マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
その物語は
雄弁なる語り部に
語り継がれるだろう
晴れ渡る夜も、
暗雲垂れる昼も、
勇敢に誇り高く、我らは戦っている!
導けよブジョンヌイ、勇敢に戦えと!
雷鳴が轟き、
炎に巻かれようとも!
我らは皆、命を捨てた英雄
全てを闘争に捧げるのだ
-”ブジョンヌイ行進曲”より抜粋-
2月14日、世界ではバレンタインデーと持て囃されるこの日にソ連軍の攻勢は始まった。
まず前線地域に一斉に陽動弾が放たれ、次に軌道上からソ連宇宙軍による機動爆撃が開始された。
基本的にソ連宇宙軍が対地支援として用いる兵器は戦術核であり、陽動弾を迎撃した光線級は直様周囲のBETAと共に熱核処理を施された。
各所で核爆発が発生し、それでもなお生き残ったBETAには追加の準備砲撃が振り掛けられる。
辛うじて生き残った要塞級や突撃級も150mmを超える砲の前には無力であった。
司令部直轄の砲兵師団と各軍が持つ砲兵師団及びロケット砲兵旅団の準備砲撃が一旦終了するといよいよ本命の野戦軍による縦深攻撃が始まった。
ソ連第3親衛戦車軍、第1親衛軍、第4軍、そしてポーランド第1軍が第1梯団として突撃し、次に第2梯団が戦果を拡張する。
これはあくまで第1ウクライナ前線が担当する戦域であり、ほぼ同時期に沿バルト前線、そして白ロシア前線も攻勢を開始していた。
前線の主力を戦術核と砲撃で吹き飛ばされたBETAは直ちにヴロツワロフから追加のBETAを3方向に展開した。
要は前線の穴埋め部隊である。
それでも前線部隊BETAの主力部隊と衝突する頃にはルブリンが陥落していた。
T-80とT-64BV中心の戦車隊が生き残ったBETAを蹴散らし、ルブリンへの血路を開いた。
最初にルブリン旧市街地に突入したのは第3親衛戦車軍と側面援護のポーランド人民軍第1軍であり、戦車隊の後方に付いた自動車化狙撃兵達が市街地”であった”場所に突入した。
「オイ……どういうことなんだよ……これは……」
防護服を纏ったポーランド人民軍の兵士達がAKMを担いだまま唖然とした。
BTRを停め、唖然とした表情で目の前に広がるその荒野を目にし続けた。
この中にはルブリンで生まれ育った者もいた。
絶対にいつか帰るという思いで今日まで兵役を耐え続けてきた幾万人の将兵が目にしたそれは余りにも酷い現実であった。
BETAによって蹂躙され、馴らされたその土地はもう街と呼べるものではなくなっていた。
辛うじてかつて建物があったと思わせる跡が残っているだけであり、ルブリンは完全に破壊されていた。
そこには何もなかった。
思い出の家も、思い出の料理店も、思い出の学校も、思い出の遊び場も、鉄道も市役所も何もかもが破壊し尽くされていた。
BETAがこのように大地を馴らすことは国連軍の発表によって世界中に知れ渡っていた。
少なくともソ連宇宙軍を始めとした各国の宇宙軍はこうした光景を日々見ている。
昨日に比べて街の面影が消える様子も、森が減っていく様子も、異星人に大地が侵食されていく様子も全て見ていた。
だが兵士達は違う。
彼らは心の何処かで戦前の街の姿を記憶し、ここへ帰れると心の底から思っていた。
確かにBETAは街を破壊するかもしれないけどもしかしたらと最後の希望を持っていた。
それが今、目の前で破壊された。
「ルブリンでこれなら……ワルシャワは……」
「俺の……俺の故郷のカジミエシュは……!」
「みんな全部壊されちまったのかよ……!!なんでなんだよ……!!」
兵士達が青ざめ、絶望する中遠くからよろよろと歩く闘士級の姿が見えた。
どうにかして人間を襲おうとしていたが今襲われる側なのは闘士級の方であった。
ポーランド人民軍の兵士達は闘士級を見るなり自身のAKMを強く握り締めた。
