マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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俺達は空行く渡り鳥
日々に不満が一つある:
地上では結婚の暇もなく
空では嫁など探せない

何故なら俺達は操縦士
愛しの家はこの空だ
イの一番に飛行機で
「じゃあ、娘達は?」 「ニの次だ!」
-”渡り鳥”より抜粋-


ヴロツワフ・ハイヴ攻略作戦

ソ連宇宙軍、第1親衛攻撃衛星軍。

 

戦略核からG元素使用レーザー兵器までを兼ね備える文字通りソ連宇宙軍第一の矛である。

 

司令官はアレクサンドル・マクシモフ大将、元々戦略ロケット軍でロケットの打ち上げと開発に携わっていた人物だ。

 

現状ソ連宇宙軍は3つの攻撃衛星軍と2つの偵察衛星軍、そして1つの偵察衛星軍団で構成されていた。

 

第1親衛攻撃衛星軍、第2攻撃衛星軍、第3偵察衛星軍、第4偵察衛星軍、第5攻撃衛星軍、そして第6偵察衛星軍団。

 

本来ならバイコヌール基地に残っている4基目の”ポーリュス”を基幹に新しく攻撃衛星部隊を編成する計画だったがG弾使用の衛星兵器によって一旦計画が変更された。

 

その為現在準備中のG弾攻撃衛星は仮称として第7攻撃衛星ステーションという名称で運用されていた。

 

各軍の司令官はソ連戦略ロケット軍かソ連空軍で宇宙関係の部隊に勤務していた将校が任命される。

 

例えば第3偵察衛星軍司令は軍事測量局の前局長、アレクセイ・ニコラエフ大将が務め、第4偵察衛星軍はイーゴリ・スタツェンコ中将が、第6偵察衛星軍団にはアレクセイ・ローセフ少将が司令官の座にある。

 

ローセフ少将は後に第3偵察衛星軍司令を任命され、更に昇進して軍事測量局長となる。

 

攻撃衛星軍も第1親衛攻撃衛星軍司令マクシモフ大将を始め、第2攻撃衛星軍司令ヴォリィテル・クラソフスキー航空大将が、第5攻撃衛星軍司令にはウラジーミル・イヴァノフ中将が就任した。

 

司令官はカラシィ上級大将、参謀長には4年前までA.F.モジャイフスキー名称軍事宇宙アカデミーの校長を務めていたニコライ・ベレズニャーク大将がいた。

 

ソ連宇宙軍は陸軍の砲兵畑、空軍、防空軍、戦略ロケット軍らの集合体であり、今日における対BETA戦でなくてはならない存在だった。

 

今では宇宙軍専門の将校を教育する為にS.P.コロリョフ名称軍事衛星アカデミーとV.P.ミーシン名称宇宙偵察アカデミーが設立された。

 

宇宙からの攻撃は当然利便性があるとして、宇宙からの偵察情報は人類が歩兵による浸透偵察が難しくなった今では敵の情報を掴む有効な方法の1つとして確立していた。

 

故に宇宙軍には米ソ冷戦時とほぼ同じ予算が割り振られ、基本的に宇宙軍の申し出は特に何も言われず承認されることが多かった。

 

何せ今回のヴロツワフ・ハイヴ攻略作戦だって彼らがいなければ作戦が成り立たない。

 

まずマクシモフ大将率いる第1親衛攻撃衛星軍が”ポーリュス”を使って周辺のBETAとハイヴの上層を薙ぎ払う。

 

今回はエネルギーを絞って凡そ30%程度で照射を行う予定だ。

 

宇宙空間での軌道ステーションでマクシモフ大将は直接指揮を取った。

 

所定位置についた3基の”ポーリュス”がチャージを始め、命令があるまで待機した。

 

「第1親衛攻撃衛星軍より通信、攻撃許可を求むだそうです」

 

司令部に詰める通信士官の大尉がカラシィ上級大将に攻撃許可を求めた。

 

上級大将は躊躇うことなく命令を出した。

 

「宇宙軍司令命令で伝達、直ちに攻撃を開始せよ」

 

大尉を通じてカラシィ上級大将の命令は速やかに第1親衛攻撃衛星軍に伝えられた。

 

司令部は待機していた”ポーリュス”に攻撃命令を出す。

 

”ポーリュス”から禍々しい黒紫色のレーザーが地表に向けて放たれる。

 

それに直撃したBETAは1秒と持つことなく一瞬で消失し、レーザーは暫く円を描くように地表へレーザーを照射し続けた。

 

それはハイヴ内のBETAも同じである。

 

”ポーリュス1”がヴロツワフ・ハイヴに穴をあけ、そこへレーザーを叩き込んだ。

 

メインのシャフトに展開していた光線属種はその一撃で全滅し、レーザーの照射が終わるまでハイヴ内は焼かれた。

 

これでも攻撃はまだ最初の段階である。

 

「第1親衛攻撃衛星軍、照射を終了。現在第3偵察衛星軍が状況確認中です」

 

「何割消えたかな」

 

隣に控えていたソ連戦略ロケット軍司令トルブコ総元帥はそう呟いた。

 

「我々が光線属種のレーザーを防ぐ手立てがそれほどないのと同じで、BETAにもあれを防ぐ手立てはありません。照射時間から言って周辺に展開したBETAは5、6割消し飛んだでしょう」

 

「同志司令、第3偵察衛星軍司令部からです」

 

