マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
地上での闘争が待つ
いかに厳しき試練の中でも
我が愛よ、共にあってくれ
友のように、空に呼びかける
我らの使命 - それは飛翔を続けること
時計の針が回り
時は前へ進む
-”それが勝利の道だ”より抜粋-
1月28日、崇継らが死ぬ気で第五のエネルギー炉を攻略している頃、フレツロフ大佐率いる第306独立親衛戦闘航空連隊は遂に最奥の攻略に挑んでいた。
とは言っても1月28日時点だと27日に制圧した最初の橋頭堡から全く進んでいなかった。
前進する為にBETAを打ち倒すがその度に追加のBETAが現れ、その場を維持する為全く前進出来ていない。
しかも度々シールドを2枚持った騎兵型が突っ込んでくる為友軍の陣地が荒らされることも度々あった。
フレツロフ大佐と第306独立親衛戦闘航空連隊のMiG-29もほぼ同様の状態にあった、突撃砲を放ってBETA側の進撃を食い止めつつ、前進する機会を伺っていた。
「流石に数が多いな、各隊無理して突っ込むなよ。BETAだってもう無限じゃないんだ、確実に減らせ」
腕部のGSh-30-1機関砲と突撃級の斉射で数十体の戦車級を殲滅しつつ、S-8ロケット砲を要撃級に叩き込んだ。
横ではシールドにGSh-6-30機関砲を取り付けたルヴィロヴァ大尉のMiG-29が一度の射撃で隊列中央のBETAを一掃した。
これだけやっても即座に増援のBETAが現れ、少しずつ空いた穴を塞いでいった。
無論火力の壁は他のMiG-29も加勢しているから問題はない、BETA側はその場を維持することは出来ても領域を奪還するのは難しかった。
『戻りました』
数発のロケット砲を放ちながらフレツロフ大佐の下に各飛行隊の様子を見て回ってきたブリツェンスキー中佐が着陸し、戦闘に加勢した。
ブリツェンスキー中佐のMiG-29は腕部にZU-23-2対空機関砲を取り付けており、GSh-30-1は両肩に設置されたロケットポッドの下に取り付けられていた。
これらを装備した上に兵装担架に2門、両手に2門の突撃砲を有し、戦術機級に対しては有効でなくとも要撃旧以下の敵を掃討するには非常に効果を発揮していた。
『各隊前進出来ていませんが士気の点はまだ問題ありません。冷静に任務を遂行しています』
「分かった、引き続きよく見といてくれ。メデツィーニン、他の部隊の状況を報告せよ」
戦闘を続けながらフレツロフ大佐は連隊長として連隊全体を確認しつつ、戦況全体にも気を配った。
『ベレンコ大佐の連隊がようやく1つ先の広間を占拠して前進しようと努力している。”ドワイト・D・アイゼンハワー”から出撃したアメリカ海軍の航空隊もBETAを押し出して広間を占拠。だが全体としてはまだ膠着状態だ』
「分かった、見えてるとは思うが我が隊は依然敵の攻撃を受けており前進は困難だと伝えろ」
『了解、そっちにSu-25が主力の航空隊が向かってる。頼むぞ』
「分かった、各機、後続の部隊が接近中だ。合流次第火力戦で一気に押し込む」
Su-25は攻撃機に該当する戦術機で機動力はMiG-29に劣るが火力に関してはSu-25に圧倒的な軍配が降る。
襲来したSu-25は突撃砲と両腕に設置したGSh-23二連装航空機関砲を発射しつつ、一部は設置した203mm砲から榴弾を放って一気にBETAを撃滅した。
1個飛行隊分のSu-25が来てくれたおかげで相当数のBETAが撃破され、フレツロフ大佐らにも突破口が開けてきた。
「前進開始、このままBETAを押し込む!」
タイミングを見計らってフレツロフ大佐は攻勢に転じ、前に出てBETAの屍を盾代わりにしながら少しずつ前に進んだ。
15機のMiG-29を先頭にして戦線を切り開き、その背後から火力支援のSu-25が続いてBETAを蹴散らす。
これで大抵のBETA、特に通常種の集団であれば全く苦戦することなく前進出来た。
稀に襲来する改突撃級も前衛を務めるMiG-29がKh-29空対地ミサイルを発射してレーザーを撃たれる前に撃破し、Su-25の203mm砲が一撃で真っ向から改突撃級を仕留めた。
こうして前進を続けたフレツロフ大佐とシュペーギン少佐率いる第3飛行隊は次の広間まで突入し、制圧戦を開始した。
大広間の中に1体、損傷した戦術機級がおり入ってきたMiG-29を見るなり長刀を手に取って応戦を開始した。
「広間内に戦術機級!手負だが気をつけろ!」
長刀の斬撃を避けながらフレツロフ大佐のMiG-29は突撃砲2門から120mm弾を放って非装甲部にダメージを与えた。
これにより戦術機級の脇腹が一気に吹き飛び、戦術機級は崩れ落ちた。
残りの戦車級や要撃級は他のMiG-29やSu-25によって殲滅され、ようやく前進が叶った。
このように場所やタイミングによっては28日中に前進し、広間を数箇所ほど制圧出来た部隊もあったが、殆どは第五のエネルギー炉攻略部隊が合流した1月29日に戦局が動き始めた。
核砲弾と戦術核の投入で残存するBETAを蹴散らし、BETAが消失したところに戦術機部隊を投入した。
一方のBETA側はハイヴ攻略当初から戦力は2/5程度しか残っておらず、傷ついたBETAによる遅滞戦闘が主となっていた。
ベルリン・ハイヴという城塞は最早力押しで堕ちるところまで来ていた。
ここが正念場であると捉えた国連軍総司令部は攻勢の勢いを強め、更に激しくベルリン・ハイヴを攻め立てた。
BETA側は防戦一方、反撃の要であった建造中の超重光線級も全て破壊され、完全に反撃の手を失った。
もしベルリン・ハイヴの重頭脳級がもう少しボケていたらまだ無理やりにでも勝ち筋を生み出して攻めようとしただろう。
