マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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我らは空が無ければ、パンと水が無いようなもの
道が開ける時、それはとても素晴らしい
我らが空に献身する、どの一瞬にも
故郷の地は感謝を欠かさない
-”翼の職務”より抜粋-


番外編2
スホーイは空へ


-ソ連領 ロシアSFSR モスクワ州-

パーヴェル・スホーイという天才が率いたスホーイ設計局。

 

BETA大戦によって生産と開発の主力は戦闘機から戦術機に代わったが、技術者達の情熱は変わらなかった。

 

より高く、高く、高く、スホーイの子ども達は高く飛び立つ。

 

同設計局はSu-24やSu-25の戦術機を開発し、前線ではこのSu-24が大活躍していた。

 

元々スホーイ設計局もミコヤン・グレーヴィチ設計局も航空機とハーディマンのような戦術機以前の人型兵器を航空機に融合させる取り組みも行っていた為下地はあった。

 

その為戦術機の時代となっても開発はそれほど滞りなく行われた。

 

現在開発中のT-10もその一例に漏れずといった形である。

 

元々この機体はナウム・チェルニャコフが主任設計士を務めていたが、病気によりミハイル・シモノフにその座が譲られた。

 

シモノフは戦場から送られてくるデータをフィードバックしつつ、新技術を取り入れて開発に力を入れた。

 

既にT-10は一部部隊でテスト運用を行っており、結果は良好といった有様だ。

 

当初は整備性に難ありと評価されたが、改良を重ねてより良い形に練り上げた。

 

彼が格納庫の窓から見ている眼前の機体こそがT-10であり、中でも最新モデルのT-10Sであった。

 

「主任、T-10Sの最終テストですが日程が決まりました」

 

技師官の1人、コンスタンチン・アルタメフが資料と代用コーヒーを持って室内に入ってきた。

 

シモノフはその2つを受け取ると早速目を通した。

 

「日程は……分かった、調整しよう。しかしシラーエフ航空産業相とコルドゥノフ総元帥はともかく、クゥタホフ総元帥もいらっしゃるとはな」

 

イヴァン・シラーエフはソ連の航空産業を統括する航空産業省の大臣であり、アレクサンドル・コルドゥノフ航空総元帥はソ連防空軍の司令官である。

 

そしてパーヴェル・クゥタホフ航空総元帥はソ連空軍の司令官であり、航空軍事関係におけるトップが一様に介していた。

 

それだけこのT-10Sにソ連が期待をかけているということだ。

 

「日程が決まったか」

 

同じように部屋に入ってきたある少将がそう呟いた。

 

名はウラジーミル・イリューシン、このT-10Sのテストパイロットであり、ソ連の航空関連史を知っている人であれば彼の苗字は必ず見たことがあった。

 

彼の父はセルゲイ・イリューシン、伝説的な航空設計士である。

 

父は設計士で息子はテストパイロット、正に航空機と共に生きてきた親子だ。

 

「万全にしておいてくれよ、ただ飛ばすだけじゃなくて戦術機同士の模擬戦も含まれてるんだから」

 

「分かってる、君の傑作だ、上手く飛ばして見せるよ」

 

イリューシン少将はシモノフの隣に立ち、そう告げた。

 

少将もこの開発に長年携わり、テストパイロットとしてもう何年もこの機体に乗っている。

 

彼はテストパイロットとして最初にMiG-21に乗り込んだ衛士であり、前線で戦闘も行った。

 

「頼むぞ。現状ソ連軍は勝ち続けている、もしかしたらこれが戦争中最後の戦術機かも知れん」

 

ふとシモノフは呟いた。

 

彼はSu-24、Su-25とスホーイ設計局製の戦術機開発に携わってきた。

 

あの頃はまだ戦局は悪化する一方だったが今となっては勝ち筋が見えてきた。

 

シモノフのいう通りT-10SはMiG設計局のプロイェークト9と並んで戦争中に開発される最後の機体となる可能性が高かった。

 

イリューシン少将は微笑を浮かべた。

 

「それならいいな、あの機体が飛んで前線に配られて、それで戦争が終わって私も引退出来れば最高の終わり方だ」

 

「引退?君からそんな言葉が出るとは。まだ行けるだろう」

 

