める。

 消滅しないという事は、鬼の一部ではない。つまり……。

 

 「仇は取った。せめて、安らかに眠ってくれ」

 

 漆羽は近場の木の根元に面を埋葬し、静かに手を合わせる。

 いつ亡くなったのか、それが誰なのかもわからない。

 けれどせめて、少しでも…犠牲となった人たちが安らかな気持ちで眠れるように。

 だが、感傷に浸る間はない。まだ試験中、鬼も残っているはずだ。

 日輪刀を構え、漆羽は強く地面を踏みしめた。

 

ーーー

 

 蝶屋敷に夕暮れが差し込み始め、一日の終わりが近づいている。

 現在は夕食の時間。ということで皆で食卓を囲んでいるのだが、誰も彼も箸が全然進んでいない。そして会話も全然弾まない。

 しのぶは箸を持たずソワソワとお茶を啜り、アオイは何故か漬物ばかりを口に運び、カナヲはもはや心ここにあらずといった感じで微動だにしない。唯一平常なのはカナエくらいのものだ。

 そして彼女らの視線は、7日前から蝶屋敷を不在にしている人物の席へと注がれていた。

 ここ一週間はピリピリというか、何というか妙な空気感が漂っていた蝶屋敷だが、今日は格別に様子がおかしい。そんな空気感の中、カナエが柔らかい声を響かせた。

 

 「ちょっとみんな~?漆羽さんなら大丈夫、必ず帰ってくるわよ」

 

 「そんなの当たり前じゃない。別に心配なんかしてないわよ」

 

 「わ、私も心配なんかしてません!全然!一切!」

 

 「……私も」

 

 カナエの言葉に各々が反応を見せる。普段無口なカナヲでさえ、小さな声でポツリと言葉を漏らした。

 そんな様子を見て、カナエはニマニマとした笑顔で言う。

 

 「あら~?私は一言も"心配"なんて言ってないわよ?うふふ、みんな漆羽さんのことが心配で仕方ないのね~」

 

 「……うっ…くぅ…」

 

 「ち、ちがっ…今のは!」

 

 「……」

 

 3人は顔を赤くしてワタワタしており、カナエはそんな様子をニヤニヤと眺めている。穏やかに見えてその実、存外と悪い女である。

 

 「漆羽さんなら最終選別くらい、ちょちょいのちょいよ。何なら私より強いくらいだし。心配せずに待ちましょう」

 

 最終選別。

 鬼殺隊に入隊するために設けられた試験であり、現在漆羽が受けている試験だ。

 漆羽は7日前に蝶屋敷を出発したため、無事試験を突破していれば今日の夕方~夜に帰宅する予定となっている。

 

 「え?漆羽さんってカナエ様よりもお強いんですか?」

 

 アオイは先程のカナエの言葉に疑問を持ったらしく、首を傾げながら言う。

 カナエが「ええ、そうなのよ~」と答えようとしたが、しのぶによって遮られた。

 

 「嘘よ。姉さんの方が強いわ」

 

 「あ、やっぱり。流石にそうですよね」

 

 アオイが納得しかけたタイミングで、カナエがすかさず口を出す。

 

 「違うわ」

 

 「ええ!?そうなんですか!?」

 

 アオイの驚愕の声にカナエは頷き、続ける。

 

 「この前立ち合いをお願いしたんだけど、負けちゃったのよ。しのぶも見てたでしょう?」

 

 「見てたけど、あれはその、偶々よ!ほら、姉さんも任務明けで疲れてたでしょ!?」

 

 「そんなの言い訳にならないわよ~。だって、万全の状態でも漆羽さんの剣は防げそうにないもの」

 

「そ、そんなこと…」

 

 しのぶが言い淀んでいる様子を見るに、どうやらカナエが負けたのは本当らしい。アオイは信じられないといった様子で呟く。

 

 「柱であるカナエ様に勝つなんて……信じられません」

 

 「確かに私も腕には自信があるけれど、漆羽さんとは年季が違うのよ」

 

 「年季…?ですか?」

 

 「ええ。私が刀を初めて握ったのは3,4年前。そこから死に物狂いで努力してきたけれど、漆羽さんはもう20年近く刀を握ってきたそうよ。私じゃまだ、漆羽さんが積み重ねてきた厚みには敵わない」

 

 20年という歳月を聞き、アオイは目を見開いた。しのぶも初耳だったのか、驚愕で目を丸くしている。カナヲは20年という時間の大きさがよく分かっていなかったが、尊敬する師が敬愛する姉に褒められていることは分かった。存外、悪い気はしなかった。

 そしてカナエはそのまま話を続けようとしたが、それに待ったをかけたのはしのぶだ。

 

 「今まで漆羽さんは」

 

 「ちょ、ちょっと待って姉さん!20年って言った!?」

 

 「え?どうしたの?そうよ、20年よ」

 

 「じゃあ漆羽さんって一体何歳なの!?」

 

 「あら、言ってなかったかしら?」

 

 そういえば…とカナエは思い返す。初めての問診でカナエは漆羽の年齢を聞き大層驚いたが、結局それを他の人には伝えていなかったのだ。

 問診表にも書き忘れていたあたり、カナエが当時どれだけ驚いていたのかが伺える。

 

