マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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海へ、大洋へと進む
我らソヴィエトの大海軍
砲火で我らに向かう者から
勝利を手に入れるのだ!
艦隊無くして水兵は無い
軍艦は水兵の家だ
だが必要とあらば、歩兵と共に
敵への戦列に加わる!
-”行進する水兵”より抜粋-


沿バルト前線から見た西方-ザーパド81③

-ソ連領 ロシアSFSR カリーニングラード州 ポーランド国境沿い 第6親衛戦車軍担当戦区-

2月14日の沿バルト前線。

 

この日将兵は戦闘準備を整え、攻勢の命令に備えて国境沿いで待機していた。

 

夜明け近くのカリーニングラードはまだ薄ら暗く、そして2月ということも相まってか寒かった。

 

第一梯団の要である第6親衛戦車軍はこの日全戦車部隊を攻勢の為に待機させ、攻勢命令を待っていた。

 

第6親衛戦車軍はチェルニャホフスクに司令部を構え、隷下の師団を統括した。

 

元々ザバイカル、ウクライナを転々とした親衛戦車軍であるが、ここ数年は沿バルト前線に腰を据えている。

 

このカリーニングラードを奪還したのも第6親衛戦車軍の働きあってこそだ。

 

同軍はT-64BV、そして最新鋭のT-80、T-72を有す沿バルト前線の戦車戦力の要であり、その突破力は他の親衛戦車軍に引けを取らない。

 

軍司令官はウラジーミル・オシポフ大将、参謀長はヴァレリー・ソコロフ中将であり、2人ともチェルニャホフスクの司令部で攻勢の時を今か今かと待ち侘びていた。

 

外では何度も砲撃の音が響き渡り、それはまるで日本の花火のような音だった。

 

最後の数発を皮切りに、それ以降砲声は聞こえなくなった。

 

司令部でもそれは感知しており、オシポフ大将は「いよいよか…!」と喜びの声を上げた。

 

砲撃の終了とほぼ同時刻にリガの沿バルト前線から命令が届いた。

 

補充兵として配属されたラトヴィア出身のエルヴィンス上級中尉がそれに受け答え、すぐ司令官に伝えた。

 

「リガの前線司令部より命令です。第6親衛戦車軍は作戦通り攻勢を開始せよ……だそうです」

 

オシポフ大将の目つきが変わった。

 

彼の瞳は犠牲も厭わない鉄の指揮官の目となったのだ。

 

「直ちに隷下の師団に通達せよ、作戦を開始せよと」

 

「はい!」

 

エルヴィンス上級中尉は走って持ち場に戻った。

 

他の通信士官達も各師団司令部に連絡を取り、軍司令官本人の命令を全部隊に伝えた。

 

いよいよ沿バルト前線も動き始める。

 

師団から連隊へ、連隊から大隊へ、大隊から中隊へ、中隊から小隊へ命令が伝わり、各種戦車がエンジンを吹かして動き始める。

 

ガソリンと鉄の匂いが辺りに充満し、轟音を掻き立てながら戦車は前へ進んだ。

 

カリーニングラードから4つの戦車師団と1つの自動車化狙撃兵師団がポーランドへ向けて前進する。

 

司令部にBETAとの会敵が報告されたのは前進の命令を出した僅か20分後であった。

 

第22親衛戦車”チェルカッシィ”赤旗・ボグダン・フメリニツキー勲章師団の戦車隊である。

 

準備砲撃を受けて瀕死の戦車級と偶然出会し、T-64の戦車砲で吹き飛ばしたのが沿バルト前線における最初の戦闘であった。

 

それ以降BETAとの接触は時間が経過するごとに増加していった。

 

それでも事前の準備砲撃が効いており、殆どのBETAは瀕死か戦闘力がだいぶ削がれていた。

 

「各師団、BETAと会敵しこれを打ち破っているようです」

 

ソコロフ中将は入ってきた報告の内容を簡潔にして呟いた。

 

ちなみにこのソコロフ中将、ソコロフという名前は数多くいるが彼の父はソ連邦元帥セルゲイ・ソコロフの子であった。

 

大祖国戦争の前年に生まれ、幼少を戦争と共に過ごした。

 

それから父同様ソ連軍の道に続き、BETA大戦で気付けば中将まで昇進していた。

 

なお弟のウラジーミル・ソコロフも同じ軍人であり、大佐として今は在独ソ連軍にいる。

 

遠く離れた場所で勤務する父と弟が心配ではあるが、きっと切り抜けるだろうと信じて自らも職務に集中していた。

 

