マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
自由の喊声を上げながら、
我らは丘の中腹から、平野から集結するだろう、
自由の喊声を上げながら!
-”北軍による自由の喊声”より抜粋-
『バーガー4よりSFCPへ、地点に光線級を確認…!位置情報を転送する!』
RF-4Cは高度を限界まで落として光線級の射線上から退避する。
光線級は味方BETAへの誤射を恐れてある程度の低空まで行くと攻撃を停止してしまう。
その特性を活かして偵察方の戦術機は強行偵察を行っていた。
無論こうした回避術は危険の方が多い。
要撃級が腕を振って直撃すれば一撃で堕ちるし、地面に近すぎると戦車級に取り付かれる恐れがある。
その為強行偵察には技量が求められた。
バーガー4は回避を行いつつ情報を宇宙軍司令部へ伝達する。
そのまま低空飛行を維持しつつ、邪魔な要撃球を排除してもう1回旋回した。
『さらに確認したっ!データを送る』
「SFCPよりバーガー4へ、データを転送次第撤退せよ。制圧作戦を開始する」
『バーガー4了解!』
データを転送し終えるとバーガー4は低空を最大速度で通過した。
軌道上のアメリカ宇宙軍司令部はこれらの情報を受け取って攻撃準備を開始する。
攻撃地点を入力し、攻撃衛星の安全装置を解除する。
「AS-02、AS-13、AS-23、攻撃準備よし」
「周辺に味方機の機影なし、射撃地点オールクリア」
「全衛星、攻撃開始!」
ロジャー・D・デコック中佐の命令で待機中の攻撃衛星から初弾の陽動弾が放たれ、次に本命の対地ミサイルが放たれた。
陽動弾は当然全て迎撃されたがすぐに次弾の対地ミサイルが周囲のBETAごと光線級を吹き飛ばした。
BETAの戦列に穴が空き、当然すぐに埋め尽くされるのだが光線級の補充は追いついていない。
前線地帯の光線属種は地上の砲撃と宇宙空間からの爆撃で殆ど撃破され、SEAD任務は達成された。
その報告はすぐに第5軍団司令部に伝わった。
「前線地帯の光線属種の排除を確認」
「BETA群の数は以前変わりなし、後方から部隊の移動も確認されていません」
「では作戦開始だ。突撃を開始せよ」
シュワルツコフ中将から作戦開始の命令が第5軍団に下された。
第5軍団は元々第3機甲師団、第4歩兵師団、第8歩兵師団の3個師団を基礎に編成されている。
BETA大戦によって隷下の第194機甲旅団と第197歩兵旅団も師団に改変され、今回の攻勢の為に3個師団が追加された。
凡そ8個師団、軍団ではあったが戦力は軍そのものである。
第3機甲師団、第12機甲師団、第194機甲師団は最新鋭のM1エイブラムスとM60A3”パットン”戦車によって攻勢されている。
主力の要は最新鋭のエイブラムスであり、パットンは主に機動防御や歩兵部隊の援護に用いられた。
その後方にはM2ブラッドレー歩兵戦闘車やTOW対戦車ミサイルを備えたM113走行兵員輸送車が続く。
エイブラムスの戦車砲が中、大型のBETAを粉砕しM242 ブッシュマスターが小型のBETAを粉砕した。
さらに上空には絶え間ない戦術機による航空攻撃が加えられ、BETAの後方はズタズタに引き裂かれた。
F-15やF-16、アメリカ空軍最新鋭の戦術機が次々と敵を狩る。
特にF-16は定期的に戦術核を投入し、BETAを一気に薙ぎ払っていた。
第5軍団はほぼ1時間以内にフランクフルトを制圧しそのまま直進した。
その側面をドイツ連邦陸軍第3軍団が支え、敵を跳ね除けた。