目の前に彼らから祖国を奪った張本人がいた。
家族や戦友を奪った張本人がそこにはいたのだ。
「貴様らぁ!!」
たった1時間でルブリンに残っていたBETAは全て討伐された。
AKMでPKMで滅多撃ちにされ、死体を銃剣で突き刺し、戦車級にはRPGを叩きつけた。
殆どのBETAは抵抗することなく惨殺され、その無惨で有害な死体をかつてルブリンと呼ばれた場所に晒した。
BETAの報いの時が来たのだ。
BETAの掃討を一部ポーランド軍部隊に任せ、残りの部隊は全て前進した。
ルブリンの掃討戦が終わる頃には第3親衛戦車軍はヴィスワ川の手前まで進軍していた。
直ちにヴィスワ川渡河作戦が始まり、戦術機と幾つかの先遣部隊が橋頭堡を確保し、工兵隊が橋をかけるまでの間、前線を維持していた。
接近するBETAを先遣隊が抑えつつ、砲火力を叩き込んで阻止する。
既に何輌かの戦車はシュノーケルをつけて渡河していたが軍が持つ全てのMBTをとなるとそうも言ってられない。
工兵隊の努力により1時間以内に橋が各地で完成し、戦車隊や渡河不能の重戦力が橋を渡った。
ある地域では第1親衛軍の工兵隊が掛け終わった橋の近くにポーランド軍の部隊が来ていた。
「どうしたんだポーランド人、お前たちの橋は向こうじゃないのか」
近くにいた工兵少佐が指揮戦車に乗り込む少佐に尋ねた。
「こちらの橋はまだ掛け終わっていない、そっちのを貸してくれないか」
「そういうことだったら何百輌でも通ってくれ。さあ行ってくれ!」
工兵少佐の指示でポーランド軍の部隊が橋を渡り始めた。
周りの工兵達は出撃するポーランド兵達に向かってロシア語で「頑張れよ!」とエールを送った。
彼らの言葉がどの程度伝わったのかは不明だがとにかく少佐の部隊は第1親衛軍の橋を借りて渡河に成功した。
勿論この逆もある。
重戦力運搬の為にポーランド第1軍の橋をソ連軍第3親衛戦車軍に貸した経歴も残っている。
ポーランドとソ連、衛星国と宗主国、そして歴史的に思うところがある国だがこの瞬間だけは戦友であった。
各地で架橋作業と渡河作戦は成功していた。
「今ので我が師団のT-72は全部向こう岸へ渡り切らせました!」
第1機械化師団の参謀少佐が双眼鏡片手に前線視察中のオリーワ大将に報告した。
オリーワ大将は驚くべきことに渡河作戦が上手く行っているか確認する為にヴィスワ川の近くまで前線視察に訪れていた。
最初は参謀達に止められたがどうしても行くというので副官と何人かの参謀を引き連れて第1機械化師団が担当する戦区に訪れた。
「よし!いいぞ!このまま渡河が成功すればヴィスワ川の奥でBETAと決戦出来る…!」
彼らにとって最悪のシナリオはBETAの主力部隊とヴィスワ川の渡河中に出くわすことであった。
幸いそれはなんとか回避出来そうであった為オリーワ大将は喜んでいた。
「このまま主力部隊はチェンストホバを目指して前進させろ。BETAの主力を打ち破るのはその後だ」
「はい!」
命令を出した後オリーワ大将は再び双眼鏡から渡河中の部隊の様子を確認した。
いよいよ祖国解放作戦が始まった。
オリーワ大将は心の奥底で大将らしからぬ言葉使いと共にBETAにこう言い放った。
待ってろBETAども、祖国ポーランドの地でお前らを1匹残らず根絶やしにしてやる。
-ソ連領 ウクライナSSR 首都キエフ 第1ウクライナ前線司令部-
数個軍による攻勢作戦の統括というのは常に多忙を極めるものだ。
参謀達は各軍から入ってくる情報を精査し分析し、正しい状況認識を持って司令官に進言しなければならない。
司令官は参謀や直接軍司令官から入ってくる情報を分析して適切な判断を即座に下さなければならない。
彼らの進言や判断によって数十万を超える将兵の命が左右されることになるのだ。