「このまま順調に進めばいいが……必ずどこかで連中の主力が出てくるはずだ」

 

無論出てくるBETAの主力もオシポフ大将は撃滅するつもりでいた。

 

第6親衛戦車軍の力を使って、必要なら”()()()()()()”も使ってだ。

 

「チカロフスクの航空基地には戦術核搭載の航空部隊が待機しています。ご命令があればいつでも出撃出来ると」

 

「第50ロケット軍は」

 

「要請があれば司令部の判断によって使用を許可すると」

 

カリーニングラードやリトアニアには第50ロケット軍の部隊が点在していた。

 

BETA大戦によってこれらの部隊は更に後方へと下げられたが第50ロケット軍は沿バルト前線と密接な連携にある。

 

特に前線司令官にはある程度の裁量権が認められ、本作戦は前提としてブレジネフにより戦略核の使用が許可されている為、軍司令官から要請が出て前線司令官が許可を出せば戦略核が使えた。

 

それでも戦略核の使用は最後の手段、必殺技ともいうべき代物でそう易々とは使えなかった。

 

戦術核もそうだがこれらの兵器は無駄弾を撃てるほど安くはなかった。

 

「略核まで使わなければいいのだがな……まあそんな甘い相手でもないか」

 

「BETAの物量が依然健在なら使わざるを得ないでしょう。それでにポーランドの街並みはもう……」

 

目線を落としながらソコロフ中将はそう呟いた。

 

中将や大将はよく宇宙衛星による偵察写真を見ている為今のポーランドがどういう状態か少しは分かっていた。

 

あそこにかつてのポーランドはもうない。

 

その為戦略核を使っても特段変わった影響はない。

 

既にポーランドは蹂躙された後だ。

 

むしろここで核を使って早期に奪還し、なるべく早く復興に入った方が遥かに効率的であった。

 

「そう声に出すな、どの道BETAとの決戦は避けられん。その時は略核の出番だ」

 

ソコロフ中将は頷いた。

 

一兵卒から上級大将に至るまで、誰もBETAへの全面攻勢がこの程度で終わるとは思えなかった。

 

故に覚悟を決めてその時を待った。

 

BETAの主力部隊と全力で激突するその時を。

 

沿バルト前線の西進はかくして始まった。

 

 

 

 

-欧州方面 バルト海 ソ連海軍バルト海艦隊-

シドロフ大将、カリーニン中将らを乗せた旗艦”ジダーノフ”は12日前の2月2日にタリンの軍港から出港した。

 

既にレニングラードに駐留する艦隊とクライペダ、リアパーヤからも艦隊が出撃し、バルト海艦隊は全戦力を持ってポーランドの沿岸部に砲撃を加えた。

 

今回は東西双方からの攻勢ということでNATO軍の艦隊戦力も砲撃に加わった。

 

米海軍第6艦隊を筆頭に、イギリス王立海軍からはHMS”アーク・ロイヤル”、HMS”インヴィンシブル”を主力とした任務部隊を展開し、フランス海軍は空母”クレマンソー”を中心とする任務部隊を展開した。

 

ソ連海軍バルト海艦隊はグディニャ、グダニスクの着上陸支援と攻勢を開始前の準備対地攻撃に専念し、スウプク以降の対地攻撃はNATO海軍の担当戦区となった。

 

スヴェルドロフ級の砲撃によって沿岸部のBETAは吹き飛び、駆逐艦、旧対潜艦らのミサイル攻撃で沿岸部にいるBETAは粗方掃討される。

 

艦隊は可能な限りグダンスク湾に入り、援護を続けた。

 

出来れば戦車級1匹だろうと存在させておきたくはない為、徹底的に叩いた。

 

バルト海艦隊による対地攻撃は実は作戦開始が命令される1時間前には実行されていた。

 

沿岸部のBETAを吹き飛ばすだけなら仮に作戦を一時停止したとしても意味のある攻撃にはなる。

 

バルト海艦隊は定期的に沿岸部に接近するBETAを対地攻撃で吹っ飛ばしている為ここまではいつもの任務であった。

 

「上陸地点のBETAは凡そ9割撃破、現在残りも掃討中です」

 

「光線属種は」

 

「レーダーに映る高熱原体は全て撃破しました」

 

報告を聞いたシドロフ大将は速やかに命令を出した。

 

「”ヴァリャーグ”、”キエフ”に打電、直ちに戦術機部隊を展開し、上陸地点を確保せよ」

 

「了解…!」

 

ジダーノフ”からの命令はすぐに艦列の後方に位置する”キエフ”、”ヴァリャーグ”海軍航空師団に伝達された。

 

