マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
遥か彼方よ
遥かなティペラリー
愛しのあの子の居るところ!
さよなら、ピカデリー
さらば、レスター広場
ティペラリーまでの道のりはひどく長い。
けれど心はいつもそこに
-”遥かなティペラリー”より抜粋-
-EU領域 ドイツ連邦共和国領 ノルトライン=ヴェストファーレン州 ラインダーレン北部軍集団司令部-
ラインダーレンの北部軍集団司令部、ここにはNATO軍の将校たちが集まり、偵察機の帰還を待っていた。
司令官のサー・マイケル・ゴウ英陸軍大将は腕を組みながら作戦開始を待っていた。
ゴウ大将は如何にも英国将校らしい風貌で落ち着いた様子であった。
髭を蓄えニヒルな笑みを浮かべて雰囲気は落ち着いている。
彼の周りにはイギリス陸軍ライン軍団の幕僚だけでなく、ドイツやベルギー、オランダの将校もいた。
「海軍は配置を終え、いつでも戦術機を展開出来る。そちらはどうか」
ゴウ大将の隣には1人の王立海軍提督がいた。
名はテレンス・ルーウィン、英国の海軍元帥であり国防参謀総長である。
ルーウィン元帥は数年前まで王立海軍を率いる第一海軍卿兼海軍参謀長であった。
彼は空母からの戦術機運用能力を王立海軍に持たせ、アメリカほどではなくともイギリスの外洋展開能力を支えた功労者である。
元帥は女王陛下及び首相の代理として視察に来た。
ちなみにルーウィン元帥もゴウ大将も尉官時代は二次大戦に参戦し、激戦の中にいた人物である。
彼らの経験と能力は多くの若い将兵を落ち着かせ、安堵感を与えた。
「軍集団の戦闘配備は完了、後は偵察報告を待つばかりです」
部隊の配置は司令部の地図に描かれている。
イギリス陸軍第1軍団、ベルギー陸軍第1軍団、ドイツ連邦陸軍第1軍団、そしてオランダ陸軍第1軍団。
これらの通常戦力に加え、NATO軍北部軍集団にカナダとオーストラリアの陸軍が英陸軍に加わった。
装甲戦力としてはドイツのレオパルト2に加え、イギリス陸軍は最新鋭のチャレンジャー1を投入してきた。
そして北海からは米空母から飛んでくるF-14の戦術機部隊が静かにその時を待っている。
「しかし今次大戦はドイツでケリをつけられそうです。我々とてダンケルクの二の舞は御免ですから」
ゴウ大将は皮肉まじりにそう述べた。
少なくとも襲来から凡そ8年、少なくともNATO軍は戦域を取り敢えずドイツで押し留めていた。
この状況は1940年のあの日よりは遥かにマシだし、冷戦期にNATOが想定していた戦場よりは数段マシであった。
相手がソ連ならば1973年の時点で数週間あれば北部軍集団も中央軍集団もソ連の駐留軍も消し飛んでいる。
「ああ、だが戦争が長引き過ぎた。祖国も将兵も疲れている」
「分かっています、だから今回の攻勢で攻略の足掛かりを作らねば」
英国は二度の大戦で力を使い過ぎた、今回の大戦でも既に力を使い過ぎている。
されどそうでもしなければイギリスは世界のイギリス足り得ない。
大英帝国がリーダーシップだけでも大英帝国であるには自ら一歩進んで戦わなければならないのだ。
これこそが戦列歩兵の時代から今日まで続く貴族の魂である。
「偵察機より報告、中央軍集団及び在独ソ連軍担当領域におけるBETAの数は規定量。実行可能ラインです」
「連合軍最高司令部から実行の許可が出ました」
これらの報告を受けてゴウ大将は即座に命令を出した。
「各軍団に通達、攻勢作戦を開始せよ。北海の艦隊にも直ちに支援要請を出せ」
「了解!」
作戦開始が通達され、司令部の空気は一変した。
