マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
人民の力で強さを増す
敵はもはや我らがスターリングラードを忘れもせず
ドニエプルの崖を思い起こすのだ
-”我らの親衛隊”より抜粋-
『再降下ユニット、全基スタンバイ。搭載戦術機及び核車両問題なし、対放射能防護、問題なく作動中』
『コントロール・ルーム、降下は
『了解、CPの指示を待ち、待機する』
宇宙空間でステーション同士の通信が一旦打ち切られる。
バイコヌール宇宙軍基地から出発した戦術機搭載の再降下ユニット、通称リャザン型再降下空挺船。
ソ連軍が開発した再使用型宇宙往還機、要は軌道降下ユニットである。
このユニットには戦術機3機か戦術機1機と何かしらの軍用車両6両が搭載出来る。
現在、この軌道上にはリャザン型とアメリカ軍が使用する再突入型駆逐艦が命令を待って待機していた。
ちなみに中に入ってるのは全てソ連軍の第106親衛空挺師団と第722戦闘航空連隊の戦術機や車両である。
ソ連軍単体では降下ユニットが足りなかった為、アメリカ軍から一時貸与という形で残りの再突入船を確保した。
降下作戦の手順も一度実績のあるアメリカ軍が指導する形で参加していた。
『まだ降下しねぇのか…?早くしねぇと酒が切れちまうよ』
第722戦闘航空連隊に所属するある衛士はため息をついて文句を垂れた。
本当は酒など飲んでいない、強がりで言ってるだけでこの衛士は作戦が始まる3日前から毎回酒を抜いて集中力を高めている。
ちなみに彼のウィングメイトを務める別の衛士は普通にウォッカを飲んでいる、本当は既定だと宇宙に持って行ってはいけないのにも関わらずだ。
彼は普段酒を飲んでいることを隠す為に寡黙でいるが実際はかなり不真面目な部類だった。
それでも戦術機を動かせるんだから大したものだ。
『722112、まあ待てよ。安全に降下出来るようにしてるんだ、降りた瞬間目ん玉にぶち抜かれるのは嫌だろ』
宇宙ステーションの管制室にいるアメリカ軍の衛士がロシア語でソ連防空軍の衛士にそう返した。
大尉の階級章をつけたこの米軍衛士は先祖が十月革命時にロシアからアメリカに逃げ延びた家系の末裔であった。
その名前もヤコブ・ヴィシコフというロシア系の名前である。
まだ祖父や父らがロシア語を喋っていた為、ある程度話せるし聞き取れた。
かなりアメリカ英語の訛りが強いが上手い方だ。
米軍衛士とソ連軍衛士が円滑にコミュニケーション出来たのはヴィシコフ大尉のおかげだ。
『ああ、全くだ。手が震えるぜ……闘志でな…!』
本当は緊張している、勇敢なふりをしているが本当は怖い。
パイロットというのは命知らずな奴が多いが、彼は完全にそうなり切れなかった。
それでも衛士に選ばれて機種転換訓練を終えた後、10回ほど戦闘に参加しているが毎回無傷で生き残っている。
臆病だから深入りし過ぎないし、前進したら今は死ぬか助かるかが感覚的に分かるのだろう。
たった4年で大尉にまでなれたのにはそういう理由がある。
『コントロール・ルーム、降下許可が降りた。直ちに全部隊を展開せよ』
『UNSCP了解、コントロール・ルームから各機へ。1分後降下を開始する、総員準備せよ』
宇宙ステーションと軌道上の再突入艇に降下用意の警報が発せられた。
作業員は全員その場から退避し、リャザン型、再突入型駆逐艦が降下の用意を始める。
『じゃあな死ぬなよ722112…!』
ヴィシコフ大尉は最後に外国の友人にそう告げた。
返答はなかった、ただ一言”of course”の文字が送られてきただけだ。
『英語使えるじゃねぇかよ』
各機が位置に付く。
ついに1分あった時間は10秒まで到達し、口頭でのカウントダウンが始まった。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、Go!!』
一斉に再突入艇が大気圏に突入した。
凄まじい揺れが船体を包むが、特に問題はない。