ヴァリャーグ”のブリッジでは海軍戦術機部隊の航空隊を展開し始めていた。

 

MiG-23K、”ノヴォロシースク”に配備されているのと同じ戦術機が”キエフ”にも”ヴァリャーグ”にも配備されていた。

 

アングルド・デッキから次々とMiG-23Kが発艦する。

 

甲板では水兵達が誘導し、MiG-23Kはその誘導に従って甲板から発艦した。

 

青く塗装されたMiG-23Kは薄暗く冷たい海を飛び越えた。

 

「1992004、1992018、発艦。グレシュコ大尉の小隊は全機発艦しました」

 

「ゴロヴァノフ機出ます、先行部隊はボルゾフ中佐が指揮を取っています」

 

「発艦急がせろ、残りは3分以内に上げるんだ」

 

ヴィクトル・ゴキナエフ大佐はブリッジで報告を聞いて命令を出した。

 

彼は”ヴァリャーグ”に来る前はキエフ級”ミンスク”の艦長を務めており、ソコロフ少将同様に航空戦力の運用に経験豊富な海軍将校であった。

 

隣でソコロフ少将も険しい顔で発艦し続けるMiG-23Kのことを見ていた。

 

上陸作戦において戦術機の援護は乗り込む海軍歩兵部隊の生存率向上に繋がる。

 

先行してBETAを迎撃し、安全地帯を確保することで貴重な陸上戦力を可能な限り無傷で送り込めるのだ。

 

「”キエフ”より入電、艦載機部隊は全機発艦、現地点で待機するそうです」

 

「各機に伝えろ、”キエフ”の隊と連携してグディニャ、グダニスクから敵を一掃しろ。ないとは思うが光線級には気をつけろ」

 

ソコロフ少将の命令を受け取ったMiG-23K達は”キエフ”の航空部隊と合流して上陸地点のBETAを一掃した。

 

R-60は要撃球を容易く撃破し、突撃砲は一撃で戦車級を撃破する。

 

MiG-23Kの上陸から5分後、”ヴァリャーグ”から発艦した連隊長から”上陸可能”の報告が”ヴァリャーグ”と旗艦”ジダーノフ”に報告された。

 

即座に”ジダーノフ”のシドロフ大将は2個海軍歩兵旅団に上陸するよう命じた。

 

775大型揚陸艦(ロプーチャ級)と民間から徴収した大型船舶が待機中のMiG-23Kに援護され、海岸沿いへと急いだ。

 

バルト海艦隊は定期的に沿岸沿いに砲撃を加えてBETAの接近を阻止していた為グディニャとグダニスクの港湾施設は辛うじて原型を留めていた。

 

その為大型船舶や揚陸艦であれば停泊可能であった。

 

「まもなく上陸地点です!」

 

「旅団全隊に上陸準備を始めさせろ」

 

「了解!」

 

775型”BDK-47”のブリッジでアトラコフスキー大佐は自身の旅団に指示を出した。

 

舟は波に揺れ、ブリッジからはほぼ更地になったグダニスクの街並みが見えた。

 

揚陸船団はグディニャとグダニスクの湾口に突入して接岸した。

 

即座に搭載されたT-55AMやPT-76、BTRが展開され、海軍歩兵がポーランドに上陸した。

 

沿バルト前線の将兵がポーランド国境を越える7分前に上陸した為、ソ連軍で一番最初にポーランドに足を踏み入れたのは海軍歩兵であった。

 

ソ連海軍所属第336独立海軍歩兵旅団、第61独立親衛海軍歩兵旅団が最初にポーランドへ足を踏み入れた。

 

第336独立海軍歩兵旅団はグダニスクの制圧を任され、もう一方の第61独立親衛海軍歩兵旅団はグディニャの制圧を任されている。

 

既に第336独立海軍歩兵旅団はグダニスクを制圧し野戦司令部と補給地点を設置し、旅団は前へ進んだ。

 

第336独立海軍歩兵旅団はトチェフからシンバルク、シャラコビツェの地点まで前進し、前線を押し上げた。

 

アトラコフスキー大佐の指揮の下、T-55AMと”キエフ”、”ヴァリャーグ”から発艦したMiG-23Kが前面に展開するBETAを蹴散らした。

 

装備は沿バルト前線の第6親衛戦車軍などには劣るが要請を出せばすぐにバルト海艦隊の援護攻撃が展開された為、容易にBETAを撃滅出来た。

 

MiG-23Kは定期的に母艦か物資集積地点に戻って補給を済ませ、前線に出て海軍歩兵達を援護した。

 