シモノフの発言にイリューシン少将は微笑から苦笑いに変わった。

 

「いやぁ私もう54だよ?少なくともパイロットとしては無理だ。若いのに譲る」

 

シモノフは何度か頷き、彼の決意を受け入れた。

 

優秀な衛士が引退するのは惜しいが確かにもう年齢を考えれば潮時だろう。

 

実際彼の後輩は育っている。

 

「君の傑作と私の引退、あれが背負うものは少し重すぎるかもな」

 

「いや、そんなことはないさ。きっと他の奴ら同様に自由に飛んでいくだろう」

 

2人は同じ戦術機を見ていた。

 

設計士とパイロット、そして設計に携わった多くの者達の期待を背負い、T-10S(Su-27)は飛び立つ。

 

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSFSR モスクワ州郊外 ジューコフスキー飛行場 戦術機演習施設-

モスクワ郊外に設置されたジューコフスキー飛行場には訓練と戦術機の試験運用の為の施設が存在した。

 

今回はそこでT-10Sの試験を行うことになり、試験場近くには視察席が設けられた。

 

ジューコフスキー飛行場では何機かのMiG-25PDSが待機し、滑走路にはイリューシン少将が乗り込むT-10Sの姿があった。

 

『こちら管制室、10001発進許可を出す』

 

「10001了解、イリューシン出る」

 

ペダルを踏み込み、イリューシン少将の乗り込むT-10Sはジューコフスキー飛行場の滑走路から飛び立った。

 

そのまま数十キロ先の試験場まで向かい、視察席で待つお偉方の前に機体を下ろした。

 

少将はその前に空中で一回転し、T-10Sの機動性を見せつける。

 

空中での派手な動きとは裏腹に着陸時はしなやかな動きであった為高官達から歓声が上がった。

 

「こちらが我々が開発した試作名称T-10S、新型の戦術機です」

 

シモノフは高官達に機体を紹介した。

 

見事な機動性とその整った機体の顔立ちを見て一部の高官からは好評の声が出た。

 

この時点でT-10Sのデザインはほぼ完成し、正式採用の際はこの姿のまま塗装を若干変えて世に送り出されることになる。

 

「中々あの面がいいですな」

 

防空軍参謀長のセミョーン・ロマノフ大将は隣に座っているコルドゥノフ総元帥に呟いた。

 

総元帥は頷きながらも実用面のことをシモノフに尋ねた。

 

「ああ、シュッとしてるのがいい。しかし同志シモノフ、性能の方はどうなんだ。初期の報告書では不満点も多いようだったが」

 

「整備製の不満点に関しては一部パーツの規格を旧来の戦術機と合わせることで改善しました。実機の性能に関しては報告書でも上がっている通り実戦では数多くの戦果を上げています」

 

T-10は前線にいる幾つかの防空軍の戦術機部隊に配備され、実戦を兼ねたテストが行われた。

 

そこでの戦闘結果は良好であり、性能に関して衛士から文句が出ることはなかった。

 

尤も性能の高さを示す為には目の前で見せた方が早い。

 

「どうせだ、見せてもらおう、戦術機の性能とやらを」

 

シラーエフ航空産業相の発言によってテストの開始が言い渡された。

 

テストの監督官がイリューシン少将に指示を出した。

 

『10001、模擬戦を開始する。直ちに所定の位置につけ』

 

「10001、了解。さて、ここはパパッと終わらせますか」

 

T-10Sは一旦移動して模擬戦時の所定位置についた。

 

今回の模擬戦は一般的に今後も戦闘が予想される平原と森林部を戦場として行われる。

 

標的の模擬BETAに直撃するとインクの出る模擬弾を直撃させ、周辺の敵を掃討するのが仕事であった。

 

「10001、所定位置についた。初めてくれ」

 

『監督室、了解。模擬戦評価プログラムを作動、10秒後に模擬戦を開始する』

 

通信士のカウントダウンが始まった。

 

イリューシン少将が操縦するT-10Sは突撃砲3門に近接用長刀、そして他の戦術機同様にココンやS-80といった追加武装を装備していた。

 

現在は右手に突撃砲を1門持ち、先頭に備えていた。

 