第3軍団はヴォルフガング・アルテンブルク中将に率いられ1個装甲擲弾兵師団、2個装甲師団で構成されている。
各師団には最新鋭のレオパルト2が配備されており、BETAの大群を打ち破るのに十分な戦力であった。
ちなみに第3軍団の左隣にはフランス派遣軍とカナダの派遣軍が展開していた。
では中央軍集団の右翼はどうかというとアメリカ陸軍第7軍団とドイツ連邦陸軍第2軍団が猛攻を加えていた。
第2軍団のレオポルト・シャルパ中将は機甲突撃の真っ只中にある第7軍の側面を援護しつつ、自身も隷下の第10装甲師団で前線を押し上げた。
第2軍団には最精鋭の空挺師団と山岳師団が入っており、これらが取り溢したBETAの掃討と援護に役立った。
その間に第7軍団はミュンヘンへ向けて進撃した。
軍団はたった1日でウルムまで進撃し戦車部隊と戦術機部隊がBETAを蹂躙した。
元々ベルリン・ハイヴのBETAはかなりの部隊が正面展開しており、常に戦線を圧迫し続けていた。
だからアメリカ欧州軍はずっと準備してきた。
BETAの大群を打ち破る為に戦略を練り、兵を鍛え、装備を更新した。
その成果が今出ている。
BETAはNATO軍の突破を許した。
無論BETAもバカではない、危険を感知すれば対応に出る。
第7軍団がアウクスブルク手前まで前進するとBETAの対応戦力がやってきた。
ミュンヘン近くに展開している1個軍団規模BETA群である。
接近を知ると第7軍団はヴェルタッハ川で攻撃を押さえ込んだ。
その間に偵察型戦術機と衛星偵察でBETAの移動経路を探り、敵の主力を確認した。
「偵察情報を照合しますとBETA群の主力はズルツェンオース方面から進撃中、宇宙軍が捕捉しています」
「主力を接近させるな、核でも何でも使って吹っ飛ばせ」
作戦参謀スタンリー・F・チェリー少佐の報告を聞いてパットン4世はすぐに命令を出した。
パットン4世の命令は即座に宇宙軍の司令部に到達した。
宇宙軍の攻撃衛星が捕捉中のBETA群に向けて戦術核を数発放った。
極超音速で接近する戦術核は爆散する陽動弾の合間を抜けて地表のBETAを焼き尽くした。
一度でBETAの主力は半分近く消し飛び、残りは前後で分断された。
即座に第二派が放たれ、BETAの主力群は壊滅した。
その他のBETAが進撃する地点も宇宙軍の軌道爆撃と戦術機の低空侵入による戦術核攻撃で接近を阻止した。
光線属種が友軍誤射を恐れてある程度のレベルまで低空侵入すると攻撃出来ないというのは国家人民航空軍のある衛士が発見した。
アメリカ空軍はこれを参考に戦術機による低空侵入偵察と低空侵入による戦場航空阻止を復活させた。
光線属種を排除するのに態々接近して打ち倒す必要はない、爆心距離を計算して戦術核を投弾すればいいのだ。
それに加えてより安全な方法としてアメリカ宇宙軍による軌道爆撃がある。
司令官がより広い範囲で戦場を見て考え、迫り来る敵主力の接近を阻止し、物量を活かせないようにする。
これこそが冷戦からBETA大戦というソ連とBETAの圧倒的物量に対抗する術であり、アメリカ軍の到達点であった。
こうした連携や作戦術は考案者のTRADOC司令官のドン・A・スターリー大将は”スペース・エアランド・バトル”と称された。
陸上戦力では勝てない敵を広い視野と的確な航空戦力の投入によって撃退する地上戦におけるもう1つの解であった。
アメリカ軍のエアランド・バトルとソ連軍の縦深攻撃、何かのボタンがかけ違えばこの2つが欧州のフルダ渓谷でぶつかり、世界は核の炎に包まれていただろう。
そしてこれらの攻撃をBETAはほぼ同時に喰らっていた。
