マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
越すに越されぬ 田原坂
右手に血刀
左手に手綱
馬上ゆたかな 美少年
-”田原坂”より抜粋-
1月25日、2日続けてエネルギー炉が破壊された衝撃は物理的にも精神的にも大きなものがあった。
まず1月20日から1月25日にかけての戦闘でBETA側はほぼ2個軍に近い戦力を消失した、一番痛かったのは特に戦術機級、超重突撃級といった高性能ユニットの損害が大きかったということだ。
戦術機級は基本的に遊撃に転じて国連軍の進撃を止める部隊もあれば、エネルギー炉周辺で防衛戦闘を行う部隊もいた。
特に損害が大きかったのが後者であり、戦闘することなくエネルギー炉の爆発に巻き込まれて多数が消し飛んだ。
ハイヴ戦において真っ向から戦術機を圧倒出来る戦術機級は防衛の要であり、これを多数失ったのは大きすぎる損失であった。
しかも国連軍は好機を逃さず着々と侵攻拠点を作り、ハイヴの奥底へと入ってくる。
ベルリン・ハイヴはある時点で人類側が投入してきた戦術機の数が1,000を軽く超えていることを知っていた。
そもそもNATOの第2、第4連合戦術空軍だけで合計1,300機を超える戦術機を有しており、これに対して在独ソ連軍の第16航空軍は700機を超える戦術機を保有していた。
つまり本来フルダ渓谷でぶつかり合う両軍だけ合わせても2,000機は軽く超えるのだ、そこへ3個前線とアメリカ本土の空軍州兵、海軍航空隊に国連義勇軍が集まればローテーションを組んだとしても1,000機以上は確実にハイヴの中にいる。
幾らBETAが幾万体いようと純粋なスペックだと押し切れないのだがここまで押し込まれるのはある種当然であった。
これ以上の損害を恐れたベルリン・ハイヴは第四、第五のエネルギー炉から兵力を転用して最奥周辺の守りを固めた、最悪の場合どちらか片方は放棄する予定であった。
どちらにせよベルリン・ハイヴには最早逆襲するだけの力がない為ひたすら耐え抜いて惑星外から増援が現れるのを待つしかない。
しかしそんなベルリン・ハイヴに待ち受けていたのはあまりにも残酷な報せであった。
人類の暦で1月26日、火星方面に展開するBETA集団からベルリン・ハイヴに向けてある通達が届いた。
内容は事前に最高意思存在によって決められていた地球方面への増派を打ち切る通達だった、端的に言えばこの段階でベルリン・ハイヴが望みをかけていたものが消え、ベルリン・ハイヴの思い描いていた未来予想図は荼毘に伏したという訳である。
ベルリン・ハイヴはこの時初めて最も人に近しい感情というものを手に入れた、それは怒り、理不尽に対する憤怒であった。
恐らく他に生き残りの頭脳級がいたら4体ほど集めて叫んでいただろう、増援を寄越せと言った、同胞は嘘をつきその結果がこれである。
火星圏の連中も意思存在も月面集団も皆嘘ばかりつく、地球で戦った同胞以外は皆卑怯で臆病者だ、臆病者の負け犬だ。
他の重頭脳級は大使命に背くBETAのクズである、恥晒しである。
意思存在とは名ばかりで与えられたのは方便ばかり、あらゆる方法で地球にいた同胞を見捨てた。
元を辿れば所詮一介の頭脳級ではあるがそれでも人類に一矢報いようとした、戦い方を独学で学んだ、それに比べて奴らはなんだ、大使命に対する裏切り者だ。
奴らだっていずれ人類から血の報復を受ける、己が見捨てた同胞と同じ場所に還るのだ。
最早救援要請は届かない、資源も後僅かである、こんな状況では反撃する手立てなど生み出せる訳がない。
終わりだ、ベルリン・ハイヴは地球に襲来して以来初めて諦めというものを知った。
今から40年前、丁度同じベルリンで恐らく同じことを思った地下に籠る独裁者がいたのだがベルリン・ハイヴの知るところではない。
後はどれだけ戦って抗って死ねるかである、自らも戦う為の肉体は作り出していた。
一方の人類側は3つ目のエネルギー炉を破壊し、第二階層の主力部隊を粗方蹴散らしたことで着々と勝利に対する現実味が湧いてきた。
5年前は夢物語とすら言えたBETAに対する全面勝利がすぐ目の前まで迫っている、兵達の士気は確実に上がっていた。
既にハイヴ内の半分以上は国連軍が抑え、後4割か3割半を制圧すればもうすぐ最奥であった。
「”出雲”航空隊のF-14Jが大広間突入に成功、戦闘に加勢しエネルギー炉撃破に貢献したとのこと…!」
「よしっ!これで海軍航空隊は後100年国民に面目が立つ!トムキャットの追加購入とホーネットの導入も夢じゃないぞ!」
派遣軍司令部の幕僚を務める1人の海軍中佐が喜び勇んで思わずとんでもないことを口ずさんでいるのを興正と金崎少将は若干引いた目で見ていた。
ともかく日本帝国から送られた派遣軍としては申し分ない活躍をしていた、特にエネルギー炉破壊に貢献出来たのは大きな功績となるだろう。
それが海軍機の仕事というのがまた禍根を産みそうではあるが一先ずはよしとしよう。
「このペースでいけば2月上旬にはベルリン・ハイヴの最奥に到達するでしょう。長かったこの戦いもようやく終わりそうです」
「思えば中国への落下に始まり、我が国はインド、中東、アフリカ、そしてヨーロッパと色々な戦場に行った。斯衛軍が……旧軍が僅かでも公として派兵に踏み切ったのは今思えばせめてもの名誉か」
興正は過去を懐かしむようにBETAとの戦いを振り返っていた。
思えば信真があそこで斯衛軍を本格的にアフリカへ送るという決断をしていなければ、武家と斯衛軍は人類の非常事態においてただ迷惑だけをかけた存在となっていただろう。
人のことをなんとも思わない男ではあったが生き残った武家の名誉を最低限担保してくれたのもまた信真であった。