通信士官達は慌ただしく各部隊への作戦通達を始め、参謀達は各所に待機した。
いよいよ欧州初の攻勢作戦が実施されるのだ。
「閣下は暫くこちらに?」
「ああ、私は女王陛下の代理として今日はここにいるよ。欧州で作戦を見届けなければ」
ゴウ大将はそれ以上聞かなかった。
ここの責任者はゴウ大将自身であり、ルーウィン元帥は彼の職務に口出ししてくる人ではないというのも分かっていた。
であれば女王と陛下の為に全力を尽くすことに変わりはない。
全世界にNATOが何たるか、英国とは何かを示す時だ。
無論それはBETAに対しても、である。
連中には命と奪った土地でこの教育費を払ってもらおう。
「閣下、バルト海展開部隊が戦闘を開始。ポーランド沿岸付近に向けて攻撃中です」
ルーウィン元帥の副官が彼に報告した。
元帥は頷くと副官に返答を返す。
「現状予定通り進めろ伝えろ。少なくともBETAの注意を引ければなんでもかまわん」
「了解…!」
ポーランド沿岸部を攻撃するバルト海派遣艦隊は作戦を順調に進めていた。
艦隊には二隻の空母だけでなく多数の42型ことシェフィールド級駆逐艦や22型ことブロードソード級フリゲートらが参加していた。
対地攻撃を叩き込みつつ、空母から戦術機を発艦させて沿岸部からBETAを駆逐した。
内容は定期的にソ連海軍バルト海艦隊と合同で行う任務となんら変わらない。
「バルト海派遣艦隊は動き始めているようだ」
ふとルーウィン元帥は漏らした。
「バルト海派遣と在独ソ連軍、これでようやくトントンということですな」
「まあ、結果的にはそうなる。今でもソ連軍と組むことになるとは驚きだよ」
「鉄のカーテンはBETAに食い破られてしまいましたから、そう考えると案外脆いものです」
イギリス元首相、ウィストン・チャーチルが述べた鉄のカーテンは74年から実質的に存在しなくなっていた。
東西ベルリンを分けた壁は落着ユニットによって粉砕され、ドイツを跨ぐ鉄のカーテンはBETAによって食い破られた。
イギリスを含めた西側諸国は生き残るためにBETAによって隔てられた新たなカーテンの向こう側と手を組んだ。
例えそれが1年前まで世界を滅びに導いてでも戦おうとした相手だったとしてもだ。
「本土を戦場にしない為には我々がここで戦う他ない、東の共産主義者と手を組んだとしてもだ」
ルーウィン元帥の発言にゴウ大将は頷いた。
少なくとも今次戦争でも英本土は無事である。
英国本土が戦場にならない限り、彼らには戦う意味があった。
「幾万のイギリス人が遠く離れた外地で死ぬのには意味がある。本土が戦場にならない限り、彼らの死は意味があり続ける」
イギリス軍の将兵はかつてそうだったように、これからも本土ではなく外地で戦って戦死するのだろう。
遺体は家族の下に帰れないかもしれない、それでも故郷を背に遠く離れた外地で戦う。
本土を守る為に。
「我々がこの戦いで、意味を作るのだ」
戦闘は開始した。
北部軍集団は中央軍集団同様に徹底した戦術機の低空侵入による戦場航空阻止と軌道上からの戦略阻止を多様し、攻勢を開始した。
まず英陸軍第1軍団である。
第1軍団はナイジェル・バグノール中将が指揮を取り、カナダとオーストラリアの派遣軍の指揮も同時に行なっていた。
英第1軍団は最新型戦車のチャレンジャー1を多用して戦車による機甲突破を行った。
第1機甲師団、第3機甲師団、第4機甲師団、第2歩兵師団、そして砲兵師団からなる英国陸軍第1軍団が重戦車たるチャレンジャー1で攻勢する。
よく訓練された戦車兵達はこの新しい重騎兵を巧みに操った。