その間、前線にいる第3歩兵師団が渡河に成功し、前線で殴り合っているBETA群を側面から殴りつけた。
更にギュンツブルクにいるMLRSからクラスター弾が放たれ、鉄の雨を降らせる。
アウクスブルクはあっという間に制圧され、M1エイブラムスの弾薬、燃料補給が終了すると一斉に攻勢を始めた。
その頃には第2軍団がアマー湖とシュタルンベルク湖近くまで前線を押し上げていた。
左右からレオパルト2、エイブラムスによって攻め立てられ、定期的にF-15、F-16やA-10がCAS任務で襲来し、BETAを蹂躙していく。
ミュンヘンに到達し、占領したのは作戦開始から3週間後のことであった。
同じ頃、第5軍団はほぼ同じ地点のBETA領域に食い込んでいた。
丁度ヴュルツブルクの制圧に成功し、現在は接近してきた連隊規模BETA群と交戦していた。
第5軍団も軌道爆撃と低空侵入による戦場阻止攻撃によって接近するBETA群を撃滅し、薄くなった前線をエイブラムスとパットンで構成された機甲戦力で打ち破った。
だがその頃にはBETAの迎撃部隊が到着しつつあった。
ニュルンベルクから凡そ1個軍団、ライプツィヒ方面から1個軍団と2個師団程度のBETAが迫っていたのだ。
合わされ場ほぼ1個軍、事実上2個軍に近い戦力を持っている米独軍団であれば応戦は出来たが、進撃は一時停止しなければならなかった。
既に第5軍団はBETAと交戦状態にあった。
「情報によればライプツィヒ方面の戦力の方が多いようです。カナダ軍、フランス軍方面にもBETAが到来しており、応援は難しいそうです」
「ドイツの第3軍団は耐えられるか?」
シュワルツコフ中将幕僚達に尋ねた。
「アルテンブルク中将なら上手くやるでしょう。少なくとも側面突破の可能性はないかと」
ファンク大佐の進言を聞いてシュワルツコフ中将はひとまず第3軍団を信じた。
だが数の上でも不利だと思ったシュワルツコフ中将はあることを命じる。
「宇宙軍にはライプツィヒ方面の敵を優先して叩くように要請しろ。それでドイツ軍に空きが来ればこっちに増援が回ってくる」
「了解…!」
「となると我々はほぼ単独でBETAを始末せねばなりませんね……」
ヘンドリックス大佐はそう呟いた。
アメリカ宇宙軍の支援なしに1個軍団規模BETA群を撃滅するのはとにかく時間が必要だ。
「BAIは引き続きやらせろ。核と砲で光線級を徹底して潰せ、そうすれば少しは通りやすくなるはずだ」
軍団砲兵達に命令が降った。
MLRSやM1 155mm榴弾砲、M109 155mm自走榴弾砲が次々と砲撃を繰り出して陽動と本命で光線属種を撃破する。
この頃には前線に近い距離に重光線級の存在が確認されたが、すぐに位置と座標を報告され砲の嵐を喰らって吹き飛んだ。
MLRSから放たれるクラスター弾は要撃級以下のBETAを砕き、場合によっては突撃級の後部にも命中した為、何体かダメージを喰らって動けなくなっていた。
そういった合間を戦術核を担いだF-16が飛び抜け、後方へ核を投下する。
それでも接近してくるBETAは歩兵や戦車部隊によって撃破された。
戦車もIFVも歩兵も戦術機も砲兵も全てが酷使され、前線維持に使われる。
「この調子なら維持は出来そうですな」
「だが攻勢に出ねば、ここいらで1個軍団を撃滅すれば進みやすいはずだ」
シュワルツコフ中将の指針を基に作戦の立案が始まった。
まず地図の上には第5軍団の隷下部隊と近くにいる友軍部隊、そしてBETAの配置が事細かに記されていた。
まず最初に口を開いたのはファンク大佐であった。
現在第5軍団は防衛線を構築してBETAの進撃を阻止している。
