マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
榴弾の、榴散弾の備えがある
我らの大砲が、迫撃砲が
目標を外さず射撃する
砲兵よ、正確に狙え!
観測員よ目を光らせよ、照準手よ勇敢たれ
敵に伝えよ、『我らの祖国に触れるな、
さもなくば、壊滅への砲門を開く!』と
-ポクラス兄弟による”砲兵の歌”より抜粋-
-ソ連領 白ロシアSSR 首都ミンスク 白ロシア前線司令部-
白ロシア・ソビエト社会主義共和国、首都ミンスク。
白ロシア前線司令部はこのミンスクに設置され、市街地には守備隊が駐屯していた。
この日、司令部では全ての軍参謀が作戦実行の為に待機している。
地図の前には軍司令官のアフロメーエフ上級大将が座っており、隣には参謀長のイヴァン・ガシュコフ大将が控えていた。
2人の眼前には周囲を取り囲むように参謀達が並んでいた。
「間も無く偵察機からの情報が送られてくる頃だな……」
アフロメーエフ上級大将は顔を顰め、偵察部隊の帰還を待った。
この待っている時間が何十時間にも感じられ、参謀達の中には耐えきれず身振りに出る者もいた。
暫くの沈黙が続き、1分後に1人の将校が入ってきた。
情報将校のニコライ・ヴァシロ少佐である。
「報告します、戦術機部隊の情報によるとBETAの戦力は以前変わりなし、作戦実行可能です!」
「よし!」
アフロメーエフ上級大将は立ち上がって思わずガッツポーズを浮かべ、直ちに前線隷下の各部隊に命令を出した。
先ほどまで神妙な面持ちだった参謀達も表情に明るさが戻ってきた。
上級大将は通信士官達に命令を出した。
「前線司令官より全軍へ通達、攻勢作戦を開始せよ」
通信士官達は各軍司令部に通信を繋いで作戦開始を通達した。
参謀達も情報収集と作戦開始の為に各所に移動し、人によっては通信士官の隣に座った。
上級大将の一言で司令部は一気に慌ただしくなった。
ミンスク近くの航空基地からも命令を受けた戦術機が発進し、司令部の窓を横切った。
既に主力部隊は最前線近くに配置されいつでも越境してポーランドへ向かうことが出来る。
だが突撃をかける為にはまずやらなければならないことがあった。
「コズロフスキー大佐、直ちに宇宙軍司令部に連絡して各地点の光線属種及び要塞級を攻撃させろ。可能な限り前線防空を剥がすんだ」
「了解!」
パーヴェル・コズロフスキー大佐は命令を受諾し、急いで宇宙軍司令部に攻撃要請を出した。
事前に光線属種、そして光線級を有していると思われる要塞級を軌道上の支援攻撃で排除すれば初動の攻勢作戦は随分やりやすくなる。
司令部への要請は当然受諾され、ソ連宇宙軍の第5攻撃衛星軍が通常弾頭と戦術核弾頭を用いてBETAを粉砕した。
前線から光線級と重光線級、そして光線属種を抱えている可能性のある要塞級は徹底して排除し尽くされ、対空攻撃の脅威はなくなった。
これで作戦の自由度は大きく跳ね上がった。
「第5攻撃衛星軍司令部より入電、目標の8割を撃破し地上防空網を一掃。ただし生存個体がいる恐れあり、気をつけられたしだそうです」
通信士官の上級中尉はアフロメーエフ上級大将に報告した。
それを聞いたアフロメーエフ上級大将は直ちに次の命令を出す。
「では前線部隊の砲兵師団及び軍隷下の砲兵部隊に一斉砲撃を命じろ。砲撃終了後に第一梯団は全軍突撃、ポーランド領に侵入する」
「了解」
沿バルト、白ロシア、そして第1ウクライナ前線はほぼ同タイミングで準備砲撃をかけた。
ポーランドとソ連の間にある凡そ1230キロメートルの国境線沿いに一斉に砲撃とロケット砲撃が叩き込まれたのだ。
しかも稀に戦術核まで混ぜ込まれていた為、前線地帯のBETAは壊滅的な被害を被った。
ただ司令部の面々はその様子を直接目にした訳ではなかったのでどの程度の損害が出ているかは完全に把握し切れていなかった。