黒服の水兵達はBETAを押し上げ、人間の領域を広げる。

 

旗艦”ジダーノフ”に目標地点までの前進が報告されたのは上陸から僅か17時間後のことであった。

 

「第336海軍歩兵旅団より報告、我が旅団はトチェフを占拠、彼の地に旗を立てただそうです!」

 

「そうか、全艦に伝達せよ。対地攻撃の手を緩めるな、本隊の沿バルト前線が到着するまで旅団を持たせる」

 

「了解」

 

海軍歩兵旅団より重装備を持つ沿バルト前線の主力と合流すれば勝ちは決まる。

 

それまで海軍だけで占領地を維持しなければならない。

 

「参謀長、NATO海軍の状況は」

 

ふとシドロフ大将はカリーニン中将に1つ尋ねた。

 

「対地攻撃を成功させています。英仏軍の海軍航空隊は第61独立親衛海軍歩兵旅団をよく援護してくれています」

 

英仏海軍はHMS”アーク・ロイヤル”、HMS”インヴィンシブル”、空母”クレマンソー”から定期的に戦術機を飛ばしてグディニャの第61独立親衛海軍歩兵旅団を援護していた。

 

これによりソ連海軍の空母航空師団は第336独立海軍歩兵旅団に集中させることが出来、全軍の負担が減っていた。

 

「大きすぎる借りだな、さて今度はどう返したものか」

 

シドロフ大将は冗談混じりにそう呟いた。

 

実際フランス海軍もイギリス王立海軍もかなり無理をして海軍戦力を抽出している。

 

特にイギリスは未だにセントー級以降の航空母艦を戦術機運用能力を付け足して維持し続けている。

 

その苦労は涙ぐましいもので、ほぼ意地ともいうべき苦労でジョンブルの魂を見せていた。

 

そんな西側の戦友に対し、何か返さなければ示しがつかない。

 

だが今回ばかりはその必要はなかった。

 

「ご安心を司令官、借りなら既に返していますよ」

 

「誰がだね?」

 

シドロフ大将は聞き返した。

 

「”西に取り残された同志達(在独ソ連軍)”ですよ」

 

シドロフ大将は納得し、彼らのことを思って何も言わなかった。

 

「では、我々も意地を見せなければな」

 

シドロフ大将は静かに覚悟を決めた。

 

彼らの為、祖国の為、ポーランドの為、世界の為、沿バルト前線はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

沿バルト前線は攻勢開始から数日のうちにオルシュティンを占領し、グルジョンツまで進軍した。

 

3つある前線の中で沿バルト前線の進撃速度は一番早く、真っ先に渡河作戦に取り掛かることが出来た。

 

これには様々な理由がある。

 

1つは沿岸部を定期的にバルト海艦隊が攻撃していた為戦力が大分失われていたこと、もう1つはBETAの主力が白ロシア前線に集中していたことである。

 

またカリーニングラード奪還の際にBETAの戦力をそこそこ撃破したのも大きかった。

 

こうした理由から沿バルト前線は3つの前線の中で最も早くヴィスワ川までの道を切り開いた。

 

しかも沿岸部に最も近いポーランド軍第3軍は既に海軍歩兵旅団が展開していた橋を用いることが出来た為、進撃速度が停滞することはなかった。

 

真っ先に川を渡ったポーランド軍第3軍は主力の第6親衛戦車軍のとかを援護する為に一部部隊を展開し、BETAを押し退けた。

 

その間に工兵隊が急いで橋を掛け、掛かった橋を第6親衛戦車軍の主力部隊が渡った。

 

これ以降も沿バルト前線が激突する敵はそれほど大きくはなかった。

 

その為リガに位置する沿バルト前線司令部では逆に参謀達や司令官が不安になり始めていた。

 

「第6親衛戦車軍は渡河に成功、左翼の第11親衛軍も同様に渡河に成功し再び進撃を続けています。続く第4打撃軍、第2親衛軍、第39軍も渡河を開始しました」

 

「第11親衛軍、連隊規模BETA群と交戦中」

 

「第15航空軍よりポーランド軍第3軍正面の連隊規模BETA群を撃滅したとの報告が入りました」

 

「参謀長」

 

ゴヴォロフ上級大将は深刻な表情でスティチンスキー大将に尋ねた。

 

「はい」と短く一言だけ、スティチンスキー大将は答える。

 

「流石に……我々は進み過ぎではないか……?」

 

ゴヴォロフ上級大将が呟いたその一言は明確な不安であった。

 

進軍が上手く行っているということが今の彼にとっては若干の不安になりつつあった。

 