『3、2、1、0、演習開始!』

 

通信士の報告と共にイリューシン少将は機体を一旦上昇させた。

 

これにより何体かの敵が姿を表し、特に光線属種役のZSU-57-2は攻撃を叩き込もうとした。

 

しかしそんなことは少将もよく理解している。

 

思いっきり機体の高度を下げながら突撃砲を放ってBETAを掃討し、安全地帯まで退避した。

 

「光線級相当2体撃破、戦車級相当10体撃破」

 

「要撃級と突撃級ですな」

 

視察室では模擬戦監督官が撃破したBETAを読み上げ、その頃には新たな敵がイリューシン少将の前に迫っていた。

 

少将は上空から見るとS字を描くように機体をステップさせながら要撃級を2体撃破し、突撃級の突進を躱して背後から撃った。

 

これで3体の突撃級を撃破したと判定され、次に接近する戦車級の群れにS-80を放った。

 

戦車級を描いたパネルにペイント弾が命中して次々と倒れていく。

 

戦車級の周りには光線級を模したZSU-57-2が紛れ込んでいたが即座に突撃砲のペイント弾で撃破判定を喰らった。

 

見事な機動力で敵の攻撃を回避し、反撃を叩き込む。

 

途中で左手に長刀を持ち、戦車級のパネルを数体まとめて切り裂いた。

 

手持ちの突撃砲が弾切れになると、備えていた2丁の突撃砲とS-80、ココンで火力を埋めながらカートリッジを交換する。

 

「既存のBETAじゃ歯が立たないだろうて!」

 

新しい集団を殲滅し、一旦体勢を立て直すとすぐに次の敵が来た。

 

要塞級を模した大型パネルである。

 

この模擬要塞級は触手の代わりにZSU-57-2がおり、下から対空掃射を行っていた。

 

「下手したらこっちの方が強いでしょう…!」

 

対空砲を掻い潜りながら接近し間接部に長刀を突き立て、切り裂いていく。

 

要塞級も頭やら関節を落としてダメージが許容値を超えれば死ぬことは確認されている。

 

イリューシン少将はあっという間に3体の要塞級相当の敵を撃破し、周囲のBETAを殲滅した。

 

模擬戦は僅か3分のうちに終わった。

 

用意していたBETAの模擬タイプは全滅し、戦闘が終了したのだ。

 

視察席では拍手が鳴り響いた。

 

「素晴らしい機体性能だ…!」

 

コルドゥノフ総元帥は拍手してT-10Sを褒め称えた。

 

反対側ではクゥタホフ総元帥が参謀長のグリゴリー・スコリコフ航空元帥と「うちにも欲しいね」と相談していた。

 

一方開発陣の設計士達は安堵する者が半分、これからが本番だと不安に思う者が半分、そしてこの戦果は当然だと思うシモノフがいた。

 

T-10Sの機体性能とイリューシン少将の腕を鑑みればこんなものだ。

 

「では続いて戦術機同士の模擬戦に移ります。装備転換の為T-10Sは一旦飛行場へ戻ります」

 

監督官の報告通り、武器弾薬の補給と機体の調整の為にイリューシン少将は一旦飛行場へ戻った。

 

道中、改めて機体の性能の高さを少将は噛み締めていた。

 

「いい機体だ、同志達の最高傑作と言っていい。さて……この後だが……」

 

今回のテストは3段階あった。

 

まず一段階目がこの模擬戦、そして二段回目が3機編隊の戦術機との模擬戦、そして最後が編隊同士の戦闘であった。

 

次はソ連防空軍のMiG-25PDSと、それも前線で実戦を重ねてきた部隊と戦わねばならない。

 

「負ける気はないが、割と厳しいだろうなぁ」

 

少将は苦笑交じりに呟いた。

 

何せ今回は機体は若いが中身(自分)が若くない。

 

「まあ勝ってみせるか」

 

歳をとってもイリューシン少将はまだまだやる気でいた。

 

 

 

 

3機のMiG-25PDSがジューコフスキー飛行場から出撃する。

 

所属は第82防空戦闘航空連隊、元々アゼルバイジャンに駐屯していたがその後前線に移動した。

 

今回はアグレッサー部隊として1個編隊が投入された。

 