既に近いところに工兵隊が待機しており、いつでも渡河作戦が可能であった。
「BETAは正面の歩兵師団に食いついています。今のうちに再編成した第12機甲師団、第42歩兵師団で側面から殴り込ませましょう」
「側面攻撃はありだがどっちからいくかだ。左フックを掛けるか右フックを掛けるか」
側面攻撃するにしても現状の戦力では両翼から同時にとは行かない。
左か右か、どちらか選ばなければならなかった。
「私は左側面攻撃を提案します。現状我が軍団は右側に寄っていますし左側面から一気に畳み掛ければ前線を分断出来ます」
ウォレス中佐は側面攻撃を提案した。
シュワルツコフ中将は少し考え、提案に対する答えを出した。
「中佐の案を取ろう、第12機甲師団と第42歩兵師団に命令を伝えろ。左翼方面からBETA群の側面をつけ」
「了解!」
ペトレイアス少佐は隷下の師団に命令を伝達した。
後は実行に移されるだけだ。
BETAの進撃はあまり前に進まなかった。
徹底した航空攻撃による接近阻止と頑強な防衛部隊により、突破を容易ならざるものにした。
そして前線と後方を補給線が繋ぐ。
物資補給地点から武器燃料弾薬、そして食料や医薬品を乗せたHEMTTが道を走る。
二次大戦から続くアメリカ軍のロジスティクス能力は健在であった。
「今前線を抜けられるなよ、ここでBETAどもを一気に叩いて包囲する」
シュワルツコフ中将は念を押した。
彼の心配とは裏腹に今のBETAに前線を突破する力はなかった。
軌道上からの戦術核攻撃によって大半のBETAが消し飛んでいたせいだ。
今のBETAに点から降り注ぐ雷を止める術はなかった。
同じ頃、ドイツ連邦陸軍第3軍団はBETAの猛攻を耐えていた。
接近するBETAはかなりの数がアメリカ宇宙軍の軌道爆撃の前に撃破されたが生き残りや、そもそも前線地帯のBETAは関係なく突撃していた。
それでも既に2個師団は壊滅し、残り1個軍団だけである。
第3軍団は第2走行擲弾兵師団を中心に防衛線を展開し、装甲部隊と戦術機部隊の軌道防御で敵の数を減らしていた。
基本的にドイツ連邦空軍が有する戦術機はF-4系列のICEとピースライン、そしてトーネードIDSであった。
F-4Fは定期的にCAS任務に駆り出され、トーネードIDSは低空侵入による戦場航空阻止任務に送られた。
ちなみにこのトーネードIDSであるが核共有の一環でB61を搭載していた。
無論前提として核を運用出来るのはドイツ国内だけであるが、基本的にBETAはドイツ領内の半分以上を制圧している為問題なく使えた。
かつてベルリンに核弾頭を落とされたドイツは生きる為に自らの手で自らの土地に核を落とさねばならなかった。
それでも戦術核が齎す効力は絶大で、明らかに多くの将兵がその火力に助けられている。
前線地帯ではマルダーに乗り込んだ装甲擲弾兵達とヤグアル1の対戦車ミサイルが要撃級らにダメージを与え、フラックパンツァー M42A1らが戦車級、闘士級を薙ぎ払った。
戦車の固定運用にはレオパルト1A5が動員され、機動防御や反撃には最新鋭のレオパルト2が用いられた。
ドイツ連邦は戦時ということも相まってレオパルト2をかなり早期に取得し、現在ではレオパルト2A4までを設計した。
なお今での戦車開発は進められており、2A4以降の新型も開発中である。
前線近くの指揮所に軍団司令官のアルテンブルク中将は視察に来ていた。
指揮所にいても爆音が鳴り響き、大地が揺れる。
中将は数人の部下と共に指揮所から前線地帯の様子を双眼鏡で確認した。
押されてはいるが前線は維持出来ている。