アフロメーエフ上級大将ら指揮官は今の準備砲撃で前線に致命的な損害を与えられたと信じて突撃の命令を下すしかない。
作戦が開始された今、衛星画像を待って損害を確認している暇はなかった。
「第5親衛戦車軍、第7戦車軍、第3軍、ポーランド第2軍、移動を開始。間も無く前衛部隊がポーランド内に突入します」
「第一梯団はこのままワルシャワを目指して前進、作戦に変更は無しだ」
上級大将はそう断言した。
これによってもう引き返す事はできない。
アフロメーエフ上級大将は内心上手く行ってくれと祈りながら地図を睨み、各軍からの報告を待った。
そう遠くない時間にポーランド領域へ突入した数十万の同志の何人かは戦死するだろう。
平時は我が子のように慈しんで苦楽を共にしてきた将兵が死ぬことに当然思うところはある。
だがソ連軍とは人民の盾であり矛である、犠牲が怖いからと言って引き下がる訳にはいかなかった。
今は使い潰してでもBETAから人類の土地を奪還しなければならない。
「上手く切り抜けろよ……同志」
アフロメーエフ上級大将は誰にも聞こえない声でそう呟いた。
死んでこいと命じる指揮官の最後の良心である。
白ロシア前線の”西”作戦は2月14日に始まった。
ポーランドを奪還する為白ロシアからソ連軍とポーランド人民軍が押し寄せる。
BETAに対する第二の攻勢の始まりであった。
白ロシア軍管区には元々2つの戦車軍がいた。
第5親衛戦車軍と第7赤旗戦車軍である。
1979年の攻勢もこの2つが主力になってブレストまで突破した。
更に追加部隊として第16打撃軍が追加された為、白ロシア前線の突破能力と打撃力は戦前より遥かに増していた。
機甲の力は今回の”西”作戦でも活用されることになる。
前線地帯への砲撃が終了すると正面にいる第5親衛戦車軍、第7戦車軍、第3軍に攻撃命令が降った。
攻勢の要は第5親衛戦車軍、第3軍は第5親衛戦車軍の側面援護を担当し、第7戦車軍は同様に第5親衛戦車軍に続いて突破を続ける。
ちなみにこの第7戦車軍の援護は新設されたポーランド軍第2軍、旧シレジア軍管区の部隊が任されていた。
その後ろには第二梯団として第10軍、第48軍、第50軍が続き、予備軍としては第16打撃軍が待機していた。
2個戦車軍と1個打撃軍に5個諸兵科連合軍を合わせた合計8個軍、白ロシア前線全ての戦力が今ポーランド奪還の為に投入される。
今回の攻勢の為に配備された最新鋭のT-80と従来から有するT-72が先頭を切って突撃し、BETAから領土を奪還する。
第5親衛戦車軍の主力は数時間のうちに国境から30キロほど離れたビャウィストクの街を奪還し、西進を続けた。
当然ビャウィストクは跡形も残っていなかったがそこにいるBETAは殲滅出来た。
BETAは戦術的撤退を図る訳でもなく、戦力を集中させて突撃を敢行する訳でもなく、ただその場に点在していた。
これはヴロツワフ・ハイヴの指揮が間に合わなかった結果であり、前線部隊のBETAは大した組織的抵抗を見せることなく戦車軍に轢き殺された。
BETAの組織的抵抗が始まったのは最悪なことに第一梯団がワルシャワに入城し、間も無くヴィスワ川に近づく段階であった。
先遣偵察隊からの報告で数万体規模のBETAが接近中という報告が上がってきた。
BETAは人間が使う兵器とは違い橋を掛けずとも川底を泳いで渡ることが出来る。
その為渡河作戦に関してはBETAの方が圧倒的な利点があった。
この報告は当然直ちにミンスクの白ロシア前線司令部にも打電された。
第5親衛戦車軍のピョートル・レデャエフ大将はヴィスワ川手前まで前進し、BETAを迎え打つよう命令を出し、前線司令部もその判断を尊重して防衛線維持の為に戦術機部隊を展開した。