重力に引かれる形で再突入艇は一斉に地球の重力圏へと落ちた。
暫く重力に引き摺られるとすぐに大気圏内に一行は降りた。
自由落下である地点まで到達すると、アナウンスが入った。
『予定地点に到達、ユニットをパージします』
システムが落下の成功を確認し、搭載していた戦術機や車両が空中に解き放たれる。
第722戦闘航空連隊は優先的にMiG-27とSu-24を配備された航空連隊でありソ連防空軍からソ連空軍に移籍した経歴を持つ。
本来の名称は第722戦闘爆撃航空連隊であったが、戦術機の導入により戦闘航空連隊に改名された。
されど元の爆撃航空連隊の能力も取り継いでいる。
そしてともに降下するのは第106親衛空挺師団。
戦術機の導入は大幅にソ連軍を変えることはなかったが、兵科としての衛士は空挺軍に取り入れられた。
空中展開する空挺を護衛しつつ機動戦力として部隊を援護するのに適していたからだ。
この第106親衛空挺師団は1個中隊ほどの戦術機を有しており、航空連隊との共闘が可能である。
『各機、降下装備を展開。ハイヴ内に着陸する』
航空連隊長、ウラジーミル・ルペータ大佐の命令で戦術機や車両の逆噴射ロケット付きパラシュートが開いた。
暫く自由降下に身を任せ、陸地が近づくと逆噴射ロケットが作動して戦術機や車両をゆっくりと下ろした。
ソ連初の軌道降下は成功に終わった。
『各機、再突入艇の着陸地点を確保せよ。着陸地点を押し上げろ』
ルペータ大佐の命令で戦術機が先行して周辺地域を確保する。
何体か生き残っていたBETAが破壊されたハイヴの上層から顔を出したがすぐに戦術機に処理された。
その間にリャザン型が地面に着陸する。
ハッチが開き、中から放射能防護服を纏った空挺兵が姿を現した。
設計した空挺軍の技術士官らが取り入れた軌道降下による兵員輸送のコンセプトは今回は成功した。
AKを担いだ空挺兵がすぐに近くの車両に乗り込み、PT-76やBMD-1に乗り込んで戦術機部隊に合流した。
『これよりハイヴ内に突入する、各機抜かるなよ…!』
MiG-27を先頭に次々と部隊がハイヴに突入する。
「722112より各機へ、突入する!しっかりついてこい!」
コールサイン722112ことヴィクトル・フレツロフ大尉は自らのMiG-27を駆り、ハイヴ内へ突入した。
いよいよアステロイド作戦の最終段階に突入する。
頭脳級にとってはこれからが本土決戦の始まりであった。
- ソ連領 ウクライナSSR ポルタヴァ州 ポルタヴァ市 第1ウクライナ前線司令部-
軌道降下部隊が降下に成功したという報告は当然第1ウクライナ前線司令部にも届いた。
その頃の第1ウクライナ前線は核攻撃の終了とほぼ同時に前進を再会し、降下部隊が展開する頃にはリヴォフから約30キロほどの距離にいた。
他の前線も大体同じような進撃ペースだったが正面で敵主力部隊を消し飛ばした第1ウクライナ前線の方がペースとしては早かった。
核攻撃を生き残ったBETAがいたとしても、もうその個体は組織的な抵抗が出来ずまともな部隊であればすぐに蹴散らせた。
むしろ今心配されるのはこのペースでの進撃に補給がついていけるかということであった。
「降下部隊、ハイヴ内に突入。現在掃討戦が始まりました」
「我が軍の最先端の位置はどこだ」
「ポドガイチキより3キロほど進軍した地点です」
ゾロトフ大佐の報告を受けてヤゾフはまた考えた。
そこで隣にいたバリィーキン大佐が提案する。
「進撃速度を早めさせますか?今ここで一気に押し切れば空挺部隊と合流出来ます」
「いや補給が間に合わない恐れがある、多少時間をかけても確実に制圧しよう。されど作戦通りだ、いいな」
「了解…!」
降下部隊のことを考えてはやる気持ちは分かるが急ぎすぎてはそれもまた軍にとって毒だ。
急ぎつつ、されど確実に進撃する必要がある。
ヤゾフの期待通り、第1ウクライナ前線の隷下部隊は余裕を持ちつつもされど急いで前進を続けた。
会敵したBETAは直様戦車隊と戦術機に捻り潰され、哨戒中の戦術機部隊がBETAを見つけては砲兵隊が叩き潰した。