何せ全てが上手く行き過ぎている、普通ならもう少しBETAの抵抗があるはずなのだがとゴヴォロフ上級大将は考えていた。

 

参謀長も同じ思いであったし他の参謀達も同様だ。

 

BETAとの接触が報告される度に参謀達は「ついに主力とぶつかったか」と不安になりながらも期待していたが結局は違った。

 

むしろここまで来るとBETAの主力部隊と戦いたいまであった。

 

多少の犠牲を覚悟してでもBETAの主力とぶつかってこれを打ち破って後顧の憂いを断った方が楽だ。

 

今のようにいつ敵の主力とぶつかるか分からない状態で作戦行動を続けるのは逆に参謀達にとって精神的負担となった。

 

「ですが現状、白ロシア前線がBETAの前線主力と戦闘中という報告が入ってきています。恐らく連中の主力はそちらかと」

 

「だといいのだがな……いや、むしろそうであることに賭けて我々が縦深を稼いで白ロシア前線の同志を助けてやらねばならん」

 

「はい」

 

ゴヴォロフ上級大将は心持ちを決めた。

 

どの道敵の主力とぶつかるのなら距離は稼げるだけ稼いだ方がいい。

 

ヴィスワ川を渡った沿バルト前線は左翼の第11親衛軍がビドゴシュチを制圧し第6親衛戦車軍はソシノの地点まで前進した。

 

突破された前線を第二梯団がひたすら拡張し、BETAを根絶やしにする。

 

第6親衛戦車軍が間も無くビエンツボルグの旧市街地を奪還しようという時に彼らは現れた。

 

ヴロツワフ・ハイヴから送られてきた増援部隊が沿バルト前線の進撃を食い止めにきたのだ。

 

これらの報告は最前線の部隊が会敵する前にソ連宇宙軍の第3偵察衛星軍からの偵察情報によって掴んだ。

 

数個軍規模のBETAが沿バルト前線の方向を目指して進撃中という内容であった。

 

以下の情報を取得した沿バルト前線では早速作戦が立てられた。

 

作戦参謀達は頭を捻り、どうやってこの数個軍を殲滅するかを考えた。

 

「核攻撃を行うのは前提として問題は何を使うか、どう通すかです。あの数個軍には重光線級と光線級が確認されている為下手な攻撃では通りません」

 

ヴァレリー・ミロノフ大佐は参謀達と前提を共有した。

 

他の参謀達も黙って彼の話を聞いている。

 

そんな中、1人の大佐が手を挙げて意見を述べた。

 

イーゴリ・プザノフ大佐だ。

 

「同志上級大将、この場合は戦略核を用いてBETAの4個軍を焼いてしまいましょう。幸いにも我々には第50ロケット軍がいます」

 

「ではどう防空を剥がす?また防空を剥がしている間どう敵を食い止める?」

 

ゴヴォロフ上級大将が参謀達に尋ねた。

 

プザノフ大佐の発言通りに戦略核を撃ったとしても迎撃されれば意味がない。

 

先んじて光線属種を排除する必要がある。

 

「宇宙軍の通常弾頭であれば安く防空を剥がせます」

 

そう発言したのはウラジーミル・ティムチェンコ大佐、ソ連空軍出身だがソ連宇宙軍との連絡将校を務めていた。

 

実際宇宙軍の通常弾頭を用いて軌道爆撃を叩き込むのはアリだった。

 

問題はソ連宇宙軍にそれだけの余裕があるかということだ。

 

「ではどの部隊を使う?」

 

「第2攻撃衛星軍、第16攻撃衛星師団なら空いています。命令があればいつでも攻撃出来ます」

 

「分かった、その案で行こう」

 

ティムチェンコ大佐の返答は素早く、説得力があった。

 

後はどうやって迫り来るBETAを受け止めるかだ。

 

「現状前線には第6親衛戦車軍、ポーランド第3軍、第11親衛軍がいます。1日あれば第4打撃軍は到着します」

 

スティチンスキー大将はそう報告した。

 

「コジュバフテーエフ中将、地雷の空中散布はまだ間に合うか?」

 

沿バルト前線作戦部長ヴィクトル・コジュバフテーエフ中将は簡潔に答えた。

 

「大型機だと難しいですが戦術機やヘリならいけます」

 

「第一梯団各軍に通達、各軍は現地点で進撃を停止し防御陣地を構築。前方3キロを地雷原として侵入を禁止しBETAの進撃を阻止せよ」

 

「了解…!」

 

作戦がある程度決まれば実行命令を出すのは早い方が良かった。

 