だが各地で死に絶えた突撃級や戦車級の大量の死骸が反撃の為の戦車部隊の動きを止めていた。
ここは丁度第14装甲旅団の担当戦域であり、主力はやはり戦車であった。
「クソッ!あの化け物どもめ!死骸が邪魔で進撃出来ん!」
軍団のペーター・ハインリヒ・カルステンス大佐は同じ双眼鏡を用いて視察を行っていた。
確かに前線地帯には死んだBETAの死骸が多すぎて逆に邪魔になっていた。
「中佐、第3工兵団に連絡して吹っ飛ばすように要請を出せ」
アルテンブルク中将は連れてきた幕僚の1人であるクラウス・ラインハルト中佐に命令した。
中佐はすぐに近くにあった指揮所の受話器を手に取り、第3工兵団に連絡を取った。
突撃級や戦車級の死骸をどかすには工兵隊の力を借りる他ない。
NATOであってもWTOであっても工兵は必要不可欠な存在であった。
「旅団長、戦車は後何輌残ってるか」
アルテンブルク中将は第14装甲旅団長クラウス=クリストフ・シュタインコップフ大佐に尋ねた。
「凡そ1個中隊分はいます」
「よろしい、リーツバ大尉、他の部隊にも残存する装甲戦力はあるか聞いてこい」
「了解」
アヒム・リーツバ大尉は敬礼し、指揮所の通信機を用いて各部隊に連絡を取った。
その間に再びアルテンブルク中将は敵の様子を確認した。
「攻勢作戦だってのに相変わらず我々は追い込まれてますね」
隣でカルステンス大佐がぼやいた。
実際彼らは73年から今日に至るまでずっとBETAの猛攻を耐え続けていた。
ドイツ連邦軍が今でも健在なのが不思議なくらいだ。
「仕方ないさ、多分
「第5装甲師団の中だとエアハルト・ハーゲン少佐の装甲大隊が残っていました!」
リーツパ大尉が戻ってきた。
ついでに彼は他の旅団に残っている装甲戦力も伝えた。
使える戦力を把握したアルテンブルク中将はすぐに命令を出した。
「よし、マイアー少将に要請。ハーゲン少佐の装甲大隊に残存する1個中隊を組み合わせて戦闘団を編成。反撃の際に真っ先に叩き込むぞ」
「はい!」
命令は即座に師団司令部に伝わって実行に移された。
ハーゲン装甲戦闘団は第5装甲師団長ゲッツ・マイアー少将の命令によって突撃を開始した。
この頃には接近するBETA群は粗方撃破し、前線にいるBETAもかなり減っている。
工兵隊が死骸を除去し、F-4Fの援護の下ハーゲン装甲戦闘団が突撃する。
レオパルト2を主力とする戦車部隊はBETAの戦列に穴を開けた。
戦列に開けた穴を拡張する為、直様次の攻撃が叩き込まれる。
前線部隊が各所に取りつき、戦果をまず固定してから戦線をさらに押し上げた。
戦線の押し上げに師団隷下の砲兵部隊だけでなく、軍団直轄の第3砲兵団も支援に来た。
ゲルハルト・ヘルフルト准将の指揮によって第3砲兵団の多連装ロケットシステム、ドイツ語ではMARSと呼ばれる多連装ロケット砲が火を吹いた。
それに合わせて師団や旅団の砲兵大隊も攻撃を加えた。
特にPzH M109A3GA1やPzH M109Gは容赦なくBETAの肉体を粉々に砕いた。
こうした戦闘は3日続き、前線にいたBETAは瞬く間に撃滅された。
第3軍団は前進を続け、兵力には余裕が出始めた。
この頃アルテンベルク中将らはフルダに構えた野戦司令部に戻っていた。
かつての市街地は殆どなくなっていたが各資材を用いて簡易ではあるが司令部を構築した。
「ライプツィヒ方面のBETAはカナダ、フランス軍によって現状対処可能です。我が軍団は予定通り進行中、兵力としては第12装甲師団に空きがあります」
「他の軍団の状況は」
アルテンブルク中将はふと尋ねた。