すぐに将校が第3偵察衛星軍の報告資料を持ってきた。

 

2人はすぐに資料の中身を見た。

 

「周辺域のB3ETAは7割弱掃討され、光線属種は現行の陽動戦力で対処可能。成功です」

 

「よし、第43ロケット軍に攻撃命令」

 

トルブコ総元帥は報告を確認するなり直ぐに戦略ロケット軍の第43ロケット軍に攻撃命令を出した。

 

待機中のRSD-10”ピオネール”が起動し、軍司令ネェデェーリン大将の命令でロケットは放たれた。

 

その間に宇宙軍と前線の砲兵部隊が共同で陽動弾をハイヴ周辺域に放つ。

 

放たれた陽動弾は全弾迎撃され、爆炎の中を戦略ロケット軍の核弾頭がすり抜ける。

 

核弾頭は周辺域とハイヴ内を更に焼き尽くし、BETAに更なるダメージを与えた。

 

ヴロツワフ・ハイヴ周辺は”ポーリュス”のレーザーと戦略核の放射能で地獄より酷い有様と化した。

 

焼き尽くされたBETAは跡形も残らず、自らが死んだとすら感知出来ずに消失した。

 

それはハイヴ内の頭脳級も同じである。

 

対策を練っていた頭脳級はハイヴ全体が何度もあり得ない揺れに襲われるのを感じた。

 

そして揺れの度に隷下のBETAが凄まじい規模で消し飛んでいくのも感じ取っていた。

 

頭脳級が考えを巡らせている間に使えるはずの手駒が何体も消えていった。

 

しかもこれは攻勢の準備段階である。

 

ポーランドを奪還する為の最後の攻撃は今から始まるのだ。

 

「各前線、準備砲撃を開始」

 

「後5分後に作戦開始します」

 

通信士官達の報告を聞き、2人は前線の司令官達に全てを託した。

 

こうなればもう彼らが出来る事は前線司令官の要望によって如何様にも変わる。

 

神妙な面持ちで待機しながら戦果を期待していた。

 

「いよいよポーランド解放も大詰めですか、前線司令官達が上手くやってくれるといいのですが」

 

「何、上手くいかなかったら手間だがもう一度焼くだけの事。そう難しい問題ではないよ」

 

カラシィ上級大将は頷いた。

 

トルブコ総元帥からしてみればこのハイヴ攻略戦は既に勝敗が決まっているような戦いだ。

 

リヴォフの時と違い、ヴロツワフ・ハイヴはかなりの部隊を失い、抵抗能力はない。

 

その変わりにソ連軍は三前線とも準備万端であり、いつでも戦闘が可能であった。

 

前線を押し退けたとしても変わりに待機中の第50ロケット軍か宇宙軍の第5攻撃衛星軍が攻撃を叩き込めばいい。

 

それにハイヴなど”ポーリュス”があれば丸ごと消失させられる。

 

今やヴロツワフ・ハイヴは詰みの位置にあった。

 

「ポーランドが終われば次は我々だ」

 

「はい、ようやく例の作戦を実行に移すことが出来ますからな」

 

戦略ロケット軍と宇宙軍にとって本命の作戦はこの後にある。

 

1年前から準備と制作に勤しみ、ついに8年以上前の失われた地に手をつけることが出来るのだ。

 

「ポーランドの次は月だ、必ず取り返して見せる。星条旗の次は我々の赤旗を突き立てようではないか」

 

トルブコ総元帥はそう断言した。

 

1981年5月12日、戦略攻撃と共にソ連軍によるヴロツワフ・ハイヴ攻略戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

ソ連軍の攻勢が始まった。

 

砲声が鳴り終わると大地には戦車の駆動音が響き、BETAとの戦闘に突入した。

 

ハイヴは全方向からソ連軍による攻勢を喰らった。

 

まず第3親衛戦車軍、第1親衛軍、第4軍、ポーランド第1軍を中心とする第1ウクライナ前線が戦闘開始1時間でブジェクからオワバ間のBETAを掃討した。

 

中央では白ロシア前線の第5親衛戦車軍と第7戦車軍、第3軍が前線を押し込み、第1ウクライナ前線の反対側では沿バルト前線の第6親衛戦車軍、第2親衛軍、第11親衛軍、ポーランド軍第3軍がBETAを追撃した。

 

G元素レーザーと戦略核を喰らった外周のBETAにソ連軍の3個前線を相手してまともな防衛戦は出来るはずもない。

 

瞬く間に弱ったBETAは前線を張る戦車部隊と戦術機部隊によって掃討された。

 

前線の攻勢能力は凄まじく、第1ウクライナ前線は1時間でオワバまで辿り着いたところを5時間でシェフニツェまで突破した。

 

ヴロツワフ・ハイヴの頭脳級は残った残存戦力のうち、2個軍を周辺展開し残る1個軍をハイヴの中に留めた。

 

それでも”ポーリュス”と戦略核が粗方消し飛ばしてしまった為、戦力は半減している。

 

その上でこうした攻勢を喰らった為再編が間に合わず、1日が終わる頃には外周のBETA2個軍は掃討され、前線部隊がハイヴの直ぐ側まで辿り着いていた。

 

最初にハイヴまで突破した部隊は意外にもポーランド人民軍であった。

 

第1ウクライナ前線隷下のポーランド軍第1軍がハイヴに真っ先に取り付いた。

 