命よりも名誉を、最期まで武士として生きたということか、死んでしまった今ではもう分からないが。
「ハイヴ内に突入した陸海空軍の戦術機部隊は他国連軍の戦術機部隊と共に破竹の勢いで進んでおります」
「引き続き国連軍の命令を最優先に受けつつハイヴ内の攻略を進めさせろ。何か困ったことがあれば全て司令部に伝えるように」
「はい」
「特に武器弾薬類については本国からも多少融通が効く、ハイヴ戦なんてものは火力戦なんだ、枯渇しそうなら早急に相談するように」
「はい!」
ある意味で弾薬の不足は興正にとってのトラウマの1つでもある、アフリカ戦役における一時期の砲弾の枯渇は彼にとっても苦い思い出だった。
周りの参謀達も大半が事情を知っている為察した顔で特に何も言わなかった、尤もそうした態度が興正にとっては一番居た堪れないのだが。
今でも斯衛軍総監部の兵站局には思うところがある、頭を下げることは恥と思わない興正であったが彼らのせいで最悪余計に人死にが出るところだった。
しかもいざ総監部に連絡を取ってみると局長は即日解任の末に切腹してこの世にいないし、副局長から部長、課長クラスも何人も解任された為担当者が殆ど面識のない佐官の将校だった。
純粋な司令官という実務者として興正はあの時頭を抱えていた、要らぬ政治闘争で苦労するのはいつも現場の人間だ。
幸いなことに今回はそのようなことはなかった、前に出て戦う必要もなかったせいもあるだろうがアフリカで受けた苦労に比べればなんということはなかった。
「ベルリンが陥落するまで気は抜けん、我々とて国連軍の一員であることを忘れるな」
興正は臆することなく必要な喝を部下達に入れ、度重なる勝利で若干緩んでいた意識を締め直した。
戦争はまだ暫く続く、ベルリン・ハイヴ攻略戦は終盤に差し掛かっていた。
1月27日、第三のエネルギー炉から下降した国連軍は攻勢の勢いを強め、たった2日のうちに第四のエネルギー炉から2.3キロ地点まで前進した。
ある部隊が弾薬切れを起こして後退しても即座に別の戦術機部隊が展開し、場合によっては核砲弾や核爆弾で丸ごとBETAを殲滅してくる。
その上で閉所戦闘、BETA側は自爆や奇襲攻撃で対応したが純粋な火力勝負では勝ち目がないのだから時間稼ぎにしかならなかった。
この頃になるとBETA側は損傷した個体が増え始め、それに対する修復用の資材も間に合わない頃から小破、中破した個体が稀に戦場で確認出来た。
しかもそれと比例するかのように第四のエネルギー炉周辺では戦術機級の出現報告が減った。
国連軍総司令部や各軍の司令部はこの報告を受けて「戦術機級は最奥周辺の守備に引き抜かれたのではないか?」という疑いを持ち始めた。
それだけではない、最悪の場合守備の戦術機級によって大規模な遊撃部隊を編成し、現在の戦線を荒らされる可能性があった。
一番恐ろしいのは後者、これにより一部戦力を警戒部隊に回し、地表に展開している地上戦力も一部が守りに動員された。
常に警戒を怠らない、これこそが最も手早く勝利に到達出来る一番の近道だ。
この間にも主力は日夜BETAを押し続け、27日の夕刻にはベレンコ大佐率いるソ連防空軍の一団とヴィシコフ中佐率いるアメリカ空軍のF-15部隊がエネルギー炉のある大広間に突入した。
突撃砲で周辺の戦車級、要撃級を撃破し、一気にハイヴの中に突入する。
大広間突入では第一のエネルギー炉と同じようにほぼ正面突破に成功し、後続の部隊が大広間に突入するのも時間の問題であった。
着陸したF-15やSu-27、MiG-25PDSは周辺を警戒しながらゆっくりとエネルギー炉に近づいた。
『ハンター1より各機へ、警戒を怠るな…!こうなった以上どこからか来るぞ…!』
『中佐!地下から反応が!高速で1体のBETAが近づいています!』
即座にヴィシコフ中佐はレーダーを見て場所を特定し、ベレンコ大佐と共に命令を出した。
『各機上空に飛翔!一時離脱しろ!』
「BETAが来るぞ!」
一斉に各戦術機が飛び上がった瞬間に地下が割れ、まず数本の触手が大地の割れ目から出現し、触手の先端部分からレーザーが照射された。
「なんだとっ!?」
今までBETAが有する触手というのは最終的には近接戦を目的とした中、近距離兵器でありレーザーによる遠距離攻撃は今まで見たことがなかった。
しかも触手の機動力、展開力は凄まじくこれでは全方位オールレンジ攻撃が可能になってしまう。
彼らはその凄まじさをこれから経験することになる。
レーザー照射と共にその母機であった超重突撃級が出現し、着地すると戦術機から距離を取りながら触手を周囲に展開して多角的な方位からレーザーを発射した。
何機かのF-15とMiG-25PDSが回避し切れずに撃墜され、敵を撃ち倒そうと発射されたKh-29空対地ミサイルとマーヴェリックも正面装甲によって弾かれた。
「どうもただの突撃級じゃなさそうだぞ!」
『装甲の厚さが超重突撃級と比較して2倍ほど進化してます!』
この超重突撃級は通常の個体よりまた一回りほど大きくなり、防御能力が向上していた。
その反面機動力は通常の突撃級よりかなり低下しており、その分の展開力を触手によるオールレンジ攻撃で補っていた。
発射されるレーザーは単発のものもあれば長時間照射してまるでレーザーブレードのように戦術機を焼き切ろうとした。
「チッ!」
レーザーを避けると意を決してベレンコ大佐のSu-27は前に出て長刀を持ち、2本の触手を叩き切った。
切断面が僅かに小爆発を起こし、超重突撃級は切断された触手を体内に戻した。
やはり触手を断ち切るとレーザーは発射されないようで一時的に超重突撃級の火力が減退した。
「触手を叩き切って本体に直接火力を叩き込め!連中は手強いが倒せない敵ではない!」
『各機、ベレンコ大佐に遅れを取るな!連中を叩き潰すぞ!』