傷すら付かない重装甲の安心感は戦車兵だけでなく他の将兵も安心させ、安定した射撃性能は突撃級や遠方の要塞級も破った。
特に一部のチャレンジャー1は5,000メートル離れた場所から要塞級の関節部を破壊したこともあり、後にこの成果は広く喧伝されることになる。
戦車隊の機甲突破で形成された穴を後方の部隊が広げていく。
FV510 ウォーリア、チャレンジャー1や地点防御や後続部隊として戦闘するチーフテンMk.10の援護として戦闘に参加していた。
主武装のラーデン砲は他の機関砲に比べれば見劣りする場面が多々あったが、無反動砲や対戦車ミサイルを載せたローヴァーと共に取りこぼしのBETAを排除した。
それに英第1軍団にはカナダとオーストラリアの部隊がいた。
英第1軍団は事実上の英連邦軍であり、度々チーフテンより機動力のあるレオパルトC1やAS1が戦場に駆り出されていた。
第1軍団は前進を続けた。
迫り来る敵をチャレンジャー1によって薙ぎ倒し、そうでない場合は砲撃と戦術機によって捻り潰す。
トーネードIDVとジャギュアの部隊は前線でBETAの襲撃を食い止め、その間に戦術格を積んだイギリス王立空軍のトーネードIDSが後方の敵に核攻撃をお見舞いした。
無論核攻撃は戦術機以外からも投入される。
NATO欧州宇宙連合軍司令部によって統括された偵察衛星が地上の様子を確認し、BETAの襲来を発見次第攻撃を加えた。
こうした偵察衛星が情報を送るのは同じ宇宙軍だけではない。
当然地上の司令部にも送るし、潜水中の原子力潜水艦隊にも情報を送った。
王立海軍所属のレゾリューション級原子力潜水艦、SLBMポラリスを備えた英国の
レゾリューション級を有する第10潜水艦隊は北海に展開し、いざという時に備えて攻撃命令をまった。
元々は四隻で建造を停止する予定のレゾリューション級であったがBETA大戦によってもう二隻増産され、現在新型の
支援要請を受け、真っ先にポラリスを放ったのはレゾリューション級のHMS”レパルス”であった。
HMS”レパルス”はポラリスを2発発射し、英第1軍団とオランダ第1軍団の担当地域に接近中の2個師団規模BETA群に対して核攻撃を叩き込んだ。
ベルンブルクとユルツェンにいた2個師団は主力が吹き飛び、軍団と衝突する頃には大隊規模まで減っていた。
大隊規模BETA群など軍団規模の陸上部隊の前には無力に等しい。
前進する戦車部隊に文字通り轢き殺され、生き残りもウォーリアや無反動砲を積んだM113によって制圧される。
そうでなくても軍団直轄の砲兵師団が有するM109A2 R.A.隊が前線部隊の要請を受けて砲火力をぶつけた。
距離的に海上からの航空支援を受けられない英第1軍団であったが、それでも優勢であった。
軍団はカッセル、ゲッティンゲンを数日のうちに堕とし、既にノルトハウゼンまで迫っていた。
無論これに対してベルリン・ハイヴの頭脳級は部隊を展開するが、大半が阻止攻撃の前に消え去った。
辛うじて残った残存戦力を纏め上げ集成1個師団と2個旅団を編成して第2歩兵師団の担当区域へ攻撃を集中した。
されど師団は即座に防衛戦を展開し、歩兵による粘り強い陣地の維持とチーフテンMk.10による定点防御によってBETAを食い止めた。
これに対し、司令部は冷静にBETAの包囲殲滅戦を指揮した。
バグノール中将の命令で第2歩兵師団が守りに入り、その間に他の師団が救援に入る。
ほぼ半壊状態のBETAを無理やり纏め上げて戦っている集成部隊が余力のある第2歩兵師団を突破する事は出来ず、兵力と時間だけを浪費した。
王立空軍はトーネードIDVやジャギュアを支援として出撃させ、BETAの接近を阻止した。