ポーランド軍の戦術機部隊が周辺の安全を確保し、ハイヴの突入口を抑えた。

 

本来メインシャフトにはかなりの数の光線属種を敷き詰めているはずなのだが、”ポーリュス”の一撃で大幅に削り取られていた。

 

ハイヴ周辺は核攻撃によって放射能汚染が激しく、各軍の将兵は放射能防護服を着る必要があった。

 

戦術機部隊もこれを見越して放射能防護の対策が施されており、外へ出る際は備え付けの防護服を着ることが推奨されていた。

 

稀にBETAがハイヴ内から出てきたが待機していた前線部隊に迎撃され、尸を積み上げた。

 

司令部では戦果の報告と状況を纏め上げ、戦術機部隊の投入判断を行った。

 

「ハイヴ周辺域は無力化しました。現在第3親衛戦車軍を第24軍と交代し、戦闘を継続中です」

 

ラディーギン大佐はアニシモフ中佐と共に状況を報告した。

 

作戦参謀達は集まって投入について話し合っている。

 

「どうします?」

 

「現状各地でBETAは抑え込めてます。やるなら今かと」

 

バリィーニキン大佐は待機中の戦術機2個連隊の投入を進言した。

 

丁度他の前線と連絡を取り合っていたリトヴィネンコ少佐とローシク大尉が戻ってきた。

 

「白ロシア前線は投入準備を開始しています」

 

「沿バルト前線も同様です」

 

各前線、戦術機部隊を投入する予定のようだ。

 

ヤゾフは頷き、全員に命令を伝えた。

 

「なら先鋒は我がウクライナ前線がやろう。GRUの旅団に連絡、直ちに戦術機部隊をハイヴに突入せよ。第17航空軍にも爆撃命令だ」

 

「はい!」

 

その間にリトヴィネンコ少佐が地図にあった模型を動かした。

 

片手間で彼はヤゾフを見ていた。

 

自身の上官を見て技量を手にし、上官とはどうあるべきかを分析した。

 

ヤゾフは判断が早い、その上参謀達とも良く話し合い、話し合いは一方的にやりたいことを押し付けるというよりも各所の情報を総合的に判断して命令を下していた。

 

かつて、大祖国戦争の頃の将軍といえば参謀達も重要だったが将軍達はワンマン気質だった。

 

その点ヤゾフは穏やかな言葉遣いで参謀達の話をよく聞き、その上で判断も早いことから司令官としては優秀である。

 

前の上官だったシュラリョフ大将も判断の早い人であったが、ヤゾフはそれ以上、むしろ前線司令官としてより大きい部隊を動かしている為その胆力は凄まじいものであった。

 

彼は核兵器の投入も前線の将兵に無理をさせることも躊躇わなかった。

 

「リトヴィネンコ少佐、君はどう見る」

 

ヤゾフはリトヴィネンコ少佐に尋ねた。

 

「ハイヴ攻略戦でしょうか」

 

「そうだ、君達若い参謀の話を聞きたい」

 

リトヴィネンコ少佐は地図を見ながら作戦を考え、考えを述べた。

 

「少なくとも周辺にいたBETAの殲滅は確認が取れています。であればハイヴ攻略作戦に移行すべきでしょう。問題はハイヴの中身です」

 

ヴロツワフ・ハイヴにどれだけレーザーと核を撃ち込んでも中身がどうなっているかは誰にも分からない。

 

それこそ入ってみなければ分からないのだ。

 

もしかしたらまだハイヴの中には戦略核で潰し切れなかったBETAが大量に控えているかもしれない。

 

であればそのBETAを殲滅する術は1つだ。

 

閉所にひたすら火力を叩き込んで時間をかけて殲滅する。

 

「中身の数が分からない以上重武装の戦術機を投入して掃討戦を行い、時間をかけて殲滅、これしかないと思われます」

 

リトヴィネンコ少佐の考えはソ連軍の参謀達が考えた作戦と合致していた。

 

それもただ作戦をなぞるというより理由をつけて説明した。

 

ヤゾフは満足げに頷いた。

 

「私も君と同じ意見だ、ハイヴを丸焼きにするにしても確認の兵は送らねばならん」

 

「元帥、Su-24の航空中隊が出撃しました。5分後に爆撃します」

 

「そうか、前線部隊には補給地点を建設するよう命じておけ」

 

「了解…!」

 

報告を受けたヤゾフは再び命令を出し、小さくため息をついた。

 

一介の少佐から見れば完璧超人に見えるこのソ連邦元帥も普通の人である。

 

故に犠牲者や作戦の成功不成功のことを考えれば気分は重くなった。

 

Su-24の編隊が先行して出撃した第10独立特殊任務旅団、第9独立特殊任務旅団、第8独立特殊任務旅団の戦術機部隊が続いた。

 

『10350998、まもなく目標に到着する…!援護を頼む』

 

先頭を行く中隊長機から報告が入り、宇宙軍がハイヴに向けて数発の実体弾を軌道上から放った。

 

BETAは生き残っていた光線級がレーザーを放って迎撃したが、すれらは全て陽動の弾であった。

 

本命はすぐにSu-24から放たれる。

 

Su-24は戦術核をハイヴ内に投入し、戦術機隊は直ちに退避した。

 

内部に叩き込まれた戦術核は再び爆発の光を起こし、ハイヴの中にいたBETA達は皆焼かれた。

 