そう言ってワイヤーを近接用短刀に接続しレーザーを躱しながら振り回して数カ所の触手に斬撃を叩き込んだ。
触手からはその後もレーザーが照射されたが1発撃つと斬撃の入った箇所が負荷に耐えられなくなり、小爆発が数カ所で発生した。
これで何本かの触手からレーザーが発射出来なくなり、超重突撃級は本来の触手の運用方法を実施しながら体内に戻して回復に努めた。
無論その間にも残った触手や超重突撃級に備わっているレーザー照射口から攻撃は叩き込まれ、戦術機部隊を苦しめていた。
だが余裕が出てきた為2機のSu-27と2機のF-15がほぼ同時にKh-31空対艦ミサイルとAGM-65マーヴェリック4発を発射した。
元より突撃級ですら回避できないものを突撃級より機動力が劣った個体が回避出来るはずもない、完璧な直撃コースであった。
しかし超重突撃級は衝突の瞬間で前面の装甲をパージして射出し、発射されたミサイル群に直撃した瞬間に撃てる限りのレーザーをミサイル周辺に叩き込んだ。
本来直撃するはずだった場所に爆発が発生し、その中を超重突撃級は潜り抜けて回復に成功した何本かの触手を展開した。
再び多方面からレーザーが照射された、どうも超重突撃級はほぼ見よう見まねとはいえ爆発反応装甲を作ってしまった。
装甲が消えて少し軽くなった超重突撃級は速力を上げてレーザーを周辺に飛ばしながら突っ込んできた
辛うじて突進は回避出来た一行は相手が後ろを向いている隙に152mm無反動砲と155mm無反動砲を叩き込んだ。
数発の砲弾が命中したが装甲が減ったと言っても超重突撃級そのものである為、砲撃には耐えて再び触手によるオールレンジ攻撃が始まった。
「あれでも仕留め切れんか!」
『各機回避に専念しろ!再び我々で触手を断ち切る!』
『了解!』
腕部に取り付けたグレネード弾を発射し、触手周辺で爆発させる。
無論この程度では触手にダメージは入らなかったが牽制としては十分であった。
後方の回避をモースク1と警報器に任せて後方からのレーザーも回避しつつ、前方から迫り来る2発のレーザーを寸前で避けた。
そのまま右手に持った長刀を大きく振り上げ、再び2本の触手を切断した。
前からくる攻撃の可能性を消すと今度は後ろに回り込んで背後を取ろうとしていた触手2本を兵装担架に取り付けた突撃砲2門による弾幕射撃でズタズタに引き裂いた。
その間にヴィシコフ中佐のF-15もレーザー射撃を回避しつつ、突撃砲による弾幕射撃と2本の短刀を同じように振り回すことにより広範囲に触手へダメージを与えていた。
周りのSu-27やF-15、MiG-25PDSはその間に本体へ火力を集中させ、少しずつ装甲の耐久値を削っていった。
すると他の戦術機部隊がBETAの防衛線を突破して大広間に突入してきた、第2連合戦術空軍に属するイギリス王立空軍のトーネードGR.1とドイツ連邦空軍のトーネードIDSが現れた。
殆どの触手が地上に展開しているF-15やSu-27と戦っている為直上の敵を迎撃する手はそう多くはなかった。
何機かのトーネードからシーイーグルとAS.34コルモラン空対艦ミサイルが放たれ、超重突撃級とその周辺に命中した。
空対艦ミサイルの直撃によって全身の装甲は剥がれ、内部が爆発と衝撃でズタズタに引き裂かれて焼かれた。
一時的に触手の動きも鈍り、残るは本体を討伐するだけだ。
『大佐!!今です!!』
部下から支援を受けてベレンコ大佐のSu-27とヴィシコフ中佐のF-15が死に体となった超重突撃級に接近し、Kh-29とマーヴェリックを叩き込んだ。
装甲もないこの個体では防ぐことは出来ず、そのまま肉が裂けて爆散した。
「突撃級を仕留めた!」
『各機エネルギー炉に起爆剤を仕掛けろ!急げ!』
処理班が動こうとしたその前にエネルギー炉に異変が起きた、周囲に煙を撒き散らしながらその巨体が見る見る内に崩れていったのだ。
『エネルギー炉の熱源反応が消えていきます!』
「BETAの自殺とでも言うのか……?」
ベルリン・ハイヴは第四のエネルギー炉を諦めた、あれを完成させる資源も守り切る兵力もないと踏んで残存するBETAを最奥の防衛に回したのだ。
最後に出てきた超重突撃級は時間稼ぎと”実験”であり、その役は十分果たしたと言える。
ベルリン・ハイヴによって自壊命令を出されたエネルギー炉は時間をかけてゆっくりと崩壊し、国連軍に潰されて周辺を吹き飛ばす前に安定して自壊した。
このまま第四のエネルギー炉攻略に回されていた部隊は更に地下に降りて最奥への攻略に邁進することとなる。
ここから1週間弱、最後の戦いが始まった。
「ソ連防空軍とアメリカ空軍が大広間を墜したようです」
この報告を聞いた佐竹中佐は顔を顰めた、これで残るベルリン・ハイヴの重要拠点は第五のエネルギー炉周辺と最奥の重頭脳級のみとなった。
彼ら日本空軍所属の旧斯衛軍戦術機部隊は前線からかなり離れた補給拠点兼臨時整備場で戦術機の補給と整備を行っていた。
度重なるBETAとの戦闘で何機かは損傷し、弾薬もかなり使った。
整備は後少しで終了しもう間も無く出撃というタイミングで佐竹中佐の下に第四のエネルギー炉制圧の報告が入ってきた。
「既に大広間を占拠した国連軍は自壊したエネルギー炉の残骸を運び出しつつ、中間拠点を設けてそこを中心に最奥攻略に乗り出したとのこと」
情報を受け取った元斯衛軍大尉、桑折茲家は更に報告を行った。
現在ベルリン・ハイヴ攻略の為に地下に潜っている国連軍は大きく分けて3つ、佐竹中佐らが参加する第五のエネルギー炉攻略部隊と第四のエネルギー炉攻略部隊、そしてハイヴ最奥を目指す部隊だ。
今となっては第五のエネルギー炉攻略と最奥突破を目指す部隊に分かれ、後者の戦力の方が大きくなっている。