しかも彼ら司令部の高級将校は度々前線視察をすることはあってもそこに常駐している訳ではない為、リアルタイムの正確な情報というのは中々難しい。
小隊から中隊、中隊から大隊、大隊から連隊、連隊から師団、師団から軍、軍から前線ときた情報が彼らの元に入って来ている。
その為命令の実施中は常に不安が付きまとう。
もしかしたら偵察の合間をすり抜けたBETAの大群がいるのではないか、実は検知されていない光線級がいるのではないか、或いは新種のBETAが出て来ているのではないか。
ありとあらゆる可能性を考慮した上で彼らは最善の判断を即決しなければいけない。
前線から遠く離れたキエフの司令部では、命をかけて戦うのとはまた別の苦労があった。
それでも人の命を数十万人も預かって使うということはそれだけの責任がある。
必要な対価であり、必要な苦労であった。
だがヤゾフと第1ウクライナ前線司令部の参謀達は最低限有効な判断を下し続けてきた。
故に渡河作戦も成功し、軍は西進を続けている。
現在第1ウクライナ前線の各軍は主力部隊がヴィスワ川の渡河に成功し、更にポーランドの奥地へ進んでいた。
そして各軍はウッチ、チェンストホバ、カトヴィツェの手前でハイヴから送り込まれたBETAの主力群と激突していた。
これに対してヤゾフは即座にBETA主力との決戦に移った。
あえてBETAに攻めさせ、それを砲火力と核攻撃によって可能な限り撃滅する。
前線では第1親衛軍、ポーランド第1軍、第3親衛戦車軍、第4軍が抵抗線を展開しつつ、第二梯団数個軍の火力も合わせてまずBETAの突撃力を奪った。
既に突撃してくるBETAの対処法は確立されている。
まず工兵隊が地雷を散布して突撃級の足を止め、後方の砲兵隊は面制圧によって数を減らす。
前線を受け持つ歩兵部隊は手持ちの火器を駆使して弾幕射撃を行い、戦車隊と戦術機部隊は機動防御によって危機的な状況にある戦線を救援する。
基本的な諸兵科連合戦術であるが、やはりBETAに対して有効なのは間違いなかった。
正面装甲が取り柄の突撃級も足や下部は脆い。
要塞級は地面に対する付着面積が狭い分地雷はそこまで苦手ではなかったが、150mmを超える砲火力を数度叩き込まれれば当然耐えられなかった。
こうしてBETAの数は減らされ、数日のうちにBETAは攻勢能力を失った。
そこからが本番であった。
第1ウクライナ前線は即座に反撃に打って出た。
温存していた主力の戦車部隊を突撃させ、随伴の戦術機や各種軍車両と共に再度突撃を開始する。
援護砲撃が続き、時折戦術核を抱えたSu-24が通常攻撃に核弾頭を混ぜてBETAを殲滅した。
T-80やT-72、T-64BVの隊列がBETAを打ち砕き、戦線を押し上げる。
あっという間に攻守は逆転し、第1ウクライナ前線の全域で戦線の押し上げが始まった。
BETAはそれでも手強く抵抗を続けていたが、所詮は素人、ただの掘削機の集まり、数十年間アメリカと西側諸国を如何に打ち倒すかを考えていた国の軍隊には勝てるはずもなかった。
ただそれでもBETAは物量という唯一誇れる点で第1親衛軍の戦線だけは辛うじて押し留めていた。
その為司令官のゲラシモフ上級大将からは増援の要請が来ていた。
「ゲラシモフ上級大将はとにかく兵力を要請を出しています」
応答していたゾロトフ大佐は上級大将が欲していたものをそのまま伝えた。
ヤゾフは3秒ほど考えつつ1つ尋ねた。
「第60軍の部隊は移動中か?」
「はい、救援に向かっていますが恐らく主力本隊が着く頃には…」
「分かった、火消しなら戦術機しかない。ルーツクにいる防空軍を送り込め、後は……」
「なら第1独立親衛戦闘航空連隊はどうでしょうか」
待機していたバリィーニキン大佐がそう進言した。
第1独立親衛戦闘航空連隊、司令部直轄の戦術機部隊でありソ連軍の中で一番最初に設立された戦術機運用部隊であった。