再編成を終えずに突っ込んできたBETAの屍が、第2歩兵師団の前に積み重なっている。
その間に包囲網が形成された。
1個師団と2個旅団ほどいたBETAは抵抗の末、2日半で撃滅され軍団は攻勢に戻った。
投入されたBETAの戦力は全滅と言っても過言ではない有様だった。
英第1軍団はノルトハウゼンに到着した。
ここに残るBETAは闘士級や僅かに残った戦車級、稀に要撃級がいる程度でちゃんとした装備の部隊なら敵ではなかった。
光線属種を警戒しつつトーネードIDVが上空からBETAを掃討し、地上をウォーリアやチーフテン、そしてAT 105サクソンに乗り込んだ陸軍歩兵達が市街地に傾れ込む。
サクソンに取り付けられたGPMGが接近する闘士級を撃破する。
「クリア!ゴー!!ゴー!!」
射手に促され、サクソンから歩兵の1個分隊が下車する。
周囲を警戒しつつ、分隊長の命令で前進する。
このノルトハウゼンはもう殆ど更地に近しい状態だが、それでもまだ一部に破壊された建物が残っていた。
分隊は小隊長の隊と合流し、新たに命令を受けた。
各所で歩兵部隊が掃討戦を開始している。
「小隊長!前方100メートルに要撃級!」
部下の1人が24歳の中尉に肩を叩いて報告した。
中尉はすぐに部下が持っている武装を確認し、撃破は不可能だと判断して増援を求めた。
「ナイト2、前方の要撃級を撃破してくれ!」
『俺に言ってんのか?』
「そうだよ行ってくれ!」
『了解!』
近くにいたチャレンジャー1が即座に要撃級に狙いを定めて120mmライフル砲を放った。
要撃級は一撃で頭を吹き飛ばされ、そのまま地面に斃れた。
「前進しろ!行くぞ!」
中尉は要撃級の撃破を確認すると真っ先に飛び出した。
それに軍曹が続き、歩兵達がついていく。
稀に闘士級の生き残りがいたが歩兵の集中砲火で死んだ。
小隊はコルンマルクトとラウテン通りの中心地を制圧した。
既にノルトハウゼンには殆どBETAがおらず制圧は時間の問題であった。
中尉は各所に分隊を配置し待機を命じた。
通信機で一先ず上位の中隊に連絡を取る。
「こちら第2小隊エリック中尉、市街地を制圧した。どうぞ」
『A中隊より第2小隊へ、小隊は現地点で待機。接近するBETAは撃破せよ』
「了解」
通信機を切り、中尉はL1A1を持ったまま周囲を見渡した。
「ようやくここまで奪還出来た」
中尉は勝ちを噛み締めていた。
彼らにとって今回の攻勢は8年間耐え続けてきたことへの褒美であった。
USS”ドワイト・D・アイゼンハワー”。
最新鋭の原子力空母、ニミッツ級航空母艦の二番艦である。
全長333メートルの巨体は戦術機の運用能力を有し、現在は第3空母航空団のF-14を艦載している。
艦長はジェームズ・H・モールディン大佐、ベトナム戦争にも行ったベテランの海軍将校である。
USS”ドワイト・D・アイゼンハワー”は他の友軍艦艇同様に北海に展開し、海上に比較的近いオランダ第1軍団、ドイツ第1軍団を支援した。
「艦長、オランダ陸軍より支援要請。旅団規模BETA群の掃討に助力願いたいと言っています」
通信士の報告を聞き、モールディン大佐はすぐに命令を出した。
「105を出せ、残りは待機。直ちに発艦させろ」
「了解」
第105戦闘攻撃飛行隊、愛称はガンスリンガーズでF-14が基本装備である。
USS”ドワイト・D・アイゼンハワー”に搭載されたF-14が発艦した。
衛士が機体に乗り込み、各種装備をチェックする。
「スーパーフェニックスはちゃんと6本積んだんで全部撃ち切ってくださいね!」
整備士がコックピットに乗り込む衛士の少佐に向かって最後に説明を行った。