そんな中でもBETAは基本的な命令に従い、障害物がいたら破壊しようとするし、戦術的に戦おうとする。
ここまで来たら哀れとも言っていい。
第1ウクライナ前線の前に出るBETAも、たまたま姿を消していたBETAもソ連軍の砲火力と野戦軍戦力の前に全滅した。
こうして第1ウクライナ前線正面にいるBETAは殆ど駆逐された。
その頃、第3親衛戦車軍の前線部隊から報告が飛んでくる。
”
この報告はヤゾフ達司令部にとってとても嬉しい知らせであった。
ついにハイヴ前面までに到達した。
「そうか…!ハイヴの手前まで来たか…!」
ヤゾフはタバコの火を消して喜んだ。
背後に控えているモイセーエフ中将やステクリャル中将も顔を見合わせて安堵している。
後は周辺を確保してこちらからも増援を送ってやればいい。
「現在、第1親衛軍と共同で周辺の安全を確保し、補給ヘリと戦術機が何機か先行してハイヴ近くに投入されました」
マリィツェフ中佐の報告を聞いてヤゾフは1つ命令を出した。
「こちらからの補給を可能な限り送れ、降下部隊との生命線を繋げるんだ」
「了解!」
ヤゾフにとって一番恐ろしかったのは降下部隊がハイヴの中で孤立することだ。
孤立し、ジリ貧の戦いが続けばそれは敗北に直結する。
周辺に光線級がいないことは既に確認されており、補給物資を積んだMi-8の飛行隊がハイヴの元上部構造に構築された補給物資集積所に着陸する。
すぐに物資が降ろされ、第1ウクライナ前線との補給線が構築された。
これで降下部隊も長期的に戦える。
少なくともこれでヤゾフと第1ウクライナ前線の仕事はひと段落がついた。
第722戦闘航空連隊のMiG-27やSu-24がハイヴの奥底へ進撃する。
リヴォフ・ハイヴの構造は後に人類が分類分けしたフェイズ3に相当する。
2年足らずでBETAはここまで占領地を広げた。
地下700メートル地点までメインホールを広げ、全方位に縦坑を広げて広間を作った。
この縦坑と広間には最後の生き残りであるBETAの残存戦力が待機していた。
ソ連軍はこのハイヴを攻略する為に坑道と各所広間の制圧部隊と中央のメインホールへ突入する部隊の2つに分けた。
制圧は基本的に空挺師団が担当し、第722戦闘航空連隊の戦術機部隊は迂回と中央のメインホールから突入した。
「722113、722114ちゃんとついてこいよ…!」
『了解』
『了解』
フレツロフ大尉は顔を強張らせながら縦坑の中を進んだ。
現状作戦は上手く行っている、それでもいつ敵と会うか不安でしょうがなかった。
既にフレツロフ大尉の戦術機隊は広間を3つほど制圧し、後続の補給部隊から武器弾薬を獲得し、再び奥へ進んだ。
第722戦闘航空連隊の制圧戦はその特性上どうしても弾薬の消費量が大きい。
ハイヴ内にいるBETAの抵抗はそれほど多くなかったが、閉所かつ敵のテリトリーということもあって各所で被害が出ている。
特にメインホールに突入した部隊はBETAの頑強な抵抗を受けて、突破が困難な状態にあった。
故にフレツロフ大尉らの迂回部隊が早急にハイヴの奥底にいるとされるBETAのエネルギー源、もしくは司令機能を潰す必要があった。
任務の重大さといつどこから出てくるか分からないBETAの襲来で震える手でしっかりと操縦桿を握り締め、MiG-27を操った。
『722112、前方に巨大広間確認。熱源反応を探知』
僚機の722113ことオルゼスキー上級中尉が報告した。
ちなみに彼がこっそりウォッカを持ち込んだ上に飲酒運転をしている奴である。
元々防空軍から回されてきた衛士であり、空軍出身ではない。
アルコールが異常に好きな奴ではあったが酒を飲んでいても腕の立つ衛士であった。
別の722114、マリロフ上級中尉は特に何もしていない普通の衛士だ。
生まれはウラジオストクでよく空を飛ぶ空軍機を見てパイロットになった。
今では飛んでいる飛行機に手足がついているが。
「チュイコフ戦術でやる、室内を制圧するぞ!」
『了解』