最奥にどれだけのBETAが篭っているかは分からないがあの規模だと4、5日もすればハイヴ最奥に辿り着く部隊も出てくるだろう。
佐竹中佐らの隊がベルリン・ハイヴ最奥に辿り着くのは恐らく攻略された後だ。
「敵の大将首を土産にしたかったが……最早間に合わんか」
「我々が担当しているエネルギー炉攻略も後1日2日は続きましょう、その頃にはかなり距離が離されているかと……」
「せめて我々斯衛軍旧臣の手でベルリン・ハイヴの素っ首を取ってやりたかったわ……!」
「お気持ち、お察し致します」
彼らはこの戦争を終わらせるという第一の目標以外に手柄を立てて少しでも旧武家の名誉を取り戻すという裏の目標があった。
その為に旧斯衛軍の戦術機部隊が是が非でもベルリン・ハイヴの最奥で戦い、大将首を討ち取りたかったのだが最早叶わぬ夢である。
「こうなっては第五のエネルギー炉、これを差し違える形になってでも我々で討ち取らねばならぬ。前線の状況は」
「味方が突入に成功したという報告は入っていません、何分前線にはまだ多数の戦術機級や超重突撃級がおりますから……」
「ならば我らが討死覚悟で突破口を切り開き、大広間まで向かうまで!多少無茶な突撃をして全滅したとしても名は……」
「お待ちあれ、佐竹中佐」
側に控えていた崇継が話に割って入った、上官の考えといえど看過できない。
「斑鳩大尉、何か」
「我らで大広間を占拠することはよき考えなれど、無茶な突撃で悪戯に討ち死ぬのは訳が違います。ご自身を含め、兵の命を粗末してはなりません」
「分かっている、気持ちだけじゃ。その気概がなければ勝てんだろう」
「心持ちは采配に影響します、ハナから死ぬことが前提であれば無茶も無茶とは見えなくなる。我らは生きて敵将の首を挙げ、勝つのです」
崇継は勝つ気ではあっても死ぬ気ではなかった、戦って勝った上で生きて帰る、それが彼なりに武家の者達に見せる生き様だった。
「しかし、亡き猊下だって無茶を通してきた…!我らだって…!」
「亡き猊下は時に損害を顧みず突撃を敢行しました、それは全て勝てる見込みがあったからです。後がなくなって死ににく訳ではない!望みを捨てなかった者にのみ、道は開けるのです」
佐竹中佐は崇継の言葉を聞き、徐々に考えを改め始めた。
崇継は内心信真のことを騙っているなと思ったがそれでも良かった、無意な犠牲を払う必要は最早ない。
「……焦りすぎていた、すまん」
中佐は己の非を認めた、このままでは何の手柄もないということで実際焦っていたのだろう。
「私も介六郎もおります、必ず大広間に辿り着き、エネルギー炉を我らで破壊してご覧に入れましょう」
「頼もしい、流石は五摂家の方、次も頼りにしておるぞ」
「ハッ!」
そう言って崇継と介六郎は頭を下げ、その期待に応えるよう努力することを誓った。
「中佐!各機の整備完了しました!」
「そうか!では出陣だ、頼むぞ斑鳩大尉、真壁大尉!」
「ハッ!」
崇継と介六郎は立ち上がり、自身の”鳳鷲”が整備を受けている大型トラックに急いだ。
出撃する前に2人は軽口を叩きながら自機の下へと向かっていた。
「言ってやりましたね崇継」
「勝ち戦で無理して討ち死ぬ必要はない、むしろ皆で生きて帰らねば。命を粗末にしないのが新しい武家の生き方だ」
信真も輝光も結局は死ぬことでしか自分の望むものを手に入れられなかった、彼らは傑物であったが今の時代に生きるには少し窮屈だったのだろう。
ならば新しい時代を生きる武家の棟梁として少しずつ変わっていかなければならない、命のあり方、家のあり方、価値のあり方、守るべきものと変えていくものを考える必要がある。
これから彼らは戦術機に乗って野を駆け回り、遮二無二に戦い続けるより難しい人生を歩んでいくことになる、大変なことの方が多いだろう。
それでも彼らは託されたものを残し、新しく生まれる者達の為に難しい生き方を選んだ。
難しい生き方だが変わろうとするのならかつて敵だった者もいずれは仲間となるだろう、変革とはそういうものだ。
2人は整備が完了した”鳳鷲”に乗り込み、安全装置が解除されるとトラックから離れて大地に立った。
他のF-15Jもトラックから降りて出撃態勢をとった。
『各機、これより我々は再び前線に向かいBETAと戦う。決戦だ、皆生き残れよ!』
佐竹中佐は部下の衛士達を鼓舞し、それに続くように崇継も声をかけた。
「我々武家の面目を保ち、必ず生きて勝ち星を挙げて帰ろうぞ!」
衛士達も通信越しに勇ましい喚声が響き、士気は高まっていた。
佐竹中佐率いる戦術機部隊は崇継と介六郎を含めて14機であったがここに新たに半個飛行隊が追加されて20機となった。
18機のF-15Jが”鳳鷲”2機を先頭にし、前線へと向かう。
度々後方へ離脱する友軍の戦術機と出会し、その度にコックピットの中で崇継は彼らに向けて軽く会釈した。
皆BETAとよく戦い、命をかけてきた真の武士(ルビ もののふ)である、外国軍であろうと将兵に礼を尽くすのは当然であった。
前線では何機かのMiG-23MFとNF-5が足止めを喰らっており、岩壁に隠れながら突撃砲や152mm弾を発射して応戦していた。
「前方に戦術機級、4体確認。周辺には要撃級も確認」
『各機空対地ミサイルを一斉射、その後斬り込み隊が突撃を敢行して戦術機級を減らす。残りはその支援!』
それなりに広い通路でF-15Jは周辺に散開し、戦術機級がいる地点に向けてまずAGM-65マーヴェリックを各機1発ずつ発射した。
ほぼ一度に20発のマーヴェリックが発射され、まず前衛にいた3体の戦術機級が持っていたシールドを粉砕した。
即座に肩と左腕の装甲で我が身を守り、長刀を構えて防御態勢を取ったが爆炎が過ぎ去るのと同時に2機の”鳳鷲”が突撃を敢行した。
まず崇継の”鳳鷲”が中央にいた戦術機級の首を長刀で突き刺して刎ね、頭が飛んだ瞬間に突撃砲の120mm弾を叩き込んだ。