名はラクティス・ストライン、2人の兄がいて2人とも海軍将校である。
少佐はベルトを締め、各種システムをチェックすると言葉を返す。
「当たり前だ、キルマーク増やせるようにペンキ用意しとけよ」
「BETAどもじゃ書き切れないっすよ、とにかく武運お祈りします少佐!」
「ああ、んじゃあ行ってくるわ」
軽い会話を挟み、少佐はコックピットハッチを閉めてカメラを作動する。
各種モニターに外の状況が映り、少佐は軽く首を捻った。
ふと左の方を見てみると、さっきまで話していた整備士が振り返って敬礼をし、そのまま去っていった。
少佐も相手には見えないだろうが敬礼を返す。
”アイク”の整備士は腕のいい奴らばかりだと少佐は操縦桿を握り締めて心の中で呟いた。
『ガンスリンガーリーダー、発艦どうぞ』
管制室からの命令で少佐は機体を動かしてデッキに向かう。
既に前方には部下のF-14が次々と飛び去っていた。
目の前にいたガンスリンガー4のF-14が飛び立ち、いよいよ少佐の番となった。
「ガンスリンガーリーダー、ラクティス・ストライン、出るぞ!」
ストライン少佐を乗せたF-14がUSS”ドワイト・D・アイゼンハワー”を離れた。
F-14は空母から離れると自力で飛行し、直ちに友軍部隊へ合流した。
「各機、目標はゾルタウ周辺で戦闘中のオランダ軍の援護。各兵装を展開後直ちに離脱し帰投するぞ」
ストライン少佐の命令の後、衛士達から『了解』と命令を受諾いた音声が聞こえた。
少佐のF-14は飛行隊の最先頭に位置し、部隊を率いた。
下を見下ろせば景色は海上から陸地へと変わっていた。
第105戦闘攻撃飛行隊は度々他の戦術機部隊とすれ違った。
例えばアメリカ空軍のF-16やF-15、ドイツ連邦空軍のトーネードIDSやフランス空軍のミラージュF1など。
各地でNATO空軍が奮戦している。
「各機、高度を下げろ。光線属種の加害範囲から離脱する」
F-14の編隊が一斉に地上スレスレまで降り立ち、ホバー移動するように目標を目指した。
地上に目をやれば所々にオランダ軍の部隊が見える。
そろそろかとストライン少佐は前線にいるオランダ軍部隊に連絡を入れた。
「こちら米海軍第105戦闘攻撃飛行隊、支援要請を受けて到着した。今から援護攻撃を行う為指定した範囲から退避されたし」
少佐は周辺の友軍部隊の指揮所に爆撃範囲を示した。
爆撃範囲にはまだ味方部隊はいなかったが一応念の為だ。
オランダ軍からの返答を確認するとストライン少佐はガンスリンガーズに命令を出す。
「各機、ミサイルおよびクラスター弾の安全装置を解除しろ。目標、前方のBETA群。侵略者どもを血祭りに上げろ!」
その一言と共に少佐はターゲットを絞り、ミサイルを放った。
12機のF-14から計6発のAIM-154、通称スーパーフェニックスが撃ち込まれる。
ちなみに何故スーパーかというと既にAIM-54フェニックスと呼ばれる長距離空対空ミサイルがあるからである。
スーパーフェニックスはクラスター弾頭であり、大量のミサイルが前線に集まるBETAを殲滅した。
まずこれで3個連隊ほどが無力化された。
次にF-14の飛行隊は散開し、より後方へ浸透した。
「オマケの一発だよ!」
腰から臀部に設置されたCBU-100クラスター爆弾である。
再び範囲攻撃でBETAは殲滅され、数を減らした。
F-14は残敵を突撃砲で一掃しながら戦場を離脱していく。
後はオランダ陸軍の出番だ。
オランダ軍が有するレオパルト2やレオパルト1がBETAの屍を踏み越えて突撃を開始する。
既に3個連隊を失い、残り2個連隊も甚大な損害を被ったBETAの旅団にこれを防ぐ術はなかった。