フレツロフ大尉のMiG-27は2丁の突撃砲を構え戦闘態勢に入った。
「722113、先行してロケット弾を放て。俺と722114で突撃砲一斉射をやる」
『了解!』
『先行する』
オルゼスキー上級中尉のMiG-27が広間の手前で機体のブレーキを掛け、その間に両足に括り付けた80mm S-80FPを一斉に発射した。
ロケット弾が坑道内に広がり一斉に爆散する。
「行くぞ!!」
顔を強張らせたままフレツロフ大尉とマリロフ上級中尉のMiG-27がオルゼスキー上級中尉と交代して広間内に突撃砲を乱射した。
銃声が鳴り響き、トドメの一撃と言わんばかりにシールドに内蔵されているナパーム弾を発射した。
広間内が焼き尽くされ、完全に制圧される。
「突入!」
3機は互いに背中を預けながら広間の中へ入る。
中に入るとナパームで周囲が焼き尽くされ、ロケット弾と突撃砲によってミンチにされたBETAの残骸が転がっていた。
「722108、広間を制圧した。このまま前進する」
後方から接近するSu-24部隊に連絡を取った。
その間にフレツロフ大尉は弾薬の補充を行い、周辺警戒を怠らなかった。
『722112、別働隊と合流してそのまま突入しろ。我々も後に続く』
「了解、噂をすれば」
『722301、到着した』
同じ第722戦闘航空連隊のMiG-27、衛士はデルーギン大尉。
同じU.A.ガガーリン名称軍事航空アカデミーを卒業した同期で、戦術機の機種転換訓練中も一緒だった。
キャビアのブリヌイが好物であり、その次に好きなのはコーラ、ヴィシコフ大尉が持ってきたやつを一緒に飲んだ時は久方ぶりの甘味に震えた。
彼は片手にシールドを持ち、突撃砲を備え左肩にはフレツロフ大尉と同じくココンMを4本備えていた。
ちなみに両足にはイグラVが3本づつ設置されている。
なおここにいる6機とも対BETAミサイルを搭載していた。
「このまま前進する、そっちの損害はどうだ?」
『まだない、行こうか!』
6機のMiG-27が前進する。
互いに死角をカバーし合い、坑道のような閉所でも安全を確保した。
「チィ前方に光線属種!」
先に気づいたフレツロフ大尉が顔を出した光線級によく似たBETAを突撃砲で吹き飛ばした。
レーザーを放つ前に撃破され、部隊はそのまま前進した。
「今のやつ、光線級じゃなかった!なんだあれは!」
『あれは原光線級だよ、ちょっと改造されてるが昔資料で見た!』
もはやBETAには戦力がなかった。
故に作業用のBETAも無理やり改造して辛うじて戦える姿にした。
それが原光線級の改造型であり、先ほど倒されたBETAもその部類である。
このハイヴの中にはまともに戦えるBETAもいれば、無理やり戦闘用に改造した民兵BETAというべき代物もいた。
「あんなのまで……ここが異星人の本拠地ってわけか…!」
『どんどん地下に下がってます』
「ああ、分かってる。こりゃ当たりかもしれんな」
ハイヴの中心にある何かへ続く迂回路を見つけた、フレツロフ大尉はそう感じていた。
再びフレツロフ大尉は突撃砲を構えゆっくりと下に降りた。
「前方に広間、BETA確認。またチュイコフ戦術で行く」
『援護を頼む、我々が突撃する』
「了解…!死ぬなよ……」
戦友の無事を祈りつつ、全ての安全装置を解除する。
狙いを定めずむしろ火力を全方位に投射する形で、それこそが閉所で優位を取る方法だ。
彼らがいうチュイコフ戦術とはスターリングラードの戦いでワシーリー・チュイコフソ連邦元帥*1と第8親衛軍*2が立案したCQC戦の発展形である。
スターリングラードという都市を巡る戦いは激戦であった。
建物を巡って戦う為、次第に確実な制圧戦が必要になった。
まずSMGを室内に投射し、その次に手榴弾ら手持ちの火器を投入して火力で圧倒し制圧する。
それをソ連軍は戦術機の戦いに転用した。
GRUの
「撃て!」
突撃砲と脚部のロケット砲、そして左肩のココンMが僚機の2機と同じように発射される。
これが火力による制圧、広間の手前であっても有効だ。