第26航空軍と第11防空軍団から拡張され大祖国戦争時の編成に戻った第2防空軍が交代で戦術機を展開してBETAの接近を阻止する。
それより少し前、ミンスクの白ロシア前線司令部はBETAに対する対応を決定していた。
「偵察隊の報告ではまず軍団規模BETA、そして後方より幾つかの師団規模BETA群が接近しています」
ヴァシロ少佐はアフロメーエフ上級大将にそう報告した。
上級大将はガシュコフ大将と共に対応を考えた。
軍団規模BETAに後方からは師団規模BETAが数個、しかも渡河前という厄介な条件付きだ。
現在第5親衛戦車軍は意図的に渡河作戦を中断し、川の手前でBETAと交戦していた。
「ここでBETAを叩き潰すのは決定として問題は何を使うかだ」
「戦略ロケット軍に核攻撃を要請しましょうか?」
ガシュコフ大将は戦略核の使用を進言した。
しかしアフロメーエフ上級大将は首を振った。
「略核の加害半径では味方も巻き込みかねん、かといって後方の師団を吹き飛ばすに使うのも忍びない」
「同志司令官、進言の許可を」
参謀のアレクサンドル・チュマコフ大佐が手を挙げた。
アフロメーエフ上級大将はすぐに彼の進言を聞いた。
「宇宙軍の戦術核を使うのはどうでしょうか。軌道爆撃であればBETAの主力を確実に飛ばせます。その間に第3軍の一部部隊を溶かして側面から殴り込めば前線の砲火力と共に殲滅出来ます」
チュマコフ大佐は地図を用いて自らの案を説明した。
それに同じ参謀のピョートル・チャウス大佐も賛同した。
彼は少将への昇進が内定しており、この作戦が終わったら別の軍の参謀長へ就任することが決まっている。
「現状第3軍は渡河出来ています。主力の戦車軍を川の向こうへ送る為にはこれしかありません」
先輩の後押しを受けてチュマコフ大佐は自身がついていた。
アフロメーエフ上級大将とガシュコフ大将は大佐の進言を取り入れた。
「よし、同志大佐の案で行こう。直ちに各軍司令部に打電。火力増強の為に第二梯団の砲兵部隊も投入しろ」
白ロシア前線は動き始めた。
司令部はまずソ連宇宙軍司令部に連絡を取って核攻撃の要請を行った。
第5攻撃衛星軍が有していた戦術核規模の対地ミサイルがワルシャワに向けて攻撃目標をセットされ、数発の陽動弾を発射された後に攻撃が始まった。
直ちにワルシャワに向けて核ミサイルを発射し、地表では眩い閃光とキノコ雲がBETAの大群を巻き込んだ。
後方展開していたBETAの主力と後続の師団規模BETA群が損害を受けた。
それでもまだワルシャワに取り付いた軍団規模BETAは残りの戦力を渡河させて戦おうと奮戦していた。
しかし後方の野砲部隊と前線の戦車部隊に阻まれ、川岸にひたすら屍を重ねた。
その間に第3軍は主力部隊がヴィスワ川を渡り切り、隷下の師団が側面攻撃の為にワルシャワ方面へ向けて進軍した。
所有するT-72やBMP-1が側面からBETAに攻撃を仕掛けた。
戦術核投入から3日ほどでワルシャワの軍団規模BETAは一掃され、ようやく第5親衛戦車軍は渡河作業に移れた。
川岸に野垂れ死ぬBETAの死骸を片付け、工兵達が橋を掛けた。
前線の防衛地点は第3軍が構築している為先遣隊もかなり余裕があった。
1時間足らずで各地に出来た橋を第5親衛戦車軍のT-80やT-72が渡っていく。
その頃には生き残った残存戦力のBETA群が再度攻勢を仕掛けてきた。
されどまず第3軍に阻まれ、最後はヴィスワ川を超えた第5親衛戦車軍の装甲の力によって粉砕された。
前線に展開されたBETAは第5親衛戦車軍の足を僅かに止めたばかりで殆どが核や砲火力によって吹き飛び、適切に運用された戦車軍に踏み潰された。
もう少し戦力を集中出来れば少しは変わったかも知れないが今となっては手遅れだ。
白ロシア前線の進撃は止まらない。