「任務終了、母艦へ帰投する」
12機のF-14がUSS”ドワイト・D・アイゼンハワー”へ向けて飛び立つ。
最新鋭機F-14、その性能は既に実戦で証明されつつあった。
NATO北部軍集団の攻勢は成功しつつあった。
沿岸部からの米英海軍の支援と、4個軍団による機甲突破は成功し、BETAが本腰を入れて対応に入る前に距離を稼げた。
それにベルリン・ハイヴの頭脳級が真っ先に対応したのは在独ソ連軍とNATO軍中央軍集団であり、実は北部軍集団が一番余裕があった。
この頃になると北部軍集団は攻勢が成功するかという不安より、なるべく早期に突破して少なくとも在独ソ連軍の救援に行かなければと考えていた。
ゴウ大将はドイツ第1軍団とオランダ第1軍団にシュテンダール制圧後は共同して在独ソ連軍の援護へ向かうよう命令を出した。
この要望を達成する為に両軍団は攻勢のテンポを上げた。
持てる限りの榴弾砲をBETAにぶつけ、機甲突破をしやすくした。
戦術機も殆どが前線展開し、後方の航空基地に残る部隊はそれほど多くなかった。
この頃には中央軍集団のアメリカ第5軍団とドイツ第3軍団が合わせて2個BETA軍団を撃退しつつあり、BETAとしては余裕がなくなりつつあった。
更に英第1軍団とベルギー第1軍団がハーノファー、ブラウンシュヴァイクを制圧し、マクデブルクまで接近したことにより更に対応に追われた。
各所でBETAの部隊は敗退を続け、前線に展開していた数個軍のBETAは戦力が半分以下まで落ちていた。
少なくともベルリン・ハイヴの頭脳級がここまで追い込まれ、防衛側に回ることはなかった。
故に防衛戦に関する知識が乏しく、的確な対応が出来なかった。
そこへ英独蘭白の北部軍集団が徹底して攻撃を叩き込む。
度重なる戦車攻撃によって独蘭軍団が管轄する戦域のBETAは組織的な抵抗があまり取れていなかった。
小隊、中隊規模でバラバラになって戦い、足止めは出来ても本格的な阻止は出来なかった。
そのまま独蘭第1軍団は突き進む。
両軍のレオパルト2が隊列を成して突っ込んでくる。
その背後には機動援護に徹する戦術機の群れ、そう簡単に倒せる部隊ではない。
ベルリン・ハイヴはこの時初めて後退という命令をBETAに出した。
普通ならあり得ないことだ、部隊を退かせるなど。
しかし今のベルリン・ハイヴに3方向からの同時攻勢を対処する方策はなかった。
だからこれ以上の損害を出さぬよう撤退命令を出した。
それでも撤退の判断は遅すぎたが。
逃げるBETAを独蘭軍団は追った。
レオパルトが逃げるBETAを狩り、戦術機が逃げ惑うBETA群を嬲った。
2個軍団がシュテンダールに到着するのはここまで来れば1日も必要なかった。
この間、ドイツ第1軍団長のクルト・フォン・オステン中将とオランダ第1軍団長のA.W.T.ギスベルス中将は敵の主力野戦軍と真っ向から戦う在独ソ連軍をどう援護するかについて話し合った。
オステン中将は野戦司令部でギスベルス中将と電話を繋いでいた。
「現状我が軍団としては出せる戦力は予備の1個旅団、これに部隊をかき集めて指揮させたとしても戦闘団程度にしかならん。だがこれじゃあ援護にはちと不十分です」
『我が軍団としてはそちらと同じくらいしか出せません。合わせて2個旅団、確かに足りないですね』
「一部を郷土防衛部隊と変えて増援に組み込みます。これで少なくとも1個師団くらいは行くでしょう」
オステン中将が目線をやると参謀のクラウス・ナウマン大佐が既に準備していたメモ書きを置いた。
そこには郷土防衛部隊と変えても負担が変化なく、動員可能な戦力を示していた。