3機は想定戦場へ向かい、周囲を警戒しながら目標の迎撃に入る。

 

『820104から各機へ、散開して目標を発見次第即座に撃破。行くぞ!』

 

『820105、了解』

 

『820106了解…!』

 

3機のMiG-25PDSは散開し、周囲を取り囲みながら目標を探す。

 

既に模擬戦は始まっており衛士達は気を張り詰めていた。

 

そこへイリューシン少将のT-10Sが駆け抜ける。

 

捜索中のMiG-25PDSの合間を抜け、牽制の弾丸を放った。

 

『回避っ!』

 

3機は攻撃を避け、追撃に入る。

 

相手は1機、防空軍のMiG-25PDSは3機いる為数の上では優勢だ。

 

その為1機が囮に入り、2機が追撃に入った。

 

囮役を務めるのは隊長機の820104で相手の攻撃を躱しながら反撃を叩き込んだ。

 

その間に僚機の820105と820106が追撃に入る。

 

彼らが今回持っている武装は突撃砲だけであり、戦闘はかなりシンプルな形で行われた。

 

戦術機同士での戦闘を模擬戦に組み込むのは様々な意味があった。

 

まず対BETA戦を想定した戦場では機動力が完全には発揮出来ず、機体の限界値が分からない。

 

また生きて考える能力を持つ敵と戦うということは衛士にとってその能力を研ぎ澄ます絶好の機会であった。

 

機体の特性を掴み、自身の能力を研ぎ澄ます為には戦術機同士の戦闘が最適である。

 

『クソッ!狙いがっ!』

 

『落ち着け、数の上では我が方が有利だ!』

 

2機のMiG-25PDSは追撃を開始したが、イリューシン少将は攻撃を全て避け反撃のターンに入った。

 

スラスターを逆噴射して相手の背後を取り狙いをつける。

 

2機のMiG-25PDSは振り返って対処しようとしたが既に弾丸は放たれていた。

 

2機のMiG-25PDSに赤色の塗料が数カ所に塗りたくられた。

 

『ウソだろッ!このッ!』

 

820104はステップを踏んで相手を追撃しようと牽制を叩き込む。

 

されど全く弾丸は全く当たらず、ペイント弾を地面に無駄撃ちするだけだった。

 

追っているはずだった820104はいつの間にか背後を取られ、数発ペイント弾を撃ち込まれた。

 

『完封負けか……やっぱとんでもねぇわ……』

 

撃破判定が出た瞬間、衛士達の緊張が一気に解けた。

 

諦めたように乾いた笑いを浮かべ、帰路に着いた。

 

3機のMiG-25PDSには致命打となりうる箇所に的確にペイント弾が撃ち込まれていた。

 

視察席では拍手が鳴り響いた。

 

3機の戦術機を相手にT-10Sは見事に立ち回り、あっという間に3機とも返り討ちにした。

 

「我が軍の主力をこうも圧倒するとは、同志シモノフの作ったアレは化け物だね」

 

コルドゥノフ総元帥はT-10Sのことをそう評した。

 

衛士達は皆全線で経験を積んできたベテランの衛士であり、弱い訳がなかった。

 

「であれば次の模擬戦も楽々クリアかな」

 

コルドゥノフ総元帥はふとクゥタノフ総元帥の方を見た。

 

何せ次の相手は防空軍の衛士ではなく、空軍の部隊だからだ。

 

「どうだか、642連隊は強いですよ?」

 

第642親衛”ブラチスラヴァ”赤旗戦闘航空連隊、ソ連空軍の戦術機部隊の1つである。

 

連隊は白ロシア前線に属し、今日までBETAと戦っていた。

 

使用機体はMiG-27、連隊長はアレクセイ・ヴァルクーニン大佐が務めていた。

 

ヴァルクーニン大佐は最初、アグレッサー部隊役を拒否した。

 

前線の維持と部隊の錬成に力を入れたいからという理由だったがイリューシン少将と戦えるというと喜んで引き受けた。

 

1973年の初戦からずっと生き残っているソ連空軍のエースの1人であった。

 

「イリューシン少将、勝てますかね…?」

 

アルタメフはシモノフに尋ねた。

 