「アメリカ第7軍団及びドイツ第2軍団は予定通り進撃中、アメリカ第5軍団は敵戦力の1/3は破りましたがBETAの足止めを食らっています」
「援護の戦力を出そう。コモッサ少将に第5軍団支援の為の部隊を編成するよう命じろ」
「了解!」
これで第5軍団も突破出来るだろうとアルテンベルク中将は踏んでいた。
前線と一連の阻止攻撃でかなりの数のBETAを撃滅出来た。
後は包囲殲滅陣を完成させれば作戦は成功である。
今が踏ん張りどころだとアルテンベルク中将は覚悟を決めた。
アメリカ陸軍第5軍団の左フック攻撃は成功しつつあった。
BETAは左側面からの攻撃に対応戦力を回し、その間の陣地転換で生まれた隙にアメリカ空軍は攻撃を叩き込んだ。
元々左側面にいたBETA群は第12機甲師団と第42歩兵師団の攻撃をもろに喰らって大打撃を受けた。
あまりに打撃を受け過ぎて一部のBETAは本隊と孤立し、そのまま包囲殲滅された。
BETAの戦線は更に短くなり、突撃級が成す壁は意味をなさなくなっていた。
戦力を投入する為に温存されていた要塞級が到来するが、要塞級の輸送能力はアメリカ軍も認識している為、優先して砲で潰された。
稀に辛うじて生き残った輸送中の光線級が姿を現すが、そうした光線級は優先して排除された。
左フック実行から3日経つ頃には敵戦力の1/3が撃破され、第5軍団は軍団規模BETA群を押し込みながら前進を続けていた。
4日後には第3軍団の支援を終えたアメリカ宇宙軍の攻撃衛星が第5軍団と対峙するBETAに向けて攻撃を開始した。
前線へ辿り着く前に部隊を排除し、増援が来ず薄くなった前線を第5軍団が押し上げる。
しかもその頃にはドイツ連邦軍第3軍団から増援が到来した。
規模は連隊戦闘団であったが左側面に更に圧力が掛かり、BETAの戦線を押し込んだ。
「ドイツ軍第3軍団より増援です!第12装甲師団から1個連隊!」
「宇宙軍、バンベルク方面の連隊規模BETA群を粉砕、現在エルランゲンの連隊規模BETA群に攻撃中」
通信士官達の報告を受けてヘンドリックス大佐が地図の上の部隊を動かした。
既に第5軍団はヴュルツブルクから20キロほど前へ進み、この時点でBETAは幾つかの中隊、大隊規模BETA群が包囲殲滅されていた。
軌道爆撃と戦術機の低空侵入による阻止攻撃により戦線はスカスカで、まともな戦力があれば容易く突破出来た。
「隷下の全師団に通達、BETAを撃破しながらバイロイトまで前進。作戦を完遂する」
「了解…!」
シュワルツコフ中将は正面の各師団にも突撃を命じた。
彼は思わず笑みを浮かべた。
あのBETAが今や見る影もない。
かつては味方部隊を包囲殲滅する側だったのに落ちたものだ。
「パットン中将の第7軍団も順調に進んでいるようです」
ペトレイアス少佐の報告を受けてシュワルツコフ中将は更に上機嫌になった。
「このままニュルンベルクで奴らを叩き潰す。奴らに国際裁判でも受けさせてやろうじゃないか」
かつて戦後処理の裁判が行われた地で、BETAは包囲され一生を終える。
中将の命令を受けて各師団はM1エイブラムスの機甲部隊を中心に正面突破が開始された。
前線にいた突撃級は撃破され、左側面の2個師団と共同して左側のBETA群を包囲して殲滅した。
軍団は9日後にはバンベルクに到達した。
そこからニュルンベルクのBETAを抑え込みつつ、バイロイトを目指した。
同じ頃ドイツ連邦陸軍第3軍団はザールフェルトまで突入し、プラウエンを目指した。
前線ではレオパルトとエイブラムスが肩を並べてBETAの戦線を打ち破っている。