Su-24はそのまま航空基地に帰投し、代わりにMiG-23やMiG-27の混成編隊がハイヴ内に突入した。

 

『10-001、突入する』

 

GRUスペツナズの戦術機がハイヴ内に入り、内部を偵察する。

 

その間に各所の前線航空基地では突入用に待機していたソ連空軍の戦術機連隊が発進する。

 

それはポワーレ市に駐屯していたフレツロフ大尉らも同じだ。

 

「戦術機上げろ!出撃だ!」

 

古参の上級軍曹が滑走路の下士官兵を指揮する。

 

簡易的な飛行場に人の背丈の何十倍もある人型航空機が立ち上がった。

 

「722301、ニコライ・デルーギン、出るぞ」

 

『戦果を期待しています!』

 

整備士からエールを受け、飛行場からデルーギン大尉のMiG-27が発進した。

 

暫く地表スレスレを飛行していたが大尉のMiG-27はゆっくりと浮上しそのまま天高く飛び立った。

 

すぐに彼のウィングメイト達も飛行場から飛び立つ。

 

『ヴィクトル、先に行くぞ』

 

オルゼルスキー上級中尉のMiG-27が先に飛行場に辿り着き、発進の態勢に入った。

 

「ああ、後から行くよ!最終チェックはこれでいいか?」

 

「はい、駆動系統に問題がないので完璧に行けます」

 

フレツロフ大尉が整備士と話している間にオルゼルスキー上級中尉のMiG-27が出撃した。

 

次にマリロフ上級中尉のMiG-27が滑走路に足をつけた。

 

「じゃあなヴァローシャ、帰ってくるからいいウォッカをくすねておけ」

 

「まだ捕まりたくないっすよ」

 

「ったく大丈夫だっつうの」

 

そう言ってコックピットハッチを閉め、大尉は自身の愛機を起動させて起き上がらせた。

 

整備士達は周辺から退避し、そんな彼らに向かってフレツロフ大尉は敬礼した。

 

機体を動かし、MiG-27を滑走路近くまで歩かせる。

 

『では大尉、また後で!』

 

「ああ、後で会おう」

 

マリロフ上級中尉のMiG-27が飛行場から飛び立つ。

 

残るはフレツロフ大尉のMiG-27だけとなった。

 

『管制室より722112、発進を許可する』

 

「了解、722112、フレツロフ出るぞ!」

 

大尉のMiG-27が空に向けて飛び立つ。

 

先行していた2人と合流し、編隊を組んで部隊に合流する。

 

航空基地からは凡そ1個中隊分の戦術機が飛び立った。

 

皆突撃砲を2丁持ち、全身には追加武装を装備している。

 

『ルペータ大佐より全機へ、ハイヴ内に突入する。我々が一番乗りだ、橋頭堡を確保して暫くは待機』

 

「了解、突入口に敵なんていないといいんだがな…」

 

フレツロフ大尉はほぼ祈るようにそう呟いた。

 

彼の望みはSu-24の核が叶えてくれた。

 

付近のBETAは戦術核で焼かれるか警備中の前線部隊の戦術機によって抑えられていた。

 

作戦の本段階が始まる。

 

”西”作戦における第二段階が始まった。

 

 

 

 

各前線からそれぞれ2個連隊、計6個連隊の戦術機と4個GRUスペツナズ旅団隷下の戦術機中隊がヴロツワフ・ハイヴ内に突入した。

 

まず先行したのはGRUスペツナズの戦術機中隊で、戦闘は極力避け、偵察任務に専念した。

 

その後真っ先に出撃した第1独立親衛戦闘航空連隊と第722親衛戦闘航空連隊の戦術機がハイヴ周辺を制圧した。

 

橋頭堡を確保し、まず第1独立親衛戦闘航空連隊が内部に突入する。

 

突入から3時間は核によって弱ったBETAにトドメを刺すだけで済んだが、4時間も経つと地下の広間に到達し、生き残ったBETAとの本格的な戦闘が始まった。

 

ヴロツワフ・ハイヴはフェイズ3.5というべき段階にあった。

 

少なくともリヴォフ・ハイヴよりは早く建設され、余裕もあった為構造はリヴォフ・ハイヴより広かった。

 

されどポーランドからの撤退戦時とリヴォフ・ハイヴ攻略以降はソ連軍の攻撃を引き受けることになり、これ以上の拡張工事は出来なかった。

 

今やBETAの残存戦力は凡そ1個軍程度、2個軍はすでに消えた。

 

各所の広間にBETAを展開し、戦術機部隊を迎え撃ったがそれはもうリヴォフ・ハイヴで経験済みである。

 

チュイコフ戦術に倣って突撃砲やミサイルに爆弾、時にはナパーム弾を投入して広間全体を火力で制圧する。

 

突入部隊には友軍の安全さえ確保出来れば戦術核の使用が許可された。

 

5時間が経つ頃には地表構造からBETAは駆逐され、地下の攻略に移った。

 

突入した戦術機は基本MiG-23、MiG-27である。

 

衛士達はこの日の為に突入した際の閉所での戦闘を徹底して教育された。

 

ヴロツワフ・ハイヴの頭脳級はリヴォフ・ハイヴほどの準備はしていなかった。

 

原光線級は未だに戦闘に駆り出されていなかったし、待ち伏せや強襲といった戦法は行わなかった。

 