例えばとうの昔に潰えた攻勢軍集団による反撃を開始せよとか、戦術機級を1個連隊規模で集中運用して反撃に転じろとか、来ないことが確約された地球外の増援は必ず来ると信じ込むとか。
ベルリン・ハイヴの重頭脳級は常に正常に稼働していた、故に自らにはこれ以上勝ち筋を作る力がないことを良く知っていた。
後は負けを先延ばしにし、如何にして国連軍と大戦を演じるかである。
戦略的には負けが決まっているのでせめて戦術的に一勝でももぎ取ろうとしていた。
1973年にベルリン・ハイヴが地球に襲来してから12年、BETAは干支を一周するうちに絶滅しようとしていた。
「我が方の戦術機部隊はハイヴ内の7割強を制圧、現在も多数のBETAと交戦し前進しています」
ポーランドのウッチ、第1ウクライナ前線司令部ではここから420キロ前後離れた前線地域の様子を事細かに戦況図へ書き記していた。
ここ数日、前線で発生していたBETAによる小規模な地上戦闘も完全に音沙汰がなくなり、警戒はしていたが本格的な地上戦はないだろうと皆が思っていた。
尤も起きたとしても今の状況ではBETAがどれだけ戦術機級を投入しようと1か所でも包囲網を突破出来る可能性は万に一つもない。
至る所にT-80やM1エイブラムスやレオパルト2A4がおり、どうやったって逃げ出すことは不可能であった。
BETAはここで、この地で、かつてのファシストと同じようにどうしようもなくなって死ぬのだ。
これが欧州全土、世界全土に戦争を吹っかけて負けた者の末路である。
「このペースでなら2月の上旬にはハイヴは墜ちるでしょう、問題は後どれだけの兵力が奴らに持っていかれるかということですが」
「このまま無理はせず火力によって敵の物量を圧倒しろ。追加の武器弾薬、補給物資は滞りなく届いているな?」
ヤゾフはゾロトフ少将に尋ねた。
「はい、鉄道はまだ途中で止まっていますが補給トラックと空中輸送で送っています。今じゃ光線属種の脅威はないに等しいですから」
今や地球の表面上にBETAはいない、地下にはいても地上にいれば即座に国連軍によって仕留められる。
ほぼ13年ぶりというべきだろうか、人類は久方ぶりに安全な空を取り返した。
各所で大型の輸送機が野戦飛行場に着陸し、戦術機の整備パーツや武器弾薬類を前線へ送った。
各所に設置された補給デポから前線へと送られ、そして前線の補給デポから戦っている衛士らに物資が行き渡った。
曲がり間違っても前線地帯に補給物資をばら撒いて各自で取らせることはしていない、ある程度の自由を孕みつつしっかり管理して正しい量を前線に送る事こそが兵站の要である。
「であれば私から言うことはない、後はハイヴで戦う全ての同志将兵を信じる他ない」
これが最終決戦である、ベルリン・ハイヴ攻略戦も佳境に入ろうとしていた。
1月30日、ハイヴに突入したほぼ全軍がベルリン・ハイヴの最奥攻略戦に従事することで辛うじて維持していた戦線も再び押し込まれるようになってきた。
度重なる戦闘で超重突撃級、戦術機級らも疲弊し、広間で損傷の修復を受けているところに国連軍の強襲を喰らって撃破されることも増えてきた。
ちなみにこれを日本軍の派遣兵らは落武者狩りと呼んでいた、戦術機級という武者が傷つき、疲れ果てた末にハイヴの中で討ち死ぬ妥当な末路だ。
火炎放射器を取り付けた戦術機が広間を一気に燃やしてBETAを殲滅し、その後から突撃砲や機関砲を連射しながら後続の戦術機が入ってくる。
基本的にはこれの繰り返し、火力の投射、突入と制圧、この基本をしっかり守る部隊こそがハイヴ戦で最も活躍していた。
無論状況によって対応は変わってくるが根本たる基礎がブレることはない、まともな教育を受けた衛士達ならそれをはっきりと理解していた。
戦闘の推移としては2月2日にはハイヴ最奥に国連軍の部隊が到達するだろうという予想だった。
実際防衛の要でもあった戦術機級、超重突撃級がアクティブに動くことは1月30日以降低下し、損傷個体と接触するケースも増加していた。
まだ2、3個軍の残存戦力があるBETA側であったが3、4割は損傷から回復しておらず、戦闘能力はその数の半分程度しかなかった。
一方の国連軍はアメリカ軍であろうとソ連軍であろうと各所に設置された補給所から武器弾薬を受け取り、損傷すれば離脱して整備や治療を受けられる状態にあった。
その上でしっかりした戦力を有しており、BETA側とは根本的な環境が雲泥の差であった。
まだ地の利があるのはBETAであったがこれを活かそうにも現状の戦力は戦術的な足止めしか出来なかった。
『撃て!』
飛行隊長の命令で何機かのSu-24が大広間に突入して発見した改突撃級の集団に対してKh-29空対地ミサイルを一斉に発射し、まとめて打ち砕いた。
爆散する改突撃級の殆どは手負いである、既に戦闘で損傷した個体を一箇所に集めて修復しようとしたところをSu-24の飛行隊に強襲された。
確実に20体近くの改突撃級が爆散し、その場には僅かな肉片しか残らなかった。
周辺を警戒しながら突撃砲を構えたSu-24が侵入し、広間を占拠した。
接近してくる戦車級、要撃級の群れには突撃砲とS-8ロケット砲を叩き込んで殲滅し、大型の改突撃級らには同じようにKh-29を放って撃破した。
この後もBETAは2、3回大広間を奪還する為に兵力を展開してきたのだがそれらは全て守備のSu-24と後続のMiG-27集団によって撃退された。
『BETAの反撃部隊はもう来ません』
『本当か?通常なら後2、3回はくるはずだが……』
飛行隊長は何かの罠ではないかと不安になった、だが実際はもうBETA側にこれ以上奪われた広間を奪還する力がなかったのだ。