運用機はMiG-27、そしてSu-24であり一部の精鋭パイロットはテスト機としてプロダクト9と呼ばれる新型戦術機が配備されている。
運用機もさることながら、練度も最精鋭であり、司令部の切り札であった。
「あの連隊なら第1親衛軍の戦車隊と合わせれば戦線に穴くらい開きます」
ゾロトフ大佐の進言によってヤゾフは腹を決めた。
虎の子だがいつまでも懐に抱えておく訳にはいかない。
「よし、ブジョーノスキー連隊を第1親衛軍の戦線へ投入する。防空軍も一部部隊を援軍に送れ。このまま全面で押し切るぞ」
「了解…!」
ヤゾフの命令は直ちに待機中の部隊へ伝達された。
実行され戦闘が勝利に終わることを祈りながらヤゾフはローシク大尉に尋ねた。
「大尉、他の前線の様子はどうだ」
「白ロシア前線は我々と同じような感じです。首都ワルシャワを奪還しブウォツワベクの地点でBETAの増援部隊と接触したと。沿バルト前線はもう少し進んでいてグディニャからコシャリンの方まで進撃しました」
「そうか、了解した。では我が前線もこのまま突破を続けるぞ。ポーランド領とBETAの野戦軍、どちらも手に入れる」
「はい…!」
ソ連邦元帥に昇進するほど戦場で経験を積んできたからか、ヤゾフは去年の今頃より視野が広く余裕が出ていた。
確実にBETAを撃破する、その思いだけは失わずに。
ソ連軍の攻勢は未だ止まらない。
数え切れない程のMiG-27とSu-24の編隊がポーランドの空を駆ける。
各機武装は各々で自由だったが全員が共通して近接戦闘用短刀の他に騎兵サーベル型の長刀をマウントしていた。
「各機、編隊を組んで高度を下げろ。間も無く光線属種の射程範囲だ」
連隊長ユーリー・ロマネンコ大佐の命令によって各機が高度を下げた。
ソ連邦英雄まで獲得した名のある宇宙飛行士が今では最精鋭戦術機部隊の連隊長である。
何せロマネンコ大佐は戦術機の機種転換がいち早く終わったうちの1人であり、戦術機運用においてもエースであった。
試験機の運用や宇宙空間での戦術機運用などを行い、度々実戦も行っていた。
そんなベテランだからこそこの第1独立親衛戦闘航空連隊の連隊長を任されている。
第1独立親衛戦闘航空連隊、とても長く聞こえる部隊名だが実際はもっと長い。
正式名称、S.M.ブジョーンヌイソ連邦元帥名称第1独立親衛”キエフ”レーニン・赤旗・スヴォーロフ勲章戦闘航空連隊である。
愛称としてブジョーノスキー連隊とも呼ばれ、ロシア内戦、ポーランド=ソビエト戦争で活躍したセミョーン・ブジョーンヌイソ連邦元帥の名を冠している。
戦術機が導入されたソ連軍で最初に出来た戦術機運用部隊であり、元はこんなに長い名前ではなかった。
第903戦闘航空連隊、せいぜいこのぐらいだったのだが度重なる戦果によって3つの勲章と”キエフ”の称号を手にし、司令部直轄の独立親衛部隊に変更となった。
ちなみにこのブジョーンヌイ元帥の名称であるが連隊内に異常にブジョーンヌイ元帥の名前を希望する人間がいたらしい。
そいつがいなければ恐らくガガーリンかジューコフスキー辺りの名称がついていたはずなのだが、何故かブジョーンヌイ元帥の名前になった。
なおソ連国防省の某ピョートル・ヴォロシーロフ技術中将は仕切りに父クリメント・ヴォロシーロフソ連邦元帥も何処かの部隊名に付けられないかと言っていたが結局ヴォロシーロフ元帥の方はまだついていない。
理由としては「参謀本部軍事アカデミーの名称になっているから」であったがピョートル・ヴォロシーロフ技術中将は納得しなかった。
なんでも「後世の人に妙な方向で父の名前が伝わるのは嫌だから」らしい。*1
尤もヴォロシーロフ元帥の名前が何処かの部隊についたとしてもそれはこの連隊ではなかっただろう。