敵を発見したらいつも通り物量で押し潰そうとしていた。

 

その為戦術機部隊は一旦敵を引きつけながら後退し、ある程度の地点で一斉攻撃で殲滅した。

 

通常の攻撃だけでなく、試作装備としてTO-55の火炎放射器を取り付けた戦術機も投入され、BETAは各地で焼き殺された。

 

その間にGRUスペツナズはハイヴ内の探索を進め、情報を部隊に共有する。

 

こうした努力によってソ連軍はBETAに対し相手のホームグラウンドでも優位に立っていたが、それでも物量とハイヴの広さによって攻略に時間が掛かっていた。

 

その為本来中衛として投入されるはずのフレツロフ大尉らも前線に送られた。

 

フレツロフ大尉の編隊とデルーギン大尉率いる編隊の6機が前衛と後衛を作り、ハイヴの奥地に向かった。

 

「各機気をつけろ、BETAはどっから来るか分からん」

 

部下に警戒を促し、自身も細心の注意を配る。

 

されどフレツロフ大尉は内心、自身の不運を呪っていた。

 

ハイヴに突入するとはいえ一番危険な前衛ではないというのに、何故か前線に突入されるお鉢が回ってきた。

 

彼は己の悪運とこの世の全てを恨んだ。

 

昔からそうだった、学校(Школа)では行事毎の度に雪が降ったり雨が降ったり、地域の非常事態が起きたりした。

 

普通にパイロットになのたかったのに今では手足のついた謎の飛行機に乗っている。

 

軍学校を卒業して士官になる頃にはBETA大戦が本格化して、前線に送られないと言われたのに前線で戦わされた。

 

人生楽しいことの方が多かったはずなのに今となっては不幸なことばかり浮かんでくる。

 

「クッソッ!こんなことになるなら”ポーリュス”で全部吹っ飛ばしてくれよ…!」

 

大尉は思わず心からの願いを呟いた。

 

正直、ヤゾフや上官達は尊敬してはいるがそれはそれとしてよくもこんなところに突っ込ませやがってという感情もあった。

 

大体なんでもう一度ハイヴ攻略なんてやらされなきゃならんのだ。

 

怒りながらMiG-27を飛ばしていると警報音が鳴り響いた。

 

『大尉、前方から小隊規模BETA群です』

 

「引きつけながらデルーギンの隊と合流!722301、聞こえてるか」

 

『了解した、指定するポイントで待つ』

 

座標が送られ、3機は迫り来るBETAを迎撃しながら後退した。

 

BETAは続々と増えていき、ある地点に到達する頃には3個小隊レベルまで増えていた。

 

『1個中隊弱います』

 

「落ち着け大した数じゃない、722301今だ」

 

待機していたMiG-27がナパーム弾を投下し、既に1個中隊まで膨れ上がっていたBETAを丸ごと焼き殺した。

 

焼かれるBETAに突撃砲を追加で喰らわせ、そのまま殲滅する。

 

その頃にはフレツロフ大尉の編隊も引き返して炎の上を通り抜け、デルーギン大尉の編隊も後に続いた。

 

「いい腕だ722301」

 

『当たりどころが良かっただけだよ』

 

再び6機はハイヴの完全制圧を目指して前進する。

 

BETAは各所で押されていた。

 

引いて叩いてまた進んでを繰り返す戦術機部隊に対処出来なくなりつつあった。

 

そして広間に篭れば火力で焼き殺される。

 

生き残る道はそう多くなかった。

 

この頃になると頭脳級は手詰まりという言葉を思い浮かべた。

 

今の戦力では全力を上げて反撃に出ても恐らく潰されるだろう。

 

そもそもBETAは戦争をする為の道具ではない。

 

あの軌道上からの攻撃を地上で防ぐ手立てがない以上頭脳級には対応の方法がなかった。

 

本来なら頭脳級から重頭脳級に援軍要請を出せば対処は出来るのだが、肝心の重頭脳級がいない以上どうしようもなかった。

 

結果的にヴロツワフ・ハイヴはBETAを退かせる訳でもなく突っ込ませる訳でもなく、各地の広間に残置した。

 

『722112、前方の広間にBETA』

 

オルゼルスキー上級中尉の報告通り、レーダーにはBETAの反応があった。

 

フレツロフ大尉は武装の安全装置を解除し両機に命令を出す。

 

「各機、チュイコフ戦術だ。中を焼くぞ」

 

『了解』

 

『了解』

 

フレツロフ大尉は突撃砲のカートリッジを交換し、交換した方を前方の広間へ投げつけた。

 

投げられたカートリッジは広間から出てくるレーザーに焼かれ、中の弾薬毎爆散する。

 

これで1発分搾り取れた。

 

「今だ!」

 

3機のMiG-27が突撃砲を放ちながら、ナパーム弾を広間に投入した。

 

12秒経つ前に中にいた光線級はナパームか弾丸のどちらかによって撃破され、他の戦車級や要撃級も撃破された。

 

そのまま後続のデルーギン大尉の編隊が広間に突入し、残敵を掃討した。

 

『クリア!』

 

後からフレツロフ大尉らのMiG-27が突入し、警戒態勢に入る。

 

コックピットでは機体の残弾が確認出来、これまでの戦闘で全ての武装を半分近く使っていた。

 

「各機、残弾の方はどうだ」

 