軽く会釈して礼を述べ、中将はギスベルス中将の発言を待った。
『こちらはまだ手一杯ですので出来れば司令官はそちらから出して頂きたいのですがよろしいですか?』
「分かりました、手配しましょう」
『助かります、では将軍、また会いましょう』
そう言って通信は切れた。
すぐに副官を呼び出して命令を伝える。
「1装甲のカッシュ少将に連絡しろ。今から在独ソ連軍への増援部隊の指揮を取れ、それから不在時の師団指揮代理は貴官が決めろとな」
「はい!」
「大佐」
「御用ですか」
オステン中将は再びナウマン大佐を呼び出した。
「増援部隊に1個飛行隊か大隊ほど戦術機をつけて行ってやりたい。空いてる隊はあるか」
「殆どの部隊は出払ってますからなぁ……いや、一つあります」
大佐は地図の旧ハーノファー市街地を指し示した。
そこには物資集積所と駐屯する部隊が書かれていた。
「30分ほど前にCAS任務を終えて戻ってきた陸軍の戦術機部隊がいます。現在物資の補給と整備中です」
「51…バルク少佐の隊か、いいだろう。補給と整備が終わり次第、増援部隊に組み込むよう命令を出せ」
「了解…!」
オステン中将は一通り命令を出し終え、一息ついた。
少なくとも担当地域攻勢が成功したのは喜ばしいことだ。
後は全体が勝ってくれればいうことはない。
「バルク少佐からです、直ちに向かうと返答が来ました」
「そうか、張り切りすぎぬよう言っておけ」
命令を出し終えたナウマン大佐が戻ってくる。
彼は優秀な将校だ、准将に昇進するだろうし連邦軍やNATOのもっと上を目指せるだろう。
「ご苦労」
「いえ、しかしかつて敵だった在独ソ連軍を支援することになるとは。今でも慣れません」
「同感だよ、特に私のような先代からいる爺は特にね。だが我々が助けるのはソ連軍であり、その後ろにいる同じ同胞であると考えれば気は楽だよ」
これは事実そうであった。
在独ソ連軍の背後には幾万もの東ドイツ国民が存在する。
彼らは鉄のカーテンで分けられただけの同胞だ、そしてその同胞は在独ソ連軍なくしては守られない。
我々が真に守っているのは同胞なのだという意識があればまだ気分は楽であった。
「ですが最近ではその同胞から連邦軍に影響が出ているという噂も……」
ナウマン大佐は小声で話した。
あくまで噂であり、この噂は軍内に不和を生む可能性があるからだ。
「例のシュタージベルリン派か?」
「ええ、うちの若い衆と中堅がかなり」
それを聞いてオステン中将は思わず天を仰いだ。
少なくともBETAとの戦争が終わるまでは何も起こらないでくれと祈りながら。
ドイツ=オランダ連合部隊が在独ソ連軍を助けんと攻撃を開始する。
部隊は直度BETA群の左側面に展開いていた為、ソ連軍の攻勢に合わせて機甲突破を図り、そのまま右左側面のBETAを包囲殲滅した。
左からの圧力がなくなったことにより、ソ連軍は余った陸上戦力と独蘭部隊を用いて更に側面を攻撃した。
戦力に関しては確実に軍規模であったBETAだが、作戦開始から激突までの数時間で軍規模のBETAなど地上に存在しなくなっていた。
ソ連軍とドイツ=オランダ軍に押し潰され、BETAは多くの兵力を失う。
その間にベルギー軍とイギリス軍はマグデブルクまでBETAの防衛戦を食い破り、占領していた。
3月20日、NATO北部軍集団の攻勢作戦は成功の為終了した。
北部軍集団はベルリンの手前まで奪還地域を押し上げたのである。
各所に展開していたBETAは殲滅されるかハイヴ内に逃げ込むかのどちらかであった。
少なくとも大半のBETAは排除され、逃げ込めたBETAは少なかった。