軍の前進に伴って各軍司令官は前線司令部を前へ移し、部隊を指揮した。
第3軍も指揮所をブレストまで前進させ、いつでもポーランドに入る準備をしていた。
その頃白ロシア前線の主力部隊はワルシャワ周辺を超えてクトノからトウホボ周辺に展開した。
既に隣の第1ウクライナ前線ではカトヴィツェからウッチの地点でハイヴからやってきたBETAと交戦していた。
ヴロツワフ・ハイヴからやってきたBETAの増援部隊は第1ウクライナ前線から沿バルト前線の方面に集中しており、白ロシア前線に到来したBETAの数は他と比べるとそれほど多くない。
とはいっても他の前線が3、4個軍と激突している最中、白ロシア前線は1から2個軍と戦っているだけで数は多かった。
それに白ロシア前線はBETAの前線主力を殲滅したばかりでありBETAの1、2個軍と戦うのは中々に骨が折れる。
だが既に白ロシア前線司令部は対策を各軍に伝えている。
現状白ロシア前線は第5親衛戦車軍と第3軍がヴィスワ川を渡り、第7戦車軍とポーランド軍第2軍はまだ川の手前にいた。
これを利用して第7戦車軍とポーランド軍第2軍は川を用いてBETAの進軍を阻み、第5親衛戦車軍と第3軍で側面から殴り込むことになった。
アフロメーエフ上級大将はこの作戦を実行する為に第927独立戦闘航空連隊を陽動の要員として用いた。
連隊の戦術機部隊が先行し、BETA群に攻撃を加えた。
927独立戦闘航空連隊の任務は陽動であるため、定期的に攻撃を加えては後退し、攻撃を加えては後退しを繰り返した。
後方からは砲兵部隊が援護砲撃をかけて後退を援護してくれている。
BETAはまんまと陽動に嵌り、連隊を追いかけてヴィスワ川の手前までやってきた。
ある地点までBETAの先鋒、突撃級や中衛の要撃級、戦車級が足を踏み入れた瞬間、爆発が起きた。
BETAが襲来する前に敷設された地雷である。
これらの地雷は事前に空中散布されたものであり、一切のカモフラージュはされていなかったがBETAは迷わず突っ込んで罠に引っ掛かってくれた。
貴重な装甲を持つ突撃級の何割かがここで撃破され、戦車級や要撃級も損害を負った。
突撃級が途中で死んで動かなくなった為、BETAの部隊は一時的に各所で進撃が止まった。
止まらなかった地点はソ連軍が意図的に敷設しなかった地点だけであり、それ以外は足が吹っ飛んだ突撃級や要撃級の死骸が邪魔で前進出来ずにいた。
そこへ砲兵隊が火力を投射した。
BM-21”グラード”のクラスター弾頭弾型が空中で炸裂し、地上のBETAの肉を引き裂いた。
無論後方にいる光線級や重光線級が弾頭を攻撃しようとレーザーを放っている。
されど奴らが狙っているのは全て陽動の弾頭であり、むしろ自分のいる場所を晒すだけであった。
待機中の砲兵隊に砲撃要請が入った。
砲兵隊は手持ちの2S3 アカーツィヤを用いて、まず陽動弾を、次に本命の砲弾を放った。
まず優先して狙われたのは重光線級であり、36秒という”
時間と砲弾をかけて確実に光線属種を排除していった。
その頃川岸では第7戦車軍の戦車隊やBMPが待機し、川を越えようとするBETAと交戦した。
川岸までやって来れるBETAは2種類いる。
1つは砲弾とクラスターの雨をなんとか躱してここまで来れたもの、もう1つはあえて開けられていた戦術機の後退用通路である。
基本ここも砲撃が加えられるのだが地雷で足が止まっていない為、損害は受けつつも突破は出来た。
しかし通路をBETAが超えてくることもソ連軍は織り込み済みである。
周辺には優先して戦車部隊が展開されており、BETAは戦車やIFVの集中攻撃を受けて数を減らした。
更に火消し部隊の戦術機が定期的にBETAを嬲って移動する為それほど前進出来なかった。
前進したBETAも川中に設置された機雷に触れて爆散した。