直様ゴヴォロフ上級大将が各員に指示を出す。

 

「ティムチェンコ大佐は直ちに宇宙軍に光線属種の排除を要請。プザノフ大佐は第50ロケット軍に連絡して攻撃準備に入らせろ。第149砲兵師団も前に出せ」

 

「了解!」

 

「了解…!」

 

「各軍司令官にはBETAの規模と以上の作戦内容を伝えろ。ここがBETAとの決戦場だぞ、みんな覚悟を決めろ」

 

この発言で最も覚悟を決めたのはゴヴォロフ上級大将だった。

 

間違いなくこれから到来するBETAは4個軍近い戦力がある。

 

それを光線属種が可能な限り減るまで攻撃を受け止め、戦略核で確実にトドメを刺さなければならない。

 

中々負担の掛かる作戦だがやるしかなかった。

 

命令は1分もせずに全軍に通達され、ヘリコプターと空中散布用地雷を持ったMiG-21やMiG-23、Su-24が前線から3キロ先の地点に向かう。

 

空中散布によって即座に地雷原を構築し、航空部隊は直ちに基地へ帰投した。

 

その間に各軍は可能な限りの陣地を構築した。

 

塹壕を掘り、部隊の配置を決め、必要に応じて地上の工兵隊が地雷を増やした。

 

BETAの主力が各戦線に到来したのはこれより僅か1日後であったが最低限の準備は出来た。

 

最前衛を務める突撃級が地雷原に到達し手足を吹っ飛ばされて動けなくなる。

 

前線が詰まり、進撃速度が著しく低下したところに各軍の砲兵隊と前線直轄の第149”ネマン”赤旗・スヴォーロフ・クトゥーゾフ・アレクサンドル・ネフスキー勲章師団が砲撃を加える。

 

榴弾砲やクラスター弾で要撃級や戦車級はかなり数が減らされ、前線地帯に死骸を増やした。

 

それでもBETAはお構いなしに突っ込んでくる。

 

4個軍という膨大な数は3キロはあった地雷原を大量の犠牲と共に突破し、ついに軍とBETAの直接戦闘となった。

 

各所でBETAはジワジワとソ連軍を押していく。

 

これでも1970年代前半の混乱期よりは対処法が確立した方だ。

 

第一梯団は押されつつも第二梯団の援護砲撃を受けて持ち直し、BETAの反撃を抑えた。

 

その間に第2親衛軍と第11親衛軍、ポーランド軍第3軍と第4打撃軍が両翼からBETAの集団を叩いた。

 

これ以上BETAの進行範囲が広がらないようにする為であり、必然的にBETAは密集した。

 

こうして前線を沿バルト前線が抑えている間にソ連宇宙軍は光線属種狩りを始めていた。

 

第2攻撃衛星軍第16攻撃衛星師団は軌道上からまず重光線級を蹴散らし、次に光線級、そして怪しい要塞級を叩き潰した。

 

最初は第16攻撃衛星師団だけだったがすぐに他の師団も攻撃に参加し、3日後には7、8割方の光線属種を始末した。

 

その間に地上では戦術核を積んだSu-24が度々前線に迫るBETA群を吹っ飛ばし、各種野戦軍がBETAを迎撃していた。

 

7、8割方の光線属種が始末されたことにより沿バルト前線司令部は第50ロケット軍に戦略核攻撃を要請した。

 

司令部からの応答に戦略ロケット軍が応えるのは早かった。

 

 

 

 

 

第50ロケット軍、隷下の師団は基本的にRSD-10”ピオネール”かR-12、R-14地上発射型多段式中距離弾道ミサイルを有している。

 

司令官はユーリー・ヤシン中将であり、レニングラード州の比較的無人地帯に部隊を展開していた。

 

隷下の第23親衛ロケット”オーフス=ベルリン”レーニン・赤旗勲章師団も同様である。

 

司令官ヴィタリー・モローズ少将は緊張した面持ちで汗を握り締めながら部隊へ通達する無線機を持っていた。

 

43歳で少将となった彼も緊張することはまだある。

 

特にこの1発で戦争の行く末が変わるとならば尚更だ。

 

「同志少将、まもなくです」

 

「ああ、そうだな…」

 

隣に控えていた師団政治将校の合図を受けモローズ少将は部隊に通達した。

 

「師団各員へ、これより1分後我々はポーランドのBETA集結地点に向け戦略核を投射する。各員安全装置を解除し、命令に備えよ」

 

命令を言い終えたモローズ少将は席に座り込んだ。

 

後は政治将校が上手いこと言ってくれるだろう。

 