『こっちは突撃砲が45%、左足のS-80は使い切りました。ココンも全部です』

 

『俺は突撃砲が53%くらい、S-80はトントンだな。多分次の広間制圧で確実に使い切る。後ナパームはもうない』

 

『我々の隊はナパームは全弾切らしてる、残りも6割ちょっとだな』

 

全員の報告を聞いてフレツロフ大尉は考えた。

 

大体次の戦闘でそろそろ弾薬が枯渇するといったところだ。

 

「こちら722112、弾薬の補給を要請する」

 

『司令部了解した、直ちに補給部隊を展開する。今そちらに向かっている』

 

数分後、司令部の言っていた補給部隊が到着した。

 

大体3メートルほどのパワードスーツを着た部隊が補給物資のコンテナを持ってきた。

 

通称BMS-1と呼ばれるソ連軍の機械化歩兵装甲である。

 

『お待たせしました!』

 

「思ったより早かったな」

 

BMS-1の兵士たちが持ってきた補給コンテナが開き、補給を開始した。

 

S-80を入れ替え、BMS-1がココンを装填し、突撃砲のカートリッジを備える。

 

補給は数分以内に終わり、余った物資はシールドの裏に収納した。

 

「助かったよ、生きて帰れよ」

 

『了解!』

 

補給を終えた一行は武器を持ち、再び奥地へ向かった。

 

この頃になると一行は何故か散発的にBETAと遭遇するようになった。

 

2桁以上の集団ではなく4、5体のBETAが現れては一行に嬲られる。

 

『妙なBETAばかりだな、前方に友軍信号!』

 

「まさか……」

 

フレツロフ大尉はなんとなく悪い予感がし始めていた。

 

一応彼らは前線部隊である、だがこれより先にも友軍部隊はいた。

 

丁度広間を抜けるとそこには何機かのMiG-27とMiG-23がいた。

 

広間のBETAを殲滅していたようで、生き残りの要撃級に近接用短刀を突き刺していた。

 

『止まれ!』

 

僚機のMiG-23に停止するように命令される。

 

「我々は第722親衛戦闘航空連隊だ、見て分かる通り味方だ」

 

中隊長機から通信が入り『よせ』と命令が入った。

 

大尉はため息をついた。

 

この部隊は迷彩の色からしてソ連陸軍所属の戦術機部隊で更に言えば中でも特殊部隊の類だ。

 

GRU所属のスペツナズ旅団、それが眼前にいる部隊であった。

 

「なんで俺たちが一番先頭なんだよ……」

 

フレツロフ大尉は頭を抱えた。

 

本来中衛にいるはずの自分達が突破に突破を重ねてGRUの戦術機部隊と合流してしまった。

 

『隊長、巨大な熱源反応を検知。恐らく反応炉です』

 

両機からの通信が入り、位置を確認した隊長は全部隊とついでにフレツロフ大尉らに命令を出した。

 

『各機、直ちに目標対象の制圧及び確保に移れ。私はロディオン・モノガノフ少佐、第722親衛戦闘航空連隊聞こえるか』

 

「ああこちら722112フレツロフ大尉、どうぞ」

 

フレツロフ大尉はなんとなく口ぶりから命令内容を察した。

 

他の衛士達もまたかと渋々これからくる命令を受け入れた。

 

『我が隊の先遣隊がハイヴ内の反応炉を確認した。これを制圧する為に我が隊に協力して欲しい』

 

モノガノフ少佐は最後の最後まで部隊名は一切名乗らなかった。

 

彼らは第10独立特殊任務旅団の戦術機部隊であり、先行偵察と特殊任務を兼ねていた。

 

「……了解、各機モノガノフ少佐に続いて反応炉を潰すぞ」

 

明らかにフレツロフ大尉のテンションが下がった。

 

彼らはもう一度頭脳級との戦いに向かわねばならない。

 

やっぱり自分の人生は悪運続きだと大尉は内心文句を言い始めた。

 

 

 

 

司令部ではポーランドの地図から特別に用意したハイヴ内の断面図に差し替えていた。

 

今まで軍や師団が描かれていたテーブルの地図はスケールダウンして戦術機の連隊や中隊が描かれていた。

 

司令部はいつもの作戦時より落ち着いていた、もうここまで来れば確実に勝てる戦いだからだ。

 

既に突入した6個戦術機連隊はハイヴの地表構造部と広間の4、5割想定を制圧し、BETAを押し込んでいた。

 

定期的にSu-24が連隊、旅団規模BETA群に戦術核を放って殲滅している。

 

中央の主縦坑は完全に沈黙し、中にいたBETAの生存者はいなかった。

 

「第1独立親衛戦闘航空連隊からです。新たに広間を発見し内部のBETA部隊を殲滅したと」

 

「また広間か、勝手に人の土地を掘りまくりやがって」

 

ゾロトフ大佐はタバコを吸いながら文句を垂れた。

 

ヤゾフも咎めることはしなかった、彼とて人の土地を無許可に荒らし回るBETAを許す事は出来ない。

 

「問題はどの程度BETAがいるか、ということだ」

 

モイセーエフ大将は不安を口にした。

 

4、5割の広間を制圧したソ連軍であったが残りの5割にBETAの主力が紛れ込んでいるかもしれない。

 

もしそうであればその主力に数で押されれば6個戦術機連隊は全滅するだろう。

 

「GRUの部隊からの報告だと敵戦力はそれほど多くないそうですが…」

 