35年前、西部戦線で対峙したアメリカとドイツの戦車部隊はBETAを打ち破る為に共に戦っていた。
戦車部隊の後方にはドイツ軍ではゲパルト自走対空砲、M163対空自走砲が追随し中型以下のBETAを粉砕する。
BETAの支配領域はみるみる内に縮み、他のBETAと戦線が切り離された。
3月15日、アメリカ陸軍第5軍団はバイロイトに到着し、ドイツ連邦陸軍第3軍団と共に包囲を開始した。
戦線をゆっくりと縮め、包囲網を狭める。
当然BETAも他の部隊と孤立したことを認知している為突破しようと第5軍団、第3軍団に攻撃を仕掛けた。
されど突破は出来なかった。
アメリカ宇宙軍が突破部隊の先方を吹き飛ばし、そのまま2個軍団が総力を持ってBETAに対処した。
バイロイトからヴァルトザッセンには幾万体ものBETAの死骸が斃れていた。
BETAにはもう戦線を打ち破る力は残されていなかった。
作戦は最終段階に移った。
「さあ行くぞクソ野郎ども!!クソBETAどもに星条旗を突き立ててやれ!」
パットン4世は指揮車型のM1エイブラムスから全部隊に命令を出した。
彼の前方や後方、左右には大量のM1エイブラムスやM2ブラッドレーが、上空にはF-16やF-15が飛び去っていく。
素晴らしい光景だ、そして素晴らしい戦場の空気に素晴らしい戦場の風、張り詰め砂埃を巻き込んだこの風こそが戦場の空気だ。
本当なら齧り付きでこの空気を味わいたかった、されど軍団の幕僚達に止められて今の今まで司令部に籠っていた。
ようやく自由になった、パットン4世は悪い笑みと共に戦車隊に同行した。
第7軍団はこの頃、インゴルシュタットを制圧し、レーゲンスブルクとより正確に言えばシュヴァンドルフを目指して前進していた。
レーゲンスブルクより南のBETAは既にドイツ連邦陸軍第2軍団とアメリカ戦略軍の戦略核によって消し飛んでいた。
第7軍団の使命は第2軍団と共にレーゲンスブルクを制圧し、ニュルンベルク包囲網を確立することである。
機甲師団を中心に突撃を敢行し、BETAの戦列を打ち破った。
パットン4世が率いるのは正面突破とはまた別の側面攻撃部隊であった。
この機甲部隊は第1機甲師団の部隊を基にしており練度は精鋭中の精鋭、向かう所敵なしである。
機甲戦闘団はレーゲンスブルク=シュヴァンドルフ間に展開するBETAを打ち破る為に側面攻撃を行なった。
既にレーゲンスブルクにはドイツ第2軍団の第1空挺師団と第1山岳師団が取り付きつつあり、一部装甲戦力はレーゲンスブルクを迂回してシュヴァンドルフの前面に展開するBETAに側面攻撃を行なった。
ドイツ軍とアメリカ軍の戦車突撃を喰らってシュヴァンドルフ前面のBETA群は瞬く間に壊滅した。
まず機甲戦闘団と前面に展開する第1歩兵師団によってBETAの連隊規模群が包囲殲滅され、包囲網を解こうと接近したBETA群はF-16の阻止攻撃を受けて合流出来ずにいた。
前線ではエイブラムスやブラッドレーにBETAが蹂躙され、CAS任務で飛んできた戦術機部隊、特にA-10によって大分数を減らされた。
A-10のような攻撃機型の戦術機を運用するには徹底的に防空網を撃滅して、制空権を確保しなければならない。
少なくともBETAは航空戦力を有していないし、地上の対空網である光線属種は粗方宇宙軍と空軍で吹き飛ばした為、こうした攻撃機の独壇場が形成された。
A-10が活躍しているということは、A-10が活躍出来る戦場を他の制空機が作り出しているということである。
その労力は計り知れないし、少なくともソ連軍を相手にしている時よりは敵機の迎撃という概念が消えた為楽であった。