戦術機でありながら単独で戦列に穴を開けるその姿はブジョーンヌイ元帥率いる赤軍騎兵隊を彷彿とさせた。
「近接戦闘は最小限に、確実に奴らを潰すぞ」
地表スレスレを飛行し、戦術機は突撃砲を構えた。
「総員っ突撃!」
戦場に急行した第1独立親衛戦闘航空連隊の戦術機部隊が第1親衛軍正面に展開するBETA群と交戦した。
まず地面にナパーム弾を展開して突撃級を焼き殺し、MiG-27の機動力で回り込みながら周囲のBETAを蹴散らす。
各機脚部の追加武装を駆使して火力の穴を埋め、戦列が崩れたら編隊を組んで突撃した。
そして左手に近接戦闘用長刀を持ち、まるで馬の上から歩兵に叩きつけるように刃を振るった。
その姿はまるで現代に甦った軽騎兵、赤いコサックであり、見紛う事なき赤軍騎兵隊であった。
彼ら第1独立親衛戦闘航空連隊の近接戦は基本一撃離脱、刃を一撃入れたらすぐにその場を離れて次の標的へ向かう。
その機動力を活かしてその場に数秒も立ち止まる事なく敵を攻撃し、BETAの戦列を乱した。
その間にSu-24が後方へ爆弾を投下し更にBETAを面で潰していく。
そうして崩れた戦列に何度も何度もMiG-27の騎兵隊が突っ込んでは斬獲し、後退しながら火力を投射して戦列の穴を開けるということを繰り返していた。
では戦列が崩れればどうなるか、それはもう皆周知の事実である。
より突破力に勝る
シルカやBMDを引き連れた第1親衛軍の戦車隊が逆襲を仕掛けた。
突撃級や要撃級の亡骸を避けてT-72らが突っ込んでくる。
光線球や重光線級は見つけ次第砲兵隊によって徹底的に狩り尽くされており、残っているのは後方にいる要塞級の中身だけだった。
『連隊長、前方から要塞級3!その奥からは要塞級4!』
「接近するな、砲兵隊にやらせろ。各機無理して要塞級に取り付こうとするな、砲兵隊にBETAを近づけさせなければ勝てる」
『了解!』
ロマネンコ大佐の判断は早かったしある種撃破を諦めたと言っていい。
事実戦術機で要塞級を撃破するのは並大抵のパイロットだと至難の業であり、単機で要塞級を何体も撃破するのはそれこそエースだ。
そして今のソ連は別にエースを生み出さなくともあれには勝てる。
直ちに座標を受け取った砲兵隊が砲撃を開始し、念の為に発射された陽動弾と共に要塞級に命中した。
のしのし歩いていた要塞級は砲撃の終了と共に全滅し、そこをソ連軍の戦車隊と戦術機部隊が通過するのは僅か5分後のことであった。
『各機、戦車隊の突撃を援護しろ!』
『このまま押し返すぞ!』
連隊は第1親衛軍の戦車隊の進路を切り開き、周りのBETAをほぼ殲滅した。
戦車隊と第1独立親衛戦闘航空連隊、この2つの力によって一時進撃が停止していた第1親衛軍は到達から1時間後には前に進めるようになっていた。
しかもそこへソ連防空軍の増援が到着する。
『1976001、ソ連防空軍ベレンコ少佐である。後は我々に任せて一旦後退して補給を』
後方からやってきたMiG-25の編隊が要撃級や突撃級を撃破してMiG-27と戦列を共にする。
「了解した、各機後は防空軍に任せて後退だ。補給を行い友軍の援護に入るぞ」
『了解!』
『後は防空軍に任せろ!』
MiG-27とMiG-25が入れ替わる形で部隊が変わり、攻勢はそのまま続いた。
MiG-25PDSを主力とする防空軍の緊急展開部隊は第1親衛軍の攻勢を援護した。
特にベレンコ少佐は僚機と共に要塞級12体、要撃級57体、そして要塞級1体を撃破し、味方の損害を減らした。
戦車級以下の小型種はもう数える暇すらなく、地面に屍を残していった。
こうして全域で再び進撃が容易なものとなった。
目的地のヴロツワフ・ハイヴ手前まで後20キロもなかった。
第3親衛戦車軍は破竹の勢いで前線を突破し、他の軍もそれに続いた。