こうした戦闘は数日間続き、BETAは渡河作戦に時間をかけ過ぎた。
その頃には側面から第5親衛戦車軍と第3軍の攻撃を受け、二正面から集中攻撃を喰らっていた。
第3軍は稀にこちらに接近するBETAを受け止めつつ、第5親衛戦車軍の戦車突撃を援護した。
一部地点では光線属種が減少したことにより戦術機による核攻撃も始まっており、BETAの数は更に減った。
なおこの間、定期的にウッチに展開した第4軍から援護砲撃を受けており、第3軍と第5親衛戦車軍の火力は通常の1.2倍はあった。
同じ段階で沿バルト前線は戦略核攻撃を要請してBETAの大群を撃破した。
白ロシア前線も通常兵器と核攻撃を交えた二正面攻撃でBETAの突撃力と物量を抑え、数を徹底的に減らした。
第3軍の野戦司令部では逐次戦果の報告が入ってくる。
「前線の第56自動車化狙撃兵師団、接触した連隊規模BETA群を殲滅、なおも前進中」
「第780戦闘航空大隊、第56自動車化狙撃兵師団と合流。現在大隊規模BETA群と交戦中とのことです」
「第5親衛戦車軍は」
軍司令官のシュラリョフ大将は参謀達に尋ねた。
「15分前の報告では軍団規模BETA群を掃討、現在も進撃中とのことです」
ブラート・リトヴィネンコ少佐はシュラリョフ大将にそう報告した。
少佐は第3軍の参謀であり、スヴォーロフ軍学校を卒業後は暫く極東軍管区の第56自動車化狙撃兵師団に配属されていた。
同師団は第3軍編成の為に極東から欧州へ移動となり、その時リトヴィネンコ少佐も軍参謀の1人に列せられた。
まだ若く将来有望な将校であり、後20年もすれば彼は間違いなく中将まで昇進しているだろう。
事実、リトヴィネンコ少佐は別の世界において国連軍主導のある作戦で、ソ連軍の総司令官を務めることになるのだがこの世界では関係のない話だ。*1
「この調子でいけば今日中にBETAは殲滅出来ます」
ボイコ少将は報告を聞いていたシュラリョフ大将にそう耳打ちをした。
シュラリョフ大将は頷きもう1つ尋ねた。
「第16打撃軍と第二梯団の状況は」
「突破に成功しています、連中の主力は全て我々で受け持っているようで残りはさして多くはないという報告を受けています」
リトヴィネンコ少佐の報告を聞いてシュラリョフ大将は決意を固めた。
現在第一梯団がBETAの1個軍を対処している為急遽予備戦力の第16打撃軍を攻勢の主力とし、第二梯団を構成する第10軍、第50軍を用いて代わりの攻勢部隊を編成した。
現在はその部隊を用いて前線を押し上げており、第48軍と第1ウクライナ前線の支援によって白ロシア前線は縦深攻撃を続けていた。
「では予備の第204自動車化狙撃兵師団を投入して最後の一押しをかける。今日でBETAの主力野戦軍を撃滅するぞ」
シュラリョフ大将の命令によって第3軍は抱えていた最後の師団を投入した。
彼の目論見通り、BETAの殲滅は今日中に終わった。
白ロシア前線の前でBETAは2つも大部隊を喪失した。
このツケは領土とハイヴによって贖われることをヴロツワフ・ハイヴの頭脳級はまだ知らない。
1台のUR-77”メテオリト”から物凄い勢いで有線の物体が川岸に投擲される。
地雷とBETAの死骸撤去用の導爆索であり、投擲から数秒後、工兵の指示で爆発した。
邪魔な戦車級や要撃級の死骸が取り除かれ、そこを先遣隊のBTRや戦車が通過した。
その間に工兵隊は架橋作業に入り、手際よく向こう岸に橋をかけた。
橋がかけ終わるとまずはブルドーザーや工兵車両など、工兵隊の車両が先行した。
「先にブルドーザーを通せ!BETAの死骸を退ける!」
工兵中佐の陣頭指揮で車両の通過は難なく行われた。
UR-77やIMR-1が先行し、近くに転がっているBETAの死骸を片付けた。
戦車級や要撃級の死骸をUR-77の導爆索で吹き飛ばし、IMR-1が数輌集まって突撃級の死骸を退けた。