かつては無敵を誇ったBETAの物量も今では見る影もない、先ほど反撃に来たBETA集団も足がなかったり破片の直撃を受けて身体から体液が流れていた。
損傷したBETAであっても今では戦場に投入せざるを得ないのがベルリン・ハイヴの状況であった。
反撃が始まる数年前はむしろ立場は逆だったのに今となってはBETA側が無理をしている。
側から見れば可哀相とも思えるかもしれないがそもそも地球に降りてきて侵略をしていたのはBETAだ、それをよく知っている国連軍は決して手を抜かなかった。
むしろ弱っているのなら好機である、各所に榴弾や爆弾を叩き込んで集団にダメージを与え、次々と損傷個体を増やしていった。
1月31日、1月にとって最後の日から僅かにだがBETA側が再び膠着状態に持ち込めた。
ベルリン・ハイヴが最奥に温存していた最後の戦術機級を各所に投入し始めたのだ。
これによって一時凌ぎではあるがBETA側は侵攻をほんの僅かでも止めることに成功した、やはり騎兵型と戦術機級による突破能力は衰えていなかったのだ。
しかも国連軍側の攻勢が勢いに乗っている段階でこの反撃部隊をぶつけた為、防御が取れず最も効力があった。
これでなんとか31日は膠着状態に持ち込めた、だがこの1日が限界であった。
当然だが騎兵型に蹴散らされた各戦術機部隊は安全地帯まで後退し、そこで騎兵型の集団を待ち構えた。
無論深追いすれば手痛い損害を受けると知っていたベルリン・ハイヴはある程度の地点まで追い返すと即座に兵を退いて、戦車級や要撃級らで陣地を維持した。
だが時間を与えるということは常に恐ろしいことになる、最奥周辺には戦術機級がいると知っている国連軍は即座に戦術機級に通用する武装を装備して再び攻勢に転じた。
再展開した戦車級や要撃級を蹴散らし、各戦術機は前に進んだ。
当然だが迎撃の為に騎兵型や戦術機級は突っ込んでくる、勝てないとしても土地と命をくれてやるという選択肢はない。
レーザーを放ちながら騎兵型と戦術機級は迎撃に出た、だがそれこそが人類が待ち望んだものだ。
先行していた3機のSu-27が陽動として敵のレーザー射撃を引き付け、その間に後ろについていたSu-24がKh-31空対艦ミサイルを発射してまず騎兵型を粉砕した。
攻撃の要を奪われた戦術機級は一旦固まって後方に下がろうとしたがうち1体に前衛のSu-27が集中攻撃を浴びせかけ、うち1機が長刀で戦術機級の足を切断した。
脚部の破損で体勢を崩した戦術機級はそのまま別のSu-24に至近距離から120mm弾とS-25ロケット弾を叩き込んで仕留めた。
残り2体の戦術機級はレーザーを放って2機のSu-24の手足を堕としたが別のSu-24からKh-31の直撃を受けてシールドごと吹き飛ばされた。
残骸を押し除けてソ連軍の戦術機部隊は引き続き前進を続けた。
フレツロフ大佐率いる第306独立親衛戦闘航空連隊も度々戦術機級と交戦していたが、こちらはかなり手慣れたものだった。
この頃になると去年の7月ごろに平地で戦っていた時と違って数も少なく、衛士も経験を積んでおり、スマートな対応が出来た。
基本1機が戦術機級の陽動を務め、その間に編隊の2機が攻撃を叩き込んで始末する。
『破れろ!』
マリロフ大尉のMiG-29から120mm弾が4発放たれ、背面の装甲を打ち破った。
タイミングを合わせて部下のMiG-29は両肩と両足のS-8ロケット砲を戦術気球に叩き込んで、注意を引く。
レーザーを回避しながらその戦術機級は思いっきり斬りかかり、防御よりも攻めに転じた。
『今だ!やれ!』
『了解!』
そこが狙い所である、ミルシェフ上級中尉のMiG-29は接近して左手に持つシールドのスパイクを装甲の破損部に突き刺し、S-24空対地ロケット弾を叩き込んだ。
そのまま戦術機級は爆散し、マリロフ大尉の編隊は即座に戦闘中の友軍を助けに向かった。
オルゼルスキー少佐も2体の戦術機級を引き付け、2体の間合に入った。
斬撃を避けるとオルゼルスキー少佐のMiG-29は右手の突撃砲を片方の戦術機級の首元に押し込み、引き金を引いて120mm弾を直射した。
戦術機級は首が吹き飛び、宙を舞って地面に落ちた。
胴体の方には僚機のMiG-29が即座にKh-29空対地ミサイルを1発撃ち込み、胴体を吹き飛ばした。
残り1体は長刀を振り上げ、更に触手を伸ばしてオルゼルスキー少佐のMiG-29を追尾したがどれも当たらなかった。
その間にオルゼルスキー少佐のMiG-29が戦術機級の顔面に120mm弾を1発撃ち込み、小規模だが損傷を与えた。
一時的に戦術機級が動揺した瞬間に前後から回り込んだMiG-29が長刀で戦術機級の両腕を切断し、断面に120mm弾を叩き込んで仕留めた。
オルゼルスキー少佐率いる第2飛行隊は各編隊につき1体、その上でオルゼルスキー少佐の編隊が2体仕留めたことから合計5体の戦術機級を撃破した。
彼らの前にはまだ3体ほどの戦術機級がいたが残りは全てKh-59空対艦ミサイルを持ってきたMiG-23Kが全て仕留めた。
”アドミラル・クズネツォフ”から発艦したソ連海軍の航空隊である。
同艦の艦載機部隊は一部Su-27Kに機種転換を行ったがまだMiG-23Kを装備している部隊だって残っていた。
周辺の戦術機級を全て仕留めるとMiG-29とMiG-23Kと共に共同で警戒線を展開し、友軍の増援が来るまで待った。
「各機残弾数を確認しろ、このままもう一度攻め上がる。他の飛行隊はどうだ」
オルゼルスキー少佐はスキットルの蓋を開け、中に入っている飲料を飲んだ。