「とはいえスペツナズもそこまで奥地にはいけていないはずだ。まだ油断は出来ん」

 

勝ちは決まっているが油断は出来ない。

 

普段より余裕はあるとはいえ、呑気に茶を飲んでいる程ではなかった。

 

するとヤゾフの側にアニシモフ中佐がやってきた。

 

彼は敬礼し参謀達にも報告する。

 

「偵察中隊のモノガノフ少佐からです、我ハイヴ中央に突入せり、だそうです」

 

「そうか、少佐達の武運を祈ろう」

 

ここまで来れば後は少佐の能力次第である。

 

そんなハイヴの最奥であるが、予想外にもGRUとフレツロフ大尉らは苦戦していた。

 

ヴロツワフ・ハイヴの頭脳級周りにはある1匹のBETAが守っていた。

 

そのBETAには名称はない、今まで人類が目にしてきたBETAとも形状が合致しなかった。

 

ベースは突撃級であるがその形は無理やり3体ほど合体させたような姿であった。

 

しかも要塞級が持つ触手を備え、要撃級の前足が4本ついていた。

 

普通なら何機か撃破されているだろうが流石はGRUスペツナズ、回避に専念しながら正体不明のBETAを抑えていた。

 

「なんだあの訳の分からん個体は!!」

 

『改造型だろう!無茶しやがって!』

 

デルーギン大尉とフレツロフ大尉は職種を回避しながら突撃砲弾を放った。

 

されど器用に要撃級の前足で防御し、本体にダメージはなかった。

 

『各機、そのBETAを抑えろ。我々は反応炉の対処に向かう』

 

モノガノフ少佐は器用に近接用短刀で触手を切ると、部下に後を任せ頭脳級の方へ両機と共に向かった。

 

「あの少佐!こんなデカブツ任せやがって!」

 

『どうしますか大尉!』

 

「潰すしかないだろう!」

 

触手の攻撃を全て避けながらフレツロフ大尉はココンを3発放って前足の1本を落とした。

 

その間に他のGRUスペツナズのMiG-27が触手を2本切り落とし、装甲の合間に突撃砲の弾を叩き込んだ。

 

攻撃を受けたそのBETAからはちゃんと体液が出た。

 

『血が出てる!殺せる!』

 

スペツナズの衛士の発言通り、相手はBETAであるから倒せない敵ではなかった。

 

切り落とされた触手は体内に戻すと即座に回復するか予備のパーツがあるようで鉤爪をつけてまた飛ばしてきた。

 

あの爪に当たると要塞級同様に溶解液が出るのかは分からないし試している暇もない。

 

触手を掻い潜りながらフレツロフ大尉は策を練った。

 

その間にモノガノフ少佐は頭脳級に取りつき、特殊任務についていた。

 

ヴロツワフ・ハイヴの頭脳級はリヴォフ・ハイヴの時と違って触手を出して応戦してこなかった。

 

その為モノガノフ少佐はあっさりと頭脳級に取り付いて特殊任務に入れた。

 

「10-004、どのくらい持ちそうか」

 

少佐は部下のヴォルホーチン大尉に尋ねた。

 

大尉は攻撃を掻い潜りながら少佐に報告する。

 

『抑えるだけならまだ行けます…!722の連中もまだ持ってます…!』

 

「もう暫く頼む」

 

モノガノフ少佐は何発かの突撃砲弾を頭脳級に叩き込んだ。

 

当然この程度では頭脳級は死なない、必要なのは頭脳級に穴を開けることだ。

 

機体に取り付けられていた特殊器具を手にし、開けた穴に器具を突っ込む。

 

「死ぬ前に役に立ってもらうぞ」

 

その器具は頭脳級の肉を抉り取り、カプセルの中に入れた。

 

頭脳級を守らんとモノガノフ少佐の方にもBETAが触手をやってきたが僚機のMiG-23が全て防いだ。

 

「グラムは……問題ない。任務は達成した、目標を潰すぞ」

 

モノガノフ少佐は頭脳級から離れ、僚機共々戦闘に参加した。

 

その間にフレツロフ大尉は眼前のBETAを殺す方法を思いついた。

 

「マリロフ、確かまだナパームが1発余ってたよな?」

 

『はい!1発ですけど!』

 

「十分だ、全機聞いてくれ。まずあの要撃級の足を吹っ飛ばしてやつの防御力を下げたい。それから何機かで取り付いて奴の装甲の間に攻撃を叩き込んで引きつける。その間に上級中尉はナパームを1発叩き込め」

 

そう悪くない作戦にGRUスペツナズの部隊も了承した。

 

各機で触手を引きつけ、突破の隙を作る。

 

「この!」

 

フレツロフ大尉は突撃砲でまた足を1本千切り、その間にデルーギン大尉とオルゼルスキー上級中尉が残りの足をS-80と突撃砲の一斉射撃で落とした。

 

足は他にもある為倒れる事はなかったがこれで装甲の隙間を守る術はなくなった。

 

「誰か上にっ!」

 

フレツロフ大尉が頼んだ瞬間上空からモノガノフ少佐のMiG-27が急速に突っ込んで来た。

 

持っていた頭脳級の肉片は両機に預け、本人は突撃砲と短刀を持って吶喊した。

 

接近する触手を切り裂いて進路を切り開き、BETAの装甲の上に乗って装甲の合間に突撃砲を叩き込む。

 