殆どの地雷はBETAが踏みつけたことにより爆破しており、残りは少なかった。
ある程度片付けが終わったらいよいよ本命の戦車部隊やIFV、兵員輸送者が橋を渡っていく。
工兵隊はその間も端のチェックや増設などを行い、TO-55などを通して大地を炙ってBETAの汚染を防いだ。
第1ウクライナ前線の工兵がそうだったように白ロシア前線の工兵にも休みはない。
地雷を撒き、或いは撤去し、陣地を構築して橋をかけ、BETAの死骸を片付ける。
必要に応じて復興業務にも携わり、軍民双方で活躍した。
反対側から1人の工兵上級中尉が走って戻ってくる。
中佐は彼に敬礼し、「どうだった向こうは」と尋ねた。
「地雷に関しては粗方吹き飛んでて手を加える必要はありませんでしたが問題は死骸ですね!数が多い上に重いんでかなり人手を食ってます!」
上級中尉は移動する戦車のエンジン音に負けないくらいの声量で報告した。
中佐の隣には第7戦車軍隷下の第7独立浮橋・橋梁大隊の大隊長である少佐が控えていた。
少佐は既に橋の設置を終え、後の任務は交通整理だけであった。
一方の工兵中佐は作業監督の為に第110後方支援旅団から派遣されてきた者であり、全体の工兵作業の監督が任務であった。
「とにかくどかすことに専念しろ!数が足りないなら俺が旅団長に掛け合ってくる!」
「了解!」
命令を受け取ると再び上級中尉は橋の反対側に戻っていった。
中佐はすぐに近くの指揮所に行って地図に状況を記載した。
「うちの車両は全部向こうに送りました。これでダメなら旅団から増援を引っ張ってくる他ありません」
第399独立工兵大隊の大隊長はそう進言した。
前線では今の所副大隊長の大尉が指揮を取っており、BETAの死骸撤去が進んでいた。
「ああ、分かってる。少佐、向こうで直接指揮を取ってどんな状況かこっちに伝えてくれ。それによってどうするか考える」
「了解!」
少佐は指揮所を出てすぐに川の反対側へ走った。
その間にも中佐は不安そうな表情で作業の進行状況を見守った。
工兵隊の一連の作業は軍全体の進撃速度に直結する。
軍の進撃速度は時として勝利そのものを左右する重要なものだ。
中佐の肩に掛かる責任は大きかった。
「頼むぞ……同志工兵隊の諸君……」
中佐は祈るようにそう呟いた。
彼の心配とは裏腹に第7独立浮橋・橋梁大隊も、第399独立工兵大隊も、第110後方支援旅団もかなり手際が良かったと言える。
架橋作業とBETAの死骸及び地雷撤去を速やかに終えた第7戦車軍は再び第5親衛戦車軍と共に攻勢を開始した。
”西”作戦第一段階における最後の攻勢である。
第3軍はポーランド軍第2軍と共に臨時の第二梯団を編成し、第16打撃軍らの代わりにポズナン方面へ向かった。
両戦車軍共に連戦で疲弊していたがそれでも士気は旺盛であった。
この頃にはある程度戦線が落ち着いてきた第1ウクライナ前線と沿バルト前線の支援を受けることが出来るようになっており、戦線の両翼から砲と戦術機の援護が度々現れた。
更にこの時点で全域で凡そ12個軍規模のBETAを喪失しており、抵抗も2月14日の時点よりかなり低下していた。
これらの要因があってか疲弊していた白ロシア前線の戦車軍であっても3月17日の時点で白ロシア前線はポズナンを奪還し、3月20日にはヨルダノボに到達していた。
ヨルダノボは白ロシア前線に定められた攻勢の最終到達地点であり、これによってソ連軍は3月21日の時点で攻勢の成功を公式に発表した。
先行した第16打撃軍らは途中で第1ウクライナ前線と合流し、ヴロツワフ・ハイヴ周辺に包囲網を形成。
第5親衛戦車軍と第7戦車軍は戦力回復の為に後方へ下げられたが、残りの軍は包囲網とベルリン・ハイヴから襲来するBETAの警戒線に回された。