喉腰が良くてアルコールも強く爽やか、やはりプレーンに限るそうだ。
『各所で戦術機級と交戦中、一部では騎兵型と鉢合わせて戦闘になっています』
マリロフ大尉が本部から上がってくる報告を聞きながら、オルゼルスキー少佐はスキットルの蓋を閉じて、足元に置いた。
酒を飲んで正常に判断、これがオルゼルスキー少佐流の飛行隊指揮の取り方である。
これでも出す作戦指揮は的確で部下からの信頼も篤いのが大きな問題であった。
「弾薬を確認し終えたら我々はこのまま前進して次の広間を占拠する。疲れているとは思うがここが正念場だ、すぐにフレツロフ大佐の隊も合流する!」
『了解、同志少佐の言った通り我々がBETAを撃滅するのだ!』
政治将校がオルゼルスキー少佐の言葉に合わせて士気を高め、第2飛行隊はそのまま前線へと向かった。
別の地点ではフレツロフ大佐とシュペーギン少佐の飛行隊が数体の騎兵型と戦術機級と戦っていた。
うち騎兵型の1体はフレツロフ大佐率いるルヴィロヴァ大尉とブリツェンスキー中佐の飛行隊によって足止めされていた。
ブリツェンスキー中佐のMiG-29は騎兵型と並走しており、レーザーや触手、ランスの刺突攻撃も躱していた。
する突然ブリツェンスキー中佐は全てのエンジンを切って急速に背後を取り、背中にKh-29空対地ミサイルを2発撃ち込んだ。
『破り切れなかったか!』
ブリツェンスキー中佐が悔しそうに呟いた通り場合によっては戦術機級の装甲はKh-29空対地ミサイル2発だけでも仕留め切れない場合がある。
だが中佐は1人ではない、即座に回り込んだフレツロフ大佐のMiG-29が同じ場所に2発の空対地ミサイルを叩き込んで無理やりこじ開けた。
こうして装甲が破れたところで騎兵型の顔周りに突撃砲弾を浴びせかけ、注意を引いた。
騎兵型は一刻も早く仕留めねばとランスを構えて振り返って2人を襲おうとした、だがこれが不味かった。
『貰った』
ルヴィロヴァ大尉のMiG-29が持つGSh-6-30機関砲が装甲の破れた箇所を滅多撃ちにし、致命傷を与えて打ち倒した。
「次!」
撃破を確認するとフレツロフ大佐は即座に別の味方の救援に入った。
味方を追い回している騎兵型に対してブリツェンスキー中佐のMiG-29が低空で飛行し、背後から騎兵型の左足を全て切断した。
起き上がると同時に腕部に120mm弾を4発叩き込んで腕を無理やりもぎ取り、後をフレツロフ大佐とルヴィロヴァ大尉に任せる。
2人は同時方向から攻めかかり、まずフレツロフ機がKh-29空対地ミサイルを放って装甲を破り、トドメの一撃をルヴィロヴァ大尉が入れた。
爆散する騎兵型の裏では造園に訪れたデルーギン中佐の第1飛行隊が増援として現れ、上空から残りの戦術機級にダメージを与えて殲滅した。
周辺から全てのBETAが一掃されたことを確認し、フレツロフ大佐は部下達に命令を出した。
「進め!!」
間も無く2月1日、間も無く国連軍の刃が最奥に辿り着こうとしていた。
2月1日、戦術機級らが稼いだ膠着状態も翌日には国連軍優位で戦闘が進み、着々と押し込まれていった。
前線地帯では155mm無反動砲を2門装備したF-16が敵が籠る広間に榴弾を撃ち込み、反応を示した光線級にはサイドワインダーを撃ち込んでいた。
別の区画ではSu-25がS-25空対地ロケット弾を叩き込み、真っ向から改突撃級らを粉砕し、その横でMiG-27がGSh-6-30機関砲を撃って殲滅していた。
BETAは押し返すことも出来ずにゆっくりと後ろへ下がり、その度に兵力を削られていった。
ある地点の通路では友軍を逃す為に戦術機級がシールドを構えて迫る独蘭軍の戦術機と戦っていた。
レーザーを何発か発射して2、3機のトーネードIDSとNF-5Aの腕を破壊したが、代わりに他の戦術機から何発かの120mm対物砲弾、155mm無反動砲弾を叩き込まれた。
最初の何発かはシールドで防げたが何度も撃ち放たれる砲弾にシールドの耐久値が限界に達し、遂に砕けて本体の装甲に直撃した。
これも何発かは攻撃を弾き、砲撃終了後も装甲が砕けただけで戦術機級自体は生きていたが非装甲部にHEAT弾を叩き込まれて撃破された。
『殿を倒した!進め!』
無傷であったトーネードIDSとNF-5Aは撃破された戦術機級の屍を踏み越えて逃げるBETAを追撃した。
後退したBETAは何度か要塞級の固定砲台や大広間、通路の分かれ道などで国連軍を待ち構えて再び応戦した。
待ち伏せによって何機かの戦術機を撃破したがその後にくる後続の部隊に射撃や砲撃を叩き込み、残りのBETAを撃滅した。
少しずつ前進する国連軍は間も無くベルリン・ハイヴの最奥に到達しようとしていた。
その頃第306独立親衛戦闘航空連隊は後方の戦術機整備場に戻って補給と機体の整備を受けていた。
整備には後2時間掛かると言われており、確実に今最先頭にいる国連軍には到底追いつけそうになかった。
「前線部隊は今日中にはハイヴの最奥に到達するでしょう、今回我々は運がなかったですな」
報告に来たマリロフ大尉は呑気にそんなことを呟いていた、だがフレツロフ大佐は全く気にせず黒パンとボルシチを食べて腹拵えをしていた。
「運がなかった?逆だ大尉、ようやく我々にも運が巡ってきたんだ。思えばいつもいつも何故かハイヴの最奥に突っ込まされ、みんなで酷い目にばかり遭ってきた。最後くらいは他の奴らに任せておこう」
ボルシチの中に入っていたジャガイモをスプーンで掬って口に入れ、その後に固くなった黒パンをボルシチに入れてふやけさせて食べる。
いつもの軍が作る味のボルシチだ、ハイヴ戦特典なのか少し肉が多かった。
「どうせ今回だってハイヴの最奥なんて碌な奴が出てこない、毎回ヘンテコなBETAばっかり出てくるんだからな」