突破された地点を後続の第二梯団が戦果を拡張し、領土を取り戻していく。
これが縦深攻撃、1週間でパリまで突破出来ると言われたソ連軍最大の力であり、これを止められる軍隊はこの地上においてそう多くない。
ミハイル・トゥハチェフスキーという奇才が編み出したソビエトから世界に社会主義を広める手立ては今BETAの大群を装甲と火砲の力によって粉砕するのに役立っている。
本来これを止める方法は核投入を前提とした作戦行動であり、東西で数万を超える核を持つ人類にとってそれは破滅の狼煙でしかなかった。
その破滅の力を今ひたすら受け続けているのがBETAである。
数年前まで東西冷戦の真っ只中にいた彼らにとって核兵器の投入はそう難しいことではない。
むしろ1秒でも早く相手に核を撃たねばこちらがやられる、死が人々を覆い尽くすのだ。
人間相手にこれなのだから異星人たるBETA相手にはもっと残酷であった。
必要に応じて前線には空軍と宇宙軍から戦術核が投射され、数千キロ離れた後方では戦略ロケット軍が有事に備えて待機していた。
現状各戦線でBETAを押し込んでいる為戦略核の出番はないと見做されていたがそれでももしもに備えている。
第1ウクライナ前線はかつてウッチ、チェンストホバ、カトヴィツェだった場所を通過し、そこから20キロ離れた場所で戦っていた。
当然BETAもハイヴ防衛の為に戦力を差し向けてくる。
ポーランド軍第1軍は展開されたBETAの大群と激突した。
数は1個軍団ほど、流石にポーランド軍第1軍だけで対処するには厳しい相手であった。
だがすぐに第二梯団の第30軍から増援が差し向けられ、BETAの猛攻を防いだ。
その間に両側面から第3親衛戦車軍と第1親衛軍が臨時の戦闘団を編成して挟撃を仕掛ける。
これでもBETAの大群は攻勢を続けた。
彼らは側面を攻撃されようと後退という文字はない、突っ込めと言われたら全滅しても突撃するしかなかった。
これはBETA側が大損害を喰らうことになるがソ連軍にとっても厄介であった。
故に第1ウクライナ前線司令部は補給を終えた第1独立親衛戦闘航空連隊を今度はポーランド軍方面へ展開することにした。
Su-24は戦術核を担ぎ、MiG-27は突撃砲と剣先を揃えてBETAの大群に突撃した。
まず砲兵隊が優先して光線級や前線まで出張ってきた重光線級を撃滅し、制空権がある程度取れたらSu-24が戦術核を投入する。
眩い閃光とキノコ雲の下ではBETAが焼き尽くされている。
事前の戦術核の投入が終わったらMiG-27、そしてポーランド軍第1軍の戦車隊が一斉に突撃を開始した。
ポーランド=ソビエト戦争でポーランド騎兵と戦った赤軍騎兵のブジョーンヌイの名前を冠した連隊と、当のポーランド軍が数十年の時を経て肩を並べて戦っている。
この騎兵突撃を今のBETAでは止められるはずがなかった。
T-72の125mmの連続砲撃によって突撃級の何体かが撃破され、その戦列の穴から戦術機が突入する。
後続の要撃級や戦車級の大群にありったけの火力をぶつけて粉砕し、必要に応じて近接戦闘用長刀を叩きつけて撃破する。
何機かは後方に回り込んで背後から突撃級を撃破し、部隊の進撃路を開く。
BETAの屍を乗り越えてポーランド人民軍のT-72が前進する。
後続のZSU-57-2やシルカが戦車級、闘士級のような中、小型のBETAを蹴散らし、部隊はさらに前へ進んだ。
第1独立親衛戦闘航空連隊が補給の為ポーランド空軍の戦術機部隊と交代する頃には1個軍団いたBETAは壊滅していた。
そのままポーランド軍第1軍は最終到達地点であるクルチボルクに到達した。
当然そこにはかつての街並みはなかったが彼らは攻勢をやり遂げた。
ウッチから回り込んだ第3親衛戦車軍もケンプノに到達し、進撃を停止した。
第1親衛軍オポーレ、ニサに到達しチェコスロヴァキア方面の警戒線を構築した。