 「聞いてないわよ」

 

 「伝え忘れてたわね、ごめんなさい。えっと、漆羽さんは35…あ、もう36歳かしら」

 

 「「ええ!?」」

 

 カナエの回答にしのぶとアオイは驚愕を露にした。どこからどう見ても36歳には見えないからだ。

 

 「嘘!?36!?」

 

 「てっきり26、7くらいだと思ってました…」

 

 「私もそのくらいと思ってたわよ!え!?本当に36歳!?姉さん嘘吐かれてない!?」

 

「嘘吐いても何の得にもならないじゃない」

 

確かにその通りである。年齢を低く鯖読みすることに得はあるかもしれないが、高くすることに得はほとんど考えられない。

 

 「聞いた時は驚いたわよ~。悲鳴嶼さんの方が年上に見えるわね」

 

 カナエは命の恩人たる男の姿を思い浮かべて言う。ちょっと…いやかなり失礼な発言だったが、漆羽の件が衝撃過ぎたためそれにツッコミを入れる余力がある人間はいなかった。

 

 「なんであんなに若々しいのかしら」 

 

 「さあ?何でかしらね。羨ましいわ~」

 

「本当ですね。肌もツヤツヤだし…」

 

 カナエの言葉にしのぶとアオイは同意の相槌を打った。

 やはり女のとって若さというものは大きな武器であり、同時に不可逆の財産である。世の女性は皆、出来るだけ長く若々しさを保っていたいと思っているだろう。36にもなって20代顔負けの若々しさを持つ漆羽を、彼女らが羨ましく思うのは仕方のないことだった。

 

 「帰ってきたら若さの秘訣でも聞いてみましょうか」

 

 「そうね。絶対吐かせるわ」

 

 恐ろしいことを宣うしのぶ。吐かせるとは?拷問でもするのだろうか。仮にも居合白禊流の師である人間を拷問する気なのだろうか。怖いなぁ、とアオイは思ったが、務めて顔には出さない。

 

 「アオイ、その時は手伝ってね」

 

 「……」

 

 思わぬ飛び火にアオイは苦笑いで答えた。

 

 「さ、ご飯食べちゃいましょう。帰ってくる漆羽さんのために色々準備しておかないとね」

 

 カナエの一声で、再び食事が再開された。先程とは違い、皆箸が進んでいる。どうやら、他愛ない会話で緊張が解れたようだった。

 その後、夕飯を食べ終えた面々は、漆羽が帰宅したときのための準備を進める。風呂の用意や、怪我をしていた場合の用意などだ。

 慌ただしく動きながらも、漆羽が帰ってくる時を全員が今か今かと待ちわびていると、呼び鈴の音が屋敷内に響いた。

 音が聞こえるやいなや、皆が玄関へと向かっていく。カナエ達が玄関に揃い、扉を開けると…そこには笠を被った男が立っている。

 男がゆっくりと笠を外す。笠の陰に隠れていたのは、普段通りの様子を見せる漆羽だった。

 

 「おお、出迎えご苦労」

 

 「おかえりなさい、漆羽さん」

 

 カナエが朗らかに微笑むと、漆羽も口元に笑みを浮かべる。

 

 「ただいま」

 

 漆羽は微笑みながら、近くに寄ってきた愛弟子・カナヲの頭を撫でる。

 少しだけ喜んでいる(ように見える気がする)カナヲを暖かい目で見つめながら、カナエはセクシー(に聞こえなくもないよう)な声音で言う。

 

 「じゃあ~漆羽さん。ご飯にする?お風呂にする?それとも~…し・の・ぶ?」

 

 「ちょっと姉さん!」

 

 「じゃ風呂だな」

 

 「漆羽さん!?」

 

 カナエの悪ふざけにしのぶはプンプンと怒るが、続く漆羽のスルーにも抗議の声を上げた。

 選ばれたら選ばれたでまあ結局怒ってはいたのだが、それはそれといて完全にスルーされたのは遺憾であった。女心とはかくも難しいものである。

 

「なんだよ。じゃ一緒に入るか?」

 

「は、入りません!!この助平!」

 

「冗談だって。じゃ風呂行くわ…あ、そうだ。カナエ」

 

 「どうかしましたか?」

 

 プンプンと怒るしのぶを軽くあしらい、そのまま風呂場へと向かおうとした漆羽だったが、何か思い出したらしく足を止めた。

 振り向くと、カナエに向けて質問を投げかける。

 

 「新しい刀を打ってくれるらしいんだが、刀の鍔の形って変えれたりする?」

 

 「ええ、お好きな形に要望出来ますよ」

 

 「そりゃ助かる。また後で話に行くから、そん時詳しく教えてくれ」

 

 「分かりました」 

 

 数日後、漆羽の要望通りに製作された日輪刀が届いた。

 鍔は一対の霞のようなものを象っており、それはかつて漆羽が握った妖刀を思い出させる形であった。

 




大正コソコソ噂話
『花の呼吸・白』は花の呼吸の型に居合白禊流を合わせたもので、居合の抜刀から型を繰り出すよ。行き着く先は最速だよ。
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