命中と共に中央の戦術機級は胴体が吹き飛び、まず守りが崩れた。
その間に右から殴り掛かった介六郎の”鳳鷲”が戦術機級の右腕を切断し、即座に突撃砲で左肩の関節を破壊した。
戦術機級の非装甲部であれば突撃砲の通常弾でもそれなりにダメージは入る、問題は僅かな装甲の隙間に通常弾を叩き込めるかということだ。
近距離射撃であった為無事に弾丸は肩を貫いて破壊し、戦術機級の両腕を潰した。
殆どの武装が使えなくなった戦術機級に至近距離でマーヴェリックを撃ち込んで撃破し、後方の戦術機級の相手を始めた。
前衛にいた残りの戦術機級は吶喊した3機のF-15Jが集団で斬り掛かり、うち1機が長刀で右腕を切断し、非装甲部に長刀を突き刺して撃破した。
一方後方で火力支援を行っていた戦術機級は不利を悟り、後退しようとしたが前に出たNF-5とMiG-23MFから空対地ミサイルの集中射撃を受けて撃破された。
『助かりました!』
『我々はこのまま最奥に向かう。各機続け!』
佐竹中佐のF-15Jと2機の”鳳鷲”が先行し、その後に17機のF-15Jが続いた。
これが彼らにとっての
1月29日、比較的強固な防衛線を構築していた第五のエネルギー炉周辺であったが国連軍の猛攻を受けて要の戦術機級は損耗し、少しずつ押し込まれていた。
無論国連軍側だって攻略戦に従事する衛士達には以前に比べて疲れが出ていた、1月5日からハイヴに入って既に23日が経過している。
3週間ほど続くベルリン・ハイヴ攻略戦、今までで最大級のハイヴであることに間違いはないが同時に国連軍が使用する兵力も最大級である。
イギリスの戦術機部隊を追い払えばオランダ、ベルギー、オーストリア、オーストラリア、カナダが、ポーランドの戦術機部隊を追い払えばチェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアの戦術機部隊が現れる。
何度も襲来する各国の戦術機部隊は戦車級、要撃級の数を着々と減らし、十分な火力を持って戦術機級、超重突撃級と渡り合った。
強力なBETAも無敵の存在ではない、度々戦えば装甲や長刀は摩耗するし撃破されることだって少なくない、強力なユニットだけで戦線を維持するのには限界があった。
その限界を突かれて国連軍は確実に進出領域を広げ、広間に補給所や整備所を設置し、前線部隊をサポートしながら前へ押し上げた。
既に国連軍、特に西側はウィーンを含め中東、アフリカで何度もハイヴ戦を経験している、ソ連軍も同じだ。
BETAの機械的なパターンを学ぶ学習より、様々なことを考慮に入れながら柔軟に発展する人類の方が総合的な対応力では優っている。
この優劣が最後の戦いにて少しずつ響いていた。
3機のミラージュ2000と6機のミラージュF1が前面に展開する要塞級の固定砲台に苦戦していた。
1体の要塞級が2、3体の光線級を囲い込むように自身の装甲を展開しており、中々厄介な代物であった。
前衛に立つ2機のミラージュ2000が突撃砲で要塞級と光線級を威嚇するが殆ど反応しない、どうやら要塞級の装甲で弾ける攻撃は全て無視するようだ。
『これじゃあ食い付いてくれんか…!』
『各機120mm弾を一斉に発射しろ!レーザーを撃ったら我々が前に出てミサイルで仕留める!』
部隊長の命令で各機が突撃砲の120mm弾を準備し、合図を待った。
3機のミラージュ2000が空対空ミサイルの準備を終えると部隊長が命令を出す。
『撃て!』
9機の戦術機から2発ずつ、合計18発の120mm弾が発射され、光線級ではなく要塞級を狙って飛んでいった。
要塞級の撃破は光線級の撃破に繋がる為、内部にいる光線級はレーザー照射によって発射された120mm弾を全て撃ち落とした。
ここから10秒、光線級は攻撃手段を失う。
3機のミラージュ2000は一斉に岩陰から乗り出して正面に身を晒し、R.550マジックⅡ空対空ミサイルを発射した。
その間に要塞級は自己防衛システムとして触手を1本射出してミラージュ2000を仕留めようとしたが援護のミラージュF1に妨害され、腕部に取り付けられた30mm DEFA550機関砲によって引き裂かれた。
発射されたミラージュ2000のマジックⅡは即座に光線級に直撃し、全て撃破された。
それを見計らって後方に控えていたミラージュF1がAS-30L空対地ミサイルを発射し、要塞級を仕留める。
固定砲台として通路を塞いでいた要塞級は爆散し、後方に隠れた中隊規模の戦車級と要撃級の群れが通路から溢れてきた。
『後退しつつ数を減らせ!』
ミラージュ2000が味方の支援を受けながら後退し、突撃砲や腕部に取り付けた機関砲によって接近する戦車級、要撃級を仕留めた。
しかし最初は中隊規模だった戦車級と要撃級であるが後続も出現し、大隊規模まで膨れ上がっていた。
『チッ!数が多い!』
『距離を取り制圧射撃!』
『隊長!増援です!日本軍のイーグルが来ました!』
部隊長がコックピットのレーダーを見るとそこには確かに数十機近くのF-15Jの反応があった。
既に先遣隊は見える距離まで近づいており、交戦可能距離まで進むと即座に戦闘に加わった。
両肩につけたハイドラ70ロケット砲、両手の突撃砲らで接近する戦車級を蹴散らし、確実に火力で数を減らした。
終いにはF-15Jが持ってきたMk.82無誘導爆弾が投下され、複数体の戦車級が一気に吹き飛んだ。
戦車級、要撃級による肉壁は戦術機による火力の壁に粉砕され、ついに先ほどまでいた通路の奥までBETAを押し返した。
数百体以上の戦車級が屍となって道を作り、大地は赤くなっているが今これを撤去する時間はない。