「分からんが……勝つことを願おう」

 

少なくともT-10Sはシモノフの傑作機であり、イリューシン少将はそれを100%以上の力で運用出来る能力を持っている。

 

シモノフはT-10Sのこともイリューシン少将のことも信じていた。

 

模擬戦は最終段階に移った。

 

 

 

 

 

一行は一旦昼食休憩を挟んでテストの最終段階に入った。

 

ジューコフスキー飛行場から戦術機が三度目の出撃を行った。

 

先んじて録画用のMiG-23部隊が出撃し、邪魔にならぬよう配置を考えて戦闘状況の撮影を行う。

 

今回はMiG-27が6機、先行して出撃した。

 

続いてT-10Sが3機、ジューコフスキー飛行場から飛び立った。

 

1機は勿論イリューシン少将の機体であり、もう1機はエフゲニー・ソロヴィヨフ大佐のT-10S、最後の1機はヴィクトル・プガチョフ少佐の機体であった。

 

3機は飛行場の滑走路から飛び立つと編隊を組んでそのまま模擬戦場へ移動する。

 

「10001イリューシン、各機応答せよ」

 

イリューシン少将は機体を操作しながら僚機に尋ねた。

 

『10002ソロヴィヨフ問題なし、いつでもいけます』

 

『10003プガチョフ、同じく』

 

2人とも応答だけでやる気に溢れていることが伝わった。

 

彼らはイリューシン少将に勝るとも劣らない優れたテストパイロットで、何度か前線での戦闘経験もあった。

 

今回はありとあらゆる武装が自由に使える為、3機ともS-80と演習用ミサイル、突撃砲3丁に近接用長刀を備えている。

 

「敵は6機だが機体性能ではこっちが恐らく上だ。機動力で翻弄しつつ数を減らすぞ!」

 

『了解!』

 

『お任せください!』

 

イリューシン少将は機体を操縦しつつ、周辺の様子を確認した。

 

既に2回による戦闘で地形は頭に叩き込まれている。

 

後は相手がどう動くかだ。

 

想定戦闘空域に移動すると早速模擬戦の開始合図が出た。

 

前方には6機のMiG-27がいた。

 

双方左右に移動し、相手の出方を探る。

 

「数の上では不利だ、無理に突っ込むな。相手を待て」

 

『ですね!敵さん突っ込んできます!』

 

1機のMiG-27が単機で吶喊し、残り5機が援護した。

 

T-10Sは集中砲撃でMiG-27の接近を阻止しようとしたが間に合わなかった。

 

即座にイリューシン少将が左手の武装を長刀に持ち替え、相手の近接攻撃を防ぐ。

 

『少将!』

 

「構うなっ!残りを潰せ!」

 

ソロヴィヨフ大佐とプガチョフ少佐はイリューシン少将を援護しようとしたが、他のMiG-27に妨害されて助けにいけなかった。

 

暫くイリューシン少将は相手の攻撃を防ぎつつ、S-80の牽制射撃で距離を取った。

 

即座に突撃砲で動きの止まった敵を狙うが回避機動を取られ、当たらなかった。

 

「やるな、流石前線部隊の隊長機だ」

 

『お褒めに預かり光栄だ同志イリューシン少将!』

 

アグレッサー機は通信を繋げ、イリューシン少将に話しかけた。

 

最後の戦闘はかなり自由な形式なのでこうして通信を繋いでいても特に問題はなかった。

 

攻撃の煙幕から飛び出す相手のミサイルを回避しながらイリューシン少将はバックステップを踏んでアグレッサー機の攻撃を回避した。

 

「君が642の連隊長だろう、名前は知ってる」

 

『私が第642親衛戦闘航空連隊の連隊長、アレクセイ・ヴァルクーニン大佐だ。こうして戦えて光栄だ同志イリューシン少将!』

 

突撃砲で牽制しながらヴァルクーニン大佐は接近してイリューシン少将に切り掛かった。

 

T-10Sは斬撃を回避し、腕に備えている演習用ミサイルを放った。

 

大佐はMiG-27の蹴りで周囲に土煙を撒き散らし、ミサイルを妨害する。

 

そのまま回り込むように機動し、突撃砲で相手を撃った。

 