「ですが最後の戦いですよ?」
「同志大尉、考えてみろ?リヴォフの時、俺があれからたった5年で大佐になってソ連邦英雄になると思ったか?」
「思いませんでした」
「正直でよろしい、俺も思わなかった。だから我々は十分やったってことなんだよ、これ以上求めるのは必ず良くないことが起こる。我々は我々が出来る最大限のことをやり切ればいいんだよ」
口では上手い事を言ったつもりのフレツロフ大佐であったが内心はハイヴ最奥の一番乗りが自分じゃなくて良かったと心の底から思っていた。
彼がマリロフ大尉に言った通り毎回妙に強いBETAが出てくるし、ほぼ後がないし、周囲からは「毎回ハイヴの最奥を制圧してくれる強い奴」という異常な期待がある。
こっちだって行きたくて毎回最奥に突入している訳じゃない、毎回巡り合わせでこうなってるだけだ。
明らかにこちらの対BETA常識が通用しない新種が毎回出現し、その度に毎回死ぬ思いでBETAを倒してハイヴ制圧に貢献してきた。
リヴォフからブダペストに至るまで楽な戦いというものは一つもなかった、毎回したくもない苦労をさせられているのだ。
そもそもハイヴに潜って戦う事自体が癪に触るのにその上でこの有様だ、しかもハイヴを堕とせば堕とすほどモースク1は調子に乗る、フレツロフ大佐としては何もかもが面白くなかった。
だから今回ばかりは気が楽であった、第一毎回最奥に到達していたのが今にしてみればおかしい事である。
最後の最後になってようやく天運が向いてきたとフレツロフは内心相当喜んでいた。
だが彼の期待を裏切って事態は最悪の方向へ進むこととなった。
2月1日の午後2時ごろ、国連軍では最初のベルリン・ハイヴの最奥に突入した部隊が現れた。
アメリカ空軍のF-16が18機、イギリス王立空軍のトーネードGR.1が6機、ドイツ連邦空軍のトーネードIDSが7機、ソ連空軍のMiG-27Mが12機、MiG-23MLが6機、国家人民軍航空軍のMiG-23MFが4機、ポーランド人民空軍のMiG-23MFが8機という編成であった。
この混合部隊がハイヴに突入しいよいよ最終決戦が行われようとしていた、人によってはこれでベルリン・ハイヴも命運尽きたと。
だが誰も彼もの予想を裏切って突入した国連軍61機の戦術機は数十分の戦闘の末、”全滅”した。
文字通り1機たりともハイヴ最奥から離脱することなく全滅したのである。
これは国連軍全体に衝撃を与えた、61機の戦術機が一度の戦いで全滅することなどそうなかった。
これから凡そ1時間後、アメリカ空軍のF-15が8機、海軍航空隊のF-14が6機、F/A-18が12機、ソ連空軍のMiG-29が12機、Su-27が12機ほど再び最奥に突入した。
東西双方の最新鋭機、それが40機以上いるのだから今度こそ負けるはずがないと思われていた。
だが結果は再び”全滅”であった。
ハイヴ最奥に到達した戦術機はそこに待ち構えていた今までの戦術機級とは一線を画す新種に襲撃され、第四、第五のエネルギー炉で現れたオールレンジ攻撃とレーザーブレードやラザフォード場コントロールによる超常的な攻撃で戦術機を全滅に追いやった。
しかも国連軍側の通常攻撃が全く効いていない、どうやら全身をラザフォード場で覆っている様でかなり防御力が高いことが伺える。
それは正にBETA最強の戦術機、戦闘で散ったソ連軍の戦術機経由でモースク1はその存在を知覚し、研究を始めていた。
当然この報告はフレツロフ大佐は上機嫌だったのが一転して口数が減り、機体の様子をチェックすると言って自機に籠った。
篭ったのには理由がある、最奥のBETAに困った上級司令部が第306独立親衛戦闘航空連隊に対して最奥内のBETA掃討を言い渡してきたのだ。
つまりフレツロフ大佐らが最奥の新種を討伐することが確定してしまった。
「まずいことになったぞ……」
フレツロフ大佐はモースク1経由でベルリン・ハイヴ最奥に存在するBETAの戦闘データを閲覧し、1人で震えていた。
彼自身様々なBETAと戦ってきたがこれは桁違いに強いということをすぐに理解した。
”戦闘データから確認するにこのBETA種はまずラザフォード場を破り、その後装甲を粉砕し、本体にダメージを入れる必要がある”
「その前に空飛ぶBETAの無人機かなんかに撃墜されるのがオチだ」
”私の攻撃予測システムと無人機運用システム、君の腕を合わせれば対処可能だ”
「簡単に言ってくれるよ……俺はもう遺書の内容を考える方で頭がいっぱいだ」
”メデツィーニン中佐から作戦立案が届いている”
「奴にもお別れを言っておかないと……後は父さんと母さんとマリヤとエミリヤとパーヴェル……エミリヤ、パーヴェル、父の顔は覚えてなくていいから偉大な父がいたことだけは忘れないでくれ……」
”まだ戦死すると決まった訳ではない”
「へっどうだか」
フレツロフ大佐は死ぬ気でいた、というよりこれはもう助からないと思っていた。
それでも軍の命令なら最奥なりなんなりに行くしかない、部下を道連れにするのは悪いとは思うがこれも仕事であり命令だ、ブリツェンスキー中佐に気の利いた言葉をかけて貰わなければ。
モースク1はやけに気が軽そうだったが結局は本体がここにはなく死というものがないからだろう、MiG-29が破壊されたところでモースク1が死ぬ訳ではない。
折角戦争も終わりだというのにこんな運命に立たされた我が身をフレツロフ大佐は呪った、せめてパーヴェルが学校を卒業するまでは生きたかったのだが。
フレツロフ大佐はメデツィーニン中佐から送られた作戦立案に目を通し、覚悟を決めてコックピットハッチを開いて外に出た。
”どこへ?”