フランス空軍の戦術機部隊を助けると日本空軍のF-15Jは全て先行してハイヴの非占領地域へと向かった、フランスの衛士達は協力に感謝すると共に部隊に2機だけいた見た目の違うF-15に若干の疑問を覚えた。
この混沌とした多国籍軍がいる戦場において彼らが”鳳鷲”の名を知るのはもう少し先の話である。
先行した日本空軍の戦術機部隊はそのまま周辺のBETAを蹴散らし、エネルギー炉のある大広間を目指した。
ここが主戦場ではないからかBETAの抵抗は比較的少ない、本来なら突撃級などと組んであそこで連隊規模BETA群が突っ込んできてもおかしくないはずだ。
佐竹中佐率いる旧斯衛軍戦術機部隊は主力が交戦中のルート以外を探索して大広間を目指していた。
レーダーを見ると巨大な熱源反応が着々と近づいており、このままいけば大広間に確実に辿り着ける。
無論BETA側がただで大広間に入れてくれる訳もなく途中で予想外の来訪者が現れた。
壁をぶち破って2、3体の戦術機級を引き連れながら騎兵型がランスを構えて突っ込んできたのだ。
『各機後退しつつ戦闘続行!』
120mm弾やハイドラ70ロケット砲を叩き込みつつ、ランスによる刺突攻撃を防ぐ為に距離を取った。
『脚部に向けてマーヴェリック一斉発射!撃て!』
F-15Jから何発のマーヴェリックが発射され、騎兵型はシールドを前に出しつつ速度を落として防御の構えに移った。
そこへ別のF-15Jが155mm無反動砲を叩き込み、連続した打撃で騎兵型の右肩部装甲を破壊した。
マーヴェリックはシールドによって防がれたが肩の装甲を破壊出来たのは大きい、この機に乗じて崇継と介六郎は反撃に転じた。
騎兵型を守る為に前に出た戦術機級の手首や腕を切断して跳ね除け、騎兵型に向かった。
騎兵型はシールドで我が身を守りつつその合間からランスによる刺突を叩き込んだ、当然だが直撃すれば即死、掠っただけでも腕の駆動系統がおかしくなるのは間違いない。
崇継は”鳳鷲”の優れた運動性能を活かして紙一重の所で攻撃を回避し、伸び切った右腕の肩に斬撃を叩き込んだ。
装甲がなくなった右肩はどこに斬撃を入れても腕を堕とせる、右手を失った騎兵型は右足を振り上げて蹴りを入れ、その間に後ろに下がって態勢を整えようとした。
だが回り込んだ介六郎の”鳳鷲”が長刀で左足を全て切断し、騎兵型はバランスを崩して倒れた。
動けなくなった所に2機の”鳳鷲”が120mm弾を叩き込んで仕留め、攻撃の要であった騎兵型を打ち倒した。
供回りを務めていた戦術機級は武装を落とされた時に残る18機のF-15Jから集中攻撃を喰らって装甲を剥がされ、撃破された。
後続の要撃級と戦車級群も”鳳鷲”が突撃砲の一斉射で薙ぎ払いながら後続のF-15Jが合流し、そのまま押し切って前に進んだ。
上手くいけば騎兵型と戦術機級の供回りを含んだ一騎が前線を崩し、後続の通常種のBETAが物量で戦線を押し返せるのだがそうはならなかった。
先ほどの騎兵型と戦術機級群がここ数十分で一番の抵抗であり、他は小隊、中隊規模のBETAが僅かに出て戦うのみであった。
『敵の抵抗は少ない!このまま回り込んで大広間を目指すぞ!』
『了解!』
佐竹中佐に率いられてかつて斯衛軍と呼ばれていた衛士達はF-15Jに乗り、前線を食い破った。
彼らの後方にはイギリス王立空軍のトーネードGR.1やオランダ王立空軍のF-16やNF-5が続いていた、日本空軍の戦術機部隊はその最銭湯にいる。
この後も彼らは度々BETAとの戦闘に巻き込まれた、稀に改突撃級などが混じっていたが大多数は通常種の群れだ。
容赦無くBETAを蹴散らし、そのまま突き進んだ。
29日の午後2時ごろ、佐竹中佐率いる日本空軍の戦術機部隊は最後の守備隊を打ち倒し、遂に大広間に到達した。
『室木金家中尉!一番乗り!』
大広間内に真っ先に突入したのは日本空軍所属、元斯衛軍中尉の室木金家、適性があり外様の下級武家から衛士になった人物である。
その後に何機かのF-15Jが現れ、最後の最後に”鳳鷲”が2機、戦術機級の素っ首を片手に大広間に入ってきた。
「大広間内に戦術機級を複数体確認」
『1体、見慣れない個体がいます』
桑折大尉が言う通り、8体はいる戦術機級の間に1体だけ通常の戦術機級とは様子の違う個体がいた。
左手に大型のシールドを持たない代わりに改騎兵型と同じ小型シールドを両肩につけ、右手には薙刀のような柄の長い近接武器を持っている。
背中にはまるで兵装担架を模したかのようなユニットが取り付けられ、横には2本の太刀と小太刀のような長刀が取り付けられていた。
装甲の配置も通常の戦術気球と大分違う、頭部からは放熱機器なのか白い毛のようなものが出ており、フェイスガードから僅かに出る複眼がこちらをしっかりと睨んでいる。
まるで大鎧や欧州のプレートアーマーの要素を一緒くたに詰め込んだような装甲の配置だ。
後にこの個体は改戦術機級と呼ばれることになる、ある意味では”通常の”戦術機級が辿り着く到達点であった。
改戦術機級の隣には若干装甲を強化された突撃級が控えており、改戦術機級はまるで馬に跨るかのように下半身を突撃級に融合させ騎馬兵に変貌した。
右手に持つ薙刀を天に掲げると周りの戦術機級が一斉にF-15Jに向かってレーザーを照射し、攻撃を開始した。
『各機戦闘開始!編隊ごとに戦術機級を食い止めろ!』
「我々はあの大鎧擬きを潰す!行くぞ!」
『了解!』
F-15Jは3機で戦術機級の相手をし、なんとか数で囲んで戦術機級と戦った。
一方の”鳳鷲”は2機で改戦術機級と戦い、なんとか全体に被害が及ぶのを防いだ。
背中の兵装担架から出現する数本の触手からはレーザーが飛び出し、油断していると背後から致命打を与えられかねない。
一方改突撃級に接近しても大半の攻撃は両肩の小型シールドで防がれ、ここから出てくる触手が襲ってくるか手に持つ薙刀の一振りによって全く近づけない。