その頃第4軍は白ロシア前線の部隊と合流しオストルフ・ビエルコポルスキに到達した。
これで全軍が進撃予定地点に到達し、ヴロツワフ・ハイヴ攻略の足掛かりを作った。
”西”作戦の第一段階、ポーランド領の凡そ2/3を奪還するこの作戦は成功に終わった。
時代は1981年3月21日、僅か1ヶ月余りでポーランドは半分以上が帰ってきた。
BETAによる二度と回復出来ないかもしれない傷を負いながら。
それでもワルシャワには白と赤のポーランド国旗が靡いている。
ポーランドは未だ滅びず、ポーランド人民共和国は再び地上に蘇った。
-ソ連領 ウクライナSSR 首都キエフ 第1ウクライナ前線司令部-
作戦の第一段階が成功したとはいえ司令部の仕事は終わりではない。
損害と戦果を確認し、ポーランド領域がどのような状況かを確認しなければならない。
それでも司令部は作戦中の張り詰めた空気感が少しは緩み、参謀達も少しは休めるようになっていた。
「ポーランドですが殆どの都市が更地になっていて司令部に適している地点は殆どありません。ルブリンもクラクフもチェンストホバも見る影もありません」
アニシモフ中佐は各軍の情報部が集めてきた情報をまとめてヤゾフに報告した。
モイセーエフ大将は中佐に向けて「想定していたがそんなにか」と聞き返した。
中佐は顔を顰めながら頷いた。
彼は調査の為に司令部で一足早くポーランドに入っていた為実際にその光景を見ていた。
だから野戦司令部は建設出来ても常駐の司令部を置くのは難しいと判断した。
「では各軍に資材を送って野戦司令部と野戦病院を増強しろ。私はグレチコ元帥に掛け合ってポーランド方面へ優先的に建築技師を送るよう要請を出す」
「了解」
アニシモフ中佐は敬礼し、司令室を後にした。
ヤゾフは受け取った報告書を元に地図にメモを書き記した。
”ポーランドの復興は極めて厳しい状況にあり”
今のポーランドの話を聞くと1年前に奪還したこのキエフはまだマシだったのだろうと今更ながら思う。
まだ市街地は残っていたし1年あればそれなりに街並みは蘇った。
「オリーワ大将は、どうだったかね」
ヤゾフはモイセーエフ大将に尋ねた。
参謀長としてモイエセーエフ大将はオリーワ大将と連絡を取っていた為彼の様子が分かる。
「落ち込んでおられました。故郷のスウコヴィツェも原型を留めていなかったと。それでも戦意は高かったですが」
「今度、前線視察する時に会いに行ってくるよ。彼らはよくやってくれた、よく第一梯団を務めてくれた」
「はい」
ヤゾフは心の底からポーランド軍将兵のことを讃えていたし同時に彼らが抱える危うさも認識していた。
上手く使わなければ彼らは全滅するだろうとヤゾフは感じていた。
「大尉、西側の攻勢はどなっている」
ヤゾフはローシク大尉に尋ねた。
「今も続いていますが攻勢は成功しつつあります。在独ソ連軍も間も無くハーノファーに辿り着くと大本営からは情報が上がってきています」
「”西”作戦はこれで2/3成功か」
「後はハイヴの攻略ですね、恐らく攻略は5月か6月となると思われますが」
モイセーエフ大将の読みは当たっていた。
少なくとも1ヶ月は準備しなければならない。
「十分だ、BETA相手に準備は必要だよ」
ヤゾフは冷たく地図を見下ろした。
準備は必要だ、準備不足で攻勢して将兵を無駄に殺す訳にはいかない。
だが時間が掛かれば掛かるほどBETAの占領地は今のポーランドより酷いことになる。
ヤゾフは焦る気持ちを誰にも悟られないように抑え込み、確実な勝利を得るよう自分に言い聞かせた。
司令官が焦っては勝てる戦いも勝てなくなるだろう、今は我慢なのだ。
「連中のハイヴを1つ残らず潰す、その為の準備だ」
ヴロツワフ・ハイヴの最期はもう遠くない所まで近づいていた。
つづく