火力をばら撒き、中にいるBETAを殆ど殲滅する。
そして殲滅を確認する為に後方のデルーギン大尉のMiG-27隊が突っ込んだ。
3機が互いをカバーし、内部に侵入する。
『生存者はっ!』
『クソッ!』
レーザーが閉所の中を突き抜ける。
辛うじて生きていた改造型原光線級の一撃が僚機の右腕に直撃した。
爆発が起きてMiG-27の右腕が落ちた。
直様その衛士は左腕のシールドでコックピットを守り、弾薬がまだ残っている右足のロケット弾で原光線級を撃破した。
「大丈夫か!」
すぐにフレツロフ大尉らも広間へ突入した。
『大尉、右腕を捥がれました』
『無理するな、後退して味方の中継地点まで引き下がれ。お前のこれは借りていくぞ』
デルーギン大尉は焼き切れた僚機の腕を取り、突撃砲を借りた。
『申し訳ありません……』
1機の戦術機が戦線を離脱する。
その間にマリロフ上級中尉が全体に報告した。
『大尉、前方1,200メートル地点に高熱源反応。通常のBETAとは桁違いのエネルギーです…!』
「なんだと…?」
すぐにフレツロフ大尉は後続の部隊に命令を出した。
「722112から722108、ハイヴのメインシステムを発見した可能性が高い。至急合流せよ」
『722108、了解した。直ちに向かう』
「ようやく見つけたぞ、ハイヴの親玉…!」
リヴォフの頭脳級は自身の敗北と死を初めて悟った。
各所の広間は占拠され、生き残りのBETAで守りを固めているが突破は時間の問題だろう。
所詮残っていたBETAを改造しても敵には勝てなかった。
当たり前だ、所詮二線級の戦力じゃ一線級の突撃級や光線級には及ばない。
もうすぐこの場に敵が来る、頭脳級はそれを知覚していた。
頭脳級は何がダメだったかをひたすら考えた。
戦力の投入がまずかったのか、それとも砲火力に対抗する術をもっと考えるべきだったか、こちらも同じだけの火力を作るべきだったのか。
それとも周りが悪く、他の友軍と合流し重頭脳級がいれば勝てたのか。
今更何を考えてももう遅い。
自身を犠牲にした反省も他の味方に伝える方法がない為全ては無駄な努力だ。
されど頭脳級は戦うことを選んだ。
「あれがハイヴの親玉だ!」
フレツロフ大尉は牽制で突撃砲を連射して攻撃するが、それに反応して頭脳級も数本の触手を展開した。
触手の動きはそこまで俊敏ではなく、戦術機であれば簡単に避けられた。
『なんだこれは!?』
『親玉の防衛能力だろう、この程度なら避け切れる!』
デルーギン大尉はそう言いながら触手を1本、突撃砲で断ち切った。
この室内に他のBETAはいない。
出し惜しみせず全て広間に配置してしまった。
尤もいたとしても未来はそれほど変わらないだろうが。
『各機、触手を抑えろ。俺が戦術核を叩き込む』
Su-24を操るアドレニコフ少佐は全員に命じた。
少佐の命令を聞きMiG-27が触手を引き付け、その間にアドレニコフ少佐が突撃する。
頭脳級は最後まで頑張って戦った。
それでも触手は戦術機の1機も撃墜出来なかったが。
その間にSu-24が接近し戦術核の引き金を引いた。
『これで終いよ!!』
投射と共に全ての戦術機が一斉に退避した。
今更弾き飛ばしたところでどのみち被害は出て頭脳級は機能を停止する為抵抗はしなかった。
頭脳級は最期にこう思った。
後2,000万のBETAがいれば必ず勝てた、と。
戦術核が起爆し、周囲を巻き込んで爆散した。
頭脳級は機能を停止し、爆風が周囲に飛び散る。
その間に突入部隊は離脱に成功し、難を逃れた。
「野郎吹き飛びやがった!」
『722108から連隊長へ、ハイヴ中央の大型BETAを破壊!ハイヴ中央の大型BETAを破壊!ハイヴの中枢を破壊した!』
リヴォフ・ハイヴが堕ちた。
戦術核によって頭脳級が死に絶え、リヴォフ・ハイヴは死んだ。
生き残りのハイヴ内BETAは数時間以内に掃討され、外にいるBETAはエネルギー切れかソ連軍によって掃討され、撃破された。
リヴォフ・ハイヴ周辺のBETAは全滅した。
アステロイド作戦は成功したのだ。