馬上の上から柄の長い武器で叩かれては歩兵では当然勝ち目はない、”鳳鷲”の性能が良くともこれでは圧倒的に不利だ。
「チッ!邪魔くさい!」
発射されるレーザーを回避しながらまず触手に近づいて長刀で斬撃を入れた。
やはり有線式のレーザー照射機構では後方に回り込んでレーザーを撃てても切断や銃撃で破損すると弱い。
特にこの手の触手はかなり太い方である為目視でも容易に発見して斬り込むことが出来てしまう。
とは言っても改戦術機級は触手レーザーによるオールレンジ攻撃以外にも特徴はある、一発屋ではないのが厄介だ。
足となった突撃級の速度に薙刀の斬撃を乗せて暴れ回っている為並のBETAでは接近どころか攻撃も難しい。
『まず足を潰しましょう!』
「ああ!私が触手を抑えるから介六郎が火力を叩き込め!」
そう言っている間に改戦術機級は戦術機級と戦っているF-15Jを斬獲し、何機かを撃墜した。
これ以上させまいと2機の”鳳鷲”から合計4発の120mm弾とマーヴェリック2発が叩き込まれ、左肩のシールドで防いだ。
そのまま少し大回りをして改戦術機級が突進してくる、特に執拗に攻撃を叩き込んできた崇継の”鳳鷲”に狙いを定め、レーザーを発射しながら薙刀の一突きを叩き込んだ。
刺突は”鳳鷲”が持っていた長刀をへし折り、機体にそれなりの衝撃を与えた。
「チッ!!とんでもない威力だ!」
これでもまだ”鳳鷲”は動いている、しかもこの間に介六郎の”鳳鷲”が発射したAGM-65マーヴェリックが足となっていた突撃級を撃破し、改戦術機級との連結を解除した。
弾ける突撃級の中から改戦術機級が出現し、そのまま着陸して左肩の小型シールドを前に出しながら薙刀を構えた。
「悪いが借りるぞ」
崇継の”鳳鷲”は撃墜されたF-15Jから長刀を拝借し、介六郎と合流してお互いに死角をカバーし合った。
「足は潰したが……相当手強いぞ」
『分かってます、だけど負ける訳にはいかない』
「触手を定期的に切断しつつ、小手に一撃を入れて薙刀をもぎ取る。まずはこれからだ」
『了解』
格好ばかり立派になったところで所詮はBETA、本物の侍がどちらかは明白だ。
”鳳鷲”対改戦術機級、兵共の夢の跡とBETAの騎士が本気で衝突する。
後続から到来したイギリス王立空軍のトーネードGR.1とオランダ王立空軍のF-16、NF-5らはまず地上で激戦が繰り広げられている日本空軍の支援に向かった。
戦術機級に向けてマーヴェリックを発射し、更にトーネードからペイブウェイⅡが叩き込まれた。
空対地ミサイルと誘導爆弾の連続投入で2、3体の戦術機級が撃破され、そのままトーネードGR.1とNF-5、F-16らは戦闘に加わった。
『こちら王立空軍第9飛行隊、加勢する』
『助かる!何機かは今のうちにエネルギー炉の方へ!』
命令を受けたトーネードGR.1が3機、NF-5が3機ほどエネルギー炉の方へ向かい、状態を確かめる為に突撃砲を数発叩き込んだ。
放たれた弾丸は全てエネルギー炉本体に直撃する前に空中で消失し、僅かな火花を散らした。
この光景に違和感を覚えた衛士らはレーダーを確認した。
『隊長!エネルギー炉周辺にシールドが展開されています!こちらの通常兵器では刃が立ちません!』
『なんだと!?チッ!最後の最後で厄介な…!』
このエネルギー炉は後1日もあれば超重光線級として完成し、地上に出撃出来る状況であった。
防御機能である衛盾級も備え、レーザーの発射機構もある、本当に後僅かだったのだ。
報告を聞いた飛行隊長は戦術機級の斬撃とレーザー射撃を回避しながら左腕に向けてマーヴェリックを発射する。
シールドを前面に出す前に左腕にマーヴェリックが直撃して腕を吹き飛ばす。
戦術機級はダメージを抑えながら右肩の装甲と長刀で防御の構えを取ったが反撃される前に別のトーネードGR.1が155mm無反動砲を叩き込んで戦術機級を潰した。
別の戦闘でもF-16が数体の戦術機級を引き付けている間に上空からNF-5AがCBU-24クラスター爆弾を投下して戦術機級に打撃を与えた。
非装甲部を引き裂かれた戦術気球は動きが鈍り、全身から体液が流れ出していた。
トドメの一撃としてマーヴェリックや120mm弾をF-16が発射して戦術機級を殲滅した。
手の空いたF-15JやNF-5、F-16、トーネードGR.1らが崇継と介六郎の下へ加勢に向かった。
改戦術機級に対して攻撃を加えるイギリスとオランダの戦術機部隊であったが両肩の小型シールドで防ぎつつ、発射された触手が背後からレーザーを発射して何機かを撃墜する。
下手に接近すると振り翳した薙刀によって切断され、そうでなくても柄の打撃によって十分な致命傷を負った。
今も1機のNF-5Aが斬撃によって切断され、別のF-16が薙刀によって串刺しにされて爆散した。
「接近戦は我々に任せて触手の陽動を!」
『了解!』
再び崇継と介六郎の”鳳鷲”は前進し、突撃砲の一斉射撃で牽制しながら改戦術機級と斬り合った。
近距離でも射撃は欠かさずに一手として用い、その上で長刀による斬撃を叩き込んだ。
狙うは小手、手足の関節、首回り、装甲がない箇所に対して斬撃を加えてダメージを与える。
しかし相手もその弱点を見抜いており、足の関節を狙った斬撃を薙刀の刃で受け止め、左手の小手に愛する斬撃は薙刀の柄で受け止めた。
2機の斬撃を受け止めながら押し返し、大きく薙刀を振り回して距離を取り、八相の構えから斬撃を繰り出した。
受け止めれば長刀は折れる為回避するしか方法はない、改戦術機級の連撃を躱しながらハイドラ70ロケット砲を発射して相手の連続攻撃を断ち切る。
その間に介六郎の”鳳鷲”が同じようにハイドラ70を発射しながら接近し、再び斬撃を叩き込んだ。