殺し切れるほどのダメージではなかったがBETAは苦しんでいた。

 

そしてモノガノフ少佐に注意が向いた瞬間、マリロフ上級中尉がナパーム弾をBETAの足元に放った。

 

BETAはナパームの熱によって焼かれ、内側からの攻撃に苦しんでいた。

 

この個体は突撃級の発展型であるからどうしても腹部には装甲を形成出来なかった。

 

その為下から炙られればあっという間に大ダメージを負った。

 

触手の動きも鈍くなり、チャンスが生まれる。

 

「これで終いだ!」

 

BETAの背中に飛び乗り、非装甲部に突撃砲を何発も喰らわせ、残ったココンを撃ち込む。

 

ダメージの許容限界が来たそのBETAはそのまま絶命した。

 

『潰したな。全機、Su-24の隊と交代してここを離脱するぞ』

 

モノガノフ少佐の命令でGRUスペツナズの戦術機部隊が離脱し、一足遅れてフロツレフ大尉らも部隊が後に続いた。

 

道中Su-24とすれ違いその部隊は頭脳級にトドメを刺す為直ちに戦術核を投入した。

 

最大速度でその場を離れ、やがて奥の方で核爆発が起こった。

 

『10-001より司令部へ、反応炉を制圧した。これより帰投する』

 

報告は少佐に任せてフレツロフ大尉は離脱に専念した。

 

爆発を見届ける事なくひたすら脱出することに彼は専念していた。

 

なんとか勝った、妙なBETAと戦って取り敢えず倒せた。

 

「疲れた……」

 

思わずフレツロフ大尉はコックピットでそう呟いた。

 

彼にはそれだけのことを言う権利があった。

 

1981年5月21日、ヴロツワフ・ハイヴは陥落した。

 

ハイヴの陥落によりポーランドからBETAは近いうちに一掃され、完全に解放されることになる。

 

現在の国家元首であるヤルゼルスキ上級大将が本国へ戻ってくるのはこれから僅か6日後の5月27日であった。

 

もうこれでポーランドがBETAの恐怖に怯える日々は過ぎ去った。

 

これからは人類の為にBETAを追放する番だ。

 

人類はまた1つ、勝利を重ねた。

 

 

 

-ソ連領 ロシアSSR 首都モスクワ ソ連軍参謀本部-

参謀本部では各総局による定例会議が開かれ、今し方会議が終わったところだ。

 

参加者達は疎に会議室を後にし、何人かの将校はまだ部屋の中にいた。

 

参謀総長のオガルコフ元帥は一足先に執務室に戻り、ビィゾフ大将とイヴァシュチキン上級大将がまだ残っていた。

 

2人は席を立ち、雑談がてら偵察衛星関連のことについて話していた。

 

「データリンクで戦術機と繋いで測量を行えるようになったのは大きいですな。これなら地図も更新も早く済む」

 

「全ては我らがオガルコフ元帥の天才的な発想だよ、彼がいなかったらそもそも成り立たない」

 

オガルコフ元帥はイヴァシュチキン上級大将の言う通り天才であった。

 

彼は工兵出身のソ連邦元帥であり、技術屋としてソ連軍の改革を助けてきた。

 

その成果であるデータリンクによる指揮統制はソ連だけでなく世界に恩恵を与え、軍事測量局としても職務が大いに助かっていた。

 

「問題は宇宙軍の関心が暫く月に行ってしまうので若干こっちに回ってくる分が減ると言うことですが」

 

「その点は仕方あるまい」

 

「同志上級大将!」

 

GRU所属の中佐が敬礼しイヴァシュチキン上級大将を呼んだ。

 

「緊急の要件です、どうしても同志にお話が」

 

上級大将はビィゾフ大将の方を見た。

 

大将は「お構いなく」とイヴァシュチキン上級大将を行かせてやった。

 

イヴァシュチキン上級大将は会議室を出て少し外れの方まで連れて行かれた。

 

中佐に対して「何事かね?」と彼はすぐ尋ねた。

 

「前線にいる第10独立特殊任務旅団からです」

 

その言葉を聞いた瞬間イヴァシュチキン上級大将は目の色を変えた。

 

あれらの特殊任務旅団には1つ命令を出していたからだ。

 

「作戦の方は」

 

「達成されました、現在ハイヴ内は掃討作戦に移行中です」

 

「反応炉の中身は」

 

上級大将の問いに中佐は耳打ちして答えた。

 

「確保したとスタロフ大佐から報告が入っています」

 

滅多に笑わない上級大将がこの時ばかりは笑みが浮かんだ。

 

それからすぐに部隊へ命令を出す。

 

「確保した反応炉のパーツは直ちにモスクワの研究センターへ送るよう伝えろ。腐らせぬよう細心の注意を払ってな」

 

命令を受け取った中佐は敬礼し、直ちに伝えに行った。

 

イヴァシュチキン上級大将は窓から空を見上げた。

 

あの空の向こうには宇宙があり、そして月がある。

 

「貴様らのお仲間はまた1人死んだぞ、なに、すぐに貴様らも迎えが来る」

 

イヴァシュチキン上級大将は知っている、ソ連宇宙軍と戦略ロケット軍が企んでいることを。

 

そしてこれから頭脳級の欠片で開発局が何をするのかも。

 

BETA大戦は激化の一途を辿る一方であった。

 

 

つづくかも

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