1980年7月14日、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国は失われた全ての国土を取り戻した。
15のソビエト社会主義共和国によって構成されるソビエト社会主義共和国連邦はこの日、全ての領土を奪還したのだ。
人類の勝利がまた1つ刻まれた。
リヴォフ・ハイヴ陥落から数ヶ月後、ウクライナは泥濘期に入った。
ハイヴ周辺にはまだ放射能汚染が続いており、軍による封鎖が続いていた。
時折ポーランド、チェコスロバキア方面からBETAが入ってくることがあるが、大抵泥沼に足を取られて動けなくなったところを砲で叩き潰されていた。
特に突撃級や要塞級はその巨体故に泥濘に弱く、足を止めやすかった。
無論泥濘はソ連軍側の戦車や戦術機の足も止める為、一旦攻勢はストップした。
今は再び体力をつける時だ。
この間にソ連軍は前線部隊を再編し、兵力と物資の回復に努めた。
手柄を立てた将兵を昇進させ、勲章を授与し、その功績を称えた。
それはヤゾフら前線司令官も同様である。
参加した3人の上級大将には勲章が授与され、ヤゾフは一足先にソ連邦元帥に列せられた。
BETA2個軍を吹き飛ばしたことと、真っ先にハイヴに到達し補給戦を繋げ、降下部隊と合流した事がソ連邦元帥に任命される理由であった。
彼の肩章はたった半年で上級大将のものからソ連邦元帥のものになった。
首元には元帥星がきらりと光っている。
軍隊に入ってから約40年、まだ17歳だったヤゾフ少年は56歳となり、少尉から最高位のソ連邦元帥となった。
大祖国戦争中、レニングラードにいたあの時の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか。
小銃を担いで戦う指揮官からお前が見上げる司令部で戦争全体を見据える指揮官になった。
40年近い歳月を経てだ。
「閣下、昇進おめでとうございます」
司令部に戻ると早速ローシク大尉が敬礼し、ヤゾフの昇進を祝った。
ヤゾフは敬礼を返し「ありがとう」と照れ臭そうに返した。
「父も祝っていました、素晴らしい働きだから当然だと」
「ローシク元帥が来られたのか?」
「いえ、報告書を届けにハリコフまで戻ったらたまたま行き会いまして」
「そうか、家族と話せて何よりだ」
ヤゾフは微笑み、ローシク大尉も軽く頭を下げた。
2人が作戦室に入ると既に参謀全員が待機しており、ヤゾフの入室を確認するなり彼に敬礼した。
「閣下、昇進おめでとうございます!」
手前にいたモイセーエフ中将改め大将が参謀を代表して祝辞の言葉を述べた。
当然ヤゾフとローシク大尉も敬礼を返す。
「君こそ大将へ昇進おめでとう、モイセーエフ大将」
「閣下の御采配なればこそ、参謀や招聘の奮闘のおかげです」
「ああ、みんな聞いてくれ。私の勝利は君らの正確な報告と作戦提案があればこそだ」
ヤゾフは参謀達に労いの言葉を述べた。
バリィーキン大佐、ゾロトフ大佐、マリィツェフ中佐、アニシモフ中佐、多くの参謀達。
彼らは前線から上がってくる情報を収集して分析し、正確に報告した。
作戦地図で部隊を動かして前線から遠く離れた司令部でも状況把握を可能な限り正確なものたらしめ、作戦を考えた。
司令官ヤゾフの決断の一助となれるよう助言や提案を行い、彼をサポートした。
前線という巨大な軍部隊の運用には彼らの存在が不可欠である。
「ウクライナは全て取り戻した、後はポーランド、チェコスロバキア、そしてドイツ、我々の眼前にはまだBETAがいる。我々が再びベルリンに赤旗を打ち立てるまで、みんな共に頑張ろう」
参謀達は頷き、ヤゾフについていく意味を込めて再び敬礼した。
ヤゾフは彼らを見回し、1人1人に礼を述べるように敬礼を送った。
1980年、人類にとって反撃が始まった年。
このアステロイド作戦が1980年における人類最後の大規模反攻作戦である。
次なる攻勢は1981年、”
だがこれで命運は決まった。
人類は、勝利に向かって前進するだけである。
つづくかも