シュヴァンドルフの前面には凡そ1個師団と1個旅団程度のBETAがいた。
されど全て第7軍団に飲み込まれ、数日と経たずに消えた。
その頃にはドイツ軍第2軍団がレーゲンスブルクを奪還し、アメリカ軍に合流した。
ほぼ2個軍相当の2個軍団が戦線を押し上げ、3月15日には第5軍団らと共同で包囲戦が始まった。
レーゲンスブルク、アンスバッハ、バンベルク、バイロイトの間にNATO中央軍集団は展開し、徐々に包囲網を狭めていく。
最初BETAは第5軍団、第3軍団を突破してベルリン・ハイヴの本隊と合流しようとした。
しかしこれを察知したNATO宇宙軍が戦略核の投入を決定し、アメリカ宇宙軍の攻撃衛星から数発の戦略核が放たれた。
戦略核は後方にいた移動中の主力をほぼ全て吹き飛ばし、残ったBETAもまた2個軍団の前に斃れた。
これによりBETAは戦力をまた失い、包囲網は更に縮んだ。
NATO中央軍集団と接触すれば瞬く間に通常火力で粉砕され、後ろにいれば宇宙軍か空軍の核攻撃で消し飛ぶ。
残された道は1つ、ドイツを捨てて隣国へ脱出することであった。
ドイツの隣国、チェコスロヴァキアにはプラハ・ハイヴが存在し、少なくとも戦力は維持出来た。
自らの指揮権を離れるのは辛いが仕方あるまいとベルリン・ハイヴの頭脳級はニュルンベルクにいた残り半個軍程度の戦力をプラハへ脱出させることを決意した。
ここにはかつて数個軍レベルの戦力を配置していたのだがもう残っていたのはこれだけであった。
少なくともこの段階ではチェコスロヴァキアとドイツの道はまだ生きていた。
NATO中央軍集団はそこまで進撃しておらず、遅滞戦闘を行いつつ脱出すればプラハ・ハイヴには辿り着ける。
だがそんなことNATO軍だって承知している。
BETAの撤退が確認されたのは包囲開始から4日後の3月19日であった。
アメリカ宇宙軍の報告は直ちに中央軍集団司令部に到来した。
そこからの司令部の動きは早かった。
まず中央軍集団司令のクローセン大将は宇宙軍司令部に撤退中のBETAへの核攻撃を要請。
それからクローセン大将は隷下の4個軍団の司令官達にアンベルクからケムナートまでの追撃を命じた。
撤退中のBETAの頭上にアメリカ宇宙軍の核弾頭が降り注ぐ。
その間にクローセン大将は南欧連合海軍司令部に連絡を取り、ティレニア海で待機する米海軍の戦略原潜に対地攻撃を要請した。
今回の作戦の為に待機していたベンジャミン・フランクリン級原子力潜水艦の部隊が攻撃を開始する。
一部のSSBNは最新鋭のトライデントC-4を装備していたが大半の艦はまだポセイドンC-3であった。
1世代前とはいえBETAを吹き飛ばすには十分な威力があった。
海上と宇宙からのMIRV弾を用いた核攻撃によって撤退中のBETAは文字通り壊滅した。
チェコスロヴァキアとドイツの国境地帯は目の当てられないほど凄惨な光景が広がっていた。
こうした核攻撃はBETAの殲滅を確認した3月20日には停止した。
3月21日には対放射能防護装備を纏った部隊がヴァイデンまで前進し、制圧を宣言。
3月22日、NATO中央軍集団司令部は正式にニュルンベルクの奪還とBETAの殲滅を発表した。
ニュルンベルクが陥落したのは1974年のこと、7年近く占領され続けていたこの都市は正式に人類の領域へ回帰した。
1973年より減り続けるばかりであったドイツ領は8年ぶりに増加した。
星条旗とドイツ連邦国旗、そしてNATOの青旗と共に。
つづく
この場をお借りして皆様の誤字報告に感謝御礼申し上げます。