周囲の木々に外れたペイント団が命中して青く色が付く。

 

『素晴らしい腕だ同志イリューシン少将、噂に聞く伝説のテストパイロットの実力は本当のようだ!』

 

「これでも老いたよ、この機体に支えられてる」

 

2人の戦いと会話は命を賭けたものというより男同士のスポーツの延長線のようであった。

 

ヴァルクーニン大佐は長年テストパイロットを続けるイリューシン少将に憧れていた。

 

故にいつか彼の前にアグレッサーとして立ちはだかり、この伝説と全力を尽くして戦いたいと願っていた。

 

その夢が戦術機という形ではあるが今叶っている。

 

ヴァルクーニン大佐は嬉しかった。

 

2人の決闘を邪魔しないように大佐が連れてきた5人の部下は必死に2機のT-10Sを抑えていた。

 

『喰らえッ!』

 

可動兵装担架システムと合わせて3丁の突撃砲で火力を埋めつつ接近し、ヴァルクーニン大佐は長刀を振るった。

 

一方イリューシン少将操るT-10Sは相手の長刀を回避するかこちらの長刀で受け止め、鍔迫り合いの格好となった。

 

双方突撃砲や各種武装を突きつけ合っている為下手に動けない。

 

「これでは数的に優位なそちらが有利だな大佐!」

 

啖呵を切るイリューシン少将であったがまだ余裕はあった。

 

何せこの背後でソロヴィヨフ大佐とプガチョフ少佐が5機のMiG-27を翻弄していた。

 

『くそッ!攻撃が全く当たらん!』

 

『焦るな、大佐の下に近づけさせなければいい!』

 

ヴァルクーニン大佐の夢を叶える為、連れてきた第642親衛戦闘航空連隊の衛士達は2機のT-10Sを抑えていた。

 

問題は抑えるだけで撃破する一手が足りなかった。

 

攻撃は優れた機動力で回避され、2機の卓越した連携によってMiG-27では抑えられずにいた。

 

『10003、俺が囮になるからその隙にやれ』

 

『了解…!』

 

弾丸をばら撒き、ソロヴィヨフ大佐はアグレッサー部隊を引きつけた。

 

うち3機がソロヴィヨフ大佐のT-10Sを追い、残り2機はプガチョフ少佐を追った。

 

されどプガチョフ少佐は思いっきり機体を上昇させて相手を引き離し、ソロヴィヨフ大佐を狙う3機の背後を取った。

 

『逃したッ!』

 

『642004気をつけろ!』

 

友軍機の警戒虚しく追撃中のMiG-27が1機撃墜判定を喰らった。

 

背後からペイント弾を撃ち込まれそのまま墜落した判定となったのだ。

 

直様残りの2機は退避したが退避ルートを粗方読んでいたソロヴィヨフ大佐はうち1機を撃墜した。

 

『このぉ!』

 

残り1機は長刀を持って接近戦を挑んだ。

 

ソロヴィヨフ大佐は左手を長刀に持ち替えて斬撃を防ぎ、その間にプガチョフ少佐が相手に蹴りを入れて引き剥がした。

 

『642004生きてるか?』

 

『まだ生きてる、僚機をやられた。編隊を再編成して抑えに回るぞ!これ以上撃墜されるなよ!』

 

『了解!』

 

『了解!』

 

MiG-27達は距離を取って持久戦に持ち込んだ。

 

彼らの任務は2機をヴァルクーニン大佐に近寄らせないこと、少し欲を出し過ぎた。

 

その間にもイリューシン少将とヴァルクーニン大佐の戦いは続いていた。

 

双方全力であった。

 

今の所互いに決定打を打ち出せず、戦いは長引いている。

 

「1機の戦術機にこうも押さえ込まれるとはな、本当にいいパイロットだ」

 

銃口を向けながら2機は並走してどっちが先に撃ち出すかを待った。

 

最初に攻撃に出たのはヴァルクーニン大佐であった。

 

脚部のS-80を放ち、イリューシン少将が迎撃するのとほぼ同タイミングで突撃砲を放った。

 

2つの攻撃を回避し、イリューシン少将はむしろ逆に距離を詰める。

 

この相手には遠距離から撃っていても勝てない。

 