「部下を集めて一声掛ける。みんなでこれから死にに行くんだ、労いくらいしてやらんと」
そう言ってフレツロフ大佐はまず連隊の各飛行隊長らに作戦内容を伝え、即座に衛士達を集めさせた。
まず大体の作戦内容と鼓舞をブリツェンスキー中佐が行い、その後に連隊長としてフレツロフ大佐が行った。
壇上など用意出来なかったのでフレツロフ大佐はただその場に立って部下達に声をかけた。
「作戦は聞いての通りだ、我々は差し違えてでもベルリン・ハイヴ最奥の新種を掃討せねばならん。二度も先遣隊を返り討ちにしている個体だ、我々とて生きて帰れるか分からん。これが最期かもしれん」
衛士達に死の恐怖が迫り緊張しているのが分かる、自分だって同じ思いだ。
それでも逃げようと思う者は誰もいなかった、かれこれ2年半は命をかけて戦ってきた戦友である、今更戦友を見捨てられる訳がなかった。
「それでも我々は祖国の為、皆の家族の為、マルクス=レーニン主義の為に戦う。5年後、10年後、今を生きる子ども達が大人になり、新たな生命が生まれてくる祖国で二度と子ども達が、労働者達が我々と同じ思いを、経験をしない為にだ。未来の明日を守るのは我々だ、我々がこの戦いで明日を守るんだ」
この時フレツロフ大佐が思っていたのは自分の娘と息子、将来を担う若い者たちであった。
「もし俺が死んだ場合はデルーギン中佐が、デルーギン中佐の後はブリツェンスキー中佐、その後はオルゼルスキー少佐、シュペーギン少佐、各編隊長へと指揮権を譲渡し戦闘を続行せよ。最奥の新種を討伐するまで退却は出来ん。くれぐれも頼んだぞ」
第306独立親衛戦闘航空連隊の衛士達は全員が静かに傾注し、フレツロフ大佐に向けて敬礼した。
本当に、誰がこんなことになると思っただろうか。
ハリコフの空軍パイロットの息子に生まれ、スヴォーロフを、航空軍学校を卒業した男がやがてソ連邦英雄をぶら下げて30人を超える部下から敬礼をして命を預けてもらえるなど。
少なくともフレツロフ大佐自身は当分こうはならないだろうと思っていた。
「みんなの命を使わせてくれ」
明日を生きる我が子の為に。
義務と勇気と子思いのエゴがフレツロフ大佐にとって自身の命を賭ける最後の動機となった。
第306独立親衛戦闘航空連隊はハイヴの最奥へと投入された。
2月2日、第306独立親衛戦闘航空連隊による最奥攻略作戦が始まった。
これに合わせてソ連軍はベレンコ大佐の戦闘防空連隊、ベルグロフ大佐の海軍航空隊など精鋭部隊を露払いとして護衛につけ、第306独立親衛戦闘航空連隊が最奥に到達出来るようにした。
これは西側の軍隊も同様であり、ヴィシコフ中佐の飛行隊や崇継と介六郎らの日本空軍も動員され、可能な限りBETAの守備隊を別動隊で抑えた。
「やれ!」
長刀で戦術機級の両手を切断した"鳳鷲"の背後から何機かのF-15Jが現れ、一斉にAGM-65マーヴェリックを発射した。
先に放たれた4発のマーヴェリックが装甲を引き剥がし、砕けた個所に残り2発のマーヴェリックが直撃して戦術機級が爆散した。
別の個所では介六郎の"鳳鷲"が戦術気球が発射した触手を四つ切にし、そのまま右腕も切断した。
その間に後方からF-14JがAIM-54フェニックスを2発叩き込んで背面装甲を破った。
更にF-16NJが2機、マーヴェリックを撃ち込んでこちらの戦術機級を破壊した。
「今ので追加2体…!」
戦術機級自体の数を減らせばBETAもこちらに戦力を振り分けなければいけなくなる、露払いの働きとして十分なものだ。
この間にフレツロフ大佐と連隊は大急ぎでハイヴの最奥に向かっていた。
後方から続く形で第306独立親衛戦闘航空連隊には何機かのM-21、シュメリィ-1などを運用可能アセットとして配備した。
これらは全てメデツィーニン中佐の采配とコネクションによる所が大きい。
ある地点までフレツロフ大佐と連隊は1回も戦闘することなく最奥近くの通路を飛行し、そのままハイヴの奥地を目指していた。
『間も無く戦闘地域です』
「戦っているのは……海軍のベルグロフ大佐か。彼らに任せろ、我々は止まらず進む」
本当ならベルグロフ大佐らを助けてやりたいが我々の任務はベルリン・ハイヴ最奥に辿り着くこと、ここは海軍航空隊に踏ん張ってもらうしかない。
39機のMiG-29は戦闘中であったベルグロフ大佐率いる"ウリヤノフスク"海軍航空隊を無視して通り過ぎた。
ベルグロフ大佐のSu-27Kとフレツロフ大佐のMiG-29が僅かにすれ違ったが両者会話を交わすことはなく、黙って戦場へ行くフレツロフ大佐らを見送った。
その上で絶対にここは通さないとしてベルグロフ大佐は戦術機級の左手を撥ね、僚機のSu-27Kがトドメを刺した。
『前方10キロ地点に中隊規模BETA群!』
「最低限相手をしろ」
妨害の為に出てきた戦車級と要撃級の群れに突撃砲と僅かに機関砲の射撃を叩き込んで半数は潰し、残りは無視してハイヴの奥へ向かった。
これ以降BETAもさほど数がいなくなったのか抵抗は少なく、物量で押し出されることもなくなった。
このまま無事にハイヴ最奥まで迎えるといいが、そんなフレツロフ大佐の願いは簡単に破られた。
ハイヴの最奥と外を繋ぐ最後の広間、ここを占拠すれば後は真っ直ぐ最奥に到達するだけだ。
まずフレツロフ大佐のMiG-29を先頭に第1飛行隊とブリツェンスキー中佐の、ルヴィロヴァ大尉の編隊が到達し、その後に後続の飛行隊も突入した。
しかしここにもまだBETAがいた、それもかなり強力な個体が。
広間に突入した第306独立親衛戦闘航空連隊に対して守備のBETAはレーザーを叩き込み、触手を振り回して迎撃に出ようとしていた。
「チッ!騎兵型の変異種か!」
広間内には1体の改騎兵型と通常の騎兵型が2体、その供回りとして戦術気球が合計9体いた。
うち2体の戦術機級をフレツロフ大佐のMiG-29が長刀で右手を切断し、接近して首元に120mm弾を叩き込んで仕留めた。