無論斬撃は薙刀の柄で食い止められたが即座に四〇式近接刀を持ち出して小手に一撃を入れた。
斬撃が浅く腕を切断するには至らなかったが一時的に左手の握力が衰え、長刀が左手から離れた。
暫く右手だけで薙刀を持って刺突し”鳳鷲”を退けるが、その間に崇継の”鳳鷲”が右手に120mm弾を叩き込んで無理やり薙刀を叩き落とした。
指の装甲が剥がれ何本かが爆発によってグシャグシャになったが、まだ復元出来る。
トーネードGR.1らに回していた触手2本を”鳳鷲”に向けて暫く戦わせ、その間に小手と指の復元に努めた。
再び薙刀を拾おうとしたがF-15Jから発射されるマーヴェリックのせいでそうもいかなかった。
改戦術機級は諦めて背中の長刀を取り出し、ある程度回復した右手で持って突撃の構えを取った。
「これで少しはやりやすくなった!一気に攻め立てるぞ!」
『了解!』
”鳳鷲”が触手を切断し、触手が体内に戻るのと同時に改戦術機級が大地を蹴って突進した。
まず改戦術機級が狙いを定めたのは崇継の方であった、突進と同時に僅かに刃を押し出して刺突を繰り出し、更に小型シールドの先端を射出して次の攻撃を繰り出す。
予想外の刺突であったが空になったハイドラ70ロケット砲のポッドがもぎ取られる程度で済み、その間に切り上げた長刀が右腕の関節を半分ほど斬った。
即座に第三の手としてもう1本の刃が短い近接刀が振り下ろされ、その間に右腕から出てきた触手が長刀と連結して自在に動き出した。
一旦崇継は後退し、その援護として介六郎の”鳳鷲”がハイドラ70ロケット砲を発射し、接近する。
右の小型シールドで防ぎつつ射出していた長刀付触手を広範囲に振り回し、接近されることを拒否したが守りの薄くなっていた左方に崇継が攻撃を叩き込んだ。
回り込んで超近距離からまだ残弾がある脚部のハイドラ70ロケット砲と左手の突撃砲の120mm弾を全て撃ち込み、左肩のシールドの付け根を破壊した。
小型シールドはそのまま地面に突き刺さり左方の防御は一気に落ちた。
そのまま崇継は長刀を振り上げたが左手のほぼシールド化している装甲部によって防がれ、また長刀が砕けた。
改戦術機級は砕けたと同時に左手の近接刀によって”鳳鷲”に致命打を与えようとした、しかし”鳳鷲”の刃はもう1本ある。
即座に四〇式近接刀を手にすると迫る左手首に刃を入れ、一切力を入れずに完全に切り落とした。
即座に崇継は距離を取り、その間に介六郎が切り掛かった。
関節が回復した改戦術機級はそのまま刃を振り上げて”鳳鷲”の長刀をへし折り、自身も距離を取った。
改戦術機級の自己回復能力は高い、左手なら時間をかければ再生出来るがこうも激しく戦闘をしていると再生速度は当然遅い。
即座に右肩の小型シールドを前に出して長刀を構え、”鳳鷲”を警戒した。
そこへ佐竹中佐のF-15Jとイギリス王立空軍第9飛行隊長が乗るトーネードGR.1が触手の合間を縫って現れ、同時にマーヴェリックを左の兵装担架に叩き込んだ。
マーヴェリックの集中攻撃によって付け根が破壊され、数本の触手とのリンクが切れた。
このことに意識を取られた改戦術機級に死が訪れる。
真正面から崇継の”鳳鷲”が接近し、兜とフェイスガードの合間に四〇式近接刀の刃を突き刺した。
ここにアフターバーナーを展開した跳躍ユニットの速度が乗り、改戦術機級は押し倒されそうになった。
即座に右手の長刀で”鳳鷲”を串刺しにしようとしたが刃が長くてこうも接近されると上手くいかず、回り込んできた介六郎の”鳳鷲”によって関節を切断されて左手が飛んだ。
そのまま改戦術機級は地面に組み伏せられ、突き刺さった近接刀が引き抜かれた。
「その首貰い受ける!」
左手で改戦術機級の兜を掴み首を無理やり上げ、喉元に四〇式近接刀の刃をゆっくりと押し当て、一気に切り裂いた。
首を切断された改戦術機級はまだ動ける様子であったが即座に兵装担架の突撃砲から120mm弾がありったけ叩き込まれ、改戦術機級は爆散した。
総大将の首は取れなかったが侍大将クラスの首は取ったと言える。
その頃には他の戦術機級も数で押され、火力を叩き込まれて撃破されていた。
「後はエネルギー炉か……」
『しかし周辺にシールドが張り巡らされてます』
崇継は考えた、以前ソ連側で超重光線級が出てきた時どうやってシールドを破っていたかを思い出し、1つの策を介六郎に伝えた。
「発生部にこの薙刀を押し込む、手伝え!」
『了解!』
2機の”鳳鷲”は落ちていた改突撃級の薙刀を手に取り、タイミングを合わせてジャンプした。
そのままレーダーで発生部と思わしき歪みを探知し、全速力で衛盾級に向けて薙刀の刃を突き刺した。*1
最初は抵抗していたラザフォード場も限界が生じて薙刀の刃が突き刺さり、衛盾級が破壊されてラザフォード場自体が消失した。
『シールドの消失を確認!』
『全機!持てる火力をエネルギー炉へ一極集中!』
数十機のF-15J、NF-5A、F-16、トーネードGR.1から120mm弾や空対地ミサイルが発射され、無誘導爆弾も投げ込まれた。
火力が一点に集められ、装甲に限界が生じ、爆発がエネルギー炉に引火した。
僅かな小爆発が起こり、それが全身に広がっていく。
『全機退避!』
大広間から戦術機は一斉に退避した、可能な限り全速力で進み大広間から距離を取る。
小爆発と引火は暫く続き、その後大規模な爆発が発生し再び周辺が巻き込まれた。
1月28日、最後のエネルギー炉であった第五のエネルギー炉が日英蘭の戦術機部隊によって破壊され、ついに全滅した。
ベルリン・ハイヴが考えた反撃の手は寸前のところで未然に阻止され、いよいよ逆襲の手を失った。
後はベルリン・ハイヴの最奥に全軍で突撃をかけるだけである。
1985年、ベルリン・ハイヴの陥落まで5日を切っていた。
つづく