何故なら対応戦力として展開する時に大半が核攻撃を喰らって消し飛んだからだ。
生き残りのBETAというのは実は少数であった。
北部軍集団は占領地域を前進させ、制圧した領域を確実なものにした。
減るばかりであったドイツ領は8年ぶりに増えたのである。
将兵達は功績関係なく勝利を喜び、心の底から祝っていた。
暫くは酒臭い兵士があちこちで見られることだろう。
北部軍集団司令部も一先ず落ち着いていた。
参謀達は緊張から解放され、ラインダーレンでは緊張から解放された参謀達がよく見られた。
彼らもまた、国籍関係なく飲みに行って勝利を祝った。
それでも多くの参謀達はこの後まだやることがあった為、司令部に残っていた。
それは司令官も同じだ。
4個軍団からなる軍集団を指揮し北部での攻勢を成功させたゴウ大将は休む間もなく、司令部で損害の確認と後処理に追われていた。
戦争が終われは戦後が来る、そして戦後では戦中に起きた物事の責任を取り対処しなくてはならない。
それは戦中に人々を指揮指導した指揮官の責任であった。
「作戦は成功、よくやった将軍」
1人の男が手土産と共にラインダーレンの軍集団司令部にやってくる。
国防参謀総長、ルーウィン元帥だ。
彼はこの1ヶ月弱、各地の英軍施設を視察し、女王の代理として将兵に発破をかけて回っていた。
本国には一度だけ帰り、大陸へ戻ってきたのはつい最近のことだ。
元帥は司令部の作戦室で紅茶を飲むゴウ大将にスコッチを1本手渡した。
「これはありがたく頂きますよ」
「君らにはそれだけの権利がある。女王陛下から直々にお褒めの言葉を頂いた」
「恐悦至極に存じます」
英国女王、先代ジョージ6世の跡を継いで彼女は敬われつつも身近な存在として君臨していた。
そしてゴウ大将ら軍人にとっては自らが忠誠を誓った相手である。
「海軍はポラリスを撃ち、陸軍はそれでも万は下らない損害、だがそれに見合う勝利だ」
「ですな、後はソ連軍がポーランドのハイヴを破壊してくれるのを待つだけですが」
「ハイヴに関して言えば我々なんぞより彼らの方がプロフェッショナルだろう。我々は黙って見とくだけだよ」
ルーウィン元帥は口ではそう言いつつも顔は何かを隠しているような表情であった。
「何かありますか?」
ゴウ大将は単刀直入に尋ね、元帥は隠さず答えた。
「実は……陛下が此方に来て軍団を視察されたいと申し出されたのだ」
「……本当ですか……?」
ゴウ大将の問いにルーウィン元帥は頷いた。
どうも本当だということを感じ取ったゴウ大将は困ったような笑みのまま受け入れた。
こうした視察は以前にも度々行っている。
前大戦の時は自らトラック整備士として皆と共に戦った陛下だ、戦時となればかつてのように行きたいのだろう。
それを拒否するほど今のライン軍団に余裕がない訳ではなかったし、女王陛下が前線を訪れれば士気はまず間違いなく上がった。
「……ああ、幾つか視察される候補地を選定しておきましょう」
「まだ確定ではないから焦らずとも良い、今は軍団の再編に集中しろ。恐らく決定は1週間以内に決まると思うからそこから1週間のうちに対処してくれればいい」
「分かりました」
事務的な会話を終え、ようやく2人は僅かに本音で語り合った。
「それと、よく勝ってくれた、将軍。君たちのお陰でこの戦争で死ぬ英国の将兵は無駄死にではなくなった」
「はい、閣下こそお身体にお気をつけて」
2人は敬礼を交わし、最後に固く握手を結んだ。
陸と海、二次大戦を生き延びた将校達の硬い結束の現れであった。
1981年3月、ブリテン島のジョンブル魂はついにBETAの軍を打ち破るに至ったのだ。
つづくかも