他の戦術機もBETAと戦いオルゼルスキー少佐はフレツロフ大佐に叫んだ。
『フレツロフ、1隊だけ率いてお前は先に行け!ここは我々が食い止める!』
「冗談じゃない、連隊全機で押し進まんと勝てないぞ!」
『メデツィーニンの作戦じゃ最悪お前と無人機さえ突っ込めばなんとかなる!急げ!時間がない!』
正しいのはオルゼルスキー少佐であるとフレツロフ大佐だって分かっていた、だがこれだけの戦術機級相手に彼らを残しておけばどうなるか。
今更迷うこともない、死地に連れてきた時点で覚悟していたことじゃないか。
「第2、第3飛行隊は残ってBETAを食い止めろ。第1飛行隊と俺の編隊は最奥に突っ込む」
『了解!』
『聞いたなシュぺーギン?』
『はい!全機、死んでも連隊長に近づけさせるな!』
オルゼルスキー少佐とシュぺーギン少佐の飛行隊のみを残して15機のMiG-29と後続のM-21らが奥地へ進んだ。
お互いこれが今生の別れかも知れない、大した言葉もかけてやれなかったが戦友は心でつながっている。
第1飛行隊を含めた15機のMiG-29は全速力で最奥へ進んだ、だがBETAは意地でもこれ以上国連軍に侵入されたくないようだ。
彼らの眼前に再び戦術機級が現れた、長刀を構え4体2列を編成してこちらに迫っている。
「チッ!8体もいる…!」
倒せない数ではないが少々面倒だ、弾薬も恐らく相当消費する。
しかも中央突破しようにもまるでこちらの行く手を阻むように戦術機級は列を敷いており、強行突破は難しそうだ。
『フレツロフ、うちのチュバトフ大尉の編隊を連れて先に行け。我々で突破口を開く』
デル―ギン中佐は片手の武装を長刀に持ち替え、近接戦の構えを取った。
「……必ずついて来いよ」
『スヴォーロフの頃からお前に嘘ついたことなかっただろ?』
デル―ギン中佐はフレツロフ大佐の幼馴染である、キエフ・スヴォーロフの頃から友達だった。
彼は親友を信じて突破の準備を始めた、必ずデル―ギン中佐が宣戦を突破してくれると信じて。
『各隊は火力支援、その間に私の編隊で戦線を食い破る!』
別のMiG-29が手持ちの152mm無反動砲を数発放ち、それに合わせて他のMiG-29が一斉に攻撃を仕掛けた。
前衛の戦術機級は手持ちのシールドで砲撃を防いだが耐久値の限界が生じて前列中央のシールドが砕け、その隙にデル―ギン中佐が接近してうち1体の腕を切断しもう1体には120mm弾の直射を叩き込んだ。
後から続いたMiG-29が2機、腕のない戦術機級の頭と両足を墜とし、串刺しにしてトドメを刺す。
戦線が乱れ僅かにだが突破出来る隙が生じた、そこを見逃さないフレツロフ大佐ではない。
「全機進め!」
フレツロフ大佐を先頭に合計6機のMiG-29が戦列を突破して先へ進み、その後を追撃されないようにデル―ギン中佐が必死で食い止めた。
『各機!相手は高々6体の戦術機級だ!全て仕留めて先遣隊に合流するぞ!』
死ぬかもしれないが負ける気はしない、我々は勝つためにここに来たのだ。
『そうだろう!フレツロフ!』
返答はなかったが答えは決まっている、親友を信じてデル―ギン中佐は死地へ向かった。
当初39機で前進していた第306独立親衛戦闘航空連隊であるが、うち24機を広間に残し、更にもう9機を足止めに使い、残りは6機となっていた。
せめてこの5機の仲間とは分散せずに突入したかった、リヴォフからハイヴ戦を戦い抜いているフレツロフ大佐も1人だと勝てる気がしない。
されど運命は彼をあざ笑うかのように最後のBETAを叩きつけた。
彼らが最奥に向けて飛行していると壁を打ち破って3体ほどの戦術機級が出てきた、しかもうち1体は第五のエネルギー炉を守っていた改戦術機級である。
改戦術機級はMiG-29を見るなり薙刀を構え、これ以上先へは進ませないという構えを取った。
ここで足止めを喰らっては困る、全力でぶつかるしかないのかとフレツロフ大佐は覚悟を決めた。
「各機、応戦だ。連中をここで…」
『いえ、大佐は先に無人機と共に最奥へ突入してください。我々がいなくとも無人機があれば作戦は完遂出来ます』
「ブリツェンスキー……」
『ここは私達に任せてください』
「大尉まで……」
1人では行きたくなかった、今までハイヴ戦を生き延びてこられたのは仲間あってのことだ、1人では勝つ自信すらなかった。
それでもここで足止めを受けるわけには行かない、ブリツェンスキー中佐の選択の方が正しい。
「……すまん」
『各機、今後の指揮は私が執る、命令は簡潔だ。大佐に何者も近づけさせるな!』
『了解!』
5機のMiG-29が先行して改戦術機級らを足止めし、その間にフレツロフ大佐のMiG-29が1機だけ、僅かに続く無人機と共に最奥へ向かった。
恐らくこれが彼らにとって最良の選択であった。
フレツロフ大佐は初めてハイヴの中で1人になった、いつも隣にはオルゼルスキー少佐だったりマリロフ大尉だったり、ブリツェンスキー中佐だったりルヴィロヴァ大尉がいた。
それがついに1機だけとなり、フレツロフ大佐は初めて押し潰されそうな孤独を感じた。
"間もなく最奥だ、君の手で終わらせてみせてくれ。この戦争を"
「簡単に言ってくれるよ……俺は初めて勝つ自信を無くしたってのに」
"私は勝てると確信している"
「分かったよ……足搔いて見せるさ」
フレツロフ大佐は止まることなくベルリン・ハイヴの最奥、重頭脳級が籠る城郭へと突入した。
これが最後の決戦である。
BETAが作るハイヴの最奥は基本的にエネルギー炉兼司令塔たる頭脳級、重頭脳級が鎮座する場所であった。
リヴォフ・ハイヴもヴロツワフ・ハイヴも、ブカレストもプラハもベオグラードも、ウィーンもザグレブもブダペストも同じであった。
ベルリン・ハイヴの最奥も他のハイヴと同じ構造であり、大きくくり抜かれた空間に頭脳級種が体、静かに鎮座していた。
もう嫌になるほど目にした空間だ、ほぼ1年に1回はこの空間に突入していた。