ミサイルを管理する将校達はキーを差し込み、ミサイルの安全を解除する。

 

点高く聳え立つRSD-10”ピオネール”は太陽に照らされ、頂点が光り輝いていた。

 

「攻撃まで後5、4、3……」

 

カウントダウンが始まった。

 

0の一言と共に運搬車両に乗せられたRSD-10はエンジンを吹かしながら点高く浮上した。

 

そのまま目に見えなくなるほど遠くまで一瞬で上昇し、ポーランドの敵を撃ち倒す為に進み続けた。

 

「全弾頭の発射を確認、各車両問題なし」

 

「予測では陽動弾迎撃の凡そ3秒後に着弾します」

 

「これでひと段落ついたか……」

 

少将は背もたれのついた椅子に深くも垂れ込んだ。

 

第50ロケット軍の選抜された部隊から一斉に白い雲が上に登っている。

 

それは大地を焼き尽くす業火の光であり、人類を絶滅させ得る唯一の兵器であった。

 

「さて、後はBETAをどれだけやってくれるかだが……上手く当たれよ」

 

モローズ少将は半ば祈るようにそう呟いた。

 

そして彼の祈りはそう遠くない時に叶うことになる。

 

着弾した地を這うBETAの野戦軍主力を完全に撃破した。

 

核の炎によってBETAが吹き飛び、立ち直りようのない損害を与える。

 

中央から後方にかけて野戦軍に大きな穴が開き、軍としての程を崩壊させた。

 

間に第6親衛戦車軍の将兵は対放射能防護服に着替え、反撃を開始した。

 

T-80とT-64BV、そしてT-72の戦車突撃によって前線は完全に破綻した。

 

BETAの野戦軍は真正面から戦車の網突撃を喰らって分断され、この時点で中衛、後衛のBETAはほぼ壊滅していたことも相待って増援は来ず、戦線に大きな穴を開けたままとなった。

 

結果的に残った前衛も包囲殲滅され壊滅。

 

4個軍ほどの戦力があったBETAはたった一度の戦略核投入によって半分以下の兵力を失った。

 

残りのBETAは通常兵器と戦術核で何とかなる。

 

稀に生きている師団級BETA群は戦術機によって粉々に吹き飛ばされ、そうではないBETAは戦車かIFVに殺された。

 

BETAの増援部隊と激突から僅か1週間で4個あったBETAの野戦軍は消し飛んだ。

 

そのままの勢いで沿バルト前線は目的地まで向かった。

 

3月4日、沿バルト前線は攻勢最終地点のシュチェチンまで辿り着いた。

 

第6親衛戦車軍と第11親衛軍はそのまま南下し、ハイヴの包囲網を形成した。

 

彼らの先発隊が到着したのは3月12日の早朝であり、夕方にはもう殆どの部隊包囲網に加わっている。

 

その頃には各所でBETAの増援部隊を撃滅しており、包囲網の形成自体はかなり早くに終了していた。

 

ヴロツワフ・ハイヴは悪手に悪手を重ねついに一戦線で4個軍近いBETAを失うこととなった。

 

包囲網は日に日に強化され、もう脱出することは出来ない。

 

沿バルト前線おける”西”作戦は大成功に終わった。

 

後はハイヴを攻略する第二段階に移るだけだ。

 

”西”作戦はまだ続く。

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSSR モスクワ州 首都モスクワ ソ連国防省ビル-

第1ウクライナ、白ロシア、沿バルト前線、そして在独ソ連軍の勝利はソ連国内にも喧伝された。

 

我ら人民の軍が侵略者を撃退”、”異星人のファシストはポーランドに朽ちた”、”ソビエトの英雄達が同志ポーランドを助ける”など様々だ。

 

その裏ではソ連軍や各省庁が粛々と被害状況と戦果を確認し、部隊の損失補填と復興のプランを模索した。

 

その中には当然国防大臣も含まれている。

 

ウスチノフ元帥は作戦中から今日までずっと国防省に篭りっきりで仕事をしていた。

 

若い佐官クラスの将校達からは「歳なのによくやる」と感嘆の声を挙げられるほど本当に熱心に長く働いている。

 

本人曰く「昔は徹夜もやったんだけどねぇ」と若い頃より能力が落ちたらしいが彼の仕事ぶりは大祖国戦争中に勝るとも劣らないものだ。

 

上がってくる報告書に隅々まで目を通して要点を記憶し、的確に部下に仕事を割り振り、自身も働いた。

 

外に出る機会といえば精々勲章授与式と日々の会議くらいだろう。

 