こちらが攻めに出る他に勝利への道筋はなかった。

 

長刀の斬撃を繰り出すも寸前で回避され、T-10Sは即座にブーストをかけて追撃した。

 

次の斬撃も回避され、そのまた次の斬撃は相手の長刀によって受け止められた。

 

『ハッ!今のは本当にやられるかと思った!』

 

「そのつもりでやったんだがね!」

 

イリューシン少将は蹴りを入れて相手を吹き飛ばし、突撃砲の一斉射撃を喰らわせた。

 

すぐに跳躍ユニットで体勢を整え、回避機動に移った。

 

【挿絵表示】

 

ヴァルクーニン大佐も3丁の突撃砲の一斉射で牽制し、再び近接戦に移った。

 

双方弾薬の消費量はえらい事になり、ヴァルクーニン大佐はS-80を両足とも使い切っていた。

 

その為大佐は両足のポッドを相手にぶつけ、その間に突撃をかけた。

 

飛んで来たポッドを振り払いつつ、イリューシン少将は相手の突きを躱す。

 

回避を感知されたヴァルクーニン大佐はそのまま一気に跳躍し、突撃砲で上から狙い撃った。

 

銃撃を回避し、イリューシン少将は次の手を考える。

 

【挿絵表示】

 

後ろを見れば2機は3機のMiG-27と交戦中で増援は出せそうになかった。

 

『やはり貴方は伝説だ、同志イリューシン少将!最強のパイロットだ!』

 

ヴァルクーニン大佐は素直に少将を褒め称えた。

 

もう50過ぎの少将は照れくさそうに笑った。

 

「だが歳だ、君らの方がよっぽど強くて未来がある。この機体に乗れば私なんかより強くなるだろう」

 

『嬉しい言い方だが、その機体には一戦だけバツをつけねばな』

 

「まさか、全戦全勝でロールアウトさ」

 

2人はお互いに突撃砲を捨てて近接戦の構えに入った。

 

双方次の斬り合いで勝負をつける気でいた。

 

一瞬だけ静寂が訪れ、2機はぶつかった。

 

一瞬のブーストで双方接近し、長刀を振るった。

 

が、ここが勝負の分かれ目であった。

 

イリューシン少将は機体を僅かに屈ませ、ヴァルクーニン大佐の間合いから抜けた。

 

そして収納されている近接短刀を手にし、相手のコックピット周りに一突きした。

 

無論短刀は完全に突き刺さる事なく機体が停止し、相手のコックピットには”撃破判定”の文字が浮かび上がった。

 

ヴァルクーニン大佐は諦めたように笑みを浮かべる。

 

『私の負けですよ、同志イリューシン少将』

 

そのままイリューシン少将は戦場を離れ、友軍の救援に向かった。

 

まだソロヴィヨフ大佐とプガチョフ少佐がアグレッサーのMiG-27と交戦していた。

 

そこへイリューシン少将のT-10Sが割り込む。

 

『隊長でもダメだったか…!』

 

『距離を取れ、だが集中砲火で動きを止めろ!』

 

『642005狙われてるぞ!』

 

『なにっ!?』

 

注意を逸らした瞬間にソロヴィヨフ大佐とプガチョフ少佐がMiG-27を1機撃墜した。

 

その間にイリューシン少将が残り2機に接近し、うち1機を撃墜した。

 

最後に残った1機はその場から離脱しようとしたが編隊を取り戻した3機によって追撃を開始した。

 

流石に3機の集中砲火を喰らえばMiG-27とて回避には限界がある。

 

『これで終わりかっ!』

 

刹那、6機いたMiG-27は模擬戦場から消えた。

 

こうして模擬戦は終わった。

 

T-10Sは全ての模擬戦において高評価を叩き出し、そして全てに勝利を出した。

 

少なくともいずれこの機体が防空軍の中核を成すのだろう。

 

空軍にもいい印象を与えたしもしかしたら空軍からも発注が来るかもしれない。

 

模擬戦に全て勝った事により、この機体の性能の高さは高官たちにも示すことが出来たであろう。

 

イリューシン少将は今の天気と同じ晴れやかな気分であった。

 

 

 

 

 

テストは最高の結果に終わった。

 