違う点を挙げるとするならば周囲に先に散った戦士達の残骸が散らばっていることと、重頭脳級である為頭脳級と若干様子が違うことだろうか。
本来の頭脳級の上に触手を数本持ち、光線級の目玉を6つ付けたような個体が鎮座している。
"あれがベルリン・ハイヴの頭脳級だ"
「問題の新種はどこだ……?」
通信機につんざくようなノイズが混じり、そこに機械音声のような声が無理やり通信に入ってきた。
≪また、我々を殺戮に来たのか≫
"頭脳級だ、こちらのチャンネルを介して意思を飛ばしている"
「そうか、話すことは何もない。切れ」
≪我々は見捨てられた、この星に今後10年我々の同胞はこない。大使命は達成されない≫
ベルリン・ハイヴの重頭脳級はほぼ一方的に自らの話したいことだけをフレツロフ大佐らに伝えた。
故に意味の分からないことばかり言っている。
「見捨てられたと、嘘かも知れんが可哀そうなことだ。だがお前らに降伏はない、殺されるか自殺するか選べ」
BETAに突きつけたのは無条件降伏ではない、族滅であった。
この地球上からBETAという存在を1匹残らず消し去る、それが国連軍の使命であった。
≪交渉は期待しない、我々は最後の個体になるまで戦争を続ける。我々は其方らの名前でいうBETA、大使命を果たす者≫
触手と重頭脳級はまるで十字架に貼り付けにされたかのように機能停止している1体の戦術機級と思わしき個体に触手を差し込み、重頭脳級の意識データをインストールした。
その戦術機級と思わしき個体は今までの戦術機級と全くデザインが違う、というより既存の戦術機と全く系統が違っていた。
背中には羽のようなものがあるし、起動すると周囲が紫色に光り出し、指が動き出した。
全てのデータをインストールし終えたのか重頭脳級の個体はぐったりと倒れ、代わりに戦術機級の方が動き出した。
固定具を取り外し、瞬く間に飛び上がると何の推力もなしに浮遊し、周囲から浮遊する何かを射出し、自身の側に並べた。
「飛んでるよこいつ」
"ラザフォード場の大出力で浮遊している。当然だが防護シールドにもなっている"
この個体は後に超戦術機級と命名される地球上で最強のBETAであった。
まず超戦術機級は両手と胴体から重光線級と遜色ない出力のレーザーを発射した。
回避したフレツロフ大佐であったがそれを追撃するように浮遊する何かがレーザーを撃って追いかけてくる。
これが二度に渡り国連軍の戦術機部隊を全滅させた最大の攻撃能力であった。
浮遊砲台を何十基と装備する超戦術機級はフレツロフ大佐のMiG-29を追い回した。
レーザーは辛うじてモースク1の予測システムで回避しているがいずれ限界が来そうだ。
「チッ!作戦を決行する!奴を叩くぞ!」
いよいよハイヴの最奥で最後の頭脳級と人類が決着をつけようとしていた。
同じ頃ベルリン・ハイヴから凡そ49キロ離れたところにあるフュルステンヴァルデには第306独立親衛戦闘航空連隊の後方要員が集まっていた、設置された簡易飛行場まで前進してきたのである。
指揮所では通信大隊長スヴィルコフ少佐、技術支援大隊長アパナシェフ少佐が集まり、メデツィーニン中佐に報告を行っていた。
「それでは通信大隊並びに技術支援大隊はハイヴ内の連隊支援の為連隊本部通信小隊を残し、ハイヴ内に移動します」
今やベルリン・ハイヴの殆どを制圧した国連軍であったがその分通信技術者や整備士が必要になり、第306独立親衛戦闘航空連隊の後方支援部隊もハイヴ内に招集された。
既に機器類と兵員をトラックに乗せて2時間前に出動しており、その報告をメデツィーニン中佐に行っていた。
「頼む、連隊の面々は今も命懸けで戦っている。お前達でサポートしてやってくれ」
「分かりました」
2人は敬礼を下ろし、先に行った部下達に続いて彼らも輸送ヘリのMi-8でベルリン・ハイヴへ向かった。
部下を見送るとメデツィーニン中佐はテントの指揮所に戻り、連隊の状況を確認した。
「状況は」
「悪いです、第2飛行隊は再び2機損傷、第3飛行隊も同様に1機損傷、BETAは減らしていますが損耗が激しいです」
「これではフレツロフに追いつけても戦闘は期待出来んな」
メデツィーニン中佐の隣には彼らの3個先輩であるメニンシュク大佐がいた、支援要員として第17航空軍から出向してきたのである。
「それに今の状況では損傷した友軍機を回収に行ける味方がません。ベルグロフ大佐やベレンコ大佐の隊も戦っていますし」
「戦力が足りん、せめて後1機でもいいから送り込めればいいんだが……」
「一応予備機はいるんですが問題はパイロットが……」
メデツィーニン中佐はあることを思い出した、確かに1機だけならまだ動かせる。
だがメデツィーニン中佐は自身の立場を考えた、最早衛士としては引退した身、それが再び戦うなど二度も三度もあっていいのだろうか。
それでもこの危機的状況下では1機でも動かせるMiG-29がいた方がいい、それも戦友達の命が掛かっているのなら尚更だ。
「……大佐、ここの持ち場任せますがいいですか」
「何を言っているんだ?」
「今だけ、我が連隊に1人パイロットが増えます」
「……お前の身体は持つのか?」
メニンシュク大佐は止めはしなかった、代わりに戦えるかどうかだけ聞いた。
「味方を安全地帯まで引き下げるくらいなら出来ます。それに戦闘支援はモースク1が」
「……そうか」
「戦友が、待っているんです」
「……私がお前の代わりをやろう、連隊参謀長としてメデツィーニン中佐に出撃を要請する。最後に存分戦ってこい」
「はい!」
メデツィーニン中佐は敬礼し、指揮所を後にした。
それから数十分後、フュルステンヴァルデから1機のMiG-29が2機の予備機を連れて飛び立った。
目的地はベルリン・ハイヴ、その最奥、口には決して出さないが助けを求める友の為、傷ついた翼はもう一度羽ばたいた。
2月2日、ベルリン・ハイヴの最期が近づいている。
つづく