二度に渡るBETAとの決戦に勝利し、白ロシア前線は目的を果たした。
白ロシア前線にとっての”西”作戦はこれにて一旦終了したのだった。
-ソ連領 白ロシアSSR 首都ミンスク 白ロシア前線司令部-
”西”作戦の第一段階が終了し10日の月日が過ぎた。
ヴロツワフ・ハイヴは以前沈黙を貫いたままで、ベルリン・ハイヴのBETAは東進を続けるNATO軍及び在独ソ連軍の対応でポーランド国境まで迫るソ連軍に対処出来なかった。
その為暫くは落ち着いた日々が続いた。
その間にソ連軍は昇進や勲章授与式を進め、部隊を再編し、人事の移動を行なった。
特に損害が大きい部隊では新しい人員や装備が補充され、何人かの経験を積んだ将兵は新兵を教育する為に軍学校に招集された。
それだけでなく、各所で様々な経験を積んだ参謀達も移動の命令が降った。
ミンスクに召還されたリトヴィネンコ少佐も同様である。
彼は緊張した面持ちでミンスクの前線司令部へ向かった。
ミンスクは荒廃したポーランドとは違い人間の住まう場所であった。
かつてはポーランドもこれくらい発展した、全てBETAによって粉砕されてしまった。
いつかポーランドも今のミンスクのように復興するのだろうか、後ろ向きな疑問が少佐の頭を何度も過った。
漠然とした不安に駆られながら司令部へ出頭する。
司令部に入ると1人の大尉が少佐を案内し、前線司令部の作戦室まで連れられた。
司令部からは軍司令部の参謀達と同じような疲れ果て、精魂尽き果てたような顔つきの将校が何人も出てきた。
こうなっても仕方ない、参謀の仕事はそれだけ忙しいのだ。
リトヴィネンコ少佐はこれでもミンスクへの移動中に久方ぶりにゆっくり休めた為、まだマシな方であった。
それでも彼の目には中々消えない隈が出来たままだったが。
「失礼します同志上級大将、リトヴィネンコ少佐をお連れしました」
大尉は作戦室の地図の前にいるアフロメーエフ上級大将に敬礼し報告した。
少佐も一歩前に出て「ブラート・リトヴィネンコ少佐であります」と挨拶した。
「よく来てくれた同志少佐、こんなところで悪いが早速移動命令を渡そう」
気を利かせたチュマコフ大佐がアフロメーエフ上級大将の鞄から1枚の書類を取り出した。
「ありがとう、これが君への移動命令だ」
少佐は紙を受け取った。
そこにはソ連軍大本営名着でリトヴィネンコ少佐の移動命令が書かれていた。
「第3軍から第1ウクライナ前線へ移動せよということですか?」
リトヴィネンコ少佐は思わず尋ねた。
アフロメーエフ上級大将は頷き、補足を行う。
「ああ、そうだ。各所での経験はソ連軍全体に反映されなければならん。君が第3軍で得た経験は必ず第1ウクライナ前線で役に立つだろう」
リトヴィネンコ少佐はもう一度命令書を隅々まで目を通した。
確かにそこには第1ウクライナ前線司令部への移動命令が記されていた。
「私に務まるでしょうか」
「同志ヤゾフは君を必要としている、それに君が第1ウクライナ前線で学ぶことは多いはずだ。この祖国と世界の危機において軍人としての経験は100人以上の命を救うことに繋がる。同志ヤゾフの下で経験をつめ少佐、同志は君を待っている」
アフロメーエフ上級大将の言葉を聞き、リトヴィネンコ少佐は敬礼した。
「ハッ!直ちに軍司令部へ戻り、移動の準備をします」
「ああ、よく来てくれた」
上級大将も敬礼を返し、リトヴィネンコ少佐は作戦室を後にした。
正直、この時のリトヴィネンコ少佐は期待と不安の半々であった。
軍よりも巨大な前線という部隊でどの程度自分が役に立てるのかという不安と、ソ連邦元帥ヤゾフの下で戦えるという喜びだ。
数日後、将兵を乗せた輸送機がバラノーヴィチ航空基地から飛び立った。
行き先はキエフ、第1ウクライナ前線司令部。
ヤゾフの下に新しい部下が1人増えようとしていた。
つづくかも