シラーエフ航空産業相もコルドゥノフ総元帥もクゥタホフ総元帥も大満足であった。

 

「素晴らしい成果だな同志シモノフ」

 

「ありがとうございます、T-10Sが生産されれば全てのパイロットにこれと同等の性能を供与出来ます」

 

特にあの相手の衛士達、経験を積んでいるだけあってとても強かった。

 

彼らにT-10Sが渡れば凄まじい戦力となるだろう。

 

そうすれば人死も減り、前線も押し上げやすくなる。

 

戦争の早期終結に繋がるのだ。

 

「防空軍としては喜ばしいことこの上ないよ。しかし、アグレッサー部隊もいい腕でしたな」

 

コルドゥノフ総元帥はチラリとクゥタホフ総元帥の方を見て呟いた。

 

負けはしたがヴァルクーニン大佐は奮戦した。

 

他の衛士達も見事な連携であった。

 

「ええ、同志ヴァルクーニンは空軍の面目を保ってくれましたよ」

 

互いに微笑を浮かべ、衛士達を褒め称えた。

 

「では皆様、ご退席ください!これより航空産業省にて総評を行います!」

 

監督官が合図を出し、高官達は立ち上がってその場を後にした。

 

この間にシモノフは他の技師達と軽い雑談を交わしていた。

 

「やりましたね主任!」

 

「これなら主力機はまず間違いないですよ!!」

 

技師達は素直にこの成果を喜んでいた。

 

彼らが数年間、寝ても覚めても作り上げたこの機体は最高の成果を披露した。

 

大空を舞い、地を自由に動く戦術機の姿は技師達の努力の結晶そのものだった。

 

「ああ、我々の成果だ。みんなよくやった、終わったら今日は祝賀会だ」

 

技師達は歓喜に包まれた。

 

だが彼らの仕事はこれで終わりではない。

 

戦争には間に合わないかも知れないが次の新しい機体を設計して作り上げなければならない。

 

航空設計者達の仕事に終わりはなかった。

 

一方その頃ジューコフスキー飛行場では模擬戦を終えた戦術機達が帰ってきた。

 

まず先に敗れたヴァルクーニン大佐の隊が帰ってきて「よく頑張った」と褒め称えられた。

 

その次に帰ってきたのはイリューシン少将ら3機のT-10Sである。

 

機体は静かに滑走路に着陸し、徒歩で格納庫に戻った。

 

もう所定位置に着く前に整備士や衛士、警備の兵から拍手喝采で出迎えられた。

 

彼らは皆、撮影中のMiG-23の映像を目にし戦いの有り様を見ていた。

 

その為イリューシン少将らの活躍ぶりは全員が目にしていた。

 

イリューシン少将は機体から降りて、出迎える将兵達の前に出た。

 

真っ先に敬礼し出迎えたのはヴァルクーニン大佐だった。

 

「貴方がヴァルクーニン大佐か、貴方は本当に素晴らしいパイロットだ」

 

イリューシン少将は彼に握手を求めた。

 

当然大佐は快く彼の手を握り、相手を褒め称えた。

 

「こちらこそ、貴方は生きる伝説だ。貴方と戦えたこと、誇りに思います」

 

「私も最後に戦う敵が貴方で良かった」

 

「まさか引退を?」

 

イリューシン少将は頷きソロヴィヨフ大佐やプガチョフ少佐の方を見た。

 

「若いのは育ってる、無論貴方も」

 

「……祖国への献身、感謝します」

 

2人は互いに敬礼を送り、お互いの献身と祖国への奉仕を讃えあった。

 

それをT-10Sは静かに見下ろしていた。

 

後にヴァルクーニン大佐は各所から兵員を集めた新しい戦闘航空連隊の初代連隊長に就任した。

 

この連隊は正式採用されたT-10Sを主力機とし、今後の戦闘で活躍した。

 

その頃には試作名称でしかなかったT-10Sはこう呼ばれるようになっていた。

 

Su-27、西側がフランカーと呼称したその機体はスホーイ設計局が戦争中に手掛けた最後の戦術機となった。

 

 

 

つづくかも




どうしよう、このままだとベレンコがSu-27に乗るとかいう異常事態が発生しちゃう
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