それ以外は家にも帰らずほぼ国防省で寝泊まりする形で働き続けていた。

 

普段穏やかかつ陽気なムードメイカーなので若い者達とも打ち解けやすかったウスチノフ元帥であるが、最近の彼は今までにないほど国防省に出入りする将校達の尊敬を勝ち取っていた。

 

無論国防省の能率の良さは彼1人で担っているわけではない。

 

ウスチノフ元帥が国防大臣として表でも裏でもソ連軍を支えているように、ウスチノフ元帥を支える者達がいた。

 

イーゴリ・イルラリオノフ中将とスヴェート・トゥルーノフ海軍技術中将である。

 

イルラリオノフ中将はウスチノフ元帥が国防大臣になる前から彼を支え続けた名補佐官であり、トゥルーノフ中将は原子力砕氷艦”レーニン”の開発に携わり、彼の父サヴィー・トゥルーノフは重巡洋艦”クロンシュタット”の主任設計者であった。

 

ウスチノフ元帥は軍需に関してはソ連で誰にも負けない経験と知識を有しているが、運用や他の専門分野に関しては他者の力を借りる必要がある。

 

そうしたサポーターの代表格がこのイルラリオノフ中将とトゥルーノフ中将であった。

 

この2人は参謀本部作戦総局長ヴァレンニコフ上級大将をして「ウスチノフ元帥を支えた2人」と評されるほどだ。

 

2人ともウスチノフ元帥同様に身を粉にして働いた。

 

祖国の勝利を得るために前線将兵同様多少の無理をしなければと2人とも考えていた。

 

「兵員物資共に補充は1ヶ月以内に終わりそうだ。海上輸送な分在独ソ連軍には補給に時間が掛かるかもしれんが……制海権がある以上余裕はある」

 

「ゴルシコフ元帥は民間船舶の更なる徴用を進言してきていますが」

 

「特別に補給船団を組む為に一時借用はする。だがこれ以上常時徴用する訳にはいかないな」

 

ウスチノフ元帥は書類に目を通しながら答えた。

 

「この調子だとハイヴ攻略は5月の下旬になりそうですな」

 

ふとイルラリオノフ中将は呟いた。

 

彼の予見は大体当たっていた。

 

物資や人員の補充と新兵の練兵、そして作戦準備に用いられる時間を考えれば早くても5月の下旬になるのは避けられそうになかった。

 

それでも半年以内にBETAの本拠地が吹き飛ばせるのだから仕方ないと割り切る他ない。

 

「完全な終結は多分6月中になるだろうね。尤も、ポーランドを奪還したら次はルーマニア、ユーゴスラヴィア、それからチェコスロヴァキアにオーストリア、ハンガリー、そしてベルリンだ」

 

少なくとも欧州における攻勢はこの順番で行われるだろう。

 

ポーランドを奪還した後は危機的状況下にある南欧を助け、南と東から残りのBETAを挟み潰す。

 

だが彼らには1つ、やることがまだあった。

 

「その前に”()()()()()()()()”がありますよ同志元帥」

 

イルラリオノフ中将は1つ付け足した。

 

ウスチノフ元帥は小さいが重く頷いた。

 

「正直、あの兵器はまだ未知数な部分が多い。地球に撃つよりはマシだがどれほどの影響が出るか……」

 

「されど月面攻略を行うには他に方法がありません」

 

若干後ろめたさがあるウスチノフ元帥とは違い、トゥルーノフ中将はそう割り切っていた。

 

ウスチノフ元帥も内心思っていることは違かったが、仕方ないと思って腹を括っていた。

 

「分かっているとも、あれの開発を承認したのは私と同志ブレジネフだ。使用を躊躇うつもりはない」

 

有事になればそれが悲惨なことだと分かっていても躊躇うことは許されない。

 

だから開発を承認し、完成したそれを実験として用いることをウスチノフ元帥は許可した。

 

後悔はないが快い気持ちにもなれなかった。

 

「”()()G()()()()()()()()()()()()()()()”、全てが上手くいけば今年の冬には実施されるだろう」

 

人類は月から追放された、あそこには楽園も美しい月の国もなかった。

 

そこには人の憎悪を煽ることしか知らない異星人が巣を作り、我が物顔で資源をどこかへ送っている。

 

それも今年までだ。

 

人類が月まで行くことが出来るのなら、人類が月を手にかけることだって出来る。

 

人が歩める場所を破壊するはまた人の為す技である。

 

1981年、戦争はまだ終わらない。

 

 

つづくかも




あのすいませんここ最近の異常な伸び率の原因を教えてください(懇願)
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